されどあの日々を捨てることへの決断はすぐだった。
あれはそうだな、俺が最も後悔した時代だろうよ。
俺とあろうものが、随分と情に支配された。
二代目の時は普通にやって来たはずだったってのに、あのアマにはそうはいかなかった。
…まあ、俺様も人の心ってのはあったんだろうよ。
くそったれと思うがな。
まず、俺にも部下って奴がいた。
帝国最強『ハクメン』
大魔法使い『ナイン』
錬金術師『トリニティ』
そして、死神『ラグナ・ザ・ブラッドエッジ』だ。
そいつらは─「待て待て待て待て!!」
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「んだよ。」
「おかしいではないか!死神『ラグナ・ザ・ブラッドエッジ』!?余でも知っておるぞ!」
「其奴は大量殺人鬼であろう!?帝国の内外含め100人以上を殺した!」
「……ああ、そうか。
「どういうことだ?」
「ま、話を聞いてりゃ分かるさ。だんだんとな……」
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まあ、以下四名が俺直属の部下だ。
そっから四人が更に自身の部下を持ってんだがそこは省く。
んで、頂点が帝……つまり今の冥王だ。
当時、病気で早々に先代が死にやがったから帝は齢12にして皇位を継ぐことになった。
だが、不気味な奴だって評判で最初は大変だったぜ。
─何故だ?
……まあ、先代の葬式の時、無表情でいたからな。
死んだって報せをした時も特に泣きもせずに『そうか』とだけだ。
困ったもんでな、最初は誰にでもこんなんだったのさ。
ま、俺様やナイン達が根気よく物を教えてやったりしてたら懐かれてな。
苦労の連続だった。
んで、しばらくは帝に同伴して帝国を見回ったり、ラグナちゃんを
だが、ある日の出来事だ。
帝にある帝具の適性があることが発覚した。
─それが冥鏡死衰か。
ああ。
帝はそれを受け入れた。
シコウテイザーを受け継げないのは仕方なしってな。
そっからだ。
帝はどこかおかしくなってきた。
だんだんと、侵食されていった。
「テルミ。」
「どうした、帰るか?」
「いや……綺麗な
ある日、視察に来ていた俺と帝はいつも通り歩きながら見ていたんだ。
そしたら、帝が今までそんなもんに興味示さなかったってのに蝶が見えるとか言ってな。
「あ?蝶?何処だ?」
「見えぬか?あそこだ、あの青い蝶だ。」
「……見えねぇな。」
「余をからかっておるのか?」
「からかってんのはテメェだろが。」
「……ふむ?」
俺には見えねぇ蝶。
俺は何となく嫌な予感がした。
以前、ハクメンと話した帝具との同調。
けれど、今までの経験からして姿が変わっていってる様子はなかった。
だから、俺は気付かなかった。
いや、気付かない振りをしていた。
「テルミ、ハクメンの部下の一人にも蝶が止まっておった。」
「……何だってんだ?」
それから、蝶の止まっていたハクメンの部下は死んだ。
まさかと思った。
死期を見たのか?どうなのか、俺には分からなかった。
ただ、適性が高いから影響が出ているのかもしれない。
国の催しの際、帝が国民に話すときもあった。
話が終わって俺にしか見えないように座り込んだ。
「どうした!」
「……テルミ、蝶が……いくつも……」
「…おい、他に何かないか?」
「……いや。」
「そうか…なら、少し部屋に戻って休んでろ。
その間に話し合っておく。」
「世話をかける……」
「テメェの心配をしやがれ。」
その後、俺はハクメン達を集めて会議を開いた。
説明したあと、ナインが最初に口を開いた。
「壊せばいいんじゃない?」
「冥鏡死衰を?けれど、帝様に悪影響が……」
「トリニティ、アンタは甘いのよ。こういうのは元凶を叩くのが一番いいのよ。」
「そうでしょうか……」
「ハクメン、アンタの意見は?」
「即刻破壊するべきだ。」
「……で、ラグナ、アンタは?」
「は?俺か?」
「アンタも意見くらいだしなさいよ!」
「いいけどよ……なあ、テルミ。帝の容態は?」
「今は安静にしてやってる。最近は蝶ってのがよく見えるらしいぜ。」
「蝶が見える奴は近い内に死ぬってことだったな。
冥鏡死衰にそんな能力あったか?」
そう言われて、冥鏡死衰の能力を確認する。
「いや、速度強化だとかそのぐらいだった筈だぜ。」
「同調して進化したって事でしょ。事例はあるにはあるわ。」
「……けどよ、何かある訳じゃねぇんだろ?」
「楽観視だぜ、それはよぉ……ラグナちゃん。」
「どうあれ冥鏡死衰が帝様の精神に働きかけているのは事実ですから……安全に破壊できるならそうすべき……というのがナインとハクメンさんの意見です。」
「……それもそうか。なら、あまり影響の無いように壊すことはできるのか?」
ラグナの言葉にナインは馬鹿にするように鼻で笑った。
ラグナはそれに苛立ったがナインの言葉を待った。
「可能よ。帝具自体は使用者の魂と繋がってる訳じゃないもの。そもそも、帝具とあそこまで同調するのが特殊なのよ。普通ならあそこまで影響は出ない。」
「へぇ、何はともあれ、壊しゃいいんだろ?会議は終わりでいいか?」
「せっかちだなぁラグナちゃん。」
「うっせぇ、大体俺をこういった頭動かす場に呼ぶなって事前に言っといただろうが。」
