ダンジョンにハグレ王国がいるのは間違っているだろうか 作:ひまじんホーム
~ポッコファミリア ホーム~
どんどこ、どんどこ、どどんご・・・。どんどこどんどこ!どっどっ!
どんどこ、どんどこ、どどんご・・・。どんどこどんどこ!どっどっ!
奇怪な音楽がポッコファミリアに響き渡る。そして、その音楽を聴いた子供達が一人、また一人とその音楽に合わせて奇妙な踊りを踊り出す。いつもは子供組の奇行を諌める役割のベル君ですらそれに抗うことは出来ない。
「まずい、これは・・・踊り時空か!」
踊り時空とは、子供達の祭り熱が一定値を越えると発生する特殊な力場である。既に踊り時空はホームの大部分を侵食しており、唯一、朝食の用意をしていたローズマリーだけが難を逃れた。
ローズマリーは朝食の仕度を一旦中断して会議室に急ぐ。しかし、事態は既に最悪の段階に至っていた。
「「「お祭りだぁあああ!」」」
「「「踊らせろぉおおお!」」」
「「「屋台!たこ焼き!じゃが丸君!」」」
既にお祭りギャングと化したお子様達から抗議の声が上がる。
そう、今日は怪物祭〈モンスターフィリア〉当日。なまじ祭りの準備作業員として仕事をしていたが不味かったのだろう。日に日に高まっていたお祭り熱は、今日、ついにここに至って爆発したのだ。
「まったく、何時までも子供なんだからどんどこ。お祭り程度ではしゃいじゃってみっともないわどっど。」ドンドコドドンコ
「ミアさ~ん!?語尾!語尾!本音駄々漏れ!」
頼れる大人組のミアラージュですらしっかりと踊り時空に毒されていた。
「キミ達ねぇ、今日の仕事はギルドから請けた正式なものなんだ。今さらクエストを断ったりしたらファミリアの信用に関わるよ?わかっているのかい?」
「でもぉ・・・。」ジワァ
「お祭りぃ・・・。」グスッ
「う゛ぅっ・・・。」タジッ
悪魔公爵すらビビらせる鬼畜参謀ローズマリーにも弱点がある。それは子供の、とりわけデーリッチの涙である。
しかし、ここで負けては子供達の教育の為にならない。ローズマリーは意を決して説得にかかる。
「・・・まぁ、警備の仕事もシフト制みたいだし、1日中張り付くわけではないだろう。むしろ運が良ければ客席よりも近くで催しが観られるんだから役得じゃないか。仕事が終わったら屋台巡りでもしようよ。他の皆も今日は自由行動にするからお祭りを楽しんで来たら?」
「「「いいの!?」」」
「それなら・・・、いやいやいや!それじゃあデーリッチは結局お仕事じゃないでちかぁ!?」
これがローズマリーの悪魔的交渉術。たった一言でクエストチーム以外の全員を取り込んでしまった。元よりクエストチームの中でも、ルフレと柚葉は流石に一応大人だけあって仕事優先やむ無しという立場である。
事ここに至り、デーリッチの味方はいなくなる。団結していないお子様軍団ではローズマリーに勝利することなど不可能なのだ。
「相棒、諦めなどんどこ。その代わり相棒の分までヅッチーが屋台グルメを堪能してきてやるぜどっど!」ドンドコドドンコ
「それ自分が思いっきり楽しんでるだけじゃないでちかー!?」ガーン
「ごめんね、デーリッチちゃんどんどこ。僕もお仕事をほったらかしにするのは良くないと思うんだ。終わったら一緒に遊ぼう?どっど。」ドンドコドドンコ
「なんかもう、語尾のせいで慰めにもなってないでち!?」ウワーン
「まぁまぁ、デーリッチ。観客席よりも近くで観戦出来るのは本当だし、お仕事を頑張った後は屋台で好きなモノを買ってあげるから。ね?」
「うぅ~わかったでち・・・。」グスッ
渋々ながらもデーリッチはローズマリーの提案を受け入れた。
――――――――――――――――――
~オラリオ東区 とある喫茶店~
怪物祭〈モンスターフィリア〉の開催を目前に控え、いつにも増して観光客でごった返す闘技場近辺。そんな町の華やかな喧騒を他所に、厳しい険相の神ロキと献奏に靡く神フレイヤ。向き合う二柱の神はその態度も、大きさも対称的であった。
ロキはその細い目尻を吊り上げて更に細くしながら問う。
「今度は何企んどる?またどこぞのファミリアの子供を気に入って、ちょっかい出そうとしてるんか?ったく、いさかいの種ばっかり蒔きおって。この色ぼけ女神が。」
「あらぁ?分別はあるつもりよ?」
「抜かせ!」ガシャ
最近、妙な動きをしてると思って問い詰めてみれば、悪びれる様子もなくそれを肯定する。昔っからそうだ。こんの色ぼけ女神は周りの迷惑も考えんと好き勝手しくさる。まぁオラリオにいる神なんて大抵ロクデナシなのだが、フレイヤについてはそれを実行する行動力と、実現する組織力があるからなおタチが悪い。
「・・・責任は取れるんやろなぁ?」
「当然よぉ。少しつきあってもらうことになるかもしれないけど。」
まるでこれから騒動を起こすことを宣言するように、そしてそれにロキを巻き込むことすら当然のようにフレイヤは告げる。
「けっ相変わらずやな。で、どんな奴やぁ?自分の狙てる子供っちゅうのは?」
「綺麗だった。透き通った魂の色をしていた。私が今まで見たことのない色をしていた・・・。一人は頼りない、少しの事でも泣いてしまいそうな、そんな子。後の四人は色とりどりの優しさと情熱を兼ね揃えた煌めきを映し出す、そんな子。」ウットリ
「何や五人もおるんかい。えろう豊作やないか。ハーレムでも作るんか?」オン?
