機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ vivere militare est 作:kia
クーデリアがCGSを来訪する数日前。
ハルはクリュセ郊外にある貸倉庫を訪れていた。
此処はハルが個人的に借りている大型の倉庫で、大抵のものであれば保管する事が出来る。
周囲を警戒しながらパスワードを打ち込み、セキュリティを解除して倉庫へ入る。
そこには一機のモビルスーツがトレーラーに寝かされていた。
「おう、来たか」
トレーラーの運転席から降りてきたのは初老の男性。
服の上からでも分かる鍛えられた筋肉と隙の無い佇まいから、普通でないのは一目瞭然だった。
名をモーゼス・マーソンといい、幾つもの物件や貸倉庫を持つ資産家である。
その鍛えられた肉体や鋭い眼光、身につけている物など非常に質素である為、彼が資産家なのを知らない者は多い。
だがその資産、知識、人脈は本物。
正直、その知識や人脈を何処で得たのか非常に気になる所だが、こういった事には深入りしないのが暗黙の掟である。
余計な詮索は不信を招き、最終的には死を代償とする事になるのだから。
「おう、頼まれたように手配しておいたぜ。だが今回の仕事はコイツを使うくらいにヤバいのか?」
「もらった情報を見る限り、備えだけはしておきたい」
表向き善意でクーデリアの支援を行っている商人ノブリス・ゴルドンの動き。
明日予定されているノーマン・バーンスタインのギャラルホルン火星本部『アーレス』訪問。
今回のその際に彼がクーデリアの事を売り渡す可能性も大いにある。
どの動きもきな臭い。
こちらも護衛にどの会社を使うかは伏せているし、簡単に居場所は露呈しないとは思う。
しかし油断は禁物だ。
仮にギャラルホルンが本気になればすぐに居場所は特定され、最悪クーデリアの身柄を押さえる為に襲撃されてしまうかもしれない。
「その時、対抗する為にはコイツの力がいる」
「そうか。だが無茶はするなよ。分かってると思うが阿頼耶識は」
「何度も聞かされたから知ってるよ」
ハルはコックピットに乗り込み、阿頼耶識を接続する。
そして手元のモニターが光を発すると共に機体の名前が浮かび上がった。
―――『ガンダムアスベエル』
◇
『グレイズ』
ギャラルホルンが各所に配備している最新型主力モビルスーツである。
そのコックピットに座るアイン・ダルトン三尉は目の前の光景に対して咄嗟に反応する事が出来なかった。
突如現れた二機のモビルスーツ。
一機は地面を割って上官のグレイズを叩き潰し、もう一機は空から降下し同僚のグレイ・ギベルティが操る機体を吹き飛ばした。
「くそ、グレイ、無事か!」
「あ、ああ。損傷はないって、けど何だよアレ」
本来この極秘任務にモビルスーツを使う予定では無かった。
あくまでも正体不明の一団がCGSを襲撃し、クーデリアの身柄を押さえたという筋書きだったのだ。
故にモビルワーカー隊もギャラルホルンとは違う傭兵達を使っている。
しかし遅々として進まない侵攻に指揮を任されていたオーリス・ステンジャが痺れを切らし、他のメンバーの制止を振り切って出撃してしまった。
一応グレイズのカラーリングを変え、所属もぼかしてあるが、それも殆ど意味をなさないだろう。
だからこそ余計に任務失敗は許されないというのに。
「こんな場所にモビルスーツがあるなんて聞いてない! オーリス隊長は?」
「落ちつけ、二人とも! 俺が地下から出たモビルスーツを引きつける、アイン、貴様は援護だ! グレイ、お前は落ちて来た方をやれ!」
「クランクニ尉!」
「了解!」
上官であるクランク・ゼントニ尉が地下から現れたモビルスーツに向かって突撃する。
それを尻目にグレイは空から落ちてきたモビルスーツと相対していた。
「地下から出てきた奴と同型か」
白と黒を基調とした装甲の色など違いはあるが特徴的な顔や角、ツインアイなどは共通している。
「ま、所詮は旧型だ! 最新型のグレイズに勝てるものかよ!」
落ちてきた衝撃の為か背を向けて未だ動かない敵機に向けてアックスを振り下ろした。
あっけなく背後から真っ二つになる筈だとグレイは予測する。
しかしそんな未来は訪れない。
振り向き様に振るわれた剣がアックスを受け止め、逆にはじき返してきたからだ。
「何!?」
予想以上のパワーにグレイズは吹き飛ばされてしまう。
動揺するグレイとは対照的にハルはギリギリ間に合った事に安堵しながら、時間通りに仕事をしてくれたモーゼスに感謝する。
