テルミが壊す!   作:ロザミア

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詰めの準備

朝を飛ばして昼。

さて、どうしたもんかね。

 

このまま、じわじわと内側から攻めるのは簡単だ。

だが、嫌な予感がする。

このままだと色々と取りこぼす…そんな予感が。

 

勝手に動いたらガキ一名がうるせぇし、大将軍との演技が面倒になる。

 

ここは相談するべきか…

 

結局寝るの忘れてたな。

馬鹿か?満足な睡眠取らないで頭が働くかっての。

 

イライラとしていると、ノックする音が響く。

 

この時間だと2択だが。

一応、猫被っておくか。

 

「どうぞ。」

 

「失礼する。テルミ、調子はどうだ?」

 

「んだよ、レリウスかよ…別にどうってことねぇ。前に診せたろうが。」

 

「武神になった後の損傷は凄まじかった。それこそ、アーキタイプそのものを内外関係無く壊していくほどにはな。」

 

「強すぎる力の代償って奴だよ。そんくらい覚悟してらァ。」

 

「私が言いたいのはそうではない。」

 

「じゃあなんだよ。」

 

レリウスは俺の近くまで来てからアーキタイプを観察する。

少ししてから、ふむと納得してソファに座る。

 

「今回は、内側か。」

 

「まあ、どこがぶっ壊れてくかなんざ俺様にも分からねぇからな。」

 

 

「─味覚か?」

 

 

「…そうだ。ま、味覚で良かったぜ。視覚や聴覚、嗅覚だったら笑えなかったからなぁ。」

 

好物が美味く感じねぇのはイラつくが、これくらいなら許容範囲だ。

たかだか味覚だ。

問題ねぇ、問題はねぇが…

 

…次はどこだろうな。

 

「で、ざっと見てどうなんだよレリウス先生。」

 

「…三、四回が限度だろう。それ以上は貴様の魂が砕ける。」

 

「んだよ、なら五回じゃねぇか。」

 

「…私との契約を忘れたのか?」

 

「嘘だっての!人形(イグニス)出すんじゃねぇよビビんだろ!」

 

「…ならばいいのだが。それより、これからどうするつもりだ?」

 

「そこなんだよなぁ…ワイルドハントは四人殺して後二人だろ?

内一人は刀が恋人の変態性癖野郎だ。大した脅威には…」

 

そこまで考えて、気を抜きすぎていることに気付く。

 

待てよ、アイツの帝具はシャンバラだ。

場所を設定してそこへ転移が出来る。

ランダムに飛ばすのも出来るが…

設定場所にあの男が構えていれば対応不可の即死攻撃になる。

 

見たところ、あの刀の切れ味は本物だ。

 

「なるほど、やっぱあの二人も始末するべきだな。無駄な消費が出る前に、さっさとな…」

 

「ならばどうする?」

 

「様子見だ。昨日の時点で一人殺ったからな…軽率な行動は控えるべきだ。」

 

「ドロテアか。」

 

「ああ、何だ?話したかったか?」

 

「いや…彼女は大きな見落としを二つほどしていたのでな。

生きていれば助言の一つや二つしたが、死んでいるのなら何も言うことはない。しかし、些か肝を冷やしたぞ。

城から離れた森で死体で見つかったと聞いた時はな…」

 

「まだバレねぇ範囲さ。ギリギリだが…あの豚はそこを怪しむ。

それでしばらくの時間稼ぎは出来る。」

 

「ナイトレイドに擦り付けるか。貴様も大概だな、テルミ。」

 

「そういうもんだろ。バレなきゃ犯罪にならねぇんだぜぇ?」

 

くつくつと笑う。

 

だが、それまでシュラとイゾウを野放しにするのは危険だ。

他の連中を早く潰して正解だったか…俺様の勘も捨てたもんじゃねぇと言いたいところだが、妙だ。

 

「ワイルドハントはどうしてる?」

 

「コソコソと動いているようだ、女漁りもせずにな。貴様はどう見る?」

 

「…」

 

この仮面野郎、毎度思うが分かってて俺に意見聞いてやがるな?

