機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ vivere militare est   作:kia

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第18話 悪魔達の狂宴

 

 

 

 

 

 各コロニーでの暴動により港が閉鎖された影響は当然のことながら、ハンマーヘッドの停泊したドルト6にも及んでいた。

 

 いかに圏外圏で強い力を持つテイワズと言えども地球圏内での争いに介入する程の力はない。

 

 迂闊に出て行けばギャラルホルンに介入される口実を与えてしまう。

 

 結果として争いの火中にいる鉄華団を助ける事も出来ずに黙って見ているしかないという状況に陥っていた。

 

 「全くなんて顔してんだい。いい男が台無しだよ」

 

 不服と不満を抱え込み、それでも黙る事しか出来ない自分に苛立ちながら名瀬はすべてを呑み込むように息を吐く。

 

 「悪い、アミダ。俺もまだまだ甘いな」   

 

 「そこもアンタのいいところだよ」

 

 アミダの腕に抱かれながら、見上げる先にいたのは生まれ変わったモビルスーツ。

 

 《行きます。こいつの初陣、派手に飾ってやりますよ!》

 

 「無茶すんじゃねーぞ」

 

 ハンマーヘッドから飛び出したのは昭弘だ。

 

 新たな姿となったグシオンと共に戦場へと向かう後ろ姿に一言告げると、ブリッジにナーシャが駆け込んできた。

 

 「旦那様。鉄華団の事、いいの?」

 

 「ナーシャ、アンタも分かってるんだろ」

 

 「勿論だよ、アミダ姉さん。ただね、旦那様の心情的に放っておけないかなって事前に準備しておいたんだけど」

 

 「準備ってお前まさか」

 

 まるで悪戯をした子供のように笑みを浮かべるナーシャ。

 

 彼女の準備というのに心当たりがあった名瀬は呆れながらも笑みを作った。

 

 「たく、普段のほほんとしてる癖にこういう時は抜け目ないな。……頼めるか?」

 

 「お任せ」

 

 「ただし無茶はするなよ」

 

 「は~い!」

 

 間延びした返事に力が抜けそうになるが、ああ見えてナーシャは頼りになる。

 

 「大丈夫、あの子たちは強いよ。ナーシャも行くなら尚の事心配ないさ」

 

 「ああ」 

 

 ナーシャのお陰で少しは安心したのか、名瀬の緊張感も若干和らいだ。 

 

 しかし未だ続く戦闘に表情は固いまま、視線はモニターに注がれていた。

 

 

 

 

 ドルトコロニーでの騒乱は暴動からモビルスーツ戦へと移行した。

 

 とはいえ実情は虐殺にも等しい一方的なものであり、大半がギャラルホルンのモビルスーツにより、抵抗も出来ずに潰されていくだけ。

 

 そんなある種地獄を体現していた戦場の一画で、ガンダムキマリスを駆るガエリオは予想外の抵抗にあっていた。

 

 「俺の相手はお前達なんかじゃないというのに!」

 

 ガエリオは確かな力を手にしている。

 

 キマリスは整備性や調整に難はあれど思っていた以上に性能が高く、今度こそ鉄華団へ雪辱できると確信している。

 

 故に標的である鉄華団を見つけて戦場に介入したまでは良かったが、邪魔なスピナロディ相手に仕留めきれず、妙な邪魔まで入ってきた。

 

 ガエリオの苛立ちは徐々に募り、焦りは彼の冷静さを奪う。

 

 目標には近づけず、倒せると踏んだ雑魚にさえ手こずる始末だ。

 

 姉であるアレクシアに見られれば失笑ものだろう。

 

 それこそ冗談ではない。

 

 何のために無理やり家の蔵からこんな骨董品を持ち出して、戦場まで出たと思っている。

 

 すべては奴らを倒す為。

 

 こんな所で手間取っている暇はない。

 

 「何者かは知らんが、邪魔をするなら排除するだけだ!」

 

 拡大したモニターにはライフルを構えたゲイレールの姿が映っていた。

 

 先ほどからガエリオの進路を阻んでいる相手は獲物を狙うスナイパーのように動かず銃口だけを向けている。

 

