ルクリリといっしょ!   作:底抜け三角錐

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更新頻度ですが、このくらいのペースで投稿出来たらなと思っています。

拙い文章ですが、お楽しみいただけたら幸いです。


図書館でいっしょ

学園内にある、この建物の大きな窓ガラスは、

美しく遠くまで広がる水平線に昼の王者である太陽が沈んでいく様子を映している。

この時間はほとんどの生徒が寮に帰っているか、食堂で食事にしている時間帯ということもあり「カチカチ」と時計の鳴る音だけが響いている。

ただ薄明るい蛍光ランプに照らされながら床に立って列をなしている本棚の群れは、

どこか寂しそうに影を作っていた。

昼間は列のできる古いパソコンも、画面は真っ暗になって一時の休息をとっているようだ。

 

 

 

手早く要件を済ませてしまおう、と私はいくつかの資料を探すために目当ての本棚へと足を運ぶ。

幸いにも私の望んでいたものは簡単に見つけ出すことが出来た。

 

私が回れ右をして、この部屋の一角にあるコピー機へと向かう途中に「コロコロ」とペンの落ちる音が聞こえた。

 

 

 

 

こんな時間に珍しい、と思いそちらのほうに目をやると、

窓辺の席で夕日を浴びながら営々と勉強に励むルクリリの姿が見えた。

 

 

 

邪魔してはいけないな、とコピー機の電源を入れ手早く資料をセットしボタンを押す。

すると、目の前の機械の大きな音がこの空間の静寂を破った。

 

 

その機械音に気がついたのであろう、窓辺で一人勉強をしていたルクリリがこちらに振り返る。

そして私の存在に気がつくと、いつものようにニカッと笑顔をつくってみせた。

 

 

見返り美人とはよく言ったもので、夕陽が照らす彼女の美しさに撃たれ、思わず胸がしびれた。

 

 

 

 

「お仕事ですか?」彼女は遠くからそう問いかけてきたので、

「そんなかんじ、お気になさらず」と返す。

 

私はコピー機が作業を終えるまで、近くにある椅子に腰を下ろして待つことにした。

 

 

 

 

すると、それを見た彼女がチョイチョイと手招きをしながら言った。

「どうせなら、こっちで待ちましょうよ」

 

 

確かにそれもいい。

しかしせっかく生徒がひとりせっせと勉強しているところに水を差すわけにはいかない。

「いや、邪魔するのは悪いから遠慮しておくよ」と手を横に振った。

 

 

すると彼女は、

 

「じゃあこうしましょう、わからない所があるので教えてください」

 

こうすれば断れまいと彼女はいたずらっぽい笑みを浮かべる。

 

 

私は観念して、腰を上げてルクリリのいる窓辺の机に足を運ぶ。

しかし邪魔はするまいと、彼女とは少し離れた席に座ろうとする。

 

するとルクリリが「先生」と声をかけてくる。

 

なんだろうと顔をあげると、また先ほどのように手招きをして「お隣にどうぞ」とはにかんだ。

 

 

 

私は再度諦めて彼女の隣に座る。

彼女のノートはすこし乱雑ではあるが、びっしりと計算式などが詰まっている。

机の端には問題集や教科書などが積み上げられており、そこから顔をだす沢山の付箋が彼女が努力家だということを表している。

 

「遅くまでご苦労様です、偉いな」

頭で考える前に、口からねぎらいの言葉がでた。

 

 

「こうでもしないと、追いつけませんので」と彼女は照れくさそうに頬をかく。

 

戦車道履修者は勉強時間があまり確保できず苦労する者が多いと聞いたが、こうしてしっかりと学生としての義務を果たす彼女を見て私は率直に感動した。

 

 

 

少しでも勉強の邪魔をしないようにと、

私は鞄から課題で提出された生徒のレポートを取り出して目を通す。

ルクリリも私が作業を始めたのを察して、止まっていた手を再び動かし始めた。

 

 

暫くの間、コピー機のなる音とサラサラとペンの走る音だけが図書館に響く。

 

 

 

 

いくらか時計の針が進んだころ、ルクリリが口を開いた。

「先生、ここ」私がルクリリのほうに目をやると、彼女は問題集のある問題を指さしていた。

 

わからないから教えろ、ということなのであろう。

しかしその教科は私の専門外とする英語であった、少し考えてみるも全くわからないので、

 

「先生もわかんない」

とグーサインを突き出した。

 

 

彼女はそれを見て笑み交じりの呆れた顔をする。

「役立たずですね」と彼女はため息を漏らす。

 

 

「担当外だから仕方がない」私はそれを追うように言い訳をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

ひとしきりの静寂が流れては、またルクリリが質問をして、私が答えたり答えなかったり。

お互い手が止まると、僅かの間だけ談笑を楽しんだり。

そのやりとりを何回か繰り返すと、窓の外の太陽はもうすっかり沈んでいた。

そして周囲の音に耳を傾ければ、いつの間にかコピー機の音は鳴りやんでいるようであった。

 

