うーん、早く武神見たい……見たくない?
夜のキョロク、イェーガーズ拠点。
そこに俺とレリウスは来ていた。
というのも、拠点として宛がわれたのもここだからだ。
大臣命令だからな、仕方ねぇ。
まだ従っておかねぇと何されるか分かったもんじゃない。
んで、現在の俺たちだが……
「ハザマさんがイェーガーズからエンブリオへ行ってボルスさんは焼却部隊に戻って……俺とランしか男が居ないんだよぉぉぉ!!」
「あらら、かなりお得では?」
「そう思うか?」
「いいえ全く?同情しちゃいますよ……」
「レリウスさんは?」
「面白い魂を持つものが多いな、そこからの点で言えば羨ましくある。
一般的な回答でいうのであれば、お断りさせてもらうがね。」
「ですよね!ちくしょう!」
ウェイブの慰めをしている。
くだらねぇと思うが、分からなくないから仕方無しだ。
レリウスは道ずれにしてやったざまぁみやがれ。
……にしても、どうしたもんか。
あの後、ナジェンダには殆どを話してやった。
予想の展開とは多少ズレが生じたがそれはいい。
良いズレだったからだ。
ハッキリとするべき事がある。
俺にはそれが何よりも重要なのだ。
だから、クロメもランもセリューもいない状況が一番だった。
この状況を逃す手はねぇ。
「……それで、ウェイブさん。」
「なんだ?」
「貴方はどうする気です?」
「何の事だよ?」
「貴方は勘づき始めている、帝国の闇に。」
「闇って……」
「きっかけはクロメさんですか?」
「なっ」
反応した。
青二才らしい反応で安心した。
仮面野郎には援護が必要なときに協力するように伝えてある。
「是非とも、聞かせてもらいたい。
ああ、ご心配なく、エスデスさんに伝えることはしませんよ。
私、もうイェーガーズではないので律儀にあの人に報告する義務もありませんしねぇ。」
「……誰にも話さないんだな?」
「ええ、
もちろん、そこのレリウスさんもね。
この人、かなりのひねくれとコミュ障なので気にせずどうぞどうぞ!」
「おい。」
仮面野郎が何か文句を言いたそうだったが俺は無視。
さあさあ観念しろとばかりに話してくれますよねと聞く。
ウェイブは顔をうつ向かせて語り出す。
「小さな違和感はあったんだ。
たまにクロメが辛そうな顔してるときがあったし、病気か何かかと思って心配で聞いてみたんだ。
でも、『何でもない』ってはぐらかされてさ。」
「ほう。」
「他にも、人の顔っていうか……表情に影が差してるっていうか。
俺のいた所ではもう少し明るい感じではあったんだ。
でも、ここは違う。」
「上の人間は明るそうだが下の人間、所謂庶民は暗い表情であったと?」
「おいおい、よく分かったな。
ああ、何だかおかしいなって思ってたんだよ。
でも、俺じゃ調べられる権限とか無いから何も出来ねぇ……」
「なるほどなるほど……」
思っていた帝国とは少し違う。
そこから見つけられたわけか。
中々やるじゃねぇか小僧。
ウェイブも実力はある。
味方にすれば戦力にはなる、か。
「ウェイブさん、貴方は帝国と出来ればクロメさんについて調べたいということですね?」
「ああ、そうだけど……」
「私の本業、何だったか覚えてます?
前に一度言ったと思いますが……」
「そりゃまあ。
確か、情報屋だよな?……あああああ!!」
「しー!しー!静かにお願いしますよ!」
「いや、でも……悪い。」
ウェイブは大声を上げるがすぐに謝罪して座る。
仮面野郎は感情豊かな事だ、とか言ってやがるがこれも無視。
「なら、調べてくれるのか?」
「構いませんよ。」
「本当か!?あ、でも俺金とかそんなに無い……」
「私、お金は信用してないんですよね~もっと形のあるもの……または権利とかでないと。」
「権利って……」
「もちろん、ウェイブさんにはそこら辺の期待は一切しておりませんよ!」
「傷付くなぁおい!
