ようこそ実力至上主義のジオフロントへ   作:Chelia

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スーパー坂柳タイム

「内容については理解しました。しかし、嘘は良くないですよね?生徒会長?」

 

いきなり攻撃的なセリフを吐く坂柳。

そしてその内容に橘、葛城、一之瀬、神崎、平田は驚いた表情を見せる。

指摘された堀北会長はというと、興味深そうにしていた。

驚かなかったメンバーは内容を知っているか、顔に出ていないかのどちらかだろう。

 

「ほう?何か確信していることでもあるのか?」

 

「まず1点目。昨日の話ですと、電気、食料はすぐに底をつきるという話。あれは嘘ですよね?少し見させていただきましたが、街の様子を見ても節約する様子はなく、今日の話で節約をしようという話も一切出てきていません。ご説明いただけますか?」

 

「良い着眼点だな。正確には何もしなければそうなるという話だ。2年の担当になるが、食料については冷凍食品や乾燥食品、保存食品が大量に眠っていることは確認している。ただし、それを動かすには店舗、そして経済が必要不可欠となる。現状では配布をいう形を取っているが、当然いつまでもそんな方法は取れない。2年がそれを達成できない場合は嘘ではなくなる、ということだ。」

 

「なるほど。電気についてはどうでしょうか?」

 

「電気については今は話すことはできない。」

 

「分かりました。では2点目。先程いただいたペーパーを見て確信しました。1年生の仕事量だけがあまりにも少ない理由。それは、本来1年生がやるべき仕事が記載されていないからだと発言します。」

 

そう言うと、坂柳は昨日綾小路にした話をここでも説明した。

本当は他のジオフロントに接触されているのではないか?

そのために円卓会議を設立し、それに対抗する地盤を築こうとしているのではないか?

そして、他のジオフロントとの接触についてが、1年生に課された本当の仕事なのではないか?

要約すると、こういったことを生徒会長にぶつける。

 

「………本当はこの話は今すべきではないのだが、流石だと言っていこう。やはり今年の1年生は優秀なようだ。」

 

しばらくの長考の末、堀北会長はそう口を開いた。

 

「坂柳の言っていることは事実だ。確かに他ジオフロントから接触を受けたという事実はある。話さなかったのは、現段階ではこちらのジオフロントが地盤を固められていない以上、接触することで侵略される可能性があることを危惧した結果による。当然、準備ができるまでは接触についても拒否する予定だ。」

 

「それは、あまり良い手とは言えませんね。」

 

生徒会長の決めていた判断に容赦なく反対する坂柳。

他のジオフロントに接触された場合のデメリットについても、昨日綾小路にした話を反復して説明する。

綾小路にとっては2回目だが、それを初めて聞く他の生徒はそれぞれ様々な表情を見せており、自分たちが思っているより遥かに危険な状況であるという危機感を感じたのは間違いない。

それについては、堀北会長や龍園も例外ではないようだ。

 

「いいだろう。この件については下手に情報規制するより、お前たちに任せたほうがいいと判断した。少し長くなるぞ。」

 

坂柳の提案を受け入れ、堀北会長は今現在分かっている、他のジオフロントとの接触状況について話を始めた。

これについては坂柳も想定外だったようだが、現在3つのジオフロントがこちらに接触を図っているようだ。

そのジオフロントの名前はそれぞれ

 

・ホープタウン

・ドリームタウン

・大和

 

というらしい。

 

「接触してきたジオフロントは1つと想定していましたが、まさか既に3つも接触を図ってきているとは…」

 

坂柳もあまり良い表情はしない。

説明を続けると、他ジオフロントからの接触方法については電波だという。

学校のモニタールームで、このジオフロント外からの電波を受信した。

それぞれ別の電波を発しており、その種類が3つであるという。

 

「その電波について、内容を解読することはできるのですか?」

 

今度は平田が質問する。

 

「もちろんだ。それを解読したことにより、他のジオフロントの名前が判明したわけだからな。どのジオフロントも若干の違いはあれど、こちらと接触したいという内容のようだ。」

 

その方法については、既にトンネルを掘り進めており、こちらが承諾すればこちらのジオフロントにも穴を開け、接触を開始するというものだった。

 

「逆に言えば、こちらが応じなければ直接介入もやむなしと取れますね。なるほど、ウチの内情とも合わせ、会長が焦っている理由については理解しました。悠長にしている時間はとてもじゃないですが、ないようです。」

 

その事実を踏まえ、早めの段階で円卓会議という組織を作り、内部事情の早期解決を図るというのが堀北会長の取ろうとしていた方策だったようだ。

 

