機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ vivere militare est   作:kia

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第34話 亡霊達の戦争

 

 

 

 

 人には少なからず相性というものがある。

 

 単純に合う、合わない。

 

 好き、嫌い。

 

 本人の性格や趣味、趣向、生い立ち、出身など相手に対する感情の理由は様々あるだろう。

 

 自分とは正反対故に歯車がかみ合ったように仲が良い者もいれば、同じような性格故に反発する同族嫌悪的な感情を抱く者もいる。

 

 そうした事象と照らし合わせて考えると彼と自分はまさに正反対。

 

 元々育った環境による価値観の違いもあったのだろうが、初めて出会った瞬間、確信する。

 

 目の前の男と相容れる事はないと。 

 

 互いの直感を証明するかのように何かある事に衝突し、訓練校を騒がせたものだ。

 

 それでも一応は同期で、ギャラルホルンの士官候補。

 

 実力の高さは認めており、だからこそこうも考えてもいた。

 

 彼が敵になった場合、どう戦うのかという事を。

 

 今は名もなき男―――現在ガランと名乗る人物は、サイラスという同期の男といつか命のやり取りをするのだと直感で理解していた。      

 

 そしてそれは『ギムレコロニーの乱』で現実のものとなる。

 

 サイラスは自分と同じ志を持つ同士達と共にギャラルホルンに反旗を翻したのである。

 

 結果は泥沼の戦い。

 

 軍とも呼べない脆弱な反乱勢力にサイラス達が加わった事により、ギャラルホルン側にも少なくない犠牲が出た。

 

 しかし所詮は結果の見えた戦いだった。

 

 そもそもの物量の差に加え、物資や補給など反乱軍とでは規模が違うのだから当たり前だ。

 

 結局『ギムレコロニーの乱』の最終局面までサイラスの的確な指揮と作戦、彼自身の技量に苦戦は強いられたが、それでもギャラルホルンの勝利は揺らがない。

 

 「馬鹿だよ。お前なら分かっていただろうに。勝ち目などありはしないと」

 

 その証拠がコレだった。

 

 ギムレコロニーは戦闘の影響で傷つき、荒廃。

 

 周辺にはモビルスーツ等の残骸が散乱し、未だ続く抵抗も微々たるもの。

 

 そして反乱の中核たるサイラスの部隊はほぼ壊滅状態。  

 

 残っているのはもはやリーダーたるサイラスのみとなっていた。

 

 「いかにお前が優れていようとも多勢に無勢。機体ももはや限界となれば……」

 

 ボロボロの状態でありながら未だ複数のモビルスーツ相手に奮戦するサイラスのゲイレール。

 

 実に見事。

 

 相容れず敵になったとはいえ、そこに抱く敬意は本物だった。

 

 「せめて止めは俺の手で刺すのが同期としての最後のけじめか」 

 

 バスーカ砲の狙いを定めてトリガーを引く。

 

 それは慈悲の一撃。

 

 このまま苦しみ続けるよりはいっそこの手で―――

 

 思った以上に引き金は軽く、そして抵抗を感じなかった事に驚きつつ、発射された砲弾がかつての同胞に直撃する瞬間を見届ける。

 

 覚悟していたからか、爆炎に呑まれるゲイレールを見ても特に何かを感じる事はなかった。

 

 サイラスが倒れた事で反抗勢力は勢いを失い、戦いは一気に沈静化。

 

 『ギムレコロニーの乱』は終息し、それから目立った反乱も無くなった。

 

 これらの戦闘が見せしめとなり、同時に被害の大きさが人々の戦いへの忌避感を呼び覚ましたのだと男は考えていた。

 

 毒を以って毒を制すとはよく言ったものだ。

 

 その後、男はギャラルホルンを退役。

 

 エリオン家の力を借りて過去をすべて消去し、傭兵ガラン・モッサを名乗り、ラスタルの影として活動を始めた。

 

 切っ掛けはラスタル同様『ギムレコロニーの乱』だ。

 

 敵味方問わず死に絶え、自らも反旗を翻したとはいえかつての同胞達を手に掛けた。

 

 その責任を彼なりに取らねばならないと考えた結果だった。

 

