機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ vivere militare est 作:kia
人が行き交い活気に溢れるドルト3にとある男が足を踏み入れた。
高い背丈に黒いコートに身を包み、スーツを着込んでいる。
そして一番珍妙なのは妙な仮面で素顔を隠している事だ。
目立つ事この上なく、しかし仮面の男は全く気にした様子もなく呑気に空を見上げていた。
「ふむ、久しぶりに自由な散策を楽しむのも悪くないが、革命の乙女の件は時間がないな、配置はどうか?」
「はい。問題なく」
「よし、彼女から目を離すな。邪魔者は消せ」
「了解」
背後にいた女性に指示を出した男は年代物の懐中時計を懐に仕舞うと楽し気に口元を歪めて歩き出す。
再び戦乱の気配がクーデリアの下へと近づいていた。
◇
テイワズからの依頼を果たすべくドルト2に到着した鉄華団。
だがそこで待ち受けていたのは予想だにしない銃撃戦だった。
「どうすんだよ、オルガ」
「手を出すなよ! 兄貴には絶対に騒ぎを起こすなって念を押されてただろ。イサリビはすでに港から離れた筈だから、後は俺達がどうするかだけだが……」
全くなんでこんな事になってしまったのか。
すべて始まりはドルト2に到着した時からだ。
依頼主の作業員たちが鉄華団を異常に歓迎してくれたのである。
『革命の乙女クーデリアとそれを守る若き英雄鉄華団』と。
聞けば彼らは地球経済圏のやり方に強い不満を持っていたがクーデリアの件を知り、自分達も立ち上がる気になったとか。
立ち上がれば変えられるのだと、彼らはそう思ったらしい。
馬鹿げた話だ。
運の要素もあったとはいえ鉄華団とて命懸けで切り抜けてきた道である。
そんな簡単に物事が上手くいく訳がない。
そして案の定、嗅ぎつけたギャラルホルンとの間に銃撃戦が起きてしまったという訳だ。
「タイミングが良すぎる」
「誰かに嵌められたって事か?」
「多分、此処の連中が言ってた支援者って奴だろ」
鉄華団がドルト2に運んできたコンテナの中には戦闘用のモビルワーカーやライフル、弾薬といった武器が詰め込まれていた。
これらは名前も知らないクーデリアの代理を名乗る支援者が寄こしてきたとか。
曰くクーデリアが火星に続いて他の場所でも地球への反抗の狼煙を上げようと呼びかけている。
その為の武器を鉄華団を通して提供すると言っていたらしい。
胡散臭い。
そんな話は聞いていないし、クーデリア自身がそんな事をしている様子もなかった。
ならその支援者とやらの策略とみて間違いあるまい。
オルガが考え事をしている間にギャラルホルンの部隊は撤退していく。
「やったぞ!」
「アイツら、退いていく!」
勝ち鬨を上げる作業員たちだが喜んでいる場合ではない。
ギャラルホルンはすぐにでも戻ってくるだろう。
今度は大部隊を連れて、こちらを押しつぶす為に。
「チッ」
火星から此処までの間、情報の重要性は嫌という程分かっていた筈。
それが出来なかったのは安心していたからだ。
タービンズと兄弟分となり、テイワズの後ろ盾を得られた。
邪魔をしてきたブルワーズをも排除した自分達を脅かすものはないと何処かで慢心していたのだ。
「オルガ」
「分かってる」
鉄華団に輸送させた武器の量から考えても、この騒ぎがただの小競り合いで終わるとは思えない。
少なくとも鉄華団に武器を運ばせ、この構図を描いた人物はこの程度で終わらせる気はあるまい。
「巻き込まれる前にどうにかこの場を切り抜けるぞ」
「これもう巻き込まれてんじゃねぇのか?」
的を得たユージンの指摘に顔を顰めたオルガは慎重に考えをまとめていった。
◇
争いの気配が濃くなってきたドルトコロニー群に複数の戦艦が近づいていく。
その中の一隻、ボードウィン家専用ハーフビーク級戦艦『スレイプニル』の格納庫では開始されるべき戦闘に備えた準備が進められていた。
「アイン、グレイ、機体の調整はどうだ?」
「問題ありません。いつでもいけます」
