ダンジョンにハグレ王国がいるのは間違っているだろうか   作:ひまじんホーム

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第8話 商売人心得

~ポッコファミリア ホーム~

 

 ローズマリー達がダンジョンへ向かうのを見送り、ホームに残ったのはポッコ、ベル、こどらの3人。彼女達は会議の通り、これから始めるお店の開店資金の見積りと事業計画を作成しなければならない。

 

「さて、まずは開店資金の見積りは立てた方が良いでしょうね。必要な予算が分かっていないと他の皆が稼いだ資金もどの程度プールすれば良いかも判りませんし。」

 

「僕もそう思います。というかこの街の物価や物の相場が判らないと事業計画も立てられませんから。まずは開店に必要な物資をリストアップして、それらに必要な金額を調べながら一緒に色々な商品の相場を調べていくのが第一ですね。」

 

「こどらもまずこの世界にこたつがあるのかから調べないとね!」

 

 ハグレ王国でお店を始める為の本来の手順は、会議で企画書を基にプレゼンを行い、内容が良ければ採用となり、国庫から出資を得られるという流れだ。

 今回はそれとは違い、やることを先に決めてからそれに合わせた計画と資金集めを後から行う形を取っている。これは資金的な問題もあるが、それ以上にこと商売においては3人とも高い実績と信頼を有しているが故の特別措置である。

 ポッコの国民参加型美術館、ベルの道具屋、こどらのこたつ喫茶、ハグレ王国においてはどれもが安定した収入を得ている優良企業であり、今回も開店にさえこぎつけられれば収支の心配はないとローズマリーも判断していた。

 

「じゃあまず必要な物をリストアップしていきましょう。椅子やテーブルなんかは同じもので揃えた方が安くあがるかもしれません。」

 

「成るほど。それはよい考えです。」

 

 椅子やテーブルの他、調理器具や食器、材料、調合器材、木材、エプロンやクロス、額縁や装飾、金庫など、3人で今までお店をやっていた経験から其々の店で必要な物を書き出していく。

 その作業がまとまったところで、ベルがそれを均等に振り分ける。

 

「それじゃあ、これらがどのくらいの金額で調達出来るか、手分けして街の相場を調べましょう。ついでに僕は薬屋さん、ポッコちゃんは文化施設、こたつドラゴンさんは食べ物屋さんの品揃えや価格も一緒に調べておきましょう。」

 

「「はーい。」」

 

 斯くして3人はそれぞれ別れて街に出掛けていった。

 

――――――――――――――――――

 

~オラリオの街 商業街~

 

 開店に必要な物資の価格相場を調べ終わったベルは、今度は道具屋の主力商品になる薬の市場調査の為に商業街を訪れていた。

 また、ベルは市場調査と同時に、手持ちの薬を売却することも考えていた。道具屋を開店する前でも商品さえあれば卸売りによって収入を得ることが出来るし、ノーブランドの自家製品をいきなり売り出すよりは、商品だけでも認知を拡げておきたいという目論見もあった。

 そんなわけでベルは道行く人に声をかける。

 

「あの~すみません、この辺りの薬屋さんてご存知ないですか?」

 

「薬屋かい?薬屋ならミアハファミリアが薬専門の道具屋をやってるな。」

 

「ミアハファミリア・・・ですか、お店の場所ってわかりますか?」

 

「それならそこの角曲がって3軒目の店だよ。瓶の模様の看板が出ているから直ぐにわかるよ。」

 

「ありがとうございます。」

 

「どういたしまして。まだ小さいのに礼儀正しいボウズだなぁ。ウチの息子にも見習わせたい位だな。」

 

「あはは。親切なおじさんの息子さんならきっと優しい人なんでしょうね。」

 

「ガハハ!ウチの息子に限ってそんな甲斐性はないな!まぁまた困ったことがあればまた聞いてくれや!」

 

「ありがとうございました。」

 

 ベルは子供ながらに道具屋を経営しているだけあって礼儀を重んじる真面目な性格であり、大人相手にも気後れしない強かさも持っている。

 ベルは聞いた通り、ミアハファミリアの経営する道具屋へと向かった。

 

―――――――――――――――――

 

~ミアハファミリア~

 

「こんにちわ~。」

「いらっしゃいませ。あら、かわいいお客様ね。」

 

 ベルを出迎えたのはミアハファミリア唯一の団員にして団長のナアーザ・エリスイス。とある事件から冒険者を廃業した彼女は、薬師としてポーション精製と販売を生業としている。

 心から他人を思いやる神ミアハには、神人問わず想いを寄せる者も多く、オラリオにおいては珍しい程の善神である。しかし、ミアハファミリアは主神ミアハが道行く冒険者にポーションを無償で配ったりしているせいで、常に経営が火の車となっており生活すら困窮している。そんなファミリア脱退してしまえばいい?恋する乙女は貧乏よりも大事なことがあるんです。

