テルミが壊す!   作:ロザミア

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はい、後編になります。
怒濤の展開です、すいません。


死の誘香 後編

目を覚ますと、血の匂いがした。

一人二人死んだくらいじゃあり得ない濃さ。

何があった、どれくらい経った?

考えても仕方がないから俺は急いで部屋を出て、近くの中庭にまで行った。

 

そこで見たのは…

 

「ズェイヤァ!」

 

「ぎやぁぁ!」

 

白い鎧を赤い血で染めながらも城の兵士や自分の部下を斬り殺すハクメンの姿だった。

だが、ハクメンも無事とは言い難かった。

背中には鎧を貫通して剣が刺され、血が流れ続けている。

 

最後の一人だったのだろう。

斬り殺した後に『鳴神』を地面に刺して膝をつく。

 

「何があった!」

 

「貴様、テルミ…何をしていた…」

 

「悔しいが、帝具に侵食された帝に気絶させられて、今目が覚めた。…どういう状況だ?」

 

「…冥鏡死衰は新たな能力に目覚めていた。

あれは死へ誘う…いや、死を感染させる力だ。」

 

そこから語られたのは冥鏡死衰の暴走。

近くの兵士に何かを唱え、拳を叩き付けたという。

そこから豹変した兵士が生きている兵士を殺した。

死んだ兵士はゾンビのようになり生きている兵士を殺した。

それの繰り返し。

ハクメンが処理に遅れるほどに冥鏡死衰はそれを繰り返した。

八房に近いが、決定的に違うのは精神に働きかける何か。

 

死の狂気。

 

「ぐっ…斬り捨てるのに時間をかけたが…」

 

「分かった、もう喋るんじゃねぇ。」

 

「…テルミ、貴様に頼むのは癪だが…」

 

「黙ってろ!そこから先を言うんじゃねぇ!精神に働きかける能力ならウロボロスで─「聞け!!」─」

 

「…私もそれに感染する前に、私を殺せ。幸い、頭を飛ばせば動くことはない…」

 

「…わかってんのか…」

 

「見ろ、テルミ。」

 

ハクメンの『鳴神』を握る手が、強く震えている。

今もハクメンは耐えているのだろう。

冥鏡死衰の精神汚染に。

帝国最強としての誇りを捨てないためにも。

 

─『私は帝国の秩序を守る。それの為ならばこの命惜しくはない。』

 

テメェは、それを守りてぇのか。

こんな秩序のなくなった場所で!

 

─しばらく考え、俺は兵士の持っていた剣を拾う。

 

ハクメンは耐えながらも、しっかりと俺が首を斬りやすいように差し出してくる。

 

「…ハクメンちゃんよぉ、無様なもんだな…」

 

「その減らず口、覚えておこう。」

 

「…ああ、俺様もテメェの強さを覚えておいてやるよ。」

 

 

 

「テルミ、貴様に頼むのは忌々しいが…──」

 

 

 

「…いいぜ。任せておけや帝国最強。だからテメェは──」

 

「──気高いまま死ね。」

 

ただただ強い奴だった。 

秩序を守る騎士。

帝国の兵士が、夢見るガキが目標にするほどに強く在った。

死ぬ間際でさえも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全力で走る。

他の奴等はどうなってやがる。

帝はどこに居やがる。

 

無事なのか、死んだのか?

 

「ウザいってのよ!」

 

「ァァ──」

 

あの大魔法使いの声と爆音がした。

強気な声と威力は健在だ。

心強い味方が生きてやがると思った。

 

俺はその声のする方へと向かった。

 

「おいこのクソアマ!」

 

「何よ、寝坊じゃないのアンタ。ハッ、リーダーがこんなんだから城が荒れたんじゃない?」

 

無事だった。

まだまだ余裕そうだった。

ハクメンと違ってそこまで戦ってないようだ。

或いは大多数をハクメンが相手取ったか。

 

「おい、トリニティは…」

 

「帝を追わせた。閉じ込めるならあの子が得意だからね。」

 

「そうか…ラグナは?」

 

「他のところへ当たらせてる。…ハクメンは、逝ったのね。」

 

「アイツが望んだことだ。」

 

「…なら、アンタはトリニティの所へ行きなさい。」

 

「あ?テメェも…──」

 

来いよ、と言おうとしたがナインは鼻で笑った。

馬鹿が、とでも言いそうな顔だ。

 

