絶対虚構少女 ダンガンロンパ舞園 ~亡き希望達の学園死活~   作:ゼロん

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できれば明日にも更新したい(希望)





第十四話 絶望直行エレベーター

 大げさで派手な起動音を立て、最上階に上がるための巨大エレベーターが開いていく。

 

 亡き信晶と田上を除いた八人に、今――最初の試練が襲いかかろうとしていた。

 

 ――始まってしまう。疑惑と不安に満ちた『学級裁判』が……

 

「……犠牲者なんて、もう出したくないのに」

 

 この裁判で少なくとも誰かが死ぬ。舞園の頭によぎるのは、それのみだった。

 

 舞園を理由なく信じ、明るくみんなを盛り上げて犠牲者を出すまいと抗った信晶。

 誰にも優しく、自分ではなく最後まで他人の身を案じた田上。

 

 彼らはもう――ここにはいない。

 

「私……どうしたら」

 

「舞園さん、もうボク達にできるのは……」

 

 目を瞑り、口を抑える舞園に暗い顔を浮かべた不二崎が気まずそうに話しかける。

 

「わかっては……いるんです」

 

 舞園は両手を握り、胸の近くに寄せる。

 

 もう舞園達にできるのは、クロを突き止めそれを裁判で証明すること。それができなければ、クロ以外の全員は殺されてしまう。

 

「それにしても……ちょっと違和感が……」

「どうかしました、不二崎くん?」

「……。大丈夫、多分……大したことじゃないと思うから」

 

 ――不二崎は何かに気づいたというのか。なにか……今回の事件の、とてつもない違和感に。

 

 舞園はゴウンゴウンと動くエレベーターの中でほかの六人の様子に目を向ける。

 

 セレスは退屈そうに髪の毛をいじり、

 大和田は顔を下に向け悔しがり、

 大神と悠太は不安げに身を寄せ合っている。

 

 そして……一番深刻なのは、今回のクロに親友を殺された、高里レミだった。

 

「…………」

「っ……!」

 

 壊れた笑みはとっくに止まったレミだが、それ以降彼女が話をするそぶりはない。

 

 全身を常時震わせながら、時々うわ言のように田上の名前を呼ぶだけで、それ以外はずっと虚ろな目で俯くだけだった。

 

「――さ、と」

「高里さん……しっか――」

 

 舞園は声をかけようとする自分の口を、言葉を出し切る直前に塞いだ。

 そんなこと、言えるはずがなかった。

 しっかりしてなどと。そんな言葉は……。

 

「でも……」

 

 それでも放ってはおけなかった。高里は今、ずっと一人で苦しんでいるのだ。

 かつてモノクマに脅され、孤独の殻に篭ってしまった自分の様に。

 

 舞園は少しでも彼女の体の震えを止めようと手を伸ばし――

 

「――触るな」

 

 高里にその腕を叩かれた。

 痛みは全くないものの、彼女の『拒絶』の意思は崩れかけの舞園の心に確かにヒビを入れた。

 

「……心配してくれてるのはわかってる。けど……『今のアタシに触らないで』」

 

 今の彼女の目に映るのは……この場にいる全員に対する純粋な敵意と復讐心のみだった。

 

「た、高里さん……」

 

 高里の他人に対する絶対不信の考えを唯一否定した友人も、その信じようとした仲間に殺されたのだから。

 

「消えて。もう――誰の顔も見たくない」

 

 もう彼女の頭に、『他人を信じる』などという言葉はどこにも存在しない。

 

 高里はエレベーターのさらに隅の方まで移動する。その場で膝を折り、これから起こる未知に怯え、うずくまるだけだ。

 

「舞園。今の高里に、何を言っても意味はない」

 

「和樹くん……」

 

 耐えきれず彼女のそばに寄ろうとした舞園の背後から男の腕が肩に伸びる。

 

「……でも」

 

「わかってる。オレだって、あんな状態の高里を見ていられない」

 

 しかし和樹は首を横に振る。

 

「けど……これは彼女の心の問題だ。彼女自身が、自分で答えを出して決着をつけなきゃならない」

 

「……」

 

 ――いつか自分に決着を。こたえ自分自身で。

 

 舞園はグッと腕に力を入れて、目を伏せる。

 

「和樹くんは……強いんですね。――信晶くんが、死んだっていうのに」

 

「……っ。わかってる。冷たい、よな」

 

 切なさがこもった和樹の声に反応し、舞園はハッとする。

 

「ご、ごめんなさい。……嫌味っぽく聞こえましたよね。そういうわけじゃないんです」

 

