ダンジョンにハグレ王国がいるのは間違っているだろうか 作:ひまじんホーム
美術館といえばこのSSもポッコちゃんメインだしそっちに寄せる展開もアリかな~とか思ったり思ってなかったり。
~ダンジョン6階層~
「どうして・・・、どうして私たちが戦わなければならない!?」
「こんなことは、もうやめるでち・・・。デーリッチ達は仲間じゃないでちか!」
「ワシはお主とは戦いとうない・・・。その斧を下ろしてはくれぬだろうか?」
かつての友の変わり果てた姿に少女達は戸惑いの色を隠せない。どうして、何故、悲痛に叫ぶその嘆きは彼の者には届きようもなし。
しかして、きやつが市井の平穏に仇成す者なれば、成敗せしは我らが務め。ならば全力を尽くして葬ることがせめてもの情けというもの。
国王デーリッチは双眼より滴る涙を拭うこともせず、かつての友の濁った瞳を鋭く見据え、神器にも劣らぬ愛杖の真の力を解き放つ。
~2時間程前 バベルエントランス~
昨日は冒険者登録をした後、ギルド職員エイナ・チュール指導の下、初級冒険者講座を受けるだけで一日が終了してしまった。まだロクに現金も持たない中で一日拘束されてしまったため、その日の夕飯は手持ちの携行食をモソモソ食べるという何とも味気ない冒険者生活一日目となってしまった。
とは言え、一日かけてまで行われた講義はローズマリーをして「極めて有意義だった」と評するものであった。ダンジョンでの収得物の換金方法やクエスト受注制度から、ダンジョン浅層のモンスターへの対策、更には有数の大規模ファミリアや上級冒険者の情報、果てにはオススメの定食屋にファッションショップまで、オラリオで冒険者として生きていくために必要な情報を叩き込まれたのであった。
「というわけで、今日こそはダンジョンに潜ります。」
太陽が地平線から顔を覗かせ世界を照らし始めた頃、ハグレ王国の面々はバベルのエントランスに集まっていた。主神ポッコの前にローズマリーを先頭に整列し、本日の行程を確認していた。
「エイナさんからは初心者だけでは10階層より下に行ってはいけないと教えられている。また、日帰りできるのも10階層位が限界らしい。なので、今日の目標は10階層までの往復ということにしよう。但し、初めて潜るダンジョンでは何が起きるか分からない。決して無理はしないこと、いいね!」
「「「は~い!」」」
バベルにはまだ人もまばらな頃合いだったが、まるで小学校の遠足前のような雰囲気に周りの冒険者達が珍しいモノを見るような目でこちらを伺ってくる。
それは単純な好奇の視線、新参者を値踏みする視線、様々な思惑が交差する中、ハグレ王国の面々はダンジョンへと向かっていった。
「みんななら心配はないと思いますが、どうか気をつけて行くのですよ。」
どんなに強い者達でも残される側は無力である。せめてもの祈りを込めた祝詞を手向けに、ポッコは一人その背を見送った。
~ダンジョン1階層~
「う~ん・・・取り合えずは問題なさそうでちね。」チギリーノ
「手応えが無さすぎて退屈だぴょん。」ナゲーノ
1階層の探索。デーリッチ達は時折現れるゴブリンやらの低級モンスターを適当にあしらいながら順調に進んでいく。
そんな中、ローズマリーはモンスターが消滅した後に残る魔石を手に取り、しげしげと観察していた。
「ふ~む・・・魔石を核に活動するモンスターか・・・。」
魔石を頭上に掲げて篝火を頼りに透かしてみたり、魔石同士で叩いたり擦ったりしてみる。ただの赤みがかった鉱石のようだが、確かな魔力を感じる。今まで鉄は勿論、ミスリルやオルハリコン等の稀少金属も目にしたことはあるが、そのどれとも一致しない特徴はローズマリーの興味を引いたらしい。
「ベル君はどう思う?」
