機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ vivere militare est   作:kia

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第20話 灼熱の激突

 

 

 

 

 

 

 戦闘の熱気が未だに漂う宇宙の海。

 

 ドルトコロニーの事後処理が進む中、ボードウィン家専用艦『スレイプニル』は移動を開始しようとしていた。

 

 目的は無論、鉄華団の追撃である。

 

 例の放送で、ギャラルホルンはドルトコロニーでの戦闘を停止せざる得ない状況へ陥った。

 

 しかしそれはあくまでもドルトコロニーでの話。

 

 地球へ向かう鉄華団に対する追撃を止める理由はない。

 

 むしろ先の行動によって、ギャラルホルンは鉄華団を要注意集団としてマークする事になるだろう。

 

 今の状況であるならば、彼らに攻撃を仕掛けた所で文句を言う者など誰もいまい。

 

 つまり絶好の好機という訳だ。

 

 「グレイ、見ててくれ。仇は必ず取る!」

 

 先の戦闘で自分を庇い、負傷した同僚にそう誓う。

 

 未だ意識を取り戻さないグレイは不幸中の幸いというべきか、命に別状はなかった。

 

 しかし傷は深く当分静養が必要であると判断された。

 

 つまり鉄華団に対して動けるのはアインとガエリオの二人だけという事になる。

 

 「アイン、グレイはどうだ?」

 

 「はい、重傷ではありますが命に別状はないと」

 

 「そうか。機体の方の修復は整備班が急ピッチで進めている。後は奴らの行方だが―――」

 

 「奴らの向かう場所は当然地球でしょう」

 

 「だろうな。だから、ああもう、仕方ないか。出来れば借りを作りたくなかったんだがな」  

 

 口ごもるガエリオというのは珍しく、付き合いの短いアインからしてらしくもないと感じてしまう。

 

 ガエリオは鷹揚な部分もあるが、総じてハッキリした人物である。

 

 好きなものは好きだと言うし、嫌いなものは嫌いと言う。

 

 それがこう躊躇するというのは珍しい光景だった。

 

 「特務三佐?」

 

 「いや、気にするな。分かってると思うが準備は怠るなよ」

 

 「ハッ!」

 

 格納庫へ踵を返すアインの背中を見つめながら、ガエリオは憂鬱な感情を吐き出すようにため息をついた。

 

 それはこれから連絡を入れる相手が苦手というのもあるのだが、主な理由は別にある。

 

 その理由とはアインとグレイの事だった。

 

 アインとの軽い雑談を交えていた時、彼らの事情と戦う理由について意図せず知ってしまったからだ。

 

 彼らが上官の仇を討つ為に戦っている事は知っていた。

 

 しかしそれはあくまでも触りに過ぎなかった。

 

 生まれや育ちによる差別と恩師に与えられた誇り。

 

 それを胸に刻み、生きてきた事。

 

 だがそんな恩師は、情けを踏みにじった鉄華団によって塵のように殺害された。

 

 しかも残された恩師の機体を奪い取り、好き勝手に使われているという事実。

 

 アイン達からすれば許されざる事だろう。

 

 「……俺も見習わなくてはな。それにしても二人から此処まで慕われるとは。出来れば俺も貴方に会ってみたかった、クランク・ゼント」

 

 残した意志は誇りを胸に、この乱れた世界で確かに足跡を刻んでいる。

 

 だから自分もそれに習おう。

 

 「貴方の誇りを取り戻す為に、彼らの宿願を果たすべく手を貸そう。奴らをこの手で葬り、貴方の機体を取り戻し、無念を払う」

 

 誓いを胸に秘め、これから行う憂鬱な交渉に向かうべく歩き出す。

 

 「マクギリスがいれば話が早かったかもしれないが」

 

 これから通信する相手はガエリオにとって旧知の人物だった。

 

 もっと言ってしまうと、幼い頃から知っている幼馴染とでもいうべき間からだった。

 

 それ故、幼い頃のやんちゃを色々と握っているガエリオには強気に出る癖に、同じ幼馴染であるマクギリスには滅法弱い。

 

 理由は察しはしているが、武士の情けであえて触れまい。

 

