機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ vivere militare est 作:kia
夜明けの地平線団。
現在、地球圏においても名の知れた大海賊である。
規模もさる事ながら、戦力、人員、そしてこれらを統括する指揮官。
すべて一流であり、ギャラルホルンにも負けぬと、大海賊の首魁であるサンドバル・ロイターは、臆面もなく自負している。
故に鉄華団の件、は激しい憤りを禁じ得ないものだった。
敗北し、あっさりと撤退を選択した連中も腑抜けだが、それ以上に自分たちに恥をかかせた鉄華団を許す訳にはいかない。
そう―――
「鉄華団との件は、すでにアリウム・ギョウジャン、貴様の依頼とは関係のないものとなった。奴らは我ら夜明けの地平線団の名誉と誇りに懸けて、必ず始末する」
《そ、それは頼もしい話だな。しかし連中の後ろには、テイワズやアーブラウの蒔苗もいる。こちらは大金を払っているのだから、情報の共有くらいは》
「活動家風情が!」
「誰にものを言ってやがる!」
これ以上の会話は無駄であると判断したサンドバルは、即座に通信を切った。
所詮は小物。
自身の保身にしか考えておらぬ塵など、話をしていても意味はない。
重要なのは―――
「相手が鉄華団だろうと誰だろうとやることは変わらない。倒して、剥いで、奪う! それだけだ!」
それが海賊の流儀。
相手が誰だろうと怯む事はなく、ましてや舐められる等、言語道断。
恐怖されてこその海賊なのだ。
「それで、そっちは当てにして良いだろうな?」
サンドバルは背後に立つ人物に目を向けた。
その人物を一言で現すとすれば、『黒』
黒いコートで身を包み、顔には素顔を隠すヘルメット。
一見して信用できる要素など、欠片も見られなかった。
現にサンドバルの傍に控える側近たちは、誰もが胡散臭い視線を黒い人物に向けている。
「……問題ない。機体の調整も順調に進行している」
「そうか。傭兵ならそれなりの仕事を期待したい所だな、ロキさんよ」
挑発的な意図を込めた言葉だったが、ロキと呼ばれた人物は特に反応する事もなく、ブリッジを後にした。
「あんな奴、信用できるんですか?」
「信用なんてしちゃいない。だが、使える物は使わせてもらう」
先ほどはああ言ったが、ロキの腕前は確かだ。
あの見たこともないモビルスーツを、手足のように扱う技量は紛れもなく一流。
採掘場の戦闘においても、ロキが居なければ襲撃部隊は全滅していた可能性もある。
ガンダムを相手にして尚、ほぼ損傷なし乗り切っている事が、ロキの力量の高さを証明していた。
そう、奴は使える。
素性も何も関係ない。
なら精々役に立ってもらう。
裏切れば殺せば良いだけ。
信用も、信頼も必要ない。
海賊に必要なものは、相手を屈服させるだけの圧倒的な力に他ならない。
「さて、では準備が整い次第、奪いに行くとしようか。待っていろ、鉄華団!」
サンドバルは獣のような鋭い視線で、暗い宇宙の先に居る獲物に狙いを定める。
彼らは海賊。
故に狙った獲物は絶対に逃がさない。
すべてを奪い尽くすまで。
そして当たり前と言えば当たり前の話だが、ロキと名乗る人物もまた、サンドバル達を信用などしていなかった。
海賊である以上、薄っぺらな契約や口先の信頼を向けられようと、信用など出来る筈がない。
用が無くなれば躊躇なく、ロキを切り捨ててくるだろう。
だが、それで良い。
奴らはこちらを利用しているだけであり、そしてロキもまた彼らを利用しているだけなのだ。
ロキが訪れたのは格納庫。
夜明けの地平線団の主力であるガルム・ロディを含め、サンドバル達の機体も調整が進められていた。
それには見向きもせず、ロキが足を向けたのはヒューマンデブリ達のいる一画だ。
座り込む子供達は、誰も彼も死んだ目をしている。
希望はない。
あるのは諦観と絶望だけ。
戦って抗ってやろうという気概が微塵も感じられない。
彼らの境遇からは致し方ないのかもしれないが、それでは次の戦闘で死ぬ事になる。
戦場はそんな気概で切り抜けられる程、甘くはないのだから。
