機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ vivere militare est   作:kia

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第17話 再会と再戦

 

 

 

 

 ゆっくりと意識が覚醒していくのを感じながらエリヤ・スノードロップは目を開ける。

 

 体に痛みは無く、酷い気だるさだけが感じ取れた。

 

 ぼんやりとした意識の中、自分の姿を確認すると医療ポットに寝かされている。

 

 「私は」

 

 何があったのかを思い出そうとすると自分を覗き込む女性に気が付いた。

 

 「目が覚めたようだな、エリヤ・スノードロップ」

 

 長い髪を背中で束ね、キッチリと着込んだギャラルホルンの制服が几帳面な性格であると示していた。

 

 さらに特徴的だったのはその雰囲気である。

 

 彼女の周囲には緩みがない。

 

 思考も、視線も、行動も、すべてを厳格に自らを戒めている。

 

 それが周りにも伝染し、一緒に居る人間たちもまた一切の遊びを排していた。 

 

 アレクシア・ボードウィン特務一佐。

 

 その戦術、戦略眼やモビルスーツの操縦技能などすべてが一流で、ギャラルホルンの兵士の一部からは『氷の女帝』と呼ばれ、畏怖されている女傑である。

 

 「ボードウィン特務一佐、私は」

 

 「まだ眠っているといい。戦闘での負傷は完治した筈だが体力は戻っていない。念の為にな」

 

 アレクシアの話を聞きながら、エリヤもようやく自分の置かれた状況を思い出した。

 

 「……そう、だ。私は、バルバトスに」

 

 ブルワーズと鉄華団の戦闘に介入したエリヤはバルバトスと交戦し、見事に返り討ちにあったのだ。

 

 あのメイスに潰されて五体満足で生きていたのは運が良い。

 

 しかしエリヤは少しも嬉しいとは思わなかった。

 

 屈辱。

 

 敗北の末に自身の中に残ったものはただこの一言のみである。

 

 「ボードウィン特務一佐、鉄華団は?」

 

 「奴らは地球のドルトコロニー群にいる。我々の任務も終了し、もうじき地球へ到着するが……間に合わんだろう」

 

 「間に合う?」

 

 「とにかく休め。地球に戻ったらまた動く事になる」

 

 エリヤの事をドクターに任せ、医務室を後にするアレクシアの傍に部下の一人が駆け寄ってくる。

 

 「特務一佐、実は―――」   

 

 報告を耳にしたアレクシアは冷静な表情を崩し、珍しく苛立ちを見せた。

 

 「ガエリオめ、勝手にキマリスを持ち出すとは。父上は何をされているのか」

 

 現在ボードウィン家の当主は父であるガルス・ボードウィンであるが、実質取り仕切っているのはアレクシアであった。

 

 普段の仕事ぶりから留守くらいは任せても良いだろうと考えていたのだが、楽観が過ぎたようだ。

 

 「本家の方に連絡して連れ戻すように伝えましょうか?」

 

 「必要ない。父上の事だ、散々戻れと通告した後だろう。それでも戻らぬとガエリオも覚悟の上なら言う事はない。大体、父上は日頃から過保護すぎるのだ、あれではクジャンの小僧と同じになる」

 

 父は正直に言ってガエリオやアルミリアに甘すぎると考えていた。

 

 そんなだからセブンスターズなどと300年前の過去の栄光に縋りつき、それが当たり前であると勘違いするのだ。

 

 あれでは昨今のギャラルホルンの腐敗に取り込まれ、いずれ諸共腐り落ちてしまうだろう。

 

 「自分の後始末くらい自分でさせねばな」

 

 「しかしキマリスは―――それに万が一、命を落とされるような事があれば」

 

 「それこそ覚悟の上だろう。戦場で死んだなら男として見事だと褒めてやる。だが部下を置き去りに自分だけ逃げ帰ってくるようなら……私が殺してやる」

 

 その視線と声には本気の怒気と覚悟が籠められていた。

 

 常人なら卒倒してもおかしくない威圧を涼しい顔で流していた部下は、アレクシアであれば本気で殺しかねないと内心ガエリオに同情しながら、上官の後ろを歩いていた。 

 

 

 

  

 ドルト3の大通りに幾人もの人が押し寄せ、拡声器を持って声を上げる。

 

 兼ねてから練られていた労働者たちの計画。

 

 抑圧されてきた労働者たちが待遇改善を求めてデモ行進を開始したのだ。

 

