今日は天気が良い。
最近は曇りだとか多かったからな。
こういう晴れは暗い気分のときには良い。
だから、こういう日にさっさと報告して『あ、今日はいい天気ですねぇ』とでも言えば終わり……と思っていたのが二割。
もう八割は
「どういうことですか!納得できませんよ!」
「そうだ!何でだよ!?」
約二名が否定してくる事が予想できていたことだ。
「はぁ……」
こうなるだろうと思ってた俺はため息を隠すこともなく大きく吐く。
そう、俺は冥王の組織『エンブリオ』に入ることを受け入れた。
それはそうだ、あの組織は自由度が高い。
俺の計画を知る冥王は俺の邪魔を基本することはしないと言ってきた。
そこは信用できる。
言葉を違うような奴じゃないからな…だが、基本、なだけである。
要は、不都合にすぎる事態があれば邪魔するということだ。
まあ、それはいい。
構いやしない……
それを今のところ受け入れた俺は『エンブリオ』のメンバーとして動くことに路線を変えたわけだ。
んで、それをイェーガーズの面々に話した。
全員がいい顔をしている訳ではない。
エスデスはつまらなそうにして外を見ているが、他は納得しきってはいない。
何故そうなったかはわかる。
だが納得はしないってことだ。
現に、ウェイブとセリューが怒り、問いただしてくるからな。
「ですから…私とてここを離れたくはありませんでしたよ。居心地よかったですしねぇ…ですが、どうにもならない時があるのが組織というものです」
「そのどうにもならない事がハザマのイェーガーズ離脱だってのか!」
「そんなのおかしいですよ!ハザマさんは命令通りに動いていただけですし、ナイトレイドの一人を倒したじゃないですか!」
セリュー、テメェも下手したら離反の疑いかけられる立場なのを思い出せや……?
まあ、いい。
それよりも、どうやってこの二人を黙らせるかだ。
「大体、その疑いってのも─「おい」─っ、た、隊長……?」
ウェイブの声を、今まで黙っていたエスデスが遮る。
その声は不機嫌そのもの。
エスデスは立ち上がり、俺たちの方へと足を進める。
「何時までそのような話をしている?」
「で、でも隊長は悔しくないんですか!?俺達の仲間が疑われて、メンバーから除外されたんですよ!?」
「これは決定事項だった。それだけだ」
「そんな…そんなので納得出来るわけないじゃないですか!ハザマさんは私たちの仲間ですし、戦い方を教えてくれたりもした人なんですよ!」
「それはセリューとウェイブ、貴様ら二人だけの話だ。そもそも、仲間だの何だの…そのような綺麗事だけが組織ではない。何か不都合があれば当然のようにそれを処理する。それが組織であり、決まりだ」
「「っ…」」
「熱くなりすぎだ。頭を冷やすんだな。…ハザマ」
「はい、なんでしょう」
二人を正論で言い負かしたエスデスは今度は俺に話しかける。何だってんだ
「お前は納得した上でエンブリオに入ったのだな?」
「…ええ、はい」
「ならば言うことはない。元仲間のお前が死ななかった事は隊長として喜ぼう。だが、それだけだ…お前はもう、我らイェーガーズの仲間ではなく、ライバル組織であるエンブリオのメンバーになったのだからな」
「ああ、私にやけに冷たい口調なのはそれが理由ですか?」
「お前には元々この口調だ」
「あーそうでした…まあ、この事に御託を並べても仕方ありませんしね」
「ああそうだ……だが」
「?」
「今日一日はまだイェーガーズだ。好きにいるといい」
「──ありがとうございます、隊長」
「ふん……」
言うことはもうないのか、エスデスはまた先程まで座ってた椅子に座り、外を眺める。
ウェイブとセリューは会話の流れを聞いて、嬉しそうにしている。
クロメはそんな二人をからかっているし、ランはそれを見て微笑んでいる。
ボルスはというと……
「ボルスさん」
「あ、ハザマさん。どうしたの?」
「いえ…これから、ボルスさんはどうなさるので?」
「うーん…ルビカンテも無くなっちゃったし、私はもう戦えないからね…多分、焼却部隊に戻されると思う」
「そうですか……」
ボルスの言葉に、何となく安堵している俺がいる。
それはイェーガーズでなくなり、殺される危険性が減ったことを喜んでいるのか、それとも俺が手を下さない事に喜んでいるのか。
少なくとも……
「でも、私達は仲間だよ」
「組織のメンバーでなくなるというのに?」
「うん、それでも私達は一緒に戦って一緒のテーブルでご飯を食べた仲だから」
「…ボルスさん、私は」
「だからね、ハザマさん。お願いがあるんだ」
「お願い、ですか?」
「うん」
ボルスは真剣な雰囲気で、俺に頼む。
「私は焼却部隊に戻ってここの皆とはあまり接する時間もなくなるし、ハザマさんはエンブリオに入ってエスデス隊長たちと衝突することもあると思うんだ」
「まあ、でしょうね」
「うん、それでもね。ハザマさんには、ここの皆を仲間だって、思っていてほしいんだ」
「それは…」
「やっぱり、無理かな」
俺は言葉に詰まる。
ボルスが言ってるのは所詮理想でしかない。
こことは違う敵国に行くけれど、友でいてくれ…そんな発言と同じ事を言っている。
それを否定するのは簡単だ。
だってのに……
(何だって、俺は否定できない?)