 「余裕のつもりか? だがキマリスを舐めるなよ!」

 

 すでに大破しているスピナロディを無視し、速度を上げてゲイレールへと突っ込んでいく。

 

 凄まじい速度で突撃してくるキマリスに対し、ゲイレールに搭乗しているナインは想像以上の速度に見積もりが甘かった事を痛感していた。

 

 「想像以上に速い。でも事前に把握していたデータよりは遅い。機体の不備か? それでもアレに間合いに飛び込まれるのは面白くないな」

 

 ナインは突っ込んでくるキマリスの軌道を逸らすようにライフルを叩き込む。

 

 発射された砲弾は寸分違わずキマリスに直撃し僅かに機動をずらした。

 

 その隙にナインは間合いを離すと再び残骸の陰に隠れながらキマリスへ銃撃を加える。

 

 「戦い方が単調すぎるよ。だから狙いやすいんだ」

 

 精密な射撃と無駄のない動きに防御に追い込まれたガエリオは手強い相手である事を再認識した。

 

 「やるな。しかし、俺とてやられっ放しではない!!」 

 

 撃ち込まれた砲撃をスピアで弾き、一気に距離を詰める。

 

 射撃の腕前は大したものだが、速度はキマリスの方が圧倒的に上。

 

 「故に間合いを詰めればこちらの勝ちだ!」

 

 「無駄!」

 

 そう、キマリスの動きは予想しやすい。

 

 圧倒的な速度と共に繰り出す長槍の一撃は確かに堅牢な装甲をも砕くだろう。

 

 しかし逆を言えば致命傷を与える攻撃を繰り出す時、必ず直線で攻撃を繰り出してくるという事。

 

 それだけに注意を払っておけば回避は可能だし、キマリスを仕留める事は出来ずとも、足止め自体は難しくない。

 

 「その結果、動きが鈍った時こそ最後だよ」

 

 「ええい!!」

 

 キマリスの軌道を予め把握していたようなタイミングでその場から飛び退き、銃撃を浴びせてくる。 

 

 「いつまでも同じ手が通用すると思うな!」

 

 繰り返される戦法に苛立ちを募らせたガエリオは突進すると見せかけ、肩に装備されたスラッシュディスクを発射する。

 

 射出された円盤がゲイレールの装甲を削り、同時に体勢を大きく崩した。

 

 「ぐっ」

 

 策が嵌り、体勢を崩した敵を前にガエリオはその隙を見逃さない。

 

 長槍を振り抜くとライフルごと敵の肩装甲を貫通させた。          

 

 「コックピットを狙った筈が。咄嗟にライフルを盾にするとはな。その判断力は認めてやる。だが此処までだ!」

 

 「少し見くびっていたみたいだ。でも僕の役目は十分に果たせた」

 

 ナインは傷ついた肩ごと左腕を切り離すとキマリスから距離を取る。

 

 それと入れ替わるように突っ込んできたのはサイラスのグリードだった。 

  

 ライフルによる射撃で動きを止めつつ、ブレードでキマリスを斬りつける。

 

 「新手!?」

 

 今まで様子を窺っていたのか、スラッシュディスクによる投擲も難なく躱されてしまう。

 

 「手品も種が分かればどうってことはない!」

 

 「仲間を盾にして手の内を探らせていたのか!? この卑怯者が!!」

 

 「ハァ? 此処は戦場だ。敵の手の内も知らずに特攻なんて馬鹿のやる事だよ。調べようとするのは当たり前だと思うがね」 

 

 不意を突いた斬撃にガエリオはギリギリ長槍を盾にして防いだ。

 

 しかし攻撃を防いだ事でバランスを大きく崩してしまう。

 

 「もらった!」

 

 距離を詰めたグリードはキマリスに跨る形で頭上を取り、突き付けられた剣がコックピットへ向けられる。

 

 「ッ!?」

 

 「残念だが、終わりだ。セブンスターズのお坊ちゃん!」 

 

 あまりに呆気ない。

 

 想像すらしていなかった終わりの時にガエリオは声も上げられず、振り下ろされる鉄の刃を見つめ、最後の瞬間を迎えるのみ。

 

 「死ね」

 

