絶対虚構少女 ダンガンロンパ舞園 ~亡き希望達の学園死活~   作:ゼロん

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『死人』に口なし?『死体』に口なしでしょう。





第三十五話 二度死ぬ死人はしゃべらない

 朝……と言っていいのかわからない。

 

 就寝して7時間後、舞園は起床した。

 二段ベッドの上の方でグッスリと眠る不二崎を起こして、いつも通り洗面台へ向かう。

 

 いつも通りと言っていいのかわからない。

 けれど、死んでからのいつも通りだ。

 それもそれで変な話だが。

 

 顔を洗い、髪を整え、どこか変なところはないか調べて、いつも通りに朝食を食べに食堂へ向かう────

 

「舞園!!」

 

「お、大神さん!? きゅ、どうしたんですか急に」

 

 

「──悠太が、朝日奈悠太がいない!!」

 

 

 ────そのはずだった。

 

 

 ***

 

 

 すぐに全員を集め、朝日奈悠太の捜索が始まった。

 

「……全員、二人一組で悠太を捜索しよう」

 

「はぁ!? こんな時に何言ってんの!? 一人ずつ違う場所を探させた方が効率的でしょ?」

 

 二人一組で、と提案する和樹と、一人でと言い張る高里。

 

「──今は争ってる時間も惜しいんだよ!!」

 

 和樹が柄にもなく大声を張り上げる。予想以上に声が大きくて、つい舞園も耳を塞いでしまった。

 

「……イデのこともあるから、考えたくもないが……もしも最悪の事態だったら」

 

「……はぁ。わかった。犯人がいたとして、そいつが証拠隠滅するのを阻止したいんでしょ?」

 

 さすがに高里も、状況が飲み込めてきたらしい。自分でもすごく失礼な言い方だが、親友である田上さんが殺された時に比べ、高里さんも頭が回るようだ。

 

 舞園は高里が、てっきり感情に流されてしまう性格なのかと思っていた。

 

 班分けは、大神と和樹、セレスと大和田、不二崎と舞園。

 

 一人にするわけにもいかないので高里は舞園と不二崎のグループに。

 

 合計三班に別れて悠太を捜索した。

 

 ──しかし、一向に悠太は見つからなかった。

 

 

 ***

 

 そして、一向に見つかる気配がないなかでも、無情に時間は過ぎていく。

 

 一分、十分と少しでも時計の針が動く度、懸念は不安に。不安は恐怖へと変わっていった。

 

「どうして……どうして見つからないのよ……?」

 

 

 

 高里と舞園、不二崎の三人は二階の東側を捜索。

 

 ──今のところ、特に手がかりはない。時間ばかりが過ぎていく。

 

「高里さん……」

 

 最初のうちは高里は落ち着いていると思っていた。『悠太のことだから、きっと大丈夫』、『あれだけ身体鍛えているのだから。もしものことがあっても』と不二崎にも遠回しにではあるが、言ってくれた。

 

 しかし、気がつくべきだったのかもしれない。

 

 大丈夫、としきりに言っていた彼女の手は、

 

 ──震えていたことに。

 

 大丈夫、と自分に言い聞かせていただけかもしれないということに。

 

「開けられる部屋は……もう全部」

 

「探したはず、よね」

 

 怯える不二崎を尻目に、高里は全員が支給されていた携帯電話を開く。次の瞬間、高里は二人に背を向けて歩き去ろうとしていた。

 

「た、高里さん!」

 

 舞園は高里を呼び止め、肩を掴むも、払いのけられる。その額には玉のような汗が浮き始めていた。

 

「なによ!?」

 

「どこに行くんですか!? 一人では危険です!」

 

「……合流すんのよ。西側の和樹たちの班と」

 

 ──彼女の手が、声が震えていることに気がついたのは、この時だった。

 

 

 ***

 

 

 舞園たちにメールを送り、和樹はケータイを閉じ、ポケットにしまう。

 

「──和樹くん!」

 

「……来たか」

 

 和樹たちは例の部屋……鉄の扉の部屋の前で立ち尽くしていた。

 

「お、大神さんは……?」

 

「中だ」

 

 高里は何かを察したかのように目を見開く。

 嫌な雰囲気を感じとった和樹は、幽霊のように部屋の扉に向かう高里を手で止める。

 

「……見る、」

 

「────退きなさいっ!!!!!!」

 

 和樹は黙って道を開け、高里は鉄の扉のノブに手をかける。それは鉄のせいか、ひどく冷たかった。

 

 ノブをゆっくりと下にひく間。彼女の中では様々な考えが頭をよぎっていた。

 

 ──だ、大丈夫。きっと彼は無事。そうだ。そうに決まってる。だって、だって──

 

 ***

 

