絶対虚構少女 ダンガンロンパ舞園 ~亡き希望達の学園死活~ 作:ゼロん
「お願いです。不二咲さんと――二人きりに、してくれませんか?」
「……」
和樹がためらいの色を顔に浮かばせる。
当然だ。先ほどまであれほど取り乱していた舞園が今度は何をしでかすかわかったものではない。凶器もある部屋で
そんな中、不二咲は和樹に声をかける。
「和樹くん、ボクは大丈夫。心配しないで」
「わかった。けど不二咲……」
「本当に大丈夫だから。だって、舞園さんは……もう人を殺さない」
「……ッッ!!」
舞園は突如走った痛みを和らげるため、手を胸に押し当てる。眉をひそめ自責の色が瞳に映る。
和樹はもう何も言うことはないらしく、部屋の中を振り返ることなく静かに扉を閉める。
「不二咲さん……ごめんなさい……」
「ま、舞園さん!?」
舞園は不二咲の前で崩れ落ち、両手で顔を覆い隠す。自分の顔など見せる資格がないとでも言うように。
「私、私は……強くなれなかった……」
首を横に振り『もう立ち上がることはできない』と、舞園は顔を下げる。
「約束……したのに。不二咲さんと……私……約束したのに、強くなるって……」
「舞園さん……」
「結局、私はダメな、ままなんです……。いつも周りに支えてもらうばっかりで……自分では何にもできない……どうしようもない人なんです……」
不二咲は迷った。自分はここで何を言うべきなのか。
どうすれば、砕けかけている舞園の心を再び動かすことができるのか。
迷いに迷い、女を装った自分ではなく、男としての自分としてどう言葉を出すべきなのか。
答えは――
「それは違うよ。舞園さん」
「……え?」
彼が会った中で最も勇気を持っていた少年の言葉を、借りることにした。
▲▲▲
「舞園さん、少し聞いてほしいことがあるんだ」
「……」
舞園は顔から手をどけないまま、黙ってこくりと頷いた。
「実はボク……男の子なんだ」
「え……?」
舞園は余りの驚きで顔を覆っていた両手を解き、不二咲の方を見つめる。
下手くそな冗談のようで信じられない。不二咲が男の子であり、男の娘だったなどと。
てっきり女装男子なんて、漫画やアニメの世界だけかと思っていた。
「ごめんね。ボク、周りから何かを言われるのがどうしても嫌で……今までみんなをずっと騙していたんだ」
『自分の弱さを隠すために女装までした』と苦笑して不二咲は舞園に告白する。
事実だとすれば不二咲は、一見女子と疑ってしまうくらい細身で華奢な体だ。そんな彼に女性の服を着せたら絶対に一目では男子と気づけないだろう。
「ど、どうして、その話を……?」
「前にね、唯一この事を打ち明けた人がいたんだ」
舞園は不二咲に再会した時に話してくれた彼の死亡の経緯から……ある一人の人物が思い浮かんだ。自分と怜恩と同じく、不二咲と会って気まずそうに顔を歪めた人物。
「そう、ボクを……事故で殺してしまった
――やはり。
「ボクはモノクマに脅されるまではずっとこの秘密を隠していくつもりだった。けど……ほんの少し勇気をもって大和田君に相談したんだ。ボクの理想に最も近かった彼に」
不二咲はその時のことを思い出したのか、微笑を浮かべる。
「そしたら大和田君は……こう言ってくれたんだ。『お前の秘密は絶対に誰にも言わない。男同士の約束だ』って」
――大和田君……。
どうして、そんな約束をできる人が不二咲を殺してしまったのか。舞園にはさっぱり理解できなかった。よほど追い詰められる何かがあったのか……それとも……
「その時はすごくうれしかったんだ。ボクが最後の最後で絞り出した勇気を、大和田君が後押ししてくれた、そんな気がして」
「……」
「舞園さん、ボクは君をどうしようもない人だ、なんて思わない。誰だって……そんなにすぐに強くなれるわけじゃないんだ。ボクなんて十年たっても自分の弱さと向き合えなかった」
「ボクは本当に強い人っていうのは色々いると思うんだ。霧切さんや十神君みたいに、最初から強く見える人と、ボクや苗木君みたいに、一人だけじゃ頼りなくて周りの人に支えられて強くなる人」
「けど……私はどちらにもなれなかった……! 後者にだって……」
「大丈夫、舞園さんはきっと強くなれる。あとは……ほんのちょっと勇気を出すだけだよ」
▲▲▲
