機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ vivere militare est   作:kia

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第8話  青い巨人

 

 

 

 

 

 眼前に広がる岩片と煙幕。

 

 その中からこちらに向けて突っ込んでくる褐色の戦艦。

 

 それを名瀬・タービンは何処か楽し気な笑みを浮かべて眺めていた。

 

 隣でマルバ・アーケイが喚き散らしているが、名瀬としてはこの男に義理立てする気も無くなっていた。

 

 その理由は簡単。

 

 宇宙ネズミと忌み嫌われ、禁止されている阿頼耶識を子供達に無理やり移植した事を自ら吐き捨てたからだ。

 

 『手術を拒んだ、ただのガキが何の役に立つ!』と。

 

 仕事柄、理不尽に扱われてきた子供を名瀬は見てきている。

 

 それは確かに現実であり、名瀬本人が腹立たしいと息巻いた所でどうにも出来ないものだ。

 

 しかしだから不快感を覚えないかと言われれば否である。

 

 「接触時のニアミスで飛び移り、艦内に侵入。艦のシステムを奪いつつ、ブリッジ制圧を目指すか。古臭い手だが上手いもんだな。なあ、アイツらはどうやってこっちのシステムに侵入してるんだ?」

 

 「し、知らないですよ。ネズミにどんな芸を仕込んだかなんて覚えてる訳ないでしょうが!」

 

 これだ。

 

 自分の会社に居た連中の技能すら把握していない。

 

 偉そうに喚き散らすだけのこの男より、命懸けで筋を通そうとしている鉄華団の方が余程マシだ。 

 

 マルバの不愉快な戯言を聞き流しつつ、侵入した連中が近づいてくるのを待っているとブリッジの扉が解放される。

 

 そこには銃を掲げた少年たちが立っていた。

 

 「よう、ご到着か」

 

 「これで俺らがただのガキじゃないって分かってもらえましたかね?」

 

 「確かにただのガキじゃないみたいだな」

 

 笑みを浮かべて迎え入れた名瀬にオルガ達も困惑したように銃を下した。

 

 「オ、オルガ」

 

 「よう、マルバ・アーケイ。アンタへの落とし前を付けに来たぜ」  

 

 怯えるように後ずさるマルバに近づいたオルガが下した銃を再び突きつける。

 

 「やめろ! お前達に仕事をやって、食わせてやってたのは誰だと思ってる!」

 

 「アンタだよ、マルバ・アーケイ。だから俺はアンタの命令に従って来た。アンタの命令通りにアイツらを!」

 

 「よせよせ、そんな奴の血で手を汚す事は無いぜ」

 

 名瀬の制止にオルガも何かを呑み込むように歯を食いしばると銃を下した。

 

 「……覚悟は見せてもらった。お前らとの取引考えてやろうじゃねぇか」

 

 「しゃあ!」

 

 「ふぅ」

 

 戦闘の終わりを意味する名瀬の言葉に皆が喜びと安堵の声を上げた。

 

 

 

 

 戦闘を終え、イサリビへと帰還を果たしたハルはボロボロになったアスベエルを見上げて頭を抱えていた。

 

 「此処まで酷いとは。これ修理にいくら掛かるんだよ」

 

 すでにモーゼスに回してもらった仕事で貯蓄してきた金の三分の一が消滅してしまっていた。  

 

 憂鬱な気分になりながら、冷静に頭の中で計算していくとさらに絶望的な気分へと変わる。

 

 一応アスベエルに関する運用費については鉄華団と折半という事で話はしてある。

 

 しかし此処からさらに修理費と今後の維持費等を考えると、地球にたどり着く頃には懐が空っぽになっていそうだった。

 

 「うあぁ、金がない。今後の仕事も目途が立たないしな、ハァ、こうなったら俺も鉄華団に入れてもらうか」

 

 無事に今回の件を終えた所で色々とハルは目立ちすぎた。

 

 ギャラルホルンと揉めている以上、今までのように単独で仕事をこなすのは難しいだろう。

 

 仕事を斡旋してくれていたモーゼスを危険な目に合わせる訳にもいかないし、ましてやクーデリアの負担になるような事は避けたい。

 

 「鉄華団に入るの?」

 

 いつの間にかアスベエルを見上げている三日月が立っていた。

 

 「そうさせてもらえればの話」

 

 「ふ~ん」

 

 興味がないのか何時もの火星ヤシを口にしながら、アスベエルの後ろにあるボロボロになったバルバトスを見つめていた。

 