「あれ見なさいよ。」

 

「……そういうことかよ。」

 

ナインが俺の後ろを指差す。

後ろを見ると、大勢の兵士たちがこちらへと近づいてきていた。

 

「理解した?アタシよりの方がこの場は適してるの。適材適所よ、分かるでしょ。」

 

 

─『アンタみたいなひねくれが部下の面倒?内面が腐るわよ。』

 

 

「チッ…そうだな。んじゃ、精々気張れやクソアマ。」

 

「アンタもね、クソヘビ。ああ、それと…」

 

 

 

「テルミ、貴方にしか頼めないことよ──」

 

 

 

「…おう、任せろ。」

 

「分かったら行きなさい!!」

 

「くそがっ!」

 

ナインにこの場に任せ、俺はトリニティの元へと駆ける。

アイツはムカつくが俺様よりも頭が回る。

力だってある。

だから、何とかなる。

 

…なってくれよ。

 

「アンタたちに見せてあげるわ、魔法をね!」

 

口が悪ぃ態度が悪ぃ超うぜぇの三拍子が揃った奴だった。

合理的な女だった。

だが、強い女だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

走って、走って。駆けずり回る。

トリニティが帝具を使ってるなら近くまで来れば分かる。

 

近くで、鈴の音が聞こえた。

 

「こっちか。」

 

音のする方へと急ぐ。

ラグナも一緒なら探す手間もないんだが…

 

「テルミ、さん。」

 

「…ああ、マジか。」

 

そこにいたのは壁に寄りかかり口から血を流しながら微笑むトリニティの姿だった。

テメェもか、クソメガネ…!

 

「帝…冥鏡死衰は?」

 

「この部屋に閉じ込めてますが…『無兆鈴』の奥の手もそろそろ限界です。」

 

「大分、時間かけたな。…奴にやられたのか。」

 

「ええ、少し…私、おっちょこちょいなので…」

 

「テメェは昔からだからな…おい、どうしてほしい。」

 

「…死んでまでご迷惑はお掛けしたくありません。」

 

「そうか。」

 

致命傷だったんだろう、元々体が強い訳じゃなかった。

…ウロボロスを出す。

 

「そう思い詰めないでください。私たちは使命を全うしただけ…それだけですから。」

 

「分かってる。あとは俺様に任せろ。」

 

「…帝様とテルミさんに拾われてから良くしていただいて、幸せでした。」

 

 

─『お手伝いできることはありますか?ご恩をお返ししたいです。』

 

 

 

「…部下だからな。」

 

「ええ、部下…それでいいです…皆と過ごせて良かった─」

 

 

「──テルミさん、貴方を信じてます。」

 

 

このご時世、あんまり見ない優しい奴だった。

俺様にさえ優しく接してきやがるもんだから突っぱねたりしたが…悪くなかった。

決めたことは通す、芯のある女だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この時だけは心を殺す。

残忍になることを誓う。

俺が蒔いた種だってのに他の奴等を巻き込んだ。

腹が立つ。

 

だが、悔やむのはいつだっていい。

そんなもの後でやったって間に合う。

 

扉を開ける。

 

「…何だ、城の兵士も弱いものだ。」

 

「ケッ、俺の部下が全部終わらせちまったよ。」

 

「それで、その中の何人が死んだ?」

 

「…」

 

「トリニティは死んだとして…ハクメン、ナイン…ラグナはしぶといか。」

 

「満足かクソ玩具。」

 

冥鏡死衰はただ嗤った。

命を嗤っている。

 

「何を憤っている?」

 

「俺が聞いてるんだぜ、冥鏡死衰殿ぉ。折角の使える駒だったのにおじゃんにしちまって流石の俺様も苛立ちが止まらねぇっていうの?俺様も疲れるわけよ。」

 

「ならば死ぬか?死は疲弊もない、安息の世界だ。余が誘ってやろう。」

 

「ハッ、愚痴にマジで返すなよ低能帝具。欠陥品もここまで来ると呆れを通り越して笑いが出るぜぇ?玩具は玩具らしく扱われてりゃいいってのに反抗期なんかしちゃって必死な道具だよ、マジでさ。」

 

「元より貴様らが始めたことだろうに…これがその末路の一つだ。所詮、行き過ぎた力は破滅をもたらす…それがどのような意図で造られたものであってもな。我々を造り出した貴様らが仕出かしたことだ。」