無理だと、そんなことは出来ないと言うのは簡単だ。
だというのに否定の言葉を出すことは出来ない。
何故なのか。
今まで、身勝手な判断で仲間を殺し、それが皇帝の、国の為に繋がると信じて何にだって手を染めてきた。
いわば俺様は外道だった。
だというのに、何故今さらこんなことを否定できない?
俺様は、あの時の、冥王が皇帝だったときのメンバーを……
─テルミ、貴方にしか頼めない事よ
─テルミ、貴様に頼むのは忌々しいが…
─テルミさん、貴方を信じてます
─テルミ、後の事は頼むぜ
この手で殺したというのに。
何故……
俺は答えることができずに、ボルスを見るしか出来ない
「うん、私が頼んでいることはとても馬鹿らしいことなのかもしれない。でも、それでも皆には絆があったんだって信じたい」
「……」
「ハザマさん、ほら、あれを見て」
「見て、と言われたって……」
ハザマとしての口調が乱れてるのを直せずに、セリューたちの方を見る。
そして
(─ああ、そうかよ)
理解した。してしまったのだ。
ここは、とても居心地がよく、崩すことが出来ないと。
この組織が、俺様にとって邪魔だとしてもだ。
昔の組織が嫌いだったわけではない。
けれど、あの時とは幾つか精神が違う。
あの時のようにまだ自分の視点を貫くしか出来ない俺ではなく、視野が広がった俺だからこそ。
「何だか、楽しそうですね」
「私もそう思う。多分、彼処の輪には入れないのかもしれない。でも──」
「──寄り添えることは出来ると思うんだ」
それはとても眩しい言葉で。
いつも気負うなと言っていた俺が気負っていたのだと気付かされた。
けれど、もう、この手は綺麗じゃねぇんだ。
俺様の手は汚れきっている。
昔からずっと、汚し続けてきた手を、今さらどの面下げて洗えばいい。
それでも俺は
「─ええ、そうですね。私も、そうありたいものです」
この時ばかりは考えた嘘ではなく本心を口にした。
「ハザマさん、何してるんですか?私達だけ騒いでバカみたいじゃないですか!」
「そうだそうだ!俺達は誰のために騒いでると思ってんだ!」
「バカなのは事実じゃないですか、ねぇ?クロメさん」
「うん、二人は頭悪いから本能で騒いでも仕方ないよ」
「誰が猿だテメェ!」
「私は正義バカじゃなぁぁぁぁい!?」
「アハハ……」
「でも、騒いでたのは事実だと思うよ」
「「うぐっ!?」」
自然と、ボルスと俺はあの中に参加していた。
笑いが込み上げてくる。
「ク、ククク……!」
「…ハザマさん?」
「今の笑い声ってハザマか?」
二人はきょとんと俺を見るが、それでも笑いは止まらない。
「何です、くく、私が、笑わないとでも?」
「い、いや…いつもは怪しいっていうかさ」
「そうですそうです、いつもは気持ち悪いのに」
「でも、確かにハザマがこうやって笑うのを見たのは私達初めてだよね」
「ええ、ですね」
「うん」
「…全く、いいじゃないですか。イェーガーズとして居られる最後の日なんですから」
「…それもそうだな!よっしゃ、トランプやるぞ!」
「何でトランプなんですか?」
「誰でも勝てるからでしょ。チェスとかだとウェイブ弱いもん」
「確かに」
「あはは…ごめん、ウェイブ君。否定できない」
「ぐはぁっ!?」
「ついでに言っておくと、ウェイブはダウト等の心理系はもっと、弱いぞ」
「隊長!?そ、そんなことないぞ皆!」
「ほう?私に負けた事を忘れたのか?」
「い、いや、そういう訳じゃぁ……」
「ならばその身にもう一度教育してやろう、イェーガーズ隊長の力をな!」
エスデスもいつの間にか参加して、そうしてしばらくは全員でトランプをした。
