機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ vivere militare est   作:kia

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第10話 地球へ

 

 

 

 

 

 

 イサリビとハンマーヘッドが歳星へと辿りついて数日後。

 

 鉄華団にとって新たな一歩を踏み出す記念すべき日を迎えていた。

 

 いよいよテイワズの直参組織であるタービンズと鉄華団が兄弟分として認められ、義兄弟の盃を交わす式が開催されるのだ。

 

 そんな晴れの日にハルは一人でテイワズの工房を訪れていた。

 

 式にはクーデリアも参加する以上、護衛役であるハルも出席すべきなのかもしれないが、テイワズ主催の式内で何かあるとは考えづらい。

 

 それに結局の所、ハルは部外者だ。

 

 鉄華団に所属している訳でもなく、クーデリアのただの護衛役に過ぎないのだ。 

 

 オルガ達にしてみれば笑い話だろうが、自分が気後れしまうのも事実。   

 

 だから式は辞退して、代わりにアスベエルとバルバトスの修復と調整に立ち会う事にしたのだ。

 

 「ハルさん!」

 

 「どうも」

 

 工房の前まで足を運ぶとタカキが入口で手を振りながらヤマギと一緒に立っていた。

 

 どうやら二人も式には出席せず、こちらの整備に参加するらしい。

 

 式の方は人数の制限もあったようだから、弾かれただけかもしれないが。

 

 「ハルさんは式に出ないんですか?」

 

 「俺は完全に部外者だからな。それにアスベエルの事も気になるし」

 

 「ハルさんを部外者なんて誰も思ってないですよ! ね、ヤマギ」

 

 「うん、そうだね」

 

 二人の言葉にくすぐったい気持ちになりながら、中に入る。

 

 そこにはすでにハンガーに固定されたバルバトスとアスベエルの装甲が外され、フレームが剥き出しになった状態になっていた。

 

 流石、テイワズ、仕事が早いと称えるべきか。

 

 驚いた三人を出迎えたのは二機を見上げ、興奮した様子で奇声を上げている人物だった。

 

 「ウオオオ!! 凄い、この手であのバルバトスを予算上限なしで弄る事が出来るなんて!」 

 

 「何、アレ」

 

 「さあ」

 

 無重力の中、宙に浮かびながら恍惚に満ちた表情を浮かべている姿は少し怖いくらいだ。

 

 「よう、おめぇらもきたのか」

 

 「雪之丞さん、もうこんな状態になってたんですね」

 

 「ああ、俺が来た時にはもうこうなってた。あそこのテイワズの整備長が興奮しててよ」

 

 信じがたいが雪之丞によれば奇声を上げているあの人物がテイワズの整備長のようだ。

 

 彼が見事な手際で二機の装甲をバラしたらしい。

 

 「こっちの機体は見たことがない! データにも残ってないガンダム・フレーム、凄い貴重だぞ、これは!」

 

 楽しそうに力説している所に割り込むのは気が引けるのだが、こうして良く分からない内容を聞かされ続けるのも正直苦痛だ。

 

 全員で顔を見合わせ、意を決して話しかける。

 

 「あの、この機体ってそんなに凄いんですか?」  

 

 「それりゃそうだ! これらの機体は厄祭戦を終わらせた72機のガンダム・フレームだよ! 今じゃ幻の機体とも言われてる。しかもデータにない機体まであるなんて!!」

 

 何が凄いのかいまいちよくわからないが、見る人が見れば凄いらしい。

 

 「君だろ、この機体のパイロットは? 詳しい話を教えてくれ!」

 

 「は、はい」

 

 飛び掛かってきた整備長がハルの肩を掴んで揺さぶってくる。

 

 「俺も詳しい経緯とかは知りません。元々は俺が参加していた傭兵団が所持してたんですよ。その団長が仕事の時に手に入れたとか」

 

 「ほうほう。その仕事の事を聞いても大丈夫かい?」 

 

 「ええ。海賊を排除するって依頼を受けて、連中が根城にしていた施設を襲撃した時にコンテナ内に収容されてたコイツを回収したらしいですよ。その施設は厄祭戦時代のものだったらしいですけど、何か真新しかったとか言ってました」

