機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ vivere militare est   作:kia

26 / 73
第24話 悪魔の哄笑

 

 

 

 

 

 

 アーブラウ領、エドモントン。

 

 今後のアーブラウの在り方を決める、運命の代表指名選挙が行われるこの都市は現在、血生臭い戦場と化していた。

 

 鉄華団がたどり着いてすでに三日。

 

 蒔苗を送り届ける為に都市部侵入を試みた彼らと、それを阻止すべく立ち塞がるギャラルホルンは、激しい攻防を繰り広げた。

 

 だが成果は芳しくない。

 

 都市部に入る為の橋には容赦なく破壊されたモビルワーカーが死屍累々と転がり、しかし状況が好転する様子は未だ見られない。

 

 狭い橋での攻防。

 

 火力の違い。

 

 物量の差と要因は様々ある。

 

 エドモントンの近郊にある廃駅に陣取り、侵入を試みていたオルガは幾度もの失敗と現状を鑑みた結果、此処で最後の賭けに出ようとしていた。

 

 「これは正直、無茶な作戦だ。だが現状、俺が考え得る唯一の手だ。もしもこれに乗れないっていうなら、負傷した奴らと一緒に下がってくれ。だがもしも乗ってくれるなら、お前達の命ってチップを賭けてくれ!」

 

 オルガの前に集まってくれた団員達の顔を見渡しながら、作戦の内容を告げた。

 

 碌に休んでおらず、疲労を隠せない奴。

 

 体中包帯を巻かれ、ボロボロの奴。

 

 どこを見ても満身創痍。

 

 五体満足に戦える奴を探す方が難しい。

 

 そんな彼らに残酷な作戦を告げねばらない現実に、オルガは必死に憤りをかみ殺す。

 

 叫んだ所で残酷な現実は変わらない。

 

 やるしかないのだ。

 

 必死に自分に言い聞かせ、モビルワーカーの上から敵の配置、状況を改めて再確認する。

 

 事前に配置を終えていたギャラルホルンは、モビルワーカーで陣を作り、都市部への入口である橋の手前に防衛線を形成。

 

 まさに蟻一匹すらも通さないとばかりに堅牢な守りを展開している。

 

 対する鉄華団はそれら強固な防衛線を突破出来ず、足止めを余儀なくされ、犠牲は増えるばかりだった。

 

 モビルスーツの使用が可能ならば、もう少し違った展開になっていたかもしれない。

 

 しかし基本的にモビルスーツは市街地で使用されない。

 

 エイハブ・リアクターの影響により、都市機能がマヒしてしまうからだ。

 

 故にモビルワーカーでの戦闘を余儀なくされた鉄華団は、橋という限定空間での戦闘を強いられ、突破口を開く事が出来なかった。

 

 狭い橋の上では、鉄華団の数少ない利点である阿頼耶識の特性は生かし切れない。

 

 結果、純粋な火力勝負となってしまった。

 

 物量差を前に圧倒され、橋の半ばへたどり着く事すらままならない。

 

 補給も底をつきかけ、後はジリジリと敗北へと追い込まれるだけ。 

 

 だがそれは当たり前である。

 

 そもそもギャラルホルンと鉄華団では規模が違いすぎた。

 

 補給線構築も抜かりなく、物量、兵器の質共に充実しているギャラルホルンと、火星から常にギリギリの状態で戦ってきた鉄華団では差がありすぎる。

 

 正面から戦えば、寡兵である鉄華団に勝ち目がないのは当然の事。

 

 さらに鉄華団を追い詰めていたのが、背後から迫るモビルスーツ部隊の存在だった。

 

 防衛線突破を試みる鉄華団の後を突くように、展開した部隊が何度も攻撃を仕掛けてきていた。

 

 挟撃された形となった鉄華団は、背後からの攻撃にも気を配りつつ、敵の防衛線を突破しなくてはならないという難業に挑まざる得ない状況へ追い込まれていた。

 

 時間もなく、余裕もなく、満足に戦える人員も少ない。

 

 故にオルガは決断を下す。

 

 攻撃部隊を囮としてギャラルホルンの防衛部隊を引き付け、その間に蒔苗を連れたオルガ達が都市部に侵入するとい分の悪い賭けを。

 

 「ふざけないで! 囮になる? 命を懸ける? 全員を死なせたいの!?」

 

 怒鳴り声を上げたのはメリビットだ。

 

 服も手も血で汚れ、碌に休んでいないのか、その顔には疲労が色濃く出ていた。

 

 廃駅の中では重傷、軽傷、差はあれど、血に塗れた子供達の病院となっている。

 

 さながら後方の戦場である。

 

 目を背けたい凄惨な現場で、クーデリアやアトラ、メリビットも寝ずに手当を続けていた。

 

 しかし状況は良くない上、怪我人は増える一方。

 

 だからこそ、現場の厳しい状況を理解していながらも、無謀な作戦を認められない。

 

 そんなメリビットの非難を真っ向から受け止めて尚、オルガは口を開く。

 

