機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ vivere militare est 作:kia
組織としてギャラルホルンの実情は、盤石な状態からは程遠いものとなっていた。
一部が浄化を図ろうとも、それを許さぬと根付いた伝統が邪魔をする。
ある種、内部抗争にも近い状態となり、組織内での混乱は深刻化の一途を辿っている。
しかし一部、そんな混乱とは無縁の場所が存在していた。
それが火星支部である。
あくまでも、治安を司るギャラルホルンの圏外圏における拠点の一つとして機能していたこの支部は、異質な場所と化していた。
簡単に言ってしまえば、地球本部とは真逆の評価を受けているのである。
エドモントン動乱以降、失墜したギャラルホルンの権威など、どこ吹く風とばかりに火星支部は治安維持活動を続け、成果を上げ続けていた。
夜明けの地平線団を含めた海賊や、傭兵と言った無法者達が火星圏において活動が目立たず、尚且つ他の地域と比べても被害が格段に抑えられているのは、間違いなく火星支部の存在故だ。
結果、失墜した他のギャラルホルンと比べて逆に評価は向上し、余裕のない地球圏側との繋がりは極端に薄れ、独自の組織再編が成されるまでに至っている。
見る者が見れば、同じ名前の別組織だろうと評価したに違いない。
では、そんな火星支部の行動が問題が無いのかという疑問に対しての答えは、白でもなく、黒でもない、グレーであろう。
組織である以上、本部である地球の意向に従うのが当然。
しかし、ギャラルホルンのルールに違反しているかと言えば否だった。
司令官であるコーラル・コンラッドは、極力組織内のルールから逸脱した行動は取らず、臨機応変に火星支部を取り纏めているのである。
その上で成果を上げているならば、面白くはないと思っていても誰が文句を言えようか。
そんな火星支部を取り仕切るコーラルは、いつも通りの鉄面皮で報告書を読み上げていた。
「なるほど。海賊退治にアリアンロッドが直々に」
「はい。派遣されてくるのはクジャン公の部隊だそうで……我々には手を出すなとの命令が来ています」
「勝手な事を、世も末だな。ギャラルホルンの役割は治安維持。それを自分達の都合で歪めた挙句に、勢力争いに利用するとは。そんな事をしている暇に、不正の一つでも洗い出せという。そもそも今の権威失墜の原因とて、自分達だろうに」
統制局の勝手な言い分に心底失望し、同時に侮蔑が入り混じった声で吐き捨てる。
それは常に淡々と仕事をこなすコーラルにしては珍しく、報告書を持ってきた士官がやや驚いた表情で彼を見る。
しかしそんな部下の反応など気にも留めず、読み終えた報告書を机に置くと、予想外の命令を下した。
「……数機のグレイズを、隠密用装備で戦闘宙域に派遣しろ」
「え、しかし手を出すなという命令が」
「手は出さないさ。だが、情報収集くらいはさせてもらう。それに、例のレギンレイズの性能も確認しておきたい」
「了解しました」
「くれぐれも悟られないようにな」
部下の退出と共に、コーラルは端末を操作する。
そこにはあるパイロットとグレイズに似た機体のデータが映し出されていた。
「エリヤ・スノードロップ、そしてグレイズ・ノイジー。これらはやはり……アリアンロッドが得られたものをどう扱っているかで状況も変わる。見ものだな、ラスタル・エリオン司令」
これから起きる戦いに、そしてこの先の事に考えを巡らせながら、コーラルは宇宙の闇を見つめていた。
◇
夜明けの地平線団の策に嵌り、挟撃される形となった鉄華団。
各所で激戦が繰り広げられ、物量で圧倒されつつも、どうにか鉄華団は拮抗した状態で持ちこたえていた。
「ハァァァァ!!」
怒声を上げ、敵陣へ突撃するのはグシオンリベイク・フルシティ。
砲撃など物ともせず、持ち得る火力のすべてを、立ち塞がる敵へと遠慮なしに叩きつけていく。
グシオンリベイクが持っているのは、各所で標準的に装備されているライフルである。
それを両手、そして背中の隠し腕を含めて計四丁。
標準的とはいえ四丁のライフルからなる多重攻撃は、いかに堅牢な装甲を持つモビルスーツだろうとも十分な脅威。
攻撃を受けて動きを止めれば、獅電が黙ってはおらず。
