そう思いつつもどうしても文章が長くなる上に読みにくいなあと考えてしまう今日この頃。
文才ある人が羨ましいです。
Dクラスに戻った平田と綾小路。
平田は、クラスのみんなに円卓会議で決まったことを伝える。
もちろん、他ジオフロントに接触されていることは伏せてだが、各学年の役割、1年生の円卓会議メンバーはさらに2グループに別れて行動するため、特に坂柳たち攻撃側のメンバーに協力を申し込まれた場合は可能な限り協力してほしいことなどを話す。
掘北(こっちは妹の方)など、多少鋭い生徒からは具体的にもう1つのグループは何をするのかなど突っ込まれたりはしたが、3年生の資料解読に関連して堀北生徒会長から協力を申し込まれているということで話を通した。
一通り説明を終えた昼前、綾小路の指示通り、平田は軽井沢に声をかける。
「軽井沢さん、お疲れ様。」
「平田くんの方から声をかけてくれるなんて嬉しいな。そうだ、ご飯一緒に食べない?学食が今日から復帰するって話だし、メニュー見たいのよね。」
といいつつ、大げさにウインクしてみせる軽井沢。
可愛い…ではなく、ちゃんと用件は分かっているとのことだろう。
学食に着くと、2年生が厨房に入っている姿が見えた。
早速活動を始めているのか、保存食中心で少ないメニューながらも営業を開始している。
2年生は南雲雅という時期生徒会長候補となる人物が中心となり、150年前の段階から全てのクラスが1つにまとめられていると聞く。
環境に順応し、素早く行動を起こせているのは流石上級生とでも言うべきか、2年生の方は順調であることは一目で分かった。
平田はカレー、軽井沢はパスタを注文すると、2人でお昼を食べる。
「うわー、あんまりおいしくない…」
「どうやったのかは分からないけど、150年前の保存食だからね。品質に問題はないらしいけど、どうしても新鮮さや風味は落ちるよね。」
「他の施設はどうなんだろう?」
「さっき2年生の円卓会議メンバーの先輩から連絡が来たんだけど、みんなが早く再開してほしいお店をアンケートするみたいだよ。洋服店とか、映画館なんかの娯楽施設とか、このジオフロントにある施設全てが対象みたいだね。」
「へー、それはちょっと楽しみかも。新しい服もほしかったし。」
「経済については検討中だけど、お店によってはバイトも募集するってさ。今は数少ない、貴重なプライベートポイントを稼ぐチャンスになるかもね。」
「流石は2年生ってところね。あたしたちも負けてらんないってことで、平田くんがあたしに話しかけた理由ってこれでしょ?」
そういって軽井沢は平田に自分の携帯電話を見せる。
そこには、綾小路からのメールで円卓会議・防御陣営の政策案
と書かれており、ものすごい文章の羅列があった。
ご丁寧に平田以外には見せないことと書いてあるあたり、軽井沢が平田の意図にすぐに気づいたことにも納得がいく。
「ってこれ、メールが送られているのが昨日の夜じゃないか!?まさか、会議もしてないのにここまでの展開を彼は読んでいたってこと?」
「ま、清隆が本気出せばこのくらい朝飯前って感じなんでしょうね。私も最初は何のことか分からなかったんだけど、今日の円卓会議の説明を聞いて納得したわ。ほんと未来予知よね。」
「でも、今からこれを読む時間は…」
「そう思って、昨日の夜と今日平田くんたちが会議している間に熟読しといたわ。要点だけ説明して、後はメールを転送しておくわね?」
「助かるよ。」
共通項目と個別項目
共通項目について
本日の午後、葛城、一之瀬、神崎、椎名、平田の5名で体育館で公開会議を開くこと。
体育館を借りて行い、全ての生徒が自由に見学できるようにする。
円卓会議の内部を知れる機会を設けることによって、円卓メンバーと一般生徒の間で壁ができるという原因の排除、いち早く情報を入手したい生徒に嘘偽りない情報を全て提供しているというイメージを植え付けることにより、攻撃メンバーが秘密裏に動きやすくなるという2点が理由。
今後のジオフロントでの生活について、1年生は下記のとおりを提案。
