機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ vivere militare est   作:kia

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第9話  家族

 

 

 

 

 

 大剣と細剣が激突し、激しい火花を散らしながら二機のモビルスーツが睨みあう。

 

 モニターに映る敵の姿にハルは思わず息を飲んだ。

 

 「ガンダム・フレームか!? 一体何者だ!」

 

 「……答える必要はない」

 

 「女の声?」

 

 戸惑うハルを尻目に青いガンダムは剣を引き、同時に繰り出してきた蹴りが肩に直撃する。

 

 踵に装備されたブレードが装甲に傷をつけ、さらに振るったサーベルがアスベエルを吹き飛ばした。

 

 「ぐっ、この!」

 

 サーベルは突き出した腕で弾いたものの、敵は体勢を崩した所を狙って再び突進してくる。

 

 「その戦法はもう見た!」

 

 サーベルを上手く大剣の腹で流し、直後に分割した剣を青いガンダムに叩きつける。

 

 直線で動いていた敵は剣を避ける事が出来ず、止むえず足を振り上げ膝で防御した。

 

 それがハルの狙いだ。 

   

 敵はどうやら速度を乗せたサーベルでの刺突でナノラミネートアーマーを貫通させるのが主戦法らしい。

 

 それは確かに脅威だが、同時に直線故に対処もしやすい。

 

 大剣で刺突を流し、斬撃で動きを止めたらこちらのものだ。

 

 「ハアアアアア!!」

 

 横薙ぎに振りかぶった一撃が敵機の横腹へと振りかぶられた。

 

 流石にあの細剣で大剣の一撃は防ぎきれない。

 

 そう判断したハルだったが、次の瞬間斬撃が直撃したと同時にサーベルの刃を外し、受け流すように大剣の軌道を変えられてしまった。

 

 「何!?」

 

 武装のギミックに不意を突かれたハルに両手で構えたハンドガンの一斉射撃が襲い掛かる。

 

 咄嗟に腕と大剣を盾に射撃を防御するが、強烈な弾幕を前に後退させられてしまった。

 

 「ぐっ、こいつ!」

 

 その間に腰部に新たなサーベルの刃と交換し、再び突撃を仕掛けてくる。  

         

 「何度も同じ手が通用すると思うなよ!!」

 

 ハルとて闇雲に動いていた訳ではない。

 

 ずっと敵の攻撃を防ぐ盾代わりになるものを先ほど見つけていた。  

 

 「ここ!」

 

 サーベルが突き出されたタイミングで確保しておいたデブリを盾にして攻撃を防ぐ。

 

 そして同時に側面へと回り込み、大剣を振り抜いた。

 

 「ッ!?」

 

 弧を描いた一太刀が青いガンダムの肩へと直撃し、大きく体勢を崩す。

 

 そこを見計らいコックピットに向けて、剣を突き出した。

 「止め!」

 

 「……そうはいかない」

 

 青いガンダムは咄嗟に機体のスラスターを噴射させ、アスベエルの体勢を僅かにずらし剣の直撃を避けて見せた。

 

 「避けた!? あの妙なグレイズ並みの反応……だとしても!」

 

 未だ間合いはアスベエルの距離である。

 

 突きの戦法を取るには近すぎる。

 

 かといってハンドガンに持ち替える暇は与えない。  

 

 近接戦闘を仕掛けるにしても阿頼耶識で機体を操るハルの反応には及ばない。

 

 「これで倒す!」

 

 「甘く見ないで貰いたい」

 

 剣を振り抜こうとした瞬間、サーベルに突き刺さっていたデブリが爆発しアスベエルと青いガンダムを吹き飛ばした。

 

 「ぐああ!!」

 

 「くぅ!」

 

 至近距離での爆発に二機のガンダムは大きく引き離され、アスベエルは近くに浮くデブリへと叩きつけられた。

 

 衝撃による痛みをどうにかやり過ごし、敵の姿を確認するとすぐさま体勢を立て直し、新しい刃を腰から引き抜いていた。

 

 「サーベルにあんな仕掛けまで。チッ、技量も高い上に機転と判断力もある」

 

 アスベエルの不具合を差し引いても、手強い。

 

 高度な技術と豊富な経験を保持したパイロットに違いない。

 

