ダンジョンにハグレ王国がいるのは間違っているだろうか 作:ひまじんホーム
~冒険者ギルド~
「あいよ、魔石の換金高50万ヴァリスだ。」
「ありがとうございます。」
当初の予定通り10階層までの往復を終え、回収した魔石を交換する。金額にして50万ヴァリス。4億という金額にはまだまだ程遠いが、1日での稼ぎとしてはそれなりの金額であろう。ローズマリーは受け取ったヴァリスを麻袋にまとめ仲間の元に戻る。
「みんな、今日はお疲れ様でした。これからポッコちゃんと合流してご飯でも食べに行こうか。」
「「「ヒャッホ~い!」」」
新しい町に来たらまずは食事。これは色々な場所を旅する者にとって最大の娯楽である。ハグレ王国も妖精村やケモフサ村、帝都や海底都市リューグー、新しい場所に訪れた際には必ずと言って良いほどその土地の食に触れている。
それはただ食欲を満たす為だけの行為ではない。元来、産まれた世界も種族もバラバラな私達ハグレにとって、食とは価値観を現地の人と共有出来る貴重なコミュニケーションツールでもあるのだ。グルメフェスという催しは私達ハグレという存在が世界に受け入れられる為に絶対に必要なのです!そして心を通わせる為には衣服なぞ重荷でしかない!今こそ全員水着に着替えて食を通じた異文化交流をすべきではないでしょうか!?
・・・というのは、カナヅチ大明神が王国会議でグルメフェスの企画を提案した際に行った演説の抜粋である。
途中から食とは別の欲望が丸出しになるのがカナちゃんらしい詰めの甘さとも言えるが、前半部分については王国民全員から賛同を得られた程の説得力があった。
食うことは生きること。生きるとは世界そのもの。すなわち飯とは世界、世界とは飯ということ。
一度ホームに戻ってポッコと合流した彼女達は、初級冒険者講座でエイナにお勧めされた酒場「豊穣の女主人亭」へと向かった。
~豊穣の女主人亭~
「今日はファミリア結成パーティーだ。みんな好きなものを注文して構わないよ。」
「「「は~い!」」」
ローズマリーが音頭を取ると皆思い思いにメニューを選ぶ。
「次、上がったよ!シル、5番テーブルだ!」
「はい!」
「追加注文!5番テーブルだにゃ!」
「また5番テーブル!?」
「よ~し!とことんやってやろうじゃないか!」
急な団体客にてんやわんやの豊穣の女主人。
荒くれ者が多いこの店で子連れ客というのも珍しく、奇異の目で見られていたのも束の間、女店主ミアだけはそのただ者ではない気配を察知していた。曰く「食うか食われるか」。従業員からは母とも呼ばれている女店主ミアは腕まくりをして注文を捌いていく。
「あんた達、その小さいナリでよく食べるねぇ!こっちも作りがいがあるってもんだよ!」
店主ミアは少し手が空いた処で件の団体客へ話しかける。
「店長さんですか。料理も美味しいですし、良い雰囲気のお店ですね。育ち盛りな子達が多くて騒がしかったらすみません。あっほらデーリッチ、また溢してる。お行儀よく食べなさい。」フキフキ
「む~む~」
ローズマリーはリスのように頬を膨らませて料理をかき込むデーリッチの口周りとテーブルの食べかすを拭いてやる。子供扱いに抗議をしようにも口に物を入れながら喋ることが出来ず大人しく従うデーリッチ。端から見たら親子にしか見えない二人だが、彼女達は親友同士である。
「ハハハッ!ちょっとテーブル汚すくらい気にしないどいてくれ!ところであんた達、冒険者なんだろ?あんまり見ない顔だけど何処の所属だい?」
見た目は子供ばかりだが、何となくただ者ではなさそうな気配を漂わす一行。酒場の主人としては世間話の中からも情報収集に余念はない。
「今度新しく立ち上げたポッコファミリアといいます。主神はえ~っと・・・、あちらの神ポッコちゃんです。」
「ふぅん、どれ・・。」
女主人ミアはローズマリーが視線を向けた先を見やる。すると皿に盛られた最後の唐揚げを巡ってヅッチーと争う幼き神ポッコの姿。
「その唐揚げいっただき~!」ササッ
「甘いですよヅッチー、その程度の動きでこの神ポッコから唐揚げを奪えるとは思わぬことです。」サササッ
「そんなに旨いならみゃーによこすぴょん」ヒョイパク
「「あ゛~!」」
「う~んジューシー!」
様々な神や冒険者を見てきたミアとしても異色な冒険者達だとは思うが、嫌な感じはしない。こんな連中なら贔屓にしてもらえれば店にとってはありがたいものだ。
「ハッハッハッ!中々愉快な神様みたいじゃあないか。」
「お、お恥ずかしい・・・。」
「まぁあんた達みたいなかわいい客なら大歓迎だ。今後とも贔屓にしとくれ!」
「あ、ありがとうございます。」
その後、ミアが娘と呼ぶウェイトレス達も紹介された。今後とも良い関係を築けそうである。
この日、豊穣の女主人では合計5万ヴァリスの代金を支払い二日目の冒険者生活を終えた。