 「俺達は命を金に換えて生きてきた。でもな、俺達の命は死んだら終わる消耗品じゃない。鉄華団がある限りな」

 

 決して無駄ではないと、そんな事は絶対にないのだとオルガの前に集まる、彼に従ってくれた家族達にハッキリ告げる。 

 

 「此処に来るまでに死んでった命も無駄になんてなってねぇ。アイツらが居たから、今の俺達がいるんだ。……その命もチップとしてこの戦いに賭ける。幾つもの命を賭ける事に、俺達が手に入れる未来って報酬がデカくなっていく。俺達一人、一人の命が生き残った奴らの未来の為に使われるんだ!」

 

 「……団長の言う通りだ」

 

 「うん。今まで何となく長くは生きられないって思ってた。けど俺らの誰かが死んだとしても、生き残った奴らは笑えるんだ」

  

 「ああ。誰が生き残ったとしても、関係ない。俺達は一つだ。俺達は家族なんだからな! 鉄華団の未来の為にお前達の命を賭けてくれ!」

 

 メリビットに言葉はない。

 

 悔しそうに唇を噛んで、目には涙が滲んでいた。

 

 本音ではそうではないと叫びたい。

 

 だがそんな一言が何になろう。

 

 戦場で生きていくのが当たり前だった彼らの価値観と、人として当たり前の価値観を有するメリビット。

 

 この隔たりは想像以上に大きく、陳腐な言葉で埋めることはできない。

 

 いや、それはずっと前から分かっていた事だ。

 

 だからこそ、何も言葉に出来ない。

 

 「おめぇは間違っちゃいねぇよ」

 

 無力感に苛まれ、悔し涙を流すメリビットの頭に手を置く雪之丞の慰めを聞きながら、彼女は死へ向かっていく少年たちを見送る事しか出来なかった。 

 

 

 

 

 鉄華団を後方から攻め立てていたギャラルホルンのモビルスーツ部隊は、襲撃の合間を縫った僅かな休憩を行っていた。 

 

 糧食を口に含み、コーヒーで流し込む。

 

 休憩時間に流れる空気は、戦場に居るとは思えないほどに穏やかなものだ。 

 

 食事を取る彼らの表情は明るく、悲壮感は見られない。

 

 彼らには明らかな余裕があった。

 

 確かに鉄華団は手強い。

 

 阿頼耶識による変速機動にモビルスーツの性能を含めた力は、確かにそこらの海賊などとは一線を画するだろう。

 

 しかしそれでもギャラルホルンの優位は揺るがない。

 

 物量差というものは想像以上に大きい。

 

 多少は押されてしまうだろうが、やはり数とはそれだけで力である。

 

 いかに阿頼耶識が優れていようと、疲れ知らずの兵士はおらず、援軍の当てもないとなれば、結末を自ずと見えてくる。

 

 さらに致命的なのが、補給線を確立していない事だ。

 

 前後の挟まれた鉄華団は孤立無援。

 

 持久戦に持ち込むだけで、ギャラルホルンの勝利は確実であり、要は耐え凌ぐだけで鉄華団は自然と自滅していくだけなのだ。

 

 なのに―――

 

 「な、何なんだ。こいつらは!?」

 

 「まさか自分たちから攻撃を仕掛けてくるなんて!」

 

 緩み、驕りとも言い換えても良い一瞬の隙を狙った奇襲攻撃に、誰もが驚愕する。

 

 この事態に、グレイズのパイロット達は理解出来ない恐怖に襲われた。

 

 そもそもこんな事をして何の意味がある?

 

 勝敗はすでに決しているのだ。

 

 素直に降伏した方がまだ助かる道もあるだろう。

 

 にも関わらず、決して怯まず向かってくる様は恐怖しか湧いてこない。

 

 頭がおかしいのではないのか?

 

 此処で一時的に優位に立った所で戦況は覆らない。

 

 なのに手負いの獣の如く、鉄華団は苛烈に攻め立ててくる。

 

 まるで命を捨てるように。

 

 「くっそぉぉぉぉ!!」

 

 湧き上がる恐怖に呑まれぬよう、絶叫しながら敵モビルスーツへ向かっていく。

 

 勝ち戦だった筈が、こんな所で死んでたまるか。

 

 ましてや火星のネズミを相手にした、こんな戦いで。

 

 しかし彼の思いも空しく、届かない。

 

 仲間は次々と倒され、グレイズは動かない塵へと変わっていく。

 

 何があったか知らないが、敵の勢いは想像を超えていた。

 

 漏影同型三機による連携。

 

 グレイズの改良型による突撃。

 

 何よりも圧倒的だったのは、三機のガンダム・フレームである。

 

 通常ではあり得ない動きで、グレイズを翻弄しながら確実に急所を潰していく。

 

 端的に言って異常。

 

 嫌悪すら抱く、まさに怪物だ。

 

 「化け物め! 化け物めェェ!!」

 

 少しでも怯ませようと我武者羅にライフルを発射しながら、片手にアックスを構える。

 

 しかし、全く捉える事は出来ず。

 