「意気込みは買うがな。入港許可が下りるまでは足止めだ。ま、俺のシュヴァルベを使いこなしてみせろ」
「ハッ!」
アインにはガエリオが使っていたシュヴァルベグレイズが与えられていた。
普通のグレイズとは勝手が違ったようで最初は戸惑っていたアインだったが、最近の訓練でようやく使いこなせるようになってきている。
打倒鉄華団に対する意気込みの強さが、技量向上に影響しているのだろう。
それに合わせてガエリオとの信頼関係も深まっていた。
「グレイにもシュヴァルベを用意するつもりだったんだが、本当にこいつでいいのか?」
「……ええ。火星から苦楽を共にしてきた機体ですから、慣れていていい。それにシュヴァルベに置いて行かれない程度に改修も受けています」
反面グレイはいつも通り。
いや、アインとガエリオの信頼が深まるにつれ、さらに距離を取っている。
正直な話、憎んでいる相手と必要以上に馴れ合うつもりはさらさらなかったのである。
その証拠にグレイはガエリオが配備する予定だったシュヴァルベを固辞。
代わりに火星からずっと一緒に戦ってきたグレイズの改修を施した。
スラスター増設や背中のブースターユニットを強化し機動性を大幅に向上させた。
反面操作性が悪くなっているものの、そこは腕前でカバーすればいいだけだ。
「ボードウィン特務三佐、艦長がお呼びです」
「分かった。遅れているキマリスの整備を頼むぞ」
「了解です」
ガエリオの眼前には家の倉から運び出した機体が整備を受けていた。
名前は『ガンダム・キマリス』
セブンスターズの一家門ボードウィン家の象徴である。
300年前に活躍し、初代ボードウィン卿が操ったとされる英雄の機体。
現在では実戦配備される事もなくギャラルホルンの理念の象徴として式典に駆り出されてはいた。
しかしガエリオは鉄華団を討つ為にこの機体を使う事を選択した。
火星での借りを返す為に。
「勝手にキマリスを持ち出して姉上には後で散々文句を言われるだろうが、覚悟の上だ。調整に時間が掛かっているのが気にかかるが」
キマリスはずっと実戦から離れていた所為か、予想以上に調整に時間が掛かっていた。
データを参考にしているにも関わらず、機体の調整が上手くいかないのである。
「まあ、何とか間に合うだろう」
ガエリオがブリッジに上がると艦長が渋い顔で待ち受けていた。
それで大方の答えは分かったが、あえて質問を飛ばす。
「やっと入港許可が出たのか?」
「それがまだ掛かるようで。事前の連絡も無しに来たのですから、簡単に許可は出ませんよ。例の作戦もありますし」
「統制局による不満分子の大規模鎮圧作戦か。よく言う、要するに見せしめだろうが」
「ええ、彼らの不満を煽り、反撃に出た所を一気に叩く。ですからセブンスターズの冠を付けた艦は歓迎されませんよ」
「その割にはマクギリスはあっさり入れたようだが?」
報告によればマクギリスの新設部隊独立監査部隊『フローズヴィトニル』がガエリオ達より先行してドルトコロニーに到着しているらしい。
「あの部隊はそれこそ特別な権限を与えられていますから。しかしその分、煙たがられている筈。今回の作戦に介入したというなら統制局も面白くないでしょう」
「だろうな」
「我々が同じ事をすれば、煙たがられるだけでは済みません。此処は統制局に花を持たせておくのが今後の為かと」
正直な話、今回の作戦については反吐が出そうな程に嫌悪感を抱かずにはいられない。
そもそもギャラルホルンの正しいあり方とは世界の治安維持である。
にも関わらず自分達で人々の不満を煽り、暴発させた挙句に鎮圧する。
マッチポンプもいいところだ。
「何の為の治安維持組織だ……ギャラルホルンが聞いて呆れる」
「は?」
「いや、お前が政治をやれというなら従うさ」
不満を隠そうともせず、ガエリオは格納庫へと引き返す。
これ以上此処にいても不快な話しか聞けそうになかったからだ。
「ロト先輩の言う通りだな。俺には腹芸は向かない」
自嘲しながら格納庫へ降りると未だに調整が続くキマリスの方へ足を向けた。
◇