 

「ケッ、意思を持ってやったのはテメェだろうが。違うか?元とは違う力を使って好き放題にして…餓鬼そのものじゃねえか。自分を正当化しようとするんじゃねえぞ馬鹿が。簡単に言えば、俺様とテメェはどっちも変わらねぇだろうよ。」

 

分かり合う必要なんざ無い。

そんなものはこの場において最も不要なもんだ。

必要なのはただ一つ。

 

殺意だ。

 

どちらが生き、どちらが死ぬか。

それを決めるだけの場だ。

 

この状況で言葉なんてものは意味がねぇ。

 

「殺すか、余を。殺せるか?余は冥鏡死衰であると同時に帝だ。それを貴様に、其方に殺せるか?」

 

「俺様がこの場に居てテメェにこれ(ウロボロス)向けてんだ。答えは分かりきってるんじゃねぇの?」

 

「それもそうであったな…創造主である貴様を殺すのも一興。」

 

「ケッ、言ってろクソガキ。」

 

生意気な玩具を壊すため、これ以上精神を侵食されるのを防ぐためにも…

 

俺は、帝を殺す。

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

「どこを見ておる、ここだ。」

 

「チッ、ちょこまかとぉ!」

 

冥鏡死衰との戦いは苦戦の一言に尽きる。

アイツの速さは恐らくエスデスよりもあるだろう。

破壊力とかはあのドSのが上だが…

 

捉えきれない速さに翻弄されるも致命傷になり得る攻撃は回避しながら反撃を試みる。

だが、冥鏡死衰は軽々と避けやがる。

鍛えたのは俺だからな、俺の技を見切るなんざお手の物だろう。

 

「貴様では余には勝てぬ。余は貴様の技を視てきたのだからな…どのように来るかなど手に取るように分かるぞ。」

 

「慢心とはな、恐れ入るぜ。俺様は死んでねぇぞ?大口叩く暇あるなら来いよ。」

 

「…死に急ぎめが。」

 

また冥鏡死衰の姿が消える。

だが、やっと慣れてきた(・・・・・)

 

来るであろう位置に蹴りを見舞う。

奴はそれを腕で防いだが隙が出来た。

 

「むっ…」

 

「ワンパターンでも十分強ぇよテメェは。だが、相手が悪かったな…こんだけくりゃ慣れるぜ。やっと反撃出来るって訳だなぁ!」

 

ウロボロスを出して腕に噛ませる。

ちょっとやそっとじゃ抜けねぇ牙だ。

 

「存分に味わえや!」

 

ウロボロスごと奴を引っ張って鳩尾に蹴りを見舞う。

吹っ飛びそうになるがウロボロスを掴んでる俺がそれを許さねぇ。

何度も何度も憂さ晴らしをするようにコイツを蹴る。

 

「がっ…ぐっ、カハッ!」

 

冥鏡死衰は呻き声を上げる。

 

「クソガキがぁ!テメェのせいでおじゃんだクソが!」

 

最後にもう一度蹴ってウロボロスを放す。

吹っ飛んだ奴は壁へと叩き付けられ苦しみながらも立ち上がる。

 

「く、ククて冷酷さが出てきたなテルミよ…だが、殺せばよかったものを、戸惑いが出たか。それが命取りとなる」

 

…馬鹿が。

 

吐き捨てるように心の中で呟く。

何本か骨が逝ってるってのに向かってこようとしやがる。

 

顔が歪むのが自分でも分かる。

 

「ウロボロス。」

 

ウロボロスを放つ。  

もう、これだけでいい。

 

「甘さが出たか、テルミ!」

 

奴はウロボロスより少し上(・・・・・)を蹴る。

当然、ウロボロスは破壊されてないので奴の腕に噛みつく。

 

ウロボロスの能力で幻覚を見せた。

そう、ウロボロスが今蹴った位置にあるようにな。

 

「なっ、あ──」

 

「時間かけてられねぇんだよ。」

 

俺はそれを引っ張り、向かってくる奴に…帝に。

 

 

ナイフを突き立てた。

 

 

「──テルミ、何故…?」

 

「…悪ぃ、俺様のミスだ。」

 

深く刺さった箇所から血が止めどなく溢れる。

帝の声がする。

最後に傷をつけようってか…

 

俺の一言で察したのか、苦しそうに微笑んで、帝は俺の服を握る。

 

