機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ vivere militare est   作:kia

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第11話 因縁の再会

 

 

 

 

 

 

 

 男は初めに言った。

 

 この世界は弱い奴から死んでいくのだと。

 

 男は笑った。

 

 死にたくないなら戦うしかないのだと。

 

 そして男は殺した。

 

 生きるという事は戦うという事なのだと。

 

 その姿は(人間)そのものだ。

 

 生き残る為には(人間)を殺すしかない。

 

 先ほどの言葉を反芻する。

 

 戦おう。

 

 殺そう。 

 

 ―――例え悪魔に魂を捧げようとも。 

 

 

 

 

 通信機から聞こえてきた声にハルは驚きを隠せなかった。

 

 何故ならば二度と出会う事はないと思っていた男と戦場で再び出会ってしまったから。

 

 「アンタは」

 

 「ん、お前は……」

 

 モニターに映る顔に何かを思い出したように驚きが広がっていく。

 

 「まさか……ヒューマンデブリのガキか! 確か管理№は11番だったな」 

 

 「やっぱりサイラス団長」  

 

 「これはまた、納得したよ。11番、お前がこの機体を使ってた訳だな」

 

 グリードを操る男の名はサイラス・スティンガー。

 

 かつてハルが所属していた傭兵団を率いていた男であり、ガンダムアスベエルを所持していた人物である。

 

 しかし火星での仕事中に別の傭兵団から襲撃を受け、離散。

 

 ハルはアスベエルと一緒に火星に脱出したが、サイラスも含め全滅したと思っていたのだ。

 

 「生きていたのか」

 

 「当たり前だ。しかしまあ皮肉な話だ、俺が仕込んだガキがこの悪魔を動かしてるんだからな!」

 

 サイラスは大剣が弾き、空いた懐にブレードを突き出してきた。 

 

 それを宙返りで回避したアスベエルはグリードに蹴りを入れて突き放す。

 

 「良い反応だ。阿頼耶識のお陰か? それともお前の腕が上がったのか? 見せてみろ!」

 

 「チッ」

 

 ハルの回避先を読み切っているように銃撃を撃ち込んでくる。

 

 それでも致命傷を受けないのはテイワズでの整備のお陰だ。

 

 以前に比べると機体が動かしやすい。

 

 アスベエルの各部にはスラスターが増設され、同時にそれを効率よく動かす為の調整も加えられている。

 

 それによってアスベエルは前より遥かに扱いやすくなっていた。

 

 「生憎、アンタの相手ばかりはしてられないんだよ!」

 

 腰から120mmライフルを抜き、グリードを牽制しながら近くのデブリを投げた。

 

 そして滑空砲の一撃でデブリを撃ち抜くと弾けた残骸が細かい弾丸となり、グリードを押しのけた。

 

 「ほう、やるじゃないか」 

 

 そのままサイラスを引き離したハルは離脱を図ろうとしていた昭弘達と合流を果たした。 

 

 「昭弘、無事か?」

 

 「ああ、助かったぜ」

 

 「三日月さん、ハルさん!」

 

 「タカキ!? 何で?」

 

 「俺も一緒に哨戒任務に出てたんです」  

 

 ライフルを昭弘に渡しながら後ろに目をやれば、逃がさないとばかりに襲撃者が追ってきていた。

 

 当然、サイラスも一緒である。

 

 彼の力は良く知っている。

 

 生身の白兵戦もモビルスーツの技量も部隊の指揮もすべてが一流だ。 

 

 「……厄介だな」

 

 「で、アレはどうするんだ?」

 

 昭弘の視線の先には本当にパイロットが乗っているのかと疑問に思うような雑に飛び回る物体がいた。

 

 アレの名は『クタン参型』

 

 テイワズの長距離輸送機である。

 

 バルバトスとアスベエルは航続距離と機動性に優れるクタン参型に運ばれて、イサリビに追いついてきたのだ。

 

 「うおおああぁぁ、た、助けろォォォ!!」

 

 クタン参型から漏れ聞こえてくる悲鳴は雪之丞のもの。

 