「地元の高校でも……『泣かない人』って、よく言われたよ。――泣きたくても、泣けないからさ」

 

『この髪も、な』と和樹は自分の白髪にそっと触れる。

 

「え……和樹くんの髪って。まさか」

 

 ――重度のストレスやショックを受けると、髪の色素が抜けてしまうという症状を耳にしたことがある。

 

 それが本当だとしたら……和樹が忘れたという過去の出来事は……かなり悲惨でどうしようもないものなのでは。

 

「もしかしたら、オレの失った記憶は……オレが忘れたんじゃなくて。『忘れたかった』モノ……なのかもしれないな」

 

 和樹は表情を消して、心配そうに顔を下に向ける。

 

 ――和樹くん……。

 

「……ごめんなさい。こんな時に……」

 

「いいんだ。泣けないって気がついた時は正直、驚いたけど、『その分、誰よりも冷静な判断ができるじゃないか』って、アイツが褒めてくれたからな。その時は……すごく嬉しかったっけ」

 

 和樹は懐かしそうに少しだけ笑った。

 

「……」

 

「あっ……オレもゴメンな、変な話始めちゃって。ちょっと、普段よりも落ち着きない、かもな」

 

「和樹くんは……冷たくなんか、ないですよ。友達を殺されて、目の前でその遺体を見たんです。それくらいあっても……不思議じゃありません」

 

 和樹は舞園の慰めの言葉を受け、表情が少し柔らかくなる。

 

「そっか……ありがと。ちょっと元気出た」

 

 和樹はパンと両手で頬を叩き、深呼吸をする。強く叩きすぎたのか若干頬が赤い。

 

「よし、裁判……気合い入れないとな。オレ達の命もかかっているんだ。『ここが正念場だぜ。張り切れ』って、アイツなら、そう言うだろうからな」

 

「……そうですね」

 

「あと……舞園。『イデは、最後まで舞園のことを信じてた』。……この言葉だけは、覚えていてくれ」

 

 モノクマ曰く、魂となっている自分たちがここで死に、消滅すれば、存在ごと現世から消えてしまうという。

 

 ――全ての生きる人に存在を忘れられる。

 

 いつかは自分たちもその影響を受けて、死んだ二人のことを忘れてしまうのだろうか?

 

 それでも――

 

「……はい、忘れません。――絶対に」

 

「……。あぁ、ありがとう」

 

 最後にニコッと笑って、和樹は舞園と話すのをやめた。彼も裁判に集中することにしたのだろう。

 

「……不安、ですね」

 

 ポツリと舞園は不安を口から出してしまう。舞園にとっては、モノクマの『学級裁判』は初だ。

 

 ――苗木を犯人に仕立て上げようとした挙句、桑田によって上がることすらも許されなかった舞台。

 

「……桑田くん」

 

「うぉっ、ま、舞園ちゃん!? ど、どうしたんだ。急に」

 

 ――どうしてか、彼に話しかけていた。

 

 理由は舞園自身でもよくわからない。だが、ここで話しかけなくてはならないと、感じたような気がして。

 

「……桑田くん。本当に、ごめんなさい」

 

 舞園は頭を下げた。深く、表しきれないほどの想いと共に。

 

「……えっ。ちょ、ちょっと、おい」

 

 桑田は我が目を疑うように驚いている。

 舞園は彼が言葉を返す間も無く、矢継ぎ早に懺悔する。

 

「私が桑田くんにしたことは謝っても許されることではないですし、何をしても償えるものではないって……わかっています。許されなくて、当然です」

 

 謝ることが多すぎて何に対して言っているのか。自分でもわからない。

 

 桑田を殺そうとしたこと。

 彼が犯人だとわかるようにメッセージを残したこと。

 彼が『ミュージシャンになりたい』と軽口を叩いた時、とてつもない怒りを覚えてしまったこと。

 彼の自分に対する好意を利用したこと。

 

 ――彼に自分を殺させてしまったこと。

 

 多すぎて……とても数えきれたものではない。

 

「本当に……本当にごめんなさい」

 

 けど……それでも謝りたかった。ずっと後悔していた。

 

 どうしてあんなことをしてしまったのだろう。後悔するくらいなら……迷うくらいなら――やらなければよかったのに。

 

「私が……憎い、ですよね。あんなことをしたんだもの」

 

 自分の夢を守るため?