距離を開ければ、堅牢なグシオンリベイクの装甲にダメージを与えられない。
だから海賊の選ぶ選択肢は一つだけ。
「ようやく弾切れだ!」
確かに多重攻撃は厄介なものであったが、ああも連続で発砲すれば弾切れするのは必至。
近接戦武器を装備していないグシオンリベイクを倒す機会があるとすれば、今をおいて他にない。
「これで奴は丸腰、もう何も出来ん!」
ガルム・ロディは腰から近接用武器バスターソードを抜き、弾切れを起こしたグシオンリベイクへ斬りかかった。
だがそれもすぐに悪手であると悟る事になる。
「誰が、丸腰だって!!!」
グシオンリベイクが腰から取り外したシールドが展開され、巨大なハサミが姿を現す。
これこそグシオンリベイクの近接戦武装、シザーズ可変型リアアーマーである。
「何!?」
虚を突かれたガルム・ロディは成す術なく、シザースに挟まれた。
もがき抜けようとしても、グシオンリベイクのパワーを押し返す事は出来ずに潰されていく。
「このまま―――ッ!?」
腕を斬り潰し、シザースの圧力がコックピットにまで到達しようとした時、モニターに戦闘開始から何度も表示された信号が映し出された。
それは相手側からの降伏信号。
戦闘開始から何度となく見せられた降伏の合図に、昭弘は辟易した顔で吐き捨てた。
「またかよ」
この戦闘が始まって何度目か。
別に殺したい訳ではないが、こうも続くといちいち武装解除させるのも面倒臭い。
「武装解除してその辺に転がしておきな。それで昭弘は補給!」
「俺はまだ!」
「ラフタの言う通りだよ。いざって時に動けるように、さっさと補給して!」
先達であるラフタやナーシャに言われては従う他ない。
グシオンがホタルビの方へ後退すると、その穴を埋めるようにアジー、ラフタ、ナーシャ達三人娘が、高度な連携を以って海賊達の足を止めていく。
そこを狙うのはクランクの駆る斬妖である。
「海賊になど遅れはとらん!」
三人娘の攪乱により乱れた陣形の隙を突き、動きを鈍らせた相手からライフルと剣を使い分け、敵を確実に仕留めていく。
その実力は海賊の目から見ても分かる通り、かなり高い。
的確な機動と実戦経験の豊富さに裏打ちされた、確かな実力。
そして機体性能と神経接続による反応速度の向上により、クランクの力は前以上に高いものになっていた。
それを止められる者が海賊にいる訳もなく、さらに斬妖による攻勢は一切の緩みもない。
結果、上手く攻勢に出る事が出来ず、敵の勢いは大きく削がれた。
「こっちは何とかなりそう。でも―――」
「ああ。問題はあっちだね」
ラフタ達の視線の先。
そこには二機のガンダムが未だ睨み合っている。
一対の巨翼を背に立つ赤黒いガンダム。
バルバトスを牽制するかのように佇むその機体に、三日月は言い知れぬ何かを感じていた。
「嫌な感じだな」
それは勘と言い換えてもいい。
戦闘で培ってきた第六感が、あの機体を危険であると告げている。
最大限の警戒を抱きつつ、メイスを構えるバルバトス。
それを見た赤黒いガンダムもまた、剣を片手に動き出す。
「速い!?」
他の機体とは一線を画する速度で肉薄してきた赤黒いガンダムは、何の迷いもなく剣を振り抜いた。
メイスを交差させ斬撃を受け止めたバルバトスであったが、赤黒いガンダムの攻勢は止まらない。
素早い反応で振りかぶられたバルバトスのメイスを回避、すかさず剣を振り上げてくる。
バルバトスは咄嗟に後ろへ飛び、刃の一撃を回避したが、敵はそこからさらに踏み込んで斬撃を放ってきた。
「こいつ!」
相手の連撃をメイスをかざして防いだバルバトスは腕部の200㎜砲を展開、撃ち込みながらさらに距離を取る。
強い。
機体を操る技量もさる事ながら、反応が速い上に変則的な機動。
この驚異的な反応速度と動きは、間違いなく阿頼耶識によるものだった。
「めんどくさいな」
敵の手強さを改めて認識しながらメイスを構えるが、上方から撃ち込まれた一撃が赤黒いガンダムの動きを止めた。
上方から割り込んできたのは、マクギリスのシグルドリーヴァだ。
バルバトスの動きに合わせて援護射撃をしつつ、同時にブレードで周りの雑魚を片付けていく。
その腕前は流石の一言だろう。