「あの~こちらで販売している薬を見せてほしいんですけど。」

 

「ボウヤはお使いかしら?今うちで取り扱っているポーションはこの3種類よ。」

 

 店番をしていたナアーザが3本の瓶に入った薬品を取り出して机に並べる。

 

「効果が低いポーションから順番に500ヴァリス、2,000ヴァリス、5,000ヴァリスよ。値段と効果は大体比例するわ。ある程度の切り傷くらいなら安いポーションでも治せるけど、大きな怪我だったらそれこそ質の高いポーションを使わないと効果は薄いの。」

 

 ベルは提示されたポーションを道具屋特有の眼で鑑定にかける。判明した効果についてはハッキリ言ってベルが自作して拠点で販売しているポーションの方が遥かに高い。しかし、貨幣相場が10ヴァリス=1ゴールドと考えると500ヴァリスというのはかなり安い。拠点では一番安い特製携帯薬Ⅰを480ゴールドで販売しており、これはつまり4,800ヴァリス程度の価格設定ということになる。

 とはいえ、ハグレ王国の拠点では一番安く売っている特製携帯薬Ⅰと、ナアーザから提示された5,000ヴァリスのポーションとではそれでも特製携帯薬Ⅰの方が効能は高い。

 

「これよりも効能が高いポーションは売っていないんですか?」

 

「そうねぇ。他所ならそれこそ何でも治せるエリクシールなんて薬を何千万ヴァリスて値段で置いてるところもあるわね。それほどじゃなくても瀕死状態から回復出来るようなレベルの薬だと何十万ヴァリス位が相場かしら。」

 

「このお店ではそういう薬は品揃えしないんですか?」

 

 遠回しにウチにはないと言ったつもりだが、ベルはそこにズバリと食い込んでくる。

 

「・・・あなた、中々痛い所を突くわね。ウチも単価の高いポーションを品揃えはしたいのは山々だけど、それを仕入れる資金がないのよ。零細ファミリアの弱いところね。自作しようにも素材も中々揃わないし。」

 

 つまり、ここオラリオでは量産品の安くて低い効能のポーションから、何でも治せるような超高級ポーションまで幅広い需要はあるということらしい。また、ベルとローズマリーが共同開発しているポーションは安さには劣るが、高い効能に対して割安な価格で販売が可能ということだ。

 

「あ、あのすみません。実はボク、薬を買いに来たわけじゃないんです。」

 

「あら、そうなの?でもウチは薬しか置いてないわよ?薬屋だし。それじゃあ何のご用なのかしら?」

 

 ナアーザは薬屋に薬を買いに来たわけではないという言葉に怪訝そうな表情で問いかける。

 

「ボクが作っているこれらのポーションをこちらで販売しては頂けないかと思いまして。」

 

「はあ?」

 

 どう見ても年の頃は10才程度の獣人の子供が薬を買いに来たのではなく、売りに来たと言う。しかも自分が作ったなどとあり得ないことを言っている。

 

「あのねボウヤ、冷やかしに来たのなら怒らないから帰って頂戴。こう見えてもそんなに暇じゃないのよ。」

 

 実際は閑古鳥が鳴いている位には暇だけど悔しいから黙っておく。

 

「ごめんなさい。でもボクは本気なんです。せめて、この商品を見てからご判断頂けないでしょうか?」ゴトゴトゴト

 

 急に冷たくなったナアーザの口調を余所に、ベルは10本の瓶を取り出す。特製携帯薬のⅠ・Ⅲ・Ⅵ、特製リカバー薬のⅠ・Ⅵ、特製リレイズ、メンタルナイス、メンタルパパ、メンタルグランマ、万能治療薬である。

 

「ん~自家製ポーションねぇ・・・ん?」ガタッ

 

 ナアーザは出された瓶を鑑定し始めるとみるみるうちに顔を青くして冷や汗を垂らす。

 

「え?なにこれ?このポーションをあなたが?いやいやいや・・・そんなわけが・・・え?本当に?どぅわえぇえええ!?」ドンガラガッシャーン!

