機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ vivere militare est   作:kia

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第27話 新たな道

 

 

 

 

 此処は地獄だった。

 

 少なくともそこに座る少年にとってはそうだった。

 

 薄暗く、見通しの悪い一室。

 

 碌に掃除もしていなければ、換気もしてない為に空気が悪い。

 

 食事も最低限で、暇があれば理不尽な暴力。

 

 自由な時間もなく、自分と同じ境遇の子供達と一緒にすし詰めにされる。

 

 そして報酬も何もない、家族を殺した連中の為に命がけの戦闘にかり出されるのだ。

 

 これを地獄と言わずに何という。

 

 「……何で俺がこんな目に」

 

 世の理不尽を嘆いた所で現実は一向に変わらない。

 

 それくらいは分かっているつもりだ。

 

 それでも今まで教育を受けていた分、他の連中よりも諦めが悪いのは仕方がないだろう。

 

 「全部アイツらが」

 

 脳裏に浮かぶのは自分をこんな目に合わせた遠因となった連中の事。

 

 世間では英雄などと言っている奴もいるが、とんでもない。

 

 胸の内に燻る憤りを堪えながら次の仕事の時間まで、ひたすら耐えていると不機嫌そうな顔を隠さず、自分たちの『所有者』が姿を見せた。

 

 「仕事の時間だ、ヒューマンデブリ共。今日もしっかり働け、我々『夜明けの地平線団』の為にな」

 

 自分でやれと吐き捨てたいが余計な口答えは、理不尽な暴力を招くだけだ。

 

 黙って指示に従いながら部屋を出る。

 

 「お前らの代わりはいくらでもいるんだ。死にたくないなら、精々頑張れよ」

 

 大人の嫌味を聞き流し、割り当てられた自分の機体に乗り込んだ。

 

 「全部アイツらの所為だ……鉄華団」

 

 

 

 

 

 

 世界に衝撃をもたらした『エドモントン動乱』から幾ばくかの時が流れた。

 

 この間に世界は少しづつ、だが確実に変化を遂げ、不穏な空気もまた徐々に濃くなりつつある。

 

 きっかけはやはり『エドモントン動乱』からだろう。

 

 アーブラウ指名選挙にて蒔苗・東護ノ介は再選を果たし、同時に起きた戦闘を皮切りにギャラルホルンの腐敗が世界に暴かれた。

 

 元々燻っていたギャラルホルンに対する不信感はより大きくなって各経済圏に波及、その権威を失墜させた。

 

 結果、各経済圏はギャラルホルンに頼らない独自の軍備拡張に舵を切り、圏外圏においてはその流れをさらに加速させている。 

 

 その遠因の一つとなったのが鉄華団である。

 

 最初期はそれこそ誰からも注目されることもなく、彼らを知る者もまた何も成せずに消えていくだけの存在だと思われていた。

 

 しかし命知らずとも言える前進を続け、ついにはハーフメタル利権を手土産に圏外圏屈指の組織の一つ、テイワズの直系団体となった。 

 

 所詮は運だと気にしない者もいる。

 

 時代の流れに乗っただけだと鼻で笑う者もいる。

 

 テイワズに利用されているだけだと冷たい視線を向ける者もいる。

 

 確かに事実も含まれている。

 

 だが、知る人は言うだろう。

 

 決してそれだけではないと。

 

 絶対に諦めない強い意思と決意がこの結果を呼び寄せた事は、彼らを深く知る者達は誰もが理解しているのだから。

 

 そうとも。

 

 どういう経緯であれ、鉄華団は取るに足らない子供の集まりから、同業者も羨む急成長企業へと変貌を遂げたのだ。 

 

 アーブラウの防衛力強化の為、正規軍の軍事顧問に任命。

 

 地球での活動の拠点であり、足掛かりでもある地球支部を開設した。 

 

 テイワズに加わり、さらには地球での活動も保障された。

 

 まさに順風満帆である。

 