もはや死ぬと見切りをつけた連中は無視し、未だギラギラした目で奥に座る少年の前に立った。
「何だよ、アンタ」
突然現れた素顔も見えない人物に、ノイは思わず身を固くする。
「……憎いか、ノイ・ロージングレイヴ?」
「ッ!?」
「お前は他の連中とは違う。未だ生きるのを諦めていない。自分を地獄へ追いやった連中を殺してやりたいという感情が伝わってくる」
自身の胸中を的確に言い当てられたノイは、下唇を噛んだ。
こんな感情を抱いている事が分かれば、海賊達に反意ありと判断されて殺されかねない。
まだ自分は死ぬ訳にはいかないのに。
混乱しながらもどうにかこの場を切り抜ける方法を探すノイに、ロキは意外な言葉を告げた。
「……次の戦闘、生き延びてみせろ。そうすればお前の望む道を提示してやる」
「俺の望む道?」
何を言っているのか正確には理解できない。
その言葉に信憑性もなければ、信じる道理も無い。
だが、もしもノイの考えている通りの道であるならば―――
ノイの目に宿る野心の光が増すのを見届けたロキは、ヘルメットの下で笑みを浮かべ、その場を後にした。
◇
エドモントン動乱を経て、ハル・ハウリングの生活は一変していた。
それはクーデリアの護衛から鉄華団へ入団したという環境の変化も含まれてはいるが、単純にそれだけではない。
ガンダムアスベエルの機能解放による代償。
三日月・オーガスが右目の視力と右腕の感覚を失ったのと同様、ハル・ハウリングもある代償を抱える事になったからだ。
それが睡眠障害である。
エドモントン動乱以降、ハルは異常とも言える眠気に常時襲われ、一度眠れば半日以上目を覚まさない場合がざらにあった。
以前ならば数日眠らなくとも問題なく動けていたにも関わらず、今では起きているより眠っている時間の方が長いのだから、堪ったものではない。
諜報部の仕事もあるし、常に眠くては集中力にも欠ける。
それも阿頼耶識で繋がってしまえば、問題なくなる訳だが、白兵戦においては結構なハンデである。
この症状は、アスベエル機能解放時の影響で脳に障害が起こったというのが、相談した際のモーゼスの見解だった。
つまりこの症状が治まる事はない。
だからハルは眠る際、奇襲に備える為に場所を選び、時にアスベエルのコックピットで睡眠を取る事にしているのだが―――
「ん」
「目が覚めた、ハル?」
「……お嬢様」
いつの間にか眠っていたのか、ハルはかなりラフな格好のクーデリアに膝枕をされていた。
何でこんな状況になっているのか、一瞬考えてすぐに思い出す。
夜明けの地平線団に狙われているクーデリアは、サクラ農場に避難し、匿われていた。
その様子を見に来たハルは、クーデリアと過ごしている内に、いつの間にか眠っていたらしい。
「どのくらい眠ってた?」
「半日くらい。体調はどう?」
「相変わらず。仕事に支障も出るし、困るけど、もう治らないからな。しかたない」
ハルの言葉にクーデリアは表情を曇らせる。
そう、ハルの障害は治らない。
治す方法を探して奔走し、それを誰よりも知っているからこそ、クーデリアは自分の無力を痛感しているのだろう。
そんな彼女を安心させる為に頭を撫でる。
「そんな顔するな、俺は大丈夫だ。それより海賊が片付くまでは、サクラ農場で大人しくしててくれ」
「ちょ、私がまるで聞き分けのない子供みたいに! 私の方が年上!」
「はいはい。とにかく此処を出るなよ」
クーデリアの苦情を無視して部屋を出て、すぐ別室にある通信端末に向かう。
相手はすでに待っていたらしく、画面の向こう側で手元の資料を眺めていた。
「少し遅れた」
《構わない。団長のオルガ・イツカと丁度話しを終えて、情報を纏めていた所だ》
通信先の人物はマクギリス・ファリド。
彼こそ、オルガに伝えたギャラルホルン側との伝手である。
エドモントン動乱終結後、諜報部として活動し始めたハルに、マクギリスの方から接触してきた。
『地球軌道上で交戦したグリムゲルデについて知りたい』という理由で。
ヴェネルディ商会についてはハルとしても調べたい。
そこで互いの情報提供を条件として、協力関係を結んだという訳だ。
