タイトル通り、彼女が出てきます。
さて、どうなるやら。
それより、関係はないけどタツマイ好き。
一人、世界を旅をし、あらゆる物を見てきた。
だが、あそこまでの馬鹿に会ったことは一度だってなかった。
「ほう、名はテルミ、というのか。」
偶さか寄った国で、珍しいという事で謁見を許された俺は面倒だという気分を隠し、目の前の玉座に座る男に名を名乗る。
ユウキ=テルミ。
名前をそれにしたのは何故か、覚えてなどいない。
そも、何処で生まれたのかも。
「お主、目的もなく放浪の旅を続けているそうだが、どうだ?この国で余と共に国を良きモノにしていかぬか?」
初めて会い、初めて会話をしたというのに、すぐに部下にしようとしてきた。
戸惑ったが、何もやることは無いし、面白そうだと思った。
「飽きさせないのなら、付き合うぜ。」
「飽きぬとも、この帝国は常に激動の日々ぞ!」
─それが、今後帝国の皇帝家の側に常に居ることになった切っ掛けになった日であり、あの姿になる切っ掛けになった時だ。
始皇帝、今も子孫は皇帝としての誇りを失ってはねぇようだぜ。
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帝都を目的の奴と出会うまで仕方無くブラブラと歩いていた俺は、昼近くになってようやく見つけることに成功した。
その女は、また人助けをしては嬉しそうな顔を晒している。
……セリュー・ユビキタス。
ヘカトンケイルを失っても尚、正義の心、というのが折れないらしい。
寧ろ、より強くなったと言うべきか。
俺はこの正義女に用があって来た。
大臣にも許可は得ている。
寧ろ、帝具を失った彼女が使えるようになるなら儲け物、だそうだ。
表向きだと、無害そうに笑顔振り撒く癖に、正義執行の時にはまるでその逆だ。
俺はいつまで見てても仕方無いと思い、話し掛ける。
「すいません、セリューさん。」
「はい?……あっ!」
「どうも。」
「貴方は、この前の……茹で玉子さん。」
「茹で玉子?確かに好きですが……ああ、名前、教えてませんでした。
私、情報屋のハザマと申します。」
「私は、セリュー・ユビキタス……って何で名前知ってるんですか?」
「情報屋としての力ってとこですかね。
……あれ、あの犬…コロは?」
我ながら白々しいにも程がある。
皇帝が聞いていたらお主がやったのだろうがお主が、と言ってくるに違いねぇ。
セリューは俺の質問に顔を歪ませ、俯く。
……なるほど、ヘカトンケイルとの相性は抜群だったってことか。
「コロはナイトレイドにやられました…!正義が、悪に負けるなど、あってはならないのに!」
「……これは軽々しく質問する内容ではなかったですね。私の配慮が足りませんでした、申し訳無い。」
「いえ……」
「…それで、少しお話があるのですが、どうです?」
「分かりました。」
聞き分けがいいのは、俺が悪と思われていないからだろうな。
少し顔は暗いが、まあそこはいい。
城までは遠くねぇ位置で助かった。
さっさとやりたいからな。
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「あ、あの、ここは城内ですよね?ハザマさんは普通に入ってましたけど……」
「ああ、言ってませんでした。私、この前大臣さんに雇われた身でして。あ、ここですここ、私の部屋。
どうぞ中へ。」
「は、はあ……」
まあ、驚くのも無理ねぇか。
ていうか、もしかしたらあの時に時間云々はここの事だったのではとか思ってそうだなこいつ。
扉を開けて、中へと入り、座るように言う。
「…話とは?」
「実はですね、エスデス将軍が6人の帝具使いを集めた治安維持部隊を結成すると言いまして、私もそのメンバーに何故か任命されたのですよ。」
「エスデス将軍に?それはおめでとうございます。」
「ええ、それで、貴女を私の部下という形で組織に入れたいと思いましてね?」
「わ、私を…?でも、コロちゃんはもう…」
「ええ、その事は残念でなりません。
ですが、貴女は運がいい。ここに、もう一つ帝具があります。」
俺は、側に置いてあった剣と盾をセリューの前に差し出す。
セリューは当然、驚く。
「これが……」
「ええ、昔偶然発見した帝具。
その名も 正義審判 イザヨイ。この帝具は人を選ぶ……貴女なら、と思いまして。」
「何故、私にここまで…」
「善意、というのもありますが…先行投資というやつです。貴女がより帝国の為に動いてくれるならそれは素晴らしい事ですから。」
「ハザマさん……!」
セリューは感銘を受けたように涙を流す。
嬉しそうだなぁ……正義審判は攻撃と防御、どちらにも使える優れものだ。
こいつにも相性は良いと言っても良いだろう。
「受け取ってくれますか?」
「はい、勿論です!」
セリューは剣と盾を手に取る。
……おいおい、難無く取りやがった。
気に入られてんなぁ、名前の通り、イザヨイの正義に噛み合ったのか?
