ダンジョンにハグレ王国がいるのは間違っているだろうか   作:ひまじんホーム

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 色々絡ませたいキャラが多くてネタは尽きないのに手は進まないジレンマ。そして短くても上げる勇気。


第7話 冒険者心得

~ダンジョン3階層~

 

「ハァァ!」ザシュ!

「てやっ!」ドシュ!

 

 白兎がダンジョンを駆ける。その体躯はまだ幼い少年のそれ。装備も貧弱な上、振るわれる短剣捌きも素人の域を出ない。いわゆる上層においてはよく見かける初級冒険者に分類される少年は、しかしパーティを組むことはせず今日も今日とて単身ダンジョン探索に明け暮れていた。

 倒した3匹のコボルトの死体が霞と消え、魔石に変わったことを確認すると、緊張が解けたのかふぅっと息を吐く。

 

「上層のモンスターなら複数出て来ても対処できるようになったな。昨日のステータス更新のおかげなのかな?」

 

 神様、ありがとうございます。と落ちている魔石を回収しながらホームで待つ主神へ心の中でお礼を伝える。

 

「でもこんなことで、いつになったらアイズさんに追い付けるんだろう・・・。積み重ねが大事ってエイナさんも言うけど・・・、ん?ドロップアイテムか。」ヒョイ

 

 自身の多少の成長を実感しつつも、その道程に僅かな疑問も芽生える。自分が目指す地平はまだまだこんなものではない。彼が目指すのはオラリオの冒険者の頂、憧れの女性に相応しい男子になることなのだから。

 

「むっ?」

 

 僅かな成長に満身せず気を引き締めようとしたのも束の間、後ろを振り返れば10匹を越えるコボルトの群れ。

 

「うっ、この数は・・・。」

 

 「冒険者は冒険してはいけない」。エイナからは口を酸っぱくして言われていることだ。懸命な冒険者であれば、リスクとリターンを秤にかけてリスクに傾くならば大人しく撤退を選ぶだろう。

 しかし恋に燃える彼の心の天秤は重量無限大のリターン(アイズさんラブ)へと傾いてしまうのであった。

 

『お願いベル、戦って(はあと)』

 

 そのどこまでも一途な欲望に満ちた妄想に生み出された脳内アイズ某の声は、思春期の少年の情動を突き動かすには充分なものであった。

 

「アイズさ~ん!やってやります~!」

 

 自身の妄想に対して忠実に、赤目の少年、ベル・クラネルはコボルト群れに自ら突っ込んでいった。

 

――――――――――――――――

 

~バベル エントランス~

 

 お店の事業計画を作らなければならない3人(ベル、こどら、ポッコ)はホームに残し、残りのメンバーは今日も今日とてダンジョン攻略に勤しむことになった。

 

「ローズマリー、今日はどうするんでち?」

 

「基本的には昨日と同じように、モンスターを倒して魔石を拾いながら進んでいこう。でも今日は15階層を目指すつもり。」

 

「15階層?モンスターに苦戦することもないし進む分には良いけど、今日中に戻ってこれるんでちか?」

 

「うん。今日はキーオブパンドラを使うつもりだから戻りはデーリッチにお願いするよ。私達がこの世界に来たときの魔法陣を転送先に設定しておいたでしょ?」

 

 キーオブパンドラ。ハグレ王国の歴史はデーリッチがそれを手にした時から始まった。使いこなせば次元の扉をも抉じ開ける、古代人が作り出した大きな鍵型の結界装置。使いようによっては世界を揺るがす神器級の道具だが、転送に鈍器に高い所の物を取ったりなど、デーリッチももはや体の一部の如く使いこなしている。

 

「あれ?じゃあ昨日は何で歩いて戻ったの?」

 

「あまり目立つと動きにくくなると思ったんだけど、昨日の感じなら今後は他の冒険者に見られないように気を付けていれば大丈夫かなと。それ以上に下層攻略には収支面でのメリットの方が大きいんだ。」

 