私はレポートを鞄にしまうと席を立ち、コピー機のほうへ向かった。

 

 

 

 

 

 

後ろから「もう帰っちゃうんですか?」と声がかかる。

 

 

私は歩きながら振り返ると、ルクリリもまた振り返ってこちらを見つめている。

 

月明かりとテーブルランプに照らされるその顔は心なしか、名残惜しそうでもあった。

 

私はコピー機から産出されたプリントをとったら帰ろうかと考えていたのだが、

 

その顔を見て思わず「まだここに居ようかな」と返事をした。

 

 

 

 

 

少し暖かい紙の束を鞄にしまうと、

私は資料を本棚に戻すついでに適当な本を手にとり席へと戻る。

そしてまたルクリリの隣に座ると、彼女もまた手を動かし始めた。

 

 

 

そしてこれまた幾ばくかの静寂が流れると、隣から

 

 

 

きゅ~~

 

 

 

と可愛らしい腹の虫がなった音がした。

彼女のほうを見ると、すこし赤く染まった顔を紙で隠して肩を丸めていた。

私は思わず「ふっ」と笑い声をこぼすと、わき腹を思い切りつつかれた。

 

 

 

それなりに痛い。

 

 

 

 

私もつられてお腹が空いてくる、そういえばこの間のモツ煮は美味しかった。

そして、まだ今日の夕飯の献立を決めていない事に気がつく。

 

 

 

「そうだ」とまたある考えが浮かぶ。

 

 

 

「ルクリリ、今何が食べたい?」私は先日と似たような質問を彼女に投げかける。

ルクリリは、ピタリと手を止めて顔をあげた。

そして、またかという顔をしつつも口にペンをあてて返事を考え始めた。

 

 

 

 

そうとう長い間考え込んだ末、彼女の出した回答は

「カレイの煮つけ」であった。

彼女のほうを見ると、なにやらまた満足げな顔をしていた。

 

 

なるほど、カレイね。

 

「採用です」と、私はうなずいてみせた。

彼女とは食の趣味が合いそうである。

 

 

「ではルクリリは今日もイギリス料理を楽しんでください」

と私が嫌味っぽく満面の笑みでかえすと彼女は頬を膨らませ

 

「いーなー、私もたべたいなー」とジタバタと騒いでいる。

私はそれを適当にいなして本に目を移す。

 

 

幸せな時間だ…なんともいえないがそう感じた。

 

 

 

 

 

 

きゅ~~

 

 

 

 

 

 

 

再び可愛らしい音がしたので音の出所を確認すると、ルクリリがお腹を隠すように机に突っ伏していた。ちらりと髪の隙間から見えた耳はすこし赤みがかっている。

 

 

「図書館ではお静かに」と私が満面の笑みで言うと、

前回の倍くらいの力でわき腹を肘で殴られた。

あまりの衝撃に「うぉっ」と声をあげて私が机に突っ伏してわき腹を抱えると、

それを見たルクリリがパンパンと机を叩きながら笑い声をあげる。

 

 

私もなんだか可笑しくなってきたのでそれに同調するように笑声をもらした。

静寂だった図書館が一気に騒がしいものとなると、

突然後ろからコツコツと強く床を蹴る音が聞こえる。

 

 

 

我々のほかに誰かいたのか。

 

 

 

2人してそちらのほうを振り返ると、本棚の裏から黒いリボンが特徴的な生徒が出てきた。

どうやら我々からは見えないスペースで読書をしていたらしい。

 

 

それを見たルクリリは「アッサム様?!」と声をあげて椅子から立ち上がりペコりとおじぎする。

私もつられて席から立ち上がると彼女は口の前に指を立て、

 

 

「図書館ではお静かに…それとごちそうさま」

 

と口にした後、すたすたと出口の方へと歩いていった。

 

 

 

 

あたりに何ともいいえぬ空気が流れる。

 

 

 

「気がつかなかった…邪魔しちゃったか」この空気を破るため私は声に出す。

 

「そうですね、これは明日戦車道でシゴかれます」彼女はうつむくとため息をついた。

 

 

 

ぐるるるるる

 

 

 

今度は私の腹の虫がまた沈黙をやぶる。

 

 

それを聞いた彼女が仕返しと言わんばかりに隣で大きく声をあげて笑った。

そしてひとしきり笑った後、

 

「カレイもいいですけど、せっかくなので一緒に食堂で食べていきませんか?」

彼女は私にこう提案した。

 

 

 

なるほど魅力的な提案だ。

例え食べる料理がイギリス料理しかなくても、

ルクリリがいれば楽しい食事になることは間違いない。

 

 

私はすぐにそれを了承すると、手にしていた本を棚へと戻しに行くことにした。

 

そして我々は一通り身の回りを片づけると、少し離れた食堂へと並んで歩いていくのであった。

 

 

 


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