 操縦など出来ないと訴える彼の訴えを三日月が無言で却下した結果がアレだ。

  

 いくら急いでいたとはいえ、何というか申し訳ない気分だった。

 

 「大丈夫でしょ。敵からは離れていってるし」

 

 「三日月……鬼かよ、お前は」

 

 「助けたいのは山々だけど敵が来る。クランクのおっさん、雪之丞さんを助けてやってくれ。その後はイサリビへ」

 

 「分かった」

 

 もう一機のクタン参型に搭乗していたのは火星にいる筈のクランク・ゼントである。

 

 人手不足を懸念したハルの要請を受けて、火星から歳星へ来てもらったのだ。

 

 「回収はおっさんに任せて二人はイサリビに戻るんだ。殿は俺達でやる」

 

 「了解」

 

 イサリビに向かうグレイズ改に120mmライフルを渡し、守るようにバルバトスとアスベエルが壁になる。

 

 しかし敵の意図が読めない。

 

 グレイズ改を追わずにこちらへ真っすぐ向かって来ている。

 

 この襲撃者が仮に海賊というなら、母艦であるイサリビの方へ向かっても良い筈。

 

 「……まさか伏兵?」

 

 サイラスならそれぐらいはやってもおかしくない。

 

 「で、どうする?」

 

 「俺が支援するから適当に突っ込め。元々援護しながら戦うとかガラじゃないだろ」

 

 三日月の技量は鉄華団全員が認める程に高いもの。

 

 しかし反面、連携や支援という意味では粗さがある。

 

 彼の力を存分に発揮させるなら、周囲の状況に構わず暴れさせた方が良い。

 

 「分かった。じゃ、やり損ねは任せた」

 

 「了解」

 

 刀を構えたバルバトスが追ってくる敵の迎撃に向い、アスベエルは支援の為に滑空砲を構えて敵機を牽制する。 

 

 敵の動きを先読みしながら、機動を阻害するように砲撃を繰り返していく。

 

 地味な嫌がらせだが、戦闘において自由に動けないというのは結構なストレスになる。

 

 「阿頼耶識を扱うなら、尚の事だろう!」

 

 ハルはあのダークグリーンの機体が阿頼耶識搭載機であると見抜いていた。

 

 サイラスを除いて、普通の機体とは動きが違い過ぎたからだ。

 

 だが敵もやられたままではない。

 

 動きが読まれている事に気が付いたのか、敵機はサイドスカートから手榴弾を取り出し、起爆させると周囲を包むスモークを展開してきた。

 

 「こっちの視界を潰しにきた。だとしても」

 

 今までの行動予測とスモークの微細な動きに注意を払いながら反応の速さも考慮しつつ、トリガーを引く。

 

 「そこ!」

 

 発射された砲弾は狙い通り、スモークから出てきた数機のダークグリーンの機体に直撃する。

 

 しかし敵機はそれを物ともせずに突っ込んできた。

 

 装甲に目立った損傷も、動きが鈍った様子も見られない。

 

 「効いて無い!? なら!」

 

 横に回り込み、至近距離から滑空砲を発射する。

 

 だがそれすらも致命傷には至らず、大鉈のような武器ハンマーチョッパーで斬りかかってきた。

 

 「この距離でも致命傷にならないなんて!」 

 

 刃が届く直前に大剣で弾き返し、さらに上段からの一太刀にて突き放した。

 

 流石に大剣の直撃を受けては無事では済まず、装甲はへしゃげてフレームの一部が露出する。

 

 その隙間を狙って砲塔を突き付けると滑空砲を発射。

 

 凄まじい衝撃と共にモビルスーツの上半身に大きな穴が抉られた。

 

 「たく、分厚い装甲をしている!」

 

 元々ナノラミネートアーマーを使用したモビルスーツの装甲を遠距離からの砲撃で撃ち抜く事は難しい。

 

 そこで普通ならば至近距離で考えるのが自然なのだが、この機体はそれすら効果が殆どない。

 

 しかも見た目に反しこの機体の機動性は鈍くないときている。

 