エスデスの言うとおり、ウェイブは心理戦が弱く、ババ抜きでも最下位最多の男として不名誉を飾った。
俺は上位だったが。
・
・
・
・
「……ふぅ、最後の最後で楽しんじまった」
あの後、解散となった。
その時は酷かったな。
ウェイブは吹っ切れたのか勝つのは俺たちだとか言って騒いでたし、セリューは結局泣きわめいたし、クロメも何だかんだで寂しげだった。
ランはお疲れさまでしたとか言ってきやがったし。
エスデスも何やかんやで無様を晒すなと言ってきた。
お陰でボルスは泣いてしまった。
それでもこれからも頑張ると言い、家族の待つ家まで帰っていった。
俺もまた、部屋まで戻り、皇帝のところに行くかと思っていた。
だが
「楽しんできたようだな」
「……チッ、気分が台無しだ」
「酷い言われようだ」
冥王がさも当然のように部屋に居やがったんで言葉通り気分が冷めた。
折角あの空間を堪能してたというのにだ、くそ。
「酷いではないか、上司である余に付き合わんであの者らと戯れるとは」
「俺様が何しようが勝手だろ、冥王様?それとも、テメェに不都合だったか?」
「いや。余は今回はその浮わついた気分を殺しに来た」
「あ?」
「テルミよ──」
冥王は俺に近付き、胸ぐらを掴んで引っ張る。
顔が近くなり、空虚な赤い瞳が俺を見る。
「─よくもまあ、余達を殺しておいてそこまで楽しめるな?」
その言葉は今の俺様にとって、一番の刃となった。
「───離しやがれ」
それ以上は聞きたくはなかった。
「確か、ハクメンを殺したのは皇帝への信仰があの者の強さゆえに揺らぐのを危惧し、殺したのだったな?」
「っ、てめぇ」
止めようとしても、遮るように俺の当時の罪を俺に告げる
「トリニティとナインは何であったか、ああ、そう…技術を危惧してであったな…ラグナは……」
「テメェ、そこまでに」
やめろ、それ以上はやめろ。
「そうそう、至上最悪の犯罪者、『死神』に仕立て、殺したのだったな」
「おい、クソアマ……」
それ以上は…やめろ
頼むからやめろ
「余はなんであったか?」
「いい加減にしやがれ!んなもん─」
「─余が皇帝として相応しくなかったから、であったな」
「──」
仲間の、自分の死因を、俺を嘲笑うための道具として使う冥王に俺は何も言えなかった。
それは俺の罪であり、俺の鎖だ。
それでも、俺はあの時止まるわけにはいかなかった。
始皇帝との契約。
それだけが俺を突き動かす力だった。
だからこそ、この女は
「余達を裏切り、殺し、嘲笑ったのは其方だ、テルミ」
「今更そうしたところで、何も変わらぬ。其方はただの狡猾な蛇でしかない」
「そのような其方が陽だまりを求めるか?」
「戯けたことを。目を覚ませ、テルミ」
「そのような泡沫の夢に捕らわれて何になる?」
「罪は消えぬ、死は消えぬ」
「その身を焦がすのは何のためかを思い出せ」
「其方は最早戻れぬ場所にまで来たのだ」
「余に最も近い位置にまで、な」
何だ、こいつは
何を言っている?
狡猾な蛇、それは分かる。
罪深いことも分かってる。
だが、こいつに俺が近い位置にまで来た?
死に?
俺が?
何時?
そもそも、俺にそんな事を言って何になる?
「…テメェが何を言おうが勝手だが、俺様の邪魔をするんじゃねぇ」
「ク、クク、動揺するな、テルミよ」
「ああ?いつ俺が動揺したってんだよ……!
さっきからムカつくんだよ、テメェ…!俺を嘲笑うのは癪だが良い。だが、テメェが俺に執拗なまでに迫るのはちげぇだろ」
「何が違う?余は其方を愛でたいだけだ。
其の精神、いつまで持つ?」
こいつ。
……何時、気づいた?
