絶対虚構少女 ダンガンロンパ舞園 ~亡き希望達の学園死活~ 作:ゼロん
気がつけば新元号が令和に変わってました。
今回は絶対絶望少女より前のカムクライズル、食料を探しに出てきた出 信晶くんのお話。
ダンロン3 絶望編の鑑賞をおすすめします。
「……ここも、全滅か」
信晶はシルクハットを深くかぶり、更地となった繁華街を通り過ぎる。
「次は住宅街……か。世界が終わってから、はや三年半。早いもんだよ……ひぇっ!?」
住宅街跡の中心にただ一人。
異様な雰囲気を纏う少年に出くわした。彼の髪は地面に届くくらい伸びていて、赤い眼光をその隙間から覗かせている。
前に高里に食糧を分けてもらった時に、見せられた写真。
彼は絶望の残党……ではなかったか?
それも一番ヤバいやつ。
「……」
しかしこちらを見ても特にこれといった反応は返してこない。危害を加える気もないようだ。
というか、気にもとめてるかも怪しい。
ただ燃え残った民家の遺体をただボンヤリと見つめて佇んでいるだけだった。
「……あ、あのー……どうかしましたかー……?」
「……」
無視。
ただずっと遺体を見つめている。
「ご家族……だったりします?」
「………………わかりません」
喋った。
しばらくの間、互いの間に沈黙が広まる。
長髪の男は一見無表情ではあったが……
けどその横顔は……どこか悲しげに見えた。
「はい、ご覧の通り俺の手には何もありませーん」
「……?」
「1、2……はい!!」
だが信晶の手の上には変わらず何もない。
「あら不思議こんなところにお花が」
いつのまにか長髪の男は白い花束を握っていた。絶望に染まりきった炭と黒の世界に似合わない色を。
「……白いカーネーション。花言葉は純粋な愛…………亡くなった母などに贈る花ですね」
「おっ、知ってたのか。俺の十八番の手品でな。……どうだった?」
長髪の男は黙って花と焼けた遺体を見つめていた。信晶の方には顔を向けずに、じっと。
「……」
「……や、やっぱ、ツマラナかったか? だよな……」
「……わかりません」
「へっ?」
「ボクにはこの人の記憶はありません」
母親か親戚の叔母だったのか、何もわからないと。むしろそのような存在が自分にいたかすらも。
「なぜか、ここに来ていた。……ただそれだけです」
「……そ、そか」
「……あなたには、ツマラナイ話でしたね」
彼が『ツマラナイ』と発した瞬間、身体が芯まで凍りついた。
「(こ、こいつ、まさか今襲ってくる!? 逃げとくんだった、ちくしょう!)」
緩んでいた気を張り詰め一気に警戒を、
「……。ボクにその気はありません。あなたと戦っても……それこそ、『ツマラナイ』でしょうから」
「ツマラナイ、か」
明らかに勝てそうにない。
いや────断定する。勝てない。
元々自分はそこまで戦闘には向いていないのだ。今までだって貰った武器とお得意の策で欺いて乗り越えてきたってだけで。
「かもな。襲わないっていうんだったら……まいっか」
帽子を被り直す。
「……割とあっさりと信じるんですね。敵の言葉を」
「だって、戦っても勝てそうにないんだもん。どうあがいても」
「それとえらく正直ですね。絶望しましたか」
「『開き直った』、と言ってくれ」
ドヤ顔で踏ん反り返る。
「……訂正。バカ正直ですね」
「よく言われるよ。バカだって」
長髪の男はスッと信晶の手を指す。
「……それ、返しますので」
「えっ? ……わぉ! いつのまに!!」
手にはあげたはずの花束が。
「やるなーお前! 参ったわ、俺の十八番まで簡単に真似されちまうなんて!」
はっはっはっと信晶は特に気分を返すこともせず笑い飛ばす。
長髪の男は『馴れ馴れしいなこいつ』という目で見つめてくる。
「で、いいのか? 花添えなくて。お前の家族……たぶん母親なんだろ?」
長髪の男は焼けた遺体に目線を移す。
「……ボクの記憶にはないので。添えられても……この人はツマラナイでしょうから」
「……。そか。ま、俺が花もってても何だから。俺が代わりにお前の母親に添えとくわ」
この人も吹きっさらしも嫌だろ、と簡易的な墓穴を作り丁重に長髪の男の親族を穴に入れる。
「記憶になくても、手ェぐらいは添えてやれよ? 余計な世話だけどさ」
花を墓石がわりに添えて。
「……不可解です」
「そうか? まぁ火葬スタイルが基本だし、土葬ってのもちょっとて感じだけど……」
「────そうではありません」
「……あり?」