 例えギャラルホルンが歪みを抱えていても、世界で起こり得る悲劇を押し止める力を持っているのならば、それは維持されるべき。

 

 安易な変革など世界にとって破滅しかもたらさない。

 

 そう考えたからこそガランは世界の裏側で暗躍し続けてきた。

 

 アレ以上の悲劇を繰り返さぬように。

 

 だから自分に多大な影響を与えた目の前の男の生存はガランにそれなりの衝撃を与えていた。

 

 「サイ、ラス」

 

 「ほう、俺を覚えていたか。とっくに忘れていたと思っていたよ」

 

 「……生憎とな。お前のような男を簡単に忘れられる者はいないだろうさ」

 

 浅く呼吸を繰り返し、どうにか声が震えないように意識する。

 

 動揺で頭が回らない。

 

 「どうやって生きていたんだ? 俺は確かにお前の機体を破壊した筈なんだが」

 

 「単純な話だ。アレは初めから囮だったんだよ。お前がバズーカを発射した時には俺はすでに脱出していたってだけだ」

 

 あえて会話をする事でガランは落ち着きを取り戻し、早くも冷静になりつつあった。 

 

 手持ちの武装。

 

 機体状態。

 

 かつての敵の技量から予測する現在の力量。

 

 膨大な情報が目まぐるしく頭の中で駆け回り、それらを一つ一つ処理していく。

 

 反面サイラスは未だコックピットにも入らず、ニヤニヤと口元を歪めているだけだ。

 

 今ならば労せず奴を仕留められる?

 

 一瞬だけ脳裏をよぎった甘い誘惑に唇を噛んで堪えると大きく息を吐き出した。

 

 冷静になれ。

 

 罠である可能性も捨てきれない。

 

 「焦るなよ、罠はないさ。だが、少しは冷静になれたようだな」

 

 「ッ!?」

 

 完全に見透かされていた。

 

 歯噛みしても、もはや行動に移すには遅すぎる。

 

 ガランの冷静さが逆に仇になってしまった。

 

 サイラスはさっさと機体に乗り込むとすぐにライフルの銃口をゲイレールへと突きつけてきた。

 

 「冷静さを取り戻せたなら、早速始めようか。あの日の続きを。一対一でな」

 

 「……何故、今頃。いや、お前の目的は」

 

 「答えると思うか? 知りたいなら俺をモビルスーツから引きずり出してみろ」

 

 互いの急所を狙った銃口が火を噴いた瞬間、弾けるように動き出した。

 

 

◇ 

 

  

 ハッシュ・ミディは獅電のコックピットの中で何も出来ずに震えていた。

 

 周囲では未だ傭兵とギャラルホルン、鉄華団の獅電が戦闘を継続している。

 

 自分もそこに加わらなければならない筈なのに、腕が震えて動けない。

 

 「こんな、筈じゃ」

 

 三日月に食い下がり、最近になって念願のモビルスーツパイロットに成れた。

 

 三日月・オーガスを超えるのだと決意して意気揚々と戦場に立った筈なのに、蓋を開ければこの体たらく。

 

 敵はおろか全身を縛る恐怖にすら打ち勝てない。

 

 今まで感じた事のない恐怖によって碌な操作も出来ないまま、敵モビルスーツの攻撃を受けて膝をついてしまった。

 

 モニターには燃え広がる炎の嵐を掻い潜り、血の如く鮮やかな色を輝かす真紅の化け物相手に戦うバルバトスの姿が映っている。

 

 「ちく、しょう」

 

 勇猛果敢に戦い続けるバルバトスの背に手を伸ばす。

 

 『邪魔』

 

 そう言った三日月の無機質な声が今も耳に残っている。

 

 正直、自分はもっと出来ると思っていた。

 

 少なくとも想像の範疇においては。

 

 当然だがそれを現実とする為、ハッシュは火星から此処までずっと訓練を繰り返してきた。

 

 マニュアルはボロボロになるまで読み込んだし、シミュレーターは数えるのも馬鹿らしいくらいにやり込んだのだ。

 

 こんな筈ではなかったのに。

 