 互いにぎこちない空気。

 

 鉄華団とそれになりに馴染んできたつもりだが、未だに三日月とは微妙な関係にあった。

 

 別に喧嘩をしている訳でも、嫌悪している訳でもない。

 

 戦闘の際に連携も取れる。

 

 だが何故かお互いどこかで距離を置いていた。

 

 理由は自分達にも分からない。

 

 ただそれを知るにももっと時間が必要なのかもしれない。

 

 「結局、タービンズとはどうなったんだ?」

 

 「今、オルガ達が話をしているらしいよ」

 

 「そうか」

 

 賭けの要素が大きかったとはいえ、交渉に持っていく事は出来た。

 

 後はオルガやビスケットに任せるしかない。

 

 「雪之丞さん、アスベエルはどうです?」

 

 「こりゃ徹夜覚悟だな。バルバトスもそうだが装甲からリアクター周りまでやらなきゃならない事が多すぎて手が回らねぇ」 

 

 「そうですか。……タービンズはもう大丈夫だとは思いますけど、他のアクシデントに備えて、最低限に動ける程度には持っていきたい」

 

 「流石に一機もまともに動けねぇのは不味いか。バルバトスは長丁場になりそうだし、グレイズ改は一番ボコボコだからな」

 

 昭弘のグレイズ改は敵機に組み付いた時に殴られた為、頭部は潰れ、装甲も所々が破損していた。

 

 作業的にバルバトス程ではないにしろ、アスベエルよりも時間が掛かるだろう。

 

 そこで襲撃を受ければひとたまりもない。

 

 「しょうがねぇ、おめぇも手伝えよ、三日月」

 

 「出来る事なら」

 

 「やるか」

 

 呆然としていてもモビルスーツは直らない。

 

 ハルは覚悟を決めると雪之丞達と一緒に機体の修復作業に取りかかった。

 

 

 

 

 

 

 ハンマーヘッドの一室に招かれたオルガ達は名瀬との対面を果たしていた。

 

 やたら豪華なソファーやテーブル。

 

 その上に並ぶ品の良いティーカップとお菓子。

 

 火星で厳しい環境に置かれてきたオルガ達にとっては見たことも無いものばかり。

 

 キョロキョロ周囲を見渡すユージン達を尻目にオルガは好奇心を抑え込み、目の前に座る名瀬を見ていた。

 

 モニター越しの交渉の時と違い、穏やかな雰囲気でクーデリアと雑談している。

 

 どうやらこの船は名瀬のハーレムであり、クルー全員が奥さんで子供もいるらしい。

 

 もはや想像もつかないレベルの話であるが、本題は別だ。

 

 そんなオルガの意思を汲み取ったのか名瀬が本題を切り出してきた。

 

 「で、何が望みだ?」

 

 「僕達は此処にいるクーデリア・藍那・バーンスタインさんを地球に送り届けたいんです。その為には安全な航路を確保できるタービンズに案内役を依頼したいんです。そしてもう一つ」

 

 「俺達鉄華団をテイワズの傘下へと入れて貰えないでしょうか?」

 

 鉄華団はテイワズの傘下へ加わる事でギャラルホルンへ対抗しようとしている。

 

 そんな鉄華団側の思惑など名瀬はとっくに看破していたのか、すぐに表情を綻ばせた。       

   

 「ま、いいだろう。オヤジに話を通してやる」

 

 「ありがとうございます」

 

 「入れると決まった訳じゃねぇぞ。交渉出来るように話を通してやるだけだ。上手くいくかはお前ら次第だ」

 

 それでも切っ掛けを創る事に成功したのは確かだ。

 

 此処から交渉次第とはいえ、テイワズの後ろ盾を得る可能性も出てきたのだから。

 

 そこでビスケットがずっと気になっていた事を口にした。

 

 「あの、クーデリアさんが資産とか言ってた事については……」

 

 タービンズと接触した際にクーデリアを見た名瀬が口にしたのだ。

 

 『お嬢さんはマルバの資産』だと。

 

 「あ~、どこまで話して良いもんか。お前らギャラルホルンについてどこまで知ってる?」

 

 「えっと、軍隊だろ。良くわかんねぇけど」

 

 他のメンバーも似たようなもので、ギャラルホルンに関して詳しい者はいなかった。

 

 まあ火星で生きていくだけならば、余程の事がない限りギャラルホルンに深入りする事もないから無理もない。      

 