 基本的に強いモンスター程、大きな魔石を残す。限られた時間で効率良く稼ぐのならば、より下の階層を目指すのが手っ取り早いのは間違いない。

 昨日の会議では美術館、道具屋、こたつ喫茶を始めることが決まったが、開店資金が貯まらなければ何も始まらない。何かを為すにはどんな世界でも、金、金、金、なのだ。そして彼女達は誰よりも、金の大事さもその増やし方も心得ている。

 斯くして、彼女達の天秤はより大きなリターン(金)へと傾くのであった。

 

「わかったでち。」

 

 そうして彼女達はダンジョンへと向かった。

 

―――――――――――――――

 

~ダンジョン 5階層~

 

「ほい」ドーン

「あらよっと」ビリビリー

「せいっ」ズバーン

 

 例の如く順調に進んで行く一行。慣れた分、昨日よりも早いペースで行軍をしていた。

 

「う~ん。こうも手応えがないとみゃーとしてはあまり冒険してる感じがしなくて物足りないぴょんねぇ・・・。」

 

「まだ上層だしねぇ。まぁ、下に行くほどモンスターも強くなるんだから楽しみにしていたらいいじゃないの。」

 不満を漏らすルフレをミアラージュがたしなめる。

 

「そう言われても、せっかく冒険者の街だと期待して来てみゃーればザコ相手ばかりでみゃーは退屈ぴょん。ねぇローズマリー、もっと一気に下まで降りないのかぴょん?」

 

「う~ん。ルフレの気持ちもわかるけど、階層ごとのマッピングはしておかないとだし、情報もなしに進みすぎるのもそれはそれでリスクが大きいよ。魔石も回収しながら進みたいしね。」

 

「ちぇ~・・・わかったぴょん。でもちょっと先の様子を見るくらいはいいみゃね?」ダダダット!

 

「あっこら!」チョマテヨ!

 

「ただの偵察だぴょん!」

 

 ルフレもまた、愛機ビッグパパイヤ号にまたがり、大宇宙を舞台に大冒険を繰り広げた伝説の宇宙冒険者である。上層の雑魚モンスターに手こずるような初級冒険者とは年季も格も違う。

 参謀ローズマリーの言うことは聞きつつも少しでも進みたい気持ちが先走り、ルフレはパーティを先行して駆け出す。

 

「まったく、ローズマリーは口煩くて困るみゃ~ね。ん?あれは、人かぴょん?」テクテク

 

 独断専行とはいえルフレも一流の冒険者。警戒を怠らずに進んで行くと、視界の端にうっすと人影を捉える。岩影に気配なく身を隠すように佇んでいるが、ルフレの超感覚からは逃れることは出来ない。

 

「おい!そこにいるやつ!隠れてないで出てくるぴょん!」

 

「・・・」

 

 返事がない。

 

「おーい!」

 

「・・・」

 

 返事がない。

 

「?黙ってみゃ~でさっさと・・・!?これは・・・、ひどい怪我ぴょん!」

 

 ルフレはその白髪頭の少年を見つける。どうやら返事をしなかったのではなく怪我に依って出来なかったのだと気付く。

 

「え~と緊急用のポーション・・・。ほいっと!」ゴソゴソキュッポン!パシャ!

 

「ん・・・。」

 

「おっ、目を覚ましたぴょんね。ローズマリー達を呼んでくるからちょっと待ってるみゃー。」

 

 ルフレは来た道を駆け戻っていった。

 

――――――――――――――――

 

「いや~危ないところを助けて頂きありがとうございました。」

 

 目を覚ました少年はルフレが連れてきたデーリッチのヒールで完全に回復した。瀕死の怪我をあっという間に治してしまう程の魔法はこの世界では極めて異質なものだが、魔法そのものに疎い彼にそれを知る術はない。

 

「困ったときはお互い様だしね。気にしないで。」

 

「そ、そんな訳にはいきませんよ!貴重なポーションも使わせてしまって、あっ僕はヘスティアファミリアのベル・クラネルといいます。今は持ち合わせがありませんが、上に戻ったら是非お礼をさせてください!」ペコペコペッコリン