 敵が阿頼耶識でない事が救いか。 

 

 お互いに刃を構え、再び攻撃を仕掛けようと間合いを測っていると別方向からの攻撃が青いガンダムに襲い掛かった。

 

 「ハル、後退しなさい!」  

 

 「百里!? ナーシャさん!!」

 

 援護に現れたのはハンマーヘッドのパイロットの一人、ナーシャ・タービンの百里だ。

 

 その機動性をもって青いガンダムを翻弄しながら銃撃を叩き込み、それに合わせてハルも滑空砲の砲撃を加えていく。

 

 「……調整中の機体でこれ以上は無理か」

 

 青いガンダムは武装をハンドガンに持ち替え、牽制しながら後退する。

 

 「撤退する気か?」

 

 ハルの予想通り敵はデブリを上手く使って、戦闘宙域から離脱していった。

 

 「ハァ、何とかなったか。でもあれ以上続けていたら……」

 

 負けなかったかもしれないが、機体に深刻なダメージを負っていた可能性は高い。

 

 「ハル、大丈夫?」  

 

 「ありがとうございます、ナーシャさん」

 

 「気にしないで。どうせ哨戒任務に出ないといけなかったしね」

 

 人懐っこい笑顔を浮かべるナーシャ。

 

 彼女は明るく朗らかな人柄で気取るところもなく付き合いやすい。

 

 ハンマーヘッドで一緒に訓練していた三日月達ともすぐに仲良くなっていたし、物怖じしない性格なのだろう。 

 

 「それにしても何だったんだろ、あの機体。ハルは心当たりある?」

 

 「いえ。こちらが聞きたいくらいです」

 

 少なくともあんな機体は見た事がなかった。

 

 海賊か。

 

 それとも傭兵か。

 

 もしくは―――

 

 通信機から聞こえるオルガ達の声を聴きながら、ハルは青いガンダムが去って行った方角へと視線を向けた。

 

 

 

◇ 

 

 

 

 ハンマーヘッドに先導されて数日、予想外の襲撃を受けながらも鉄華団はテイワズの本拠地である大型惑星間巡航船『歳星』へと辿りついていた。

 

 名瀬に連れられ豪華な屋敷に通された鉄華団のメンバーは目の前に立つ人物を息を飲んで見つめている。

 

 名はマクマード・バリストン。

 

 テイワズの代表を務める圏外圏で最も恐ろしいとも呼ばれている男である。

 

 盆栽にハサミを入れる姿はどこにでもいる初老の男だ。

 

 しかしその体は大きく、威圧感もある。

 

 学の無い鉄華団の面々ですら名前くらいは聞いた事のある大物を前に誰もがガチガチに固まっていた。

 

 無理もない。

 

 あのテイワズのトップを目の前にしているのだから。

 

 そんな面々を見渡しながらマクマードは豪快な笑みを浮かべた。

 

 「来たか。話を聞いてるぜ、お前らが鉄華団。良い面構えしてるじゃねぇか。おい、カンノーリでも出してやれ」

 

 「へい」

 

 想像したよりも遥かに親しみやすいマクマードに全員が面食らってしまった。

 

 そんな様子を見ていた名瀬が一歩踏み出すと、マクマードも本題を切り出した。

 

 「で、名瀬。お前はどうしたい?」

 

 「こいつらは大きなヤマが張れる奴らだ。親父、俺はこいつらに杯をやりたいと思ってる」

 

 「ほう、珍しいな。お前が男をそこまで認めるとは。まあいいだろう、俺の元で義兄弟の杯を交わせばいい。タービンズと鉄華団は晴れて兄弟分だ」

 

 「俺達とタービンズが兄弟分?」

 

 トントン拍子に進む話について行けないのかオルガが珍しく呆然と呟いた。

 

 それは全員一緒で、まさか此処まであっさり話が進むとは思っていなかった。

 

 「で、貫目は?」

 

 「五分でいい。どちらが上も下も無い」

 

 「お前がそれでも良くても周りが許さんさ、こいつらには荷が重い。せめて四分六にしておけ」

 

 覚悟していた侮蔑も反対もない。

 

 名瀬とマクマードの話に誰も口を挟む事が出来ずに進んでいく。

 