論点違った? と信晶は首を傾げる。
「なぜあなたは、関係のない他人のために花を添えるのですか?」
「記憶のない誰かさんにも聞かせたいね。逆に聞くけど、なんでお前はここに来てんだ? もう知らない他人のために」
「……」
「……あ。わり……今のは当たりが強かったよ、な」
さっきの遺体の人と自分の親と重ねたからかもしれない。いつのまにか当たるような口調になっていた。
「……いいえ。特に気は害していません。ただ改めて、そう思っただけです」
……なぜここに来ようと思ったのか、彼は自分でもわかりかねている。
「ズバリ! 次に君は、『もう一つ聞いてもいいですか』と言う!」
「……もう二つ、質問をしてもいいですか?」
「……あれ? もう一つ増やされた……。ま、別にいいぜ。時間ならいくらでもあるし」
長髪の男は、『では』と言って、俯けていた顔をようやくこっちに向けてくれた。
「────あなたはなぜ笑えるのですか」
彼は空に指を指し、
「数えきれない人が死に、大気も汚染され、空も赤く染まった。平和な以前の世界を憂うしかない今に────絶望しかないこの世界で……あなたはなぜ笑えるのですか」
無機質な赤い目をこちらに向けて、彼は信晶に問いかける。なぜお前は……未だに希望を捨てていないのかと。
「なんで笑えるか、か────んなん知るか。俺はセラピストでも学者でも哲学者でもねぇ」
「…………無知ですか。ツマラナイ答えですね」
きっぱりと言い切った。知らないものは知らない。だが、
「強いて言うんなら────それが俺の生き方だからだ」
長髪の男────カムクライズルは、この時初めて彼に興味を示したのかもしれない。
「みんな辛い目にあった。大事な人も居場所も全部無くした。……けどさ。一人が笑わなきゃ、誰も笑えないんだよ。俺も多くのものを失った。────だが俺はまだ生きてる。俺が笑わなきゃ誰が笑う」
「……不可解です。ただ死を待つしかない生に、意味をもたせたいだけでは」
「そうだな。けどさ、そんなの、どんな状況でも同じだ。いつか人は死ぬ。それでも死ぬんならせめて笑っていきたいじゃん? 楽しく生きたいじゃん」
軽口ではあるが、彼は己の人生観を説く。
「……ヤケクソでは」
「それでもだ。俺が笑わなきゃみんなが笑わない。俺がいくらすごいマジックを披露しようと俺が笑わなきゃ、それこそ、みんなツマラナイんだよ」
いつまでもしみったれた顔をしているこの男に、にっと笑みを向けてやる。
「手品師はみんなを笑わせんのが仕事だ。喜ばせんのが仕事だ。だったらさ、
──────俺はいつでも笑ってなきゃ」
だって俺は手品師なんだから。
***
『────何にだってなれるよ……日向くんなら』
***
「……」
「どした?」
「……いえ。なんでも。……………やはり絶望だけが予想不能というわけではないようですね」
最後の方はうまく聞き取れなかったが、どうやら満足した答えは返せたらしい。
「……最後に一ついいですか?」
「あぁ、質問は二つだったよな」
「……そう気構えなくてもいいです。これは一つ目に比べればツマラナイ質問ですから」
***
『才能があろうと無かろうとさ、それよりももっと大事なことがあるはずでしょ?』
『───自分自身を信じてあげること。』
『それができなかったら、いくら才能があっても自分に胸なんか張れないよ』
おそらく今自分の前にいる人も────
おぼろげに残る『あの人』も。
自分にはない、
才能よりももっと大事な物を持っている。
『才能を持つことがゴールじゃないよ』
記憶にない世界。記憶にない誰か。
忘れずにただ形だけ残る、残響。
『やれば、なんとかなるっ』
夕焼けの、かすかに残る記憶の残滓。
あの時、薄く微笑みを浮かべてそう言ったのは、きっと──────
ボクが最後を看取った、
────『あの人』だったのでしょう。
***
「────才能を持つ者にあって、才能を持たない者に有るものはなんですか」
「それ、俺に聞くか?」
もっと普通の人とか他に適役いるだろうに。と吹き出す。
「変わったやつだな。お前。他に聞く相手がいなかったのか?」
「まともに会話のできる人間が他にいませんでしたから」
会話のできる人間……他の絶望の残党のことだろうか? まぁ、これだけの無差別テロを起こした一団だ。話が通じないのも理解できるが。
信晶は目をつむって腕を組む。
「俺の手品すぐに真似できちゃうくらい器用そうなのに、色々悩んでんだな、長髪さん」