 とにかくマクギリスが居ると居ないとではずいぶん話の進み具合に差が出来てしまうのだが、先に事後処理を終わらせると言っていたし遅れるのは間違いないだろう。

 

 つまりガエリオが連絡を入れねばならないのは確定している訳だ。

 

 「ハァ、迷っていても仕方ない。さっさと終わらせてしまおう。本命に逃げられてもつまらん」

 

 無理やり切り替えたガエリオは、嫌な事はさっさと終わらせようと足早にブリッジに向かった。

 

 

 

 

   

 ギャラルホルン統制局。

 

 人々がギャラルホルンをイメージして浮かび上がるのは、基本的に彼らの事を指す場合が多い。

 

 その統制局には地球圏を外敵から守るべく、二つの艦隊が存在していた。 

  

 『月外縁軌道統合艦隊』と『地球外縁軌道統制統合艦隊』の二つである。

 

 『月外縁軌道統合艦隊』は先のドルトコロニーで接敵した相手であり、地球に不穏分子を入れない為の強力な部隊だ。

 

 では『地球外縁軌道統制統合艦隊』もそうなのかと言えばそうではない。

 

 地球最終防衛ラインを守る艦隊ではあるものの、月外縁軌道統合艦隊が事前対応に動く為、彼らの出撃した記録はない。

 

 つまり所属している者の大半が実戦未経験者。

 

 主にモビルスーツの式典参加やアクロバットをこなす、お飾り軍隊であるというのが統制局お偉方大半の認識であろう。

 

 故に『地球外縁軌道統制統合艦隊』の司令官であるカルタ・イシューは、今回の件を絶好の機会と捉えていた。

  

 「アリアンロッドが逃がした連中を私達が仕留めれば、普段からお飾りだ何だと馬鹿にしてきた連中も黙らせる事が出来る」 

 

 カルタには此処で功績を上げなければならない理由がある。

 

 イシュ―家はセブンスターズの第一席。

 

 だが今までは実戦に出る機会も無く、功績も碌に上げた事はない。

 

 これではいずれイシュ―家を継いだとしても、再びお飾り扱いされるだけだ。

 

 そんな人間に誰がついてくるだろうか。

 

 再び陰口を叩かれ、統制局の笑い者になるだけである。

 

 カルタの汚名は病で伏せっている父の汚名に繋がるのだ。

 

 それだけは絶対にあってはならない。

 

 「だがそんな屈辱は今日まで。私達の真の実力を証明してやるわ」

 

 自分達に栄光をもたらしてくれる哀れな生贄の姿がモニターに映し出される。

 

 報告通りの単艦、否、もう一隻いるようだが、それがどうした?  

 

 配置した艦艇。

 

 出撃したモビルスーツ。

 

 すべてが突撃艦二隻程度が用意できる戦力を確実に上回っている。

 

 勝敗は決まったようなものだ。

 

 「ガエリオ達は?」

 

 「配置につかれているようです」

 

 「ふん、まあ、出番はないでしょうけどね! 我ら地球外縁軌道統制統合艦隊!」

 

 「面壁九年! 堅牢堅固!」 

 

 「さあ、捻り潰してやるわ!!」

 

 彼らはそうとう訓練を積んできたのか、一糸乱れぬ声と動きでカルタに応えてみせる。

 

 それが信頼の証であると言わんばかりに。

 

 しかし傍から人が見ていたら、さぞおかしな風景にみえるだろう。

 

 何故なら此処は軍隊であり、目の前は戦場なのだ。

 

 軍隊とは思えない、まるで劇団の演劇でも見ているような滑稽さ。

 

 命懸けの戦闘を行うのだという緊張感を全く感じさせない彼らは、まさに素人そのもの。

 

 そんな彼らは当然ながら、戦場の洗礼を嫌という程、味わう事になるのだった。 

 

 

 

 

 

 

 「地球外縁軌道統制統合艦隊などと大仰な名を名乗っていた所で、中身が伴っていなければ、案山子と同じか」

 

 ヴェネルディは心底呆れたように吐き捨てる。

 

 地球外縁軌道統制統合艦隊は、鉄華団の船イサリビと牽引されたもう一隻によって翻弄されていた。

 

 発射したミサイルは悉く避けられ、避けられないものは牽引した戦艦を盾にして防いでいく。

 