 「ギャラルホルンとは厄祭戦と呼ばれた戦いを終結させ、その後も巨大な軍事力を背景に戦争が起こらないよう世界経済圏を外部から監視する組織ですね」

 

 「そうだ。だが各経済圏はそれを重荷に感じ始めている。最近のギャラルホルンは自らの利益追求に走ってるからな。地球じゃ不正や汚職事件なんて日常茶飯事になってる。そんな時に現れたのがこのお嬢さんだ」

 

 「ノアキスの七月会議ですね」

 

 「そう。火星独立運動をまとめた時代のヒロインって訳だ」

 

 ヒロインとはクーデリアにとっては寝耳に水だった。

 

 勿論、各権力者に利用されるだろう事は覚悟していたが。

 

 恐らく『資産』というのはそういう意味なのだろう事も分かっている。

 

 「一地方の独立運動家がギャラルホルンを飛び越えて、経済圏のトップと会談する。これが実現したら一大事だ。奴らの支配体制を揺るがしかねない」

 

 「それと資産と何の関係があるんです?」

 

 「これ以上はオヤジに聞いてくれ。ま、俺なんかには扱いきれない大物ってことさ、このお嬢さんはな」

 

 笑みを浮かべる名瀬の反面クーデリアの表情は固い。

 

 次の会う事になるのはマクマード・バリストン。

 

 テイワズを纏める大物中の大物である。  

 

 「……それでも私は」

 

 やるべき事は同じ。

 

 決意は揺らがず、ただ前だけを見据えていた。

 

 

◇ 

 

 

 モビルスーツの損傷具合はハル達の想像を大きく超えていた。

 

 使い物にならない装甲の補修、破損した部品の交換、リアクター周りの調整。

 

 やる事が多すぎる。

 

 とはいえ一気にすべてを終わらせる事は出来ないのでハルは昭弘や三日月と一緒に食堂で休息をとっていた。 

 

 「旨いな」

 

 「普段はあんま食べないのにこういう時は食べるよね」

 

 「阿頼耶識を使った後は腹が減るんだよ。それに空腹じゃいざという時に動けないだろ」

 

 テーブルの上に広げられた山盛りの食事に三人が齧り付くように喰い漁っていく。

 

 そんな様子をアトラは楽しそうに眺めながら呟いた。

 

 「それにしても皆が無事で良かった」

 

 「今回は作戦が上手く嵌ったからね。各々が敵を良く抑え込んでくれたっていうのもある。皆、流石の腕前だ」

 

 「そういえば聞いた事なかったが、お前はその腕前はどこで磨いたんだ? モビルスーツの扱いとかと同じくモーゼスのおっさんからか?」

 

 昭弘の疑問に三日月もアトラも気になっていたのか、サンドイッチに齧り付いていたハルを見る。 

 

 「俺に戦闘技術を教えたのは傭兵だよ。昔、俺はヒューマンデブリとして海賊に買われて。でも海賊排除の依頼を受けた傭兵団によって壊滅して、その後で傭兵団に使われる事なったんだ。戦闘技術に関してはその時だな」

 

 「海賊の時には?」

 

 「何も。あの頃の事は記憶が曖昧で正直、覚えてないんだ。阿頼耶識の施術を受けた時に見た白い壁や天井くらいで。多分、海賊に買われた直後に傭兵団に襲撃されたんだろうな」

 

 気がついたら傭兵団の格納庫に居た。

 

 当時は何が起きたのか、訳が分からなかったものだ。

 

 「あれ、じゃあクーデリアさんとは?」

 

 「お嬢様と会ったのはその後だよ。傭兵団は別の傭兵団の攻撃で壊滅して、俺はアスベエルと一緒に火星に落ち延びたんだ。モーゼスとも傭兵時代に会った」   

 

 「なるほどな。殆ど俺と同じ経緯だな」

 

 「昭弘も?」

 

 「ああ」

 

 詳しくは語らなかったが昭弘もハルと同じような目に合ってきたらしい。

 

 ヒューマンデブリの辿る結末など、どれも大して変わらないという事だ。   

 

 「過去話はこの辺でいいさ。それより早くモビルスーツを片づけよう」

 

 「そうだな」

 

 「俺もいざという時、動けないと困るし」

 

 「アトラ、食事ありがとう」

 

 残った食材を口に詰め込むとアトラに礼を言って食堂を後にする。

 