 「くそ、ッ!?」

 

 動揺した一瞬の隙を突いて飛び込んできたのは、白いガンダム・フレーム。

 

 「あ」

 

 防御する暇はない。

 

 容赦なく振り上げられたレンチメイスにより、彼はコックピットごと叩き潰されてしまった。

 

 それで終わり。

 

 同じように破壊され、無残なスクラップの仲間入りを果たした彼は、しかし最後に確かに見た。

 

 戦場を闊歩する悪魔の前に現れた、白い騎士の姿を。

 

 

 

 

 鉄華団の特攻めいた攻勢は一種の奇襲となり、一時的とはいえギャラルホルンに打撃を与える事に成功した。

 

 その隙にオルガ達は市街へと突入に成功。

 

 モビルスーツは変わらず、敵部隊相手に派手に暴れ回っていた。

 

 追い込んだ筈の鉄華団の攻勢が余程意外だったのだろう。

 

 ギャラルホルンの動きはあまりに鈍い。

 

 まるで潰してくれと言わんばかりに、棒立ちの機体すらあるくらいだ。

 

 「そのまま突っ込め、シノ!」

 

 「おりゃあああ!!」

 

 アックスを振るい先陣を切る流星号を援護するように、グシオンの予備シールドを改良した盾を構える、薄黒い機体グレイズ改参型のライフルが火を噴いた。

 

 パイロットであるクランクの狙いは正確で、流星号がやり易いよう、敵の動きを確実に阻害している。

  

 元ギャラルホルンの軍人であった為か、彼らをよく知るが故か。

 

 クランクの技能は機体性能と合わさって十二分に発揮されていた。

 

 敵のフォーメーションを崩し、漏影との連携も完璧。

 

 個人技に優れる鉄華団の欠点ともいえる、集団戦闘時の連携の脆さを見事補っている。   

 

 結果、ガンダム・フレーム三機は水を得た魚の如く、縦横無尽に戦場を駆け巡っていた。

 

 彼らを阻める者は誰もおらず、悪魔による蹂躙がグレイズの死骸を積み上げていく。

   

 「気合い入ってるな、シノ」

 

 「そりゃそうだろ。オルガの事もそうだし、タカキ達の成長に熱くなってんだろう」

 

 「だろうね。まあ俺達も人の事は言えないけどさ!」

 

 敵陣へ飛び込んだアスベエルの大剣がグレイズを吹き飛ばし、同時に踏み込んだグシオンリベイクのアックスが敵のコックピットを破壊する。

 

 二機の攻撃で乱れる陣形。

 

 そこにすかさずレンチメイスを振りかぶったバルバトスが突入し、ライフルを連射するグレイズを叩き潰した。

 

 「全機、敵が混乱している内に数を減らすよ!」

 

 「了解!」

 

 「派手にやりましょう!」  

 

 大暴れする悪魔達を援護するべく、三機の漏影も連携を取りながら、素早く敵を潰していく。

 

 数の差など物ともせず続く鉄華団の進撃に、撃墜されていくギャラルホルンのモビルスーツ部隊は戦慄する。

 

 あれこそまさにギャラルホルンが恐れていた悪魔そのものだ。

 

 それに太刀打ち出来る術もなく、無残な死体だけが増え、ギャラルホルンの部隊に動揺が広がっていく。 

 

 「残機の動きが鈍った? なら―――何!?」 

 

 快進撃ともいえる攻勢は此処までだと、押し込もうと前に出たアスベエルへ向かって銃撃が撃ち込まれる。

 

 予想外の攻撃に、避ける間もなく防御に追い込まれるアスベエルに、見覚えのある機体が猛スピードで突撃してきた。

 

 騎兵を思わせる四脚と長槍を携えた機体、ガンダムキマリス・トルーパーである。

 

 ハルは大剣を振るい、速度を乗せて突っ込んできた長槍を流し、撃ち込まれた銃弾を受け止めた。

 

 「あれは……またアンタか! しつこいんだよ!」

 

 「安心しろ。それも今日で終わりだ。此処こそが貴様らの死地! お前達の墓場となる!」

 

 ガエリオの憤りに応えるように、キマリスが力強く踏み込んでいく。

 

 そう、鉄華団のみならずアスベエルこそ、ガエリオの倒すべき敵。

 

 アインの件も、その恩師の件も、すべてはアスベエルこそが発端。

 

 此処まで犠牲となった同胞たちの為にも、そして新たな悲劇を生まぬ為にも、今回こそ絶対に奴を打倒せねばならない。

 

 そうでなくては―――

 

 「これまでのすべてが無駄になる。それだけは!」

 

 デストロイヤーランスをサブアームで固定し、盾から抜いたサーベルを恨みを込めて叩きつける。

 

 「貴様は俺が倒す! カルタの為にも、アインの恩師の為にも!!」

 

 「やられるか!」 

 

 サーベルを肘で弾き、キマリスの頭部へ拳を振り抜くと、殴られた衝撃でキマリスが大きく仰け反った。

 

 ハルは出来た隙を見逃さず分割剣を突き出す。

 