 

 「なるほど。厄祭戦時代の施設が近年まで誰にも発見されずに残っていたのか? だとすればコイツのデータが無いのは実戦配備前に厄祭戦が終わったからって事かな。その施設はどうなったの?」

 

 「海賊が自爆して重要なものは何も残ってなかったとか言ってました」

 

 「そうかぁ」

 

 ハルの答えに整備長は露骨に肩を落とした。

 

 無事だったら調べてみたいと思っていたのだろう。

 

 元々ハル自身、詳しい位置などは知らないから施設が残っていても調べようが無かっただろうが。

 

 「とにかく見ていてくださいよ! あらゆるデータを集めて完全なバルバトスを御覧にいれましょう! そしてこちらのアスベエルも万全な状態にしてみせましょう!!」

 

 「そりゃありがてぇ話だな」

 

 「あ、あはは」

 

 タカキの乾いた笑いを聞きながら、フレーム剥き出しになったアスベエルを見上げる。

 

 今までの話を聞いてハルは初めてアスベエルに興味を持った。

 

 自分の命を預ける道具としては気を配ってはいたが、アスベエルの出自についてはまるで興味が無かったのだ。

 

 「あの男は知っていたのか? いや、今更どうでも―――ッ」

 

 ハルの脳裏に何故か静止軌道で戦ったあの妙なグレイズのパイロットの事が思い出された。

 

 ≪その機体、渡してもらう≫ 

 

 あのパイロットは確かにそう言っていたのだ。

 

 「何かあるのか?」

 

 「ハル君、阿頼耶識の調整を始めたいんだけど」

 

 「あ、はい」

 

 機体を調べれば少しは何かが分かるかもしれない。

 

 だが、それを知っても良いのかどうか。

 

 妙な胸騒ぎを覚えながら、ハルはアスベエルの方へ飛び上がった。  

 

 

 

 

 そこは地球に向かう通常の航路から外れた場所。

 

 アリアドネのエイハブ・ウェーブの影響範囲ギリギリの位置に一隻の戦艦が存在していた。

 

 誰にも見つからないようにデブリの陰に身を潜めたその船は

 

 格納庫に一機のモビルスーツが運び込まれていく。

 

 火星支部で試験運用され、静止軌道で鉄華団と死闘を繰り広げた機体『グレイズノイジー』である。

 

 そして専門の整備士達と共にパイロットであるエリヤ・スノードロップもこの艦に降り立っていた。

 

 「ん、あれって」

 

 お世辞にも広いとは言えない格納庫で初めに目についたのは、シートが被されたモビルスーツらしきものだった。

 

 その周辺には雑多に置かれた部品などが散乱しており、周りの整備士達が慌ただしく作業を行っている。

 

 「何、あれ。グレイズじゃない?」

 

 少しだけ興味が湧いたエリヤはシートの被さった機体を見ようと近づいていく。

 

 シートのお陰で全体像は把握できないが装甲などは調整中で外されているらしく所々フレームが剥き出しになっている。

 

 そして顔の部分はシートがズレており、半分だけ見る事が出来た。

 

 「……この機体、ガンダム・フレーム?」

 

 特徴的な頭部は間違いないだろう。

 

 さらに興味を惹かれて近づこうとした時、整備士に声を掛けられた。 

 

 「今、調整中だから近づかないでくれ。危ないぞ、お嬢ちゃん」

 

 露骨な子供扱いに僅かに苛立つが突っぱねて言い争いになっても面倒である。

 

 少なくとも今日から此処で一緒に仕事をする事になるのだ。

 

 諍いを起こさずに済むならそれに越したことは無い。

 

 「……ごめんなさい。見たこともない機体だったから。名前は何ていうの?」

 

 「ん、ヴィダールだよ。ガンダム・ヴィダール」

 

 「ヴィダール?」

 

 聞きなれない名前にエリヤは首を傾げた。

 

 「誰が乗るの?」

 

 「この艦の指揮官だよ。お嬢ちゃんも挨拶に行くんだろ。詳しい話はそこで聞いてきな」 

 

 最後まで子供扱いしていった整備士の背中を見届けると、もう一度だけシートを被った機体を見つめる。

 

 外された装甲には被弾したような跡もある。

 

 戦闘でも行ったのだろうか?

