ダンジョンにハグレ王国がいるのは間違っているだろうか 作:ひまじんホーム
待ってくれていた方がどれだけいるか分からないけど、大変お待たせしました。ちょこちょこ書いてたんですが、なんか考えがまとまらないでいるうちに気付いたら月日だけが経っておりました。
今回から天界も絡めたオリジナル展開に転回していく予定です。特に今話はちょっとふざけ過ぎたかもしれませんが、生温かく見守って頂けると幸いです。
~18階層某所~
18階層、リヴィラの街はずれの森。灰色のローブを身に纏った3人の冒険者が集う。
「例の男の荷物からは『卵』は見つからなかった。すでに持ち去られた後だろう。」
その内の一人、赤髪の女が苦虫を噛み潰した様な表情で口を開く。
「既に次の運び屋に渡ったのでは、と推測致します。」
「昨日の酒場にいた冒険者が怪しいなって思ってみたり?」
あとの二人は特に感情を見せることなく冷静に状況を分析する。
「幸い、と言って良いか分からないが、騒ぎになったことで広場に冒険者が集められている。そこで動きがあるハズだ。」
「結果オーライでしたね、と貴女の悪運を皮肉混じりに誉め称えます。」
「酒場にいた冒険者を見張ればいいんだよね?」
「昨夜から上層に上がった奴はいないのは確認してある。冒険者共の行動が制限されている今がチャンスだ。直ぐに動くぞ。」
「了解しました。」アイアイサー
「りょ~か~い。」ラジャー
赤髪の女の合図でサッと茂みに消え去った。ふざけた話し方をしているが、完全に気配を消して動いているあたり能力の高さを窺わせる。
「妹達【シスターズ】か…。なぜエニュオはこんな連中と手を組んだのか…。」
赤髪の女も一人ごちると、フードを被り直して歩みを進めた。
~処変わらずビリーの宿~
「どうなってやがる…」
目を覚ましてみれば自分を取り囲む人、人、人。知らねぇ顔も多いが、何人かはわかる。リヴィラの頭目のボールスと宿の店主…あとは…っ!コイツは勇者【ブレイバー】か!更に九魔姫【ナイン・ヘル】に剣姫【けんき】がいるってことはコイツらロキファミリアの連中か?一体どうしてこんな状況になってんだ?いや待てよ…一度落ち着いて思い出そう…。
確かリヴィラに来たのは怪しい男から承けたあるクエストの為だ。ダンジョンで荷物を運び、リヴィラの酒場にいる奴に渡すだけの簡単なクエスト。難易度のわりにえらい高額な報酬を得て、そのままその酒場で飲んでいた。
ツキは続くもんで羽振りよく呑んでいたら、えらい別嬪から声をかけられた。よくある花売りの女だろうが、自分の価値をよく理解しているらしく、それなりの高値と併せて宿の借りきりまで要求してきやがった。まぁそれでも今回の報酬から充分払える額なのと酒も入って気が大きくなっていたこともある。何より…へっへっへ、何よりこれ程の女とヤれる機会はそうはない。
しかし宿を借りきり個室のベッドで服を脱いでさあこれからって時に…そうだ!赤髪の女にいきなり首を絞められた!女のわりにトンでもねぇ力で絞められて…そのまま絞められて…?ゴキッという嫌な音が耳に残っているが、今こうして意識があるって事は何とか生きてはいるってことか。
ちょっと首を軽く回してみるがどうも動きにくいのは意識を失っていたせいだろうが、動くには動く。畜生…あの赤髪の女め、騙しやがったな…。ぜってぇ許さねぇ…が、何はともあれ周りにいる奴らは異常を察して宿に乗り込んで来たってところだろう。痛みも残ってないってことはコイツらが治療をしてくれたのかもしれん。
挨拶と礼くらいは言わねぇとな。
「俺はガネーシャファミリアのハシャーナ・ドルリアだ。どうやらアンタたちに助けられたようだな。礼を言っておこう。」
俺が上体を起こした体制でそう言うと目の前の連中が引きつった顔で一歩後ろに下がる。
「あん?なんだってんだよ?」
一応助けられた相手とはいえ、訳も分からず怪訝な態度をされれば口調も強くなる。立ち上がって詰め寄ろうと…?あれ?立ち上がってるよな?妙に視界が低いのはどういうことだ?