 もっと出来る筈で。

 

 だが、現実はこうだ。

 

 真紅の化け物はおろか、普通の相手にすらまともに戦う事も出来ない。

        

 「新人、右から来るぞ!」

 

 「ッ!?」

 

 動かない獅電を恰好の獲物だと判断したのか、敵モビルスーツ『ジルダ』がソードクラブを片手に迫ってくる。

 

 ジルダはヘキサ・フレームを用いたバリエーション機の一つで、夜明けの地平線団首魁サンドバルの駆っていた『ユーゴー』と同系のもの。

 

 軽量で機動性は高いが、防御力は従来機よりも低いという、距離をとった集団戦で運用を前提としている機体だった。

 

 しかしこのパイロットは動きに無駄がなく、器用に攻撃を避けながら獅電との距離を詰めてきていた。

 

 もしかするとエース級という奴かもしれない。

 

 「何やってる。動かすんだよ!」

 

 迫りくる危機に対し自分を無理やり叱咤してライフルでの迎撃態勢を取る。

 

 しかし震えた手では上手く機体が操れず、射線はブレる一方で、敵機に掠める事もできない。

 

 「く、くそ!」

 

 回り込んできた敵の一撃を盾を掲げて受け止めるが、それが限界。

 

 幾度も叩きつけられた盾から伝わる衝撃にハッシュの恐怖が累積していく。

 

 「ハァ、ハァ」

 

 死ぬわけにはいかない。

 

 いくらそう考えていても体は動かず。

 

 無慈悲な一撃を前にハッシュは何も出来ないまま、呆然と眺めているだけ。

 

 恐怖に濡れた表情で繰り出される鉄塊を睨みつけるのが精一杯だった。

 

 しかし想像していた衝撃が襲ってくる事はなく―――

 

 視線を上げると上方から発射された砲弾がソードクラブを叩き折った光景が視界に飛び込んできた。

 

 すぐにハッシュの機体から距離を取るジルダだったが、降下してきたモビルスーツ、ガンダムアスベエル・マルスの追撃は止まらない。

 

 重力に逆らわず、振り下ろした大剣が腕ごと武装を破壊。

 

 同時に発射したレールガンがハッシュを狙っていた別のジルダを吹き飛ばした。

 

 「後退する? 判断が早い」

 

 損傷すると即座に撤退を選んだ敵の判断にハルは内心舌打ちする。

 

 引き際を弁えている。

 

 それにハルとしては仕留めた筈の一太刀だったのだが、それを腕を盾にする事で避けるとは。

 

 どうやらそこらにいる傭兵と違い、かなりの手練れらしい。

 

 「そこの獅電、無事か?」

 

 「は、はい」

 

 「お前、確か新入りの……深呼吸しろ。落ち着いて機体が動けるかどうかを確かめるんだ」

 

 ハルの言葉に従い何度も深呼吸しながら、機体の状態を確認する。

 

 幸い酷い損傷はない。

 

 戦闘も可能だった。

 

 「大丈夫、です」

 

 「よし、無理に前に出るな。戦おうとしなくていい。生き延びることを最優先しろ」

 

 「で、でも、俺は!」

 

 「意気込みは良い。けど、まだ声が震えてるぞ。初めてなんだろ、モビルスーツでの戦闘は。まずは戦場の空気に慣れた方が良い。ナーシャ、ラフタ、コイツを頼む!」

 

 「了解!」

 

 ハッシュを狙う敵を蹴散らしながら、アスベエルと入れ替わるようにしてナーシャとラフタの獅電が近づいてくる。

 

 「君、大丈夫?」

 

 「……はい」

 

 悔しい気持ちは未だ胸中に燻っている。

 

 だが、もはや意地だけで突っ込んでいける程、戦場を甘く見てもいなかった。

 

 無理すれば死ぬと嫌でも痛感させられたからだ。

 

 「落ち込んでる暇ないよ、敵は待ってくれないからね! それにコイツらの中にかなりの手練れが混じってる! 注意して!」

 

 「そうそう、死にたくないなら動いた、動いた!」

 

 「分かって、ます」

 

 超えると誓った背中はあまりにも遠すぎて。

 