 しかし一見良い事尽くめに聞こえるが無論、これは鉄華団側から見たらの話。

 

 コインの表と裏だ。

 

 何事にも反面というものが存在する。

 

 要するに鉄華団は活躍しすぎたのだ。

 

 彼らの功績が図らずも少年兵の有用性が証明した形となり、多くの子供達が戦場に送られ、ヒューマンデブリが飛躍的に増加したのだ。

 

 さらにモビルスーツの重要性も再認識された事で、厄祭戦時代に使用されていた機体の復元、修復が進み、その稼働数は『エドモントン動乱』以前とは比較にならない程である。

 

 とある歴史家は言う。

 

 『鉄華団の存在こそが時代を動かす起爆剤になったのだと』

 

 別の歴史家は言う。

 

 『鉄華団こそが世界混迷の遠因であり、多くの犠牲者を生み出す切っ掛けとなった集団なのだと』

 

 どちらも間違ってはいない。

 

 しかしどちらも正確ではない。

 

 彼らは世界を変えようとした訳ではなく、ただ生きようとしていただけの子供達。   

 寄る辺を無くした子供達の帰る場所こそが鉄華団だった。

 

 だから彼らは命を懸けて戦い、鉄華団を守ろうと奮起した。

 

 鉄華団が存在し―――否、団員達が生きている限り、前進し続ける。

 

 その結末がどうであれ、彼らの戦いは続いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 クーデリア・藍那・バーンスタイン。

 

 今や圏外圏のみならず、地球圏においてもこの名を知らぬ者は誰もいないだろう。

 

 『革命の乙女』と呼ばれ、人々の願いによって形を持った偶像の英雄は、一連の事件を以って本物となったのだ。

 一躍時の人となったクーデリアはテイワズと協力し、ハーフメタルの流通と一次加工を手掛けるアドモス商会を設立。

 

 鉄華団と提携し、サクラ農園に孤児院の運営を開始した。

 

 彼女の夢は一歩、一歩、小さいながらも確実に歩を進めている。

 

 しかし未だに子供が搾取される世界は変わっていない。

 

 否、見方によっては以前よりも悪化しているとも言えた。

 

 それでも彼女のやるべき事は変わらない。

 

 失ったものに報いる為に、奪ったものへの贖罪の為に。 

 

 せめて最後の瞬間まで、目指すべきものへ向かって歩み続けなければならない。

 

 それこそが償いの道と信じるが故に。

 

 彼女は今日もより良い明日を目指して歩んでいた。

 

 「―――という訳で今度私の主催する集会に出席してはいただけないでしょうか?」

 

 クリュセ市内にあるアドモス商会の社長室で業務をこなしていたクーデリアの前で得意げに話しをしている男がいた。

 

 名はアリウム・ギョウジャン。

 

 活動家団体テラ・リベリオニスの代表を務める人物である。

 

 彼らはかつて火星の変革を目指していたクーデリアが接触した事がある活動家団体の一つだ。

 

 とは言ってもそこまで深い付き合いではなく、精々話を一度した程度に過ぎない。

 

 そんな彼らが今、クーデリアの元を訪れているのは、無論打算的な理由がある筈だ。

 

 「……申し訳ありませんが、アリウムさん。私はその手の活動に参加するのは勿論、公の場で発言するのは控えているのです」

 

 「ふむ、なるほど。貴方は今や有名人、このアドモス商会の運営もある。……そういえば近々ハーフメタル採掘場での視察もあるとか」

 

 「ッ!?」

 

 公表していない採掘場視察の件を知っている。

 

 元々信用していなかったが、クーデリアの中でアリウムへの警戒度が跳ね上がった。

 

 「よろしいでしょう。ならばその場に私も赴き―――」

 

 「結構です」

 

 二の句を継がせぬ完全な拒絶にどこか胡散臭い笑みを浮かべていたアリウムが凍り付く。

 