「……変なあだ名をつけるのはやめてください。それとも……無いということでしょうか」
「ん〜。そうだなぁ。やっぱし……協調性かな」
カムクラは首を傾げる。
「……協調性」
「たぶん才能のある人も楽ばかりじゃないと思うぜ? 他人に『あいつは俺とは違う』『あいつには才能がある』って言われて、遠ざけられるし」
***
『俺は、君たちと違って特別な才能なんて無いし……』
***
「……」
「でもさ、自分と全く同じ人間がいると思うか? いないだろ。みんなそれぞれ違って、どっか似てるんだ。運動が得意。手先が器用。物覚えがいい。できるできない、みんな違う。みんな、どこかしら欠けてるものがあるのにさ」
「……例外はあります。あなたは完全な人間として造られたボクを除いて言っている」
「完全ねぇ……俺に物を聞いてる時点で、お前はすでに不完全だよ」
「……」
「それに完全無欠な人間が、自分のしている行動を正しく理解してないと思うか?」
矛盾を指摘されカムクラは沈黙する。
「誰しも、誰かの力が必要なんだ。欠けてる部分を誰かで埋めてるんだ」
「……だとしても理解不能です。欠けた物の多い人間が幸せだとは思えません」
「本当にそうか? 俺を見ろよ。お前に比べれば口先と手品以外、ほとんど取り柄のない男だぜ? 色々なものが欠けてるけどさ……俺なりに自分が幸せだと思ってる」
「……なぜですか」
「もちろん、一緒にいて楽しい奴がいてくれるからさ」
ししし、と信晶は笑った。
***
『ゲームは一人でやるよりも、みんなでやった方が楽しいよ?』
『────お前ら予備学科の人間と、本校の生徒は住む世界が違うんだ。少し本校のやつと仲良くなったからって勘違いするんじゃねぇ』
***
「ですが、才能を持つ人との間には大きな壁があるのではないですか? あなたは例外としても、他の人は住む世界が違う」
「────誰かにそう言われたのか?」
「……」
「誰が言ったか知らないけど、そんなの気にすんなよ。人との間に壁なんてない。自分で勝手に作ってるだけだ。住んでる世界が違う? じゃあ、俺たちの踏んでる地面はなんだよって。また言われてムカついたら、そう言ってやれ」
なっ? と片足で地面を叩く。
何も気にすることはない。他人の言うことを聞きいれるのも自分次第、と信晶は告げる。
「自分の信じたいものを信じればいいんだよ」
「……」
「それにさ。才能がないって言うのも悪くないと思うんだ。個人的にさ」
俺も手品の才能に気がつく前は何もなかった、と。
「何も取り柄がないからこそ、より多くの人と繋がろうって、力を合わせて自分一人じゃできないことをやろうって、そう思えるんじゃないかな?」
「……協調生……絆、ですか」
「一人じゃ何もできなくたって……他人の力を合わせれば、できないことなんてねぇよ。そうして起こりえたことを、人は『奇跡』って呼ぶんだ」
『希望』とカムクライズルは小さく呟いた。
「誰よりも自由で可能性があるってのも……才能に『縛られない』人だけが持ってるものとも言えるのかもな」
『無い』のではなく、あえて『縛られない』と言い換え、信晶は帽子から水の入ったペットボトルを一本取り出す。
「お前も『絶望の残党』みたいだけど……お前はなんか事情があるんだろ? こんなご時世、飲み物も貴重だし、よかったら一本……ってあれ?」
振り向いた先には────もう彼はいなかった。
***
「……やはり、試さなければ」
カムクラは手の上に乗せた髪飾りを見つめる。
「あなたと彼女の言った『希望』は、『絶望』を打ち破れるか、否か」
『また会おーねー♪ あたしはいつでも────あなたを利用してあげるからさっ』
『希望』は自分にわずかに残る記憶の残滓を元に、プログラムに再構成……残るは『絶望』。あの女の、人格データを回収しなくてはならない。
「江ノ島盾子。今度はボクが────あなたを利用する番です」
本編ではご退場になってしまった信晶くんの久々の登場でした。
相変わらず臭い言い回しです。そこがいいかもだけど。
ちなみに、ダンガンロンパ2の七海は、3絶望編のオリジナル七海を元にしてカムクラがプログラミングしたのかな、と思っております。
皆様はダンガンロンパはどこまで見ていますか?
-
初代まで。アニメも含む。
-
2まで。3やV3は知らん。
-
絶対絶望少女まで。
-
v3まで。全部やったお!!
-
1のアニメor3のアニメのみ。