 慌てて現場から離れる者や野次馬に向かう者など溢れる喧噪。

 

 だがその騒ぎから外れるように、ホテルの一画で静かに向かい合う者達がいた。

 

 合流したオルガ達鉄華団のメンバーと、クーデリア・藍那・バーンスタインである。

 

 そしてその対面には、秘書と思われる女性を連れたヴェネルディと名乗る仮面を付けた男が座っている。 

 

 一見ただの怪しい人物なのだが、どこか油断ならない雰囲気を醸し出していた。

 

 その佇まいにも隙は一切見当たらない事も、鉄華団の警戒心を引き上げさせている。

 

 さらに全員の警戒心を煽ったのが、フミタンに関する事だった。

 

 彼が言うには、フミタンは今回の騒動の原因であるノブリス・ゴルドンの刺客によって撃たれたらしい。

 

 それを嘘だと断じるには証言は正確で、証拠もあった。

 

 クーデリアの手元には、血に濡れたフミタンのネックレスが握られている。 

 

 これは歳星で購入したクーデリアとおそろいの物であり、見間違えようもない品だった。

 

 突然もたらされたフミタンの訃報に誰もが戸惑いや憤りを隠せない。

 

 しかし男は仮面の下ですべてを見通しているとばかりに口元に笑みを浮かべると、何の躊躇いも無く話を始めた。  

 

 「改めて名乗りましょう、我々はヴェネルディ商会と申します。突然の訪問、失礼しました。しかしドルトの現状を鑑みて、貴方に危険を知らせる事こそが優先事項であると判断しました」

 

 「その危険ってのがこの騒ぎって訳か。アンタ、一体何者だ?」

 

 「先ほども言った通りただの商人、貿易商ですよ。商売柄、色々な噂話なども耳に入ってきますからね」

 

 オルガの威圧した物言いにも、涼しい顔で受け流すヴェネルディ。

 

 商人と言うだけあって交渉事には長けているらしい。

 

 まともにやり合うには分が悪いと判断したハルは、単刀直入に問い質す事にした。

 

 「それで、ノブリス・ゴルドンを敵に回すような真似をしてまでお嬢様に何の用だ?」

 

 すると、何故だか饒舌だったヴェネルディは口を閉じてハルの方をジッと見つめている。

 

 ヴェネルディだけではない。

 

 後ろに控えていた女性も同じくハルを見ていた。

 

 悪意こそ感じないが、その視線は好意的なものではない。

 

 「何か?」

 

 「失礼。君がクーデリアさんの護衛役かな、頼もしい事だ。質問に答えると我々はクーデリアさんの革命に協力がしたい。商談と言い換えても良い」

 

 「協力?」

 

 「ええ。その見返りとして、革命成功時にマクマード・バリストン氏が得るであろうハーフメタル利権に我々も加えていただきたい」

 

 その話をどこで嗅ぎつけてきたのか。

 

 何よりも実現するかも分からないアーブラウとの交渉が成功すると、本気で思っているのだろうか?

 

 「ちょっと待てよ。それは俺らが勝手に決められる話じゃない」

 

 「分かっています。まずは貴方達の上役であるタービンズの方に話を通してください。返事は後日でも結構ですので」

 

 「で、協力ってのは何をしてくれるんだ?」

 

 「そうですね、まずは地球圏に関する情報の提供、そして地球への降下船の手配というのはどうでしょう? 真相はどうあれギャラルホルンにとって貴方達は今回の件の首謀者だ。簡単に地球へ降下する事は出来ない。動くにしても情報が無ければ方針も立てられない」

 

 今回の騒ぎで露呈したが、鉄華団は地球圏で活動するにはあまりに無知だ。

 

 タービンズがいたとしても限界はあるし、何よりも名瀬も言っていた。

 

 『圏外圏では強力な力を持つテイワズも、地球圏では一企業としての力しかない』と。

 

 なら、ある程度の事情に詳しい彼らから情報を得るのは、悪くない手に思える。

 

 しかし、今まで散々利用され痛い目に遭って来た鉄華団の面々にとっては上手すぎる話だった。

 

 「胡散臭いくらいに至れり尽くせりだな」

 

 「信じられないのも無理はありません。では信頼を勝ち得る為にも、このコロニーからの脱出を手助けするというのはどうでしょうか? すでに脱出用の船を確保してあります。それならば安全にコロニーを脱出できるかと」  

 

 「本当に準備が良いな。けど今はそれしか手がねぇか」

 