 そのすぐ後、イサリビに帰還したオルガ達からテイワズ代表マクマード・バリストンとの交渉が行われる事が決定したと告げられ、艦内が沸き立つ事になった。

 

 

 

 

 イサリビはテイワズの本拠地である『歳星』と呼ばれる船に向けて移動を開始していた。

 

 しかしそんな中、鉄華団にとって深刻な問題が発生していた。 

 

 火星にある鉄華団本部の運営資金が底をつきかけているとメールが送られてきたのである。

 

 これは不味いとオルガやビスケットは頭を抱えて、解決策を模索していた。

 

 考えた末の方策。

 

 それがギャラルホルンからの鹵獲品を売買する事だ。

 

 しかし物が物だけに通常の業者では捌けない可能性が高い。

 

 此処でモーゼスに頼むという方法もあったのだが、彼のホームグラウンドは火星。

 

 鉄華団の件で噂になっている火星での売買はリスクが高く、安心できる業者を探すだけでも時間が掛かる。

 

 「で、俺に業者を紹介して欲しいって訳だ」

 

 「はい」

 

 オルガとビスケットが考えたのが名瀬に業者を紹介してもらう事だった。  

 

 マクマードとの交渉前にこれ以上頼りにするのは心情的にも抵抗があったが背に腹は代えられない。

 

 「お前らそんなに金に困ってるなら、何で俺が仕事紹介してやるって言った時、断ったんだよ」

 

 「えっ、それは離れ離れになるからと」

 

 「何で離れるのが駄目なんだ?」

 

 それは純粋な疑問だった。

 

 正直な所、テイワズの傘下に入れたとしても、鉄華団の未来はオルガ達が考えている以上の困難が待ち受けているのは明白。

 

 ギャラルホルンからも目を付けられ、実績もない故に敵も作っていく事になるだろう。

 

 それを切り抜けていくためにはオルガ達はあまりに非力で無知で、そして無謀だ。

 

 犠牲も確実に出る。

 

 ならば名瀬が紹介した仕事を受けた方が遥かに安全で楽な筈。

 

 たとえ離れ離れになったとしても、死ぬ事はない。

 

 「俺達は離れられない、いや、離れちゃいけないんです。繋がってるから」

 

 「繋がってる?」

 

 「はい。死んじまった仲間が流した血とこれから俺らが流す血が混じり合って鉄みたいに固まってる。だから離れられねぇ」

 

 「マルバに言ってた『アンタの命令通りにアイツらを』ってのが死んだ仲間って訳か?」

 

 オルガは答えずただ自分の腕を掴むだけだ。

 

 隣に座るビスケットもオルガのこんな言葉は初めて聞くのか、驚きつつも黙っていた。

 

 「離れられないか、それは分かった。でもな、オルガ。鉄華団を守り抜くっていうなら今まで以上の覚悟が必要だぜ。お前の命令一つでガキ共が死んでいく。その責任からは逃げられない。誰も肩代わりしてくれねぇぞ」    

 

 「覚悟は出来ているつもりです。訳の分からない命令で仲間が無駄死にさせられるのは御免だ! アイツらの死に場所は鉄華団の団長として俺が創る! それは俺の死に場所も同じ、アイツらの為なら俺はいつでも―――ガァ!」

 

 熱くなったオルガの言葉は名瀬のデコピンで止められてしまった。

 

 「馬鹿野郎、お前が死んだらそれこそ鉄華団は終わりだろうが」

 

 「あ……」

 

 「お前が持たなきゃいけない覚悟は何があっても生きる覚悟だ。それこそ泥水啜ってでも、仲間を守る為にな。しかし、血が混じって繋がってか。そういうのは仲間っていうんじゃなくて『家族』っていうんだよ。ま、話は分かった。悪いようにはしないから任せておけ」

 

 「よ、よろしくお願いします!」

 

 「お願いします!」

 

 何とか名瀬との話を終える事が出来た。

 

 しかしオルガはあまりの羞恥に座り込んでしまった。

 

 「アアァァ! やっちまった! あんなガキ臭い事を!」

 

 此処へは交渉に来た筈なのにこれでは自分の心情を盛大に暴露しただけだ。 

 

 しかも青臭い事この上ない。

 

 ユージン達にはとても見せられない醜態に頭を抱えてしまう。

 

 「そう? 考えてくれるって言ってたじゃない」

 

 「そういう事じゃない! 商売の話ってのは対等に行わなくちゃいけないのによ、本当に!」  

 