 「理想を語るのが悪いとは言いません、それが必要な時もあるでしょう。しかしそれだけでは意味がない。少なくとも今は薄っぺらな言葉よりも行動で示さなくてはならないのです。……特に数多の犠牲を生んだ私は」

 

 結局、アリウム・ギョウジャンはそれ以上、何も言わずに去っていった。     

 

 しかし―――

 

 「あの男が代表を務めるテラ・リベリオニスはもう風前の灯火。だから有名人の社長を利用して再起を懸けようって腹でしょ。本当、小さい男!」

 

 恰幅のよい色黒の女性秘書官であるククビータ・ウーグの物言いにクーデリアは思わず苦笑した。

 

 彼女は見た目通りバイタリティに溢れ、何でもハッキリ言う性格であり、クーデリアが信頼する片腕とも言える女性である。

 

 未だ若輩であるクーデリアがアドモス商会を運営出来ているのも優秀な彼女がいるからこそだ。

 

 「でも、油断はできません。彼は公表していない視察の件を知っていました」  

 

 「ッ!? まさか、何か仕掛けてくると?」

 

 「……彼の団体が風前の灯であるなら、強行な手段に打って出る可能性は十分にあります」

 

 例えば傭兵などに採掘場を襲撃させ、脅しをかけるとか。

 

 短絡的な方法ではあるが、クーデリアに言う事を聞かせようとするやり方は色々あるだろう。

 

 特に最近はギャラルホルンの権威失墜により、海賊や傭兵が横行する事例が急激に増している。

 

 最悪の事態を考えておいても損はない。

 

 「彼らに……鉄華団に連絡を」

 

 鉄華団は彼女にとっての理解者であり、仕事上のパートナーでもあり、そして代えがたい家族である。

 

 その信頼は誰より厚い。

 

 彼らならば大丈夫だと信じられる。

 

 その顔にかつて振り回されていただけだった少女の面影はない。

 

 鉄華団との旅は彼女を確実に成長させ、強くしていた。

 

 

 

 

 

 火星クリュセ郊外。 

 

 岩と荒野が広がる場所に立つ無骨な施設が世界にその勇名を轟かせた鉄華団の本部である。

 

 薄汚れた施設は変わらずだが、真新しいモビルスーツの格納庫などが増設されていた。

 

 その規模は設立当時からは想像も出来ない程、拡大しているのが見て取れる。  

 

 そして本部近くの荒野では轟音と共に二機のモビルスーツが矛を交えていた。

 

 「反応が遅いよ!」

 

 渾身の一撃をあっさり受け流され、踏鞴を踏んだ所に容赦ない連撃が襲い掛かる。

 

 モビルスーツのスラスターが噴射される度に砂埃が舞い上がり、鍔迫合いの度に金属音が響き渡った。

 

 行われているのは新型機のテストを兼ねた実機演習である。

 

 新型機の名は『獅電』

 

 百里、百錬のデータを元にして開発したテイワズ初の量産型モビルスーツである。

 

 テイワズ独自に開発した『イオ・フレーム』を用いたこの機体は極めてスタンダードなものとなっており、突出した性能よりも汎用性を意識した設計となっている。

 

 故に機体性能を発揮させるにはパイロットの腕前がモノを言う訳なのだが―――

 

 「たく、これじゃテストにならないだろうがよ」

 

 「アハハ、やっぱり練度が違いますよねぇ」 

 

 獅電での演習を行っているのはラフタだ。

 

 テイワズ製の機体に乗り慣れているラフタ相手に鉄華団のメンバーでは荷が重すぎるという事だろう。

 

 「ちょっと勘弁してよね!」

 

 「アンタらが使い物にならないと、私ら名瀬の所に帰れないんだからね!!」

 

 ラフタとアジーの心の底から出た叫びに雪之丞も申し訳なさそうに隣に立つナーシャに頭を下げた。

 

 「何か、すまねぇな」

 

 「大丈夫ですって。会えないのは寂しいですけど、連絡も取ってるし。これもお仕事ですから」

 