ったくよぉ…助かってるのは事実だから何も言わねぇが俺の部下だったらタマ潰す自信があるわ。

 

…シュラの帝具はシャンバラ。

 

転移先は間違いなくこの城の何処かに設定するだろう。

ブドーもいるからな、戦力的な安心感が違う。

だとすれば…

 

「ナイトレイドを探してんのか。」

 

「懲りもせずか。」

 

「…面倒だが、少し出向くか。エンブリオの仕事は?」

 

「今はない。見回りでもしていれば咎められる心配はあるまい。」

 

「なら…─行きますかねぇ。」

 

ハザマに切り替える(顔を被る)

警戒されるかも知れねぇが、危険承知で突っ込まなきゃいけねぇラインだ。

 

どの辺で、あの大将軍を動かすかだな。

アイツにも働いてもらってるが、脳筋らしい働きをさせてねぇからなぁ。

 

「私も同行しよう。」

 

「マジかよ?」

 

「何だ、おかしいか?」

 

「…いや、別に。」

 

無駄に警戒されそうだが、まあいいだろう。

思わず蹴りたくなった時のストッパーになってもらうか。

まあ、そんなヘマしねぇけどよ。

 

そういえば。

ふと気になった事が一つある。

 

「テメェはこれが終わったらどうすんだ?」

 

「私のやることはこれまで通り変わらんよ。魂を研究し、その真理を識る。」

 

「あー…だよな、テメェはそういう奴だよな。」

 

「今更な質問だっただろう?では、行くとしよう。」

 

「ああ、そうだな…」

 

二人で外に出る。

何やかんやでこいつも信用できる存在だ。

ボロボロのアーキタイプを動けるようにしてくれてるしな。

 

国の平和に一役買ってもらうかとも思ったが…やめておく。

こいつにはこいつの自由がある。

 

何にせよ、俺は自由を縛る気はねぇ。

俺様が自由なんだ、他も自由でいいだろう。

 

だが、その自由には責任を持たなきゃならねぇ。

他人の領域に土足で入り込むのも自由だ。

だから、その怒りをぶつけられるのは…そいつの自由の対価だ。

 

報いってもんじゃない。

報いを受けるべきは他人に土足で何度も踏み込む俺様だ。

 

だから、俺様がすることは…俺様の自由だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、テル…ん"ん"、ハザマさんとレリウスさん!」

 

「げっ…」

 

「げっ、て失礼じゃないですかね、クロメさん。」

 

「我々はそちらに何かした覚えはないが?」

 

「いや、だって胡散臭いし…」

 

よくお分かりで。

何やかんやで運がいいクロメとセリューに会う。

ていうか、見回り飽きねぇなこいつ…

 

「珍しいですね、クロメさん。ウェイブさんは?」

 

「ウェイブにしては珍しく風邪引いた。」

 

「馬鹿って風邪引かないんじゃ?」

 

「セリューさん、風邪引かないんじゃなくて風邪引いたのに気付かないんですよ。」

 

「しかし…四人か。大所帯だな。」

 

「あ、そうですよ、二人して何してたんです?」

 

「んー…お二人になら、お話ししてもいいですかね。

大臣のご子息、シュラさんを探してましてね?」

 

「会って、どうするの?」

 

「いえ、物騒なことは何も…ただ、大臣のご子息ですし、媚びへつらうのもありかなーって思いましてね?」

 

「えー…」

 

「えーって…何故そんな嘘つき見るみたいな目をするんですかクロメさん。」

 

クロメは嘘だろお前みたいなじと目で俺を見てくる。

嘘に決まってるけどあんまそういう目をすんじゃねぇ蹴りたくなる。蹴らねぇけどやめろ。

 

「それで、どうなんです?」

 

「…多分、大通りとかにいますよ。」

 

「そうですか、では、向かいますかレリウスさん。」

 

「そうだな、迅速な行動が必要だ。」

 

さっさと行かねぇとな、時間がもったいねぇ。

俺とレリウスは足早にその場を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ちょっと二人とも~!…行っちゃった。」

 