 

 岩影でモンスターに見つからないように身を潜ませていた、ベル・クラネルと名乗る少年は振り子人形のように何度も頭を下げる。

 

「いやいや、応急処置に使ったポーションは私の自作したのを皆に持たせてただけだし、大してお金かかってるわけじゃないよ。デーリッチの魔法も別に減るものでもないしね。」

 

 本業が薬師のローズマリーは自作のポーションをパーティに持たせている。ハグレ王国の道具屋ベルとの共同開発により効能を増したポーションは、その効能に比例して苦くなることを除けば最高の品質を誇る。

 

「しっかし、みゃーが見つけなかったら死んでたかもしれなかったぴょん。おみゃーさんはいつも一人で潜ってるのかみゃ?」

 

「ええ、まあ。うちは零細ファミリアで団員も僕しかいませんし。」

 

 その回答に聞き捨てならないのがローズマリー。

 

「キミはいつも一人でこんな無茶をしているのか!?いくらなんでも無謀すぎる!」

 

 ローズマリーがベルを叱る。今でこそ大陸に存在感を示すハグレ王国ですら最初は仲間集めから始めたものである。一人だったハグレ達が集まって一人では辿り着けない場所に辿り着いたのがハグレ王国だ。ベル少年が一人で無茶をする姿を見過ごすことができなかった。

 

「いや~いつもは程々にしてるんですけどね。でも僕、強くなりたいって思ったら止まらなくなっちゃって。」

 

「ほ~おみゃ~さん強くなりたいってだけで命をかけたみゃ?ふ~ん、他の冒険者よりも中々見処がありそうぴょんねぇ。」

 

「ちょっ、ルフレ!?」

 

 冒険者は冒険をしてはいけない。しかして冒険者は冒険をするから冒険者なのだ。ルフレは誰よりも冒険を愛し、楽しんできた本当の冒険者なのだ。

 

「ローズマリー、冒険者は死滅回遊魚。追い求めることを止めたら生きていくことは出来ないぴょん。こいつはきっとみゃーと同じ本物の冒険者に成れるやつだみゃ。」

 

「いや~照れるな~。」ポリポリ

 ベル君は頬を染めニヤケ顔で答える。

 

「・・・このまぬけな惚け面はみゃーの見込み違いかもしれないぴょん。」

 

「ええっ~?」アセアセ

 

(かわいい)

(かわいいなぁ)

(抱き締めたい)

(初々しいのお)

(お腹すいたな)

 

 上げて落とされて、赤目を白黒させるベルを見て各々妙な庇護欲を掻き立てられる。

 

「・・・まぁ、何はともあれベル君は怪我を治したばかりだし、できれば安静にした方がいい。今日はもう帰った方がいいよ。あと、これ。この辺に落ちてた魔石はキミが倒したモンスターが落とした物だろう?話の間に仲間が拾ってくれたから持っていくといいよ」ハイコレ!

 

 

「あ、ありがとうございます!」ペコリンコ

 

「気を付けて帰るんだよ!」

 

「はーい!」

 

 ベル君は元気良く返事をすると上層へ向かって駆けていった。

 

(冒険者は追い求めることを止めたら生きていけない、か。僕はもっともっと強い冒険者にならなきゃ!)

 

 その赤目にまだ小さな焔を灯して。そしてベルは出口まで来たところで重要なことを思い出す。

 

「あぁ~っ!あの人達の名前聞いてなかったぁ!」

 

 ベル君、恩人の名前を聞き忘れる痛恨のミス!

 

 

 

ポッコファミリア本日の収支

本日の収入:700,000ヴァリス

本日の出費:50,000ヴァリス

借金残り:398,900,000

 

金金金、騎士として恥ずかしくないのか

 

 




 あんまり物語は進まない会話回ですが、ウサギコンビは今後も絡むことは多くなるかと。
 今回短い分次回は早いです。
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