 しかし刃が振り下ろされそうになった時、何処からか発射された砲撃がグリードのブレードを撃ち砕いた。

 

 「チッ」

 

 そして次弾がグリードを吹き飛ばし、さらに発射された砲弾がゲイレールを引き離す。

 

 「サイラス!」

 

 「ああ。追ってきたか」  

 

 「あの機体は」

 

 サイラスとナイン、そして命を救われたガエリオの視線の先には見慣れぬモビルスーツがライフルを構えていた。  

 

 機体名『シグルドリーヴァ』

 

 細部こそグレイズと似た部分はあるものの、全体的に鋭利な形状に面影は少ない。

 

 全身を包む青い装甲に両腕に携えたブレード、背中と腰、脚部には高出力スラスターユニットを装備している。

 

 この機体こそマクギリスの駆る新たな刃の姿だった。

 

 「無事か、ガエリオ」

 

 「マクギリス、どうして!?」

 

 「話は後だ。彼らの相手は私に任せて、お前はアイン達と合流しろ」

 

 「くっ、借りを返したいところだが先約がある。此処は任せた。それから奴は手強いぞ、気を付けろ」

 

 心底悔しそうに唇を噛むガエリオ。

 

 どうやら旧型の機体に撃墜されかけた事は屈辱的だったらしい。

 

 それともあのパイロット自体が気に入らないのか。

 

 なんにせよ手強い相手であるという彼の助言に従いキマリスを追わせないよう進路を塞ぎ、ライフルを突きつける。

 

 「わざわざ追ってくるとは」

 

 「お前達には聞きたい事がある。逃がしはしない」

 

 「そりゃ怖いな。けどお前さんと遊んでいる暇はないんでな!」 

 

 問答無用。

 

 早々に会話を打ち切ったサイラスは即座にライフルのトリガーを引く。

 

 急所を狙った正確な射撃をシグルドリーヴァは背中のスラスターを吹かして回避、お返しとばかりに撃ち返した。

 

 「チッ、機体制御のみならず射撃も上手いな!」

 

 「なら僕が!」

 

 傷ついた機体でありながらナインの動きに淀みはない。

 

 ナインはまだ十分に戦闘は可能だった。

 

 ガエリオは勘違いしていたが、サイラスがナインだけを戦わせていたのは別に彼を盾にしていた訳ではない。

 

 その技量を信じていたから。

 

 幼い頃から鍛え上げてきた腕前なら死ぬことはないと確信していたからである。

 

 それを証明するかのように素早くシグルドリーヴァの死角を突き、残った右腕で構えたブレードで斬りつける。 

 

 だが死角を突いた攻撃にも関わらず、剣はシグルドリーヴァが展開したヴァルキュリアブレードによって阻まれていた。 

  

 「反応が速い!?」

 

 「そちらのやり方が読みやすいだけだ」 

 

 二機のモビルスーツが剣を交えて睨みあう。

 

 そして次の瞬間、ゲイレールの剣を押し込み弾いたシグルドリーヴァの斬撃が残った腕を裂き、さらに振るった一撃が両足を破壊した。

 

 「な!?」

 

 まさに一瞬の早業だ。

 

 避ける間もなくナインは戦闘不能に追い込まれてしまった。

 

 しかしそれで終わる程、ナインは容易くはない。

 

 サイドスカートから射出した手榴弾を起爆させ、シグルドリーヴァ諸共に吹き飛ばした。

 

 「ッ、モビルスーツの装甲が厚いとはいえ命知らずな」

 

 爆発から身を守りながら爆煙の中から退避する。

 

 しかし息つく間もなくサイラスが背後から迫る。

 

 背中から串刺しにしようと左腕のパイルバンカーを解放した。

 

 「落ちろ!」

 

 「当たりはしない」

 

 シグルドリーヴァは独楽のように回転、鉄杭を紙一重で避ける。

 

 さらに回転し、もう片方のヴァルキュリアブレードを叩きつけた。

 

 回転を加えた変則的な攻撃がグリードの頭部を傷つけ、さらに連続で打ち込まれる斬撃に大きく体勢を崩されてしまう。

 

 「受けに回れば押し切られるか。ならば!」

 