 「舐めるなァァァ!!」

 

 まっすぐコックピットへ向けて刺し出される剣を前に、ガエリオはギリギリ機体を逸らして肩の装甲に刃を当てる事に成功する。

 

 「まだだ!」

 

 ガエリオの燃え上がる気炎に呼応したかのように、キマリスの攻勢は止まらない。

 

 負けるものかと。

 

 退いてたまるかという気概が機体ごしにもビリビリ伝わってくる。

 

 「だからって!」

 

 気圧されまいとアスベエルの攻勢もまた止まらず、サーベルを捌いてガラ空きになった懐に蹴りを入れ、キマリスを押し倒した。 

 

 「ぐっ!」

 

 確かに以前とは気合いが違う。

 

 何があったかは知らないが、ガエリオの決意も覚悟も本物だろう。

 

 しかし、気合いで純然たる技量の差が埋まるかと言えば、残念ながらそれは否だった。

 

 「これで!」

 

 態勢を崩すキマリスに止めを刺すべく大剣を振りかぶる。

 

 決着はついたと思ったその時、発射された機銃の雨と共に上空から重い声が響いてきた。

 

 《特務三佐から離れろ、悪魔め!》

 

 「ッ!?」

 

 咄嗟にキマリスから距離を取り、銃撃を避けたアスベエルの前に降り立ったのは、通常のモビルスーツよりも一回り大きい機体。

 

 形状からグレイズ系の機体である事は明白だが、データにはない。

 

 だが、異様なまでの不気味な雰囲気だけはビリビリと伝わってくる。

 

 あれこそギャラルホルンの生み出した禁忌の機体『グレイズ・アイン』である。

 

 《ようやくこの日が来たぞ。貴様ら全員を血祭に上げ、相応しい報いを与える今日という日がな!》

 

 聞こえてくる声にハルは思わず身震いした。

 

 怒り、恨み、憎しみ。

 

 あらゆる負の感情が籠められているのを肌で感じたからだ。

 

 《そして貴様だ! 俺達からすべてを奪い去った忌むべき悪魔! 死を以って貴様のその罪を償え!!》 

 

 「こいつ!」

 

 嫌な予感に突き動かされ滑腔砲を発射する。

 

 あくまでも様子見の牽制的な意味合いの射撃であり、当たるとは思っていなかった。

 

 それでも反応くらいは確かめられるし、隙を見せれば一気に斬り込む事が可能だ。

 

 しかしハルの思惑は外れ、敵は想像の斜め上を行く反応で攻撃を回避すると、素早くアスベエルの懐へ飛び込んでくる。

 

 「反応が速い!? いや、これは」

 

 至近距離からのバルカン砲も器用に躱す敵の動きや反応の機敏さは、ハル達と同じものである。

 

 すなわち―――   

 

 「阿頼耶識!?」

 

 《ハハ、アハハハハハハ!! 見える、見えるぞ! 貴様の動きに反応出来る! これこそが俺のあるべき真の姿!!》

 

 振るった大剣をあっさり弾き、繰り出した蹴りがアスベエルの装甲を抉り切った。

 

 「脚部が回転して!?」

 

 《どうした、動きが鈍いぞ!》

 

 背中から取り出した巨大アックスを紙一重で回避し、さらに繰り出された一撃も、どうにか分割剣で防御する。

 

 しかしグレイズ・アインは素早く背後に回り込み、肩部を掴んだ。

 

 「ッ!?」

 

 ハルの第六感が警報を鳴らした。

 

 ヤバいと判断すると同時に肩の装甲をパージする。

 

 次の瞬間、グレイズ・アインの腕から突き出された鉄杭がパージした装甲を打ち砕いた。

 

 「ナノラミネートアーマーをあっさりと!? 捕まったら終わりかよ!」

 

 危険と判断して咄嗟に距離を取ったアスベエルの背後から、今度はランスを構えたキマリスが突撃してくる。

 

 「マクギリスを待つまでもない、貴様は此処で終わりだ! 見ろ、貴様らのような出来損ないとは違う、あれこそ阿頼耶識本来の力!」

 

 確かにグレイズ・アインの動きも反応もハル達とは明らかに違う。

 

 一線を画したその力は、気持ち悪さすら覚える圧倒的なものだ。

 

 今尚アスベエルのバルカン砲を器用に躱し、巨大アックス片手に突っ込んでこようとしている姿は悪夢としか思えない。

 

 「機体との一体化を図ったアインの覚悟が、貴様らを砕く刃となる!」 

 

 「くそ、邪魔だ!」

 

 ランスを止め、キマリスと組み合うようにして鍔迫り合う。

 

 グレイズ・アインに集中したいが、キマリスの地味な嫌がらせの所為で上手く対応できない。

 

 ただでさえ厄介な相手だというのに。

 

 《死ね!》

 

 「おおおおお!!」

 

 キマリスを弾き、背後からの巨大アックスをギリギリのタイミングで回避するも、すぐさまグレイズ・アインに蹴りを入れられ吹き飛ばされてしまう。

 