じゃあ、何を渡せばいいんだよ!」
「そうですね~……──」
そこで思い至る。
何も
今渡せるような物を持っていないのなら、それを利用する。
「じゃあ、今は払わなくていいですよ。」
「え、いいのか?」
「……まあ、本来なら良くはないのですがね。
信用とかそういうのに関わりますから。
ですから、今回限りです。後に私が要求することを呑んでくださればそれで。」
「……ああ、分かった。
なら、それで頼む!」
「承りました。
では、話すとしましょう。真実をねぇ……」
そこから俺は、ゆっくりと丁寧に話した。
文字通り、帝国の真実を。
ウェイブはそれを聞いていく内に青ざめていき、反応が薄くなっていった。
言い終える時には無言でそれを聞いていた。
仮面野郎は紅茶を飲んでいやがった。
呑気な奴だな。
「……今の話、本当なのか?」
「嘘は言いませんよ。
そこまで酷い人間ではないですよ~私。」
「じゃあ、何で黙ってたんだよ!」
「では、何故話さないといけないので?」
「はあ!?」
「勘違いしないでいただきたいのですが……このような国に忠誠を誓う訳無いですし、したくもない。
それに情報屋ですよ?そうあっさりとペラペラ話すわけ無いでしょうに。
この際だからはっきりと申しましょう。
私は、どちら側でも無い。」
「だから、口外しないで見過ごすのか!」
「ならば、お前はこれを口外して意味があると言うのかね?」
「当たり前だろ、事実を伝えて、オネスト大臣を倒せば……!」
「青二才という言葉が丸々当てはまる答えをどうも。
真の事実が民にとっての事実とは限らないものですよ、ウェイブさん。」
「……くそっ!」
ウェイブは悔しげな声を出す。
実際悔しいのだろう。一人の軍人として、正義を志す者として騙されたのもある。
だが、こいつの場合は違う。
一部の民が虐げられているという事実と自分が何も出来ない事実に悔しさを感じている。
間違いなくこいつは『白側』の人間だ。
その性格を利用するようで悪いが俺には俺の譲れねぇもんがある。
ま、本当はそんなに悪いとは思ってないが。
「馬鹿正直に事実を伝えても大臣が隠蔽することでしょう。そして、事実を知る者を消そうとする。
まさに馬鹿は痛い目を見る訳ですが……それは正攻法で行こうとした場合ですよ。」
「どういうことだ。」
「言い方は悪いですが、こそこそと動き回ればいいのです。直接大臣を叩くのではなく、大臣の周りから叩いていくのですよ。そうしていけば大臣の逃げ場を無くせますからねぇ。」
「……」
「ま……どうするかは貴方の自由です。
私は貴方をこれ以上は手助けしませんし出来ません。
まあ、貴方の意思によっては吝かではないのですが……そこは貴方次第ということで。」
「俺次第……」
「では、行きますよレリウスさん。」
「いいだろう。」
そういや、こいつずっと黙ってやがったな。
頷いてたりはしてたが……何してたんだか。
考え込むウェイブを置いて俺たちは退室した。
「……ふむ、私は先に向かっていよう。」
「ええ、お願いします。」
仮面野郎は察した様子で先に行った。
お見通しってか?ムカつくねぇ。
さて……そろそろ本格的にテメェを動かすか。
俺は部屋を出た所にいたそいつに話し掛ける。
「盗み聞きですか、良くない趣味だ。」
「たまたま聞こえてしまったものですから。
それで、何を考えているので?」
「そうですねぇ……巨大な獲物を仕留めるには入念な準備が要りますから、その準備第…幾つでしょうね?
まあ、それはいいじゃないですか、そろそろ貴方にお願いしたいと思ってたのですよ。」
「ようやく、ですか……情報だけ提供されていたと思えばキョロクで何を?」
「簡単なことです、ええ……極めて簡単なことだ。」
「最悪死ぬだけというのが簡単というのなら、簡単でしょうね。」
「元々覚悟はなさってのことでしょう?
それぐらい賭けてくださいよ~私はいつも賭けてるんですから~」
「賭けさせるために情報を渡し続けたんでしょうに。」
「用心するに越したことはない……そうでしょう?」
「……そう言われると、何も言えませんね。」
「では、『お願い』を始めましょうか……ランさん。」
今までイェーガーズとして動いてた分、こっちでも動いてもらおうじゃねぇか。
裏切ったりしたらチキンにしてやるから覚悟するんだなぁ……
マスティマじゃなけりゃテメェの魂をいただいてたんだからよぉ。
……そろそろ使い物にならなくなってきたな、アレ。