 グリードは後退しながら破壊されたモビルスーツの残骸を掴むとシグルドリーヴァへと投げつける。    

 

 当然の事ながらその程度でシグルドリーヴァは止まらない。

 

 残骸のモビルスーツをあっさり排除して、再びグリードへ斬りかかってきた。

 

 しかしサイラスにとってはそれで十分。

 

 「動きは鈍った!」

 

 投擲された残骸によってシグルドリーヴァは勢いを削がれた。

 

 これ以上マクギリスのペースに乗せられぬ為、あえて前に出たグリードは剣を叩きつける。

 

 「受けに回るのは性に合わないんでね!」

 

 シグルドリーヴァに先手を取らせまいと繰り出されるのは怒涛の猛連撃。

 

 普通のパイロットであれば初撃で決着がついているだろう攻撃を紙一重で捌いていくマクギリスはやはり並みではない。

 

 「チィ、パイロットとしての腕だけでなく機体性能も高いとはな!」 

 

 「そちらこそカスタム機とはいえゲイレールでよくやる」

 

 移動しながら激しい剣戟を繰り返す二機。

 

 一流のパイロットたちの攻防は徐々に誰も近寄れない領域になっていった。

 

 

 

 

 

 

 キマリスの注意が逸れた隙にその場からの離脱に成功したハルはアスベエルを運んできたクランクと合流していた。

 

 「ハル、無事か?」

 

 「ああ。この状態で此処まで来れた事が奇跡みたいなものだけど」   

 

 乗り捨てたスピナロディはそれは酷い状態だった。

 

 スクラップと表現する他ない程に損傷し、戦闘どころか移動すらままならない程に壊れていた。 

 

 それでも役目は十分に果たしてくれた。

 

 イサリビから注意を引き、キマリスの攻勢を受けながらもハルを守り、アスベエルの元まで運んだだけでも僥倖である。 

 

 「ありがとな」

 

 僅かな間手足となって働いてくれた機体に別れを告げ、アスベエルのコックピットへ滑り込む。

 

 素早く準備を整えながら、クランクの状況説明に耳を傾けた。

 

 「イサリビは敵の攻撃を凌ぎながら、アレの準備を進めている」

 

 「……これも全部あの仮面の狙い通りなのか?」

 

 「何?」

 

 「いや、お嬢様の準備が整うまでイサリビに張り付く敵はすべて撃退する。おっさんはイサリビの直掩についてくれ」

 

 「了解した」

 

 クタンから大剣を取り、滑空砲を背に装備すると勢いよく戦場へと躍り出た。

 

 戦場は相変わらずギャラルホルンによる一方的な狩場に相違なく、それが否応にも昔の記憶を刺激する。

 

 「くそ、こんな時に昔を思い出すな!」

 

 無抵抗のスピナロディを襲おうとしているグレイズを大剣で叩き潰す。

 

 さらに潰した敵を踏み台に加速するともう一機のグレイズに突きを放った。

 

 「速い!?」

 

 握る斧で受けようとするが遅い。  

 

 大剣の重厚な一撃を受けきれず、突き刺さった大剣によりコックピットを潰されたグレイズは全身を弛緩させ、動かなくなった。

 

 「想像以上に数が多いな。それに練度も高い」

 

 「彼らは月外縁軌道統合艦隊アリアンロッド所属のモビルスーツ部隊だ。これまで相対してきた連中とは訳が違う」

 

 月外縁軌道統合艦隊アリアンロッド。

 

 月の公転軌道外を管轄とする大規模艦隊で、その艦隊規模はギャラルホルンの中でも最大級。   

 

 地球に敵対する勢力の地球圏侵攻を阻止する為の部隊であり、非常に強力らしい。

 

 「なるほど」

 

 「正面切って戦うなど自殺行為だ。イサリビ単艦で戦うには規模が違いすぎる」

 

 「分かってる。俺達の役目は時間稼ぎだ」

 

 クーデリアが了承したとはいえあの仮面の策に従うのは癪だ。

 

 だが今、他に打開策がないのも事実。

 

 それがまた上手く乗せられたような気がして気持ちが悪かった。

 