《現在、夜明けの地平線団所属の船を補足している。その内の一隻が、海賊の頭目サンドバル・ロイターの乗る旗艦と思われる》
「火星から脱出した連中を迎えに来たって所か」
《おそらくは。出来れば雲隠れされる前に仕留めたい。だから私の部隊だけが先行し、火星へ急行している最中だ》
言い分は尤もらしいが、どこか違和感がある。
短い付き合いだが、マクギリスは冷静かつ慎重な男である事は分かっていた。
にも関わらず何処か急いでいるような、そんな気配が伝わってきたのだ。
「何かあったのか? 普段のアンタはもう少し慎重だと思ったが」
《こちらにも事情があってね。詳細は省くが、おそらくアリアンロッド所属の部隊が介入してくるだろう。出来ればそれまでに決着を付けたい》
マクギリスは言葉を濁したが、おそらく内輪もめと言った所だろう。
こちらとしてはそんな物に巻き込まれるのは御免な訳だが、しかし現状、他の戦力を用意できない以上、共同戦線を反故にも出来ず。
結局、ハルは文句を飲み込む事しかできなかった。
「大丈夫なんだろうな?」
《敵対する事はないと保障したいが、絶対とは言い切れない。だからこそ、彼らが介入してくる前に終わらせたいのだ》
事態は切迫している。
だからこそさっさと決着をつけたいのは、鉄華団側も同様である。
故にこれ以上、マクギリスを追及しても意味はないだろう。
必要なのは可能な限り迅速に海賊を駆逐し、不測の事態が起こらないようにする事のみだ。
だが、それでも一つだけ気になる不安要素がある。
「そちらに送ったデータ、あの藍色のモビルスーツに関して分かった事はあるか?」
《調査中ではあるが、現在の所、不明だ。エイハブ・リアクターの固有周波数に、同一のものは存在しなかった。厄祭戦時にデータが失われた機体の可能性もあるが―――》
実際の所、厄祭戦時代にデータが消失した機体が現代で発掘される事は稀にあった。
あの藍色のモビルスーツもその一つなのだろうとは思う。
しかし、もしもそうでなかったとしたら―――
「どちらにしろ戦う事になる。なら、その時に確かめるさ」
打ち合わせを終え、通信を切ったハルはすぐに宇宙へ上がる為、サクラ農場を後にする。
新生鉄華団、最初の激戦が始まろうとしていた。
◇
宇宙を駆ける複数の船。
一隻はギャラルホルン独立部隊『フローズヴィトニル』の旗艦。
その隣には鉄華団の艦『イサリビ』と、そしてもう一隻、新たに配備した輸送艦『ホタルビ』の姿があった。
ホタルビは文字どおりの輸送艦であり、戦闘力は高くない。
しかし、汎用戦艦を核として両サイドに大型コンテナが設置されており、実戦的なモビルスーツ運用母艦として優れた機能を持っている艦である。
このホタルビのお陰で鉄華団は物資の輸送、及び多くのモビルスーツの運用が可能になっていた。
「で、どうすんだ? ハルの話だと、後から来る連中が介入してくると面倒な事になりそうだけどよ」
先行してきたマクギリスと情報のすり合わせを終え、戦闘準備も概ね完了している。
後は夜明けの地平線団トップ、サンドバル・ロイターを捕縛するだけだ。
しかし、事はそんな簡単に運ぶなどあり得るだろうか。
当然、敵もこちらの襲撃を予測している筈であり、警戒しなくてはならないのだが、鉄華団を率いる団長は、だからどうしたと嘯くのだ。
罠なら食い破るまでだと。
「予定通りだ。早めに仕留めたいのはこっちも同じだ。指揮は任せるぜ、ユージン」
「おう!」
「俺はホタルビの方へ行くからな。シノ達を偵察に出してくれ」
命令を受けた流星隊の獅電が先行する。
調整されているのか、宇宙においても獅電の動きは些かの違和感も感じない。
アレも獅電の汎用性の高さ故だろう。
「獅電は問題ねぇようだな。よっしゃ、さっさとグシオンを仕上げるぞ!」
「はい!」
格納庫のモニターで獅電の動きを見届けた雪之丞達は、横たわる褐色のガンダムへ取りついた。
『ガンダムグシオンリベイク・フルシティ』
エドモントン動乱の際に大破したグシオンリベイクを、今までの戦闘データと厄祭戦時の情報を基に、大規模改修を施した機体である。
改修され、パイロットである昭弘に合わせた調整が施された事で、以前よりも格段に性能を向上させている。