ハルがモーゼスに手配してもらったのは、『ガンダムアスベエル』を使い捨てのシャトルでCGSまで空輸してもらう事だった。
「何とか間に合った。オルガ達は?」
見ればオルガ達を守るように地下から現れた機体とグレイズが戦闘を繰り広げていた。
地下から現れたモビルスーツはアスベエルのデータに登録してあったようで機体名は『バルバトス』と表記されている。
動きから見て搭乗しているのは恐らく三日月・オーガスだろう。
「同型機なのか? いや、今は!」
あちらはバルバトスに任せる。
こちらは全力で目の前の機体を倒すべきだ。
ハルはフットペダルを踏み、体勢を崩したグレイズの間合いに飛び込んだ。
「調子に乗るな!」
突っ込んでくるアスベエルに対してグレイズもまたアックスで応戦する。
大剣とアックスが激突し、火花を散す。
グレイとしては最新鋭機であるグレイズの方が優勢だと思っていた。
しかし待ち受けていたのは鍔迫合いの果てにグレイズの方が押されてしまうという現実だった。
「馬鹿な、グレイズが押される!?」
必死に押し返そうとするが逆に押し込まれ、肩の装甲に剣の刃が食い込んでいく。
「このォォォ!!」
負ける訳にはいかないと踏ん張るが、次の瞬間力を抜かれグレイズは前方につんのめってしまう。
その隙に振るった一撃がグレイズの左腕を破壊し、さらに逆袈裟から斬り上げた大剣が肩の装甲を斬り飛ばす。
「浅い!?」
ハルとしてはコックピットを狙ったのだが、グレイズのパイロットは直前で機体を傾け、致命傷を避けたのだ。
「グレイ!?」
見かねたアインが援護に入る。
だがその援護射撃すらもアスベエルは素早く横滑りして回避してみせた。
「何だ、その動きは!?」
「上だ!!」
「なっ!?」
アインがアスベエルに気を取られた一瞬の隙をつき、飛び上がったバルバトスがメイスを振り下ろす。
避ける間も、防ぐ間もない。
鈍器の凄まじい一撃によってグレイズの腕は無残に砕け散った。
さらに止めとばかりにアスベエルの一太刀がコックピットへと突き込まれる。
「うああああ!?」
「アイン!」
大剣の一撃を阻む形で割り込んできたクランクのアックスが剣閃を逸らす。
だが完璧に防ぎきる事は出来ず、グレイズの頭部は大きくへしゃげてしまった。
「やらせん!」
「邪魔だ!」
「その声……子供!?」
敵対する相手が子供だとは思っていなかったのか、鍔競り合うグレイズから驚きの声が聞こえてきた。
反面ハルは何処までも冷徹に相手の隙を突く。
「そんな事、今さらだろ!!」
アックスを横に流し、ライフルを奪い取ると至近距離から発射する。
銃撃が装甲へこませ、さらにグレイズに蹴りを叩き込む。
「ぐあああ!」
そこに待ち構えていたのはメイスを振りかぶるバルバトス。
グレイズに向けて容赦なく巨大な鈍器を振り下ろした。
「ッ、まさかそっちの機体も子供が乗っているのか!?」
逆手に構えたアックスでどうにかメイスの一撃を止めるも、動揺でグレイズの動きが明らかに鈍っていた。
「そうだよ。あんたらが殺しまくったのも……これからあんたらを殺すのも」
「クランク二尉!!」
グレイとアインが銃撃を加えクランクからバルバトスを引き離す。
「ちゃんと仕留めておけば」
「人の事が言えるのか」
銃撃を回避しながら、グレイズを仕留めようと挟み込むように二機のガンダムが強襲する。
「此処までだな」
アックスを投げつけアスベエルの注意を引き、スラスターの噴射によってバルバトスの視界を覆い隠す。
その間にアインの機体を掴むとクランクはすぐさま撤退を選択した。
「退くぞ! グレイ、来い!」
「り、了解!」
反論の余地はない。
二機のモビルスーツの猛攻によってグレイズはその戦闘能力を完全に失ってしまっている。
「ちくしょう!」
グレイは傷ついた機体を引きずりながら、先行するクランクの後を追って撤退行動に移った。
「まだ!」
なおもバルバトスは追撃姿勢を取る。
「おい、待て」
幾らなんでも無茶だと止めようとしたハルの声を遮るように何発かの砲弾がバルバトスとアスベエルに撃ち込まれた。
モビルスーツに使用されている装甲ナノラミネートアーマーには遠距離からの砲撃はほぼ通用しない。
現にバルバトスもアスベエルも無傷だった。
しかし足を止めるという意味では十分であり、逃げたグレイズの姿は見えなくなっていた。
「チッ、まだいたのか」
正確な射撃。
遠距離からの一撃は脅威にはならないとはいえ、厄介には違いない。
まるでこちらを釘づけにしたいのかと思う程にライフルを乱発してきた。
その時、妙な予感を覚える。
ほぼ戦闘は終息したにも関わらず、何故此処まで乱発する必要がある?