 阿頼耶識を含めて想像以上に厄介な相手だった。  

 

 「確実に仕留めるには接近戦しかないか」

 

 「追いついたぞ、ガキ」

 

 「サイラス!」   

 

 足止めされている内にサイラスのグリードが追い付いてきていた。

 

 悉くアスベエルの回避先へライフルを撃ち込み、肉薄してブレードを振るってくる。

 

 「確かにアンタは俺の戦い方を熟知している。でも、それは俺だって同じ事だ」

 

 阿頼耶識にすべてを預けるように感覚を研ぎ澄ます。

 

 同時にサイラスの斬撃に合わせて機体を流れるように動かし、回避する事に成功した。

 

 「ッ!?」

 

 「ここ!」

 

 グリードが剣を空ぶった瞬間を狙い、横薙ぎに振るった大剣を叩きつける。

 

 だが流石というべきかサイラスは剣を盾に大剣を受け流し、その隙に蹴りを入れてアスベエルを吹き飛ばした。

 

 「これでさっきの借りは返したぞ」

 

 「ぐっ、百戦錬磨は伊達じゃないか」

 

 「少しは腕を上げたようだが、まだまだ未熟だな。その悪魔諸共―――何?」

  

 「エイハブ・ウェーブの反応、増援か!?」

 

 振り返れば先に逃れたグレイズ改が別方向から現れた敵に襲撃されていた。

 

 そして―――

 

 「何だ、あのモビルスーツは?」

 

 ダークグリーンの機体よりも一回り大きく、さらに鈍重な見た目とは裏腹に軽快な動き。

 

 背中に装備された巨大なハンマーと分厚い装甲が異様さを際立たせている。

 

 「アスベエルが反応している? データ照合……ガンダム・グシオン? 同型機だと」

 

 グシオンはバルバトスやアスベエルを無視し、真っすぐにグレイズ改の方へ向かっていく。

 

 「チッ、クダルめ。ギリギリまで伏せろと言っていただろうが」

 

 「昭弘、タカキ!」

 

 「俺が行く」

 

 グシオンの後を追おうとしたバルバトスだがさらに別の機体が邪魔に入った。

 

 「こいつ!」

 

 「あれは形状が違うけど『ゲイレール』か?」

 

 『ゲイレール』とはギャラルホルンの現主力機であるグレイズの一世代前に当たるモビルスーツである。 

 

 ギャラルホルンでは殆どがグレイズと入れ替わり、退役した状態になっているが傭兵などでは広く運用されている機体だ。

 

 「邪魔だ、そこを退け。昭弘達はやらせない」

 

 「そうはいかないよ」

 

 腰から抜いた二本の剣を操り、太刀を捌いたゲイレールは巧みな剣技でバルバトスを足止めしていく。

 

 「こいつ」

 

 三日月は押し切れない現状に苛立ちながら、目の前のゲイレールを見る。

 

 機体はカスタムされているが、動きは既存のものと相違ない。

 

 だがそれで尚、押し切れないのはパイロットの技量の他にバルバトスの武装に問題があった。

 

 振るっている太刀は歳星のファクトリーで生成された『斬る』為の武装である。

 

 メイスのような『叩き潰す』武装を主として扱ってきた三日月にとって太刀は非常に扱い辛いものだった。

 

 「使い辛いな、これ」

 

 「阿頼耶識もあって動きは凄まじい。しかし武器の扱い方は稚拙だ」

 

 バルバトスを抑え込むゲイレールの戦いぶりを見ていたハルは思わず息を飲んだ。

 

 あのパイロットもまた高い技量を持っている。

 

 「次から次へと厄介な」

 

 グリードの攻撃を躱したハルは先ほど破壊したダークグリーンの機体に向けて滑空砲を発射する。

 

 狙いはサイドスカートの中にある手榴弾。

 

 目論見通り砲撃はサイドスカートに直撃し、起爆された手榴弾のスモークが一帯を包み込む。

 

 「三日月!」

 

 「分かった」

 

 スモークに紛れ、バルバトスとアスベエルが同時に滑空砲の砲撃を撃ち込み、敵モビルスーツを引き離すと昭弘達の下へと急ぐ。

 