「他のジオフロントの直接介入…ですか。それは少し怖いですね。」

 

ずっと黙っていた椎名ひよりもそうつぶやく。

 

「私は会長の案に賛成だ。相手の勢力が分からない以上、悪戯に接触するべきではない。こちらの組織を固めるほうが先だ。」

 

「私は反対します。こちらの事情を相手は考慮しません。1年生をさらに2つに分け、相手との接触とこちらの内部事情の早期解決。簡単に言えば、攻撃と防御は同時に行うべきです。生徒会長の案では対応が遅すぎます。」

 

早速と言うべきか案の定と言うべきか、意見が対立する葛城と坂柳。

ここが、今回の会議の争点となりそうだ。

皆それぞれ考えているのか、ピリピリとした空気の中、しばらく沈黙が続く。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「えーっと、それじゃあ、ちょっといいかな?」

 

その沈黙を破ったのは一之瀬だった。

 

「葛城くんも坂柳さんも、もちろん他の皆も意見はあると思うんだけど、会議の終わりの時間も迫ってるし、ここは多数決を採用したいと思うの。反対がなければ私が進行するから、反対の人、第3の意見がある人は先に話してくれるかな?」

 

そう問いかけるも特に手は挙がらない。

どうやら一之瀬進行で、坂柳か葛城、どちらかの意見を採用して方針とするようだ。

 

「まずは坂柳さん。攻守両方って意見だったけど、具体的にはどうするつもりなの?会長や葛城くんの意見よりよっぽど難しいと思うんだけど?」

 

「そんなことはありませんよ。そもそも、外部との接触というのは大人数で行くものではありません。ほんの数人いれば済む話なのです。争点となるのは接触の時期と相手の情報であって、人数は問題にはなりません。この学校は分かりやすいくらい、性格が二分されているとは思いませんか?」

 

坂柳はそういうとペーパーをひっくり返し、1年生円卓会議のメンバーの名前を独特な順序で書き連ねていった。

そして、全員の名前を書き終えた後、『混沌タイプ』、『秩序タイプ』の2つの言葉を書き加え、中央付近で赤線をぴっと引く。

 

「混沌タイプとは個人1人で場をかき乱すことのできる能力のある人間、秩序タイプとは争いを望まない人間、保守的な思考を取る人間を指します。」

 

混沌タイプ

龍園翔

坂柳有栖

綾小路清隆

 

秩序タイプ

一之瀬帆波

葛城康平

神崎隆二

椎名ひより

平田洋介

 

坂柳の手書きの文字にはこう書かれているが、赤線は綾小路と一之瀬の間ではなく、一之瀬と葛城の間で引かれている。

先ほど議題にあがった内部事情の早期解決、これを秩序タイプのメンバーで行う。

Aクラスは葛城、Bクラスは神崎、Cクラスは椎名、Dクラスは平田が中心となり、クラスを1つにまとめつつ、他クラス、そして他学年と徐々に交流を広げ、最終的には学校で1つになるという方策だ。

いきなり全ては無理でも、円卓会議を中心に段階的に繋がっていけば、できなくはない現実的な手段である。

これが防御の方針。

 

そして問題となる攻撃。

混沌タイプに記載のあるメンバーで外部と接触し、最大の目的は争いを回避すること。

可能であれば、接触や交流を深め、相手から情報を得ること。交換や貿易なんかも視野に入ってくるかもしれないため、それについての交渉を行うこと。

これが攻撃の方針だ。

 

「いかがでしょうか?攻防どちらもしますが、防御に重点を置いた攻め方です。これでしたら、大半の生徒には負担にならないかと。」

 

坂柳の説明に、これならばと納得する生徒も何人か見受けられた。

 

「えーと、坂柳さん?私はどうすればいいのかな?戦うを後ろ盾にした舌戦なんて私にはできないんだけど…」

 

「大丈夫ですよ一之瀬さん。一之瀬さんは秩序タイプに分類しているように、基本的には葛城くんたちを同じことをしてください。しかし、必要があったときにこちらにも力を貸してもらう、いわば両刀のような立場でいてほしいのです。龍園くん、協力してくださいますか?」

 

「断る。」

 

1秒も立たないうちに即答する龍園。

坂柳は一瞬苦笑いをするも説明を続ける。

 

「ということですので、こうなると戦えるのは私だけになってしまいます。しかし、私は身体が弱く、1人で相手のジオフロントに行くことができません。そのため、この中で防御に最も役に立たなさそうな綾小路くんに私のボディーガードをしてもらおうと思いまして。」

 

「役に立たないって…」

 