 

 ナアーザは余りの驚愕に仰け反り、そのままひっくり返ってしまった。勢いが勢いだけに派手な音がしたが、特に壊れた物などはないようだ。

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

「いたた・・・。え、えぇ大丈夫よ。」

 

 ナアーザは後頭部押さえながらもスックと立ち上がる。

 

 そして、そうこうしているうちに新たな人物がこの場に現れる。

 

「おいおい、何やら凄い音がしたが何が起きたのだ!?」ガチャ

「あ、お帰りなさいませ。ミアハ様。」パンパン

 

 店のドアを開けて入ってきたのはこのミアハファミリアの主神、ミアハであった。ナアーザは衣服の埃を払い、乱れた髪を直しながら主神を出迎える。

 

「ナアーザ?一体どうしたのだ?何が起きたのだ?」

 

「え~っと、この子がウチで自作のポーションを売って欲しいと言って来たのですが・・・。」

 

「ふむ、自作のポーションかどれ・・・む?」ガタッ

 

 神ミアハはナアーザから渡された瓶を鑑定し始めるとみるみるうちに顔を青くして冷や汗を垂らす。

 

 

「は?なんだ?このポーションをそなたが?いやいやいや・・・そんなわけが・・・え?本当に?どぅわえぇえええ!?」ドンガラガッシャーン!

 

 ミアハは余りの驚愕に仰け反り、そのままひっくり返ってしまった。先程のナアーザと全く同じ反応にベルもつい苦笑いしてしまう。ちなみに特に壊れた物はない。

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

「いたた・・・。あ、あぁ大丈夫だ。」

 

 ミアハは後頭部押さえながらもスックと立ち上がる。

 

「それで、どうでしょう?こちらで販売をしては頂けないでしょうか?」

 

「どうでしょうてあなた、こんな代物どこで拾ってきたのよ!?」

 

「自家製ですけど?」

 

「そんなバカな!?」

 

「いや、この子は嘘をついていない。これらのポーションは本当にこの子が作ったらしい。」

 

「ミアハ様!?」

 

「信じて頂けましたか?」

 

「私も神の端くれだ。子供達が嘘をついていれば分かるさ。だが、なればこそだが、君の提案は受け入れるわけにはいかない。」

 

「何故ですか?」

 

「これらのポーション、効能を相場に照らし合わせて値を付ければ数十万ヴァリスで取引されるような代物だ。大変お恥ずかしく、残念なことではあるが、ウチのファミリアにはこれ程の品を仕入れられる程の資金はないのだよ。他をあたるといい。」

 

 神ミアハは先程とはうって変わって真面目な表情で語る。日々の生活すら困窮することもある零細ファミリアには何十万ヴァリスもの商品を仕入れる資金がない。やはりどこの世界でも、何かを成す為には金金金なのである。

 しかし、そこでベルは商売人としての目を光らせる。

 

「資金の心配は必要ありません。定価委託販売という契約形態では如何でしょうか?」

 

「定価、委託販売・・・とは?」

 

「はい。ここで言う定価とは、売価を此方で決めさせて頂くこと、委託販売とは卸し時に仕入代金は必要とせず、一定期間商品を陳列して頂いて、売れた分だけ仕入代金を支払って頂くという形式です。売れ残った分は此方で引き取るか、継続で販売して頂いて構いません。」

 

「成るほど、君は凄いことを考えるな。此方には仕入、売れ残りのリスクがなく、そちらは広い売り場面積を確保できる、という訳か。」

 

「はい、此方の事情を申し上げると、商品は今でも作れるのですが、肝心のお店をボク達はまだ持っていません。商品を並べて頂く場所があるだけでも有難いんです。」

 

「ふむ、言葉に嘘はないようだな。わかった。その条件で契約させて貰おう。商品は直ぐに持ってきてくれるのだな?」

 

「勿論です。では取り合えず先程の商品を5本ずつ用意しますね。」

 

「うむ。ではその際に正式に契約をさせて貰おう。」

 

「わかりました!有り難うございます!では一度、ボク達のホームに戻って商品をお持ちしますね!」

 

「ホーム?そなたは冒険者なのか?」

 

「はい。ボクはポッコファミリア所属のベルといいます。」

 

「ポッコファミリアか、商業系でもあまり聞かない名だな?」

 

「ええ、一昨日立ち上げたばかりですから!」

 

「なっ!?一昨日だと!?」

 

「あっ日が傾いて来ましたね、急いで商品持ってきますね!では!」ダッシュ

 

「あ、おい!」

 

 そう言ってベルはミアハファミリアの店を後にした。

 

 

「ミアハ様・・・、彼は一体・・・?」

 

「ふ~む。もしかしたらオラリオに新しい風を持ち込む者かも知れんな。」フフッ

 

「はあ。」ジトー

 

「ん?何だ?」フイ

 

「何でもありません。」プイッ

 

 優しく微笑む神ミアハの横顔を見ていたナアーザは匙を向けられては頬を染めて顔を背ける。

 まったく、もう、まったく、この御方は。

 夕日のような顔で俯くナアーザをミアハは心配するようにその顔を除き込む。

 

「どうしたのだ?急に?」

 

「知りません!」

 

 そういうところだぞ!この朴念神!

 




 商売人モードのベル君はけっこう切れ者キャラのイメージあります。
 そしてこの幸薄そうなミアハ様に祝福を!
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