絶対虚構少女 ダンガンロンパ舞園 ~亡き希望達の学園死活~   作:ゼロん

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第二十七話 あなたとティータイムを

 

 

「……今生き残っているのは、わたくしを外せば、七人……」

 

 解放された二階施設の一つ、カフェでロイヤルミルクティーを口に運ぶセレス。

 紙に自分以外の生き残り七人の名前を書き、思考を巡らせる。

 

「この中で利用できそうな人物は少ない、か……単独でも実行できる方法はあったものか……」

 

 ──何より利用できそうな人間が一人減ったのは大きい。

 

「……空になってしまいましたわ」

 

 セレスは飲み尽くして空になったティーカップを見つめテーブルの横に置く。

 

「信晶くん、お茶のおかわりを──」

 

 テーブルの端にあるベルに手を伸ばし、途中で止める。

 

「……そうでしたわね」

 

 彼女の手に掴んだのは虚空。伸ばした手を戻し、物憂げに左端に生けたトルコキキキョウの花と、

 

「……」

 

 ──彼がわたくしに遺した一輪のスズラン。

 

「そういえば、あの男と会ったのも。……こんなタイミングでしたわね」

 

 

 =========

 

 

 コロシアイの開始を宣言され、トラウマを再発した舞園が部屋に籠って間もない頃。

 

「さてと……早速対策と生き返りの方法を考えなくてはなりませんわね」

 

 セレスは居住区内の自販機前で、優雅に買った飲み物を飲んでいた。

 

「死んだ後にまた殺されるのもイヤですし。はてさてどうしたものでしょうか……」

 

 ──まずこういった状況で孤立するのは愚策だ。

 

「まぁ前回のコロシアイに参加した希望ヶ峰学園生は期待できないとして……」

 

 協力関係を結べるのは残りの五人。

 

「朝日奈くんは大神さんとくっついていますから論外」

 

 そう言って紙にメモした名前一覧から『朝日奈悠太』の名前をバツをつけて除外する。

 

「アホは論外。舞園さんは役立たず。大和田くんは口を滑らせる」

 

 希望ヶ峰学園の生徒の方にもバツ。大神はまず協力できるとも思えないので理由なく除外。

 

「ああいうお堅い人ほど、わたくしのような人間は近づけたがりませんもの」

 

 そして残った四人。

 

「高里さんは足手まといになりそうですし……田上さんは……」

 

 ──そういえば、舞園が殺人未遂であることを知っても信じようとしていたか。

 

「……ふふ。あの子は利用できそうですけど……ああいうのは後々邪魔になるタイプですわね」

 

 田上と高里の名前もリストからバツをつけ外す。

 

「はぁ……残るのは二人ですか」

 

 ──あの和樹とかいう少年はあまりにも鋭すぎる。勘でわかる。ああいう目をした輩は何を考えているのか読みにくい。

 

「逆に出し抜かれても困りますし……」

 

「よっ、お一人で作戦会議?」

 

 ──やはり利用するならこいつか……。

 出信晶。

 

 ……超高校級の手品師。燕尾服にシルクハットで身を包む少年。

 

 ──ここまでわかりやすく格好で自分の才能を示せるものか。

 

 信晶は自販機で飲み物を選び、隣のテーブルに座る。

 

「あぁ信晶くん。ごきげんよう」

 

「どうもな。

 こちらこそよろしく、セレスさん」

 

 軽薄そうに見えて実は純粋な熱血タイプ。一番人の悪意に鈍いと見た。

 何より山田の豚と違い容姿も悪くない。まぁ及第点……といった所だろうか。

 

「ねぇ信晶くん。せっかくですし、一緒に座りませんこと? 」

 

「えっ!?」

 

 ──まずは交渉相手をテーブルにつかせる。

 

 

「これから共同生活する仲ですし。一緒に話す良い機会だと思いますわ」

 

 

 そう言われると予測していなかったのだろう。信晶はすっかり唖然としている。

 うっかり手に持った『うお〜いお茶』をテーブルにこぼしかけている。

 

「いいのか? じゃあ遠慮なく」

 

 信晶が飲み物を持って恐る恐る席に着く。

 

「なぁ、セレスさん」

 

「はい、何でしょうか?」

 

 なるべく丁寧な態度は崩さずに。はじめに良いイメージを与えればこういう輩はコロッと騙される。

 

「この状況をあんたはどう思ってる?」

 