 

 「それも含めて聞けばいいか。私もノイジーの準備があるし」

 

 エリヤはヴィダールから、自分の機体の方へ視線を向ける。

 

 そこには次の戦いに備えて準備を始めている愛機の姿があった。

 

 

 

  

 タービンズと鉄華団の式は無事に終わり、手続きをすべて終えたイサリビはハンマーヘッドと共に動き出した。

 

 運営資金の目途もつき、さらにギャラルホルンからの襲撃もないと火星本部からの連絡もあり、鉄華団はいよいよ本格的に地球への航路を進むことになったのである。

 

 ただ残念ながらバルバトスとアスベエルの修理は数日では終わらず、三日月、ハル、そして雪之丞は後で追いつく事になっている。 

 

 そんな中、ハンマーヘッドに呼び出されたオルガ達は名瀬から今後の説明を受けていた。

 

 「エイハブ・リアクターを動力として使う以上、無線の類は一切使えない。唯一の目印はアリアドネだけだ」

 

 「でもこいつはギャラルホルンが管理しているからね。アリアドネを道しるべに利用しながら監視の目を掻い潜り、航路を組み立てる。そこが腕の見せ所って訳さ」

 

 「なるほど」

 

 この先、イサリビは本業であるタービンズについて行くだけになる。

 

 しかし経験豊富な彼らならば何の心配もないだろう。

 

 ビスケットはホッとしたように胸を撫で下す。

 

 タービンズがいる事は分かっているが、いつも頼りにしている三日月とハルの二人がいない現在の状況で荒事は避けたい。

 

 信頼している二人が居ないというのは、想像した以上に不安を煽るものだった。 

 

 だが安心したのも束の間、アミダの一言で気を引き締めざる得なくなる。

 

 「問題は同業者の方だね」

 

 「同業者?」

 

 「アリアドネを回避する航路はギャラルホルンには有効だけど、そこを通る船を専門に狙う海賊がいるのさ。特に最近は『ブルワーズ』って連中がヤバいみたいだね」

 

 「ブルワーズ」

 

 「歳星で仕入れた情報じゃ、腕の立つ傭兵を雇ったらしくてね。警戒して護衛を雇った商船もあっさり全滅させられてしまったらしい。生き残りの話じゃ相当な腕前だったとか」

 

 商船が用意した護衛の詳細は分からないが、海賊を警戒していたなら相応の規模だった筈。

 

 それを纏めて全滅させるとは。

 

 「ま、流石に武闘派で名の通ったタービンズに喧嘩を売ってくる命知らずじゃないだろうがな。一応、警戒だけはしておけよ」

 

 「分りました」

 

 「それから出航のゴタゴタで紹介が遅くなっちまったが、これからイサリビにテイワズの人間を一人乗せてもらう事になった。ま、親父からのお目付け役さ」

 

 「お目付け役」

 

 それは要するに監視役という事だ。

 

 いきなり信用されるとは思っていなかったが、正面切ってお目付け役をつけると言われると誰でも良い気分はしないだろう。

 

 「そう構えるなよ、オルガ。色々上手くやる為にも窓口みたいなもんは必要なのさ。それに色々便利な女だぜ、入ってくれ」

 

 ブリッジに入ってきたのはスーツに身を包んだ金髪の女性だった。

 

 ユージンはその美貌に見とれていたがその顔にオルガは見覚えがあった。

 

 「アンタは」

 

 「メリビット・ステープルトンです」

 

 「この女はテイワズの銀行部門で働いていた女でな。商売の事は良く分かってる。お前らはまだまだそっち方面は素人だからな、コイツに色々教えてもらえ」   

 

 「はい」

 

 「この間はどうも」

 

 「何だ、知り合いだったのか?」

 

 「まあ色々ありまして」

 