 阿頼耶識による変則機動は戦艦とは思えぬ動きをイサリビに取らせている。

 

 マニュアル通りの訓練しかしていない連中にアレの動きを捉え、『本当の目的』を看破する事など出来はしまい。 

 

 確かに物量は地球外縁軌道統制統合艦隊の方が上。

 

 しかし戦術、戦略、戦闘経験。

 

 物量を除くすべてが鉄華団に比べて、哀れな程に劣っていた。

 

 「話にならん。このままならば作戦通りに事が運ぶだろう」 

  

 「しかしボードウィン家の『スレイプニル』を確認しています。彼らも大気圏付近の戦闘は初めての筈、それに再びマクギリスが戦場に現れる可能性もあります」

 

 ドルトの戦場で繰り広げられた攻防。

 

 ナインを戦闘不能に追い込み、サイラスを完璧に抑え込んだ。

 

 マクギリス・ファリドの力量と、彼が駆る新型モビルスーツは確かに警戒すべきなのは明白。

 

 しかし同時にあの機体の性能と素性をヴェネルディは正確に看破していた。

 

 「アレは確かにプロトタイプグレイズだった。あんなものを用意してくるとは。……私の機体を用意しろ」

 

 「自ら出撃されるのですか?」

 

 「私自身、近くで彼らを見てみたい」

 

 この先、鉄華団が世界にどのような波紋をもたらすのか。

 

 そして彼らが自分達にとって如何なる存在になり得るのか。

 

 何よりも彼らの戦いをこの目で直接見ておきたかったのだ。

 

 「君達の奮闘を、そして覚悟を見せてもらおう」  

 

 

 

 

 

  

 地球外縁軌道統制統合艦隊による一斉攻撃が、イサリビを守る盾になっていた船を捉えて撃沈する。

 

 それは盾を失い、攻撃を防ぐ手段を失った事を意味する。

 

 つまりはチョロチョロと逃げ回るネズミを仕留める好機という事。

 

 しかし次の瞬間、戦闘宙域一帯が妙な煙に包まれた。

 

 これはナノミラーチャフと呼ばれるもの。

 

 ナノラミネートアーマーに用いる粉末状の素材を利用したチャフであり、エイハブ・ウェーブの影響下でレーザー通信や光学探知を妨害することができる。

 

 これによって、地球外縁軌道統制統合艦隊はイサリビを見失ってしまう。

 

 しかし彼らは腐っても軍人。

 

 即座にチャフを薙ぎ払う指示を出したカルタ、そして実行した部下達はただの無能ではあるまい。

 

 だが今回は相手が悪すぎた。

 

 チャフにより姿を見失った地球外縁軌道統制統合艦隊の隙を突くように、イサリビは最大戦速でとある場所へと突撃する。

 

 狙いは地球外縁軌道統制統合艦隊の駐屯地グラズヘイム1。

 

 加速がついたままグラズヘイムに激突し、削るように外壁周りを半周して離脱を図った。

 

 まるで車の当て逃げ事故だ。

 

 ぶつかられたグラズヘイムはバランスを崩し、地球への落下軌道に移動してしまう。

 

 もはや地球外縁軌道統制統合艦隊は、鉄華団に構っている暇は無くなった。

 

 放っておけば自分達の本部が地球へと落下してしまうのだから。

 

 そしてこれこそ鉄華団の狙い。

 

 地球外縁軌道統制統合艦隊が味方の救助に向かっている内に地球へ降りるというのが、今回の作戦の狙いだった。

 

 「ありがとな、ユージン! 最高にイカしてたぜ! ビスケット、そっちはどうだ?」

 

 「大丈夫、荷物も問題ないよ」

 

 予想以上に荷物が多く、今回地球に降下するシャトルは二隻となっていた。

 

 派手にユージン達が敵を引き付けてくれたお陰で、準備は整っている。

 

 後は降下するだけだ。

 

 しかし物事というのは思惑通りにはいかないもので、進路を阻むように攻撃を仕掛けてきた者達がいた。

 

 ガンダムキマリスとシュヴァルべグレイズ、ガエリオとアインの二人である。

 

 「よく分かったな、アイン」

 