 まるで夢でも見ているかのようにあっさりと鉄華団はタービンズと兄弟分となる事が決まったのだった。 

 

 

 

 

 地球に向けて航行するギャラルホルンビスコー級宇宙艦艇。

 

 その艦橋では火星から同道してきたアインとグレイ、そしてマクギリスが不服そうな表情を隠しもせずにモニターを眺めているガエリオを諫めていた。

 

 モニターに映っているのは火星で交戦したガンダム・フレームだ。

 

 彼らに遅れを取ったのが余程気に入らなかったらしい。

 

 「そう不機嫌になるな、ガエリオ。もうすぐ地球なのだからな」

 

 「全く面倒な仕事だった。それにあの宇宙ネズミ共!」

 

 「クーデリアを連れた鉄華団も地球に向かっている筈だ。アリアドネラインを辿らない彼らを捕捉する事は難しいだろう」

 

 「下賎な生き物程、逃げ足も速い訳だ」

 

 ガエリオの言葉を聞きながらマクギリスの傍に控えていたグレイは必死に感情を抑え込んでいた。

 

 別に鉄華団自体が侮蔑されようがどうでもいい。

 

 しかしガエリオの火星に住まう人々を見下したような発言は許せなかった。

 

 隣に立つアインが冷静な顔を浮かべていなければ、睨みつけていたかもしれない。

  

 「逃がしはしないさ。だから今、裏の情報に詳しい男に探らせている」

 

 「流石に抜かりないな、マクギリス特務三佐。いや地球に帰ったら昇進だからこの名では呼べないか」

 

 「ふ、お前こそ姉君に叱責されないように注意する事だ。あの人はやたら耳が良いからな」

 

 マクギリスが姉の事を口にした瞬間、ガエリオは露骨に嫌な顔をする。

 

 「姉上の事は言うなよ。お前だって苦手だろ。ガキの頃、俺もお前もカルタも散々殴られたじゃないか」

 

 「ふ、彼女と先輩のお陰で今の私がいる。感謝こそすれ、苦手に思った事など無いさ」

 

 「相変わらず真面目な奴」

 

 それ以上、姉の話題に触れたくなかったガエリオは部下になったアインとグレイを連れ、艦橋を出る。

 

 「まあ、火星に向かう前に姉上は任務があるとか言って地球を離れていったから小言を聞く事はないんだが……嫌だ嫌だ、姉の事で悩むくらいなら自分の女の事で悩みたい。そういえばお前達には相手はいるのか?」

 

 「いえ」

 

 「いません」

 

 「つまらない奴らだな。せっかく部下にしてやったんだから、話のネタくらい仕入れておけよ」

 

 立ち去っていくガエリオの姿が見えなくなってから、ようやくグレイが溜まりに溜まったものを吐き出した。

 

 「ふざけるな! 何が宇宙ネズミだ、下賎な生き物だ! 火星を見下しやがって!」

 

 「落ち着け、グレイ。アレは奴らを揶揄しただけだ」

 

 「分かってるさ! でもアイツの根底にあるのは火星に対する侮蔑なんだよ。この前の戦闘でも『火星人は火星に帰れ』って叫んでた。そんなに地球生まれが偉いのかよ!」

 

 「偉いんだろ。彼はセブンスターズの生まれだから」

 

 「……何がセブンスターズだ」  

 

 敵意の籠った声で吐き捨てるグレイを尻目にアインは昏い憎悪の感情の込めて拳を握りしめる。

 

 「クランク二尉は最後まで俺達の事を考えて下さっていた。そんな人を情け容赦もなく殺すなんて……」

 

 「分かってるさ。ボードウィンは気に入らないけど、それは別の話。あの白黒のモビルスーツは必ず俺達の手で」

 

 「ああ」

 

 かつてクランクは言った。

 

 『罪の無い子供』を殺す事は出来ないと。

 

 だが彼らは違う。

 

 クランクの善意を踏みにじり、殺し潰した彼らは『罪のある子供』だ。

 

 ならば殺しても彼の意思には反すまい。

 

 「その為なら誰にだってついて行くさ」

 

 憎悪に彩られた彼らの心は深く黒く沈んでいく。

 

 二人は歩みを進めていくだろう。

 

 這い上がれない地獄に続く道に繋がっている事に気づかないまま。

 

