機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ vivere militare est   作:kia

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第21話 成果の代償

 

 

 

 

 

 

 

 地球軌道上で起きた地球外縁統制統合艦隊と鉄華団の戦闘は、佳境を迎えていた。

 

 いや、それは正確ではない。

 

 戦闘の決着はもうついている。

 

 鉄華団が地球へ降下し始めた時点で地球外縁統制統合艦隊の敗北は決定していた。

 

 もはや結末は覆らない。

 

 それを悟った者達が動く事も出来ずにただ敵を見送る形になっている中、一条の閃光とも思える機体が戦場を駆け抜けていく。

 

 大気圏突入も考慮し、特殊装甲を装着したマクギリスのシグルドリーヴァであった。

 

 「遅かったようだな。ガエリオは……すでに撤退済みか。グラズヘイムはカルタに任せれば大丈夫だろう」

 

 旧友に声を掛けないのは、少々薄情かとも思ったが、今は非常時。

 

 それに救助活動の妨げになってはそれこそ本末転倒である。

 

 僅かの間に状況を把握し、その場を友へと任せると予定通りに地球へ降下する為、速度を上げる。 

 

 だがそれをさせまいと立ちはだかる者がいた。  

 

 「あれは……」

 

 両腕に刃を携えた紅いモビルスーツ『グリムゲルデ』

 

 シグルドリーヴァは完全なヴァルキュリアフレーム機という訳ではないが、同型機といっても差し支えあるまい。

 

 「敵……手強い相手か」

 

 周辺に撃墜されたグレイズリッターの残骸が漂っている。

 

 急所だけを確実に潰してある手際の良さは、相手の技量を推し量るには十分すぎた。

 

 さらにライフルの精度も正確無比。

 

 シグルドリーヴァの速度を落とさせつつ、進路を阻むように銃撃を撃ち込んできている。

 

 「ッ、前に出させない気か。だが!」

 

 最小限の機動で銃弾を回避したマクギリスは、即座にライフルでの反撃に移った。

 

 ただでさえ不安定な大気圏での戦闘。

 

 これ以上、後手に回るのは避けたかったからだ。 

 

 しかしグリムゲルデは銃弾を腕で弾くと同時に距離を詰め、ヴァルキュリアブレードを振るってくる。

 

 その斬撃は鋭く、確実にシグルドリーヴァの急所を狙ってきていた。

 

 「上手い」

 

 同型機であるが故に、グリムゲルデの扱いの難しさは容易に想像がついた。

 

 それをこうも巧みに操るとは。

 

 咄嗟に機体を捻ってブレードを捌くと、敵の重心を狙ってライフルのトリガーを引く。

 

 ヴァルキュリアフレームの特性は、構造が単純でエネルギー効率に優れているほか、軽量で高い機動力を持っている。

 

 反面軽量故に敵機に大きなダメージを与えることが困難であるため、正確な重心コントロールが必要になる。

 

 つまり完璧に機体を操る高度な操縦技術が無ければ、グリムゲルデの力を引き出す事は出来ないのだ。

 

 とはいえ目論見通りにはいかないのが実戦というもの。

 

 見惚れるような機動で銃撃を避けたグリムゲルデは、絶えずヴァルキュリアブレードによる斬撃を繰り出し続けてくる。

 

 一瞬だろうと気を抜けば、あっという間に死神の刃がマクギリスを穿つだろう。

 

 「強い。機体性能を完全に引き出している」

 

 実戦経験がないとはいえ、グレイズリッターがこうも容易く撃墜されたのも納得の力量だった。

 

 袈裟懸けに振り下ろされた斬撃をシールドで受け、展開したヴァルキュリアブレードを下段から振り上げる。

 

 意図せず組み合う形となった二機のモビルスーツ。

 

 モニター越しに敵の姿を認めながら、ヴェネルディは笑みを浮かべた。

 

 「これを止めるか。その機体、プロトタイプグレイズも含め流石と言わせてもらおう、マクギリス・ファリド。腑抜けた他の連中とは一味も二味も違う」

 

 確かな賞賛の言葉に偽りはない。

 

 素晴らしい機体であると。

 

 大した力量だと。

 

 ヴェネルディは操っている機体を含め、心の底からマクギリスを称えている。

 

 だが同時に警戒感も滲ませていた。

 

 「しかし、君を地球へ行かせる訳にはいかない。いや、言葉を飾っても意味はないな。君は邪魔だ、消えてもらおう」

 

 「そこまで警戒してもらえるとは光栄だな。答えてもらえるとは思えないが、質問したい。その機体といい、その技量といい、何者だ?」

 

