機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ vivere militare est   作:kia

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第22話 理想への道筋

 

 

 

 

 

 

 

 どうにかクーデリアと共に目的地に到着する事が出来た鉄華団。

 

 しかし、その様子は決して明るいとは言えなかった。

 

 理由は明白。

 

 大気圏での戦いではぐれた仲間達の安否を気遣っている。

 

 いや、言葉を飾っても意味がない。

 

 誰もが死亡したと思っているのだ。

 

 しかもその中には鉄華団の中核の一人、ビスケット・グリフォンも含まれていた。

 

 鉄華団における彼の存在は、想像以上に非常に大きいものだった。

 

 仲が良く近しい者は落ち込み、中には仇を討とうと息巻くものもいる。

 

 反面現実を受け入れ、普段通りに振る舞う者もいた。

 

 どちらにせよ混乱しているという事実に違いはない。

 

 そんな状況の中、落ち着く間もなくクーデリアとハル、オルガ、メリビットの四人はミレニアム島にある屋敷の一室に訪れていた。

 

 これから始まるのは、火星の劣悪ともいえる状況を変える為に必要な会談。

 

 その鍵を握る男との交渉である。

 

 蒔苗・東護ノ介。

 

 かつてのアーブラウ代表であり、今回クーデリアと交渉を行う為、地球に来た目的の人物だ。

 

 一見、好々爺のようにも見えるが、油断ならない人物である事は一目瞭然。

 

 細めた目の奥にはギラギラとした野心のようなものが垣間見えていた。

 

 「まずは後顧の憂いを断っておこうか。ギャラルホルンは現れん。この島が属しているのはオセアニア連邦、故に―――」

 

 「いかにギャラルホルンといえども、連邦の許可がなければ手出しできないという事ですね?」

 

 「その通り! いやぁ、アンタ、美人の上に頭も切れるとは。結構結構!」

 

 クーデリアに同行していたメリビットを上機嫌に褒め称える。

 

 やはりメリビットに同行を頼んだのは間違いではなかったようだ。

 

 こういった交渉事に関して鉄華団は素人同然。

 

 それどころか無力といっても過言ではない。

 

 タービンズの時は、あくまで名瀬が鉄華団の意を汲んでくれただけに過ぎず、テイワズ加入の件は、様々な要因が重なった偶発的な結果に過ぎない。

 

 つまり政治的な駆け引きなど鉄華団にはどだい無理な話であり、だから少しでもそう言った事に精通したメリビットに同席を願ったという訳だ。

 

 雑務を含め、イサリビのオペレーターまで勤めてくれている彼女には申し訳ないが、こればかりは適材適所でお願いするしかなかった。    

 

 「しかしオセアニア連邦が何故私達を庇ってくれるのか、理由がわからないのですが?」

 

 「理由ならあるともさ。上手くいったんだよ、ドルトの改革がな」

 

 どういった経緯や駆け引きが行われたかまでは不明だが、どうやらドルトコロニーの件は終息し、労働者達は今までとは大きく違った待遇を手に入れたらしい。

 

 つまり労働者達の待遇は大きく改善されたという事。

 

 それによってドルトの生産能力は落ち、アフリカンユニオンは打撃を受ける事になる。

 

 しかし、他の経済圏にとっては別。

 

 ドルトの生産能力が落ちた事で、それに頼ってきた企業は他の経済圏にも手を伸ばさざる得なくなる。

 

 要するにドルトの改革によって、他の経済圏は得をしたことになる訳だ。 

 

 「この先については分からんが、ひとまずは成功といってよかろう。アフリカンユニオンは痛手を受けるが、他の経済圏は万々歳。その呼び水になった恩人を引き渡すような真似は、オセアニア連邦はせんさ」

 

 「なるほど。あの騒ぎが改革の切っ掛けになったという事ですか」

 

 「そうですか……本当に良かった」

 

 クーデリアの胸が喜びと安堵で満たされていく。

 

 あの時、動いたのは間違いではなかった。

 

 しかし此処で気を抜いては意味がない。

 