「ロキ、貴女良いこと言うじゃない。そうね、そうしようかしら。」ハッ
「茶化すなや!」ゴルァ
「あら、私はいつだって本気よ?貴女のおかげで迷いがなくなったわ。有難う、ロキ。」ニッコリ
「コイツは・・・。」ウヌヌ
一々相手をおちょくるような言い回しをしてくるが、この色ぼけ女神はいつだって本気だ。自分の発言が何やら悪い方向に後押しをしてしまったらしいことにロキは額に手を当てて唸る。
「見つけたのは本当に偶然よ。たまたま視界に入っただけ・・・、!」ガタッ
語りながら何かを思い出したかのようにフレイヤは突然席を立つ。
「御免なさい。急用が出来たわ。」
「はぁ?お前いきなり・・・。」
「また会いましょう?」
「何やあいつ・・・って、勘定もこっちかいな!?」
言いたいことを言うだけ言ったフレイヤはちゃっかり食い逃げをしていく。
それを見送ったロキは何か最近食い逃げに縁があるなぁとおかしな方向に思考が逸れていった。
―――――――――――――――――
~闘技場~
「では皆さんの持ち場はこちらの闘技場になります。基本的には観客の誘導が皆さんの担当です。もしも、万が一、億が一でも、モンスターが観客席に入り込むことがあったら、周辺の観客だけ逃がして、無理に倒そうとせずに救援が来るまで時間を稼いでください。レベル1の皆さんでは絶対に勝てませんので。まぁそんなことにはならないでしょうけど。」
「それフラグじゃあ・・・。」
「シッ、デーリッチ口にしたら本当になる。」
安全性には自信があるのだろうが、やけにもしもを強調されては逆に不安にもなってしまうのは仕方ない。どんな物語においても絶対なんて言葉はひっくり返される為にある言葉だ。
そんなモヤッとした不安を胸にガネーシャファミリアの現場担当者から仕事の説明を受ける。臨時で採用された冒険者にはレベルに応じて仕事が振り分けられるようなのだが、全員レベル1の彼女達は冒険者といえどもせいぜい一般人よりは強い程度の認識なので、比較的危険度の低い仕事が割り振られた。
「観客の誘導なんて楽勝じゃないでちか。これで祭り見物も出来るなんて、大儲けでちー!」デーチッチ!
「とても朝グズッてた子の発言とは思えないね。まぁやる気を出してくれるのは良いことだけど・・・。」マッタクモウ
そうして怪物祭〈モンスターフィリア〉は幕を開けた。
―――――――――――――――――
~闘技場~
『お待たせしました!これよりモンスターフィリアの花形、ガネーシャファミリア所属のテイマーによる、モンスターテイムを開催致します!』
場内にアナウンスが響き渡ると、闘技場の中央から大型の猪型のモンスターが入れられた檻がせり上がる。それに相対するのは仮面を装着し右手に鞭、左手に轡を構えた一人の男性テイマー。
そして檻が開かれると同時に突進を仕掛けるモンスター。一方、テイマーの男性はそのモンスターの額に手を当て、まるで跳び箱を跳ぶようにヒラリと宙に舞い、そのままモンスターの背に取りついた。そうなればもうテイマーの思うまま。轡を嵌められ、進む方向も自分で決めることを封じられたモンスターは何とか背に取りついた邪魔物を振り落とそうと暴れる。しかし、その度にテイマーから鞭を浴びせられ、次第に抵抗が無駄と悟ったモンスターは暴れるのを止めて大人しくなっていった。
「う~んお見事!鮮やかなお手前でちねー!」
「デーリッチ、私達はあくまでも仕事でここに来ていることを忘れちゃダメだよ?ちゃんと客席の方も気にしないと・・・。」
客席の誘導の仕事はいざ催しが始まってしまえば暇なものである。それならば少しくらい祭り気分に浸るのも悪いことではないだろう。デーリッチを諌めるローズマリーも注意はするが、それを止めることはしない。
フゥッと溜め息を吐きながらも、ローズマリーは自分の持ち場に戻る。
せっかくだから私も少しくらいは楽しんでおこうか、と思った矢先にローズマリーの背後から声がかかる。
「ローズマリー。」
「あれ、柚葉?キミは反対側のブロック担当じゃなかった?何かあったの?」
「檻からモンスターが逃げ出したらしい。結構な数のモンスターが街に出てしまった。とにかく人手が足りず、戦える者は一人でも多く協力して事態の収拾を優先しろ、とのことだ。」
「えぇ・・・。」
絵に描いたようなフラグ回収ぶりに言葉を無くすローズマリー。
とはいえ、街中でモンスターが暴れることがあれば大変なことになる。この街に暮らすのはなにも戦う力を持つ者だけではないのだから。