それを証明するように、赤黒いガンダムも一切間合いに入ってこれずに踏鞴を踏む。
自然と二機は背中合わせとなり、的確な射撃と砲撃で周りの雑魚を駆逐しながら赤黒いガンダムを牽制する。
「凄いな、チョコレートの人、俺に合わせてくれるのか? ん、チョコレートの人?」
「凄まじいな、君の感覚は。一度手合わせしただけなのに、私だと分かるとは」
ヴァルキュリアブレードを引き出し、突撃してきた赤黒いガンダムの斬撃を受け流す。
そして、はじき返した反動で態勢を崩した敵の背中を狙ってライフルを連射した。
動きを読み、計算した上での射撃。
しかしそれも宙返りした敵に易々と回避されてしまう。
「ッ!? 今の反応は阿頼耶識。それにあのガンダム・フレームも、エイハブ・ウェーブの固有周波数に一致するものが存在しない。……海賊退治が思わぬ獲物を連れてきてくれたようだな」
マクギリスからの正確な射撃から逃れようと機体を捻る赤黒いガンダムに、今度はバルバトスのメイスが襲い掛かる。
「鬱陶しいからお前から先に潰す」
メイスによる重い一撃。
普通ならば防御する事さえ難しい筈の攻撃だが、赤黒いガンダムは特に苦にする事無く捌き続け、逆に隙を見ては反撃を加えてくる。
「強い……阿頼耶識による力だけではない。出力調整や機体制御まで完璧。パイロットの技量も凄まじいが、こうも隙がないとはな」
モビルスーツによる戦闘とは、単純に機体を動かせば良いという訳ではない。
その都度、制御や、ダメージや戦闘状況による機体の影響を、最小限に止める為の調整も、時に必要になる。
しかしあの機体からは、それらの挙動の僅かな遅れや違和感が全く感じられないのだ。
赤黒いガンダムには一切の無駄がない。
着実に急所を突き、敵を屠っていく技量は三日月にも劣らないだろう。
何者なのか、どういった機体なのか疑問は尽きないが―――
「……鹵獲すれば分かる事だな」
シグルドリーヴァからの射撃を避け、距離を取った赤黒いガンダムは予想外の行動に出る。
背後から攻撃を仕掛けた海賊の機体を標的に、斬撃を繰り出したのだ。
容赦なく突き刺した刃はコックピットごとパイロットを斬り潰し、すかさず次の標的へライフルを発射する。
銃弾は正確にガルム・ロディに直撃し、態勢を崩した所に急所に剣を叩き込む。
正確無比な攻撃に碌な対処も出来ない海賊達は、次々に撃墜されていった。
「海賊の味方という訳ではないのか?」
「どっちにしても、邪魔だ。攻撃してきたと思えばこっちを無視して」
確実に言えるのは味方ではないという事。
不用意に近づけば、容赦なくこちらを攻撃してくるだろう。
「かき回されても面倒だ。あれの相手は私がしよう。君は目標の確保を頼みたい」
《ミカ、そっちはマクギリスに任せとけ。今は敵大将を獲るのが先だ! シノ達と合流するぞ!》
「了解」
三日月は暴れまわる正体不明の機体に、もう一度視線を送る。
妙な予感があった。
あの機体とはいつか雌雄を決する時がくるのだと。
「……さっさとボスの船を狙いにいくか」
意図的に赤黒い機体から視線を外した三日月は、ボスの船を目がけて、速度を上げた。
◇
真の姿を見せた藍色の機体―――ガンダムバラキエル。
流星号を容赦なく斬り捨てたそのガンダムは、言い知れぬ不気味さを放っていた。
手に持つライフルと肩の機関砲、腰にあるブレード以外の武装はなく、背中には何かの接続部は見えるが、他にはメインスラスターのみ。
まるで起動した頃のバルバトスのような、武装を取り付けていない『未完成品』を見ているかのような、妙な印象があった。
しかしそれにも関わらず、薄れぬ危機感が金縛りの如く、流星隊の面々の動きを鈍らせていた。
「ふん、しぶとい。咄嗟に後退して致命傷を避けるとはな。それも阿頼耶識の賜物か」
流星号はギリギリではあるが、大ダメージを受けずに事なきを得ていた。
しかしそれでも危機的状況なのは変わらない。
致命傷は避けられたとはいえ、流星号はすでに戦闘不能になっていたからだ。
「無駄な足掻きは余計に苦しくなるだけだ。さっさと諦めろ!」
「誰が諦めるかよ!」
シノは動かない左腕を切り離し、ブレードの軌道を逸らすと同時にスラスターを点火。
バラキエルに体当たりを繰り出した。
「生き汚い、まるで野良犬だな」