 まだ本題にすら入っていないのだ。

 

 「その話は分かりました。では本題、アーブラウにおける火星ハーフメタルの規制解除の件ですが」

 

 「そうだったな。儂も常々それを実現したいと思っておった」

 

 蒔苗の好意的とも取れる発言に、クーデリアとメリビットが喜びで顔を見合わせる。

 

 これならば上手くいくと、そう思って。

 

 しかし―――

 

 「だが、今は無理だな」

 

 「は?」

 

 いきなり思った事とは真逆の答えに、クーデリアは思わず間抜けた声を出してしまった。

 

 「儂は失脚し、亡命中の身。何の権限も力もない」

 

 場が一瞬、凍り付いたように固まった。

 

 蒔苗の言葉がしっかり脳に染みわたり、意味を理解した瞬間、同席していたオルガが叫び出す。

 

 「じゃあ俺達は何の力も持たない爺さんに会う為に、火星から此処まで命がけで来たっていうのかよ!」

 

 では今までの犠牲はなんだったのだと、憤りも込めて蒔苗を睨みつける。

 

 それはクーデリアも同じこと。

 

 この会談に文字通り命を懸けてきた。

 

 そう、文字通り、命という犠牲を払ってたどり着いた道。

 

 その命は大切な人たちの分まで含まれている。

 

 それだけの覚悟と犠牲を払った代価が実はダメでしたで、済まされてなるものか。

 

 「オルガ、落ち着け。まだ話は終わってない。そうだろ、蒔苗さん?」

 

 ハルの指摘に蒔苗は先ほどまでの雰囲気を一変させて、頷いた。

 

 「その通り、まだ残されておる。逆転の芽がな」

 

 

 

 

 ギャラルホルン地球本部ヴィーンゴールヴは、異様な緊張感に包まれていた。

 

 普段から、治安維持を務めるギャラルホルン本部であるヴィーンゴールヴは、他と比べても高い士気が保たれてはいる。

 

 しかし現在流れている厳粛な空気は、それとは別物。

 

 叱責を受ける同僚を眺める気まずさのような、そんな空気が流れているのである。 

 

 だから知らず知らずの内に、皆が委縮したように職務に励んでいた。

 

 その原因。

 

 それはグラズヘイム1から降りてきたカルタ・イシュー一佐の報告という名の叱責が、延々と続いているからだ。

 

 故にグラズヘイムから同行してきたカルタの部下たちも、戦々恐々と沙汰が下されるのを待つしかなかった。

 

 「カルタ様」

 

 「落ち着け、そう悪く扱われる事はあるまい。いかに『氷の女帝』といえどもな」

 

 「分かっているさ。だがな」

 

 セブンスターズ第一席、イシュー家の一人娘が失脚する事はないだろう。

 

 しかし左遷はあり得る。

 

 そうなってしまえば―――

 

 「すべては奴らの所為だ。必ずや我らの手で」

 

 「ああ。例えどのような沙汰が下されようとも、功績さえ上げれば、失敗は帳消し。いや、カルタ様の評価はあがる」

 

 憎むべきは鉄華団。

 

 それを排除すれば、雪辱できる上にカルタの得難い功績になるだろう。

 

 「奴らの位置は把握しているな?」

 

 「ああ。提供していただいた情報は確認済みだ。準備は整っている、後はカルタ様が動けるようになりさえすれば行ける」

 

 それは明らかな命令違反だった。

 

 それでも彼らはすでに決意している。

 

 例え厳罰を受けようとも、必ず怨敵を討ち果たすのだと。

 

 その為ならば名誉も称賛も必要ない。

 

 鉄華団の屍こそが、彼らの求めるただ一つの成果なのだ。

 

 そうでなければ、宇宙で散った同士達の死は何一つ浮かばれないだから。

 

 同刻。

 

 カルタの部下が雪辱を誓っていた頃、ヴィーンゴールヴの一画にて、ガエリオ・ボードウィンは未だ決断しきれずにいた。

 