 続くモビルスーツ同士の模擬戦闘。  

 

 それに見入っていたのが新たに鉄華団に加わった新入り達だ。

 

 「モビルスーツ、カッコいいな!」

 

 「すげぇよ、初めて動かしてんだろ」

 

 初めてモビルスーツを見るのか、訓練中にも拘わらず誰もが目を輝かせている。

 

 「あれが阿頼耶識の力か」

 

 「ああ、そっか。だよなぁ、じゃなきゃ初めてであんな風には動かせないよな」

 

 「獅電に阿頼耶識は付いてねぇよ」

 

 「うげ、シノさん」

 

 「ザック、うげってのはなんだ! ともかくあれは厄祭戦時代の古いシステムでよくわからない事が多すぎるから、テイワズの新しいシステムには乗せられないんだとさ」

 

 「へぇ」

 

 シノの説明に納得したように頷く新人たちだが、それは半分嘘で半分は本当だ。

 

 阿頼耶識システムに不明な点が多いというのは本当である。

 

 しかし獅電に阿頼耶識が付けられない訳ではない。

 

 現にシノの機体には阿頼耶識システムが搭載されているのだから。

 

 そんな嘘をついた理由は簡単だ。

 

 新人に自分達のような思いをして欲しくないという彼らなりの思いやりだったのだが―――

 

 「でも、モビルスーツ以外にも使えるんでしょ。モビルワーカーとか、宇宙の仕事とか」

 

 「確かに! ちょっとの手術であんな力が手に入るんだもんな」

 

 「何で団長は俺らにしてくれないんだろ」

 

 知らないが故に彼らの思いは上手く伝わらず、口から出るのは不満だけ。  

 

 流石に一喝してやろうかとシノが声を荒げようとした瞬間、近くにいたユージンが口を挟んだ。

 

 「俺らはな好き好んでこんな手術をした訳じゃねぇ。こんな博打みたいな手術をしなくてもいいような場所を作って行くんだよ、お前らとな」

 

 ユージンの言いたい事がいまいち伝わっていないのか新人たちは顔を見合わせるだけ。

 

 だがシノには言いたい事が伝わっていたらしく、ニンマリと笑みを浮かべると呆けた新人たちを一喝する。

 

 「おら、お前ら! もう十分休んだよなぁ、追加は十周くらいで良いかぁ!!」

 

 「えええ!?」

 

 「さっさと走れ!」

 

 悲鳴を上げて走り去る新人たちの背を見送ったユージンは嘆息しつつ、呟くように吐き捨てる。

 

 「やっぱ上手くいかねぇ。ちゃんと伝わってねぇんだろうな」

 

 「んなことないって。良いこと言うじゃん!」

 

 「ああ、流石は副団長だ」

 

 いつの間に近くに来ていたのか、黒髪に一部白髪の混じった少年が立っていた。

 

 驚いた二人だったが、すぐに誰か気が付いて笑みを浮かべる。

 

 「帰ってたのかよ、ハル」

 

 「いつ戻ったんだ?」

 

 立っていたのはコートを着込んだハルだった。

 

 前に着ていたラフな格好ではなく、きっちりとしたスーツを身にまとっている。

 

 「ついさっきだよ。でも、きちんと副団長やってて関心した」

 

 「茶化すなよ。オルガが―――団長がらしくない事やってんだ。俺も少しは役に立たないと。本当はもっとやれる事もある筈なんだが、全部抱え込みやがって。もう少しこっちを頼れって話だけどな。それで、そっちの仕事は?」

 

 「ああ、後で報告書を上げておくからちゃんと目を通しておいてくれ。それから―――」

 

 「ん、どうした?」

 

 躊躇うように言葉を濁らせたハルに二人は顔を見合わせる。

 

 その表情は暗く、だからこそ現在のハルの立場を考えれば、それが何を指し示すのかは自明の理であった。

 