 そんな二機の前に今度はグシオンが立ちふさがった。

 

 「どけよ!」

 

 予想通り滑空砲での砲撃は意味をなさなかった。

 

 すべて装甲によって弾かれ、勢いを削ぐ事すら出来ない。  

 

 「固すぎ。さっきの連中が大した事ないように見える」

 

 「無駄ァァ!!」

 

 「なら接近して!」

 

 バルバトスが砲塔を構えるが、予想以上のスピードですれ違うグシオンを捉えられない。

 

 機体を回転させたグシオンは器用に巨大な武装であるグシオンハンマーを背中から抜くと、二機のガンダムを諸共圧し潰そうと振り下ろしてきた。  

 

 「このクダル・カデル様とグシオンを舐めるんじゃないよ!!」

 

 振り下ろされたハンマーを紙一重で回避するも、直撃した小惑星は大きく抉られてしまう。

 

 「直撃喰らえばモビルスーツなんて一撃でスクラップだな」

 

 「こいつ、邪魔だ」

  

 再びハンマーを振りかぶってくるグシオン。

 

 それに応戦する二機のガンダム。

 

 周囲を巻き込む激しい攻防は浮遊する岩片を塵に変えていった。

 

 

 

 

 グシオンとバルバトス、アスベエルが攻防を繰り広げていた頃、イサリビに向かっていた昭弘は予想外の事態に直面していた。

 

 《……昭弘、兄貴》

 

 「兄貴? お前、昌弘か?」

 

 撤退中に敵に追いつかれたグレイズ改はやむなく応戦したのだが、途中でタカキの乗るモビルワーカーが損傷し、敵に鹵獲されてしまった。

 

 それを取り戻すべく突撃したまでは良かったのだが、昭弘を待ち受けていたのは予期せぬ弟との再会だった。

 

 先ほどタカキには「いつか会える」と言われたが、正直本気で生きているなんて考えていなかった。

 

 精々生きていた頃の事を知ってる人間に会えるかもしれない程度の希望だったのだ。

 

 それがモビルスーツに乗って目の前に現れるとは誰が予想できるだろうか。

 

 「何で―――」

 

 思わずそんな無意味な質問が口に出る。

 

 考える必要もない事だ。

 

 昭弘がCGSに買われたように、昌弘は海賊に買われた。

 

 それだけの話だ。

 

 しかし動揺していた所為か頭が回らない。 

  

 数秒か数分か。

 

 本人たちには認識できない長く短い時間、見つめ合っているとその沈黙を破る叫び声が割り込んでくる。

 

 「昭弘から離れろ!」

 

 「昭弘!」

 

 「アジーさん達か!」

 

 ハンマーヘッドからの援軍がダークグリーンの機体を引き離す。 

 

 「増援!?」

 

 「……こいつは置いていけ」

 

 撤退しようとする昌弘の腕を掴み、タカキのモビルワーカーを離すように告げる。

 

 若干の逡巡と共に昌弘はタカキを解放すると味方機と共に後退していく。

 

 昭弘は掛ける言葉もなく撤退していく弟の姿を見守るしかなかった。

 

 

 

 

 敵の襲撃によって鹵獲されかけたタカキは重傷を負ってしまった。

 

 幸いイサリビに乗り込んでいたメリビットとクーデリアの的確な処置によって一命を取り留める事は出来た。

 

 しかし危機が去った訳ではない。

 

 敵の正体や規模、そして目的も今の所不明なのだ。

 

 「で、あいつらは結局なんだったんだ?」

 

 「今、ハンマーヘッドの方に通信が入ってるって。オルガ達が確認に行ってるけど」

 

 緊迫感の増すイサリビの食堂ではテーブルに雪之丞が突っ伏し、アトラが気分が良くなるようにタオルで扇いでいた。

 

 どうやら相当堪えたようで、未だに青い顔をしている。

 

 「雪之丞さん、大丈夫ですか?」

 

 「全然、大丈夫じゃねぇ。三日月、おめぇ、俺は操縦なんて出来ねぇんだからよ」

 