 姉に無理やりついてくる形でアインと共に地球に降りたまでは良かったが、問題は何一つ解決していない。

 

 アイン・ダルトンの結末は決まっている。

 

 分かっている。

 

 もはや延命治療もただの時間稼ぎに他ならず、根本的な解決には至らない。

 

 言われなくても分かっている。  

   

 後はガエリオの決断一つで事態は動くし、アインの命も救われる。

 

 ならば即座に動く事こそ、アインの献身に対する誠意であると―――

 

 「分かっているさ! だが、だが!」

 

 己の中にある葛藤と自問自答を繰り返す。

 

 意味がないと分かっていても、それでも迷いを振り切れず、ガエリオはただ苦悶にのた打ち回る。

 

 それがただの逃避であると自覚しつつも、踏み切ることができない。

 

 頭を抱え悩むガエリオの元に、一人の男が近づいてきた。

 

 「失礼します。ガエリオ・ボードウィン特務三佐でいらっしゃいますかな?」

 

 白衣を纏った小柄な男。

 

 いや、顔の皺や伸びた髭、白髪を見ると、老人と言っても差支えないだろう。

 

 その面構えはどう見ても戦士のそれではなく、明らかに研究者のものだった。   

 

 「誰だ?」

 

 「しがないギャラルホルンの研究者ですよ。傷ついた部下を助けたいと悩んでいらっしゃるようですので、声をかけさせてもらいました」

 

 「何?」

 

 どこか胡散臭い笑みを浮かべながら、老人はガエリオにだけ届くような小声で囁いた。

 

 「機械化するよりももっと良い方法があります。……阿頼耶識を使うのです」

 

 阿頼耶識というあまりに予想外の言葉に考える間もなく、嫌悪感と忌避感が湧き上がる。

 

 「馬鹿な事を言うな! アインを化け物にするなど出来るものか!」

 

 「大きな声を出さないようにお願いします。予想通りの反応でしたがね」

 

 人の感情を逆なでするような笑みにただ苛立ちだけが募っていくが、老人は一切怯まない。

 

 「では、このまま機械化処置を施すのですかな? 決断出来ないというのなら、阿頼耶識を選択肢の一つとして加えても良いのではありませんか?」

 

 「ッ、それは……ギャラルホルンでそれは許されない事だ。そもそもギャラルホルンの研究者ともあろう者が、何故阿頼耶識を」

 

 「知りたければこちらへどうぞ。ああ、ご安心を。ついてきたからと言って、阿頼耶識施術を強制する事はありませんので」

 老人はガエリオの返事も興味なしとばかりに背を向けた。

 

 理性が放っておけばよいと吐き捨てているが、同時に確かめなければならないとも叫んでいる。

 

 正直、阿頼耶識などに関わりたくはない。

 

 しかしギャラルホルンに所属する者が忌むべき研究に手を染めているならば、それを是正して当然。

 

 まずは何が行われている確かめねばならない。

 

 ガエリオは躊躇いながらも老人の後を追うと、普段あまり使われていない区画へたどり着いた。

 

 さらに老人は足を止めず、さらに奥へ、奥へと進んでく。

 

 すでに人影は消え、誰もいないその場所に最奥に、一基のエレベーターが口を開けて待っていた。 

   

 「さあ、この先です。しかし覚悟はよろしいのかな? 後戻りはできませんが」

 

 この先は一度くぐれば戻れぬ地獄の門だと言わんばかりに、老人はガエリオを挑発する。

 

 だが今更そんな脅しになど引っかかる筈はない。

 

 「それはこちらのセリフだ。貴様らの研究を俺に見せれば、それだけで摘発対象になりかねないぞ」

 

 「覚悟を決めているならよろしい。では参りましょうか」

 

 一切怯まず、むしろ笑みを深くした老人と共にエレベーターに乗り込むと、一気に下降を開始する。

 

 まるで地の底へ落ちているような錯覚を覚える。

 

 一種の不気味さと格闘しながら老人を一瞥すると、丁度ガエリオを見ていたのか目が合った。

 