 「私は何者でもない。ただの実行者さ」

 

 グリムゲルデの力強い一撃。

 

 盾で防ぐも、吹き飛ばされたシグルドリーヴァに追い打ちを掛ける、さらに次の一撃が繰り出される。

 

 それを捌いても、すぐに次が。

 

 さらに防いだ所で再び次が。 

 

 身を縛る重力の檻さえ、関係ないとばかりに剣が舞う。

 

 「私の事などよりも、君は自分の心配をした方が良い」

 

 熱の籠らないヴェネルディの言葉と裏腹に斬撃は苛烈さを増し、シグルドリーヴァに傷を刻んでいく。

 

 このままでは地球降下にも支障をきたす事になる。

 

 「ッ、生憎時間をかけてはいられなくてな」

 

 「なるほど。お父上の動向が気になるか」

 

 「貴様……何者だ?」 

 

 「何度も同じことを言わせないでもらいたい。私はただの実行者で、他の何物でもないとも」

 

 「答えになっていない!」

 

 絶え間なく繰り出される刃の舞を潜り抜け、グリムゲルデの胴体目掛けて振るったブレードが寸前の処で阻まれる。   

  

 「答えないというならそれでいい。これ以上、貴様にかまけている時間はない!」

 

 今、地上では看過出来ない下種の企みが進行中なのだ。 

 

 しかもそれを主導しているのが、イズナリオ・ファリドだというのだから、マクギリスとしては黙っていられない。

 

 「そこをどけ!」

 

 下段から振り上げた一撃で、グリムゲルデの態勢を崩す。

 

 そして同時に、近くに漂っていたグレイズリッターの残骸から剣を奪うと、グリムゲルデに投擲した。

 

 「なるほど。だがそれでは温いぞ、マクギリス」

 

 当然の事ながら、そんなものヴェネルディには通用しない。

 

 飛んできた刃ごと両断する。

 

 だがマクギリスの狙いは損傷を与える事ではなかった。

 

 シグルドリーヴァのライフルが捉えていたものは、剣と同時にグレイズリッターから奪い、投擲したマガジンだ。    

 

 撃ち抜かれたマガジンはヴェネルディの不意を突く形で炸裂し、僅かにグリムゲルデの視界を奪い去る。

 

 その一瞬の間こそがマクギリスの狙いだった。

 

 一足飛びに踏み込んだシグルドリーヴァの一太刀が、グリムゲルデの盾に直撃、塞いでいた進路に無理やり風穴を開けた。

 

 それを見逃さず飛び込むと、地球へ向けて灼熱の空間へと身を躍らせた。

 

 「仕留めるつもりが、逆に突破されるとはな。まだ私も未熟という事か」

 

 ヴェネルディはどこか嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

 まだ成長できるのだと、そう悟って彼は心の底から喜んでいた。

 

 そしてもう一つ。

 

 「油断したつもりはなかったが、素晴らしい、マクギリス・ファリド」

 

 マクギリスを認め、そして自分の至らなさを反省する。 

 

 だが同時にそれはこうも意味していた。

 

 次はこうはいかないと。

 

 必ず自分はより上へ行くと。

 

 それはヴェネルディの宣誓であり、実行するべき命題となった。

 

 「この教訓、骨身に刻ませてもらおう」

 

 大気圏を突き進む青き機体の後ろ姿を見送りながら、ヴェネルディは背を向けた。    

 

 

 

 

 

 

 その光景を見ていた誰もが愕然と言葉を発する事すら出来ない。

 

 誰が想像するだろうか?

 

 敵の攻撃によって被弾するならまだしも、破壊された装甲が降下中のシャトルへと激突するなどと。

 

 灼熱の戦場にいたほぼ全員が沈黙する中、最も早く動いたのは当事者の二人だった。

 

 「お前、何をやっている!」

 

 「狙った訳じゃない。けど、落とす手間は省けた」

 

 モビルスーツ越しだろうが感じ取れる確かな怒気と殺気。

 

 常人なら震え上がってしまうだろうが、生憎エリヤにはそんなものは通用しない。 

 

 「敵を討つのは当たり前でしょ。そっちだって散々殺してきた癖に」

 

 それは正論だ。

 

 だからこそ三日月は何も言わずに、殺気を乗せて太刀を急所に振り下ろす。

 

 重力に引かれているのをまるで考慮していない。

 

 まるで荒々しい獣のようにグレイズノイジーに喰らいつく。

 

 「ッ、この!」

 