しばらくして、疲れ切った舞園と不二咲は各々のベッドで眠りについた。
二段ベッドの下の段で、すぅすぅと静かな寝息をたてる不二咲。
「……。」
しかし舞園は起きていた。
手洗いに行くふりをし不二咲が寝静まった後、舞園は物音をたてないように不二咲の前に近づく。一歩一歩と近づき。
「――っ」
たまたま近くに落ちていた包丁を拾った。
「……こんなもの、料理以外の何に使えって言うんですか」
「そりゃあ、刺殺のためだよ」
「ッ!?」
舞園が後ろを振り返ると、そこには薄ら笑いを浮かべる熊人形――モノクマがいた。
「モノクマ……!? どうしてここに……」
「そんなことよりもさぁ、覚えてる? 舞園さん」
――何を。
「今のこの状況。君がボクと最後に見た景色とそっくりじゃないかなぁ?」
舞園はハッと辺りを見回す。暗い部屋。自分の手に持った包丁。与えられた殺しの動機。
そして……
「今ならこーんな
「……」
モノクマは寝ている不二咲のベッドに近づき、寝顔を拝見。『のんきなもんだよね、うぷぷっ』と呟き、舞園の方へ向き直る。
「キミだって、本当は生き返りたいんでしょ? キミがいなくなった後、
「……そのために
本末転倒だ。
それに……もうここにいる人達はもう既に一度死んでいる。それも残酷な方法で。
もうこれ以上彼らには自分と同じ気持ちを味わってほしくなどない。
絶望と裏切りの中で死ぬなど、もう――
「んん? あぁ、そっかぁ。君が本当に気になっているのは――」
「……『苗木君が生きているか』だったねぇ」
「――ッッッッ!!!!」
見抜かれた。舞園の心を……完全にモノクマは見透かしている。
「かわいそうな苗木君。信じていたキミに裏切られて、それでも残酷な現実を忘れようとせず、死んでしまったキミのことをずっと
「やめ、てぇ……」
モノクマは『およよ』とハンカチを取り出し、わざとらしく泣きマネをする。
それでもモノクマの言葉は確実に舞園の心をえぐった。
「けど……大丈夫だよ、舞園さやかさん。君は全てを変えるための、生き返るためのチケットを、もうその右手に握っているじゃないか」
「みぎ……て……?」
すっと自分の右手を持ち上げる。その右手には先ほど拾った包丁がギラギラと微かな部屋の明かりに反射し輝いていた。
まるで舞園を
「ち、違う……こんなの……おかしい」
不二咲千尋を……殺す……?
「何が? 生き返るという目的のために何でもする。君がアイドルをやってきた時からいつもやっていたことじゃないか」
「ちがう、こんなの、人殺しなんて……間違って」
「うぷぷ、おかしなことを言うねぇ舞園さん。彼らはもう――死んでいるんだよ?」
モノクマは半身の赤目から微かに光を放ち、舞園にささやく。甘く、甘く……舞園の良心を捻じ曲げる言葉を。
「どうせ、彼らはこのまま何もしなくても転生して、自分じゃなくなっちゃうんだ。今までの記憶も思い出も容姿も、人格もすべてなくなってしまうんだ。――それって、ここで殺されて消えちゃうことと何が違うの?」
「そ、それは……」
自分が自分でなくなる。それは確かに死ぬことと同意だ。
ここで待っててもいずれ、舞園も、不二咲も、大神も、桑田も、大和田も、セレスも、朝日奈の弟も。みんな消える。
それは死ぬことと、消滅と何の違いがあるのだろう。
「けど……けど……! そんな考え、おかしい。まともじゃない……とても正気じゃない」
『仕方がなかった』『どうしてもやる必要があった』
言い訳をしても結局は自らの欲を満たすためだけに他人を傷つけ、亡き者にする。その正当化など、どうやってもできない。
できたとしたら……もうまともな精神状態ではいられない。
「いいじゃないか。しようよ。贅沢。ここには社会もモラルも警察も何もない。殺して生き返れたら、黙っていればいい。だれもキミのことを告発しないよ。だって死後の世界での出来事なんて、誰も知りようがないんだから」
モノクマは『ハハハハッ』とケラケラ笑い、どこから取り出したのか、警察官の帽子を床に叩きつけ、ゲシゲシと踏みつける。
「それにねぇ、君には愛しの苗木君と再会するという立派な動機があるじゃないか。いいの? ここにずっといたら、それも叶わなくなっちゃうんだよ?」
――苗木君と、会えない。
「もしや、会いたくないの?」
――会いたい。
会いたいに決まっている。