 

 ――我ながら、何というエゴなのか。

 そしてこの謝罪も、桑田にしてみればただのエゴの押し付けだ。謝りたい? 自分には謝る資格すらない。彼と話す権利すらない。

 

 どこまで自分勝手なのか。『舞園さやか』という醜い存在に、我ながらとことん嫌になる。

 

 ただ信じればよかったのだ。苗木誠を。桑田怜恩を。みんなを――ただ信じて、先に進んで……あの空間から脱出すればよかったのだ。

 

 それなのに……‼

 

「殺されても……仕方がないと思います。だから私は……桑田君を憎んでいません。むしろ嫌われて……当然ですから」

 

 ――死ねばいい。舞園さやかなんて、死ねばいい。どうしようもない死がお似合いだ。

 こんな自分にアイドルなんかふさわしくない。何が希望だ。何が超高校級の助手だ。

 

 何が、何が何が――――

 

 最も信じるべき人を信じない自分にそんな資格なんてない。

 

 死ねばいい。死ねばいい死ねばいい死ねばいい死ねばいい死ねば、死ねば死ねば――‼

 

「――舞園ちゃん。顔、上げてくれよ」

 

 桑田は舞園の両肩に手を置いて言った。

 

「オレ……舞園ちゃんのことを悪く思ってなんか、これっぽっちもねぇよ。あんな状況なら、誰だってああなってもおかしくなかったんだ」

 

 桑田は心底悔しそうに顔を背ける。

 

「オレ、だって……‼」

 

 桑田はグッと強く拳を握り、涙を流す。

 ――血をその拳に滲ませて。

 

「あんな馬鹿クマの言葉に乗っちまって……‼ あそこで、舞園から理由を聞きさえすりゃあ……苗木だったら……‼ そうしただろうによぉっ……‼‼」

 

「桑田……くん」

 

 舞園は感情を抑えきれず、手で口を塞ぐ。

 

 そして桑田は頰を伝う涙を乱暴に拭いて、舞園に向き直る。

 

「舞園、オレはここに来てからずっと――」

 

「――ハイハイハイ。オマエラプロデュースの青春ラブストーリーは、そこまで〜」

 

 エレベーターのドアが開き、モノクマの姿が。

 

「イヤァ〜、オマエラがここに至るまでの見事な傷の舐め合い! 実に愉快でした!」

 

 舞園は今までにないくらいに鋭い視線をモノクマに突き刺す。

 

「うんうん。絆や友情って、素晴らしいね! 客観的にみれば滑稽でツッコミどころありすぎな場面だって、ものすっごく綺麗なワンシーンにできるんだから! さすが某有名漫画雑誌の三大原則の一つなだけあるよね?」

 

 胸の奥から、とてつもない怒りがこみ上げてくる。それも、自分だけではない。

 

 ここにいる全員がモノクマに敵意を向けている。

 

「……殺す」

 

 高里に至ってはモノクマに対し、見ているこちらもゾッとするような殺気を放っている。

 

 モノクマは奥の席にある、田上と信晶の写真立てをちらりと見る。ご丁寧に彼らの身長まで合わせて席につかせている。

 

「しかしまぁ、美しい絆と結束の力でも、不殺生には至りませんでしたか……現実とは残酷なものです」

 

 モノクマはハンカチを取り出して涙を拭き、鼻をかむ仕草を見せる。

 

「ルールとは……必ずしも人を守るためにあるのでしょうか……。信晶くんや田上さんの死は、とても不幸なことでした……およよよ」

 

 どこまでもわざとらしい。

 

「モノクマ……‼」

 

 また罪もない人に仲間を殺す動機を作り、殺させた。

 

 ――この悪魔め。

 

「そんな怖い顔しなくても。ちゃんと、お約束は守るからさ」

 

「約束……!?」

 

「おや、()()もう分かっているはずだよ?」

 

 モノクマはぷぷぷ、といつものように笑い、

 

「じゃ! 気をとりなおして! ――学級裁判、開廷‼」

 

 いつも通り、学級裁判(ごうもん)の開廷を宣言した。

 

「ぷっ〜ぷぷぷ‼」

 




「ん? 調査パートがないって? ダラダラやっても飽きちゃうでしょ? まぁ、それ以外にも意味があるんだけどね。うぷぷぷ……」


「――え? 投稿ミス? そんなわけないじゃないか。……ほんとだからね!」

マジです。今回ぶっぱでいきます。ハイスピードってやつですよ。

皆様はダンガンロンパはどこまで見ていますか?

  • 初代まで。アニメも含む。
  • 2まで。3やV3は知らん。
  • 絶対絶望少女まで。
  • v3まで。全部やったお!!
  • 1のアニメor3のアニメのみ。

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