思わず口に出す綾小路。

おそらく、綾小路が有能であることを表向きに出さないことと、昨日の取引の内容の一部をここで公開することにより、円卓会議の中で合法的に2人で動けるように場を支配するつもりのようだ。

昨日の約束はなかったことに…とか、組むとは言ってない…なんて言い訳は一切させてくれないようだ。

 

「なら、貴方はDクラスや他クラスとコミュニケーションを取り、学校全体を1つにできると?」

 

「…無理、だな。」

 

「貴方はそこそこ運動神経が良いようですし、防御の陣営には向かない。割りとお似合いのポジションだと思いますけどね。」

 

現状では、攻撃側のメインとなる人間は坂柳。

そのサポートで綾小路。

一定の状況下で協力が必要になった場合の一之瀬。

そして協力を得られない龍園。

という人員のようだ。

 

「にゃるほど、そういうことなら喜んで協力させてもらおうかな。綾小路くんもそんなに気を落とさずファイトだよ!坂柳さんは1年生の中でもとっても戦力になる子だから、何かあったら大変だしね。」

 

「ご理解いただけたようで何よりです。私の方の方策の説明は以上となりますので、葛城くんの方の意見と合わせ、多数決と行きましょう。」

 

橘が今度は白紙のペーパーを配り、一之瀬の合図で多数決が始まる。

 

「もしよければ、会長と橘先輩もご意見をください。」

 

「やり方に反対はない。通常であれば私を通してもらいたいが、今回は多数決で構わない。私と橘もそれに加わり、多い票を採用しよう。」

 

堀北会長の発言を聞き、橘は素早くペーパーを2枚増やす。

坂柳の攻防同時案、堀北・葛城の防御優先案

各メンバーは悩みつつも、投票を終えたようだ。

 

攻防同時

掘北、坂柳、一之瀬、椎名、平田、綾小路

 

防御優先

橘、葛城、神崎

 

無回答

龍園

 

「賛成6、反対3っと。それじゃあ坂柳さんの案を採用するね。坂柳さん、綾小路くん、私、龍園くんで他のジオフロントとの接触に応じるってことでいいかな?」

 

「はい、それに加え、初回は生徒会長にも参加していただきたいです。こちらも学校の生徒ではなく、1つの街と称するなら身分制度は重要です。このジオフロントの代表としての参加をお願いできますか?」

 

「構わない。そうしないと舐められてしまう可能性も高いだろう。交渉するにしても、同じ土俵に立てなければこちらが不利になるだけだからな。」

 

「詳細については一之瀬さんがおっしゃった攻撃メンバーで詰めた後、ご報告します。」

 

「では、会議はこれにて終了するが、他ジオフロントから接触があったという話は、やはりこの場にいる10名にとどめておくべきだと判断した。原則として口外は認めないが、例外的に攻撃の4名のみ、対策を立てる上で口外の必要性が出た場合、これを認めることとする。また、2年、3年の会議の内容は追ってメールで送る。攻防ともに健闘を祈る。」

 

会長の言葉とともに、一度目の円卓会議は終了した。

最初から最後までペースは完全に坂柳の独壇場。

龍園が強く出なかったことを加味しても、1年生の中で突出した才能があることはこれでさらに明らかとなっただろう。

それぞれ各クラスに戻るため、移動を開始する。

綾小路もDクラスに戻るため歩いていると、一緒に歩いていた平田から声をかけられた。

 

「やっぱり君はすごいね。坂柳さんが強く出るってまるで最初から分かっていたみたいだ。それとも、昨日言っていた話は坂柳さんのことだったのかな?」

 

綾小路が平田に送ったメールはこうである。

坂柳が生徒会長に対し強気に出た場合、どんな内容であれそれに賛成の意思を示すこと。

その際、明確に目立つ必要はない。

坂柳が消極的な動きを示した場合、次の保守的なプランを提案すること。

プランの内容については下記ファイルのとおりである。

 

「坂柳が生徒会が話していない内容について考察してるって話をきいていたからな。内容も信憑性が高かったから、それに乗るべきだと思ったんだ。事実、生徒会は重要な情報を隠していたわけだし、噂も馬鹿にならないもんだよな。」

 

「もともと僕も坂柳さんの意見には賛成だったから異論はないけど… ううん、なんでもない。お互いこれから大変になるね。」

 

「そうだな。悪いが教室に戻ったら、会議であったことの説明を頼む。それと、説明が終わったら軽井沢に声をかけておいてくれ。」

 

他ジオフロントとの接触に、自ジオフロントの地盤固め。

いよいよ本格的に行動開始だ。

 


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