「……なぜそのようなことを?」

 

 ──もちろんクソだと思っているが。

 

「いや、あんたが一番あの中じゃ冷静だったからさ。どう思ってんだろうなー……って。

 ひょっとして……セレスさんなりの攻略法をもう思いついてたりする?」

 

「……あら。意外と抜け目ないですこと」

 

「意外と、って……おいおい」

 

「まぁ折角ですし、教えてあげても良いですわ」

 

「マジか!?」

 

『そのかわり……』と自販機を指す。

 

「お茶のおかわりを買ってくれません? わたくしのモノクマメダルがなくなってしまって……」

 

「やっぱりタダじゃないか……」

 

「タダよりも高い物は無いといいますわよ?」

 

「いや、多くの場合ただよりも安い物はねぇよ」

 

「あら。意外と単純な思考をしていますのね。0円の見方は物によっては変わってきますわよ?」

 

 そう言ってクスクスと笑う。

 

「ほっとけ。……あちゃーもうすくねぇわ。とりあえず今持ってる分で買える物でいいか?」

 

「はい。ミルクティーを希望しますわ」

 

 ──じゃなきゃ死ね。

 

 案の定、彼が買ってきたのはロイヤルミルクティー。

 

「……ふふ、良いチョイスですわ」

 

「はいよ。女王様」

 

 信晶は乱暴に投げつけることはせず、ついでにティーカップに注ぐ。

 

「あら……なかなか気が利きますわね」

 

「だろ? 『女性には優しく』がポリシーでさ」

 

「もっと優雅に入れてくれると嬉しかったですけど」

 

「……淹れてもらっていちゃもんつけるなよ……ほら」

 

「どうも」

 

 注いだ後、信晶はボトルをテーブルの上に置く。

 

「では約束通り、わたくしなりの攻略法をお教えしますわ」

 

 そっとミルクティー入りのカップを口に運び、コースターの上に置き直す。

 

 ──自分以外の全員を騙して生き残ることですわ。

 

 と心内で思いつつ。

 

「適応。このコロシアイという閉鎖生活への適応。ここでの生活……いえ死活を受け入れ慣れることこそ、一番の攻略法ですわ」

 

 セレスは嘘を言った。

 

「適応……か。なるほどね。たしかに全員が生き残る……っていうか消えずに済むのは良いな」

 

「──生き残る者は、強い者でも賢い者でもありません。変化を遂げられる者だけですのよ。」

 

「おぉっ、なんかそれっぽい! 偉人の名言みたいだな!」

 

 信晶はパチンと指を鳴らし、感嘆の意を表す。

 

 ──阿呆が。

 

「でしょうね。ではあなたも……」

 

「あー……いや。俺は全くそんなこと考えてなくてさ。別のこと考えてたよ」

 

 信晶はあはは、と笑みを浮かべる。

 

「俺は……どうやったらみんなが殺し合いをせずに済むのか、どうやったら脱出できるのか。そればっか考えてたよ」

 

 ──は?

 

「ここでずっとダラダラっていうのは……ちょっとな。正直できれば生き返りたいし。できることは全部やっときたいんだ」

 

 セレスはポーカーフェイスを崩さずに静かな物腰で尋ねる。

 

「……モノクマから提示された条件を使ってですか?」

 

「んな馬鹿な。きっとそれ以外にもみんなが無事に脱出できる方法はきっとあるはずさ。

 誰かに命を握られてる生活なんてまっぴらごめんだよ」

 

「……なるほど」

 

「──あんな奴の思い通りになるなんて、死んでもごめんさ」

 

 ──何をバカげたことを。

 

 全員で出る? 無理に決まっているだろう。脳にボウフラでも湧いてんのか?

 

 だが……彼も脱出する意思があることは確かだ。

 

「……信晶くん。わたくしと手を組みませんか?」

 

「ん? 俺がセレスさんと?」

 

「ほかに誰もいません。お願いします。今この状況で『信頼 利用』できるのは貴方だけなのです」

 

 そう言い放った後、信晶はしばらく考えるそぶりを見せると、

 

 

 

「別に組むのはいいけど、殺しの手伝いとかはできないからな?」

 

 

 

 まるで見透かしたかのように、言葉を返した。

 

 ──この男余計なこと考えやがって……!