「あ……そういえば、これは勝手に持ち出した物では無いのですか?」
「ご心配なく、許可は得てます。
……ところで、ですね。」
「?」
「1つだけ聞きたいことがありまして。
貴女の、正義についてです。
貴女は悪人が善人へ戻れると思いますか?」
我ながら、分かりきった質問だと思う。
だが、期待するだけならタダだ。
セリューは、俺の質問に勢い良く答える。
「悪人は戻れません。悪は悪です。
悪は断罪しなければならない……正義が、悪に屈してはならない!私のパパが言った言葉です。
オーガ隊長も、憎きナイトレイドに殺されました。
許してはならない!悪は始末しなければ、更に手を染めるに決まってるんです!」
…やはり、正義というのを盲信している。
確かに、正義感は人一倍、それだけなら聞こえは良いし俺も評価を高めた。
だが、やっていることは弁解の余地もなく自らの定めた正義で殺す…殺人と変わらない。
「…そうですか。ですが、知っておいてほしいことがあるのです。」
「何ですか?」
「今の帝国もまた、悪ということを。」
「…アハハハ!ハザマさん、それは冗談でしょうか?」
「冗談で言えたら、どれだけ良かったか。
…私は、見ました。この帝都の腐敗を。
貴女の言うオーガさんもまた、自らの権力に酔い、罪の無い市民に手を染めた。」
「嘘だ!!オーガ隊長は、そんなことをしない!!
そんな事に騙されはしない!」
力強く否定するセリューに、俺は尊敬の念を抱いてたのは本当だと改めて理解する。
だからこそ、今の帝都がウザく感じる。
面倒な輩ばかり作りやがる。
始皇帝やアイツの時代はもう少し小綺麗だった。
「騙してるかどうかは…この資料を見てもらいましょう。」
俺はセリューにとある資料を渡す。
正義バカは怒りを何とか抑え、それを受け取って見る。
「これ、は……!」
「ブドー大将軍や協力者と共に聞き込み等の調査をし、纏めた今の帝都の状況です。
これでも貴女は否定しますか?」
「貴方や、ブドー大将軍が騙してる可能性が!」
「私はともかく、大将軍はそのような事をしない。
彼は根っからの武人だ。そのような回りくどい事を好まない。
…認めなさい、ここに、絶対なる正義はない。
帝国もまた、悪だ。目を背けるのはやめなさい。」
「……ッ……オーガ隊長……!」
今見てる箇所がオーガとかいう男なんだろう。
資料を見るセリューの目には動揺があった。
嘘であってほしい、だが、ブドー大将軍と共に調べた結果だ。
冗談であるはずがない。
他にも目を通し、歯をギリッと噛み締める。
…理解したか、正義なんざ今のこの国では意味を為さない事を。
俯き、頭を抱えるセリューに俺はようやく目が覚めたかと悪態をつきたくなる。
「……私は、私の正義は……?
何のために、今まで悪を断罪してきた……。
私は、どうすれば……!」
「現在の帝国の最大の元凶、それはオネスト大臣なのは間違いありません。
皇帝陛下を操り人形とし、民から搾取しては捨てるその蛮行、許されるものではない。
貴女の絶対正義は折れた。
ですが、これは貴女の更なる成長となります。」
「私の……?」
顔を上げ、俺を見る。
どういうことかと説明を求める目だ。
「隠れた悪により育った正義より、貴女自身の真の正義を得るチャンスです。
…私と共に来なさい、セリューさん。
貴女の正義が確かなものへと変わるまで。
そして私をそれで信頼できるというのならそれでいい。
ですが、私を悪と思ったのなら、貴女のイザヨイで、この身を貫けばいい。」
「……真の、正義。」
「そうです。……私と共に来るか、後日また聞きましょう。
協力してくれるのなら、私は貴女にある秘密を教えます。」
「…分かりました、後日、必ずお返事します。」
セリューは気持ちを整理したいのだろう。
すぐに出ていった。
静かになった部屋で、俺は一人座ったままだ。
「……ヒ、ヒヒヒ……!後は返事を待つだけだ。
賭けにはなるが、どうなるか。
奴が俺の協力者……それも、イザヨイとくりゃあ……!」
こちら側の強さはより盤石となる。
どれ程の生命力を持とうが、イザヨイには関係無い。
イザヨイの正義審判の前では、あらゆる悪となる存在は苦戦を強いられるのだから。
だが、敵なら?