その分、機構が複雑で調整が難しいのが難点ではあるのだが。
さらに隣には見慣れぬ機体が固定されていた。
『斬妖』
鹵獲したグレイズと流星号、グレイズ改参型のデータを参考に開発された機体である。
百連でも満足できない高性能機を求めた、一部のパイロットたちの要求に応える形で開発されたもので、高い性能を持っている。
テイワズ次期主力機開発の為の実験機としての側面もあり、パイロットごとに様々なバリエーションも存在していた。
「おう、クランク、腕の方はどうだ?」
「大丈夫だ。機体との接続も問題なかった」
コックピットから降りたクランクは義手となった左腕を掲げると、生身の腕と同じように器用に動かして見せる。
エドモントン動乱の戦いで負傷したクランクは、やむを得ず左腕を切断。
再生治療による腕の復活も可能ではあったが、クランクはそれを固辞した。
この腕は自分の罪の証。
慕ってくれた部下を救えず、葬った罪科であると。
そして無くした左腕に代わり、機械で作られた義手を装着したという訳だ。
『斬妖』はそんなクランクに合わせた改修が施されており、義手である彼の神経とつなぐ事で、阿頼耶識ほどではないにしろ、高い反応速度と対応を可能にしている。
「よし、戦闘準備だ! いつ敵が攻めてくるかわからねぇぞ!」
海賊の領域に入っている以上、いつ戦闘になっても大丈夫なように、整備班は訓練通り、無駄なく効率的に動いていく。
そして雪之丞の危惧はすぐに現実と化した。
「おいおい、何だよ。敵艦は三隻じゃ無かったのかよ」
偵察に出たシノ達。流星隊の眼前には、情報通り三隻の戦艦を確認していた。
だが、それが問題ではない。
問題なのは三隻とそれらに牽引される形で、合計七隻の戦艦がこの宙域に存在している事だった。
つまり夜明けの地平線団の戦力、その半数以上がこの場に集結しているのである。
「やべぇだろ、これ」
相手は無数のガルム・ロディを出撃させ、臨戦態勢に入っている。
さらに、即座に攻撃を仕掛けてきた敵の迅速さに舌を巻く。
「全機、応戦! 後退しつつ、イサリビと合流するぞ!」
とはいえ数が違い過ぎた。
上下左右から迫るモビルスーツはそれだけで脅威だ。
阿頼耶識を搭載している流星号はまだ上手く立ち回りが出来るのだが、通常の獅電では捌ききれない。
「ちくしょうが!」
ガルム・ロディの射撃を躱し、懐に入った流星号のパルチザンがコックピットを突き潰し、すかさず敵機を盾に銃撃を防いだ。
「数が多いぜ!」
だが、だからこそ流星号の力の見せどころだった。
他の機体より反応に優れる流星号なら、敵の攪乱にはうってつけ。
味方の態勢が整うまでは敵陣を引っ掻き回す。
「やるしかねぇな」
ライフルを乱射して敵の動きを阻害しつつ、動きを止めた奴からパルチザンを突き込む。
しかし敵とて黙ってやられる訳もなく、腹部を粉砕したパルチザンを掴み、流星号にライフルを向けてきた。
「遅せぇよ!」
即座に死角に入って射撃を躱すと、ガントレットで頭部を叩き潰した。
今のところ阿頼耶識を搭載した機体が出てない事も幸いし、流星号は優位に立っている。
とはいえ物量差を考えても、それがいつまでも続く筈がない。
「早く来てくれよ。イサリビ」
「……それは無理だな。貴様らを助けに来ている暇はあるまい」
凄まじい速度で突っ込んできたのは、採掘現場で襲い掛かってきた藍色の機体。
速度の乗った槍の一突きが流星号のライフルを破壊し、さらに肩に突き刺さしてきた。
「ぐっ、てめぇは!?」
「……消えろ。目障りだ」
藍色の機体は槍を肩に突き刺したまま軸にして、上昇。
繰り出された蹴りの一撃が、流星号の頭部に直撃する。
「ぐぁあああ」
「シノ、くそ!」
シノを援護すべく集まってくる流星隊。
まるで寄ってくる蠅の如く、鬱陶しい。
ロキは募る苛立ちを噛み殺し、ライフルで迎撃を行う。
それすらも、意を返さずとばかりに突っ込んでくる獅電。
「鉄華団……ヒューマンデブリか」
命知らず。
まさに死を恐れぬヒューマンデブリに似合いの戦い方だろう。
「……哀れ。しかしそれ以上に憤怒が勝る」
何故、抗わぬ?
何故、そのあり様を良しとする?