 この男をすべて信用する事は出来ない。

 

 用意周到にも程があるし、根本的に信じてはいけないという忌避感のようなものがずっと消えないのだ。

 

 しかし現状、これ以上騒ぎに巻き込まれずに脱出するにはそれしか方法はなかった。

 

 オルガの目配せに頷くと、ハルはクーデリアの方を見る。

 

 クーデリアは呆然とソファーに座り込んでいた。

 

 フミタンの件が相当堪えているのだろう。

 

 「お嬢様、コロニーを脱出します」

 

 「え、でも、フミタン、は」

 

 「フミタンはもう居ません。……動くと決めた時にこうなる事も覚悟していたでしょう?」

 

 「ッ、それは! でも」

 

 「文句は後で。失礼します」

 

 ハルは問答無用でクーデリアを抱え上げると、先行するオルガ達の後についていく。

 

 先導するヴェネルディから目を離さないよう警戒しながら、喧噪続くホテルを後にした。

 

 

     

 

 ドルト3の状況は悪化の一途を辿っている。

 

 最初に起きた爆発を皮切りに、ギャラルホルンが暴動鎮圧を開始。

 

 それに対して労働者たちも反撃を行い、メインストリートはさながら戦場と化している。

 

 「急がねぇとヤバいぜ。おい、大丈夫なんだろうな?」

 

 「ええ。現在宇宙港は封鎖されている。しかし抜け道はありますよ」

 

 ヴェネルディの後について走る面々の前に、目も覆いたくなる惨状が飛び込んできた。

 

 普段は車が行き交う道路は砲弾により抉られ、所々に労働者たちの死体が積み重なっていた。

 

 戦場に慣れている筈の鉄華団の面々でさえ、表情を曇らせている程に酷い状況に、クーデリアは歯を食いしばった。

 

 「ッ、これではあの日と同じではないですか、ハル!」 

 

 「クーデリアさん?」

 

 抱え上げられながら憤るクーデリアにアトラが首を傾げるがハルは無視して先を急ぐ。

 

 「……行きます」

 

 「ハル!」

 

 「文句は後でと言ったでしょう」

 

 「私は……私が動くと決めたのは火星の人が、貴方が幸せに暮らせる世界を創る為。でも、火星だけじゃなかった。此処にもあった、私はこのまま地球へ行く事なんて」

 

 「であれば貴方の意思を示せばいい」

 

 先行していた筈のヴェネルディが振り返り、話に割り込んでくる。

 

 その言葉を待っていたと言わんばかりに饒舌に語り出す。

 

 「貴方がこの理不尽を、ギャラルホルンの所業を許せないと言うなら、まずはそれを世界に示すべきだ。そうでなければ誰も貴方の言葉に耳を貸す者はいない」

 

 「アンタは黙っててくれ」

 

 「私は貴方の革命のお手伝いがしたいと言った筈。その為なら協力は惜しみません」

 

 ハルの事を無視して話を進めようとするヴェネルディに対して益々不信感が募っていく。

 

 しかし一緒にいたユージンやシノはこの現状に対する憤りを口にする。

 

 「確かにこのまま黙ってみてるだけってのもな」

 

 「此処で動かなきゃ格好悪いだろ」 

 

 「ユージン、シノ、そんな簡単に! 外にどれだけの敵がいるかも分からないのに」

 

 「ミカ、お前はどう思う?」

 

 「俺はオルガの命令に従うよ。でもこのままやられっ放しってのも面白くないね」

 

 皆の意見を聞き、考え込んでいたオルガは深いため息をつく。

 

 「全くお前ら。けどこのままじゃ身動きが取れなくなる。イサリビの進路を確保する為にもやるしかねぇな」 

 

 「そうこなくっちゃな!」

 

 「方針が決まったようなら、今後について話をさせてもらいましょう」  

 

 まるでこうなるように誘導されたような違和感を感じながら、ハルはヴェネルディを睨みつけていた。

 

 

 

 

 暴動が起きて以降、関係のない一般人は誰もが家や会社に立てこもり、固く扉を閉ざしていた。

 

 無用な争いに巻き込まれたくないと考えるのは誰しも同じであり、早く嵐が通り過ぎれば良いと考えるのは自然の成り行きである。

 

 最早、無暗に歩き回る一般人は誰もいなくなっていた。

 

 そんな中、散発的に続く銃撃戦を避けるように密かに動く人影があった。

 