「あ、あの~…ハシャーナ…さん?」
「なんだよ?ねえちゃん?」
ロキファミリアの一人?と思われる栗色の髪に妙に露出の高い女がおずおずと話しかけてきた。
「え~と…、此方からは状況のご説明と、そちらからも昨晩の出来事についてお聞かせ願いたいのですが…。」
「あぁ、その方がこっちも助かる。」
「取り合えず、この鏡でご自分のお姿を確認しては頂けないでしょうか?」ハイ
と言って、手のひらサイズの鏡を取り出して此方に向けてきた。
「は?鏡?」
そこに写っていたのは赤い靴にピンク色のフリルスカート。パッと見、お伽噺にでも登場するようなかわいらしい格好の人形。しかし、視線を上げていくと、顔面に貼り付いた一つの特徴が全てを台無しにしてしまっている。
その野太くキリッとした眉毛と鋭い眼光はまさに歴戦の狙撃手【スナイパー】が有するそれ。たなびく長い金髪が妙にマッチしてそのブサイクなツ…ツラを、引き立たせている。
こ…これは…。ぶっ…
「ぶっひゃひゃひゃ!なんじゃこのブッサイクなツラはぁ!?笑わせんじゃねぇよ!ぎゃははははは!」
「…!ほっ。喜んで頂けたみたいでよかったですわ~。」
何だよいきなり笑わせてきやがって。
いやしかし、ブッサイクな人形だな~これは。どういうセンスでこんな人形作ったんだっつーの!俺がもしこんなツラで生まれてきたら一生人前には出れねぇわ。なんつうか、人生が罰ゲームっつうの?
とかなんとか言いながら鏡を指差して笑ってたらブッサイク人形もこっちを指差して笑ってきやがった。お?やんのかコラ?上等だよ。鏡ん中だからって安全だとか思ってんじゃねえぞ?………ん?鏡?
ふと嫌な予感がよぎり、右手を上げる。同時に鏡の中のブッサイクは左手を上げる。次に左手を上げる。同時に鏡の中のブッサイクは右手を上げる。
…いや、まさかな………。
今度は右手の指を鼻の穴に入れて左手でボクシングをしながら『いのちをだいじに!』と叫ぶ。同時にブッサイクも全く同じ動きをする。
オイオイオイ、これって…まさか…。
「あの~どうです?体が動きにくいとかあります?」
「お…」プルプル
「お?」
「俺じゃねぇかっ!?」バキーン
「きゃーっ!?」
「ななな、なんじゃこりゃあああ!!!!」ガオー
肉体という監獄の支配からの卒業【グラディエイション】を理解した俺は鏡を叩き割り、夜の戸張【フィフティンナイト】の中を走り回る。俺が俺である事を信じて、心の慟哭【クラクション】が響き渡った。
俺の人生が罰ゲームに変わった瞬間だった。
―――――――――――
「ゼェゼェ…。取り合えず、じ、事情は分かった。俺は、あの女に殺されたんだな…。」
ハシャーナは自分の死以上にブッサイクな人形に憑依させられたという現実が受け入れられず、半狂乱で部屋の家具や食器に当たり暴れまわる。
しかし、ここにおはすはオラリオ随一の戦力を誇る天下のロキファミリア。
ティオナに「うるさい」ベチン!とハエの様に叩き落とされた挙げ句に縄で簀巻きにされて、それでもギャーギャーうるさいので今度はティオネから「あんまうるせぇと二度目の死を体験すんぞ?」とか言われて自分の死体をマジマジ見せつけられて、ようやく大人しくなった次第である。
「しかし、これはもはや擬似的にとはいえ紛れもない死者蘇生ではないか…。こんなスキルが広まってしまえば大騒ぎに…。」ブツブツ