しかしそれを読んでいたロキは最小限度の動きで回避、捕まえた流星号にブレードを突き立てる。
「何!?」
「甘いんだよ。それで逃げきれるとでも思ったか!!」
ロキは突き刺したブレードの柄を握り、流星号を自らの方へ力任せに引き寄せる。
そして手の平からせり出した鉄杭を腹に叩きつけた。
「ぐああああ!!」
鉄杭の一撃はナノラミネートアーマーをいとも容易く貫通し、流星号を完全に沈黙させた。
「貴様がいくらしぶとかろうと、もはや動けまい。どうした、返事が無いぞ。先ほどまでの威勢の良さは何処へ行った?」
「ぐっ、はぁ」
嘲るような口調で笑いながら機体を揺らすが、荒い呼吸以外の明確な返事は返ってこない。
コックピットに損傷はなく、生きてはいる筈なのだが、余裕はないという事だろう。
「シノォォォ!!」
「てめぇぇ!!」
シノの流星号がやられた事で、他の機体も激高しつつ動きだす。
「間抜け共、この程度の挑発に乗ってくるとは!」
流星号をあっさりと放り捨て、獅電の攻撃を受け流したバラキエルは、剣と銃を駆使して圧倒する。
斬撃が接近戦を挑んだ相手の腕を斬り裂き、同時に投棄していた槍を拾うと別の獅電に投げつけた。
「なッ!?」
槍の投擲を回避する事が出来ず、盾で防御する獅電の腹にバラキエルの蹴りが炸裂、突きつけたライフルで頭部を破壊した。
「多少戦闘技術に優れていようが、所詮は子供。こんな単純な手に引っかかるとはな」
あまりにもあっけなく全滅した流星隊を冷めた視線で一瞥したロキは、一瞬だけ目を閉じると苛立ったように舌打ちする。
「チッ、出力が安定していない。システムの方にも一部異常が出ている。ふん、ガンダム・フレームが聞いて呆れる。適当な所で切り上げるべきか―――ッ!?」
それは阿頼耶識の特性故か。
素早い反応で別方向から戦場に突入してきた白い機体に気が付いたロキは、すぐさまライフルによる迎撃行動に出た。
「あれは……ガンダムアスベエル!」
ライフルを振り切るように、急加速で突っ込んできたのはクタン参型だ。
バラキエルからの射撃をギリギリで回避しながら、バルカン砲を発射。
牽制しつつ、ある程度間合いを詰めると、クタンから分離したアスベエルは大剣を振りかざし、バラキエルへ突撃する。
「来ると思っていたぞ、アスベエル!!」
「ガンダム・フレーム!?」
袈裟懸けに振るうアスベエルの大剣を、真正面から受け止めるバラキエル。
二機ののガンダム・フレームが鍔迫合い、鈍い振動が剣越しに伝わってくる。
「こいつ、あの藍色か!」
機体の動きといい、エイハブ・ウェーブの反応といい、間違いない。
戦場を支配するガンダムバラキエルの存在に、ハルは驚愕を隠せず、歯噛みする。
イサリビの方にも新たなガンダムが出現し、混乱しているというのに、此処でもまた別の機体が猛威を振るっているとは想像もしていなかった。
「お前は何者だ? その機体は一体何だ?」
「ふん、どうでもいいだろう、そんな事は。だが、一つだけ教えてやる。この機体こそ、腐った世界を浄化する為のガンダムだ!!」
出力を上げたバラキエルは力ずくで押し込んでくる。
それを大剣で受け流すと、距離を取ってレールガンを発射する。
「同じ手を食うと思うか!」
ロキは傍に漂う獅電のシールドを奪うと、レールガンの一撃を防御。
それを囮にアスベエルとの距離を詰めたバラキエルは、抜き打ちで剣を振り払う。
大剣を盾にギリギリ斬撃を受け止めるが、そのまま組み付かれてしまった。
「もう一度だけ聞いてやる、お前達は何者だ? あの赤黒いガンダムも仲間なのか?」
「答える必要はない!」
「そうかよ!」
剣を振り上げるバラキエルの腹に蹴りを入れ、吹き飛ばすと再びレールガンを突きつける。
これだけの至近距離であれば、いかにナノラミネートアーマーだろうとダメージは免れない。
しかしバラキエルは驚くべき反応を見せる。
レールガンが発射されそうになった瞬間、足を振り上げ銃口にぶつける事で、射線から逃れて見せたのだ。
「これで撃てまい!」
「まだだァァァ!!」
バラキエルが発射したライフルがアスベエルに直撃。
アスベエルが振り抜いた大剣がバラキエルに叩き込まれる。
同時に放った一撃が互いの装甲に傷をつけ、吹き飛ばした。