 コロニーに潜入しているマクギリスが率いる『フローズヴィトニル』のメンバーである。

 

 彼らは揉め事を避ける為、そして確かな情報を得る為にコロニーに駐屯しているギャラルホルンとは距離を置き、武装した労働者たちの捕縛に動いていた。

 

 「これはどういう事でしょうか?」

 

 彼らの視線の先にはスーツを着た屈強な男達の死体がある。

 

 部下の疑問にマクギリスも険しい表情を隠さない。 

 

 先ほどまで彼らと銃撃戦を繰り広げていた者達が使用していたのは、裏で流れている型落ちの武器ではなく、ギャラルホルンで配備されているような最新兵器だった。

 

 「最新の武器に訓練された動き。傭兵か、それとも誰かの私兵か。どちらにしろ今回の件に関わっている事は間違いないだろう。送られてきた匿名の情報は、我々を使って彼らを排除したかったのかもしれない」

 

 「利用されたという事ですか。しかし我々は秘密裏に動いていた筈です、一体誰が?」

 

 「不明だ」

 

 恐らく此処に居た連中は、ノブリス・ゴルドンの私兵に違いない。

 

 目的はクーデリア・藍那・バーンスタインを暗殺する事。

  

 ドルトでの騒ぎに目を付けたノブリスが、この機に乗じてクーデリアを暗殺する事で、さらなる火種を作ろうとしたといったところか。

 

 火星での動き、事前に仕入れた情報と先ほど捕縛したドルトカンパニー社員の証言、そして以前から流れていた噂。

 

 総合して考えるとそれしかあるまい。

 

 「これからどうなさいますか? 外ではアリアンロッド艦隊による攻撃も開始されたようです」

 

 「こんな状況を作り出すギャラルホルンも末期だな。コロニー内の方は我々が介入した事で暴動の規模も抑えられた筈だが……外はアリアンロッドが来た以上、正当な理由も無しに止められない」

 

 コロニー内部は鎮圧されたものの、外ではモビルスーツまで持ち出している。

 

 あれではもはや穏便に止める事は叶わない。

 

 「後は鉄華団か」

 

 ドルトカンパニー社員の話によれば鉄華団側からコンタクトを取ってきたとの事。

 

 その話が嘘であれ本当であれ、彼らがドルトコロニー群にいる事は、鉄華団を探らせている者の話からしても間違いない。 

 

 「彼らの動きには注視しておくべきだが―――ッ、伏せろ!」   

 

 マクギリスの声に反応し随伴していた隊員たちが伏せると彼らの頭上に銃撃が襲い掛かる。

 

 「敵襲!?」

 

 「こいつらの仲間か?」

 

 「狼狽えるな。各自、応戦しろ!」

 

 再び始まった銃撃戦。

 

 敵はこちらを足止めするかのように絶え間なく銃弾が降り注いでくる。

 

 「激しい銃撃の割にこちらを仕留めにこない?」

 

 飛び交う銃弾を避けながら敵の姿を確認しようと建物の陰から様子を伺うと、一人の男がライフルを構えているのが見えた。

 

 「一人? あの男、恐らく傭兵。ノブリスの私兵か?」

 

 傭兵らしき男はマクギリスの視線にも気が付いているのか銃口を向けてくる。

 

 「ん? お前、もしかしてマクギリス・ファリドか?」

 

 「光栄だな。見ず知らずの人間にも顔を知られているとは」

 

 銃撃の隙間を縫うように聞こえた声に返事をしながらも、マクギリスの眼は常に隙を伺っている。

 

 そして相手が弾倉を交換した隙に反撃に出た。

 

 巧みに建物の陰を利用しながら射程距離まで近づき、銃弾を叩き込んだ。

 

 しかし男はそれを予測していたかのように遮蔽物の陰に身を顰めた。  

 

 的確な判断力。

 

 男がかなり戦い慣れているのが分かる。

 

 「という事は、どうやらそっちと標的が被っちまったみたいだな。まあいいか、どの道お前らの足止めをしなきゃならなかった訳だし」

 

 「なんだと?」

 

 男を問いただそうとした時、何かが走ってくる音が聞こえてきた。

 

 「この音、モビルワーカー」

 

 「ナインか。丁度、時間だったみたいだな」

 

 労働者たちが持ち出してきたモビルワーカーと、同型の機体が高速で近づいてきていた。

 

 作業などに使用され、一般的にも普及しているモビルワーカーだが、対人戦闘に用いられればそれは十分な脅威になる。

 