また彼と言葉を交わしたい。彼と会って謝りたい。彼ともっともっと仲良くなりたい。
そして彼に『好きだ』と――
「想いを伝えたいよねぇ。苗木君に」
キエタクナイ、きえたくない、消えたくない。
自分が自分でなくなるなんて。そんなのは嫌だ。
舞園はプルプルと震える手で包丁を構え、不二咲にゆっくりと近づいていく。
「約束するよ。君がクロになってくれた暁には、ボクが君を生き返らせてあげる」
「……本当なん、ですか?」
ちっちっちっ、とモノクマは指をふる。
「フフフ……ボクのことを甘く見てもらっちゃ困るぜ、舞園さん。なにせ、ボクはこの世界、再生学園の全てを知り尽くしている。もちろん、生き返るシステムのこともね」
「あなたの話……少し私に都合が良すぎるんじゃないですか?」
「なぁに、舞園さんは前回のコロシアイのスタートを切ってくれたでしょ? 今回はそのちょっとしたお礼だよ」
人を一人二人生き返らせるなんて安い安い、とモノクマはまるで神になったかのような口ぶりで言う。
――だがその真剣な口ぶりから嘘だとは思えなかった。
「だから……遠慮なく、どうぞ?」
そう言って、モノクマは不二咲への元へ向かう邪魔にならぬように脇へ退く。
ふら、ふらっと戸惑いながら、ためらいつつも舞園は不二咲の元へ近づく。
起こさないようにそっとそっと。
そして――
「すぅ……」
寝息をたてる不二咲の目の前に立つ。包丁を右手に持って。
「うぅ……ん……」
不二咲はうなされているのか、寝返りを打つ。だが起きる気配はない。
いまなら容易く、寝ている彼の細い首に包丁を突き立てることができる。
『さぁ早く早く。起きちゃうよ?』とモノクマが急かしてくる。
しかし、これで……これで本当にいいのだろうか?
恐る恐る包丁を不二咲の首に向ける。
生き返れるのか。また苗木に会えるのか。いや、会っていいのか。
こんなことをして苗木に、生き残った人たちに会わせる顔があるのか?
けど――何もせずここにいたら自分は……。
「舞園……さん……」
「ッッ!?」
突然名前を不二咲に呼ばれ、包丁を引っ込める。
起きたのか? いや、まぶたが開いていないところを見るに、どうやら寝言のようだ。
「でよ……う……」
いつもの引っ込み気味で、自信がなくて、それでも……穏やかで柔和な笑みを浮かべ、彼はうわ言を呟いたのだ。
――声が小さくてよく聞こえない。
舞園は慎重に耳を澄まし、彼の言葉に耳を傾ける。
「みんなで……出よう……絶対に、大丈夫……だから……」
その瞬間、いくつもの言葉が舞園の脳裏をよぎった。
『あなたなんて信じられるはずがないじゃない』
自分の過ちから産まれた言葉。
『道なんて、間違ったら戻ればいい』
過ちを話して産まれた言葉。
『わたしはあなたを信じます』
自分の過ちを受け止めた人から産まれた言葉。
『誰だって最初は強くないと思う』
『――大丈夫、舞園さんはきっと強くなれる』
誰よりも自分に自信がなくて、それでも強くなろうと、変わろうとした人の言葉。
『絶対にここから出よう』
そして自分が誰よりも信じ、いつも希望を与えてくれた人の言葉を。
寝言でも言ってくれた彼の言葉と同じ言の葉を。
「どうしたのかな? 舞園さん。殺さないの?」
「――もうたくさんです」
――舞園は信じることにした。
「ほ?」
「シロかクロかなんて……もうたくさんです!!」
舞園は右手を振りかぶり、包丁を勢いよくモノクマに放り投げる。空中で三日月のような弧を描き、モノクマの額を目掛けて飛んでいく。
「ちょっ!?」
モノクマは勢いよく包丁を避け、空中で見事な回転をキメて着地する。
「なにするのさ! ボクのキュートなボディが大けがをするところだったじゃないか!!」
「もうだまされません。もう絶対に同じ過ちは犯しません!」
「どうしたの一体!? まさか……ボクと一戦交えようってわけじゃないだろうねぇ?」
「えぇ望むところです。あなたの思惑通りなんて、もううんざりです!」
言った。言ってしまった。もう絶対に引き返せない。
「ふざけないでくれる? 生き返るためのチケットを渡すのはボクなんだぞ! こんなことをしてタダで済むと……!」
「……ふふっ、モノクマ。あなたはさっきこう言いましたよね。『ボクはこの世界を知り尽くしている』って」