オルガ達がドルト2で騒ぎに巻き込まれる少し前、ハルはクーデリアやアトラ、フミタン、三日月やビスケットと共にドルト3を訪れていた。
彼らの目の前には大きな商業施設が立っており、多くの人で賑わっている。
この賑わいは火星では中々お目に掛かれない光景である。
「お嬢様、此処で何を買うんです?」
「洗剤や団員の着替えです」
「俺達の?」
「はい。実はずっと気になっていたんです。艦内を漂う、その、臭いが」
「確かに! 皆が集まってると凄いっていうか。雪之丞さんの近くにいくと目がツーンと痛くなるし!」
「あ~」
それはハルにも思い当たる節があった。
宇宙における水は食料と同様に貴重な物資だ。
だから無駄に使う事は出来ないし、何より鉄華団のメンバーは男ばかり。
体を洗うのを億劫に感じて後回しという事など日常茶飯事だった。
「貴方達、聞きますけど最後に体を洗ったのは何時です?」
「え~と、3日、いや4日前かな?」
「えぇぇぇ!!」
「お前ら」
アトラの悲鳴にも似た非難の声を浴びる三日月達。
クーデリアの鋭い眼がギロリとハルの方へ向けられる。
「ハル、貴方はキチンと洗っていましたよね?」
「えっと、体を拭く程度なら」
「……体を拭いていただけ良しとしましょう。衛生環境を保つのは重要な事です。この機会に艦内を綺麗にしてしまいましょう」
「そうですね。私も手伝います!」
気合いを入れた二人を尻目に三日月とビスケットは互いの臭いを嗅いでいた。
「そんなに臭うかな?」
「さあ」
「火星にいるとあんまり気にする人とかいないけど、結構臭ってるぞ。毎日体拭いて、着替えくらいはした方が良い」
「ハルはきちんとしてたんだ」
「お嬢様がうるさいんだよ。それに護衛役やってると周りも結構言ってくる。俺の事でお嬢様を悪く言われる訳にはいかない」
これは火星にいた頃から気を付けていた事だ。
ハッキリ言ってハルはクーデリアの周りから良く思われていなかった。
火星の野良犬を拾ってきて自身の護衛役にするなど、バーンスタイン家の恥であるとすら正面から言われていた程だ。
自分が貶められるのは慣れているが、それによってクーデリアが侮辱されるのは我慢ならなかった。
だからハルも戦闘に支障がない程度には身だしなみを気にする事にしているのだ。
「それより落ち着きがないな、ビスケット。何か気になる事でもあるのか?」
「え、あ、うん。実はさ、憧れだったんだよね。小さい頃ドルト3に来るのがさ」
ビスケットはドルトコロニー群の出身で、ドルト2のスラム街に住んでいたらしい。
事故で両親が死亡し、就学していた兄サヴァランは会社の役員の家に、そしてビスケット達は桜・プレッツェルの下へ引き取られたそうだ。
「ずいぶん長い事連絡してないんだけど、まだドルト3に住んでるのかな?」
「折角の機会だし連絡してみたらどうだ?」
「え、でも、いきなり連絡したら迷惑かもしれないし」
「兄弟なんだから迷惑なんて事ある訳ないよ!」
「ええ、何もせずここから離れたら後悔するかもしれません」
話を聞いていたアトラやクーデリアが駆け寄ってきた。
昭弘の件もあったからこの手の話に敏感になっているのだろう。
結局彼女達に押し切られる形で店から出て兄に連絡を入れたビスケットだったが、すぐに腑に落ちない顔で戻ってきた。
「どうしたの?」
「いや、連絡したんだけど今日は居ないって。仕方ないから伝言だけでも頼んだんだけど話の途中で切られちゃって」
「切られた?」
「うん、なんか妙にピリピリしてたっていうかさ」
住んでる世界が違いすぎるのかもしれないと苦笑いを浮かべるビスケットだがハルと三日月は妙な違和感を覚えていた。
「気が付いたか?」
「……街中がやたら殺気立ってる。早めにイサリビに戻った方が良いかもしれない」
クーデリア達が街を観察するように視線を向けると、先ほどよりも明らかに人通りが少なくなっていた。
道を歩いている人もお世辞にも明るいとは言えない表情を浮かべて足早に去っていく。
まるで何かに怯えているように見えるのは気のせいだろうか。