 「愚痴っても仕方ない。イサリビ防衛に……ん、エイハブウェーブの反応? この速度はあのガンダム・フレームか!」

 

 イサリビに一直線に向かって来ているのは先ほどまで交戦していたキマリスに違いない。

 

 しかし意外な事にアスベエルの内に該当するデータは存在しなかった。

 

 てっきりバルバトスやグシオンの時を同じくデータが表示されると思っていたのだが。

 

 「どうでもいいか。それよりも問題はさっきまで居なかった機体が援護についている事か」

 

 キマリスの傍には二機のモビルスーツが追随していた。

 

 アリアンロッドのグレイズとは動きが違う。

 

 どうやらキマリスを護衛する為に出てきた機体らしい。

 

 「だがこっちもさっきまでとは違う。イサリビには手を出させない! おっさんは先に戻ってイサリビの支援を頼む」

 

 「了解した!」

 

 先行するクタンとは別方向へ進路を取り直進してくるキマリスを迎え撃つように加速するアスベエル。

 

 計算通りに彼らの進路を阻む形で出くわす事に成功すると大剣をキマリスへと振りかぶる。

 

 瞬間、素早くシュヴァルべグレイズが割り込んできた。  

 

 「やらせるか!」

 

 「こいつ!」

 

 「白黒、貴様だけはこの手で!!」 

 

 損傷覚悟で大剣を受け流し、ライフルを撃ち込んでくる機体には見覚えがあった。

 

 エイハブウェーブの反応といい、機体の色といい間違いない。

 

 火星衛星軌道で戦った機体だ。

 

 そしてもう一機。

 

 通常のグレイズを改修した機体のようだが、こいつも火星で遭遇した一機に違いない。

 

 仮に火星から鉄華団を追ってきたのだとすれば、そのしつこさに呆れすら覚えてしまう。 

 

 「お前の相手は俺達なんだよ!!」 

      

 「チッ」

 

 改修されているからかその速度はシュヴァルべにも劣らない。

 

 何度も逃げるアスベエルに対して両手から斧の一撃を叩き込んでくる。

 

 一撃一撃が重く鋭い。

 

 火星からアスベエルを打倒する為に積んできた訓練がここにきて見事結実していた。

 

 「ハァァァァ!」

 

 「クランク二尉の仇を!」

 

 シュヴァルべグレイズとグレイズカスタムと呼ぶべき機体による一糸乱れぬ連携はアスベエルが攻勢に出るのを許さない。 

 

 その間にキマリスはイサリビを守っていたバルバトスの方へと進路を取る。

 

 結果、イサリビに対する守りが薄くなってしまった。

 

 そこを狙い、ここぞとばかりに敵モビルスーツが群がってくる。

 

 流石に戦闘用ではないクタンだけでは凌ぎきれなくなるのは明白だった。

 

 「イサリビ!?」

 

 「余所見してんじゃねーよ!」

 

 「この!」

 

 鬱陶しく張り付いてくるグレイズカスタムを押しのけようと大剣を横薙ぎに振り払う。

 

 だがそんなアスベエルの行動を阻害するようにアインのシュヴァルべグレイズが射出したワイヤークローで腕を掴み、邪魔をしてくる。

 

 その間にもイサリビの周りに群がるモビルスーツが止めを刺すべくライフルを構えた。

 

 「くっ」

 

 「行かせるものかよ!」

 

 「今までの報いを受けろ!」 

 

 誰もがイサリビに砲撃が撃ち込まれるのを覚悟した瞬間、砲弾から守るように一つの影が割って入った。

 

 砲撃によって発生した爆煙の中から姿を見せたのは大きなシールドを構え、褐色の装甲を持ったモビルスーツだった。

 

 「何だ!?」

 

 「あの機体は?」

 

 頭部の装甲が解放され、素顔を見せたその機体は生まれ変わったガンダム・フレーム。

 

 握ったライフルでグレイズを散らし、振るったアックスでコックピットを叩き潰す。

 

 あまりにらしい戦い方にハルは思わず笑みを浮かべた。

 

 「無事に完成したらしいな、昭弘」

 

 「ああ、これが生まれ変わった、グシオンリベイクだ!」

 