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~ホームにてファミリア会議~
「ではまず、本日の収支を報告してください。」
豊穣の女主人亭で食事を終え、ホームに戻った面々。明日以降の運営方針を決める会議を開いていた。
「はい。ダンジョン探索で回収した魔石の換金額で50万ヴァリス、酒場での支払いが5万ヴァリス。収支では45万ヴァリスのプラスです。」
ローズマリーがいつの間にか付け始めていた出納帳を開いて収支を説明する。
「1日ダンジョンを潜って45万ですか。収支的にはパーティーなんかして良かったんですか?」
一人留守番をしていたポッコとしては、皆が稼いでくれている中で自分自身でお金を稼げないもどかしさがある。だからこそ、余計に出費には敏感になってしまう。
「先は長いからね、最初から切り詰めても仕方ないよ。皆のモチベーションも大事だし。」
「そういうものですかね。」
「1日で45万ヴァリスっていうのはペースとしてはどうなのかしら?」
ミアラージュは自身ではそれを理解しているが他のメンバーの為に敢えて収支に対する評価を確認する。
「今回みたいに取り合えずダンジョンに潜ってみたって中では上々の収穫だと思う。でも、返済を考えたらやっぱりこれだけでは全然足りないね。あと、ここで暮らす生活費や諸経費も1日5万ヴァリス位かかるだろうからその分も稼ぐことを考えていかないと。」
ローズマリーもミアラージュの意図を汲み、全員が分かりやすいように状況を説明する。
「やっぱり何か別の商売をしたほうが効率は良さそうですね。では、どんなお店が良いか、意見のある人はいますか?」
ポッコは向き直り、全員へ意見を求める。
「はい!」
「はいこどらさん。」
「こどらはコタツ喫茶がいいと思うの。」
「コタツ喫茶はハグレ王国でも稼ぎ頭の実績があるし、ここでも高い収益が見込めるね。既に2店舗を経営してるこどらなら安心して任せられると思うよ。」
「はい!」
「はいヘルラージュさん。」
「人造人間工房はいかがでしょう?皆さんのぬいぐ・・・クローン人間はハグレ王国でもお土産物として大人気ですわ。」
「いいんじゃないかな。ここでは私達は無名だけど、有名な冒険者やファミリアと知り合ってぬいぐ・・・クローン人間の製造許可が貰えたら爆発力のある商品になりそうだ。ヘルさんの裁縫技術なら他所には簡単に真似できないだろうし。」
「はい!」
「はいベル君。」
「僕は道具屋がいいと思います。ローズマリーさんと協力すれば色んな回復薬も自家製造出来るし、収益率は高いと思います。何より冒険者の町なら需要も多いかと。」
「そうだね。いずれにしても私は自分達用にも薬を作るわけだし販売用も作るのもわけないよ。ヘルさんのぬ・・・クローン人間も道具屋の方で一緒に販売できたら相乗効果も見込めそうだ。」
「はい!」
「はい柚葉さん。」
「私がファミリアのダイミョーとなり税金をt「却下。」なにぃ!?」
どうやら柚葉はまだファミリアの長の座を諦めてないらしい。
「じゃあ、これから始めるお店はコタツ喫茶と道具屋でいいかな?建物はもう一軒あるけれど、使い途はまた次の機会に決めようか?」
「あの~、私から良いでしょうか?」
ポッコが話しにくそうにおずおずと手を挙げる。
「ポッコちゃん?どうぞ。」
「え~と、私がこの地でやらなければならないことは神としての修行であって、お金を稼ぐことはあくまでもその為の手段なのです。なので、収入を得ながらでも私自身の能力を磨くことは怠らないようにしていきたいのです。」
「成程、ポッコちゃんの能力というと美術館だね?」
「そうです。この世界では神力〈アルカナム〉の行使は禁じられていますが、だからこそ私本来の力を磨くには良い機会だと思っています。皆と違って私はダンジョンに潜って稼ぐことは出来ない身です。しかし我が儘ということは承知の上で、通させて頂きたいです。」
本来ポッコは〈芸術と創造〉を司る神である。ここオラリオに来たのも神としての昇進試験という大前提がある。皆に迷惑とは承知でもこれは譲るわけにはいかなかった。
「我が儘なんてとんでもない。私達こそ本来ここにお金稼ぎにきたわけではないことを思い出しました。目的を見失っては本末転倒だ。」
「じゃあ、商売として始めるのはコタツ喫茶と道具屋、そして美術館ということで決まりだね。ベル君、こどら、ポッコちゃんは三日以内に、それぞれの開業に必要な資金の見積りと事業計画を揃えて下さい。他の皆はその間にダンジョン探索やクエストで資金を集めたり、情報収集をしていこう。それでいいかな?」
「「「はい!」」」
冒険者生活二日目、終了。
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