 

 

 

 話が纏まり、名瀬やオルガ達が去ったマクマードの屋敷にはクーデリアとハル、三日月だけが残っていた。

 

 クーデリアの今後に関する話に違いないが、念のためにハルと三日月を護衛役として傍に控えさせてもらったのだ。

 

 「アンタが火星独立運動家のお嬢さんか。時の人に会えて光栄だよ」

 

 「時の人なんて……それでお話というのは?」

 

 「お嬢さんは火星経済の再生策として地球側が纏めていたハーフメタル資源の規制解除を要求。火星での独自流通を実現する為に地球まで出向く。間違いないか?」

 

 クーデリアが頷くとマクマードはこちらの知らない驚きの情報をぶち込んできた。

 

 「アーブラウ代表である蒔苗はこれを本気で押し通すつもりらしい」

 

 「本当ですか?」

 

 はっきり言ってしまうと今回の交渉はかなり難航すると思っていた。

 

 圏外圏とは違い地球圏でのギャラルホルンの影響力は未だ健在。

 

 それを飛び越えた交渉はクーデリアのみならずアーブラウにもリスクが伴う形となる。

 

 利害の一致を得たとしても簡単には事は運ばないと思っていただけに、マクマードから聞かされた話は朗報と言っても良い。

 

 しかし喜ぶ間もなく、冷たい現実が突き付けられた。

 

 「下手すれば戦争になるな。利権を得ようと様々な組織が暗躍する事になる。それこそどんなあくどい手を使おうともな」

 

 「……しかも長引く事になる」

 

 「ああ。利権を得ても各組織間で軋轢が残るからな」

 

 分かっていた事だ。

 

 単純に変えるだけでは済まないと。

 

 動くのは莫大な金。

 

 それに伴う利益。

 

 砂糖に群がる蟻のように望まぬモノも寄ってくると。

 

 「お嬢さん、此処はテイワズを指名しちゃくれないか。お嬢さんが直々に指名したって大義名分があれば、その後の問題もこっちで何とかできる」

 

 これだ。

 

 これこそクーデリアが『資産』扱いされていた理由に違いない。

 

 今回の交渉が上手くいった際に彼女が指名した企業は間違いなく莫大な利益を得る事が出来る。

 

 当然、テイワズもそれを狙っていた筈だ。

 

 鉄華団がテイワズの協力が得られたのも、クーデリアが断りにくい状況を作り出す為の餌。

 

 そう考えればあそこまでトントン拍子に話が進むのも理解できる。  

 

 心情的にマフィアとしての一面を持つテイワズを指名する事には若干の抵抗がある。

 

 どんな悪影響があるか予測できないからだ。

 

 だが悪い面ばかりではない。

 

 テイワズは圏外圏でも格別の力を持った組織である事は間違いない。

 

 マクマードの言う通り、当座の問題は彼が抑え込んでくれる。

 

 それにテイワズの後ろ盾を得られた鉄華団に報いる事も出来るのだ。

 

 クーデリアは内にある僅かな迷いを振り切ろうとハルの方へ視線を向けた。

 

 「ハル」

 

 「……お嬢様」

 

 もはや道は決まっている。

 

 いや、彼女は決めているのだ。

 

 だからハルも彼女の迷いを振り切る為に背中を押す。

 

 「……いや、クーデリア。君はすでに決断した筈だ、あの時に。俺が銃を取ると決めたように。これが最後の選択だ。だから最後も自分で決めないと」

 

 「そうだね。多分、これはアンタのこれから先すべてを決めてしまう決断だ。だから自分で決めないと意味ないと思うよ」 

 

 ハル、そして三日月の言葉に迷いを振り切るように頷く。

 

 「そうね。……分かりました」

 

 「ほう? あっさり決めるじゃねぇか」

 

 「私の手はすでに血で汚れています。この血は鉄華団の血であり、そして私の大切な人達の血です。私が立ち止まる事は彼らに対する侮辱になる」

 

 「それでいいんだな?」

 

 「はい」

 

 笑みを浮かべたマクマードは傍らに立つハルと三日月に目を向けた。

 

 「若いの、名前は何と言う?」

 

 「ハル・ハウリング」

 

 「三日月・オーガス」

 