 それを簡単に口にしていたかつての自分を殴りたくなる。

 

 自分の迂闊さ、弱さ、情けなさに歯が砕ける程、強く噛みしめながら、ハッシュはこの場を生き延びる為に操縦桿を握りしめた。

 

 

 

 

 両手にメイスを掲げて行く手を阻む白い悪魔。

 

 槍を片手に突っ込んでくる騎士を模した機体。

 

 それらガンダム・フレームを目にした瞬間、抑え込んでいた感情が一気に膨れ上がる。

 

 掛け値なしの憎悪と殺意。

 

 必死に抑え込んでいた感情の殻を食い破り、諸共すべてを消し去りたいという衝動が思考を覆い尽くしていく。

 

 しかし、そこで自身の中に刻み込まれた強い思いが自傷すら厭わない強烈な衝動を抑え込んだ。

 

 「……分かっている。分かっているよ、お前達の言葉を無視するものか」

 

 この悪魔を滅ぼすには今のままでは無理。

 

 機体も完全ではないのだから。

 

 真紅の機体と同じくマスティマを名乗るパイロットは憤怒に支配されながらも、残った冷静さをかき集め、敵を釘付けにすべく砲撃を継続する。

 

 「……頭部の損傷、軽微。外部装甲損耗率50%」

 

 ボードのスラスターを最大噴射。

 

 ライフルを斉射しつつ、敵の間合いから逃れる為に距離を取る。

 

 だが、それをさせまいと褐色のガンダムがハルバードを叩きつけてきた。

 

 「逃がさねぇ!」

 

 コレも本当に邪魔だった。

 

 次から次に現れるガンダム・フレーム。 

 

 何処までも忌々しく、憎々しい。  

 

 まるで何度、潰しても這い出てくるゴキブリそのものだ。

 

 「鬱陶しい!!!」

 

 力任せに腕を振り、グシオンリベイクを弾き飛ばす。

 

 いかにグシオンリベイクが高い出力を持つとはいえ、それ以上の出力と一回り以上の巨体を持つマスティマ相手に力勝負では相手にならない。   

 

 弾かれた敵の背が土に付いた瞬間を狙い、ライフルの銃口を突きつける。

 

 装甲で弾かれようが、関係ない。

 

 釘付けにして轢き殺してやる。

 

 しかし思惑通りに運ばない場所もまた戦場である。

 

 「やらせない!」

 

 アスベエルによって撃ち込まれたレールガンがマスティマの進路を否応なくずらしていく。

 

 「ぐっぅう、邪魔ばかりを!」

 

 「いらっしゃい!」

 

 待ち受けていたバルバトスのメイスがマスティマの胴体に打撃を加えた。

 

 その衝撃は凄まじく、幾度も殴打を受けた装甲は悲鳴を上げてひしゃげ始めた。   

     

 「ッ、損耗率60%を越えたか」

 

 同時に仕掛けておいたアラームが鳴る。

 

 コレの意味するのは一つ。

 

 時間切れだ。

 

 「……何処までも腹立たしい。コイツらを前に退けるものか」

 

 とは言うものの、予定を無視して特攻する訳にはいかない。

 

 敵の多さ。

 

 機体の状態。

 

 作戦時間。

 

 すべてを鑑みてもこれ以上、戦闘を継続する事は出来なかった。

 

 「ああ、自らの不甲斐なさを呪う。だが、命を賭けるべきは此処ではない」

 

 キマリスの突進を受け流し、横滑りでレールガンを回避したマスティマは素早くコンソールを操作、足元のボードから複数の球体が射出される。

 

 それが何なのか誰もが思考を巡らせる一瞬の間。

 

 球体が一斉に弾けると目も開けられぬ眩い閃光が周辺を包み込んだ。

 

 「なっ!?」

 

 「閃光弾か!?」

 

 「見えねぇ!」

 

 同時にマスティマが身に纏っていた重装甲は除去され、這い出たのはフレームが露出した機体。

 

 閃光に紛れ、誰にも姿を見られぬようにボードの上に乗り込む。

 

 「置き土産だ。受け取るがいい」

 