 バルバトスの猛攻に晒されながら、エリヤも振り下ろされた太刀をあえて右手で掴み、カウンターで左拳を叩き込む。

 

 拳の一撃が右腰部に装着されていたフライトユニットを破壊し、バルバトスの体勢を崩した。

 

 「もらった!」

 

 エリヤは持ち直したライフルの銃口を、バルバトスのコックピットへと突きつける。

 

 いかにナノラミネートアーマーであろうと、至近距離からライフルの一撃を受ければ損傷は免れない。

 

 それを三日月も分かっているから、ライフルを逸らそうと足を振り上げるようとするが、此処はエリヤの方が一枚上手だった。 

 

 予め読んでいたとばかりにグレイズノイジーもまた足を上げて、蹴りを防いだのだ。

 

 「お前!」

 

 「こうして何度も戦えば、相手の動きの癖くらいは読めるようになる」 

 

 三日月・オーガスは紛れもなく一流の戦闘センスを持っている。

 

 天才と言っても過言ではないだろう。

 

 だが、こと才能だけでいうのならエリヤも負けていなかった。 

 

 後はライフルのトリガーを引けば決着がつく。

 

 「これで止め―――何!?」

 

 エリヤはこの一瞬の攻防に限った話、三日月を上回った。

 

 機体性能も引き出し、不慮の状況も活かした上でバルバトスを仕留める好機を得たのだ。

 

 しかし彼女には一つ落ち度があった。

 

 それはもう一機、彼女に汚点を刻んだ存在を失念していた事。

 

 突き付けたライフルのトリガーを引こうとした瞬間、上方から降下してきたアスベエルがグレイズノイジーの腕を叩き切った。   

 

 「きゃあああ!?」

 

 そして踏み台にするようにグレイズノイジーを蹴り落とし、バルバトスを掴んでシャトルの方へ上昇する。

 

 「くっ、シャトルへ近づけない! 三日月!」

 

 「こっちも出力が上がらない。アイツにフライトユニットを破壊されたのが不味かった」 

 

 「仕方ない。このまま降下する」

 

 一応、万が一の場合の備えも考えていた。

 

 それがアスベエルの肩に装着していた板状の装甲である。

 

 コンソールを操作し、機体前面に移動させ、排熱システムを起動させた。

 

 「使い捨てとはいえ万が一に備えておいて良かった。三日月、後ろに回れ」

 

 アスベエルの背にバルバトスが乗ったのを確認すると、バランスを崩さないように機体挙動に気を配る。

 

 後はこのまま無事に降りられるのを祈るしかない。

 

 一度だけもう姿が見えなくなったシャトルの方へ視線を向ける。

 

 その先に青い光が見えたような気がした。

 

 

 

 

 

 地球へ降下していた鉄華団のシャトルは二隻。

 

 無慈悲な刃と化した装甲が直撃したのはオルガ達の機体ではなく、ビスケット達が乗っていたシャトルだった。

 

 「ビスケット!?」

 

 地球降下用のシャトルだけあって普通の機体よりは頑丈に出来ているが、今回は直撃した場所が悪かった。

 

 左翼が傷つき、ブースターの一部が損傷してしまったのだ。

 

 ブースターから火を噴き、シャトルはバランスを崩して予定のコースからどんどん外れていく。

 

 「ブースターを切り離せ!!」

 

 オルガの叫びが通じたのか、ビスケットのシャトルはブースターの切り離しに成功する。

 

 しかしそれはギリギリのタイミングだった。

 

 だから発生した爆風を受けたシャトルはさらにバランスを崩し、灼熱の中を突き進んでいく。

 

 「どうにか出来ないんですか?」

 

 アトラの問いにオルガは何も言えない。

 

 それが答え。

 

 現状、オルガ達のシャトルもまた地球降下している最中。   

 

 助けたくとも無理やり進路を変えてしまえば、このシャトルも巻き込まれてしまう。 

 

 「くそ!」

 

 もはや打つ手はない。

 

 大気圏を抜けたとしてもバランスを崩している今、着陸する事が出来ない。

 

 そのまま―――

 

 固く拳を握りしめ、何もできない無力感に苛まれていると、途切れ途切れの声が聞こえてきた。

 

 《……ルガ。……オルガ!》

 

 「ビスケット!」 

 

 何か言おうとして、言葉が詰まる。

 

 早く脱出しろ?

 

 そんな事は無理だ。

 

 それとも妹たちへの伝言?