 「……まずはオルガに報告しないといけないから、詳しい話は後で聞いてくれ。でもこれだけは確かだ。近々荒事が起きる。二人とも準備をしておいてくれ」

 

 「了解」

 

 「ああ、分かった」

 

 頷く二人に背を向けたハルは本部の中へ入っていく。 

 

 足を踏み入れたのは空になった元動力室。

 

 此処は元々バルバトスが動力源として利用されていた場所である。

 

 その場所でオルガは三日月と二人でハルを待っていた。

 

 「よう、お疲れ」

 

 「そっちもな。慣れないデスクワークで疲れてる所、悪いがアドモス商会からの話は聞いているよな?」

 

 「ああ、採掘現場視察の護衛だろ。ミカにも話していたんだが、明日からおやっさんとバルバトスを取りに行ってもらう」

 

 今、バルバトスはグシオンリベイク、アスベエルと共に改修作業の為、歳星へと運ばれている。

 

 あの三機は『エドモントン動乱』における損傷が激しすぎ、鉄華団独力での修復は不可能な状態にまで陥っていた。

 

 ならば良い機会だと戦闘データを反映した改修をしようと歳星の整備長が大はしゃぎで提案してきた訳だ。

 

 しかも費用はテイワズ持ち。

 

 美味しすぎる話に疑問も湧き上がるが、テイワズにハーフメタルの恩恵を齎した礼という事なのだろう。

 

 「で、襲撃してくるのか?」

 

 「ほぼ間違いなく。仕掛けてくるのは『夜明けの地平線団』。艦艇十隻以上、構成員二千五百人、テイワズも手を焼く大海賊、それがテラ・リベリオニスと組んでいる」

 

 「そこまで分かってるなら、事前に叩けないの?」

 

 「どうやら向こうはアリウム・ギョウジャンがアドモス商会に接触する前から準備してたらしく、すでに火星に潜伏済み。何か所か連中の潜伏地点と思わしき場所を発見、潰したけど構成員を含めた全部が囮で本命は未だ見つからない。ただモビルスーツを複数機、抱えているのは間違いない」 

 

 「用意周到な事だな」 

 

 こうなっては後手に回らざる得ない。

 

 襲撃があるのが分かっていても、潜伏場所も、襲撃時間も不明では攻勢には出られない。

 

 出来る事があるとすれば、防備を万全にしておくくらいか。

 

 「アーブラウからのお客も来るから視察は中止出来ない。ま、海賊相手に退いたとあっては面子も丸潰れだし、やるしかねぇな。ミカ、予定通り頼むぜ」

 

 「分かった」

 

 「ハル、お前は引き続き連中の行方を追ってくれ」

 

 「ああ、こっちでも念のために仕込みをしておく」

 

 「頼むぜ、鉄華団諜報部隊長さんよ」

 

 オルガの言葉に背を押され、ハルは動力室を後にする。 

 

 やるべき事はまだまだある。

 

 特に三日月が襲撃に間に合うかは微妙な所。

 

 だからこそ万が一の備えは必要だった。

 

 

 

 

 新たに鉄華団に加わった新人ハッシュ・ミディは揺れるたき火の炎を眺めながら、今の現状に不満を抱いていた。

 

 「……何が実戦だよ」

 

 数日前、団長から初仕事として任されたのが、今回のハーフメタル採掘場の護衛だった。

 

 しかし護衛とは名ばかり。

 

 結局、数日間何も起こる事はなく、明日には護衛任務はめでたく終了となる。

 

 ハッシュとしては初陣で手柄を上げてやろうと息巻いていただけに、この結末は肩透かしどころか、憤りすら覚えてしまう。

 

 「昼は良く分からないお偉いさんの護衛に夜は交代で哨戒」

 

 「んで、明日で終わりだもんな。結局、何もないままか」 

 

 「ま、お姫様は美人だったけどな」

 

 「確かに」

 

 馬鹿話に花を咲かせ始める同期のザック達の話に耳を傾けながら、ハッシュは何度目かのため息をついた時だった。

 