 相応の火力が無ければ、装甲に傷をつけるのも難しいのが現実だ。

 

 せめてもの救いは、機動力が発揮できない狭い路地裏である事くらいか。

 

 モビルワーカーによる砲撃が建物を撃ち抜き、マクギリス達の居る場所に容赦なく襲い掛かる。

 

 「じゃあな、マクギリス・ファリド」

 

 咄嗟に外へ飛び出し砲撃から逃れたマクギリスを嘲笑うかのように、男はモビルワーカーに飛び移っていた。

 

 そして持っていた手榴弾を放り投げると、ライフルで撃ち抜いた。

 

 「グッ!」

 

 頭上で起きた爆発から身を守る為、全員が物陰に隠れて地面に伏せる。

 

 その間にモビルワーカーはスピードを上げて離れていった。 

 

 「我々の足止めだと? ―――鉄華団か!」  

    

 足止めしたい理由に思い立ったマクギリスは内心舌打ちした。

 

 あの傭兵の目的は二つあった。

 

 一つはノブリスの私兵と思われる者達の排除。

 

 そしてもう一つ、鉄華団の支援だ。

 

 鉄華団自身が画策したかは不明だが―――

 

 「いや、それにしては手が込んでいる。鉄華団を利用しようとしている第3者と考えるべきか」  

 

 「ご無事ですか?」

 

 「ああ。全員の安否を確認しろ。それから至急、私の機体を準備をさせるように母艦に連絡を」   

 

 コロニー内での騒ぎが終息し始めている以上、あれらが何処へ向かったのかは明白。

 

 暗躍している者達の何かしらの手がかりを持っている可能性がある彼らを、逃がす訳にはいかないのだから。

 

 

 

 

 民間が使用する港とは違う、いわば作業用の機材が収容された倉庫のような場所にハルは一人、足を踏み入れていた。

 

 一応銃で武装しながら中に入ると、乱雑に労働用の機材が放置されているのが見えた。

 

 さらに奥へと進んでいくと、一機だけモビルスーツが残されていた。

 

 スピナ・ロディ。

 

 汎用性の高さから様々な組織で運用されている量産モビルスーツである。

 

 「仮面が言っていたのはアレか」

 

 現在ドルトコロニーの港は封鎖され、誰一人外へ出る事は出来なくなっている。

 

 そんな状況で仮面の男ヴェネルディが提示したコロニー脱出の為の策。

 

 それはヴェネルディが用意した報道関係者と共に船で脱出するというものだ。

 

 いかにギャラルホルンといえど報道関係の船ならば手が出せない。

 

 普通の船で脱出するよりは安全である。

 

 しかしそれでも何があるか分からないのが戦場だ。

 

 そこでハルがヴェネルディが準備していたモビルスーツで囮役を務める事になったのである。

 

 「この辺りで用意されてた他の機体はギャラルホルンが細工してたらしいけど。アイツの用意したコレは大丈夫なのか?」  

 

 不安になりながらコックピットへ踏み込む。

 

 当然ながら阿頼耶識はなかった。

 

 一応傭兵時代やタービンズとの訓練でも、非対応機の訓練は積んでいるから動かす事は問題ない。

 

 しかし戦闘となれば話は違ってくる。

 

 上手く戦えるだろうか?

 

 不安がないといえば嘘になるが、出来る事はやらねばならない。 

 

 「えっと、これか」 

 

 ヴェネルディに渡されたカードに記載されたパスワードを入力すると、ロックが外れ機体が起動する。

 

 「予め使われないよう仕掛けを施してたって訳か。本当に用意周到な事で」

 

 苛立ちを籠めてカードを握りつぶすと、武装を確認してコロニーの外へと踏み出した。

 

 外で行われていたのは、戦闘というにはあまりに一方的なものだった。

 

 機体に細工された所為か碌に反撃も出来ないまま潰されていくモビルスーツ。

 

 まるで予定調和のように、あまりに作業的に命を磨り潰していく行為に憤りが隠せない。

 

 「くそ! 分かってるよ、俺は俺の仕事をするだけだ!」 

 

 無理やり自分に言い聞かせるように呟いたハルは、船の進路上の敵を引き離すようにライフルを発射した。

 

 動けない機体への攻撃に移ろうとしていたグレイズは、驚いたように動きを止める。

 

 「戦場で動きを止める奴がいるかよ!」

 