 

「じゃ、悪いけどセレスさん。そろそろ帰んないと友達がうるさいんで。部屋に戻らせてもらうよ」

 

 愕然として黙ってしまったからか、図星と割り切られてしまったようだ。

 

 しまった。こんなヘマ普段はしないのに。

 

 信晶は席を立ち、去ろうとする。

 

「──待ちなさい」

 

 ──ならば奥の手を使うまでだ。

 

 セレスは手にケータイを持ち、画面を信晶に見せる。

 

 そこには先ほどまで話していたセレスと信晶の姿が。

 

「生憎、今のわたくしは皆さんに信用されていませんの。こうして話している貴方の姿がわかれば……どうなるでしょう?」

 

 ──もう逃さない。貴方はわたくしに協力するしかない。

 

 信頼は尊い。尊いが故に一度失ったら二度と取り返せない。これを脅しにずっとこき使ってやる使い潰して使い潰して──

 

「勝手に見せろよ。んなもん」

 

 信晶はパシンとセレスのケータイをはたき落とす。

 

「──えっ……?」

 

 ケータイはそのまま地面へ。そのまま床を伝って滑っていく。

 

「……俺は誰も殺さないし、アンタにも殺させない」

 

「なっ……なに、を……?」

 

「そういう関係で行こうぜ。セレスさん」

 

 どうして。どうして屈しない。危険とわかってどうして遠ざけない。

 

「俺は何も見なかった。それでこの話は終わりだ。互いの部屋に戻ろうぜ?」

 

「……あなたは」

 

「ん?」

 

 セレスは席を立ち、珍しく驚きに満ちた目で信晶を見つめる。

 

「あなたはこの環境を受け入れるつもりですか? 本当に……適応するつもりなのですか?」

 

「……適応か。俺にはそんなのできないな」

 

 信晶はシルクハットを脱いで頭の後ろを掻く。

 

「適応ってさ……できないやつから死んでくんだろ? 生物の進化みたく」

 

「適応力の欠如は、生命力の欠如……変わらぬものに未来はありません」

 

 いっそ清々しいまでに言うセレス。しかし信晶は納得のそぶりは見せず。

 

「……それは、心の強い奴だけが勝つってことだよな。変われない、心の弱い奴はどうなる?」

 

「死ぬしかないでしょうね」

 

「──なら俺はイヤだ」

 

 そう即答する信晶に呆れかえるセレス。

 

「……子供ではないですか。あれも嫌これもイヤなんて」

 

「嫌なものはイヤだ。そう言って何が悪い。……俺はみんなで、ここにいる全員と、紆余曲折あっても最後まで仲良くいきたいんだ」

 

「はぁ……」

 

 ──本当に呆れさせる。結局仲良しごっこか、笑わせる。

 

『それにさ』と信晶は言葉を続ける。

 

「そもそも……こんな状況、慣れちゃいけないんだ」

 

「……」

 

「人の命を自分と秤にかけなきゃいけない状況なんて、絶対におかしい。慣れちゃ……適応しちゃいけねぇんだ」

 

 そう言って彼は拳を握る。

 

「ふふっ、そうですか。残念です」

 

 セレスは再び外れかけた仮面をかぶりなおす。

 すると、信晶はなぜか悲しそうな笑みを浮かべて、

 

「セレスさん。ここで俺を脅迫したことは……誰にも言わないでおく。これでこの話は終わりにしよう」

 

「そうですか……なら、一つ忠告しておきますわ」

 

 ──お前は、甘い。

 

 

「──他人の前で弱みを見せているようですと……あなた、死にますわよ」

 

 

 ──甘すぎるんだよ。

 

 

 死の宣告を受け、空気は冷たく、静まり返る。

 

「……誰にも弱みを見せないものこそが残る。ここはそういう世界ですわ」

 

「それでも俺は俺のままでいたい。自分を曲げてまで、俺は生きたくない」

 

「……頑固ですね」

 

「言ってろ。俺は俺のままここを出る。──みんなと、もちろんお前も」

 

「ふふ……。

 ──その意地、どこまでもつでしょう」

 

 

 次の日の夜。彼と賭けをした。

 彼の信じた者が期待に応えるか。

 そうでないかを。

 

 

 だが翌日、彼は帰ってこなかった。

 

 

 ====================

 

 

 

 理解できない。今も全く。

 

「……理解できませんわ」

 

 もう少し話せば……わかったのだろうか。彼の愚かさ加減が。バカさ加減が。

 