「まさか」
最悪の予想が脳裏過り、ハルは一歩前に飛び出した。
次に発射された銃弾が狙うのはガンダムではない。
狙われたのは―――CGS施設。
「させるかァァ!」
ギリギリのタイミングで射線上に割り込む事に成功する。
そしてCGSを狙った銃撃を大剣を振るって受け止めた。
「ぐっ!」
今までのとは比較にならない威力で後方へ吹き飛ばされてしまったが施設への被害は無かった。
それで敵も攻撃が失敗したと判断したのか、銃撃が完全に止まった。
「敵は退いたか」
「ぐっ、ま、だ」
「おい、どうした!?」
苦しそうな三日月の声が途切れ、バルバトスは動きを止めた。
◇
「―――以上が報告になります」
撤退したクランク達はどうにか無事に基地へと帰還を果たしていた。
しかし作戦の結果は最悪なもの。
指揮していオーリス・ステンジャは死亡し、グレイズは一機が撃破され、他三機が中破という現状。
しかも隠匿工作をしていたとはいえグレイズで出撃した事でこちらの素性も露呈してしまった。
まさに大失態といっても過言ではない。
だが司令官であるコーラルは至って冷静で、特に怒鳴る事も皮肉を言う事も無く淡々と提出されたデータを閲覧していた。
「なるほど。良く分かった」
失敗自体はどうでも良い。
今回の件はあくまでも武器商人ノブリス・ゴルドンが持ちかけてきた取引を利用したに過ぎない。
ノブリスは火星独立運動の中心人物であるクーデリアをギャラルホルンが殺す事で騒乱を起こさせたかったのだ。
ヒロインを失った火星は混乱に陥り、さらに地球に対する憎悪を深める。
そういう筋書きだったのだろう。
紛争が起きれば武器商人であるノブリスにとっては良い稼ぎとなる訳だ。
だがそれはノブリスの筋書きに過ぎない。
コーラルとしては彼女を捕縛し、後々使えるかどうかを判断したかっただけ。
失敗したならそれはそれで問題はない。
モビルワーカー隊は機体を含め全員ノブリスが用意した私兵に過ぎず、破壊されたモビルスーツについても手配済み。
死亡した士官についても火星では揉め事が絶えない現状においては問題にすら成りえない。
極秘任務としたのも近々行われる監査局による監査に配慮しただけで、すでにこの件で追及される事はないように手は打ってあった。
問題があるとすれば―――
「今後の事は追って指示を出す。それまで待機せよ」
「我々を撃退したモビルスーツに搭乗していたのは……子供でした」
「そうか、下がれ」
「お待ちください、子供と―――少年兵と戦うなどこれ以上は」
「クランク、お前の言いたい事は分かった。逆に聞こう、貴様は大人であれば虐殺出来るというのだな?」
「ッ!? それは……」
「偽善だ、お前のそれは。この火星で、この宇宙で何人の子供が犠牲になっていると思っている? 今回の作戦で何人殺した? そんな事は今更の話だ。貴様の偽善に他の兵を巻き込むな。分かったら、命令通り待機せよ」
それ以上、クランクの言葉は聞かず通信を切るともう一度戦闘データを確認する。
「問題はこれか」
映し出されているのはグレイズを圧倒する二機のモビルスーツ。
地下から現れた機体は巨大なメイスを振りかぶり、肩の装甲など一部が除去されている。
そしてもう一機。
最大の問題はこちらの機体だった。
「この機体は」
空から降下してきた機体は装甲も真新しく、目だった傷も無く大剣を振るっていた。
共通しているのは通常の機体とは一線を画する機動。
保険として同道させていた傭兵の狙撃も意味をなさなかったらしく、異常ともいえる動きで砲撃を防ぎきっている。