「一度戻って……フミタンはどうした?」
気がつけばいつもクーデリアの傍に控えているフミタンの姿が何処にもなかった。
全員で周囲を見渡してもそれらしい姿は確認できない。
「さっきまで一緒にいたのに」
「探したいけど、定時連絡の時間だ。一度ホテルに向かおう」
「ハル!? でも、フミタンは―――」
「オルガ達を待たせる訳にはいかない。それにはぐれただけならフミタンもホテルへ向かっている筈だ」
万が一、皆からはぐれた場合の合流ポイントは決めてある。
普通ならフミタンもそのホテルの方へ行くだろう。
でも、もしも別の理由で自分から行方をくらませたとしたら。
「フミタン……まさか」
「どうしたの?」
「いや、念の為にお嬢様を守りながらホテルに向かおう。俺が先導するから周囲は三日月とビスケットで頼む」
「分かった」
クーデリアの身を守るように周囲を警戒しつつ、ホテルの方へ歩き出す。
しかし嫌な予感が消えることは無く、ただ焦燥感だけが募っていった。
◇
フミタンは人通りの少ない裏路地で一人歩いていた。
何か覚悟を決めたような表情で指定されていたポイントにたどり着く。
そこには数人の男達が待っていた。
スーツを着込み、一見会社に務める役員のようにも見えるがその佇まいに隙は無く、明らかに常人とはかけ離れていた。
「来たか。どういうつもりだ? ターゲットはドルト2に誘導しろと命令がきていた筈だが」
何も答えないフミタンだったが、隙を見て懐から拳銃を抜こうとする。
しかし背後に控えていた男から肩と脇を撃ち抜かれてしまう。
「グッ」
倒れたフミタンに激痛が走ると共に多量の血が流れ出す。
「裏切り。情にほだされたか、愚かな女め。しかし無駄だ、貴様の裏切りなどあの方は予想しておられる。すぐさま別のチームが『革命の乙女』を始末する」
「ッ、お、嬢様」
「死ね」
男の一人がフミタンへ拳銃を突き付ける。
この結末は決まっていた。
そもそもフミタン・アドモスはノブリスによって送り込まれたクーデリア・藍那・バーンスタインの監視装置。
邪魔になるなら排除される。
生き延びたければ役目を果たすしかない。
だがそれは彼女の死を意味する。
それは―――
脳裏に浮かぶ火星での日々が何故だか尊く感じる。
「わ、たしは……ハ、ル。後は、お願い、します」
信頼する少年にすべてを任せ、フミタンは運命を受け入れるように目を閉じる。
だが次の瞬間、「ぐっ」という男の苦痛に歪む声が聞こえた。
同時に倒れた男達は胸から血を流し絶命する。
「これは思わぬ拾い物だ。ノブリスの送り込んだ監視役とはね」
掠れゆく意識の中でフミタンが見たものは、妙な仮面で素顔を隠した男の姿だった。
◇
ドルト3の中でも人目に付かない廃ビルに複数の男達が集まっていた。
放棄されて時間が経っているのかビルの中は荒れ放題。
こんな場所に集まっているからにはスラムにいるようなチンピラかと思いきや、そこにいたのは意外にもスーツを着込んだ大人達であった。
「どうするんだ?」
「例のクーデリアって女さえ見つかれば」
全員がピリピリと気を張って、余裕がなかった。
それもその筈、このままでは取り返しのつかない事態が起きかねない。
彼らが思いつく限りで止める手立てがあるとすれば、噂のクーデリア・藍那・バーンスタインを事が起きる前に捕らえてギャラルホルンに引き渡すくらいなのだが、如何せん居場所が分からない。
誰もが焦りながらも、打開策が見いだせないでいると慌てたように一人の男が駆け込んできた。
「サヴァラン、今会社から連絡があった。お前の弟を名乗る者から連絡があったそうだ」
集まった中の一人サヴァラン・カヌーレは弟という言葉に一瞬反応出来なかった。
勿論弟を含めた兄妹の事は覚えていたが、それが何故このタイミングで、そんなに慌てた様子で駆け込んでくるのかが理解出来なかったのだ。
「それがどうしたんだよ、サヴァランには悪いが今はそれどころでは―――」
「それが鉄華団に所属しているって」
「鉄華団!?」