 凄まじい速さでモビルワーカーが突っ込んできたのだ。

 

 「お前ら早く持ち場につけ!」

 

 「は?」

 

 血相を変えて飛び込んできたのはハッシュ達が所属する実働二番隊の隊長昭弘とライドだった。

 

 彼らの声色と表情からも何が起こったのかはすぐに理解できた。

 

 ハッシュが待ち望んでいたもの。

 

 「敵が来るぞ!」

 

 つまり実戦である。

 

 望むところだと意気揚々とモビルワーカーへと乗り込んだ。

 

 昭弘達の形成した防衛ラインに加わり、侵攻してくる敵を迎え撃つ。

 

 攻めてきたのは青いモビルワーカー。

 

 その型からギャラルホルンのものとは違う、傭兵が使用している機体だと判別できる。

 

 情報通り海賊なのだろう。

 

 「新入りは此処で牽制射撃だ! 前には俺達が出る、行くぞライド!」

 

 「了解!!」

 

 昭弘達を中心とした歴戦の戦士達が前線に飛び出し、敵機を次々と撃墜していく。

 

 その動き、流石としか言いようがなく、目で追うのもやっとである。

 

 「すげぇ」

 

 繰り返される砲撃によって地面が抉られる振動に機体が揺れる。

 

 砲弾が炸裂する恐怖よりも手柄を立てる機会が失われていくのが歯がゆい。

 

 「ザック、俺らも前に出るぞ! こんな場所で撃ってたって手柄もたてられねぇ!」 

 

 「お、おう!」

 

 それは命令無視の独断行動だ。

 

 しかし戦場に出て手柄を上げれば問題ない。

 

 新人故の無謀。

 

 だが諫める者は誰もおらず、血の気の多い者から我先にと前に出ようとしたのだが、コックピットに響き渡る警戒音に全員が身を竦ませる。

 

 「これはエイハブウェーブの反応?」

 

 それが指し示す事実は一つだけ。

 

 彼らにとって最大の脅威が近づいてきた事を意味していた。

 

 「やっぱり来やがった!」

 

 「モビルスーツ、数は五機!!」

 

 地を行くモビルワーカーにとって、戦場を駆ける者にとってモビルスーツ程の脅威はあるまい。    

 

 モビルワーカーで戦った所で勝ち目は欠片もなく、傷一つ付けられずに潰されて終わりだ。

 

 そんな結末を全員が幻視したからか、先ほどまでの威勢の良さは消え失せ、恐怖に身が竦む。

 

 巨人から放たれる攻撃を死にもの狂いで避けながら、後退していくモビルワーカー隊。

 

 当然の事ながら、逃げ切る事が出来ずに砲撃の犠牲になる味方も多数いた。

 

 先ほどまで共に飯を食い、くだらない話で盛り上がっていた仲間が物言わぬ屍へと姿を変えた。

 

 当然そうなる覚悟も決めていたし、話も勿論聞いていた。

 

 しかし現実にこうして目の当たりにすれば、感情が乱れるのも必定。

 

 新人の大半が恐慌状態へと陥ってしまう。

 

 「うわあああああ!!」

 

 「死にたくねぇぇ!!」

 

 統制の取れない軍隊など烏合の衆。

 

 モビルスーツの良い的でしかない。

 

 「俺はこんな所で!」

 

 様々な事がハッシュの脳裏に浮かんでは消えていく。

 

 爆発で機体が揺れ、大きく態勢を崩してしまった。

 

 「や、やべぇ!」

 

 「クソォォ!!」

 

 覚悟を決めて歯を食いしばった瞬間、頼もしい声が通信機から聞こえてきた。 

 

 「待たせたな、てめぇら!!」

 

 颯爽と、満を持して戦場に現れたのは三機の獅電。

 

 鉄華団実働一番隊、否、その名は―――

 

 「流星隊、行くぜェェェ!!」

 

 「え、流星隊って?」

 