 

 頭で現実を理解していても、気持ちがそれを拒む。

 

 結局、何を言えば良いのか分からず、言葉が出てこなかった。

 

 《……ルガ! 大、丈夫……必ず……追いつく……から!》

 

 彼の口から発せられたのは遺言でも恨み言でもない。

 

 諦めないという決意。

 

 そしてオルガに対する気遣いだった。

 

 《進む……だけじゃなくて……どんな……慎重に……皆を頼って!》

 

 「ビスケット、お前」

 

 《俺達の……家を……守る……!》

 

 ビスケットはまだ諦めていない。

 

 最後まで足掻くつもりなのだ。

 

 ならば鉄華団の団長として、オルガの答えは決まっていた。

 

 「分ってる。鉄華団は俺らの家で居場所だ。オレが守る、だから―――」

 

 必ず戻って来い。

 

 そう告げようとした瞬間、通信は途切れ、そしてシャトルの姿は灼熱の中で見えなくなっていった。

 

 

◇     

 

 

 鉄華団の船イサリビの突貫により、後一歩で地球へのダイブを敢行しそうになったグラズヘイム1。

 

 だが地球外縁軌道統制統合艦隊の救助によって、グラズヘイムはようやく落ち着きを取り戻そうとしていた。

 

 戦闘は終息。

 

 グラズヘイムを含む被害は多いものの、司令官カルタ・イシューを含む艦隊指揮官たちはほぼ全員が無事。

 

 部隊の再編成も、そう難しいものではない。

 

 しかし当然ながら、カルタはそれを喜ぶ気になどなれなかった。

 

 彼女の胸の内にあるのは屈辱の一文字。  

 

 自分の顔に泥を塗った鉄華団に対する怒りだけが、沸々と湧き上がってきている。

 

 「このままで済むとは思っていないでしょうね、ネズミ共!」

 

 部隊の再編制が済み次第、追撃をかける。

 

 多少遅れを取ったことは認めよう。

 

 だが、奴らとて消耗している筈。

 

 ならば今こそが好機。 

 

 「今度こそ―――」

 

 《今度こそ、何だと?》

 

 突然開いた通信に、怒りで沸騰していたカルタの感情が恐怖に差し変わる。

 

 《ずいぶんな有様のようだな、カルタ・イシュー一佐》

 

 「ア、アレクシア・ボードウィン特務一佐」

 

 普段、セブンスターズの一員として振る舞う事を心がけているカルタといえども、体裁が保てない程に苦手な人間はいる。

 

 アレクシアはその筆頭とも言っていい存在だった。

 

 厳しくも部下に慕われ、結果を常に叩き出し、『氷の女帝』と呼ばれるアレクシアはギャラルホルンに所属する女性の憧れである。

 

 それはカルタも例外ではなく、自分も彼女のようになりたいと思っている。

 

 しかし反面幼い頃からの付き合いで躾を受け、常にアレクシアの厳しい目にさらされてきたカルタには畏怖の対象でもあった。 

 

 《仔細な報告はすでにグラズヘイム1から受けている。事後処理は部下に任せて、貴様は私と一緒に地球へ来てもらうぞ》

 

 「お、お待ちください、私は―――」

 

 敵の追撃を仕掛けたいというカルタの言葉は、アレクシアの冷たい視線によって阻まれてしまった。

 

 《黙れ。貴様の発言、釈明はヴィーンゴールヴで聞かせてもらう。それ以外は認めない。それとも、まさかとは思うが……指示を無視して追撃しようなどと愚かな事は考えていないよな?》   

 

 「も、勿論です」

 

 《なら私が行くまでそこから一歩も動くな。これは命令だ》

 

 通信が切られ、沈黙する指令室。

 

 「カルタ様」

 

 「……追撃は中止よ。各員に通達なさい」

 

 「了解しました」

 

 カルタは追撃する気力すら奪われ、ただ椅子に座り込むしかなかった。

 

 

◇  

 

 

 ボードウィン家専用艦『スレイプニル』に無事に帰還したガエリオは、喜ぶ間もなく医務室に駆け込んでいた。

 

 乗機を破壊され、押し潰されたアインは重症。

 

 生きているだけでも奇跡といえる。

 

 だが無事だったのかと言われれば、そうではない。 

 

 一刻も早くアインの安否を確認しなくてはならない。

 

 彼は自分を助けてくれた。

 

 自分を庇ってこんな目にあっているのだ。

 

 何があろうとも絶対に助けなければならない。 

 

 しかしそんなガエリオの思いは届かず、故に担当医の話胸ぐらを掴み上げていた。

 

 「どういう事だ!」

 