 「お前らモビルスーツ乗りか……お前らのモビルスーツうちで見てやろう。うちの職人は腕が良いぞ」

 

 突然の申し出に戸惑ってしまうが、何となく察しはついた。

 

 迷っていたクーデリアの背中を押した礼という事だ。

 

 「申し出はありがたいのですが、資金が……」

 

 「金の事は気にしなくていい。これは年寄りの気まぐれさ。遠慮せず素直に受け取っておけ」

 

 確かに資材や資金も心許なかったので、タダで見てくれるというのはありがたい申し出である。

 

 三日月を見ると軽く頷いているから、不満はないのだろう。

 

 「よろしくお願いします」

 

 「ああ、任せておけ」

 

 マクマードの頭を下げ、先に出た三日月に続く形でクーデリアと部屋を出ると緊張から解放されたように二人そろって息を吐いた。

 

 

◇  

 

 

 正式にテイワズの後ろ盾を得られる事になった鉄華団。

 

 しかもタービンズの兄弟分になるという予想外の出来事も相まって、団員たちは大いに盛り上がっていた。

 

 オルガが名瀬から聞いた家族サービスという息抜きを実践したのも大きい。

 

 幼い子供達には甘いカンノーリを。

 

 主要メンバーを含めた面々には鹵獲品の売買で得た金を使い、酒場で宴会を。

 

 張り詰めた緊張感から解放された団員達は各々羽目を外してはしゃいでいた。

 

 「今日は全員、楽しめよ!!」

 

 オルガの一声で団員達が楽しそうにご馳走に手を伸ばし、酒を片手に騒ぎ出す。

 

 「ハルよう、女は柔らかいし最高だよなぁ」

 

 「酔ってるのか、シノ?」

 

 「そんな訳ないだろ! タービンズと一緒になってからストレス溜まりまくりでよ!」

 

 話を聞くとシノはハンマーヘッドのクルーに声をかけまくっていたらしい。

 

 だが彼女達は全員が名瀬の奥さん。

 

 当然シノに靡く筈もなく、毎回撃沈していたようだ。

 

 「お前は良いよなぁ、お嬢様がいるんだから、ハァ。けど今日は違うぜ、なあ、ユージン!」

   

 「お、俺は別に女なんてどうでも」

 

 「くだらねぇ」

 

 どうやらユージンとシノはこの後でそういった店に行く予定なのだと聞かせてきた。

 

 昭弘は呆れたように、ビスケットは苦笑いを浮かべて二人を見ている。

 

 「ほらほら、何やってんだ! ハルも飲めよ!」

 

 「あ、ああ。オルガ、少し飲み過ぎじゃ……」 

  

 「今日はとことんまで行くぞ!!」

 

 「「「おおお!!」」」

 

 オルガの声に団員達が一斉に声を上げ、楽しそうに酒を呷る。

 

 「あんなオルガ初めて見る」

 

 「そうなのか?」

 

 「うん」

 

 一番付き合いの長い三日月がそういうなら、あんなにはしゃぐように騒ぐオルガは珍しいらしい。

 

 そのまま宴会は続き、全員が夜遅くまで騒ぎ続けた。 

 

 

 

 

 一人宴会を抜けたハルはクーデリアやフミタンと合流しモーゼスからの連絡を受け取る為に彼の関係者に会いに行っていた。

 

 幅広く商売を行っている彼はテイワズとも付き合いがある。 

 

 この『歳星』にも彼の会社の人間が滞在していると聞いていたのだ。

 

 夜でも明るい通りを歩き、イサリビが停泊している所とは別のドックに顔を出す。

 

 そこにはハルやクーデリア、フミタンとも見知った顔が居た。

 

 「あ、ジャン、アンナ、メリア!」

 

 「え?」

 

 「ああ!!」

 

 「クーデリア! ハルにフミタンもか!」

 

 荷物運びを手伝っていた少年少女。

 

 ハル達に気が付いた途端に駆け寄ってきた。

 

 「皆!」

 

 張り詰めていたクーデリアが満面の笑みを浮かべ、走り寄ってきた少女達の体を抱きしめる。

 

 「会いたかったよ! 久しぶり、クーデリア!」

 

 「フミタンも!」

 

 「ええ」

 