餅のことは餅屋に聞けと言うが、この場には年若いながらも王国で道具屋を営むベルがいる。彼の道具屋は自作アイテムの品揃えがメインだが、素材や不要なアイテムの買い取りもやっており、目利きにおいてはプロの鑑定眼を持っている。
「正確な所は僕も解りません。見たところでは、鉱石の特徴としては石英に近く、赤みがかっているのは魔力を含んでいるからではないかと。でもコレを核に魔物が活動しているのがどんな仕組みなのかは想像もつきませんね。鉱石学というよりは魔導分野の現象ではないでしょうか。」
「う~ん、魔導分野かぁ。シノブさんならまた違う見解になるのかなぁ?デーリッチ、次元の穴はある?」
「ん~・・・、デーリッチが見えるレベルの穴は見つからないでちね。これだけモンスターが涌いているなら蟻の巣みたくなっててもおかしくないんでちが・・・。」
魔物湧きという現象はハグレ王国は何度も経験してきている。それは世界の呼吸ともいえる現象だ。マナの薄い世界は、特殊な訓練を積んだ召喚士にしか見えない次元の穴を通じ、生命の源たるマナを異世界から取り込もうとする。その過程でマナを多くその身に有する魔物をも一緒に取り込んでしまうのだ。マナは濃度が濃い世界から薄い世界へ一方的に流れ込み、次元の穴が大きければ大きいほど流れ込むマナは多くなるが、その大きさに比例して巨大な魔物をも取り込んでしまう。 このダンジョンにおける魔物湧きがどのような理屈で発生しているのかは解らないが、少なくともこの魔石という存在がその鍵を握っているのは間違いないだろう。
ローズマリーは幾つかの疑問を抱きつつも、今は先に進むことにした。
~ダンジョン5階層~
「フレイム!」ボウ
5体のキラーアントの群れに向かってローズマリーが範囲炎魔法を唱える。簡単な詠唱による基本魔法だが、かの世界基準では300レベルを超える彼女が放てば上層のモンスターなど物の数ではない。精密に練られた魔力が計り知れない密度の炎の塊となり魔物の群れに襲いかかる。5体いたキラーアントは跡も残さず蒸発し、ダンジョンにはカラーンという魔石が地面を転がる音が5つ響くだけだ。
1階層から起きた戦闘の全てがこのように瞬殺で終わっており、彼女達の探索行は極めて順調に見えた。
だが、今回それを成したローズマリーの様子が少しおかしい。
「ちょっと待って。」
「ローズマリー?どうしたんでちか?なんか妙に汗かいてるでちね?」
魔法の詠唱で前衛に立っていたローズマリーは行軍を止め、後ろを振り替えって皆に声をかける。デーリッチは心なしか顔色の悪い親友の姿に不安を覚える。
「上層では気付かなかったけど、魔力の自然回復が遅い・・・。この感じはもしかして・・・。」
「そう・・・、ローズマリーもってことは気のせいではなさそうね。」
「お、お姉ちゃん?」
ミアラージュも苦い顔で頷く。その妹ヘルラージュは普段は余裕たっぷりな完璧超人(だと思っている)姉が珍しく見せるその表情に、不安を覚える。
「魔法を放った後の魔力回復が異様に遅いんだ。どうもこのダンジョンはマナ濃度が薄いらしい。魔物が涌いてくるのも関係あるのかもしれない。」
「えっ、でも次元の穴はないでちよ?」
「そこがまだ解らないところだね。でも、ここは私達にとっては異世界ということもあるし、魔物湧きの仕組みも異なるのかもしれない。」
ローズマリーはかつて強い力を持つハグレ達と渡り合う為に無茶な魔法習得を行った反動で、魔力欠乏症という持病を患っている。そして、一度命を失い、アンデッドとして蘇った存在のミアラージュは、その仮初めの体を魔力で繋ぎ止めている。彼女達にとって安定したマナの摂取は死活問題であり、空気中のマナが薄い場所では息苦しさを感じる程である。