「リヴェリア、色々気にはなるだろうが考察は後だ。今は事件の解決が先だ。ハシャーナからの話を聞こう。」
「ああ、ロキの判断も聞かなくてはな。」
リヴェリアが何やらブツブツ言っているが、フィンが諌める。
かつて闇派閥【イヴィルス】との戦いを経験しているフィン達には、『死者との交信手段』が技術として実在しているということは由々しき情報である。ましてやソレが神力【アルカナム】に依るものでもないとなれば一層の懸案だ。
何せ闇派閥の構成員には『死者との邂逅』という神の奇蹟をエサに悪神の元に降った者も多かった。それがまさか神力なくしてこうもあっさり成されてしまうとは嘗ての抗争で死んでいった連中も浮かばれないだろう。
それだけに、この技術の存在が無闇に拡まってしまえばどれだけの混乱を引き起こすか見当もつかない。いずれロキも交えて慎重に動くべき案件だろう。ポッコファミリアの者にも今後は無闇にこの技術を見せびらかすことはしないように釘を刺しておく必要もある。
ともあれ、この場は事件の話を片付けてしまうことが優先である。
「では、僕が代表して話を聞こう。ハシャーナ、言い辛いこともあるかも知れないが君が殺されるに至った経緯を教えてはもらえないか?」
「ああ、こうなりゃヤケだ。あの赤髪の女ブッ飛ばすまでは死んでも死にきれねぇ。何でも答えてやらあ。あれは昨日請けたクエストで―――――。」
ハシャーナが自身が死に至る物語を紡いでるうちにデーリッチが天井から抜け出して復帰してきた。
「そういえば、さっきヘルちんすっごく慌ててた様子でちたけど、ハシャーナちゃんは普通に喋れてるでちよね?何か問題があるんでちか?何もないならデーリッチ、殴られ損なんでちけど。」
「う゛っ…。」ギクッ
「?」
「まぁ…その、魂寄せの儀式は霊界から魂を召喚して、一時的に仮の器に魂を降ろして言葉を聞くものなのですが…。」
「ふむ。」
「本来なら霊の召喚をする際には、同時に送元の設定をするんですの…。用が済んだらさっさと還って頂くように、ですわね。魂が現世をいつまでもフラフラしていると悪霊になってしまいますから。」
「ふむふむ。」
「で、ハシャーナさんなんですが…、儀式が途中で切れてしまったので送元の設定をしないまま召喚してしまいまして、送元する術がありません。」
「え?じゃあ、どうするんでち?」
「先程言った通り、魂の状態で現世に長時間いると悪霊化して人に害を及ぼすようになります。かつてお姉ちゃんがそうなりかけたように…。そうなると…、強制的に魂を消滅させなくてはならなくなってしまいます…。」
「えぇ!?それって殺すってことでちよね!?マズくないでちか!?」
「マズいです…。魂の死は輪廻転生の輪を断ち切る行為。その存在そのものを完全な無に帰すことになります。一応、本人が心残りを清算して成仏してくれれば良いのですが、そもそも古神降霊術は現世に強い未練のある霊魂を呼び出す術。成仏するにも簡単にはいかないでしょうね…。あぁ…お姉ちゃんに怒られる…。」ブルブル
そう、怯えた小動物の様に震える彼女の瞳には、普段は妹にゲロ甘な姉が古神降霊術の訓練の時だけ見せるスパルタ教官の姿がフラッシュバックしており…。
「いや、ミアちゃんに怒られるのはぶっちゃけどうでもいいんでちが…。要はハシャーナちゃんの未練を晴らせば殺す必要は無いんでちよね?」
そんなヘルラージュの懸念をデーリッチはバッサリ切り捨てる。
「ええ、まぁ。」