 「ネズミのやり方は火星から見てきましたので。それもここまで、此処で終わらせる!」 

 

 ライフルをシャトルへ突きつけるシュヴァルべにクタンを装着したシノの流星号が突撃する。

 

 「やらせるかよ、前の決着をつけてやるぜ! おっさん、クタンの制御を頼む!」

 

 「こちらは任せろ、思い切りやれ!」

 

 「その機体を辱めた罪、償ってもらうぞ!!」

 

 ライフルの銃口から火を噴き、クタンの装甲に傷を刻むが、構わず突貫した一撃にアインは歯噛みする。

 

 モビルスーツを上回る推力を持つクタンの体当たりを回避する事が出来ずに、シュヴァルべグレイズは大きく弾き飛ばされてしまう。

 

 その隙に分離したシノがアックスを叩きつけた。

 

 「何度見ても不快なものだ。汚されたその機体を見る度に反吐が出る」

 

 見れば見る程にアインの憎しみは膨れ上がり、殺意も研ぎ澄まされていく。

 

 怒りの沸点はとうに過ぎ去り、もはや感情は氷のように凍てついていた。

 

 感情の籠らない声の不気味さにシノは思わず身震いする。

 

 「お前、一体?」

 

 「貴様らに語るべき言葉はない。此処で全員死ね、それだけが貴様らに出来る唯一の償いだ」

 

 ワイヤークローでライフルを絡めとり、同時にライフルを叩き込む。

 

 「ぐっ、くそ!」

 

 「貴様らさえいなければ。そうだ、貴様らが存在したばかりに」

 

 ワイヤーでさらに動きを鈍らせた流星号に止めを刺すべく、接近したその時、クタンからの砲撃がシュヴァルべに襲い掛かる。

 

 「邪魔だ」

 

 向かってくるクタンへライフルを構えた時、聞こえた声に一瞬、思考が停止した。

 

 「アイン、やめろ!」

 

 「え?」

 

 それはあり得ない声だった。

 

 だってそうだろう。

 

 何故なら彼は死んだ筈だから。

 

 故に幻聴以外の何物でもなく――― 

 

 再び声を発しようとした瞬間、それを吹き飛ばすアインの目に飛び込んできた。

 

 「特務三佐!?」

 

 アインは即座にワイヤーを切り離すと流星号を蹴って加速。

 

 もはや聞こえてきた幻聴の事など忘れ、今の上官の下へと馳せ参じる。 

 

 敬愛する上官を失わない為に。

 

 「……アイン」

 

 去っていくシュヴァルべを見つめ、クランクは拳を握りしめた。

 

 シュヴァルべと対峙した時、まさかとは思った。

 

 火星にいる筈の部下が地球にいる訳はないと。

 

 しかし技量が向上していようともかつての部下だ。

 

 戦い方を見ていれば分かってしまう。

 

 「助かったぜ、クランクのおっさん」

 

 「……いや、無事か?」

 

 「おう。敵は行っちまったし、俺らもシャトルと合流しようぜ。置いていかれちまう」

 

 「……了解した」

 

 シノの言う通り。

 

 此処は大気圏の程近く。

 

 これ以上はリスクだけが高くなる。

 

 余計な事を考えている余裕はない。

 

 クランクは一度だけシュヴァルべの去った方を振り返り、すぐに視線を戻すとシャトルの方へ進路を取った。

 

 

 

 

 

 鉄華団の作戦は概ね成功していたと言っても過言ではないだろう。

 

 地球外縁軌道統制統合艦隊の機体は、大半がグラズヘイムの救助活動に専念している。

 

 しかし、だからといって鉄華団を見逃すなど言語道断。

 

 カルタがいかにお飾りと揶揄されていようとも、そこまで愚かではない。

 

 故にシャトルに対して部隊が派遣されてくる事は織り込み済み。

 

 防衛する為の壁として、此処に二体の悪魔が配置されていた。

 

 派手な初陣を飾ったガンダムグシオンリベイクと、ガンダムアスベエルである。

 

 改修を受けたアスベエルの両肩には羽根のような板状の装甲を、背中には漏影の物と同型のブースターユニットが装着されている。

 

 この改修により防御力と機動性が大きく向上していた。

   