 ボードのスラスターを最大噴射させ、戦場からの離脱を図る。

 

 そして最後の仕掛け。  

 

 四方にパージした重装甲に仕込まれていた自爆装置が作動し、閃光で動けぬガンダム達を巻き込みながら爆散する。

 

 爆発の衝撃と共に放射状に飛散したナノラミネートアーマーの破片が散弾のように周囲一帯に降り注ぎ、周囲のモビルスーツを吹き飛ばした。

 

 「破損したナノラミネートアーマーは凶器だ。閃光弾の効果と合わせてすぐに追ってはこれない」

 

 恐らく機体へのダメージは相当なものだろう。

 

 これで少しは溜飲も下がるというもの。

 

 だが、焼き付いた憎しみが消える事はない。

 

 「いずれ必ず貴様らを地獄へ送る。ガンダム、そして鉄華団」

 

 湧き上がる激情を噛み殺し、誰にも見られぬように予め決めていた進路を辿りながら、マスティマは闇の中へと溶け込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 ゲイレール。

 

 言わずと知れたギャラルホルンの抑止力の象徴ともいえる『グレイズ』の一世代前に当たるモビルスーツである。

 

 その特性はグレイズにも引き継がれた汎用性、拡張性の高さにあった。

 

 つまり同じ機体であろうと搭乗者の好みによって機体の様相がガラリと変わってしまう訳である。

 

 ガランのゲイレールはまさにスタンダード。

 

 どのような状況にも対応出来るように調整された機体はガランの任務の特殊性を示していると言えるだろう。

 

 だが、汎用性を重点においた調整は癖がない分、その性能を生かすには操縦者の腕が重要となる。

 

 反面、サイラスのグリードは真逆だ。

 

 ある程度の汎用性は残してあるものの、サイラスの好みで機動性強化を重点に置いた尖った性能を持っている。

 

 それは機動性向上を優先させた影響で、操作性が著しく低下している事を意味していた。

 

 奇しくも両者の機体は全く逆の特性を有しながらも、その性能を生かすにはパイロットの力量が必須であるという点で共通しているのだ。

 

 故に戦いの結末もまた機体の性能ではなく、己の技量の差が明暗を分ける。

 

 それを理解しているからこそガラン・モッサは今の現状を把握しきれないでいた。

 

 「くっ、昔よりも遥かに熟達した技量。だが、この動きは」

 

 グリードの強烈な斬撃を受け流し、建物の陰に滑りこみつつ距離を取る。

 

 しかし追撃してきたグリードはビルの壁面を蹴りながら、加速し突っ込んできた。

 

 「チッ! 器用な真似を! どういう方法かは知らないが、例の制御システムを手に入れているらしいな」

 

 グリードは単純に機動性を強化した程度ではあり得ない動きを実現していた。

 

 理由はすぐに判明する。

 

 これはノイジーのデータを参考に開発された、レギンレイズなどが搭載する新しい制御システムを使用しているとしか考えられない。

 

 「それはお互い様だろう!」

 

 振るったブレードをギリギリのタイミングで避けたガランは機体を寝そべるように移動しながら、ライフルを斉射。

 

 グリードの動きを制限すると共に、攪乱しながら攻撃の隙を探っていた。

 

 当然ながらガランのゲイレールにも新しいシステムは使用されており、だからこそグリードのカラクリにも気付けた訳だが、疑問はそこではない。

 

 「いつまでも逃げられると思ったか!」

 

 「ッ!?」

 

 ビルの陰に潜んでいたゲイレールの背後から現れたグリードのライフルが肩へ直撃する。

 

 損傷自体は大した事はない。

 

 しかし体勢は崩され、武器を構える余裕もない。

 

 そこに発射されたバスーカ砲をガランは腕にマウントしていたシールドアックスで倒したビルを盾にして防御する。

 

 「やるな!」

 

 「……こっち動きが読まれている?」

 

 ガランの感じていた違和感はソレだ。

 

 最後の戦った日から長い月日が経っている。

 

 互いの技量も向上していて当たり前なのだが、それと同じように変化している部分も多い。

 