 「俺らの事?」

 

 モビルワーカー隊を守るように割り込んできた流星隊が敵モビルスーツを押し返す。

 

 流星隊の実力はハッシュの考えている以上のものだった。

 

 戦い慣れした動きで敵の攻撃を捌きながら、着実に一機づつ潰していく。

 

 「すげぇ」

 

 「ああ」

 

 「おい、何やってんだ! 今の内に補給を済ませろ、急げ!」

 

 「でも、味方は押してますし、そんな慌てなくても」

 

 「何を呑気な事言ってんだ! 奇襲されでもしたらどうするつもりだよ!!」

 

 年下の先輩に怒鳴られて慌てて動き出す。

 

 一見情けない光景にも見えるが、彼らの方が戦場に身を置いて長いのだ。

 

 今日初陣を向かえたばかりのド素人の意見などまかり通る筈がない。

 

 そして、そんな先輩達の言葉を証明するかのように、別方向から無数の敵が押し迫ってきていた。

 

 増援に次ぐ増援に背筋が凍り付く。

 

 「マ、マジで来た」

 

 「おら、出るぞ! 隊長からも防衛ラインを作って足止めするって命令きたろ!」

 

 「で、でも、モビルワーカーでモビルスーツの相手なんて―――」

 

 「行くしかねぇんだよ、死にたいのか! それに俺らに他に行く場所なんてないんだぞ!」

  

 躊躇うことなく戦場に向かっていく、年下の先輩に得体のしれない薄ら寒さを感じてしまう。

 

 「何なんだよこの人達は……」

 

 恐怖はないのか?

 

 何故、アレに躊躇なく向かっていける?

 

 初めから鉄華団として活動してきた者と新しく外から入ってきた者。

 

 その温度差が浮き彫りになる。

 

 しかし異を唱える事など出来よう筈もなく、葛藤しながらハッシュ達もモビルワーカーに乗り込んだ。

 

 今度こそ死ぬかもしれないと何時でも砕ける薄っぺらい覚悟を抱きながら。 

 

 

 

◇   

 

 

 

 絶え間なく続く戦闘音。

 

 砲弾が弾ける度に命が失われていくのを噛みしめながら、オルガは一人、採掘場に設置された施設の入口に立っていた。

 

 「オルガ団長、視察団の避難が完了しました」

 

 施設の中から出てきたのは視察の段取りを組んでいたクーデリアだ。

 

 この手の荒事にも一切動じる事無く、的確に動いている。

    

 「アンタも避難しろよ」

 

 「その言葉、そのままお返しします」 

 

 ずいぶん肝が据わったものだと感心しながら、戦場へ視線を戻した。

 

 戦況は五分。

 

 奇襲でありながらも、互角の状態に保っていられるのは事前に備えをしておいたから。

 

 しかし押し返すには一手足りない。

 

 だがオルガは口元に笑みを浮かべながら、余裕で戦場を眺めていた。

 

 「俺らはアンタと違って理想も志もねぇ。土台の無い俺らは進み続ける事でしか、自分たちの居場所を守れねぇんだ」

 

 

 その瞬間、空に一条の光が灯った。

 

 

 轟音と共に徐々に地上へと落ちてくる、流れ星。 

 

 

 「ま、アイツが居る限り、俺は」

 

 

 そして地下から響き渡る振動が大地を揺らす。

 

 

 「逃げる事なんて出来ねぇんだけどよ」

 

 

 降下した流星と大地の震動は同時にその正体を地上へ晒す。

 

 

 空から落ちてきたのは悪魔だった。

 

 

 迫る敵の隊列を砲撃で乱した所にメイスによる強烈な一撃を叩きつける。

 

 

 そして地下から出現したのもまた悪魔だった。

 

 

 背負った大剣を振りかざし、進撃してくる敵機を容赦もなく斬り潰した。

 

 

 新たな姿となった二体の悪魔は再び世界にその名を轟かす事になる。

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