 オルガがメリビットと会ったのは例の宴会の後だ。

 

 帰り際に酒に酔って動けなくなっていた所に偶然通りかかったメリビットがハンカチを差し出してくれたのだ。

 

 オルガからすれば醜態を見られた相手であり、今後一緒に仕事をするのにはやりにくい事この上なかった。

 

 しかしテイワズからの命令ではどの道、拒否権はない。

 

 「よろしくお願いしますね」

 

 「よ、よろしく」

 

 だから出来るだけ冷静な顔で差し出された手を握る事しか出来なかった。

 

 

 

 

 イサリビの部屋でクーデリアはあるメッセージを眺めていた。

 

 見ていたのは火星にいる母から送られてきたメールである。

 

 タブレットに映し出された映像を切ると、出したくもないため息が自然と出てしまった。

 

 「ハァ、お母様は相変わらずのようね」

 

 「旦那様は何と?」

 

 「一度帰ってこいですって。帰ったらそのまま幽閉か下手すれば暗殺されるでしょうね」

 

 余程、父親であるノーマンはクーデリアの事を邪魔に見ているのだろう。

 

 テイワズと手を組んだと知れば卒倒してしまうかもしれない。

 

 「今更だけどこんな危険な事に巻き込んでしまって、ごめんなさいフミタン」 

 

 「それが私の役目ですし、それに昔からでしょう。貴方が危険な事に関わるのは」

 

 「そうね」

 

 本当に昔からフミタンには迷惑をかけてばかりだ。

 

 部屋に居ると気が滅入ってくる。

 

 フミタンに気分転換をしてくると断って、艦内を歩いているとふと今は無防備である事に気が付いた。

 

 無論、フミタンや鉄華団の皆がここに居る。

 

 一人な訳ではない。

 

 しかし常にクーデリアを傍で守ってくれていた人は此処にはいないのだ。

 

 「……ハル」

 

 彼女が一番信頼し、大切に想っている人がいない。

 

 何時も守ってくれているハルの存在は彼女の心の支えである。

 

 それが傍にいない事がクーデリアを強い不安を与えていた。 

 

 「子供みたいね。どっちが年上なんだか……私がしっかりしないと」   

 

 無理やり自分を叱咤して食堂に来るとアトラが一人仕事をしている姿が見えた。

 

 「アトラさん、私もお手伝いしても良いかしら?」

 

 「勿論、大丈夫ですけど。えっと、何かあったんですか?」

 

 アトラの仕事を手伝いながら、二人は自然と互いの事を話していた。

 

 「アトラさん、ご両親は?」

 

 「いませんよ」

 

 「ご、ごめんなさい」

 

 「いいんですよ、三日月や皆もいたし」

 

 「鉄華団の皆さんとは長い付き合いなんですか?」

 

 「えっと、三日月と会ったのは10歳の頃ですね」

 

 アトラもまた両親がおらず、ある店の雑用として働いていた。  

 

 しかしそこの扱いの悪さに耐えかね、店を抜け出したが途中空腹で動けなくなってしまった。

 

 そこを偶然、出会った三日月に助けられた。

 

 それ以降、縁の出来た雑貨屋で働く事になったらしい。

 

 「三日月達と出会ってからは皆優しくしてくれて」

 

 嬉しそうに笑うアトラにクーデリアもまた脳裏に大切な人達の記憶が浮かび上がってくる。

 

 ハルやフミタン、モーゼス、そしてジャン、アンナ、メリアといった仲間達。

 

 誰一人違わずクーデリアにとっては大切な人々。

 

 それはアトラが鉄華団に抱く気持ちと同じものだ。

 

 「少し気持ちは分かります。例え親や兄弟は居なくても、心から信頼できる仲間という家族がいる、それは本当に得難いものです。それに比べて血の繋がっている実の父親は……」

 

 勿論、父親に関してはクーデリアの行動に起因するものではある。

 

 だからそれに関しては恨む気持ちはない。

 

 しかし僅かでも沈んだ気分になるのは未だに情が残っているからか。

 

 とっくに覚悟をしていた筈なのに。

 