 にも関わらずサイラスはガランの癖や好みなど、すべて知り尽くしているかのように動きを的確に読んでくるのだ。

 

 まるで今のガランを知っているかのように。

 

 「なるほど、俺の事を調べていた訳か」

 

 「半分正解って所だな。確かに調べはしたが、それだけじゃない」

 

 「何?」

 

 「ギムレコロニーの件以降、お前と交戦するのはこれで三度目だ」

 

 「なっ!?」

 

 寝耳に水とはこの事だろう。

 

 これまで多くの戦場を経験してきたが、その中でサイラスと交戦した記憶など無かったのだ。

 

 「一度目はガンダムアスベエルを回収した時だ。お前、ラスタル・エリオンに依頼されて海賊を装って不穏分子を調査してたな? あの辺りは地球圏に近く、危険地帯で有名な場所だった。正規軍やただの傭兵がウロウロしてても目立つから海賊に扮したんだろう?」

 

 「まさかあの時、襲撃してきた傭兵部隊は?」

 

 「俺の部隊だ。まあ、俺自身は別の場所で観戦してて、お前らと直接交戦したのは部下達だがな」

 

 予想外の答えにガランの動きが僅かに鈍る。

 

 その隙を見逃さずに放ったライフルの一撃が足の一部を掠めた。

 

 「貰ったぞ!」

 

 「くぅぅ!」

 

 バランスを崩したゲイレール目掛け、スラスターを噴射。

 

 間合いを詰めて斬りかかってくるグリード。

 

 「まだだ!」

 

 まさに紙一重。

 

 ギリギリのタイミングで飛び上がったゲイレールの僅か一秒後、今までいた場所をブレードの一太刀が薙ぎ払った。

 

 「そこだ!」

 

 頭上を取ったガランのライフルが火を噴き、銃弾の雨がグリードに降りかかる。

 

 「いい動きだ。だが、甘い!」

 

 僅かに銃弾を掠めながらもライフルを撃ち返し、ゲイレールの腕に直撃させるとサイラスは素早くビルの陰に飛び込んだ。

 

 「なんて奴だ!」

 

 ガランはサイラスの技量に驚愕しつつ、ビルを飛び越え距離を取る。

 

 普通、あの状況なら防御、もしくは回避を選択するのがセオリーである。

 

 しかしサイラスは銃弾の雨の中、あえて反撃を選択。

 

 銃弾を腕に当てて射線を逸らす事で損傷を避けるなど常人の発想ではない。

 

 そもそも考え付いても出来ないし、やらないだろう。

 

 ライフルのマガジンを交換、体勢を立て直す時間を稼ぐ為、あえてガランはサイラスとの会話を続ける。

 

 「あの傭兵部隊がお前の隊なら、二度目は……」

 

 「そう、火星付近での戦闘、お前達が奇襲を仕掛けてきた時さ。圏外圏のみならず地球圏でも動く俺達が目障りになったラスタルに依頼されたってとこだろう?」

 

 「奇襲を仕掛ける前に何度も調査したが、お前の名前に行きあたる事はなかった。という事は偽名を」

 

 「交渉する時や依頼を受ける時には別人と別名を使っていたのさ。俺自身は表に出ない。そんな正体が露見するような真似をする筈ないだろうが」

 

 ガランは自身の迂闊さに思わず唇を噛んだ。

 

 誰が予想出来るだろうか。

 

 昔、この手で殺した筈の男が生存しており、自分達も把握しきれない裏側で暗躍していた等と。 

   

 「お前はギャラルホルンを、いや、俺達を知り尽くしている。だから尻尾を掴む事はおろか、お前の存在を予想する事すらさせなかった訳だ」

  

 「逆にお前は慎重に行動はしていたが顔を隠していなかったから、すぐに正体が分かった。エリオン家の情報操作を過信しすぎたんだよ。さて、おしゃべりはそろそろ終わりにしよう。体勢も立て直せただろう?」

 

 何処までも見透かされている。

 

 完全にサイラスのペースになっていた。

 

 「だが、それも此処までだ」

 

 ガランとて歴戦の傭兵である。

 

 戦闘開始直後は動揺もあり、追い込まれてしまったが、此処までただ翻弄されていた訳ではない。

 