「私とルフレは伝令役として各担当箇所を廻っている。お前はデーリッチを連れて先に行け。」
「了解。えーと、デーリッチは・・・と、あれ?」
ローズマリーはデーリッチが先程いた場所に目を向けるがその場所からはいなくなっていた。何処に行ったのか周りを見渡すとこの大喚声のなかでも聞き分けできる程度には聞き慣れた声が観客席の中から聞こえてきた。
「イエーイ!」パシーン
どうやらデーリッチはいつの間にか観客と仲良くなって一緒になって盛り上がっていたらしい。アマゾネスの姉妹らしい女性達と何故かハイタッチを交わしていたデーリッチに声をかける。
「デーリッチ!観戦はここまでだ。仕事だよ!」
「えぇ~もうちょっとだけ~・・・。」
「そうは言ってられないんだ。」ヒソヒソ
「何でちって!?」
またもグズるデーリッチだが、ローズマリーから現状を耳打ちされると真剣な目に変わった。
「お姉さんたち、ごめんなさいでち。デーリッチ、行かないといけないみたい。」スタッ
「えー、デーリッチもう行っちゃうのー?」
「もしかして何かあったの?」
「ちょっとお仕事が入っただけでちよ。チョチョイと片付けたらまた戻ってくるでち。皆はお祭りを楽しんでてね!」
「そお?せっかく仲良くなったのに残念ね~。」
「またね~デーリッチ~。ほらレフィーヤも照れてないでさ~。」
「べ、別に照れてなんていません!」
「ごめんね~この子、ホントに初対面の相手に慣れてないのよ。」
「あはは。ティオナちゃん、ティオネちゃん、レフィーヤちゃん、またね~でち。」
人と仲良くなる天才は何処へ行っても変わらない。デーリッチはいつだってこうして人の輪を拡げていく。きっとそれに救われる者もいるだろう。それはデーリッチが歩いてきた道で、これからも歩いていく道だ。
ローズマリーは優しく微笑みながらもデーリッチを連れて外へ向かった。
――――――――――――――――
~オラリオ東区 中央通り~
「まったく、せっかく祭り見物に来てみれば。」ビリビリ
「何で街でもモンスター退治せねばならぬのかの。」シュバ
お子様四人組でお祭り見物に来ていたが、その途中で犬型や猪型やニワカマッスル型のモンスターが街の人を襲っているのを見つけて直ぐ様救援に入った。
「二人とも文句は後!怪我した人に薬配るから怪我人をこっちへ連れてきて!ポッコちゃんも手伝って!」
「「「は~い。」」」
モンスター一体一体は大したことないものの、それなりに数が多い。戦う力のない市民の中には救助が間に合わず、死者はないものの怪我をする人はそれなりに出ていた。ベル君の指示に従って集められた怪我人は手持ちの回復薬で片っ端から治療されていく。
ヅッチー達も街中でしかも人とモンスターが入り乱れている状況では範囲攻撃は使えない。街の人の危険度の高いところを優先して救助し、避難路を確保しながら一体ずつモンスターを仕留めていく。
「でやぁ!プラズマクロー!!」ズババッ
「こやつで最後じゃな。ちょい。」フツウノパンチ!
ヅッチーとマオが最後のニワカマッスル型モンスターを片付けると、辺りからモンスターの気配が消える。離れた場所からその様子を見ていた住民たちからも安堵の息が漏れる。
「デーリッチちゃん達が心配だ。闘技場の方に行ってみよう。」
そうやって十数匹のモンスターを倒し、同じくらいの怪我人を治療し終えた彼女達は仲間と合流すべく闘技場へ向かった。
余談だが、後にギルドがこの事件を調査した際、小さな子供がモンスターを倒したとか、大怪我が一瞬で治ったなどという信に足らない証言が飛び交い、それらは損害賠償を不当に請求するための妄言だと判断された。
結果、このエリアの被害者はゼロと記録されている。
――――後編へ続く
後半はバトルメインになるかな~。
ちなみにフレイヤ様はクラネル君を鍛える為にちょっかいをかけてきますが、ハグレ王国には同じやり方はあまりしません。ハグレ王国のキャラを最も輝かせる方法が闘いではないと知っているからです。まぁ大抵は面倒なことになるのには変わりないですけどね。
あと、前話の後、ヘスティアはコタツ着たままヘファイストスに土下座して、一発ぶん殴られながらもちゃんとナイフは作ってもらってます。現在はお猿さんと鬼ごっこ中。
当初はベル君にナイフの代わりにコタツを託して、覚醒したベル君がこたつカウンターを編み出す展開を考えてたんだけど、さすがに話が壊れすぎちゃうので断念しました。しかしまぁ、いずれはきっと・・・。