「どうするでちか?今日は引き返した方がいいでちかね?」
かつてマナ枯渇地帯であるトゲチーク山で全滅の危機に瀕した苦い経験のあるハグレ王国にとって、マナ不足の懸念がある中での活動は極力避けたい処ではある。
「いや、もう少し進もう。今のところはマナ濃度が少し薄いだけで、魔力を節約していれば普通に行動する分には問題ないよ。いつぞやの経験からマナジャムも多目に持ってきているしね。」
「私の方も大丈夫よ。危なくなりそうだったらすぐに言うから安心して。私は魔法使わなくても戦えるし。」
彼女達はかつて事故で異世界に長期間滞在することになったことのある経験から、探索時には不測の事態に備えてマナジャムのストックは充分以上に持つようにしている。また、子供空手トーナメントでは神速の連続蹴りを披露し、「カミソリミア」の異名を得る程に体術にも心得のあるミアラージュは魔法を節約しながらでも戦うことができる。後衛職のローズマリーも上層のモンスターに遅れをとることはないだろう。
彼女達は体調の異変に注意しながらも奥へ進むことにした。
そして物語は冒頭に戻る。
~ダンジョン第6階層~
「急がないと・・・。」
「チイッ!何でこんなメンドクセーことを・・・。」
オラリオ最強派閥に数えられるロキファミリアに於いてその幹部に名を連ねる第一級冒険者達、その中でも最速と名高い〈凶狼〉ベート・ローガと〈剣姫〉アイズ・ヴァレンシュタインは全力で走っていた。
中層に現れたミノタウロスの群れと戦闘になった彼らであったが、あろうことかその一部は戦うことをせずに上層へ向かって逃げ出していったのである。モンスターは本能で人間に襲いかかってくるものと思い、戦闘体勢をとっていた彼らは完全に意表を突かれ、その逃亡を許してしまった。
もし、初級冒険者が多い上層でミノタウロスが暴れることがあれば、確実に犠牲者が出るだろう。そうなればその原因を作ってしまったロキファミリアの名声にキズをつけてしまう。
被害が出る前に片をつけるべく彼らは全力で走っていた。そして6階層にて、今まさにミノタウロスに襲われている初級(と思われる)冒険者を発見したのである。
「攻撃をやめるでち!お前とは戦いたくはないんでち!」
冒険者にしては妙に幼い容姿の者達であるが、彼らの団長も小人族〈パルゥム〉ということもあり、見た目で能力を判断するような愚は犯さない。が、遠目で見える範囲では真剣な面持ちで必死にミノタウロスの攻撃を凌いでいるように見える。窮地に立たされているのは間違いなく、ベートは追跡速度を更に上げた。
「残念だけど、お前が誰かを傷付けてしまうことをデーリッチは見過ごすわけにはいかんのでち!覚悟するでち!ニワカマッスル!」
ニワカマッスル、ハグレ王国最古参メンバーに数えられる牛男である。筋肉至上主義の彼は筋力と耐久力においてハグレ王国で右に出るものはいない。厳しい戦いにおいては幾度となく窮地を救ってくれた彼の背中は絶対の安心感を与えてくれるものであった。マオちゃんの最強魔王技大魔王烈波を受けて唯一立っていたその姿に、マオちゃんが自身の敗北を予感させられたという話は今でも語り草となっている。
それほどまでに王国の信頼の熱いニワカマッスルがなぜここに?そしてなぜデーリッチ達に襲いかかる?疑問は尽きないが、このまま奴を地上に解き放ってしまえばどれ程の被害になるか解らない。デーリッチは流した涙を拭うこともせずにシノブに託された愛杖アヴァタールロッドを構えた。
「マッスル、いい奴に生まれ変わったらまた一緒に王国を作るでちよ。デーリッチはずっと待ってるでち。」
そして詠唱と共に杖を振る・・・おうとしたところで邪魔が入る。
「雑魚は退いてろ!っらああぁぁあ!」ドシュウ!