1 授業を再開すること
平日の月~金の5日間、午前中は従来通り授業を行う。
午後は今後の展開によって大きく左右されるため、あえて空けておくものとする。
今後基礎学力が必要になること、やることを設ける必要があることが理由。
全ての1年生に強制させること。
授業は当面の間は視聴覚室の機材を使ったデータによるもの、学力の高い生徒に依頼し、授業を行うものの2つを中心にカリキュラムを組む。
教員役の生徒には別途円卓会議からプライベートポイントを支給。
2 就労制限
アルバイトは原則として週3日までとすること。
授業及び円卓会議からの依頼があった際に支障が出ること、アルバイトによるプライベートポイントの大幅な格差を防ぐことが理由。
3 クラス間の壁の撤廃
常に意識すること。
場合によっては授業にクラス合同でのレクリエーションを混ぜる等のきっかけを作ることも可。
詳細については円卓会議の意見を参照して決めて良い。
個別項目について
Dクラスの方針として、Bクラス→Aクラス→Cクラス→上級生の順で関係を持ち、最終的には学校で1つになる方針で動くこと。
初日にあった生徒会長の講話を原則として行動する。
1年生内はAとBについては同時進行で動き、可能な限り早期にクラス間の壁を撤廃する。
Aクラスには平田、軽井沢
Bクラスには掘北、櫛田
をそれぞれ送り、葛城、一之瀬と協力して関係を築き、固まり次第Cクラスへと移行する。
利害は一致しているため、A、Bは問題なく成功すると思われる。
万が一失敗した場合は、次のプランA~Cのいずれかで対処…
「ってごめん、短くするつもりだったんだけど難しいね。」
「十分だよ、内容については理解できた。ありがとう軽井沢さん。」
「どういたしまして。気になってたんだけど、この攻撃メンバーって何?何かと戦うわけ?」
「それについては僕は話せないことになってるんだ。綾小路くんに聞いてみるといいよ。その件については僕より詳しいし、このメールをもらってるあたり、軽井沢さんにならはぐらかさずに教えてくれるんじゃないかな?」
「なるほど、今日の説明で出たもう1つのグループってわけね。そうするわ。あ、お昼ありがと!」
話をしつつ、お昼を食べ終えると軽井沢は去っていった。
「清隆…か。だんだん分かりやすくなってきたね軽井沢さん。僕としては、その方が嬉しいんだけど…」
同時刻
場面は変わって1年生の教室付近の廊下。
まずい昼食を食べ終えた綾小路は、坂柳に呼び出されたため寮へと戻ろうとしていた。
そんなとき、同じ円卓会議メンバーである一之瀬とすれ違い、声をかけられる。
「やっほー!綾小路くん!」
一之瀬帆波
1年Bクラスのリーダー的存在であり、明るく、正義感の強い女子生徒だ。
その話しやすい性格から、男女、そして学年を問わず人気があり、150年前は時期生徒会役員の候補と言われていた。
前回の円卓会議でも、坂柳の作り出す空間に飲まれず、自分を貫く立ち振る舞いをしたことについては見事というべきだろう。
綾小路とは特別深い関係というわけではなかったが、Bクラス、Dクラス間で同盟を結んでいたり、特別試験で同じグループになったりと、友人の少ない綾小路にとって、他クラスで話せる数少ない顔見知りでもある。
「一之瀬か。昼食は終わったのか?」
「うん、午後から平田くんが円卓会議防御メンバーに招集をかけててね。私はこの後その打ち合わせ。そっちは?」
「へえ、そうなのか。俺も似たようなものだ。坂柳に呼び出されてる。」
平田に根回ししたのは自分のため、当然知ってる内容にはなるが、ここは初耳を装わせる。
「…そっか、お互い大変だね。何か困ってたら相談に乗るから、いつでも声をかけてね!」
「そっちもな、両刀なんて一番大変な役回りだろ。それだけ買われてるってことなんだろうが…」
「うーん、そうかな?自分で言うのもなんだけど、私はあんまり坂柳さんに評価されてないと思うよ?根拠とかはないけど、なんとなく雰囲気で分かるんだよね。」