 「があああ!」

 

 「無駄な足掻きだ、お前も、お前の仲間も! 敵が俺達だけだと思うな!」

 

 ガエリオの声に、皆の方へ視線を向ける。

 

 そこには地上用に換装したグレイズ・ノイジーと増援のモビルスーツ部隊、そして改良を受けたグレイズカスタムの姿があった。

 

 数こそ多くはないが、装備を見ても明らかな精鋭部隊である。

 

 《さあ、裁きの時だ! 俺達が味わった絶望を貴様らに叩き返してやる!!》

 

 「ッ!」

 

 圧倒的なグレイズ・アインの猛攻。

 

 繰り出される度に削られる装甲。

 

 味方を気にしながらもハルは歯を食いしばり、防戦一方になりながら、どうにか攻撃を捌き続けていった。

 

 

 

 

 グレイズ・ノイジー。

 

 火星支部における戦力強化プランによって開発されたグレイズの系譜から著しく逸脱したモビルスーツ。

 

 現状、誰も知らぬその開発コンセプトは、対阿頼耶識を想定したものである。

 

 圏外圏において戦場の道具としてヒューマンデブリとして運用するというのは、当たり前の話と化している。

 

 それは海賊や傭兵といった者達が子供達に阿頼耶識施術を日常的に行っている事を意味する。

 

 つまり取り締まる側であるギャラルホルンは常に阿頼耶識と対峙する可能性があるという事だ。

 

 しかも具体的な対応策は何も確立されていないのが実情。

 

 現場のパイロットたちはその特異な機動性に対し、独力で対応せざる得ないのである。

 

 その結果は鉄華団との抗争をみれば火を見るよりも明らかであろう。 

 

 さらに問題を深刻にしたのは火星独立である。

 

 火星独立の気運が高まった事で圏外圏の治安はさらに悪化。

 

 常に火種が燻り、いつ暴発してもおかしくない状態にまで陥ってしまった。 

 

 紛争が起きれば阿頼耶識に相対する機会は激増し、少なくない犠牲も出る。

 

 この事態に対し、ギャラルホルン火星支部本部長コーラル・コンラッドはそれに対抗する為、対策を考案した。

 

 その結果の一つこそがグレイズノイジーである。

 

 反応速度を出来得る限り向上させる為のインターフェイスの改良。 

 

 グレイズを設計から見直し、専用のブースターユニットから機体全体の小型スラスターの位置に至るまでの細かい検証と改良、さらにセンサー類の強化。

 

 出来る限り阿頼耶識に対抗する為の手段を模索し、詰め込んだ歪な兵器こそノイジーの正体だった。

 

 だが当然、問題もある。

 

 性能と引き換えに万人に操れる汎用性の低下や、実戦投入において初めて露呈した欠点などがソレだ。

 

 しかし、対阿頼耶識という観点でみれば話は別となる。

 

 複数回における戦闘と敗北の結果、彼の機体とパイロットの成熟はさらに高まっていた。

 

 エリヤ・スノードロップとグレイズノイジーの組み合わせは、対阿頼耶識において、極めて高い完成度を誇る。

 

 なら、それはつまり鉄華団の天敵にもなり得るという事を意味していた。  

 

 「機体は問題ない。後は実戦でどこまでやれるか」

 

 グレイズノイジーのパイロットであるエリヤは、珍しい程高揚を覚えながら、機体の感触を確かめる。

 

 身を包むパイロットスーツも通常のものとはまるで違う。

 

 まるで鎧のように重苦しく、さらにヘルメットはフルフェイス。

 

 これらはグレイズノイジーの性能をフルに引き出す為に開発された専用スーツである。

 

 阿頼耶識のように直接肉体と接続された訳ではないが、特殊スーツの効果による機体への伝達速度は通常機を遥かに上回る。

 

 アインのような一体化とは違うにしろ、エリヤもまた別の意味で機体と一体化を果たしていた。

 

 「ん?」

 

 エリヤの視線が戦場へ向くと、アインの援護へ向かったグレイが褐色のガンダムと交戦を開始しているのが見えた。

 

 ノイジーの予備パーツを使って改修を受けたグレイズカスタムは、褐色のガンダム相手に互角の戦闘を繰り広げている。

 

 突貫とはいえ改修を受けた成果か、ガンダム相手にも遅れをとっていない。

 

 それともグレイ・ギベルティの抱く憎悪という執念の賜物なのか。

 

 何であれアレなら簡単に負けはしないだろう。

 

 さらに別方向へ視線を向ける。

 

 グレイの目標であるガンダムアスベエルは、キマリスとグレイズアインに圧倒され、防戦一方である。

 

 すでに装甲のいくつかを破壊され、満身創痍にも見える。

 

 余程の隠し玉でもない限り、勝敗は見えたと言っても差支えないだろう。

 

 あれを見た結果、アインは大丈夫だと判断し、まずグレイは鉄華団の数を減らそうとしているのだ。

 

 感情的に見えてそれなりに考えてはいるらしい。

 