 「来るぞ、昭弘!」

 

 「ああ、此処から先へは行かせねぇ!!」

 

 グシオンリベイクがグレイズのライフルを破壊し、アスベエルの滑腔砲が陣形を崩す。

 

 さらに突っ込んだアスベエルの大剣が、容赦なくグレイズの腹を抉り斬った。

 

 ハルと昭弘の一糸乱れぬ連携は敵の予想を上回っていたのか、完全に隊を分断し複数の機体を撤退へと追い込んだ。

 

 しかしだから手を緩める事はなく、次々とモビルスーツが戦場へ飛び込んできた。

 

 「数が多いぜ!」

 

 「シャトルは無防備なんだ。抜かせる訳にはいかない!」

 

 たった二機で無数の機体の攻勢を凌いでいる現状は、確かに見事といえる。

 

 しかしそれにも限界はある。

 

 数の差によって生じた穴から抜けた敵が、シャトルの方へ銃口を向ける。

 

 「やらせるかよ!」

 

 ギリギリのタイミングで射線上に割り込んだグシオンのシールドが銃弾を受け止め、アスベエルの一太刀が背中から断ち切った。

 

 「このままじゃジリ貧か!」

 

 「くっ!」  

 

 数というのはそれだけで力だ。

 

 いかに単機が優れていようとも、物量の差を覆すのは容易ではない。

 

 ましてや守るものが背後に控えているなら尚の事。

 

 数の暴力を前にして二人が歯噛みし、再び前に出ようとした瞬間、これまでの劣勢を打ち破るように三機のモビルスーツが舞い降りた。 

 

 それは先の戦闘でナーシャが駆った漏影であった。

 

 漏影は手に持ったヘビークラブで敵の頭を叩き潰し、それを助けようとしたグレイズに取りついたもう一機の漏影が、ライフルを装甲の隙間に突きつけて発射する。

 

 そしてすぐさま次の行動に移る。

 

 撃墜した敵を増援のグレイズにぶつけ、体勢を崩した瞬間に控えていた三機目の漏影がヘビークラブで粉砕していく。

 

 それぞれが状況に応じて武器と配置を変更し、瞬く間にグレイズを戦闘不能にしていく様は圧巻という他ない。

 

 「ごめん、ごめん。準備に手間取っちゃってさ」

 

 「だから事前に準備しておけって言ってたのに!」

 

 「二人共じゃれ合いは後にしな。遅れた分の仕事はするよ」 

 

 増援に駆け付けたのはラフタ、アジー、ナーシャの三人。

 

 相変わらずの高度な連携を駆使し、敵をシャトルに寄せ付けない。

 

 「何でアンタらが」

 

 「ダーリンに頼まれたの!」

 

 「この漏影ならテイワズだってばれないからね。ていうかドルトの騒ぎにも参加したこの機体は鉄華団のものだって思われてるし」

 

 「ま、よろしくね!」

 

 軽口を叩きながらも動きを止めない三機の乱舞によって、グレイズ達はその道行を塞がれていた。

 

 押されていた数も、三機の加勢によって戦況は鉄華団の方へ傾いている。

 

 無論、敵がこれで終わる筈もない。

 

 必ず増援が来る。

 

 それを裏付けるように、地球外縁軌道統制統合艦隊に配備された機体と、そして雪辱を誓う少女の刃が戦場へ到着しようとしていた。

 

 

 

 

 

 シャトルを守る攻防が繰り広げられていたのと同時刻、ガンダムキマリスはバルバトスへ攻撃を仕掛けていた。 

 

 「余計な邪魔が入る前に決着を付けさせてもらうぞ!」

 

 今度こそという気概と母艦で立てた自身の誓いを守る為、ガエリオは今まで以上の決意を持ってこの戦いに臨んでいた。

 

 先の戦闘以上の速度で突撃してくるキマリスに、三日月は眉を顰める。

 

 「前より格段に速い。背中のブースターか」

 

 キマリスの背中には以前の戦闘では見なかった装備が装着されていた。

 

 以前にも増して速度を上げた事を考えると、機動性強化のブースターユニットといった所だろう。

 

 「貴様を倒す為に用意したものだ! 有難く思いながら逝けェェ!!」

 