 攻撃を仕掛けていたグレイズはグシオンリベイクの奇襲によって浮足立ってしまう。

 

 その乱れを突くかのようにもう一機、モビルスーツが戦場に舞い降りた。

 

 上方から素早く降りてきたソレはグレイズに組み付き、頭部にライフルを突きつけて破壊。

 

 即座にターゲットを変更し、次の敵を撃破してゆく。

 

 「皆、大丈夫?」

 

 「ナーシャさん!? 何で、というかタービンズは動けない筈じゃ」

 

 「ふふん、だからこそのこの機体『漏影』だよ! 百錬は使えないから、こんなこともあろうかと準備してたの!」

 

 タービンズは鉄華団に対して表立った支援が出来ない。

 

 何故ならタービンズが介入すれば本体であるテイワズがギャラルホルンに弓を引いたと解釈されかねないからだ。

 

 圏外圏ならいざ知らず、影響力の限定された地球圏でそれは上手くない。

 

 そこで百錬の外装を改め、偽装する事で鉄華団を支援しようと用意したのがこの『漏影』という訳だった。

 

 「まあ急ぎだったからね。調整は完璧じゃないんだけど!」

 

 グレイズの背後を取り、バーニアユニットを破壊してあっさり戦闘不能に追い込んだ。

 

 その手際は鮮やかで見事という他はない。

 

 「それは腕でカバーすれば良いだけだよ」

 

 「おいおい、俺だっているんだぜ!!」

 

 敵の攻勢が緩んだ隙にイサリビから出撃してきたのはド派手な色で装甲を染め上げた機体。

 

 百錬のパーツを使用しさらに改修を受けた『グレイズ改弐』

 

 否、その名前は―――

 

 「こいつがシノ様の『流星号』だ!!」

  

 アスベエルとシュヴァルべグレイズの間に割って入り、バトルアックスを叩きつける。

 

 「ハル、コイツの相手は俺がする!」

 

 「シノ!? いけるのか?」

 

 「任せとけ、クランクのおっさんにも訓練は見て貰ってたからな。バッチリだぜ!」

 

 シュヴァルべのライフルを容易く回避する流星号。

 

 その動きは通常の操縦とはかけ離れた、阿頼耶識特有の反応だった。

 

 シノは訓練と合わせヤマギと共にグレイズ改のさらなる改良に努めていた。

 

 その一つがこの機体に阿頼耶識を搭載する事だった。

 

 そして試行錯誤の末、グレイズ改の改良は成功し阿頼耶識による機体制御に成功したのである。

 

 「そんなもの当たらないぜ!」

 

 シュヴァルべを牽制、引き離すように攻撃を加えていくシノ。

 

 その姿にアインとグレイは激しい憤りを覚えていた。

 

 何故ならばエイハブウェーブの反応で流星号の正体を理解したからだ。

 

 「その機体は!  間違いない、クランク二尉のもの!」

 

 「よくも抜け抜けとその機体を使って! 貴様らァァァ!!」

 

 敬愛していた恩人の機体を弄り回した挙句に下品な色で染め上げる。

 

 アインやグレイにとっては恩人を殺した殺人鬼たちが、残った遺体を晒しものにしたも同然。

 

 それは自分達が貰った誇りに泥を塗られたのと同じだ。

 

 宿敵であるアスベエルすらも後回し。

 

 取り戻すべきは恩人の誇りである。

 

 二人の復讐鬼は標的を流星号へと変え一斉に襲い掛かった。

 

 「こいつらは俺に任せろ!」

 

 持ち前の思い切りの良さでシノは果敢に前に出る。

 

 目の前の連中が何故ターゲットを切り替えてきたのかなどどうでもいい。

 

 むしろハルが動きやすくなる分、好都合。

 

 あくまで自分は仲間を守る為に戦うのみだと斧を振るう。  

 

 「お前は三日月の方へ!」

 

 「了解」

 

 イサリビ付近でクランクの乗るクタンと漏影、そしてグシオンリベイクが防衛を。

 

 そこから離れた位置でシノ達がシュヴァルべとグレイズカスタムと交戦している。

 

 さらに別方向でバルバトスがキマリスとの戦闘を繰り広げていた。

 