 「ま、勝手についてきただけだし。どうなろうが知った事じゃないけど」

 

 エリヤの標的はただ一つ。

 

 自分に敗北という名の屈辱を与えてきた敵、ガンダムバルバトスを完膚なきまでに叩き潰す事。

 

 普段から感情が希薄な自分が、これほど執着を持つとは思わなかった。   

 

 しかしだからこそ今、胸の内を満たす高揚感が心地よくて仕方がない。

 

 こんな感情を抱いたのは生まれて初めてかもしれない。  

 

 ずっと空虚だった胸の内に宿った炎を絶やさぬよう、感情の赴くままエリヤは喜々としてバルバトスへ襲い掛かった。

 

 

 

 

   

 飛び交う銃弾と砲撃を掻い潜りながら、レンチメイスを振るうバルバトス。

 

 しかし伝わる手応えの無さに、三日月は思わず舌打ちした。

 

 「チッ、こいつら上手い」

 

 増援で現れたグレイズ部隊の練度は、まさに精鋭と呼ぶに相応しいものだった。

 

 阿頼耶識の特性を理解しているのか、無暗に接近戦を挑まず、距離を保ちつつ砲撃戦に徹する。

 

 さらに常にフォーメーションを組み替える事で動きを読ませ難くした上で、懐に入られた場合も防御に徹しつつ後退を優先する事で致命傷を避け、生存確率を高めていた。  

 

 そんな戦法を取っているが故に、三日月は中々敵を仕留める事が出来ない。

 

 だから深追いせざる得ず、結果として砲撃に晒され続け、徐々に削られていくという悪循環に陥っていた。

 

 「こいつら全員、阿頼耶識と戦う事に慣れている」

 

 増援の正体は、ガエリオが連れてきた『氷の女帝』アレクシア・ボードウィン特務一佐直属部隊の一つである。

 

 圏外圏で戦う事の多い彼らは、阿頼耶識に対抗する術を心得ていた。

 

 故に無謀な攻勢は行わず、阿頼耶識有利な接近戦では戦わない。

 

 あくまでも自分たちの土俵で戦う事こそ重要であると知っているのだ。

 

 それでも致命的な損傷に至っていないのは、三日月の技量の高さを証明しているだろう。

 

 ジリ貧ともいえる攻防を繰り返さざる得ない状況を打開しようと、レンチメイスを振るい続けるバルバトス。 

 

 そこへ一機のモビルスーツが突っ込んできた。

 

 巨大な弾丸の如く、猛スピードで肉薄してきたその機体はバルバトスへ向けて、容赦なく刃を振り下ろす。

 

 ブレードの一撃をメイスで止めた三日月の目の前にいたのは、火星から何度も交戦してきた機体グレイズノイジーだった。

 

 「お前!」

 

 「今日こそ潰す、バルバトス」

 

 エリヤの戦意に応えるように、三日月もまた殺意を膨れ上がらせた。

 

 大気圏での事は忘れていない。

 

 こいつの為にビスケットを含めた仲間達が逝ってしまったのだ。

 

 故にこいつは此処で仕留める。

 

 互いに見えない殺意をぶつけ合うと同時に、相手を叩き潰さんと動き出す。

 

 力任せにノイジーを弾き飛ばしたバルバトスが、レンチメイスを振りかぶる。

 

 しかし三日月の予想とは違い、メイスは振り下ろされる直前に流され、振るわれたノイジーのブレードが胸部の装甲に深い傷をつけた。

 

 それに怯む事なく連撃を繰り出すが、悉くが防がれ、逆にカウンターを入れられてしまう。

 

 「ッ!?」

 

 戦場を駆け、腕の機関砲やレンチメイスを駆使しつつ、グレイズノイジーの隙を窺うもバルバトスの攻撃はすべて躱され、受け流されてしまった。

 

 「こいつ……」

 

 元々グレイズノイジーは、従来機に比べても格段に手強い相手であった事は事実だ。

 

 しかし今、目の前にいる敵は以前とは何かが違っていた。

 

 その戦い方、率直に語るならば―――

 

 「面倒臭い」

 

 三日月にしては珍しく、苛立ちの感情を隠さずに吐き捨てる。

 

 それは、それだけグレイズノイジーの相手はやりづらいという事を示していた。

 

 単純な反応速度は依然として阿頼耶識を扱う三日月の方が上である。

 

 どれほど改良を施したとしても、阿頼耶識との差はそう簡単には埋められない。

 

 だが、グレイズノイジーはリスクの高い近接戦を挑みながらも、阿頼耶識の特性を生かさせない戦い方を選んでいた。

 

 具体的に言うならば、常に先手を取られてしまうのである。

 

 まるで三日月の思考を読んでいるのではないかと錯覚しそうになる程にだ。

 

 「もうお前に遅れは取らない」

 

 大上段からの一撃を捌いたノイジーの拳がバルバトス頭部のアンテナを吹き飛ばし、振るった刃が肩の装甲を破壊する。

 

 何処までもバルバトスの攻撃は封殺され、反面ノイジーにダメージを与える事が出来ない。

 