 「こっちもようやく昔との誤差を埋められた所でな」

 

 ビルの合間を抜けながらサイラスが潜伏、接近してくるポイントを予測して狙撃する。

 

 ガランの狙い通りに動いていたグリードに銃弾が掠め、さらに撃ち込んだ一撃がブレードを吹き飛ばした。

 

 その隙に接近しながら、ライフルを連射。

 

 周囲を破壊して煙幕代わりに使うと装甲の一部をパージして投げつける。

 

 「攪乱する気か」

 

 そして反対方向に回り込み、ライフルのマガジンを投擲。

 

 タイミングを見計らって狙撃した。

 

 小さな爆発ではあるが、例え一瞬だろうとも意識を向けさせるには十分。

 

 拾ったビルの残骸を盾にグリードの背後から斬りかかった。

 

 「これでどうだ!」

 

 完璧なタイミング。

 

 振るったアックスはグリ―ドを捉えた。

 

 しかし敵も甘くは無い。

 

 即座に反応し、振るった左手の装備によってアックスの刃は弾かれてしまった。

 

 「悪いがこっちの腕は簡単には切れないぞ」

 

 「だが、懐には入れた!」

 

 弾が空になったライフルを叩きつけ、同時にビルの残骸を頭部に向けて振り抜いた。

 

 ライフルの爆発によって体勢を崩しながらも残骸は右腕によって防がれたが、形勢はガランの方へ傾いている。

 

 もう一撃加えるべく、アックスを振り上げた瞬間、悪寒が全身に走った。

 

 それは今まで培ってきた戦場で生き抜く為の直感だ。

 

 オカルトは全く信じていないが、コレのお陰で生き延びられたのは一度や二度ではない。

 

 急ぎ警鐘を鳴らす直感に従い、この場を離れようとするが遅すぎた。

 

 「お前とした事が迂闊だったな。懐に入れたんじゃない。俺が懐に誘い込んだんだよ!」

 

 グリードは足元に向けて左腕のパイルバンカーを射出。

 

 突き出された鉄杭が予め仕掛けられた地雷を貫く。

 

 地雷によって足元が爆発し、二機を炎と衝撃が包み込んだ。

 

 意表を突かれたゲイレールは吹き飛ばされ、爆発を知っていたグリードは損傷しながらもその場に踏みとどまった。

 

 「お前が煙幕を張っている間、俺が何もしていないと思ったか!」

 

 その隙にサイラスは仕掛けていたワイヤーを引く。

 

 ワイヤーが繋がっていたのはガランからは死角になる位置に設置されたバズーカ砲。

 

 態勢を崩したゲイレールに発射された砲弾が直撃する。

 

 「ぐぅぅぅ!!」

 

 バズーカの直撃でビルの壁面へと叩きつけられたゲイレール。

 

 その間にグリードはブレードを拾い上げ、動けないゲイレールに向けて突撃する。 

 

 「しまっ―――」

 

 「遅い!」

 

 グリードの突進を防ごうとシールドアックスを構えるが間に合わない。 

 

 刃の切っ先は突き出されたゲイレールの腕を弾き、首元に突き刺さった。

 

 「ぐああ!!」

 

 「俺の勝ちだな。安心しろ、殺しはしない。お前には色々聞かせてもらいたい事もあるんでな」

 

 確かに戦いには敗北した。

 

 しかし、だからといって好きにさせるつもりもなかった。

 

 その為の備えもある。

 

 「わ、悪いが。それには、応えられんのでね」

  

 「だろうな。しかし、だからといって自爆はさせんさ。そら、お待ちかねだ」

 

 グリードは突き刺さった剣を横へ振り抜く。

 

 力任せに移動させられ、強烈なGに思わず身を固めるガランだったが、予想外の衝撃が襲い掛かった。

 

 「な、に」

 

 ゲイレールを掴んでいたのは見たこともないモビルスーツ。

 

 だが、その顔と特徴的な角、ツインアイはまさしく―――

 

 「ガ、ガンダム・フレーム」

 

 「そうだ。『ガンダムアルマロス』、お前から情報を引き出す為に連れてきたんだよ」

 

