何故だろう。
木がゴミを捨てるかのように簡単に倒れていく。
ただの木ではなく、危険種の攻撃をくらっても倒れないほどの大木が、だ。
ともすればそれが出来るのは限られてくる。
力のある大型の危険種か、または……
力が異様に高い人間か。
「デタラメだろ……!」
その光景に支配はされなくとも恐怖を感じたラバック。
木が薙ぎ倒されていく事に恐怖を感じている?違う。
彼が感じているのはそれを行う人間の豪快さだ。
「おいおい、逃げてばかりじゃつまらんだろ?
もっと俺を楽しませてくれよ!」
走りながら、後ろから聞こえてくる男の声に舌打ちをする。
糸を使い、器用に逃げても力によって強引に追い付いてくる。
クローステールの機動性に無理矢理追い付くなど、予想外も良いところだ。
加えて、ラバックは殴り合いの類いは出来なくはないが得意ではない。
もっぱら相手を騙し、糸で殺す暗殺スタイル。
しかし、目の前の男にそれが通用するだろうか?
「糸の罠は終わりか?ならば、逃走をやめ、俺と戦え!!」
「ハッ…無理だろ。」
この男は糸の罠を理解して避けつつこちらへと距離を離さずに向かってくる。
例え、クローステールの"界断糸"を使おうと、勝てる未来が見えない。
正しく、逃げるしか道はない。
攻めに転じたが最後、肉片が1つ出来上がる。
(まだナジェンダさんとお付き合いする夢が果たせてねぇんだぞ!死ねるか肉だるま!)
加勢も期待できない。
なら…、とラバックは思考する。
「…くそっ!大博打かよ!」
ラバックは思い付いた作戦を実行するべく、よりスピードを上げた。
「…何処へ向かうかは知らんが、俺に捉えられたが最後だ。逃げ切れると思うなよ……!」
男もまた、軽くスピードを上げ、追いかけていった。
「─少々扱いに困るが、まあよい。」
余も行くか、と木の上で二人を見届けた少女は自らの標的の元へと向かうべく、木から"跳ぶ"。
瞬間、少女の姿は森から消えた。
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「さてさて……相手は…ああ、ナイトレイドでも危険なアカメ、ですか。」
「ナイトレイドは皆危険だよハザマさん!」
「いやでも、殺傷力を考えればアカメがダントツでは?」
「……そうかも。」
「でしょう?にしても、クロメさんは分かってますね。私はともかく、ボルスさんを援護するなら盾役が一番ですからねぇ。」
「……うん。」
にしても、アカメか。
村雨が相手、ねぇ。
ま、今は敵という事になってるし、ナジェンダ達も俺に加減をする余裕はない。
すれば隙を突かれるからな。
てことは死ぬこと覚悟しとくか。
「ボルス、お前のその帝具は広範囲型……危険だ。
そして、お前も放っておけば何かが起こる予感がする。故に葬る!」
アカメは真っ直ぐとこちらに向かってくる。
何て速さだよオイ。
俺の誤魔化しでどこまでその速さと技に追い付けるか不安になんだろぉ?
「それをさせないのが我々ですが、ね。」
「頼もしいよ。それにしても、真っ直ぐ来るなんて…!」
「撃ってください、"彼"と私で村雨は防ぎます。」
「了解!」
ボルスはルビカンテの炎を噴射し、迎撃する……が。
アカメは炎が当たらない高さまで跳び、炎を回避する。
ボルスの背後には回ったが、これならどうよ。
この際だから実力を見せて貰うぜ。
「ウロボロス!」
「っ!」
後ろに回ったばかりのアカメにウロボロスを伸ばし、御自慢の足を噛みに行く。
だが、これもアカメは着地したばかりの足に再び力を入れて横へ跳ぶことで回避。
おいおい、どんな反射神経してんだ馬鹿。
てめぇはどんな動物だって話だ。
「葬る……!」
「くっ……なぁんてね。」
「……。」
アカメの村雨の刃が俺に迫る。
が、それは俺の真横まで来た男が身を挺して庇うことで村雨の毒は俺を蝕む事はなかった。
ウォール。
それが俺を庇った男の…いや、死体の名前。
クロメにはナタラとかいう人形がいるが、俺達には村雨の効かない死体はいない。
だからこそ、こちらへ一体寄越してもらった。
ガードマンだったらしいが、死んだ後も、ガードマンとはな。
名は体を表すなぁ?