 「反応速度の差じゃない。こっちの動きが読まれてる? 初動の動きを読んで、反応の差を埋めてきているって事か」

 

 三日月の推測は概ね正しい。

 

 これこそグレイズノイジーの真価ともいえるもの。

 

 今までの戦いで蓄積された戦闘データを解析、敵の行動を予測し、表示するフルフェイスヘルメット。

 

 反応速度の差を少しでも埋める為、パイロットの操縦をデータに変換して機体に伝える特殊スーツ。

 

 パイロットの操縦に対応する為の専用コックピットシステムと、ノイジーの機動性強化。

 

 すべてが阿頼耶識に対抗する為に用意された特殊装備。

 

 それを扱うのは、技量も素養としても三日月に劣らないエリヤ・スノードロップ。

 

 故にバルバトス相手と言えども、今までのように倒せる相手では無くなっていた。

 

 さらにグレイズ部隊からの砲撃が無くなった訳ではない。

 

 漏影三機も奮戦してはいるが、数の差はいかんともしがたく、連携を駆使して膠着状態にもっていくのがやっとの状態。

 

 つまり降り注ぐ砲撃に気を割きつつ、ノイジーを相手にせざる得ないというのが三日月の置かれた現状だった。

 

 「ハァァァァ!!!」

 

 砲撃を避けた隙を狙いメイスに蹴りを入れて弾き飛ばすと、同時に振るったブレードで発射しようとしていた右腕の機関砲を打ち壊す。

 

 「ッ、悉くこっちの動きを!」

 

 「もうお前の動きは見切ってる。これまでのように行くと思うな」

 

 バルバトスを蹴り倒した隙に、容赦なくブレードを振り下ろすノイジー。

 

 背中から太刀を抜いた三日月はギリギリ眼前でブレードを受け止めると力任せに弾き飛ばす。

 

 「本当に面倒臭い奴」

 

 認めるしかない。

 

 かつてない程、追い込まれている。

 

 目の前の敵は、歴戦の猛者たる三日月にして危機感を抱く強敵であると。

 

 「けど、此処で終わる訳にはいかないんだ。オルガ達がたどり着くまでは!」

 

 太刀を構え降り注ぐ砲弾に気を配りながら、三日月は奮戦を続けていった。

 

 

 

 

 鉄華団モビルスーツ隊は、この上なく危機的状況へと追い詰められていた。

 

 新型と思わしき三機によって主力であるガンダム・フレームは抑え込まれ、漏影や流星号もまた増援として現れたグレイズ部隊によって動けずにいる。

 

 そんな中で最も危険な状態だったのはアスベエルであった。

 

 砲撃部隊からの攻撃をBGMに、ハルは戦斧を握る怪物に目を向ける。

 

 反応が桁違いに速すぎる。

 

 攻撃は悉く通用せず、機体と一体化を果たしたアイン・ダルトンのグレイズ・アインによる猛攻と、ガンダムキマリスの攻撃によって、完全に劣勢へと追い込まれていた。

 

 「ハァ、ハァ」

 

 《無駄な足掻きもこれまでだ! 死という罰を受け入れろ!》

 

 「誰が」

 

 皆が奮闘している中でどうして自分だけが諦める事が出来ようか。

 

 ハルの戦意は未だ衰えず。

 

 勝つための方策を模索する。

 

 膝を突き巨大アックスを大剣で止めるアスベエル。

 

 そこにグレイズ・アインがもう一本の戦斧を振り下ろそうとした時、ライフルによる攻撃がグレイズ・アインに撃ち込まれた。

 

 ライフルを構えて突っ込んでくるのは、グレイズ改参型、クランク・ゼントだった。

 

 無論、完全な阿頼耶識による一体化を果たしたアインにそんなものが通じる筈もなく、あっさり回避されてしまう。

 

 しかしクランクは怯まない。

 

 シールドからアックスを取り出し、果敢にグレイズアインに斬りかかる。

 

 《まだ仲間がいたか。しかもまたもやグレイズ……貴様らは何処まで俺達の誇りを汚せば気が済むのか!!》

 

 アインの脳裏に浮かぶのは、汚された恩師の駆る機体。

 

 醜い色で汚されたあの機体も、アスベエルを殺した後で必ず取り戻さねばならない。  

 

 そしてそれは目の前の浅黒い機体も同じくだ。

 

 奪われたパイロットの心中は察するに余りある。

 

 ならばその借りは己が返すのみ。

 

 その為の力があるのだから。

 

 《返してもらおう、その機体も! 貴様らを躯に変えて!》

 

 飛び掛かってきたアスベエルを蹴りを入れ、異常な速度でグレイズ改参型の死角に回り込むと、巨大アックスを振り下ろした。      

 

 「その声、まさか」

 

 アックスをギリギリ盾で受け止めたクランクは、ようやく異形の機体のパイロットが誰だか悟った。

 

 しかしアインは声を出す暇すら与えない。

 