「坂柳がどういう基準で一之瀬をそのポジションに入れたかなんて、俺に分かるはずもないけどな。同じ仕事になったときはよろしく頼む。」
「うん、それじゃあまたね!綾小路くん。」
お互い忙しい身だからか、あまり長話はせずに立ち去る。
自分の求めていた平穏な学園生活がすさまじいスピードで遠のいていることに、綾小路は落胆していた。
今の自分はどうしたいのか。
それを明確にしなければ、本来の力は出せない。
こちらの世界に来てからずっと考えているし、坂柳にも指摘されたことではあるが、自分の父親が既にいない以上、対抗する必要はなくなり、文字通り自由の現在。
今までどおり平穏な学園生活を求め、自らの能力を隠して生きるもよし、いっそ全てをオープンにしてこの学園を支配してやるのもいいだろう、円卓会議なんてもののせいでゆっくり考える時間を見事に邪魔されてはいるが、今後の身の振り方については早めに決めておいた方が後悔しないのは間違いない。
「それを決めるためには情報が不足しすぎている…か。」
その情報を集めるには、やはり円卓会議への継続参加が必要となってくるわけで、脱退するにもできない状況だ。
そこまで読んで掘北兄が自分のことをメンバーに加えているのだとしたら大したものだが、堀北兄は綾小路の過去を知らない。
純粋に実力を買ってメンバーに加えたにすぎないだろう。
そんなことを考えながら一度自室に戻ろうとドアを開ける。
「遅いです。」
ドアを開けると、ふくれ顔の坂柳がお出迎えをしてくれた。
「私はこう見えても暇ではありません。レディーを待たせるのはよくないと思いますよ?」
「それは悪かったが、なぜ俺の部屋にいる?」
「山内くんにお願いしたら、喜んで合鍵を譲ってくれましたよ。」
ニコニコと笑みを浮かべながら、綾小路の自室の合鍵を見せてくる坂柳。
勝手に渡す山内にも問題はあるし、そもそも坂柳はどうやって合鍵の存在を知ったのか疑問はつきないが、一つ一つ突っ込んでいても仕方がないだろう。
さっさと本題に入る。
「…まあいい。それで、あれだけの啖呵を切ったんだ。何か方針でもあるのか?」
「うーん、そうですね。私からはとりあえず2つ。他ジオフロントとの早期接触と、龍園くんの管理です。せっかく私達で事を進めても、龍園くんが独断で動いて失敗したり、邪魔されたらかないませんので。管理が無理なら排除も視野に入れるつもりです。」
排除、とはまた攻撃的な坂柳らしい物騒なセリフである。
「俺も似たようなことを考えていた。特に問題はないな。なら、詳細を決めていくぞ。」
そういうと、2人で具体的な行動をつめていく。
まずはジオフロントの接触準備。
こちらは坂柳が担当する。
相手から送られてきた電波について、自分の耳で確認をするとともに、3年生が現在保有している他ジオフロントの情報を可能な限り入手してくるそうだ。
これは堀北兄に協力を得れば達成できることであり、情報が整い次第、何を武器に、何を交渉材料に挨拶という名の交渉を進めていくかを決めていく。
「…ということは、俺は龍園の管理か?面倒な方を押しつけてきたな。」
「あら、そうでしょうか?私が行くより、綾小路くんが行った方がスムーズだと思いますけどね。」
おそらく、150年前にあった軽井沢を巻き込んだ龍園がおとなしくなる原因となった騒動のことを指しているのだろう。
あれは、あそこにいたメンバーである綾小路、軽井沢、石崎、伊吹、アルベルト、龍園、堀北兄、茶柱以外は一切知り得ない情報のはずだが。
カマかけか知っているのかはさておき、そう自信満々に言われてしまうと否定で返せば根拠を求められてしまう。
龍園に自分が声をかけても無駄だと言っても、おそらく坂柳は納得しないだろう。
「分かった。だが、即座に物理的に無力化するわけにもいかない。この件は俺に預けてもらうぞ。」
「構いません。そちらに苦戦するようであれば、表の仕事は私が多めに引き受けるつもりですので。」
「今のところ、他ジオフロントからの接触の件について口外するつもりはあるか?」