俺様のような化け物には更に恐ろしい機能があるが……
「ヒャハハハハハ……!だから賭けだろうがよぉ…!」
ギャンブルは、常に全賭けだろう。
だからこそ面白い。
「ヒヒヒ………ったく……何してんだ…鎧も失った愚図が笑ってらぁ……ヒヒ。」
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「何と、聞く限りだとまるで適合もしないと思っていたイザヨイが……」
「…だが、賭けなのだろう?」
「だからこそだ。イザヨイが敵でも味方でも構わねぇ。
最終的にこちらの状況はどうあっても有利に進む。」
テルミが余とブドーにそう説明する。
シコウテイザーの中に保管されていたイザヨイ。
名を、正義審判。
能力は、悪行の数だけ性能が上がるという正に正義を体現した帝具。
どれ程の猛者でも、それが極悪人……例えばエスデスでも使い手次第で殺しうる矛となるという。
奥の手も隠されてるというのだから末恐ろしい。
「他の帝具は使わぬのか?」
「やめとけ。下手に帝具使いを増やすだけだと痛手を受けんのは俺達だ。
隙を見計らってシコウテイザーに忍び込めてるだけでも運が良いと思え。ブドーの権限がなけりゃ出来ねぇ事でもあるんだからな。」
「そ、そうか……ブドー、感謝する。」
「勿体無き御言葉です。」
大将軍…やはり、心強い味方だ。
いざとなれば切り札にもなる存在。
余への忠誠もありがたい……のだが。
余では器不足なのではと時折思う。
余は、皇帝としてやれているのか?
……早く、この国を治さねばならない……
テルミは、何時の間にか余を見て嘲笑うようにハッと一言。
「餓鬼のテメェが考えても仕方ねぇだろうが。
俺やブドーに任せろ。いざとなったとき、テメェが頼りなのは間違いねぇが今はまだだ。焦るなよ。」
「…そうだな、すまぬ。余は、恵まれているな…。」
「ケッ、餓鬼が何言ってやがる。
……ま、今日は解散だ。明日は面倒だろうからな。
ナイトレイドとも連絡を取らねぇといけねぇ。」
「うむ。各自、やれることをやろう。」
…建速須佐之男の事、聞くべきだろうか。
いや、今はまだやめておこう。
今聞いても、負担になるだけだ。
余は、そうして眠りについた。
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ソイツは次の日の朝になって、駆け足でやってきた。
「答えは決まりましたか。」
「はい。」
「聞かせてもらいましょう。」
目の前の女、セリュー・ユビキタスは昨日とは違い、迷いの晴れた目で俺を見る。
俺もまた、目を開けて見る。
さあ、俺の賭け金はどうなったかの答え合わせをしようじゃねぇか。
テメェの正義の行方、その賭けのなぁ。
「私は貴方についていきます。
そして、私の本当の正義を、見つけたい!
どうかお願いします!」
その言葉に、俺は笑う。
これからの道を決める言葉に、可笑しくて可笑しくて仕方なかったからだ。
「ど、どうして笑うんですか!?」
「ク、ククク……いえ、すみません。もう少し軽いノリでよろしいですのに、あんまりにも堅い表情ですので可笑しくて。
ええ、よろしくお願いしますよセリューさん。
しかし、よくこちらに付くと言ってくれましたね。」
「…今の帝都は、腐っている。
内部さえもなっているなんて、昨日までは思いもしなかった。オーガ隊長だけでなく、同期の数名も悪だったなんて、思いたくもなかった。
でも、事実だから……私は、この国を変えます。」
「……へぇ。」
あの正義バカが昨日の一件でこうもなるか。
真っ直ぐな目をしてやがる。
とてもシェーレとマインを相手にしてた時の暗い目じゃねぇ。
それほど、昨日は堪えたか。
「では、歓迎しますよ。」
「はい!……ところで、秘密って何ですか?」
「ええ、貴女の他にも協力者が居ましてね。大物ですよ。」
その後、俺と皇帝とブドーがグルなのを教えると、叫び声が響いたが、当然だろう。
んで、より一層やる気を出すセリューに俺は内心笑みを深めた。
…そして、遂に結成される。
特殊警察 イェーガーズが。
というわけで、仲間が増えました。
顔芸と正義担当、セリューちゃんです。
コロ「ワイは死んだがまた話崩れへん?」
何とかなる、何とかなる。(原作大人買い)