 図書室での一幕を終えた昼下がり。

 本に飽きてたまたま二階で見つけたプールサイドで。

 

『驚いた……。あんた……泳ぐの早いじゃない』

 

 高里は、大神と泳いでいた悠太の姿を近くで眺めていた。

 

『え? そうか?』

 

『あんた、一回自分の泳いでる姿ビデオにでも撮ったら? すごい水しぶきと速さだから』

 

 自分なりに褒めたつもりだったのだが、悠太は苦笑していた。

 

『なによその顔。このあたしが、こ〜〜んなに褒めているのに、何か不満でもあるの?』

 

『あ、いいや。そうじゃないんだ。褒めてくれたのは正直嬉しい。ありがと』

 

『じゃあなんでそんな複雑そうな顔してんのよ? なんかコンプレックスでもあるって言うの?』

 

 そう言った直後、悠太の顔が引きつった。

 ……おそらく図星のようだ。

 

『近くに……いや、オレの姉ちゃんの方が、断然スゴくってさ』

 

 よくある話だよ、と悠太は語った。

 

『小さい頃からオレ、体動かしたりすんの、大好きなんだ。特に、水泳がさ』

 

 悠太はその場にあぐらをかいて、プールの水面を眺める。

 

『誰にも負けない自信があった。フォームとか速さも、オレに勝てる奴なんているわけないって。──でも、そうじゃなかったんだ』

 

 ──オレには姉ちゃんがいた。

 

 そう悠太は言った。

 

『いくら練習しても、いくら姉ちゃんにアドバイスをもらっても、勝てなかった。……けど、ずっと続けてるうちに、なぜだかな……悟っちまったんだよ。どうやってもオレは、大好きな水泳で姉ちゃんには勝てないって』

 

 だから、諦めたオレは陸上部に逃げることにした、運動は全般的に得意だし、スタミナには自信があったからと。

 

 情けないよな、と悠太は笑っていた。

 

 高里から見て悠太の笑みは、まるで悠太自身を嘲笑っているように見えた。

 

『……なんでオレ、泳いでんだろうな、今』

 

 今の自分の行動が理解できない。

 今さら水泳なんてやっても。

 水泳はやりたくないのではなかったのか?

 

 そういった複雑な心境を抱えているようにも、彼女には見えた。

 

 

『──別に、勝ち負けだけが全てじゃないわ』

 

 高里が発した言葉。悠太は自然とその言葉に耳を打った。

 

『あたしは勝負の世界でずっと生きてきたわ』

 

 周りの人間はどいつもこいつも、頭の中ではパパやママの財産や、高里を蹴落とすための後継争いのことばっかり。高里の口から堰を切ったかのように言葉が出る。

 

 周囲の人間からの媚びへつらい、腹芸なんていくらでもあって珍しくなかったと、彼女は語る。

 

『あんな世界に数日でも身を置いてみなさい、常人ならすぐに人間不信になるわよ』

 

 それこそ自分以外の人間が劣等種のクズに見えるくらいに、と言葉を付け加える。

 

『そんな人生の勝ち負けをめぐる醜い世界に、あたしは望んで入ったわけじゃない。産まれて、そうするのが決まっていたことだから』

 

 けどあなたは違う、と高里は膝を折って悠太と目線を合わせる。

 

『あなたは────姉さんに勝ちたいから水泳をやってたの?』

 

 悠太は鱗が落ちたかのように、目を見開いた。

 

『そ、それは……』

 

『────悩むことはない。悠太』

 

 ***

 

 横にいる気配に気がつき、悠太は声の方を向く。

 

『大神さん……』

 

『筋肉おばけ……』

 

『……筋肉おばけは少し複雑なのだが』

 

 そんなのはどうでもいいと大神は咳払いをする。

 

『悠太。うぬはただ──悔しかっただけではないのか?』

 

 悠太は大神の言葉を肯定するように、肩を震わせる。

 

『気に病むことはない。我から見ても、朝日奈は速い。うぬもまた、速い』

 

『……慰めは、やめてくださいよ』

 

 普段の悠太に似合わず、暗い表情で下を向く。

 

『下を向くな、悠太』

 

 静かだが重い大神の一言が悠太の胸を突く。

 

『──うぬは何ゆえ泳ぐ』

 

 同じ問いかけ。

 高里の言った内容と些細な違いはあれど、本質は同じ。

 

 ──なぜ?