 「俺もアンタの為に用意したものならある」

 

 「何!?」

 

 直線で突っ込むキマリスを正面から受け止めるバルバトス。

 

 長槍が胸部装甲に突き刺さり、ガエリオは勝ちを確信した。

 

 だがそれはすぐに驚愕へと変化する。

 

 「リアクティブアーマーだと!?」

 

 槍が突き刺さって穿たれた鎧は即座にパージされ、バルバトス本来の装甲が顔を出す。

 

 そして槍の先端は呆気なく掴まれてしまった。

 

 「アンタの攻撃をこっちは何度も見せられてるんだ。対策くらい考えるさ……おやっさんがだけど」

 

 「くっ、離せ!」

 

 「分かった!」

 

 長槍を奪い取ったバルバトスはメイスを振り上げ、ブースターユニットを破壊する。

 

 「くそ、宇宙ネズミがァ!!」

 

 「これで―――ッ!?」

 

 キマリスに止めを差そうとメイスを再び振り上げたバルバトスに急速接近してくる機体があった。

 

 重装甲に包まれながらもキマリスにも劣らない速度。

 

 それはブルワーズとの戦いでも介入してきた異端のモビルスーツ。 

 

 「アイツは!?」

 

 「見つけた!」

 

 グレイズノイジー・ハイブースターは速度を緩める事無くバルバトスへ突撃する。

 

 速度の乗ったノイジーは弾丸と化してバルバトスに激突。

 

 二機は絡み合うように大気圏の底へと落ちていく。

 

 しかしガエリオが安堵する暇も無く、下方から接近してきたアスベエルが襲い掛かった。

 

 「また貴様は邪魔を!」

 

 「何度でも邪魔をさせてもらう」 

  

 失った槍の代わりに抜いたコンバットナイフで応戦したキマリスだったが、バルバトスとの戦闘により、その動きはいつもよりも鈍い。

 

 振るったナイフはアスベエルを捉える事は出来ず、逆に大剣の一撃がキマリスの装甲を斬り潰した。

 

 「ぐっ、俺には誇りがある!」

 

 「興味ないよ、アンタの事なんて。それにアンタのソレは誇りじゃなくて、驕りの間違いだろ」

 

 「貴様ァァ!」

 

 怒りに任せた一撃を、分割させて逆手に持った剣で弾き飛ばす。

 

 そして体勢を崩したキマリスの頭部に拳を思い切り叩き込んだ。

 

 「ッ!?」

 

 「熱くなりすぎだよ」

 

 仰け反るキマリスの懐がガラ空きだ。

 

 その隙を見逃さず、ハルは分割剣をキマリスのコックピット目がけて投擲する。

 

 体勢を崩すガエリオにそれを躱す余裕は無い。

 

 眼前に迫る凶器。

 

 だがその時、割り込んできたシュヴァルべが盾となり、キマリスの代わりに串刺しとなった。

 

 「グァァァァァ!!」

 

 「アイン!!」 

 

 分割剣はシュヴァルべの腹部に深々と突き刺さり、その損傷はコックピットにすら達していた。

 

 「アイン、返事をしろ! 何故、俺を―――」

 

 「あ、なたは、誇りを、失った俺に、もう一度立ち上がる、足をくれた。見捨てる事、などできない」

   

 「アイン!!」

 

 キマリスはアスベエルに見向きもせず、シュヴァルべを抱えて後退していく。

 

 しかしハルにそれを追撃する余裕はなかった。

 

 再びシャトルを狙った増援が接近してきたからだ。

 

 「アレがグレイズリッターか」

 

 グレイズリッターとは、地球外縁軌道統制統合艦隊に配備する目的で開発された機体。

 

 グレイズよりも高機動用として調整されており、肩部装甲など通常のグレイズとは異なる特徴を備えている。

 

 「チッ、次から次へと」

 

 滑腔砲を構え、群がるグレイズリッターを狙撃する。

 

 発射された砲撃が敵に直撃するも、一切怯まず向かってきた。

 

 「訓練通りの動きしかしない上に、命知らずかよ。まともに付き合ってられない」

 

 無理に撃墜するのではなく、シャトルから引き離すべく、牽制に戦法を切り替えた。

 