 「ボードウィン特務三佐は、阿頼耶識の事をどの程度、ご存知ですかな?」

 

 「あまり詳しくはないな。というか知りたくもない」

 

 「なるほど。では初めからお話ししましょうか。元々阿頼耶識は300年前から作業用として使用されていたものです。しかし厄祭戦と呼ばれる戦いが勃発し、人類が疲弊していく中、戦いに終止符を打つ為、戦闘用として実践投入されたのです」

 

 そして阿頼耶識の力を最大限引き出す為のモビルスーツこそが、悪魔の名を冠した72機の『ガンダム・フレーム』であり、それを使い厄祭戦を終結させたのがギャラルホルンの前身となる組織である。

 

 「ボードウィン家のガンダムキマリスもその際に使用されたものです。セブンスターズは皆、その時に大きな武功を立てた者達の家柄ですな。それらすべてはモビルアーマーという人類の敵を滅ぼす為に」       

 

 「……それが今や忌むべき技術とされている訳か。皮肉なものだな」

 

 そんなガエリオの素直な感想に、老人は楽し気に笑い始める。

 

 「そもそも阿頼耶識を忌むべきものだと流布したのはギャラルホルンだ。厄祭戦を終わらせた圧倒的な力が自分たちに牙を剥かないように、もしもの場合に備えて。そして、その懸念は正しいものだった。すでに体感済みでしょう?」

 

 確かにその通り。

 

 脳裏に過る苦い記憶が老人の言葉を肯定する。

 

 ギャラルホルンの敷いた教育の中で生きてきた所為か、よりアレらを異質だと感じてしまう。

 

 老人の話の通りであるなら、間違いなく初代ボードウィンも同じ阿頼耶識の施術を受けている筈だ。

 

 なのに嫌悪が先立つ。

 

 変革だ、改革だとマクギリスやロトに賛同した所で、敷かれたルールを真実として生きてきたガエリオが結局ギャラルホルンに一番染まっているのだから、笑えない話である。     

 

 「故にこの研究は行われていたのですよ」

 

 到着した真っ暗な空間にライトが照らされると、そこには無数のモビルスーツが吊るされていた。

 

 まるで鎖に繋がれた悪魔のように。

 

 「これは―――」

 

 「近年までギャラルホルンでも阿頼耶識の研究は続けられていたのですよ。無論、上層部からの命令でね」

 

 衝撃の言葉に二の句が継げない。

 

 ギャラルホルンで阿頼耶識の研究が行われていた?

 

 上層部の命令で?

 

 一体何の冗談だと吐き捨てたいが、目の前に存在する研究成果がそれを許さない。

 

 何故という言葉も、もはや意味を成さず。

 

 先ほど老人が言っていた通り『もしも』の場合に備えてという事だろう。

 

 だが同時に疑問も浮かび上がってきた。

 

 「ならば何故今は研究を行っていない?」

 

 「ああ、別に行われていない訳ではありません。元々は極秘裏の研究所で研究を行っていたのですが、お恥ずかしい話、10年ほど前、数人の研究者がデータを破棄して脱走したのですよ」

 

 「脱走だと!?」

 

 「ええ。研究自体が極秘でしたから大々的に追撃部隊を差し向ける事も出来ず、さらに彼らはこちらの行動パターンを熟知しておりましてね。結果、圏外圏へ逃がしてしまったのです。ま、隠匿作業の方が忙しかったというのもありましたがね」

 

 研究所は証拠隠滅の為に破壊され、成果はギャラルホルンのお膝下であるヴィーンゴールヴに移管、封鎖。

 

 研究及び所員も監視下へ置き、すべて一時凍結。

 

 一応老人たちは細々と破棄されたデータの復旧等を行いながら、機会を窺い続けていたというのが現状という事らしい。

 

 そんな彼らの状況が変化したのは、ここ最近。

 

 言わずと知れた鉄華団との抗争である。

 

 此処まで聞けば、ガエリオにも自ずと背景が見えてくる。

 