「けっ、そういって会議すっぽかしまくる馬鹿は何処のどいつだかな。案外、そこら辺で女でも侍らせてんだろぉ?」
「ああ!?誰がんなことするか馬鹿か!」
「まあまあ、二人ともその辺に!」
トリニティに止められてラグナは舌打ちをしてそっぽを向いた。
ナインは気にした様子もなく、いいかしら、と言う。
「冥鏡死衰は結論が出たけど他にもあるのよ。東の農村が危険種による被害が多い。これを、そうね…ラグナ、アンタが行きなさい。」
「構わねぇよ、さっさと行ってぶっ倒してきてやるよ。んじゃ、俺は用事が出来たんで行くわ。」
「ラグナさん、どうかお気をつけて。」
ラグナはへいへいとだけ行ってかったるそうに部屋を出ていった。
「それで、他は?」
「次は────」
そうしてしばらく会議は続いて、終わった頃にゃ夕方だ。
俺は面倒見役として帝の様子を見に行った。
冥鏡死衰は少し後に壊すことにした。
「よう、調子はどうだ。」
「…問題ない、余が倒れては民に示しがつかぬからな。」
「そうかい。」
「テルミ…冥鏡死衰をどうするつもりだ?」
「ぶっ壊す。テメェにも悪影響が出てるからな。」
「その必要はない。」
「あ?どういうことだよ。」
「余の中で折り合いをつけた。冥鏡死衰が暴走することはもうない。」
「んだと?帝具と会話したってのか?」
「うむ…よもやあそこまでとは思わなかったが、大事に至ることはない。」
帝具との同調の強さで帝具と会話すらできるようになるとは思わなかった。
だが、短時間で制御できるようになったという事実にそこまで驚いてない俺がいた。
何をやらせてもこなす女だ、あり得なくはないと思った。
「本当にいいんだな?」
「執拗な男は嫌われるぞ。」
「俺様は嫌われてなんぼの立場だ。…まあ、テメェがいいってんならしばらく様子を見る。」
「うむ……………テルミよ。」
「んだよ、まだ何かあんのか?」
「…いいや、何も。ただ、無理はするなとだけ皆に伝えておいてくれ。」
「お優しいこったな…伝えておいてやるよ。」
俺は部屋を出た。
この時から、馬鹿な行いってのをしてた。
帝具の開発者の一人でありながら、帝具を舐めてたのさ。
・
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「国を整え、守るのが俺たちの役割だった。少なくとも、後20年は続くもんだと誰もが疑わなかった。そう、疑わなかった…」
そうだ、俺のミスだ。
俺があの時代を終わらせた。
だってのに。
「聞かせてくれるな?」
「そういう話だからな。心配ねぇよ、俺様が今更揺らぐわけねぇだろ。」
「貴様の心配などしておらぬわ。」
「可愛げのねぇ餓鬼だぜ。さて、主要人物は殆ど出したな。
後は…そうだな、罪の告白って奴だ。」
・
・
・
その日は特別な何があるわけでもない。暇な日だった。
だが、それは突然起こった。
いつも通り、帝に不調が無いと分かって安堵したときだ。
「テルミ、命は何故儚いのだろうな。」
「えらく唐突じゃねぇか。」
「余は、これと繋がってからより鮮明に視えるようになった。余の視野が狭かったのだろうな。」
「何言ってやがる?」
独り言のように、けれど俺に語りかけるその声は俺を無視して話を続ける。
その表情は窓のほうに向いているから俺には伺えない。
「命とは鎖だ、テルミ。」
「鎖だぁ?」
「そう、己を縛り苦しめる鎖…生まれたときから課される試練、それが生だ。」
「生きることは地獄だって言いてぇのか?」
「余は考えたのだ。苦しむ民が減らぬのは何故だと…そして気付いたのだ。生きること自体に苦しみを覚えているのではないかとな…ならば死は安息だ、救いに他ならない。」
段々と言葉の勢いが増していく。
何かに急かされるかのように。
俺は、何となく気付いた。
「テメェ、誰だ。」
「……」
「確かに小難しいことを考える女だが、あの女は逃避を考える馬鹿じゃねぇ。」
「死が逃避であると?」
「それ以外何があんだ。生きることは地獄かもしれねぇ。
延々と生きてる俺様が言うんだ間違いはねぇ…だが、死んだ先に何がある?死ねば天に昇る?魂が解放される?下らねぇ…死は無だ、何にもならねぇのさ。地獄かも知れねぇが生き抜く事が苦しいとは思えねぇな。」
「…所詮、生きるだけの屍か。」
その言葉と共に姿が消える。
いや、冥鏡死衰の能力である速度強化で俺の後ろへと回り込んだ。
気付くのに数秒を要した俺は咄嗟に首を腕で守ったが甘かった。
少女の足から放たれる威力とは思えない力で俺は首を蹴られ部屋の壁に激突した。
「がぁっ!」
「以前の貴様ならこうはならなかったろうな、テルミ。」
「て、めぇ…!」
意識が朦朧としていく中、ウロボロスを奴に向けて伸ばすが蹴りで弾き飛ばされ無意味と化す。
「余の答えが正しいことを証明しよう。貴様はそこで寝ていろ。」
「く、そ…が…」
俺はそこで気絶した。
全てが遅かった。
あの時、強引にでも壊しておきゃあよかった。
それを、情に絆されたせいで…
あの時の会話の途中から既に意識に出るほど侵食は進んでいやがったんだ。
じっくりと、気付かれないように帝の意識を蝕んでいった。
…そして、起きたときには事態はさらに悪化していた。
帝の意思ではない帝具の意思。生を否定する冥鏡死衰の起こした最悪の事態。
その真実。
次回、『死の誘香 後編』