 「きっと誤解してるんですよ! 父親って娘の事を大事にする筈だし、店の隣に住んでた―――あ、ご、ごめんなさい、私、何も知らないのに」 

 

 「いえ、いいんです」 

 

 「でも、色々あると思いますけど、クーデリアさんは私達の仲間で、家族ですから! それだけは間違いないです!」

 

 「え、私が家族?」

 

 「はい!」

 

 アトラの言葉にクーデリアは恥ずかしい話、感極まってしまいそうになった。

 

 自分は本当に恵まれている。

 

 「ありがとう、アトラさん」

 

 先ほどまでの不安は消し飛び、零れかけた涙を隠すように俯いたクーデリアは静かにお礼を言うのが精一杯だった。    

 

 

 

 

 地球に向かう為の航路上に出現する海賊。

 

 特にブルワーズと呼ばれる組織の襲撃を警戒しながら、二隻の船は頻繁に哨戒機を飛ばしつつ進んでいた。

 

 そして今は昭弘のグレイズ改が哨戒任務を担当し、周囲の警戒を行っていた。

 

 《こっちは異常なしです。昭弘さん》

 

 グレイズ改の背中にはタカキの乗るモビルワーカーが哨戒任務に同行していた。

 

 「ああ。それよりどうしたんだ、タカキ? 急に哨戒についてきたいなんて」

 

 《実は妹からメールが来たんです。俺、妹を学校に入れてやりたくて、色々仕事を覚えたいんです。仕事を覚えて、沢山稼いで、妹の為に頑張ろうって。あ、す、すいません》

 

 「ヒューマンデブリに家族の話は禁物か?」

 

 《いや、その》

 

 「気にするな。お前が妹の為に頑張ろうとしている事は見ていて分かったよ」 

 

 前にメールが届いた時もビスケットと二人で頑張ろうと話しているのを見たことがある。

 

 それからビスケットやタカキはいつも以上に頑張ろうとしている事は鉄華団の全員が知っていた。

 

 「それに……誰にも話したことはないんだが、俺にも弟がいた」

 

 《弟?》

 

 「名前は昌弘。俺達は商船団を経営する家族と一緒にあちこち渡り歩いていた」

 

 弟である昌弘と昭弘は喧嘩もするが、兄弟仲は良好で事あるごとに張り合っていた。 

 

 今思えばそれはとても幸せな時間だったのだろう。

 

 鉄華団の中には初めから家族の顔すら知らない子供もいる。

 

 そんな連中に比べれば昭弘はまだ恵まれている方なのだろう。

 

 しかしそんな時間は長くは続かなかった。

 

 海賊である。

 

 大規模な商船団は海賊にとっては絶好の鴨だ。

 

 船団はあえなく全滅。

 

 他の大人達と一緒に両親は殺され、昭弘と昌弘は人買い業者にバラ売りにされた。

 

 「それきり昌弘とは会ってない。正直、最近まで思い出す余裕もなかった。だが鉄華団に入って、家族みたいな仲間が出来て、たまに思い出すようになった」 

 

 泣き叫ぶ昌弘の姿。

 

 必ず迎えに行くと叫ぶ無力な自分。

 

 結局、あの約束は果たせないままだ。

 

 「生きていればタカキと同じ年頃か。まあもう生きちゃいないだろうけどな」

 

 《そんな! そんな事ありませんよ、こうして仕事をしていればいつか会えますって!》

 

 「だと良いんだがな……っと船から離れすぎたか」

 

 雑談していた所為か予定よりもイサリビから離れてしまっていた。

 

 戻るぞと声を掛けようとした昭弘の耳にタカキの訝しむ声が聞こえてくる。

 

 《あの星、動いてる?》  

 

 同時にコックピットに警戒音が鳴り響いた。

 

 「エイハブ・リアクターの反応、敵か!?」

 

 モニターに映ったのは妙な姿のモビルスーツだった。

 

 ダークグリーンに装甲にギャラルホルンやテイワズのものとは違う鈍重な外見。

 

 それは今まで見てきたモビルスーツとも違う、明らかな異質さを感じさせる。

 