 「まあ急ぎだったし」

 

 全く悪びれた様子もない三日月に流石のアトラも苦笑を浮かべるしかない。

 

 そんな様子を見ながらハルはタブレットに記録された戦闘映像を眺めていた。

 

 敵モビルスーツの検証を行う為である。

 

 とはいえ現在判明している事は少ない。

 

 今、分かっているのはタービンズからの情報提供により、あのダークグリーンの機体がロディ・フレームである事。

 

 一回り大きなデカブツがガンダム・フレーム機『グシオン』である事。

 

 そしてサイラスを含めた傭兵が参加している事くらい。

 

 勿論、ハルがサイラスの傭兵団に居た事はオルガ達には報告済みだ。

 

 「おっさんはこの機体、見たことがないか?」

 

 差し出されたタブレットを受け取ったクランクは映し出された機体を見て心当たりがあったのかすぐに答えを口にする。

 

 「この辺でこれらの機体を扱っているのは確か『ブルワーズ』とかいう海賊だろう。データで閲覧した記憶がある」

 

 「やっぱり海賊か。乱入してきたこの機体はどうだ?」

 

 「カスタムしてあるようだが、ゲイレールだな。こっちの機体は―――」

 

 サイラスが乗っていた機体『グリード』を見たクランクは困惑したように顔を顰める。

 

 「かなり手が加えてある。グレイズの面影はあるがゲイレールにも共通項がある……俺も見たことがない。ただ昔、ある噂を聞いた事はある」

 

 「噂?」

 

 「ああ。ゲイレールからグレイズが開発されるまでの間、幾つもの試作機が企画された。それらは破棄された筈だが、建造されたその内の何機かを誰かが裏に流したという話だ」

 

 「この機体がそうだと?」

 

 「あくまでも噂だ。ギャラルホルンの一部では試作されたプロトタイプのグレイズは現行機以上の性能を持っていたという眉唾ものの噂もあるくらいだ。鵜呑みにせん方が良い。だがそういったいわく付きの機体が裏で取引されていてもおかしくはない」

 

 サイラスの詳しい素性は知らないが、当時から腕も立つ古参の傭兵だった。 

 

 幾つものパイプも持っており、横つながりもあった。

 

 ギャラルホルンに伝手を持っていても不思議はない。

 

 「そういえば昭弘は?」

 

 「多分、医務室だろうな。タカキの事をかなり気にしていた」

 

 「そっか」

 

 「じゃあさ、皆でお見舞いに行かない? 今できる事はそれくらいだし」

 

 アトラの提案に皆が顔を見合わせて頷いた。

 

 タカキや昭弘の様子が気になったハルも作業を中断し、三日月達に付いて食堂を後にした。

 

 

◇   

 

 

 イサリビを襲撃した者達。

 

 彼らの名は宇宙海賊船団『ブルワーズ』

 

 火星から地球に至る航路を狙う事で有名な海賊である。

 

 彼らがイサリビを襲撃した目的は彼らの持つ積荷、そしてクーデリア・藍那・バーンスタイン。

 

 海賊である以上を積荷を狙うのは当然だが、何故クーデリアの身柄を狙うのか?

 

 それは予想外の所からの依頼があったからだ。

 

 これを上手くやれば大きな後ろ盾を得る事ができる。

 

 テイワズですら、恐れるに足りない。

 

 宣戦布告も済ませた彼らは意気揚々と獲物が向かってくるのを待ち受けていた。

 

 相手はテイワズに籍を置くタービンズと鉄華団。

 

 彼らにも面子がある。

 

 尻尾を巻いて逃げる筈がない。

 

 それが分かっているからこそ、待ち構えていれば良いというのがブルワーズの基本方針だった。

 

 しかしそれに対して反対意見を言う男がいた。

 

 ブルワーズの護衛として参戦しているサイラス・スティンガーである。

 

 相手は武闘派でも知られるタービンズとギャラルホルンに一杯食わせた鉄華団。

 

 こちらも策を練るべきと主張していたのだが、聞く耳を持たない。

 