 

 ……あぁ……わかった。

 

 いや忘れてた。忘れてしまったんだ。

 勝ち負けばかりにとらわれすぎて、最初を。

 

 水泳を始めたきっかけすら、自分は忘れていたんだ。

 

『泳ぐのが、好きだから』

 

 そう、呆れるぐらいに単純なことだった。

 

『楽しくって、時間すら忘れちまう。オレより速い姉ちゃんと泳ぐのも、オレは────』

 

 悔しかったけど、それ以上に楽しかったんだ。

 

『己を鍛える世界に身を置く者は、必ず壁に当たる。……だが、壁は邪魔をするだけではない。時に壁は己の指標となり、目的となり、理由となる』

 

 大神は淡々と語る。

 

『だが、それを苦しむな。楽しめ。忘れるな。己が己を鍛えることになった始まりの理由を」

 

 そう言って、大神はニッコリと笑った。

 悠太の目からは、もう迷いは消えていた。

 

『……大神さん。数分休憩したら、また一緒に泳ぎませんか?』

 

『うむ。我はサウナで体をほぐしてくる。では、またな』

 

 サウナへ行こうとする大神はふと足を止める。

 

『……どうした? 高里。我に何か用か?』

 

 大神は横に並んできた高里に声をかける。

 

『……いいえ。筋肉もやるもんね〜……って思っただけ』

 

『せめて上の名前で呼んでくれぬか……?』

 

『冗談よ。認めてあげるわ。大神さくら』

 

 クスリと小さく笑みを浮かべる高里を見て、悠太はその場の思いつきを口に出す。

 

『なぁ! もし本当に生き返ったらさ、三人で一緒にお菓子でも食べないか!? あ、もちろん姉ちゃんも一緒に!』

 

『おぉ、ドーナツか。うむ、いいかもしれぬ』

 

『だろ! いい店知ってるんだ! レミもどうだ?』

 

 誘われたことに気がつかなかったのか、はたまた驚いたのか。高里は呆然と口を小さく開いていた。彼女は自分に指を指して、

 

『……あたしも?』

 

『もちろん! 友達だろ!』

 

 

 大神も『うむ』と首を縦にふり、悠太の方はそういえば、四人かと朗らかな笑みを見せる。

 

 すると、フッと高里は笑って。

 

『店で買う? お菓子は作りたてが一番美味しいのよ? まぁどうしてもというなら、それでもいいけど』

 

『オレは和菓子派だけど……洋菓子とかはそうなんだろうな』

 

『あら、あんたは和菓子が好きなんだ。じゃあ、超一流の和菓子職人も呼ぶ必要があるわね』

 

『──っておい、ちょっと待て!』

 

 悠太は高里との認識の齟齬をなくすべく、一旦話を止める。

 

『レミ、まさか……』

 

『焼きたての菓子を、持ってくるつもりか?』

 

『そうよ。このあたしが、庶民の味で満足すると思っているの? そうね……人数分は焼いてきてあげるから、ありがたく食べなさい』

 

 すると、ぱあっと悠太は顔を輝かせて。

 

『じゃあ、じゃあさ! オレと姉ちゃんがいつも行ってる店のと高里のと食べ比べしようぜ!』

 

『うむ。朝日奈も喜ぶかもしれぬな』

 

『はっ! 言っておくけど、一度こっちのを食べたら、そのお店のお菓子がアウトオブ眼中になるわよ? フランスの超一流パティシエが作るドーナツですもの』

 

 高里は胸に手を当てて自慢げに語る。よほどの物なのかという期待が悠太の中で一気に膨らむ。

 

『まじか! オレ、ようかんが好物なんだ! そっちも頼むよ!』

 

『ようかんね……あんまり食べたことないけど、いい機会ね』

 

『では、指切りでもしよう。約束を違えぬように』

 

 大神が左手の小指を差し出す。

 

『子供ね。こんなことしなくても、約束ぐらい守るわよ』

 

『何を言う高里。約束を形にするというのは大事なことなのだぞ?』

 

 はいはい、わかったと呆れつつも嬉しそうに高里は右手の小指を大神の指に重ねる。

 

『三人での指切りなんて聞いたことないけれど』

 

 ほら早く悠太も出しなさい、と高里は遠回しに言う。

 

『……悠太?』

 

『レミ、大神さん。

 

 ──絶対、ここから出ような』

 

 

 ***

 

 

 高里の頬を、耐えきれず溢れかえった涙が伝い、冷たい床に落ちていく。

 

「言い出しっぺはあんただったじゃない……!!」

 

 彼女の涙はポツポツ、ポツポツとこぼれ、床のシミとなる。

 高里が扉を開けた先で見たのは、

 

「なんでアンタが死んでるのよぉ……。!!

 

 約束した彼の、

 

 ────朝日奈悠太ぁ……っ!!」

 

 

 ──黒コゲになった悠太の小指だった。




3章はミステリー強めを目指すので、調査パート入ります。

皆様はダンガンロンパはどこまで見ていますか?

  • 初代まで。アニメも含む。
  • 2まで。3やV3は知らん。
  • 絶対絶望少女まで。
  • v3まで。全部やったお!!
  • 1のアニメor3のアニメのみ。
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