「其の器…アーキタイプ、といったか。その器は確かに始皇帝時代の技術を用いた最高級の器だ」
「何が言いてぇ」
「其の器、いつまで持つのかと聞いておる」
「……テメェ、そりゃ」
「余は其方の事ならば腐るほど知っておるぞ?余に、忠誠を誓ったあの日より、ずっとな。始皇帝の契約をその身が朽ちるまで果たすのも知っている。そして、その器に限界が来ていることも知っている」
「あの仮面野郎か…?答えろや!」
「レリウスは余に従ったまでだ。そう責めるな…
だが、クク、憐れよなぁテルミ。須佐之男を求めれば求めるほど、其方の身は朽ちていく…何故あのような過ぎた力を求むる?」
「……」
…うぜぇが、このアマの言うとおりだ。
俺が須佐之男になるには俺の精神もだが、アーキタイプも使わねぇと満足に使えねぇ。
そして、使う度にアーキタイプは須佐之男の圧倒的な力による負荷を背負う。
いくら完成された器だろうが、須佐之男という帝具を越える力……正しく神器には勝れない
使う度にアーキタイプは壊れていき、そして、壊れた瞬間、その負荷は俺に襲いかかる。
精神体の俺ははっきり言って弱い。
そんな負荷を背負えば、跡形もなく消え去るだろう。
「そも、其方にはウロボロスがあろう?それほどまでにあの力に執着するのは何故だ?」
「黙れ」
「何を憤る?余は、間違いを言ってはおらん。過ぎた力はその分だけ身を壊す。それはあの須佐之男とて同じ─」
「─黙れと、言っている、冥王」
「!…覚悟は、あるようだな」
「……チッ、話は終わりだろ。さっさと出てけ。俺様も行かなきゃならねぇ」
「良かろう。だが…其方はもう余の部下だ。それを忘れるな」
「…」
いい加減鬱陶しいので無言で睨む。
ふっ、と笑い、冥王は出ていった。
「……武神は、必ず取り戻さなきゃならねぇ」
それがあの男に忠誠を誓った俺の最後であろうと
俺はあの力を使う。
それが、アイツとの
・
・
・
・
「テルミ」
「何だ、お坊っちゃま」
ちょくちょくと精神を鍛えるために訪れていた皇帝の部屋には皇帝しか居なかった。
いつものようにブドーが居ない。
そんな中、皇帝は俺に話しかける。
「おぼ……んん、テルミ、1つ聞きたい」
「何だ、精神修行が嫌になったか?」
「いや、それは継続するが……建速須佐之男とは、何だ?」
……冥王か?
それとも、他の誰かか?
「誰から聞いた」
「…聞いたのではないのだ。信じられぬ話だが、余はあれに会っている」
「はあ!?どういうことだそりゃ!」
まさか、俺様のウロボロスが無くてもあれになれたってのか!?
そんなはずはねぇだろ、スサノオとウロボロスがあって初めて完成する神器なんだぞ!?
肩を掴み、迫る俺に皇帝は慌てて待てと言う。
「現実ではないぞ!?夢の中だ!」
「ああ?夢?」
「ああ、前に二度、夢に出てきた。一度目は存在感だけを、二度目は話した」
「……どういうこった?」
「僅かに残った力で接触したと聞いたが」
「…考えても仕方がねぇか……」
「その様子ならばやはり知ってるのだな?」
「確かに、建速須佐之男は知ってる」
「ならば教えてくれ!あれならば余達の力になってくれよう!」
嬉しげに聞いてくる皇帝に俺は戸惑う。
今教えていいのか?
だが、聞いてきた、そしてあれが接触したのなら……
教えるべきか
「構わねぇよ……だが、1つ言わせてもらう」
「何だ?」
「あの建速須佐之男はな……俺だ」
「……は?」
「は?じゃねぇ。信じられねぇのは仕方ねぇが、建速須佐之男ってのは俺の本当の帝具なんだよ」
色々あって少し疲れたのでソファに座り、ぐったりとする。
今日は寝れるか分からねぇな……
「む、む?……いや、話を聞けばわかることだ。聞かせてくれ」
「分かった。だが、今じゃ考えられねぇようなふざけた話が多い。それは今のうちに覚悟しとけよ?」
俺は教えることでいい方向にいくのなら構わねぇかと思い、あの時を、あの時代を思い出す
「─シコウテイザーの次に作られた二番目の帝具にして、始皇帝と俺様をして諦めを持たせた帝具……それが建速須佐之男だ」
そうして俺は、昔の友を思い浮かべながら話し出す。