「ぐぅ!」
「貴様ァァ!!」
仕切り直しとばかりに距離を取る、二機のガンダム。
レールガンを隙なく構えるアスベエルを忌々しくも睨みつけるロキは、阿頼耶識を通じて機体状態を把握する。
「チッ、調整は続いているが、各部に異常が出ている。口惜しいがこれ以上、無理は出来ん。『シャムハザイ』が出ているなら尚の事だな」
ロキの対応は速かった。
アスベエルのレールガンを避けつつ、ライフルで牽制しながら距離を取り始めたのだ。
「逃げる気か!」
「こちらに気を取られていていいのか? お仲間は戦闘中だというのに」
ロキの言う通りだった。
夜明けの地平線団との戦闘は、未だに続いている。
特に流星隊は危機的状態であり、残された数機が撃墜された仲間を守って奮戦していた。
さらにイサリビを含めた鉄華団本隊もすぐ近くまで来ている。
「くそ!」
バラキエルの事は気になるが、それは後。
今は本隊と合流する方が先だった。
◇
夜明けの地平線団と鉄華団の激戦が続く戦場に、近付いてくる部隊がいた。
イオク・クジャン率いる、月外縁軌道統合艦隊アリアンロッド所属の部隊である。
彼らは最近各地で暴れ回っている海賊を討伐する為に派遣されてきた。
確かにラスタルは『フローズヴィトニル』の圏外圏派遣を容認した。
しかし、自分達が手を出さないとは誰も言っていないのだ。
アリアンロッドがフローズヴィトニル以上の仕事をするならば、彼らは必要ない。
要するに売られた喧嘩は買うという事である。
「フミタン、状況はどうだ?」
「各艦、各モビルスーツから問題は報告されていません」
「当然だな」
「イオク様、海賊とはいえ油断は禁物です」
「私を含めて油断などないさ」
艦を守るモビルスーツの動きは、明らかに普通の部隊とは錬度が違う。
それはイオクの座るブリッジでも同様で、誰一人気を抜くような間抜けは無い。
ギャラルホルンでも最強と呼ばれるその力は、決して誇張などではないと良く分かる光景だろう。
それに満足したかのように頷くイオクは、ふと湧き上がった疑問を口にする。
「アレクシア・ボードウィン、何を考えているのか」
「関係ありません。仮に敵対した所で、ラスタル様の敵に成り得る筈がありません」
「おい、そういう侮りはよせ。彼女の実力は本物だ」
フミタンとは反対側に控えるジュリエッタに苦言を放つ。
イオクは決してアレクシアを侮っている訳ではない。
彼女の有能さは身に染みて良く分かっていた。
これまで積み重ねてきた功績と仕事ぶりが、それを証明している。
だからこそ、その本心を図りかねているのだ。
「侮ってなどいません。事実を言っているのです。彼女が何を考えていようと、どれ程の実力を持っていても、ラスタル様に敵う筈がありません」
「全く」
「イオク様、前方に多数のモビルスーツと戦艦。その中に、独立監査部隊所属のハーフビーク級を確認しました」
「よし、モビルスーツ隊を出撃させろ。我々の役目を果たすぞ!」
下された命令に全員がキビキビと動き出す。
そして、イオクもまた席から立ち上がると、艦橋を後にしようと歩き出す。
しかしそれに待ったを掛ける者がいた。
「イオク様、どちらに行かれるのですか?」
「む、無論、俺も戦場へ!」
イオクは顔を引き攣らせながらも出撃を訴えるが、フミタンはそれを拒絶する。
「貴方はこの部隊の指揮官。後方で指揮を執っていれば良いのです」
「心配はいらん、俺にはレギンレイズが―――」
「関係ありません」
反論しようとしてもあっさり切り捨てられたイオクは、どうにか言い訳を探して視線を泳がせる。
それを見かねたのか、艦橋を出ようとしていたジュリエッタがあきれ顔で近づいてくる。
「フミタン、今は時間がありません。イオク様のお守は私達がやります。一応訓練も積んでいたようですし」
「お守などいらん! そもそも指揮官は俺で―――」
「はいはい、とにかくマクギリス・ファリドに先を越される訳にはいかないのですから」
「……分かりました。ただし危なくなったら、有無を言わさず撤退させますので」
嬉々としてブリッジを出ていくイオクとジュリエッタにフミタンは深いため息をつくと、目に見えない宇宙の先へ視線を向ける。
その先では鉄華団と夜明けの地平線団の激戦が続いていた。