「じゃあデーリッチ達でそれをやるでちよ。こっちの都合で来てもらってるわけでちからね、最期まで面倒見るのがスジってもんでち。」
「…デーリッチちゃんならそう言うと思っていました。勿論、私もそのつもりです。」
「みゃぁ、言い出したのはデーリッチだし当然だみゃ。」
「「………。」」
一瞬の沈黙。ヘルラージュとデーリッチは目線だけでお互いの意思を伝えると、音もなくルフレの両脇に鎮座した。
「ん?どうしたみゃ?二人でみゃーを挟んで?イタッ!?イタタタッ!?耳は、耳はやめふみゃ!んみゃぁぁぁぁあ!!!すまんみゃ!謝るからっ!やめっ!ごめんみゃざ~い!」
「まったくもう!誰のせいで儀式に失敗したと思ってらっしゃるのか!少しは反省してくださいまし!」プンスカ
――――――――――――――――
「さて、状況を整理しよう。ハシャーナを殺したのは赤髪の女。正体は不明だが油断していたとはいえレベル4の冒険者を殺せる程の強さ。荷物が漁られていたことから、ハシャーナの持っていた何かが目的で、それはハシャーナが請けていたクエストの荷物である可能性が高い。更にその荷物は昨晩酒場にいた顔も名前も知らない冒険者に渡っていた、と。」
フィンは一同を見渡しながら紐の結び目をほどく様に順を追って話す。
「そして…、目的の物を手に入れられなかった犯人はまだこの階層に潜んでいる可能性が高い…か。今度はその荷物を持っていったその冒険者の身が危険だな。」
フィンの話をリヴェリアが補足する。
「リヴィラに滞在していた冒険者は広場に集めさせている。一人ずつ調べていくのが確実だろうな。」
「うむ。逃走の可能性を潰す為にも事は急いだ方が良さそうだ。目標は運び屋の保護と犯人の確保だ。」
と、方針が決まった所で、フィンはここまで敢えて触れなかった存在に声をかける。
「………で、ハシャーナ、キミはどうする?」
匙を向けられたハシャーナはサラサラの金髪をくしゃりと掻きむしり、眉間にシワを寄せて太い眉を更にキリッとながら答える。
「こんなナリになっちゃあ自由に行動はできねぇし戦闘になれば足手まといだ…が、赤髪の女の顔くれぇは判る。誰か持って歩いちゃくれないか?」
「じゃあハシャーナちゃんはデーリッチの頭の上にでも乗ってるといいでち。王冠に掴まってれば手で持ち歩くよりは安全でち。」
「そうかい嬢ちゃん。それじゃあそうさせてもらうぜ。あと、ハシャーナちゃんはやめろ。」
デーリッチはハシャーナちゃんを持ち上げ王冠の中にポスッと乗せる。王冠はピンで髪に留めてあり簡単には落ちないようになっていた。ハシャーナはクイクイと軽く引っ張り王冠がずり落ちないことを確認すると、王冠の中にそのまますっぽり収まった。
案外に収まりが良いらしく、ハシャーナは程なくしてあぐらをかいて寛ぎ始めた。
「おう、中々悪くない乗り心地だな。助かるぜ嬢ちゃん。」
「それは良かったでちけど、頭の上で寛がれるのもなんだか複雑な気分でちね。」
そんなこんなで一行は広場へと向かった。
―――――――――――――――――
~リヴィラの街 広場~
マダマタセンノカヨー!
ハヤクオワラセロー!
広場に集められた冒険者達は不満の声を露にしている。朝早くから集められ予定を狂わされた上、殺人の嫌疑がかけられている。不満が出るのは当然だろう。
「犯人の特徴は判っている!赤い髪の女!しかも推定レベル4以上の強者だ!」
ザワザワ…レベル4ダッテ!