 すでに地球の重力に引かれている為、これで十分に動きを阻害出来る。

 

 一人、防波堤のように敵の攻撃を防いでいたハルの前に予想外の乱入者が現れた。

 

 紅い装甲のモビルスーツ。 

 

 上方からグレイズリッターを狙撃し、両腕のブレードを展開すると敵を切り刻んでいく。

 

 機体の機動性もさることながら、卓越しているのは操縦技術だ。

 

 敵の攻撃を的確に捌き、隙を決して見逃さずに攻撃を叩き込む。

 

 普通のパイロットとは一線を画している事は一目瞭然だった。

 

 「余計なお世話だったかな」

 

 「お前は……ヴェネルディ。その機体は」

 

 「グリムゲルデ。ヴァルキュリアフレームの一つだ。それより次が来るぞ」

 

 「ッ!?」

 

 こっちが辟易していても、敵の攻勢は緩まない。

 

 再びこちらに向けて攻撃を仕掛けてくる。

 

 「アレらは私に任せて君は仲間と合流するといい」

 

 「いいのか?」

 

 「ああ。君らの邪魔はさせない」

 

 ヴェネルディに背中を預ける事に躊躇いがない訳ではなかったが、状況が状況である。

 

 躊躇っている暇はないとその場は任せて、アスベエルはグリムゲルデに背を向けた。

   

 「さて、此処から先は通行止めだ。どうしても通りたければ、代償を支払ってもらう事になる」

 

 決死の覚悟で鉄華団を追ってきたグレイズリッターのパイロット達を待ち受けていたのは理不尽そのもの。

 

 命を懸けて尚、逃れられぬ死の剣舞。 

 

 ヴェネルディとグリムゲルデによる一方的な殺戮だった。  

 

 「うああああ!」

 

 「何だ、コイツは!?」

 

 迷いのない上段からの斬撃が頭部を破壊し、横薙ぎに振るった一撃が腹部を抉る。

 

 振るわれる斬撃は正確無比。

 

 ヴァルキュリアブレードが確実に急所を捉え、グレイズリッターを次から次に両断していく。

 

 避ける事が出来ない。

 

 防御する暇もない。

 

 反撃など夢のまた夢。

 

 相対している者にそう思わせるだけの機動と攻撃を繰り出しながら、ヴェネルディは特に感情も込める事無く戦力評価を口にしていた。

 

 「機体が良くともパイロットがソレでは。実戦経験が皆無では話にならない。実戦は式典やアクロバットとは違うのだからな」

 

 振り上げた剣戟がグレイズリッターの胸部に傷をつけ、さらに振るった一撃がコックピットへ突き刺さる。

 

 「戦場に出た以上、死は覚悟の上の筈。手加減も、容赦もしない」

 

 言葉通り一切の容赦なし。

 

 あまりにも呆気なく潰される味方の姿に、グレイズリッターのパイロット達にも恐怖が湧き上がってくる。

 

 「ちくしょう」

 

 「引く訳にはいかない。此処はカルタ様の空なのだ!」

 

 「ただの案山子かと思いきや、上官の為に命を捨てるか。その覚悟は認める。だがこの場において、お前達の取るべき選択はそれで良かったのか? 生き延び、情報を持ち帰る事も戦いの内だと思うのだが」

 

 「ウオオオ!!」

 

 「愚か……とは言うまい。決死の覚悟を抱いて来たというなのらば、それに応えよう」

 

 無謀ともいえる特攻に、無慈悲なヴァルキュリアブレードの一撃がコックピットへと突き刺さる。

 

 残ったのは機体の残骸のみ。

 

 鉄華団を討つ為に集った騎士たちは誰一人、目標に到着する事無く朽ち果てた。 

 

 「これで全部か。……いや、どうやら本命が来たようだな」

 

 グレイズリッターを屠ったグリムゲルデに向けて、一機のモビルスーツが近づいてきた。

 

 マクギリスの駆るシグルドリーヴァである。

 

 介入はあると予測していただけに驚きはない。

 

 大気圏付近の戦闘であると考慮していたのか、一部にドルト戦では見られなかった装甲を身に纏っていた。

 

 「大気圏突入も考慮しているという事か。用意周到だな」

 