 「こういう相手とは相性が悪い」

 

 三日月は何度も攻防を繰り返す内にキマリスの能力を正確に把握していた。

 

 汎用性の高いバルバトスではあるが、速度に秀でた高機動型であるキマリスの相手は分が悪い。

 

 反応は出来てもバルバトスがキマリスが速度について行くことが出来ないのだ。

 

 結果、その速度に翻弄されるように三日月は劣勢を強いられていた。

 

 「ガンダム・フレーム、貴様のようなネズミには過ぎたもの! こうしてキマリスの手で葬られる事を光栄に思いながら逝け!!」

 

 突撃と離脱を繰り返し、追い詰めているという確かな手応えを感じながらガエリオは容赦ない攻撃を加えていく。

 

 「止めだ!」

 

 長槍から発射される砲撃がバルバトスへ直撃、体勢を崩した隙に最大加速で止めに入った。

 

 しかし次の瞬間、ガエリオに戦慄が走る。

 

 「何、止めただと!?」

 

 圧倒的に有利な体勢からの一刺しをバルバトスは脇で抱え込むようにして受け止めたのだ。

 

 あり得ない。

 

 対応できない速度だった筈だ。

 

 仮に認識が出来たとしても、紙一重で致命傷を避け同時に脇で抱え込むなど一歩間違えれば確実に死に至る。

 

 そんな綱渡りを平然とやってのけるとは。

 

 「くっ、離せ、この宇宙ネズミが!」

 

 「アンタ、チョコレートの隣の人」

 

 三日月にとってガエリオの存在などその程度の認識。

 

 だが反面鉄華団への借りを返そうと躍起になっていたガエリオにとっては屈辱以外の何物でもない。

 

 「ガエリオ・ボードウィンだ!」

 

 「ガリガリ?」

 

 「貴様、わざとか!」

 

 「どうでもいいよ。どうせ此処で消える名前だ」

 

 すでにキマリスは捉え、三日月の間合いに入っている。

 

 後は振り上げたメイスを敵の急所目掛けて振り下ろすだけ。

 

 だがガエリオの攻勢は終わっていなかった。 

 

 「甘い!」

 

 射出されたスラッシュディスクがバルバトスへ直撃し、脇に抱えた長槍の拘束が緩む。

 

 その隙にバルバトスを力任せに弾き飛ばすと浮遊していた残骸へ激突させた。

 

 「グッ」

 

 「ネズミ相手に大人げなかったかな。許せよ!」

 

 この機は逃せない。

 

 今度こそ止めを刺すべく突撃したキマリスだが、再び邪魔が入った。

 

 攻撃がバルバトスに直撃する寸前に振り下ろされたアスベエルの大剣によって長槍の狙いが逸らされてしまったのだ。

 

 「ッ、やはり出て来たか、もう一機のガンダム・フレーム!」

 

 「無事か?」

 

 「問題ない」

 

 「そうか。時間がない。こいつは二機でやるぞ」 

 

 「分かった」

 

 キマリスの突撃をアスベエルが大剣で防ぎ、別方向からバルバトスの滑空砲の一撃が襲い掛かる。

 

 「ぐぅ、貴様ら」

 

 「アンタの弱点は分かってる。前にも似たような戦法を取る奴と戦った事があるからな」

 

 アスベエルは動きが止まった所を見計らい、懐へ飛び込むと分割した剣を振り下ろした。

 

 上下から振るわれた一撃を避ける事が出来ず、防御に徹するキマリスにバルバトスの砲撃が再び浴びせられた。

 

 「張り付いて離れない!?」

 

 「その機体の一撃は確かに強力だ。でもこうして張り付けばその長い槍の真価は発揮できない」 

 

 キマリスの真価はその機動性を生かした突進力にある。

 

 だが逆を言えば速度さえ出させない状況を作ってやれば、キマリスはその力を十全に発揮する事が出来ないのだ。

 

 「離れろ!」

 

 「嫌だね」

 

 闇雲に振るわれる長槍を軽々と避け、分割剣を下段から振り上げ大きく弾き飛ばした。 

 

 「ぐあああ!!」

 

 「三日月!」

 