ボールスが犯人の特徴を告げると先程の不満の声とは別の意味でざわめきが起きる。
「とはいえ、パッと見では判らねぇように変装している可能性もある!今から男も女も一人ずつ身体検査をする!全員列に並びやがれ!」
ブーブー!ヒッコメー!
「はいはーい!女性はこちらで確認しまーす!」
レフィーヤチャンカワヨ!
ケンキハナニセオッテンノ?
レフィーヤが中心に女性冒険者を誘導する。ボールスの呼び掛けにはブーイングの嵐だったが、ロキファミリアのメンバーが協力しているのが分かると非難の声はたちどころに減っていった。
「男性冒険者は僕たちが検査するよ。」
ワタシモフィンニシラベテモライタイー!
フィンが男性冒険者の誘導を始めるがナゼか女性冒険者もそちらに集まろうとする。
「こんのアバズレ共がぁ!こっちに並びやがれ!」
そんな状況にティオネがブチ切れしていると―――、
――キョロキョロ コソコソ
そんな広場の喧騒をよそにその場から離れようとする者の影が目に入る。
「デーリッチ、あやつ怪しい動きをしておるぞ。」
「マオちゃん?確かに何だか妙に周りを気にしているでちね。あっ、広場から出ようとしてる。」
「追いかけてみるかの。」
「一人じゃ何があるかわからんでち。デーリッチも行くでちよ。」
マオちゃんとデーリッチがそれを追おうとしたところで更に声がかかる。
「私も行く。」
「私も行きます!」
アイズとレフィーヤが名乗り出る。
「人数がいるなら二手に別れた方がいいでちね。素早さの高いマオちゃんとアイズちゃんで先回りを頼むでち。デーリッチとレフィーヤちゃんで追いかけるから挟むようにして捕まえるでちよ。」
「わかった。」
「わかりました。」
なぜかデーリッチが仕切る形だが、二人もそれを受け入れる。逃げる相手を追うのに時間をかけるわけにはいかない。追跡には何より速度が重要だからだ。些事に一々問答などしている余裕はない。
しかし、いや、だからこそデーリッチはタイムロスを承知で厳しい表情を作り、言葉を重ねる。
「……アイズちゃんはそのコタツ降ろして行くでちよ?」
「断る。」
「アイズさんっ!?」
「なにゆえ!?」
アイズはこの状況で尚、コタツアーマーをその背に背負う。その様は当に彼女が師と仰ぐこどらを彷彿とさせる。
「それじゃあスピード出せないじゃないでちか?」
「その懸念は尤も。でも大丈夫、私には秘策があるから。そんなことより時間が惜しい、急ごう。」
「う~ん、秘策があるならまぁいいか。」
「いいんですか!?いや、秘策って!?」
「おぬしらいつまで話をしている!急ぐぞ!」
「おう!」ダッ
レフィーヤは納得していないようだが、マオちゃんの合図でアイズたちは駆け出した。
マオちゃんの合図(、、)でアイズ(、、、)たちは駆け出した。
―――――――――――――――――
「ハァッ、ハァッ…何で、何でこんなことに…。」
褐色の肌の犬人の少女は走っていた。
コラー!マチナサーイ!
後方から静止を命じる声が聞こえる。しかし自分は止まるわけにはいかない。
全身鎧を着た冒険者が殺された。その男は昨夜、自分に荷物を受け渡した男に違いない。そして犯人はその荷物を狙っていた。ならば、次に狙われるのは自分。 ロキファミリアの人達も頼れない。あんな状況で、どう考えても自分が犯人だと疑われるだけだ。 なんとかしてこの18階層から逃げなきゃ。逃げなきゃ…、殺される…っ!!