 スラスターを吹かし腰から引き抜いたブーストハンマーでグレイズの頭部を破壊する。

 

 そして奪い取った剣を近くの敵に向けて投げつけ、隙が出来た瞬間を狙い体当たりでコックピットを押し潰した。

 

 「動かし難い。阿頼耶識で操縦する事に慣れてるからな。数で来られたら持たないぞ」

 

 安易な接近戦は命取りになる。

 

 阿頼耶識の反応速度も機体の機動性もないとなれば、数で押されれば打開する術が限りなく少なくなる。

 

 「だとしても!」

 

 グレイズからの攻撃を防ぎつつ、距離を取って船の進路を確保するのに専念する。

 

 しかし初めは順調だった戦いもあっさり劣勢に立たされてしまう。

 

 そもそも状況が悪すぎる。

 

 グレイズの数は圧倒的で、機体の性能のみならず、兵士の練度も高い。

 

 アスベエルとまではいかなくとも、百錬やグレイズ改のような機体であればある程度立ち回る事も出来るだろうが、量産機のスピナロディでは荷が重すぎた。

 

 「ぐっ」

 

 振るわれる斬撃を腕の装甲で防御するが、同時に撃ち込まれたライフルの射撃がスピナロディに直撃した。 

 

 「この!」

 

 耳障りな警告音を無視して加速。

 

 グレイズに組み付き、何度も拳を叩きつけてどうにかコックピットを破壊した。

 

 だが安堵する間もなく、次の脅威がハルに向かって突っ込んできた。

 

 「ッ!?」

 

 それに気が付けたのは偶然だった。

 

 逃れるように敵機を突き放したその瞬間、弾丸の如く突撃してきた白い機体の大きな槍が無残にグレイズを破壊してしまった。

 

 圧倒的な速度にナノラミネートアーマーを貫通する攻撃力。

 

 そんな厄介な敵の姿を確認しようと視線を向けると、そこには馴染みのある形状の機体がこちらを狙っていた。

 

 「ガンダム・フレーム!?」

 

 「ふん、統制局の作戦に手を貸すようで気分が悪いが、この機会は見過ごせない!」 

 

 ハルの前に現れたのはガエリオの駆るガンダムキマリスだった。

 

 標的である鉄華団の母艦イサリビの存在を確認したガエリオは、決着をつける絶好の機会だと満を持して出撃してきたのである。

 

 「味方がやられるのを黙って見ている訳にはいかなくてな。死にたくないならさっさと機体を捨てろ!」

 

 「こいつ!」

 

 通常のグレイズとは比較にならない凄まじい速度で突っ込んできたキマリスは槍を突き出してくる。

 

 「速い!?」

 

 ライフルによる牽制射撃も意味はなさず、接近戦を挑むなど自殺行為。

 

 ハルは後先考えず、回避のみにすべてをつぎ込む。

 

 そのお陰か槍はスピナロディの装甲を抉るだけで、致命傷を受けずに済んだ。

 

 しかし放たれた弾丸の如く、キマリスは標的を穿つまでは止まらない。

 

 旋回し、背後に回り込むと再び突撃してきた。

 

 「上がれェェェ!!」

 

 すべてのスラスターを使い、上昇しようと試みる。

 

 だがキマリスの速度には間に合わず、右足をあっさり破壊されてしまった。

 

 「ぐあああ!!」

 

 どうにか立て直したいが、機体のダメージは深刻でバランスを保つ事が出来ない。

 

 「ッ、この機体はもう使えない。このままじゃ」

 

 焦りが募るハルだが、この結果に対してそれ以上に動揺を感じていたのはガエリオの方だった。

 

 「また避けただと!?」

 

 一度ならず二度までも自分の攻撃を躱してみせた。

 

 ただの労働者だと思っていたが、もしかすると戦闘に長けた傭兵なのか?

 

 「だとしてもこれで終わりだ!」

 

 死に体だろうが油断はしない。

 

 今度こそ仕留めると必殺の一撃を繰り出そうと前に出た。

 

 ハルに避ける術はなく終わりを覚悟したその時、予想外の一撃がキマリスに襲い掛かった。

 

 「何!?」

 

 突撃するキマリスに向けて、遠距離からの砲撃が撃ち込まれたのである。

 

 しかもそれを撃ち込んできたのはハルも知っている機体。

 

 「あれはナインが乗っていた!?」

 

 半壊したスピナロディのコックピットに拡大された映像には、ナインが乗っていたゲイレールの姿が映し出されていた。

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