 厄祭戦を終わらせた伝説の機体、ガンダム・フレームを操る少年たちによる進撃が、ギャラルホルン全体へ衝撃を与えた。

 

 それは長年ギャラルホルンが恐れていた悪魔達の反逆に他ならない。

 

 結果は言わずもがな。

 

 描いていた夢想の恐怖が現実となった今、禁じ手としていた研究に注目するのは自明の理であった。

 

 「……要するにお前達は、アインを阿頼耶識研究の実験体として使いたいという事だろう」

 

 「まあ、歯を着せぬ言い方をすればその通りですね」

 

 「ふざけるな! 何故アインがお前たちのモルモットにならねばならない!」

 

 「別にそうしろと強制はしていませんよ。私はただ選択肢を提示しているだけ。選ぶのは貴方だ」

 

 感情的に胸ぐらを掴んでくるガエリオに老人は一切怯まない。

 

 「しかしこれだけは明言出来ますよ。阿頼耶識の処置を施せば、例の鉄華団のガンダムにも負けない力を彼に与えることが出来る」

 

 「ッ!?」

 

 奴らに負けない力。

 

 その言葉にガエリオは確かに揺らいだ。

 

 阿頼耶識は祖先も使っていたもの。

 

 機械化処置よりマシではないかと。

 

 それにアインに上官の仇を討たせてやりたいという気持ちに変わりはない。

 

 阿頼耶識ならそれが叶う可能性がある。

 

 しかしその代償に禁忌を背負わせることになる。

 

 再び迷うガエリオに淡々と、そして残酷にガエリオに選択を迫ってきた。

 

 「さあ、選択を。嫌悪されている機械化処置ですか? それとも禁忌とされる阿頼耶識ですか? 貴方はどちらを選ぶのです?」

 

 悪魔の問いと選択にガエリオは苦悶しながら―――

 

 ついに血を吐く思いで結論を下す。    

 

 老人は笑みを深め、力を緩めたガエリオから解放された。

 

 

 

 

 

 

 蒔苗との会談を終えたオルガ達は報告も兼ねて、貸し与えられた建物の一室に主要メンバーを集めていた。

 

 皆の表情はお世辞にも明るいとは言えず、神妙な顔で黙り込んでいる。

 

 結論として蒔苗の告げた逆転の芽とは、彼自身をアーブラウの都市『エドモントン』へ送り届ける事だった。

 

 現在、アーブラウでは代表指名選挙が行われている。

 

 これに当選すれば蒔苗はアーブラウ代表に返り咲く事ができ、クーデリアとの交渉も好転するという訳だ。

 

 「なるほど。じゃあその爺さんをエドモントンって場所に送り届けりゃいいわけだ。楽勝じゃねーか」

 

 「それがそうはいかないんだ、シノ。蒔苗の対抗候補であるアンリ・フリュウという人物のバックには、ギャラルホルンがついているという話だ。エドモントンでは確実にギャラルホルンが妨害してくる」 

 

 しかも今度の敵は、今まで鉄華団が相手にしてきたような連中とはレベルが違う筈だ。

 

 さらに此処は地球である。

 

 彼らにとってのホームグラウンドである以上、エドモントンへたどり着く前に何らかの妨害を受ける可能性も十分にあった。

 

 「で、オルガの意見は?」

 

 オルガが横目でハルの方を見る。

 

 皆には申し訳ない話だが、もはや結論は出てしまっている。

 

 否、鉄華団に最初から選択肢など存在していなかった。

 

 蒔苗はこう言ったのだ。

 

 『お前達の処遇など儂の一存でどうとでもなる』と。

 

 鉄華団は今現在、オセアニア連邦の『好意』によってギャラルホルンから守られた状態にある。

 

 逆を言えば、状況が変われば何時でもギャラルホルンの脅威に晒されてしまう事を意味していた。

 

 蒔苗は元アーブラウ代表。

 

 オセアニア連邦に亡命している事から考えても政治的なパイプは幾つも持っており、それを使えば鉄華団を売り渡す事は何時でもできる。

 