しかし、そんな健気な少女の覚悟を嘲笑うかのように絶望の声【コールオブデス】は天から舞い降りた。
「…知らぬのか?大魔王からは逃げられない。」
「まお…う…?」
魔王、伝説にのみ語られる人類の仇敵。何を理由にそんな名乗りをしたのか、仮に相手が魔王だろうと何だろうと関係ない。自分はここから逃げなければならない。
だが、その圧倒的な存在感を無視することが出来るほどの経験を少女は積んでいない。
少女は恐る恐る声が聞こえてた上方に視線を移す。そこに、佇んでいたのは…。
「!?!?!?」(゚Д゚)
少女は言葉を失う。
「まちなさー…い…!!?!?!??」(゚Д゚)
「やっっと追い付いたでちよ!話を聞きたいだけだか…ら…?!?!!??!?」(゚Д゚)
追ってきた二人も同じ顔で言葉を失う。
「なんだあれは!」
「あれは…メラ!?」
「違う…ガラじゃない!!」
「「コタツアーマーだ!」」
「なにそれーーー!?」
なぜか息ぴったりなデーリッチとレフィーヤ。視線の先には空を飛ぶコタツとその天板に仁王立ちで佇むまごうことなき大魔王の御姿。
風魔法を推進力に宙に浮かぶコタツは、さながらガメ…まるで空飛ぶカメのようであった。
「なに?なに?なんなの?どういうことなの??」
ポロッ
「あっ…」
「ほいっと。」キャッチ!
あまりの情報量にパニックになった少女は腕に抱えていた小包を取り落としてしまう。すかさずデーリッチはそれをキャッチする。ふざけているようで案外スキがない。
「ハシャーナちゃん、運んでいた荷物はこれで間違いないでちか?」
「よっと…、うぅ゛…揺さぶられて気持ち悪い…。」フラフラ
「!!??」ギョッ
「大丈夫でちか?」
「おめぇ…途中から俺の存在忘れてただろ…?」
「人形が…喋って…!?!?」
「すまんでち…。つい…。」
「まったく…、ちょっと戻しちまったぜ…。どれ…、包みは同じ物だな。後は中に卵みたいな石が入ってるハズだ。」
「ねぇ、今なんか凄いこと言わなかったでちか!?」
「人形が喋ってる!?」
「ねぇ、今…。」
「おし、箱の中も大丈夫みたいだな。」
ハシャーナが箱を空けて中身を確認していると…。
「どうじゃ?探し物は見つかったかの?」
混沌が混沌を呼ぶ場に、大魔王が降臨する。
「あ、マオちゃん。アイズちゃんも凄かったでちね。まさか空を飛んでくるとは思いもよらなかったでちよ。」
「いや、スカイツリーからのバンジージャンプは何度もやったが、空を飛ぶのは全く格別じゃなあ!爽快じゃ!」
「うん。なんだか私も新しい可能性を感じた。」
「あぁ…アイズさんが壊れてく…。」
「興奮しすぎてちょっと汗をかいてしまったわい。どれ、エネルギー補給をしておこうか。」ズズッ
膝をついて顔を覆っているレフィーヤをよそに、マオちゃんは携帯用のおかゆミルクを飲み始めた。何とも自由な魔王様である。
「これが箱の中身でちか…。どれどれ、さっそく鑑定してみるでちよ。何か温かいでちね、これ。」
「何だお前、鑑定なんて出来るのか?」
「色んなアイテム拾うでちからね。ベル君程じゃないけど簡単な物なら出来るでちよ。えっ~と…、おおっ!これは★レアアイテムでち。名前は……、」
「『★アジ・ダハーカの温かい卵』。」
「うおばぶぅ!?」ブビュゥッ
「んぎゃ!?汚いでちよ!マオちゃん!」
伝説の六魔、その頂点に君臨する邪龍アジ・ダハーカ。同じ六魔の一角にして、馴染み深くも因縁深い忌み名を不意に聞いてしまったマオちゃんは、口に含んでいだおかゆミルクを吹き出した。
「はっ!?」
「どうしたんだローズマリー?」
「ダジャレの波動を感じる…」
「ダジャレの波動!?」
妹達【シスターズ】…一体何ルヴァなんだ…。
口調と見た目はとあるのミサカ妹でイメージしといてください。