 「元気そうでなによりです」

  

 普段から感情を表に出さないフミタンも珍しく笑みを浮かべていた。

 

 その傍でハルは近寄ってきた同年代の少年ジャンと握手を交わす。

 

 「色々社長から聞かされてるぜ、ギャラルホルン相手に派手に暴れてるらしいじゃないか、ハル」

 

 「久しぶり、ジャン。俺としては此処まで派手に動く気はなかったんだけどな」

 

 彼らはハルとクーデリアの幼馴染であり、火星に居た頃の仲間達である。

 

 とある事情により彼らはモーゼスの庇護下に入り、彼に会社で働いていた。

 

 昔の生活と比べても遥かに安定しており、モーゼスにより教育も受けている。

 

 あの頃に比べても雲泥の差だ。

 

 彼らが笑顔を浮かべていられるだけでも、モーゼスに感謝しなくてはいけない。

 

 「そうそう社長から連絡来てた。『歳星』に頼まれてた人を送ったってさ。多分、次の便で来るんじゃないか」

 

 「ありがとう。引き続き情報収集を頼むって伝えておいてくれ。金はその都度送金するから」

 

 「分かった」

 

 「それで最近はどうなんだ?」

 

 「大変だけどやりがいはある」

 

 それぞれの近況を話ながら、雑談に花を咲かせる。

 

 結局、長い間話し込んでしまった。

 

 ハルはジャン達の仕事の邪魔をしてはいけないと酒場へと戻る事にした。

 

 クーデリア達は今日は向こうに泊まると言っていたから、夜通し話し続けるつもりらしい。

 

 酒場まで戻ってくると店の外で三日月やビスケット、そして昭弘に担がれたオルガの姿があった。

 

 「どこ行ってたの、ハル?」

 

 「モーゼスの会社の人と会ってきた。引き続き情報収集を頼んできたのと、前に話した人員確保の件で話がね」

 

 イサリビのモビルスーツに関する人手不足に関しては、オルガやビスケット達主要メンバーと何度も話し合いを行っていた。

 

 とはいえ全部を解決できる妙案がいきなり浮かぶわけも無く、妥協案としてある程度知識のある人間を呼ぶ事にしたのだ。

 

 「次の便で来るらしい」

 

 「そっか。皆には話をしてるけど、また明日にでも言っておくよ」

 

 「ああ。で、オルガは大丈夫なのか?」

 

 「さっきまで吐いてたけど、今は落ち着いてるみたい」

 

 昭弘に担がれたオルガは顔こそ赤いが苦しそうにしている様子もなく、何か寝言を口にしている。

 

 「やっとだ……やっと家族を作って、やれる。お前らにも、胸を張って、帰れる場所を」

 

 「オルガ」

 

 オルガはずっと無理をしながらも考えていたのだろう。

 

 皆の帰れる場所を創る為に。

 

 「……家族か」

 

 昭弘がポツリと呟いたと同時に皆の口元に笑みが浮かぶ。

 

 背中で眠るオルガを起こさないよう、ゆっくりとイサリビへと歩みを進める。

 

 それは鉄華団が動き出して初めて全員がゆっくりと眠れた夜だった。

  

 

◇  

 

 

 酒瓶や本、服や下着などが散乱している部屋で一人の男がベッドの上で眠っていた。

 

 屈強な肉体に所々に残った傷は彼自身が数多の戦場を駆け抜けてきた事が読み取れる。

 

 眠っていて尚手にした銃もまた彼が微塵も油断していない事を示していた。

 

 そんな部屋に一人の少年が入ってきた。

 

 「起きて。連絡があった、仕事だよ」

 

 「ん、仕事か」

 

 男は傍に置いてある服を引っ掴むと、乱暴に袖を通す。

 

 「で、どんな仕事だ?」

 

 「護衛の仕事みたいだよ、『ブルワーズ』とかいう海賊の」

 

 「海賊かよ。で、その相手は?」  

 

 「詳しくは聞いて無いけど、確か『鉄華団』とかいう最近火星で暴れてた連中だったかな」

 

 男は興味を引かれたように手渡された端末を手に取った。

 

 「へぇ、鉄華団か」 

 

 その顔には楽しげな笑みが浮かんでいた。 

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