 刃を構えた敵を前に、同じくヴァルキュリアブレードを抜いたグリムゲルデが斬りかかる。

 

 踏み込めば誰であろうと斬り裂かれる刃の舞踏。

 

 奇しくも同じくヴァルキュリアフレーム同士の戦いが開始された。

 

 

 

 

 グリムゲルデによってグレイズリッター部隊が抑えられ、追撃の手は大きく緩んだ。

  

 しかし追撃を諦めたのかと言えばそうではない。

 

 此処は自分達の領域であるという地球外縁軌道統制統合艦隊の矜持もあるのだろう。

 

 再び編隊を組んで、鉄華団を追撃せんと灼熱の中へと飛び込もうとしている。

 

 だが遅い。

 

 もはやシャトルとの距離は遠すぎる。

 

 仮に速度を最大に上げたとしても、追いつく頃には地球の重力に引きずられ、離脱する事も敵わなくなるだろう。

 

 つまり今回の戦闘は鉄華団の作戦勝ちである。

 

 だが此処に未だ戦闘を継続している機体があった。

 

 エリヤのグレイズノイジーである。

 

 「しつこい」

 

 「借りを返す、バルバトス」

 

 灼熱に焼かれ、バルバトスとグレイズノイジーは互いに位置を入れ替えながら攻防を繰り返す。

 

 メイスを弾かれたバルバトスは抜いた太刀で応戦するも、地球の重力に引かれ、確実に挙動が鈍っていた。

 

 ハッキリ言って何時もの精彩さがない。

 

 むしろこの状況で此処まで動ける事が脅威ではあるが、それはグレイズノイジーも同じ事だった。

 

 あれだけの重装甲を身に纏いながらも、バルバトスに引けを取らないその動きは同じく脅威的と言って良いだろう。

 

 それはブルワーズとの戦いで得たデータから、さらに改修を加えた成果であった。

 

 装甲も身に纏っていようとも、重力下であろうとも、変わらず動けるようにスラスターやブースターの類を大幅に増設。

 

 さらにエリヤの反応に対応できるように行われた微調整。

 

 グレイズノイジーは此処に来て、より完成度が高まった状態になっていた。

 

 「くっ」

 

 「チッ」

 

 同時に振るった斬撃が互いの装甲を掠め、さらに踏み込んだグレイズノイジーの一撃がバルバトスの腰部に傷を刻む。

 

 「やれる。今日こそ倒せる」

 

 本来であれば阿頼耶識よって生じる反応速度の差が、大気圏という檻の中で上手く相殺されていた。

 

 勝てる。

 

 すべては自分に有利な状況にある。

 

 エリヤは勝利を夢想しながらも油断せず、ひたすら刃を振り続ける。

 

 だが三日月とガンダムバルバトスはそんなエリヤの想像をあっさりと撃ち砕いた。

 

 「いい加減に、邪魔だ!」

 

 あえて腕を振り上げグレイズノイジーの刃を受け、同時に機体を掴んで動きを止めると太刀を装甲の隙間に突き立てた。

 

 「なっ」

 

 肉を切らせて骨を断つ。

 

 一歩間違えば致命傷を負ってしまいかねない極限状況にありながらも、こんな命知らずな行動を取るとは。 

 

 「これで動けないだろ。さっさと潰れろ!」

 

 「何度も何度も、負けるものか!!」

 

 確かに右腕を封じられたが、左腕はまだ動く。

 

 至近距離からライフルを突きつけ、自身のダメージも構わず炸裂させる。

 

 気絶してもおかしくない衝撃が襲い、装甲を傷つけるも二人は互いを離さない。

 

 まるで我慢比べの如く銃撃と剣撃が繰り返され、一歩も引かない中でそれは起きた。

 

 至近距離から発射された銃撃が装甲を撃ち砕き、弾き飛ばした。

 

 

 誰も狙っていた訳ではない。

 

 

 故にそれはもう偶然と言うしかない。

 

 

 弾かれた装甲が飛んで行ったその先には―――降下中のシャトルが居た。

 

 

 例え灼熱の大気圏の中だとしても、ナノラミネートアーマーは燃え尽きない。

 

 

 弾丸と化した装甲は同時に鋭利な刃となり、シャトルへと激突した。

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