ついでに、ハゲでグラサンだ。
「くっ…!」
死人に口なし。
喋りゃしねぇが動きはする。
アカメが咄嗟に後ろへと跳ぼうとするがそれよりも早くウォールがアカメを蹴り、吹っ飛ばす。
といってもそんなだが。
骸人形と村雨の相性は良くねぇ。
そもそも、毒が効かないからな。
攻撃を食らってもすぐに攻めに転じれる。
強さに差はあるが、補充も効くから悪くねぇ手だ。
その補充先が死体だがな。
「いやぁ焦りましたぁ。」
「ハザマさん、大丈夫?」
「ウォールさんが居ましたからねぇ、多少の無駄は許容範囲って事です。ただ、過信はできませんね。」
「ウォールさんじゃあの動きについていけるかというと…無理だもんね。」
「それもありますが…死体は思考しない。」
「…あ、そっか。思考しないって事は作戦とかも意味ないもんね。」
「クロメさんなら、話は別でしょうけど我々じゃね。」
「アカメ!」
レオーネがアカメへと駆け寄る。
瞬間、レオーネの片足に紐のような物が巻き付けられる。
「えっ──っあ"!」
そして、レオーネが反応するよりも早くその体がブレる。
レオーネの体が岩壁へと叩き付けられる。
紐と思ったものは……鞭か。
それをやった張本人は男で、どうやらそいつも骸人形のようだ。
「っぐ……やってくれたな……!」
……レオーネの方は警戒を解くか。
また来るならその時だ。
「さて……こちらは三人、あちらは一人。」
「うん、でも、油断できない。」
「ええ、分かってますとも……ええ。」
アカメを目を開けてジッと見る。
てめぇの力と技術だけでそこまでやれるのはすげぇよ。
だが……
このままだと殺しちまうぜ?
別に俺様はお前らナイトレイドの魂でもいいんだからなぁ……ヒヒ。
「ですが、優勢なのは変わりません。このまま倒し、王手までいきましょう。」
「……だね!」
じわじわと追い詰めていく。
……っち、さっきから何だ?
嫌か予感がする。
「……(ハザマ……お前はどうする気なんだ。)」
・
・
・
一方、レオーネ達の様子。
レオーネを鞭によって吹き飛ばした男、元将軍であり骸人形のロクゴウはナジェンダの加勢により抑えられていた。
ナジェンダにロクゴウを任せ、他へと向かおうとしたレオーネに、それは起こる。
「─!!」
クロメの奇襲により、左腕が切り落とされたレオーネは片腕を抑え、クロメを睨み付ける。
「駄目だよ私から目を離しちゃ。
隙あらば仕掛けて、人形にしてあげるよ。」
「っ、ぅ……やってくれたなお前……!」
クロメを追おうにも既にクロメは高台へと戻っている。
「でいっ!」
片腕の応急措置だけでも必要と考えたレオーネは自身の帝具の回復力を頼りに自力で止血をした。
「おおっ自力で止血できるんだ!」
「獅子を怒らせるとどうなるか…分からせてやる!」
「突っ込むなレオーネ!クロメには護衛もいる!
アカメの援護に向かえ、その後に二人でクロメを討つんだ。」
こっちは元将軍同士だから何とかなるとも伝え、ロクゴウへ集中するナジェンダにレオーネは了解の意を示し、クロメへと視線を移す。
「待ってろよ、後でそっちに──!」
「─!」
「─レオーネ!!」
先程まで加虐的笑みを浮かべていたクロメも、ロクゴウへと向き直っていたナジェンダも、喋っていたレオーネも。
それをいち早く感知し、それぞれ反応を示す。
クロメは感知した方へと顔を向け、ナジェンダはレオーネを大声で呼ぶ。
レオーネは後ろへと大きく跳んだ。
すると、レオーネが立っていた位置に何かが激突し、地面を割る。
「っ、なんだってんだ!」
「─ほう、獣ゆえか中々反応のいい。」
『!!?』
飛来してきたそれは人だった。
凛とした声で感心したように話しかけてくる。
レオーネは獣としての本能か、頭の中で逃げろと警報が鳴り響く。
「お、前は……」
あれは、勝てない。
あれは、
「だが、獣ゆえか、余の死を…恐れているな。」
「お前は、なんだ……!?」
「そう急くな、時間は腐るほどある。
余の前で、本能の赴くままに暴れてみよ。
その獣性にさえ、死を与えてやる。」
目の前の存在は、その背に輪を描くビットを3つ携えて地面から浮き上がりレオーネに笑みを浮かべる。
「くっ、貴様の生もここまでだ獅子よ。」
絶望は終わらない。
さて、遂に帝様がナイトレイドに牙を…死を向けます。
どうなるナイトレイド、どうなるラバック。
どうなるレオーネ姐さん!
……息抜きに何か投稿しようかな。