 「所詮は海賊だな。何を言っても無駄か」

 

 言うべき事は言ったし、後で仕掛けも施すつもりだ。

 

 だがこれ以上深入りする義理はない。

 

 ブルワーズには見切りをつけたサイラスはブリッジから格納庫へ降りると、そこでは見慣れた光景が広がっていた。

 

 「おら!」

 

 「ぐあぁ」

 

 グシオンのパイロット、クダル・カデルがパイロットスーツを着込んだ子供―――ヒューマンデブリのパイロットに暴行を行っていた。

 

 「せっかく捕まえた人質を何逃がしてるんだ、お前はよぉ! しかもマン・ロディまでこんなにボロボロにしやがって!」

 

 一切の手加減なく殴られた少年は蹲り、さらに追い打ちをかけるうように頭を足で踏みつけた。

 

 そこには少年たちへの配慮は一切ない。

 

 むしろ痛めつけるのを楽しんでいるようにすら感じさせる。

 

 だがヒューマンデブリの扱いなど何処も似たようなもので、珍しい光景でもない。

 

 しかしサイラスとしては見ていて気持ちのよいものではない。

 

 「チッ、使えない癖に偉そうに」

 

 サイラスは別にヒューマンデブリだからといって差別する気はない。

 

 傭兵である彼にとって重要なのは戦場において使えるか、使えないかだ。

 

 そういう意味ではクダルなどよりも、あそこにいる少年たちの方が遥かに良い仕事をしていた。

 

 止めに入ろうとしたサイラスだったが、それより前にクダルの前に割り込んだ者がいた。     

 

 長めの茶髪を首元で縛り、中世的な容姿を持つ少年。

 

 背中には同じく阿頼耶識の施術を受けた跡があり、彼もまたヒューマデブリの子供達と同じである事が分かる。

 

 「足をどけてくれませんか?」

 

 「お前、傭兵の所のガキ。てめぇ、誰に口きいてんだ! ヒューマンデブリの癖に!」

 

 「サイラスの作戦を無視し先走った挙句、まんまと人質を逃がした無能に言ってますけど」

 

 少年の言葉にキレたのか、クダルが問答無用で殴りかかる。 

 

 しかし体を沈ませ、攻撃を躱した少年はクダルの腹に拳を叩き込んだ。

 

 「ぐぇぁああ」

 

 鳩尾に入ったのか蹲るクダルに少年はさらに容赦なく蹴りをお見舞いする。

 

 顔面を蹴り上げられたクダルは受け身も取れず、仰向けに倒れ込んでしまった。

 

 「なっ」

 

 「お、おい、お前、ヤバいって」 

 

 「大丈夫だよ」

 

 「こ、このクソガキ! 殺してや―――」

 

 激高したクダルが飛び掛かろうとした瞬間、背後から近付いたサイラスが銃口を頭に付きつけた。

 

 「そこまでにしとけよ。それ以上やっちまうと俺も黙ってられないな」

 

 「雇われ者風情が」

 

 「その雇われ者を紹介したのが誰か、忘れた訳じゃないだろう。それともそっちもまとめて敵に回してみるか?」

 

 憤りを超え、殺意を宿した目でサイラスを睨みつけるとクダルは黙って格納庫を後にした。

 

 「おい、勝手な事するなよ、ナイン」

 

 「僕がやらなきゃ、サイラスが殺してたでしょ。それは流石にまだ早い」

 

 ナインの呼ばれた少年はサイラスの性格をよく熟知していた。

 

 彼は例え雇い主だろうと戦闘の邪魔だと判断すれば、あらゆる手段を用いて始末する。

 

 無論、彼の仕業と分からないようにだ。

 

 だがこの先、タービンズや鉄華団との戦闘を控えている現状で指揮系統を混乱させるような真似は得策ではない。

 

 「大丈夫だった?」

 

 「えっ、あ、ああ」

 

 「自己紹介してなかったね。僕の名前はナインだ」

 

 「……昌弘・アルトランドだけど」 

 