 「タカキ、しっかり掴まっとけ!」

 

 《はい!》 

 

 後続で現れた複数の機体に囲まれたグレイズ改は次々と撃ち込まれる銃弾を回避する為、動き回る。

 

 しかし多勢に無勢。

 

 タカキを庇いながらの四方から撃ち込まれる弾幕を躱す事が出来ず、肩や足の装甲が吹き飛ばされてしまう。

 

 「ぐぅ」

 

 《昭弘さん、俺の事は良いから!》

 

 「良い訳があるか!」

 

 そうは言ったものの、グレイズ改はかなり追い詰められていた。

 

 タカキを守りながらの回避運動や数の不利も確かにあるが厄介なのが敵の装甲の厚さだ。

 

 こちらがライフルを直撃させても弾かれダメージにならず、怯む気配もない。

    

 攻撃を物ともせずに突っ込んでくる姿は見ていて恐ろしいものがある。

 

 「くそ!」

 

 《昭弘さん、別方向からさらに一機が来ます》

 

 「何だと!?」

 

 さらに姿を見せたのは全く別のもの。

 

 スマートな外見や背中に見えるブースターユニット。

 

 それはグレイズに酷似したモビルスーツだった。 

 

 機体に正式な名前はない。

 

 それは男が昔、ギャラルホルンがグレイズ開発過程で破棄した試作機を手に入れ、自分好みにカスタムしたものだからだ。

 

 故に男は単に『グリード』と呼んでいた。

 

 「チッ、新手かよ」

 

 ライフルで牽制しようと銃口を向けた次の瞬間、昭弘は目を見開いた。

 

 ダークグリーンの機体とは明らかに違う速度でグレイズ改に肉薄すると引き抜いた剣でライフルを切り落とした。

 

 「は、速い!」

 

 「違う、お前が遅いんだ。ま、足手まといがいたら当然だがな」  

 

 昭弘が男の声に反論する前に蹴りを入れられ、吹き飛ばされてしまう。

 

 「ぐああああ!」

 

 《うわあああ!》

 

 「気は進まないが、これも仕事だ」

 

 ダークグリーンの機体がグレイズ改を捕獲しようと接近した瞬間、別方向から白い機体が突っ込んできた。

 

 「離れろ!」

 

 男の声に反応する前に降りてきた白い機体が刃を振り下ろし、ダークグリーンの機体を串刺しにした。 

 

 急所狙いの一撃に成す術はない。

 

 パイロットは斬り潰されてしまっただろう。

 

 そしてさらに一機。

 

 別方向からの砲撃がダークグリーンの機体のフォーメーションを崩し、グレイズ改から引き離した。

 

 襲撃者は予想外の邪魔者の出現に苛立ちを隠せない。

 

 だが、昭弘達にとってはこの窮地を脱する為に現れた救いの手だった。

 

 「三日月にハルか!」

 

 敵機に刀を突き刺すバルバトス。

 

 砲塔を構えるアスベエル。

 

 新たな姿、否、かつての姿を取り戻した二体の悪魔が戦場へ帰還した。

 

 そして乱入してきた悪魔の姿に驚きを隠せない者がもう一人いた。

 

 昭弘を追い詰めた機体『グリード』に乗る男。

 

 形は変化しているが、見間違う筈もない。

 

 「そういう事か、相変わらず人が悪い。今回の仕事の本命はあの機体だったって訳だ」 

    

 男は目標を無視し、砲塔を構えるアスベエルに向かって突撃する。  

 

 「何!?」

 

 砲撃で牽制する間もなく肉薄してきたグリードが叩きつけた剣をハルは間一髪、大剣で受け止める。

 

 しかし通信機から聞こえてきた声に激しく動揺してしまった。

 

 「相変わらずお前の面を見てると腹が立つぜ、悪魔さん!」 

 

 「ッ!?」

 

 脳裏に浮かぶ昔の光景。

 

 銃を構えた男。

 

 繰り返される戦闘訓練。

 

 「まさか」 

 

 「そろそろ因縁に蹴りつけようか、ガンダム!!」

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