許せないと思わんのか?
しかしロキはそれを問いかける事はしない。
彼らに慈悲を与える気はさらさらなかった。
「……歴史の彼方に消え去れ、鉄華団。お前達は、存在そのものが誤りだった」
敵の攻撃を鮮やかな動きで回避したロキは武器を構え、流星隊に攻撃を開始する。
「こいつ!」
「連携だ!」
「させると思うのか?」
連携を組む二機をライフルで引き離し、すれ違い様に獅電の腕を斬り裂く。
さらに槍を器用に回転させ、もう片方の獅電の足を斬り払った。
一瞬の早業で獅電二機を無力化。
さらに攻撃を鮮やかに躱すその動きも含めて、やはり只者ではない。
止めを刺すべく槍を上段に構えたが、それをさせまいと流星号が割って入る。
「俺を忘れてんじゃねーよ!」
槍を一撃をガントレットで受け止めながら押し込んでくる敵の姿に、ロキは鬱積した怒りが弾けるのを感じていた。
「忌々しい! 少し早いがいいだろう、好きにやれと言われているしな。貴様らに絶望を与えてやる!」
ロキの憤怒に応えるように、藍色の装甲の一部をパージした。
外れた装甲が流星号を吹き飛ばし、その真の姿が露わとなる。
「まさか、あれは」
見覚えがある。
いや、見覚えがあるどころではなく、鉄華団にとって象徴ともいうべきものと酷似していた。
「ガンダム・フレーム!?」
「このガンダムバラキエルが、貴様達に引導を渡す!」
装備されたブレードを引き抜いたバラキエルは、流星号に向けて振り抜く。
態勢を崩した流星号に斬撃を躱す術はなく、刃は容赦なく流星号の胴体を袈裟懸けに斬り裂いた。
◇
偵察隊が敵部隊との遭遇戦に入っていた頃、イサリビも予想外の奇襲に遭っていた。
進行方向とは全くの逆。
つまり背後から襲撃してきたのである。
攻撃を仕掛けてきた艦は三隻。
展開されたモビルスーツの総数は、確実に鉄華団側を上回っていた。
「チッ、してやられた。くそ、シノ達は?」
「向こうにも敵艦! 数は七、モビルスーツ多数!!」
「リアクターを止め、他の戦艦に牽引させる事で数を誤認させ、その上で挟撃。やってくれるぜ」
鉄華団は完全に嵌められてしまっていた。
転進しても背後からの敵には対応できず、モビルスーツで押し返そうにも総数は向こうが上。
しかも一刻も早く偵察隊と合流しなくては、シノ達が全滅する。
シノ達の件に関しては一応、手を打っているとはいえ、時間がない事に変わりはない。
「このままじゃ押し潰されちまう! となると、オルガ!」
「ああ、進むしかねぇ!」
最善の策はこのまま前進してシノ達と合流、敵艦を突破して態勢を立て直す。
無茶ではあるが、それしか手は残されていなかった。
「三日月、昭弘、クランクのおっさん! 敵をイサリビに近づけるな!」
「分かった」
「おう!」
「了解した!」
イサリビに追随するホタルビから出撃したのは、鉄華団の主力達。
確かに物量では不利であると認めよう。
だが、質でなら決して劣る事はないと断言できる。
何よりこの程度の修羅場、何度も潜り抜けてきたのだ。
此処で屈する理由は何処にもない。
それを体現するかのように、戦場を支配していたのはバルバトス・ルプスだった。
両手に握るメイスを振るいながら縦横無尽に駆け回り、時に射撃を織り交ぜながら敵を次々と排除していく。
まさに『鉄華団の悪魔』と異名されるにふさわしい快進撃だろう。
悪魔の行進を止められる者はおらず、成すがままに蹂躙されていく。
しかし、それを阻むように発射された一撃が、バルバトスの動きを阻害した。
「ッ!?」
三日月は超反応ともいうべき素早い動きで射撃を回避すると、攻撃を仕掛けてきた相手に視線を向ける。
奇しくもそれは流星号が新たな敵の姿を目撃していたのと全く同じ時刻。
「あれは……」
悪魔のごとき一対の巨翼。
宇宙の不気味さを映すが如く赤黒き装甲。
特徴的な頭部と角のようなアンテナ。
その姿は自身の駆る機体と同系統のものと分かる。
「ガンダム」
新たに姿を見せたガンダムは、睥睨するかのようにバルバトスを見下ろしていた。