「「「あっ・・・。」」」
雷の如く放たれたベート・ローガの高速の蹴りにニワカマッスル(ミノタウロス)は袈裟懸けに上体を両断され絶命した。
「おう、雑魚共。無事だったか?」
振り返りながらぶっきらぼうに語りかけるベート。初級冒険者を見下すような話し方はいつも通りだが、一応相手の様子を気遣っているつもりである。ロキファミリアのおかんことリヴェリアがこの場にいればベートの成長に涙すら流したかもしれない。
「な・・・」ワナワナ
「あンだよ?」
「なんて事をしてくれたんでちか~!?」
「ああ゛ン?」
思わぬ返答にベートは眉を吊り上げる。彼からすれば命の危機を救ってやって尚且つ最大級の気遣いまでしてやるという本来有り得ないサービスぶりである。雑魚は雑魚らしく涙を流して感謝するのが道理であろう。
「マッスルがぁ~~。」オーイオイオイ
「な、なんということを・・・。」シクシク
「酷いことをするのう。」
「マッスルさん・・・惜しい人を亡くしました・・・。せめて、ラージュ家に伝わる転生の秘術で・・・。」グスッ
何故か感謝されるでもなく、モンスターの死に涙を流す面々。
「えっ?なにこれ?俺何か悪いことしたンか?」オレコンワク
「ベート、それよりもミノタウロスがあと一体残ってる。急がないと!」
速度でベートに劣るアイズが少し遅れて合流する。彼らが追っているミノタウロスはもう一体残っているらしい。
「チッ、テメエらよく分からねぇが、無事ならまぁいい。ミノタウロスはもう一体いただろう、どっちへ行った?」
「あっち。5階層に昇る階段がある方。」
「クソがっ!やっぱり上に向かってやがる!どうなってンだよ!?」
「行こう。」
「おう、テメエらも雑魚なら雑魚らしくデカい奴狙わねぇで上層でちまちまやってろや。じゃあな。」
俯いて涙を流していたハグレ王国の面々をよそに、ベート、アイズの両名は急いで上層に駆けていった。
「で、いつまでこの小芝居やるのさ?」
「え~と、何だか引っ込みつかなくなったというか・・・。」
「いや、なんか楽しそうじゃったからつい・・・。」
「今度のハグレ名画座のネタになるかもって・・・。」
「ほほぅ、次回作は『大江戸捕物帖~裏切りの牛男~』といったところか。楽しみだ。」
ここまでモンスター相手に苦戦することもなく少々退屈していたのは事実である。そんな時に王国で見慣れた人物と同型のモンスターが現れ、悪ふざけをしていたら段々後に引けなくなってしまった。小芝居自体はわりと好きなローズマリーも何となく付き合ってたが、あまり時間を無駄にするようなら立場上止めないといけない。
「さあて、ふざけるのもここまでにしてさっさと進もう。予定通り10階層を目指すよ!」
「「「お~!」」」
気持ちも新たに再び歩き始めたハグレ王国。
しかしそんな中、一人青ざめた顔で衝撃の告白をする者がいた。
「あ、あの~・・・もしかしてさっきのってマッスルさんじゃなかったんですか・・・?私、転生の秘術かけちゃったんですが・・・。」
「「「ヘルちん!?」」」
ミノタウロス転生フラグが立ちました。
ポッコファミリア本日の収支
本日の収入:450,000ヴァリス
借金残り:399,550,000
千里の道も一歩から
マスハピは正義。でもマッスルって半裸で脳筋なだけで心はイケ牛だから実は結構モテるんじゃないかなって。
え?半裸で脳筋は無理?ですよね~。