テルミさんがレリウスさんとさっさと行ってしまった。

またクロメさんと二人になったけど…うーん、苦手なんですよね。

どこか危うさがあるというか。

 

昔の自分見てる気分ってやつですかね。

ポリポリとクッキー(薬物)を食べるクロメさんは今食べてるのを飲み込むと話し掛けてくる。

 

「セリューは行かないの?」

 

「面倒事の予感がします、行きたくないです。」

 

「ふぅん…前はよく一緒だったのにね。」

 

何となく、世間話の中で隙を窺うかのよう。

チラリとクロメさんを見ればこちらをジッと見てる。

 

人の顔をよく見て話す。

いい子ですね。

 

「上司でしたからね。」

 

「ねぇ、セリュー。」

 

「何ですか?」

 

 

 

 

「─今、どれくらい視えてる?」

 

でも、そこまで知られるのは悪い子ですよ、クロメさん。

 

「ばっちり視えてますよ、急になんですか?」

 

「ううん、何だかぼんやりと物を見てるように感じて、何となく。何でもないならいいよ。」

 

「疲れてるんですかね、無意識の疲れとかいう。」

 

「最近、ワイルドハントやらイェーガーズの仕事やらで忙しいからね。」

 

「ホント、疲れちゃいますよね~」

 

…これは駄目だ、バレてる。

イザヨイの力の代償…といえばいいのか。

 

テルミさんも言っていた。

 

『イザヨイは強力な帝具だ。だが、それの力を解放するとお前は善悪を見極める目を失っていく。イザヨイを使ってる間はその視力は戻るが…さて、戦いが終わったらどうなってやがるかな?ま、定期的に視力検査をしておくんだな。』

 

視力の低下。

呪いと言うべきか…少しボンヤリと物が見える位にまで下がっていた。

イザヨイの力を使うと不思議と戻るのに、使った後は更に下がる。

 

…きっと、近い内にこの目で何も見えなくなる。

 

でも、構わない。

目が見えなくなるだけで力になれるなら、喜んで差し出そう。

 

 

…それはさておき、クロメさんと行動するのはなぁ…。

まあ、色々と困るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、俺に何の用だよ、エンブリオのお二人さん。」

 

「いやぁ、そう警戒されると傷ついちゃいますよぉ?シュラさん。我々は別とはいえ帝国を守護する組織、謂わば仲間でしょう?ここは仲良くお話でもしませんか?」

 

シュラを発見した俺たちは飄々とした態度で接する。

面倒なものを見つけたような態度を隠そうとせずに俺たちに接してくるが、大臣を盾にマウントを取るようなことをしないのを見るに…恐らく、大臣から言われたか。

 

「話なんざ時間の無駄だろうが。俺は忙しいんだよ、見て分からねぇのか?」

 

「おや、ただ気晴らしとして散歩してるようにしか見えませんでした。御忙しいとは申し訳ありません!とても暇そうにしか見えませんでした。」

 

「ハザマ、煽ってどうする。」

 

「おっと、すいません。」

 

「…いや、いい。話だな、どうせ大通りじゃ話せないことだろ?」

 

「察しが良いようで。ええ、何処か適当な店に行きましょう。」

 

「ああ。」

 

苛立ってるのを抑え込んでるなぁ。

ま、爆発してくれても構わねぇけどよ。

 

三人でそこら辺の店に入る。

 

奥の方の席へ座り、適当に茶でも頼んでおく。

飯の気分じゃねぇし。

 

「それで、話ってなんだ。」

 

「親睦を深めたいというのとご忠告ですかね。」

 

「ああ?忠告だぁ?」

 

「ええ…──次は貴方かもしれませんよという忠告を、ね。」

 

「…俺がナイトレイドに殺されるって言いてぇのか?」

 

負ける筈がないという苛立ちに近い感情を感じる。

俺はシュラに目を少し開いてジッと見る。

 

「貴方は負けないと?そういう考えはオススメしませんよ。

誰だって負けるときは負ける。死ぬときは死ぬ…それが世界ですよ。それは貴方も例外ではない。」

 