 アルマロスの背中から伸びたのはサブアーム。

 

 器用に動く鋼鉄の腕が損傷したゲイレールの首元に食らいつく。

 

 同時にガランの体に強烈な電流が流された。    

 

 「ぐあああああああ!!」

 

 「自殺されても面倒なんでな。悪いが意識を奪わせてもらう」

 

 「す、まん、ラ、スタル」

 

 自爆装置に手を伸ばす暇もなくガランの意識は二度と這い出る事の出来ない暗闇の中へと沈んでいった。

 

 「データは大丈夫なんだろうな?」   

 

 「この程度の電流でモビルスーツは壊れない。今、ハッキングして主要なデータはこっちに吸い上げてる」

 

 「そうかい。じゃあ急いで離脱するぞ。お客さんが来た」

 

 サイラスの目に映っているのは、上空から降下してくるシグルドリーヴァだった。

 

 恐らく鉄華団からの情報でガランの逃走先を予測したのだろう。

 

 「一歩遅かったな、マクギリス。決着をつけたいが、こっちもギリギリでね」

 

 無茶をしすぎた。

 

 銃撃の中を正面から突っ切ったり、地雷の爆発を受けた後で突撃したり。

 

 お陰で機体の装甲は焼け焦げ、無茶な機動をした所為か駆動系も怪しい。

 

 ゲイレールを抱えたアルマロスと共に満身創痍とも言える状態を引きずりながらグリードも後退を開始する。

 

 降下したマクギリスが到着した頃にはすでに現場には何も無く、無残な戦闘跡だけが残されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 今回発生したアーブラウとSAUの紛争は、各所で想像されたよりも遥かに小規模で犠牲も少なくして幕を閉じた。

 

 戦闘が継続されなかった背景にはギャラルホルン独立監査部隊の仲介もあったのだが、アーブラウ代表蒔苗・東護ノ介の意識が回復した事も大きな要因だろう。

 

 仮に彼が命を落としていたら、さらに泥沼の戦争になっていた可能性も否定できない。

 

 結果的に犠牲は少なかったものの、各陣営がそれなりの損害を被ったのもまた事実であり、アーブラウ側の中核を担っていた鉄華団地球支部も同様だった。

 

 「おい、この書類は何処だ」

 

 「それはこっちです」

 

 火星から地球へと到着したオルガ達は到着早々に今回の事後処理に日々追われていた。

 

 とはいえクランクの統率や地球支部の普段からの真面目な運営のお陰で混乱も少なく済んでいた。

 

 この分ならば後、数日で元の状態に戻るだろう。

 

 だが問題がない訳ではない。

 

 一つは人員の不足である。

 

 小規模とはいえ紛争だ。   

    

 当然、戦闘を行った以上は少なからず犠牲は出てしまっている。

 

 もう一つは緊急時において地球支部を率いる事が出来るリーダーの育成だ。

 

 今回支部長であったチャドが倒れても、クランクが臨時に指揮を執ったお陰で危機的状況を回避する事が出来た。

 

 しかし、再び今回のような状況になった時、再びクランクのように的確な判断を下せる者がいるとは限らないのだ。  

 

 サブリーダーの育成は必要不可欠。

 

 その指摘は以前からされていたものの、他の優先事項に気を取られ、後回しにしていたというのが実情だった。

 

 「次から次へと問題が出てきやがる」

 

 それも仕方ない事。

 

 鉄華団は若い組織であり、未だ発展途上なのだから。

 

 「……地球か」

 

 久しぶりに訪れた地球。

 

 地球支部の件も大切だが、もう一つやりたい事が残っている。

 

 「けど、時間がなさそうだな」  

 

 一瞬、物思いに耽っていたオルガを邪魔するように無機質な呼び出し音が鳴り響く。

 

 「外部から? この忙しい時に誰だ?」

 

 スイッチを入れ、画面に映し出された顔を見たオルガは思わず絶句する。

 

 忘れようもない。

 

 かつて鉄華団に協力した仮面の男が笑みを浮かべていた。

 

 《久しぶりですね、鉄華団団長オルガ・イツカ》

 

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