 「ですから報告した通りです。延命の為には機械的な処置が必要になります」

 

 アインの負傷はそれだけ深刻なものだった。

 

 地球にある最先端の再生医療をもってしても、助けられない重症であると。

 

 「あらゆる手は尽くしました。しかし臓器の大半は機能不全に陥り、体の壊死も始まっています」

 

 「ふざけるな! アインを人間以外の化け物にしろと言うのか!」 

 

 地球圏において、阿頼耶識や機械的な義手、義足など、人体に対する改造は忌避されている。

 

 当然ながら、その教育を受けてきたガエリオにとっても、それは受け入れがたいものだった。

 

 例えそれがアインを助ける手段だとしても。

 

 「命令だ。必ずアインを元通りの体に戻せ! 戦士として戦える体に、上官の仇を討てる体に! いいな―――グッ!」

 

 担当医に掴みかかっていたガエリオの頬に、突然飛んできた拳が突き刺さる。

 

 避ける間もなく床に引き倒されたガエリオは、頭上から聞こえたあり得ない声にビクッと身を竦ませた。

 

 「喚くな、見苦しい」 

 

 「あ、姉上!?」

 

 ガエリオを見下ろすように立っていたのは、姉であるアレクシアだった。

 

 相変わらずの冷たい視線に思わずガエリオは息を飲むと同時に妙な安堵を覚えた。

 

 圏外圏の調査に赴こうが、姉は相変わらずなのが見て取れたからだ。

 

 「いきなり殴打とは相変わらずですね、姉上」

 

 「お前が醜態を晒していたから、冷静にならせてやっただけだ。部下の前で取り乱すなど言語道断。指揮官だろう、お前は」

 

 確かに冷静さを失っていたのは事実だ。

 

 だがそれでもやはり認められるものではない。

 

 「姉上、俺はアインを助けたい。だがそれでも機械化など……」

 

 「だからお前は甘いというんだ。そもそもキマリスを勝手に持ち出し、無理やり作戦に介入したお前の驕りが招いた結果だろう」

 

 大気圏で戦ったアスベエルのパイロットに言われたのと同じ言葉に頭が沸騰する。

 

 「俺は驕ってなど!?」

 

 「自覚していないのが驕りだというんだ。相手をネズミだと扱き下ろし、見下しておきながら、驕っていない等と笑わせるな」

 

 「ッ!?」

 

 先の戦闘を含め記録を確認したのだろう。

 

 冷たい指摘に反論もできない。

 

 「負傷した部下の対処はお前が決めろ。それがせめてもの責任だろう」

 

 「分かっているさ。奴は俺を助けてくれた、それだけじゃない。上官の仇を討ちたいというアイツの気持ちに応えたい。だが!」

 

 人体に手を加える事に未だ難色を示すガエリオに、アレクシアは呆れたようにため息をつく。

 

 「一つ聞いてやる。ガエリオ、仮にお前の部下に機械的な処置を施したら、それはもうお前が助けたいと願った部下では無くなるのか?」

 

 「それは……だが、それでは化け物に」

 

 「機械化を施されようが本質は変わらん。重要なのは常識や理屈ではなく、お前がどうしたいかではないのか? ……決断するのも、責任を取るのもお前だ、精々悩め。私はカルタを連れて地球へ降りる。キマリスも回収させてもらうぞ」

 

 「えっ、ま、待ってくれ、姉上! 俺は―――」

 

 ガエリオの叫びを無視し、アレクシアはさっさと格納庫へ降りて行く。

 

 追い縋る事もできないまま残されたガエリオは、辛い表情を浮かべ医療ポットに眠るアインの姿を見つめ続けていた。 

 

 

 

 

 犠牲を重ねながらも鉄華団は目的地であるオセアニア連邦ミレニアム島への降下を成功させていた。

 

 状況を確認しつつ、オルガ達はミレニアム島内湾へ向かって歩を進める。

 

 そこには一軒の家が建っていた。

 

 いや、単純な家と言うには広い。  

  

 屋敷と言った方が正しい表現だろう。

 

 この屋敷に住まう住人こそ、クーデリア・藍那・バーンスタインが会談しようとしている人物。

 

 蒔苗・東護ノ介である。

 

 無事とは言い難い状況の中、火星からたどり着いたクーデリアに蒔苗は笑みを浮かべ、歓迎の言葉を口にする。

 

 「いやいやいや、よう地球へ来てくださった。鉄華団、クーデリア・藍那・バーンスタイン。待ちわびておったよ、長いことな」

 

 

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