 むしろその程度でグレイズ・アインを止められたと思うのは、あまりに浅はかだと攻撃を繰り出す。

 

 嘲るようにほくそ笑んだアインは繰り出した蹴りで盾を弾き、仰け反るグレイズ改参型へと手を伸ばした。

 

 《死ね!》

 

 だが、突如聞こえてきた予想外の声に、グレイズアインは動きを止めた。

 

 「アイン!」

 

 《えっ、まさか、その声……クランク二尉?》

 

 「そうだ」

 

 今更、敵となった元部下に何と言葉を掛ければ良いのかは分からない。

 

 むしろ何も言わずに倒されるべきだったのか。

 

 迷いは消えず、それでも彼の抱く憎しみの念だけは晴らさねばならないと苦渋の声を絞り出す。

 

 「アイン、お前にもグレイにも詫びても詫びきれない。しかし俺の事に関して彼らに罪はない。あの日、伝えたようにすべては俺の―――」  

 

 《ハ、ハハ、アハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!》

 

 突如として響くアインの哄笑によってクランクの言葉は遮られてしまう。

 

 その笑いは常軌を逸しているような、狂気が籠められていた。

 

 《そうか、そうでしたか! クランク二尉、奴らの死に様を見届ける為に、地獄から舞い戻ってくださったのですね!!》

 

 「アイン!?」

 

 クランクは知らない。

 

 すでにアイン・ダルトンは狂気に侵されていた事を。

 

 憎しみと怒りに呑まれていたのを。

 

 彼はすでに引き返せない地獄に落ちていたのだ。

 

 故に胸に燻る憎悪の炎が脳髄にまで達しているアインは、クランクが生きていたという事実が認識できない。 

 

 《見ていてください、俺は貴方の意思を継ぎます! 貴方の無念を晴らして見せます!》

 

 「クランク、離れろ! そいつはとっくに―――」

 

 正気を失っているとハルの叫びも空しく、グレイズアインは止めていた手を伸ばし、グレイズ改参型の肩を掴むと容赦なくパイルバンカーを打ち込んだ。

 

 「ぐああああ!!」

 

 「クランク!? お前!」

 

 《アハハハハ! これで貴方の無念も、クランク二尉! 奴らの死が―――ッ!?》

 

 肩装甲ごと腕を吹き飛ばされたグレイズ改参型に止めを刺すべく、頭部を握り潰そうと掴んだ瞬間、彼の機体から漏れ聞こえてた声がアインの動きを止めた。

 

 それは雪之丞からの現状報告。

 

 命賭けの奮戦のお陰で、都市部侵入に成功したという声。

 

 だがそれ以上にアインの刺激したのは、クーデリアも蒔苗と一緒に議事堂へ向かっているという事実だった。

 

 《クーデリア・藍那・バーンスタイン! あの女もまた奴らと同じく罰を受けねばならぬ! 好きにさせると思うな!!》

 

 グレイズ改参型を掴んだまま飛び上がったグレイズ・アインは、都市部の方へと駆けていく。  

 

 「お嬢様を狙って!? 行かせるか!!」

 

 「何処へ行くつもりだ? 貴様の相手は俺だ!」

 

 グレイズアインを追おうとしたアスベエルの前に、キマリスが立ち塞がる。

 

 振るったサーベルと大剣が火花を散らし、アスベエルの振り下した拳がキマリスの肩に突き刺さる。

 

 「退けェェェェェェ!!」

 

 「ッ、オオオオオオ!!」

 

 負けてたまるかと態勢を崩しながらも突き出した頭部がアスベエルと激突。仰け反った隙に突き出したサーベルが、脇腹を削るように滑っていく。

 

 焦るハルと猛るガエリオの激突。

 

 二機のガンダムは睨み合う形で膠着する。

 

 このままではアイツにクーデリアが殺されてしまう。

 

 冗談じゃない。

 

 ふざけるな。

 

 誰がそんな未来を認めるものか。

 

 最悪の未来を消し潰さんと、ハルの焦りはますます募っていく。

 

 「さっきも言った筈だ! 此処が貴様の墓場となるってな!」

 

 「アンタに構ってる暇なんてないんだよ!」

 

 再び構えた刃が交差しようとしたその時、別方向からの砲撃がキマリスに直撃する。

 

 「何!? ぐあああ!!」

 

 連続で発射された砲撃は正確にキマリスに突き刺さり、見事に動きを止めて見せた。

 

 その隙に大剣を叩きつけたハルは、この機を逃すまいと都市部へ向けて飛び出した。

 

 「くそ、何者だ! 俺の邪魔をするのは!!」

 

 その場に残されたキマリスの前に降り立ったのは―――

 

 

 「今更になって元部下を援護してやる羽目になるとはな」

 

 

 グレイズ、ゲイレールといった既存機の特徴を受け継ぎながらも、全く違う機体として生み出された異端機『グリード』

 

 操るパイロットは勿論、百戦錬磨の傭兵サイラス・スティンガーであった。

 

 「さて、悪いが此処から先は俺と軍事教練の時間だ、お坊ちゃん」  

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。