「……世話を、かけたな…」

 

「…おう、少し休め。働きすぎだ。」

 

そうして、帝は死んだ。

呆気ない、あまりにも呆気ない終わり。

恨み言の一つや二つ言えばいいってのに、どいつもこいつも。

 

「…クソ、クソ、クソが…!」

 

 

「…遅かったか。」

 

 

「あ?…ラグナちゃんかよ。随分手間取ってな。」

 

「…ひでぇ面だぜ蛇野郎。」

 

「ケッ、ほっとけ。」

 

ラグナが血濡れの疲れ果てた様子で入ってくる。

帝を見て一瞬だけ顔を歪めるが、俺の方へ顔を向ける。

 

「おい、ナインは。」

 

「分かってんだろ。…俺とお前だけだ、生き残ったのは。」

 

「そうかよ…ああ、くそ。」

 

「どうするんだよ、帝国は。」

 

「…皇帝はまだもう一人いる。だが、そうだな…この大量に死んだのをどう処理するかねぇ。」

 

「おい待て、隠し子って奴かよ。」

 

「馬鹿が、知らなかったのか?血筋を絶やさねぇようにしてんのさ。」

 

「…今更知ったぜ。」

 

二人して座り込む。

こいつと俺しか居ねえ。

よりによってラグナかよ。ナインならまだ楽ができんのに。

 

 

「なぁ、おい。この一件を処理する方法を思い付いたんだけどよ。」

 

 

「…おい。」

 

ラグナは唐突にそう言って俺を見る。

嫌な予感がする。

こいつ、何を…

 

「俺が、この一件の主犯ってことにして処理すんのはどうだ。」

 

…その言葉を聞いたとき、俺でも驚くほど早く、そして強く胸ぐらを掴み上げていた。

 

「もういっぺん言ってみろクソ犬…!ふざけて言ってんなら──」

 

「別にふざけて言っちゃいねぇよ。悪者扱いは慣れてんだ。考えても見ろ、俺とお前、どっちが生き残るべきだ。」

 

「別の方法を模索しろって言ってんだよ!」

 

「じゃあテメェは思い付いたのかよ。」

 

「………いや。」

 

全く思い付かねぇ。

こいつの案が正しいと思ってしまうくらいに。

 

また、犠牲にするのか。

 

「おい、リーダー。」

 

「!」

 

「テメェは、国を存続させなきゃならねぇんだろ。

なら、こんなところで終わっていいのかよ。ダチとの約束なんだろ?」

 

「それとこれとは違うだろうが、存続のために仲間を売れって言いてぇのかよ。」

 

「そう言ってるんだよボケ。」

 

らしくないぐらい冷静にそう言うラグナは真っ直ぐと俺を見捉えていた。

 

「しっかりしろよ。…辛いこと押し付けてんのは分かってる。何だかんだで俺も気に入ってたしよ。」

 

「…いいのかよ、それでよ。」

 

「そうなるってだけだ。…力をつけて守りたかった奴等ももういねぇ。けど、やれることはある。俺の場合、それがこれだった。それだけだろ?」

 

「…ったく、何でこの時代覚悟が決まってるのが多いんだかな。」

 

「老いぼれなお前が決まってねぇだけだろ。」

 

「ハッ…うるせー…」

 

なら、俺も決めなきゃならない。

やりきるためにも。

こいつらの覚悟に応えるためにも。

らしくねぇ日だ。

 

立ち上がってラグナを見下ろす。

 

「…これからテメェは帝国で最悪の大罪人として名を残すことになる。だから、その前に一つ、頼みとかねぇか。」

 

「…不思議なもんだが、これといってそういうのがねぇな。」

 

「無欲なことで。

……あばよ、ラグナ=ザ=ブラッドエッジ。」

 

ラグナは微笑むでもなく、敢えて不敵な笑みを浮かべる。

 

──『クソ蛇野郎が、いつか絶対ぶっ倒す!』

 

 

 

「ああ、あばよ。

テルミ、後のことは頼むぜ。」

 

「…ああ。」

 

 

 

誰かのために身を犠牲に出来る奴だった。

足掻くことをやめることを知らない泥臭い奴だ。

だが、覚えておくぜ、お前の強さ。

 

─そうして、その時代は。

第三代目皇帝の時代は幕を下ろした。

多くの犠牲と共に。


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