それは災いの元凶とも言えるクーデリアと共にドルトコロニーにやってきた連中の名前だった。
弟であるビスケットが所属している理由は分からないが、これは千載一遇のチャンスである。
「今、居る場所も大体わかってる。これは好機だぞ、サヴァラン」
「ッ、ええ。行きましょう!」
恐らくこれが最後の機会。
今ならまだ止められる可能性はある。
男達が最後の希望に縋り、廃ビルを出ようとした時、突如数名の武装した連中が飛び込んできた。
「なっ!?」
あっさりと周辺の男達が撃ち倒されるとサヴァランも肩を撃たれて、床に引き倒された。
撃たれたのは実弾ではなかったようで、怪我はないが凄まじい痛みが襲い掛かる。
「ぐあぁあぁ、い、いきなり、何をするんだ!」
「抵抗しないでもらいたい。そうすればこれ以上危害を加えるつもりはない」
倒れ伏すサヴァランの前に現れたのはスーツを着込み、拳銃を構えた金髪の男だった。
「私の名前はマクギリス・ファリド。ギャラルホルン独立監査部隊の隊長を務めている。不満分子が潜伏していると連絡があったのだが」
「ぎゃ、ギャラルホルン……待ってください。我々は」
マクギリスは落ちていた身分証を拾うとサヴァランに鋭い視線を向けた。
「なるほど、ドルトカンパニーの社員か。しかしそんな方々がこんな場所に集まって何をしていたのかな?」
「そ、それは」
「話を聞かせてもらおう。連れて行け」
倒れ伏す社員たちを部下たちが立ち上がらせて連行する。
それと入れ替わりに部下の一人が近寄ってきた。
「よろしいでしょうか、実はドルト2で治安部隊と労働者の小競り合いがあったようです。規模そのものは大したものではなかったようですが」
「そうか。ドルトへ来るのが些か遅すぎた。暴動は止められないだろう。扇動している者もいるようだからな」
「あの者達が扇動している者を知っているでしょうか?」
「まさか。彼らとて煽られた側の人間だ。すべては知るまい。だが何らかの手がかりは得られるかもしれないな」
「しかし今回は統制局が作戦を展開しています。これ以上派手に動く訳には」
「分っている。私とてエリオン公に睨まれたくはないさ。ガエリオもさぞ不満だろうがな」
事前の情報で予測は出来ている。
今回のこの騒ぎ、ギャラルホルンも無関係ではない。
「統制局の大規模鎮圧作戦。誰がどこまで関わっているのか」
マクギリスは次々と入ってくる不穏な情報を纏めながら思案に暮れつつ、建物を後にした。
◇
周囲を警戒しながら予定のホテルまでたどり着いたハル達はこれからの行動を話し合っていた。
その顔は一様に険しい。
フミタンはホテルには来ておらず、未だ行方が分からないまま。
出来れば今すぐにでも探しに行きたい所だがそれが出来ない理由がある。
それは定時連絡によってオルガ達からドルトコロニーの現状を聞かされたからだ。
地球出身者による一方的な搾取に耐え兼ねた労働者たちが待遇改善を求め、行動を起こそうとしている。
最悪簿力を用いての過激な行動に訴えてでも。
しかもそれを扇動しているのがクーデリアであり、鉄華団はそれに加担しているという情報が流れているのだと。
「まさか僕達の運んできたものが武器弾薬だったなんて」
「しかもそれを手配したのが私」
街中がピリピリしていた理由がコレだったのだ。
あのまま何も知らずに買い物をしていたら、余計な騒動に巻き込まれていたかもしれない。
「一体誰がそんな事したのかな?」
ハルには心当たりがあった。
フミタンが消えた事を考え合わせると該当する者は一人しかいない。
「ノブリス・ゴルドンだよ」
「ッ!?」
声が掛けられた方へ一斉に振り向くとそこには黒いコートを羽織る仮面をつけた人物が立っていた。
「初めまして、『革命の乙女』クーデリア・藍那・バーンスタイン。一度貴方とお会いしたいと思っていました」
「貴方は?」
「失礼、私の名はヴェネルディ。ただの商人ですよ、『革命の乙女』」
ヴェネルディと名乗った男は警戒するハル達を気にも留めず、近づいてくる。
彼が醸し出す雰囲気は何処か不気味であり、危険な気配を纏っていた。