 「何やってるんだ、オルガ? そんな所に座り込んで」

 

 近づいてきたのはハルだ。

 

 ここ最近整備の合間にハンマーヘッドで三日月、昭弘と共に訓練に明け暮れていた。

 

 ハルは今日の訓練を終え、イサリビに帰る所だったのだ。  

 

 「交渉に行くって事だったけど」

 

 「うん、それは上手くいったんだけどね。オルガがさ」

 

 「ビスケット、余計な事言うなって!」

 

 珍しく狼狽したオルガの様子を見て笑うビスケット。

 

 二人の様子からすると、別段不味い事が起きた訳ではないようだ。

 

 「それよりハル、ミカから聞いたけど、鉄華団に入りたいんだって?」 

 

 「えっ、あ、ああ。出費がかさんだ上にギャラルホルンからも目を付けられただろうから仕事が無いかもって。だから鉄華団に入れて貰えれば助かるって話はしたけど」

 

 まさかその話を三日月がしているとは思わなかった。

 

 「俺らは歓迎するぞ」

 

 「そうだね、ハルも加わってくれれば心強いよ」

 

 まさかこうも歓迎されるとは思っていなかったので、妙にこそばゆい気持ちになる。

 

 「じゃあこの件を終えて、仕事ぶりを評価した上でもう一度返事をくれ」

 

 「とっくに評価してるけどな。で、ミカ達は?」

 

 「まだ特訓してるよ。俺は哨戒の時間だから。アスベエルの調子を確かめるには丁度良いし」

 

 未だにモビルスーツは万全とは言い難い状態だった。

 

 しかしグレイズ改とアスベエルは何とか哨戒任務をこなせる程度に動かせるようになっていた。 

 

 「しかし大丈夫か?」

 

 「機体の調子を見る為でもあるからな。とにかく行ってくるよ」

 

 「気を付けてね」

 

 イサリビに戻ったハルはノーマルスーツに着替えるとアスベエルに乗り込み阿頼耶識を接続する。

 

 「どうだ?」

 

 「前よりは良くなってます。一部挙動に違和感はあるけど、動かす分には問題ありません」 

 

 雪之丞の状態を伝えると渋い顔で端末に目を向ける。

 

 「後は動かして見ての細かい調整だな」

 

 「はい。哨戒任務後に報告しますから、その間にバルバトスの方をお願いします」

 

 「ハァ、アレも難敵なんだよなぁ」

 

 機体に取りついていた雪之丞達が退避するとアスベエルがカタパルトまで運ばれていく。

 

 《進路クリア、いつでもどうぞ》

 

 「ハル・ハウリング、ガンダムアスベエル出るぞ」

 

 フミタンの声に合わせて出撃したハルは挙動を確認するように動き回りながら、哨戒任務を開始する。

 

 視界の悪い岩場もあるにはあるが、ハンマーヘッドやイサリビの進路を邪魔するようなものはない。

 

 「周囲に敵影はない。まあ、この辺には海賊なんていないらしいけど」

 

 海賊という言葉でまた少し昔を思い出した。

 

 自分に戦う術を教えた男の事を。

 

 「生きてるのか、死んでるのか。ま、どちらにしろ関係ないか」   

 

 珍しく回顧していたハルの耳に甲高い警戒音が響いてきた。

 

 「エイハブ・リアクターの反応!?」

 

 反応のあった方向へ機体を向けるとそこには一機のモビルスーツが佇んでいた。

 

 青と黒の装甲を持ち、細身の剣を掲げ、アスベエルへと一直線に突っ込んでくる

 

 「速い!?」

 

 スラスターを吹かし紙一重で攻撃を躱すも、すぐ様方向を変えサーベルを向けて突進してくる。  

 

 その機動性と突進力にハルは思わず舌打ちする。

 

 「チッ、こいつ!」

 

 あの凄まじい速度の乗ったサーベルを受ければ、ナノラミネートアーマーですら貫通しかねない。

 

 ハルは敵の軌道を見極め、大剣を盾にサーベルを受け止める。

 

 二機のモビルスーツが一瞬、睨みあう形で組み合った。 

 

 「ッ、これは……」

 

 光るツインアイ、特徴的な角と顔。

 

 バルバトスやアスベエルにも共通する頭部は間違いない。

 

 「ガンダム・フレームか!?」

 

 二機のガンダムは互いを敵だと認識するように鍔競り合いながら、不気味にツインアイの光を灯していた。

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