「…付き合ってられねぇな。」

 

シュラは立ち上がり、店を出ようとする。

だが、そうは問屋が卸さねぇ。

 

「…ワイルドハントも所詮はこんなものですよねぇ。」

 

「……なんだと?」

 

「出来たばかりの寄せ集め集団ですし、メンバーがすぐに死んでしまうのも当たり前ですよね。我々エンブリオとライバルであるイェーガーズの足元にも及ばない。すぐ考えれば分かることでしたね…時間が無駄になりました、帰りますよレリウスさん。」

 

「ああ。茶の代金はちゃんと払うことだ。」

 

「ちゃんと払いますよ失敬な!」

 

シュラの反応を無視して店員に金を払う。

 

「おい、待て。」

 

「帰ってなかったんですか?あ、ひょっとして聞こえちゃいましたか?」

 

「あまり、ふざけた事抜かすんじゃねぇぞ。俺がナイトレイド風情に負けるわけ無いだろうが!」

 

「では、ワイルドハントのメンバーはどうして四人も死んでるんですかね。負けるわけないと抜かす貴方でなくとも、その貴方の部下ならば善戦くらい出来ませんと…お話になりませんよ。」

 

「…なら、やってやろうじゃねぇか。ナイトレイドを始末すりゃいいんだろ!ああ、やってやるよ!」

 

「是非、そうしてください。」

 

俺がにんまりとした笑みで言うと舌打ちをして店を出ていく。

 

…これで、変な目は向かねぇな。

あの男は好奇心ってのを隠さねぇ。

俺がどんな奴かを探ろうとする動きをセリューやランから聞いている。

 

大方、エンブリオの全員が対象なんだろうが、こそこそとされんのはムカつく。

 

「親睦も何もあったものではなかったな。」

 

「いやはや、あそこまで煽り耐性が無いと気分がノッちゃいますよ。それにしても…困りましたねぇ。こうなると、他の市民への被害が恐ろしいものです。」

 

「それで、あれで良かったのか?」

 

「…ええ、いいんですよあれで。その方が、都合がいい。」

 

 

 

 

「勝手に潰しあってくださるのならね…楽に越したことはないでしょう?」

 

せいぜい、無様に潰されてくれやワイルドハント。

 

俺様はメンバー二人がどう足掻くのかを見させてもらうからよ。

邪魔をしながら、なぁ。

 

「さて、後はあの人をどこで動かすかですね。」

 

「チェスをやってる気分になるな、貴様といると。」

 

「間違っていませんよ。これはチェスですからね。」

 

俺を含めた皇帝の駒と、大臣の駒によるチェスだ。

 

まあ、そろそろ大詰めだろう。

問題は、何処で民衆に皇帝を認めさせるか…

 

そこは追々皇帝と話し合おう。

 

俺様が最も警戒してるのはそこじゃねぇ。

 

ワイルドハントは最後の舞台にゃ上がってこねぇ。

イェーガーズはエスデスを除いて何処かで崩す。

ナイトレイドには汚れ役で居て貰う。

 

大臣を潰す手筈は整ってる。

違う、そこじゃねぇんだ。

 

「最後の壁は、自分の属する組織とは…また皮肉の効いている。」

 

エンブリオ…冥王と狂犬。

この二人が未知数過ぎる。

実力を殆ど出さない上、滅多に動かない。

 

そこだけが…───

 

 

 

 

──記録用のレポートを取り出す。

 

「…あった、チェックメイトの為の駒がよ。」

 

そうだ、テメェがいたな。

ああ、テメェならこの二人を穿つための銃弾になれる。

 

だが、まだ最高の銃弾になれてねぇ。

 

だからこそ、ワイルドハントを使おう。

そこで、仕上げる。

 

武神だけじゃ、まだ不安要素が多い。

シコウテイザーを使うのは、最後の最後。

 

「行くぞ、レリウス。」

 

「方針は決まったようだな。」

 

「ああ…」

 

口角を上げる。

不敵に笑え、この世の嘘を壊すためにな。

 

「嘘つきの時間だ、ククク…!」


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