 無論、亡命者にそんな権限があるかは微妙な所だ。

 

 しかし地球に伝手もなく、情勢に疎い鉄華団に比べて、蒔苗が遥かに優位であるのは間違いない。

 

 さらに不味いのがイサリビの所在である。

 

 先ほど受けた連絡では無事に脱出し、今はオセアニアの宇宙港に匿って貰っているらしい。

 

 それは嬉しい知らせだが、裏を返せば人質を取られたも同然。

 

 こうなっては選択の余地はない。

 

 以前から分かっていた鉄華団の情報戦、交渉力の脆さがより浮き彫りになってしまった。

 

 「どの道、火星には戻れねぇんだ。なら行くしかないだろ」

 

 「本当ならビスケットに代わって慎重にって言いたい所だけど、他に選択肢はない。それに蒔苗に恩を売れれば、地球での後ろ盾ができる可能性がある。そうすればビスケット達の行方を探す事も出来るかもしれない」

 

 「ああ。やるぞ、お前ら! ギャラルホルンの連中には借りもある。それを返してやろうじゃねーか!」

 

 「「おおお!!」

 

 オルガの一声に全員が立ち上がった。

 

 各々思う所はあるだろう。

 

 それでも全員が感じ取っていた。

 

 向かう先『エドモントン』こそ、火星から地球までの長い旅路の終着点だと。

 

 これより先はない。

 

 故に全力を持って。

 

 邪魔する奴らは全員潰して押し通る。   

    

 クーデリアの依頼に端を発した争い。

 

 鉄華団、最大の戦いが始まろうとしていた。 

 

 

   

 

 

 

 雪原を滑るように移動する数機のモビルスーツ。

 

 それは地球統制統合艦隊所属のグレイズリッターである。

 

 率いているのは勿論、指揮官であるカルタ・イシューだった。

 

 ヴィーンゴールヴにおける会議の結果、カルタは先の戦闘における被害の責任を取らされ、謹慎と転属を命じられてしまった。

 

 もはや地球外縁軌道統制統合艦隊司令官は自分ではない。

 

 転属先も具体的に決まってはいないが、どういう場所かは想像に難くない。

 

 危険は無いが功績も立てられない閑職に追いやられるのは、火を見るより明らか。

 

 追い詰められたカルタは賭けに出た。 

 

 地球を汚す火星のネズミを一掃する事で汚名返上し、功績を立てて先の決定を撤回させる。

 

 それを実行に移す為のデータは手元にあった。

 

 カルタの元には鉄華団の移動先に関するデータがある。

 

 謹慎を命じられた彼女がどうしてこんなデータを入手できたのか?

 

 それはかつての後見人、イズナリオ・ファリドから極秘裏に送られたものだからだ。

 

 「イズナリオ様には感謝しなくては。必ずこの御恩に報いて見せます」 

 

 イズナリオが何故更迭されたのか、詳しい事情をカルタは知らない。

 

 しかし病床の父に代わり、カルタを常に気にかけてくれていたのは知っていた。

 

 だからこそ今回の件、是が非でも成功させねばならない。

 

 鉄華団の排除が成功する事で、イズナリオが復権できる切っ掛けにもなり得るからだ。  

 

 「カルタ様、目標ポイントが近づいてきました」

 

 「よし。奴らから受けた屈辱を今日こそ晴らす! 火星のネズミを一匹残らず、駆逐しろ!」

 

 「「ハッ!!」」

 

 訓練通りのフォーメーションを組みながら、カルタ達は怨敵を殲滅すべく速度を上げる。

 

 しかし、待っていたのは彼女の狙う敵の姿ではなかった。

 

 「カルタ様、前方にモビルスーツ!」

 

 「あれは……」

 

 雪原に立つは両腕に刃を構えたモビルスーツ。

 

 大気圏の戦闘において、カルタの部下達を狩り続けた紅い戦乙女グリムゲルデ。

 

 「残念だが此処が君の終点だ、カルタ・イシュー。その命、貰い受ける」

 

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