「ありません。雑務を引き受けてもらうつもりではありますが、他ジオフロントに関する一切の件は現段階では伏せます。ウチのクラスは従順な子が多いですから。」
従わせている、の間違いだろうと心の中で突っ込んでおく。
「綾小路くんは口外するつもりはありますか?」
「必要があれば、といったところだな。口外する場合はした人物の名前をお前と一之瀬にも共有しておく。」
「一之瀬さん、ですか。まあいいでしょう。」
「何か引っかかるのか?お前が役に立つと思ったから攻撃側に引き入れたんだと思ったが。」
「まさか、彼女は捨て駒ですよ。他ジオフロントと接触し、相手が強硬策に出た場合、人質代わりに置いてきてそのまま捨ててしまう…ね。」
最初から捨てるつもりでメンバーに加えたため、そこまで詳細に情報共有する必要はないと考えている坂柳。
綾小路も、損得で動くことを大前提とする人間だ。
だが、ここでは坂柳の意見に反対した。
「それはやめておけ。一之瀬を切るのは賛同できない。」
「綾小路くんにそこまで言わせる人材ですか?それとも、情でもわきましたか?」
「俺たちのいるこのジオフロントは約60万平米。これは東京ドーム何個分だ?」
「急になんですか?えっと…約12.8個分、でしょうか?」
「そうだ。そして東京ドームの収容人数は5万5000人。それに12.8をかければ最大で70万4000人もの人数が、理論上このジオフロントに入ることができる。もっとも、そんな狭いスペースで人間は生活できないため、実際はもっと少ないが。」
「どうして急に人口の話を?」
「相手のジオフロントがこちらのジオフロントと同じ大きさで、高校生限定みたいな特別な事情がない限り、相手のジオフロントの人口は…そうだな、人口密度にもよるが約10~20万人と予想がつく。対してこちらの人口は約480人。そんな絶望的な人数差が開いているにもかかわらず、一之瀬クラスの有能な人間をホイホイ切っていたら、何人いても足りないって話だ。」
「ですが、それで勝てるのであればそうするべきでしょう?チェスにおいても、ナイトを犠牲にクイーンを打てるなら、ナイトは切るべきです。」
「その例えはよくない。それはこちらと相手の戦力が同等の場合に使う例えだ。今の俺たちの状況をボードゲームに例えるなら、将棋盤上で俺たちは王と金のみ、相手は全駒揃っているという盤面だろうな。しかも、こっちは素人で、相手は段位持ちだ。人口においても、優秀な人材においてもそのくらいの開きはあると俺は見ている。そんな状況下でお前は金をホイホイ切るのか?」
「そ、それは…」
「俺がわざとチェスではなく将棋に例え直したのは、将棋は奪った相手の駒を使うことができる。お前が一之瀬を捨て、一之瀬が相手のジオフロントに協力した場合、一之瀬が敵になるだけでなく、こちらの情報は全て筒抜けになるだろうな。弱点の塊みたいなこちらのジオフロントの内情が相手に知られれば即ゲームオーバーだ。乗っ取られるなり滅ぼされるなり、お前の危惧した展開に一直線だなー。」
そんなことを無表情で淡々という綾小路。
これが綾小路の素なのだが、坂柳にとっては屈辱だったのだろう。
しかも正論で言い返せない。
「む、むぅ…!」
子供のように頬を赤面させながら涙目で悔しがる坂柳はなんとも可愛らしかった。
どうして一之瀬を庇うようなことを言ったのか。
坂柳の言うように、人質を取られても一切助けないという冷酷なイメージを相手に植え付けることも威嚇になるため、全く効果がないわけではない。
そんな綾小路の小さな心の変化に、坂柳はもちろん、綾小路自身も、現在では気づくことはなかった。
そして、何気ない先ほどの会話の中の一之瀬の発言。
自分が坂柳に買われていないと感じているという直感の話。
結果的にだが、あれは見事に的中していたことになる。
一之瀬の勘というべきか女の勘というべきか難しいところだが、恐ろしい感覚の持ち主だと改めて綾小路は一之瀬を評価し直す。
「俺は俺で情報を集める。それと龍園の件でも動き始める予定だ。鍵は閉めていってくれよ。」
そういうと、綾小路は再び自室を後にした。