 キマリスの吹き飛ばされた先に待ち構えていたのはメイスを片手に振りかぶるバルバトス。

 

 「今度こそ消えろ!」

 

 振りかぶったメイスがキマリスの急所目掛けて投擲された。   

 

 避ける間はない。

 

 無慈悲な鉄塊がガエリオの眼前に迫った時、キマリスを庇うように射線上へアインが突っ込んでくる。

 

 「特務三佐!」

 

 「アイン!?」

 

 「させるものか!」

 

 アインはガエリオを守ろうとその身を盾にするつもりだった。

 

 グレイはガエリオを嫌っているようだがアインは違う。

 

 彼は尊敬できる上官である。

 

 確かに配慮の足りない言動は目立つものの、その心根は他の地球の士官達とは違うと思っていた。

 

 そんな尊敬できる上官を失うという悪夢を再現したくない。

 

 だから命を差し出すような真似であれ、何の躊躇いも無かった。

 

 「アイン!!」

 

 だが覚悟していた衝撃も痛みも襲ってこない。

 

 何故ならアインがガエリオを守ろうとしたように、アインを守ろうとした者が居たからだ。

 

 「グレイ!?」

 

 バルバトスのメイスはグレイのグレイズカスタムによって防がれていた。

 

 当然、咄嗟の出来事だ。

 

 弾き飛ばすといった器用な真似ができる筈もなく、メイスはコックピット付近の装甲を酷くへこませていた。

 

 「グレイ、返事をしてくれ! グレイ!」

 

 「あ、ああ、ア、イン、無事か?」

 

 声からして無事ではあるようだ。

 

 しかしこれ以上の戦闘は無理なのは間違いない。

 

 《特務三佐、限界です。アリアンロッドの本隊が来ます。これ以上はセブンスターズと言えども問題になる!》

 

 「ッ、此処までか。退くぞ、アイン!」

 

 「はい!」

 

 艦長の忠告ともとれる報告を聞いたガエリオは忸怩たる思いを押し殺し、アインと共にグレイを回収すると即座に母艦まで後退していった。

 

 「仕留めきれなかった」 

 

 「今はいいよ。それよりイサリビに戻る。まだまだ敵はいるんだ」

 

 「分ってる」

 

 キマリスの撃退には成功したが、状況は依然として切迫したままだ。

 

 敵の数は増え続け、イサリビを含めた鉄華団の戦力は徐々に疲弊し始めている。 

 

 そんな彼らを追い詰めるようにさらに大物が姿を現す。

 

 眼前には凄まじい数のモビルスーツ。

 

 それは地球外縁軌道艦隊アリアンロッドの本隊である。

 

 視界を埋め尽くすほどのモビルスーツと戦艦が鉄華団を殲滅しようと包囲していた。

 

 「すげぇ数だな」

 

 「逃げてぇ」

 

 「逃がしてくれるもんならね」

 

 合流したシノや昭弘、三日月の軽口を聞き流しながらハルは目の前の状況に歯噛みする。

 

 いくら何でも数が違い過ぎた。

 

 どれだけモビルスーツの性能が優れていようが、阿頼耶識を搭載していようが、この数を前にしては無意味。

 

 これに勝てると思えるほど無知ではない。

 

 どうにかクーデリアだけでも助けたいが、焦りで思考が纏まらない。

 

 「くそ!」

 

 「やるしかねぇだろ」

 

 「だね」

 

 全員が覚悟を決めて動き出そうとした時、その声が響いてきた。

 

 

 『私の名はクーデリア・藍那・バーンスタイン。今、テレビの画面を通して世界の皆さんに呼びかけています。皆さんにお伝えします、宇宙の片隅。ドルトコロニーで起きている事を、そこに生きる人々の真実を』

 

 

 ある意味、此処から始まったともいえる。

 

 

 クーデリア・藍那・バーンスタインによる世界に向けた放送。

 

 

 この日から誰も知らない裏側で蠢いていた影が少しずつ表側へと姿を見せ始める。

 

 

 それは今の世界が生み出した歪みであり、過去から端を発した必然ともいえる。

 

 

 そう、今日という時がきっかけとなり、誰も知らないままにすべてが始まる日となる。

 

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