 ナインは床に座り込む昌弘に手を差し出すと、何の迷いも無く理解不能な事を口にした。 

 

 「昌弘、僕達と来い。今の腐った世界を壊す為に」 

 

 

 

 

 今日の仕事を終えた昭弘は医務室で治療を受けるタカキの元を訪れていた。

 

 ベットに横たわり眠り続けるタカキの顔を見ながら、昭弘は思わず自嘲した。

 

 「……罰が当たったのかもな」

 

 ヒューマンデブリである自分が夢を見た。

 

 オルガ達と一緒に鉄華団を立ち上げて、仲間の為に戦って。

 

 その為に強くなろうとして、ラフタやアジー達に訓練でしごかれて。

 

 それらすべてが楽しかった。

 

 だけどそれが間違いの元。

 

 自分はヒューマンデブリなのだ。

 

 デブリが楽しくて良い筈がない。

 

 昌弘も忘れていた自分が―――

 

 昭弘がそう結論づけようとした時、それに待ったをかける声が聞こえた。

 

 「じゃ、俺達の所為で昭弘に罰が当たったって事だね」

 

 「えっ、三日月、オルガ、それに皆」

 

 振り返るといつの間にか三日月やオルガ達が医務室に集まっていた。

 

 しかもさっきの考えが無意識に口に出ていたらしく、それを聞いていたらしい。

 

 「鉄華団が楽しかったのが原因なら団長である俺の責任だな」

 

 「ち、違う! 俺が言いたいのは―――」

 

 「昭弘、お前の弟、昌弘ってのも望んで俺達の敵に回った訳じゃないだろ。どの道、お前の兄弟なら俺達鉄華団の兄弟も同然だ。そうだろ、お前ら!」    

 

 話を聞いていたシノ、ユージン、ビスケット、そしてハルも笑みを浮かべて頷いた。

 

 「当たり前だろ!」

 

 「水臭いにも程があるぜ!」

 

 「そうだよ。じゃ、皆で責任の取り方を考えようか」 

 

 「お前ら……」

 

 昭弘が呆然としていると後ろから呻き声が聞こえてきた。

 

 「あの、うるさくて、寝てられないんですけど」

 

 「「「「タカキ!!」」」

 

 目を覚ましたタカキに全員が歓声を上げる。

 

 医務室だとメリビットが止めようとするが、喜んでいる団員達を見て止めた。

 

 未だ迷う様子が見える昭弘にハルはそっと声を掛けた。

 

 「昭弘、俺だって敵に関係者がいるんだ。前に言ってた傭兵がね、奴らの護衛に付いてる。兄弟でも何でもないし、特に思い入れはないけど、一応恩はある」

 

 「ハル」

 

 「それでも手を抜く気はない。そっちは俺がやるべき事だ。昭弘は自分がやるべき事を―――弟を迎えに行ってやってくれ」 

 

 「……分かった」

 

 迷いが見えた先ほどまでとは違い力強く頷いた昭弘は皆の信頼に応えるように拳を握りしめた。

 

 

 

 

 「ブルワーズ。最近名を上げてきたかと思えば俺らにまで喧嘩を売ってくるとは、しかもお嬢さんをよこせときた。でかいバックでもついたのか、面倒な裏がありそうだぜ。悪いな、偉そうな事を言っておきながら海賊なんぞに絡まれてこの様だ」

 

 一人医務室から抜け出したオルガはイサリビに出向いてきた名瀬と雑談しながら、今後の方針を決めていた。

 

 といっても結論はすでに出ているのだが。

 

 「よしてくれ、兄貴。道理の分からないチンピラが売ってきた安い喧嘩だ」

 

 「で、どうする、兄弟?」

 どうするかはもう決まっている。

 

 借りは返すし、やらなきゃいけない事もある。 

 

 「安い喧嘩だが、舐められっぱなしなのも面白くない。タカキの件で借りもある」

 

 「同感だ。じゃ教えてやろうじゃねーか、俺達の道理って奴をよ」

 

 「勿論だ、兄貴」

 

 タービンズと鉄華団、そしてブルワーズの戦いが始まろうとしていた。

 

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