可笑しくてつい笑みが零れてしまう。
モノクマが自分をハメようとしたせいで、自分に決定的な……希望を与えるようなボロを出してくれたのだ。笑わずにはいられない。
「それがどうしたっていうんだ!! 君たちが
「それは違います!!」
モノクマは面食らったような顔をした後、舞園が一歩モノクマに詰め寄る。
「この学園には……あなたが生き返りをできると私たちに提示できる……根拠があるってことですよね……!?」
「あっ……!?」
モノクマが『しまった』と口を塞ぎ、焦るのを見て、活路が見出せた。
消えない方法は……生き返る方法は他にもある。
「モノクマ、あなたの目的がどうであれ、もうこれ以上……私と同じ悲劇は起こさせません。私が絶対に止めてみせます!」
「……」
モノクマは舞園の宣戦布告を受け、動きを止めた。
舞園はそれを不信に思い、モノクマに呼びかける。
「モノクマ……?」
「ぷっぷはっ、ハハッ・・・・・・ハ~ッハッハッハッハッハァ!!」
突然大爆笑を始めたモノクマに戸惑い、後ろに下がる舞園。
「止めるぅ? ちょっと希望が見えたからって調子にのっちゃってまぁ……。そんなの、できるわけないじゃん」
「わかりませんよ? それに……あなたがここにいるということは、あなたは前回、
「うぐぅ……!?」
「それも苗木君たちに」
「ぐぐぐ……!」
「図星ですか。ざまぁみろですね」
――さっきのモノクマの口ぶり。聞き逃さなかった。『苗木君に再会するために』『苗木君に会いたいよね』。
生き返れば苗木に会えると言っているようなものだ。
「……早くここから出て行ってください。ここは私と不二咲さんの部屋です」
「ぐぐぐ……せっかく部屋を与えてやったっていうのに……!」
『いいよ、ふん!』と怒って扉の前へひょこひょこと歩いていくモノクマ。
「もう私は絶望に屈しません。――このコロシアイは絶対に止めてみせます。私……いえ、私達の手で!」
「どこから来るんだい? その根拠のない自信は」
モノクマは『つまんないの』と言いたげに憎まれ口をたたき、
「まぁ、いいや。――なら、もう一度君を絶望の淵に沈めてあげる。『最悪』に底なんてないってこと、たっぷりと教えてやるよ……うぷ、ぷぷぷ、ぷあ~はっはっはっ!!」
部屋の扉の前で邪悪に嗤い、姿を消した。
「んあ……。舞園、さん……? 今モノクマが……」
モノクマが大声で笑うものだから起こしてしまったようだ。
不二咲は目をこすり、眠たそうに舞園の方を向く。
「大丈夫です。モノクマがちょっかいを出してきただけです。もう追っ払っちゃいましたから」
「そ、そうなんだ……よかったぁ~」
不二咲は安堵したのかほっと胸をなでおろす。本当にさっきのは寝言だったのか。
……少し確認してみよう。
「ふふふ……不二咲さん、絶対にみんなでここを出ましょうね」
「えぇ!? なんで、ボクが考えてることを……!?」
寝言で不二咲が自分から呟いていたのだが。
『ど、どうして僕の考えてることを……!?』
かつて苗木とこんな会話をしたこともあったか。
「だって私、エスパーですから」
だから舞園は――あの時と同じ言葉を、不二咲に送った。
▲▲▲
「まっっさか、舞園さんがボクに逆らうなんて……意外だったなぁ~もうちょっとで騙せるところだったのに」
舞園に最後の最後で抵抗され、ひょこひょこと廊下を歩くモノクマ。
「そしたら噂が本当になって絶望していたのかな? 『舞園さやかは人殺しの人格破綻者でした』って! みんな『やっぱり』って。『信じてたのに!』って言ってさぁ! ぶひゃひゃははははっ!」
「絶望を止めるだってぇ……? 違うね。ここからまた始まるんだ。本当の絶望が……ね。だって、ボクは――君たちに絶望を与えるために、ここにいるんだから」
廊下に響くモノクマの笑い声。
しかし……この時のモノクマは、舞園に言われた言葉が本当のことになるなど、予想すらできなかった。
「うぷ、うぷぷ、う~ぷっぷっぷっぷっぷっ、は~っはっはっはっはっ!!」
こうして、舞園達、死人の絶望ゲームは幕を開ける。
――
皆様はダンガンロンパはどこまで見ていますか?
-
初代まで。アニメも含む。
-
2まで。3やV3は知らん。
-
絶対絶望少女まで。
-
v3まで。全部やったお!!
-
1のアニメor3のアニメのみ。