 ──少しは好きになれたのだろうか。

 

「賭けは……どうなるのでしょうか」

 

 今のところ、彼女は前向きに探索を続けている。桑田怜恩、田上ちさと、そして出信晶。三人の死を抱えて、乗り越えようとしている。

 

「まぁ今はもう少し経過を見守りましょう。行動を起こすのは……それからでもいいでしょうし」

 

 セレスはそう言って、頬杖をつく。

 

「それに賭けに勝つのはこのわたくしに決まっていますわ。連勝無敗。それがわたくしなのですから」

 

 ──勝利の女神があのバカに笑うわけがない。女神が微笑み最後に笑うのはわたくし。それ以外はありえない。

 

 そう思っていると、誰かが来たようだ。

 あれは……不二崎か。

 

「あっ、おはよう。セレスさん」

 

「ごきげんよう。不二崎くん。あら、舞園さんはどうしたのですか? いつも一緒では?」

 

「実は寝坊しちゃって……舞園さんとはあとで合流する予定だよ」

 

「最近寝坊が多いですわね。何か夜更かしでもしているのですか? ……まぁ言えないことなら言わなくてもいいですけど」

 

「いやいや、そんなのじゃないよぉ。ただ眠れなかっただけ……あれ?」

 

 不二崎はセレスのテーブルの上にある花瓶を見つめる。

 

「これって……信晶くんの……」

 

「……」

 

  生けた花に反応する不二崎からセレスは目をそらす。

 

「……ねぇセレスさん」

 

「……」

 

 不二崎が声をかけてもセレスは振り向かない。

 

「……ごめん」

 

「謝るくらいなら、さっさと言って終わらせてほしいですわ」

 

『おまえの聞きたい内容なんてとっくにわかっている』と不満げにセレスは呟く。

 

「……セレスさんは、信晶くんのこと……どう思ってたの?」

 

 ──なんだ、やっぱりそうか。

 

 ……その質問なのか。

 

「……さぁ? 今となってはわからずじまいですわ」

 

「そっ、かぁ……」

 

 不二崎は『変なこと聞いたよね』と顔をうつむかせる。

 

「けど……よかった。セレスさん、花を大切にしてるみたいで……」

 

「……貰ったものですし。自分でダメにしてしまうのも、もったいないですから」

 

 ──何も思わないことはない。

 最後まで全員の身を案じるなんて……。何を考えているのやら。

 

 彼は一体何を思い自分に夢を語ったのか。

 

 その頑固さはいつまで続く?

 

 その愚かさをいつになれば自覚できる?

 それとも自覚して尚なのか?

 

 望みが叶わず最後に何を思った?

 

 ……それを聞いて、見て、

 

 一蹴してやりたかった。

 

 くだらないと言ってやりたかった。

 

 ──ざまぁみろ、と。

 

 お前が何をしようと、こうして殺し合いは起きた。

 

 嘲笑ってやりたかった。自分は正しかったではないか。

 

 けど……その後あなたはどうするつもりだったのか、

 

 ──知りたかった。

 

 わからないから……知りたかった。

 退屈しのぎになるかもしれない。そんな軽い気持ちだったかもしれないが、確かにそう思った。

 

 彼がいずれ消えるのは確定事項だった。

 ああいう輩はいずれ命を落とす。

 それもどうしようもなく、愚かな死因で。

 

 裏切りで。不意打ちで。暗殺で。

 絶望と、落胆と、不明瞭な頭の中で。

 

 死んで、消えていくのは……目に見えていた。

 

 ただそれがいつになるかの話で。

 

 けれどせめて……

 

 ──利用し尽くすまでは……まだ生きていて欲しかった。

 

「ただ……」

 

 どうしてそこまでしてなお、希望を見て理想を唄えるのか。

 どうして誰かをそこまで信じられるのか。

 どうしてあなたは桑田を庇ったのか。

 どうして今まで夢も持たずに『そういう風』に生きてこられたのか。

 

 

 ──あなたは命よりも……何を大切に思っていたのか。

 

 

「嫌いでは……ありませんでしたわ」

 

 

 もっと知ってから……

 

 ──私は彼を見限りたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

皆様はダンガンロンパはどこまで見ていますか?

  • 初代まで。アニメも含む。
  • 2まで。3やV3は知らん。
  • 絶対絶望少女まで。
  • v3まで。全部やったお!!
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