「ガンダム・フレーム、そして阿頼耶識。このままという訳にはいくまい」
コーラルは戦闘データを何度も検証しながら、淡々とキーボードを叩く。
「後はクランクだな。……済まないが奴を見張っていてくれ」
通信機の先に居る人物からの了承を得るとコーラルは再び静かに作業を再開した。
◇
戦闘が終わったCGSは見るも無残な光景に成り果てていた。
死傷者は大人、子供含めて百名を超え、生きている者は皆、後片付けに追われている。
そんな中、クーデリアは負傷した子供達の応急手当を手伝いながら周囲を見続けていた。
目を背けたくなるような凄惨な光景だった。
クーデリアが手当てした子供はまだ軽傷。
手足が無くなっていたり、酷いものでは半分顔が焼け爛れていた子もいた。
「……こうなる事は分かっていた。でも私は」
手当を終えて子供達から礼を言われても、クーデリアは笑みを浮かべるだけで声をかける事すら出来ない。
昔の光景とダブる。
何度見ても慣れないもの。
彼らは命がけで戦った筈だ。
その戦いを自分の安い言葉で汚す事は出来ない。
精々出来る事はこの光景を忘れないよう目に焼き付けておくことだけ。
「お嬢様」
「ハル!」
クーデリアは心配そうな表情のままハルに飛びついてくる。
よほどこの光景が辛かったのか、それともハルの事が不安だったのか体が酷く震えていた。
それを慰めるように優しく頭を撫でる。
「アレに乗ったのでしょう、怪我は?」
「大丈夫です」
戦闘の影響で所々切り傷くらいはあるが、大きな外傷はない。
「フミタンはどうしたんです?」
「怪我の治療を受けているわ。……フミタンが連絡を入れてお父様がすぐに戻ってこいと言っていたそうよ」
「それは……」
悪い予想が的中してしまった。
今回、クーデリアの地球行きは極秘裏に準備していた。
それがこうも簡単に居場所が露呈してしまったのは、誰かがリークしたとしか考えられない。
それが誰かは口にする必要もない程に明白だった。
「お嬢様、これからどうするつもりです?」
「……地球行きを継続します。此処で足を止めてしまえばすべてが無駄になってしまうのですから」
「分りました」
ハルはクーデリアを部屋に戻るよう告げ、参番組の状態を知る為に歩きだす。
「CGSに護衛を継続してもらうかどうかは、状況次第か」
社長であるマルバ・アーケイは逃げ出しているらしいし、戻ってきた一軍の大人たちは当てにならない。
あんな連中に仕事を任せたら命がいくらあっても足りない。
必ず保身の為にクーデリアを切り捨てるだろう。
もはや組織としての体裁すら保てていない状態だ。
「別の方法を考えておいた方が良いか」
オルガを探して歩いているとアスベエルの傍にCGSの少年達が集まっているのが見えた。
「何か用か?」
「あ、えっと」
「あの、ありがとうございました!」
突然、全員に頭を下げられて面食らってしまった。
「何の事?」
「モビルスーツにやられそうになってた奴を庇ってくれましたよね」
そこで思い出した。
アスベエルが降下してくる前に撃墜されそうな機体を庇っていた。
思えば無謀な事をしたものだと過去の自分を殴りつけたい気分だ。
戦い方を仕込まれた時も、無謀な事はするなと何度も言い含められていた筈なのに。
「アレは偶然で、礼を言われる事じゃ」
「それでも助けてくれたんですから」
「……あの機体のパイロットは助かったのか?」
一転して表情が暗くなった。
パイロットは命は助かったらしいが、酷い重傷でもう戦場に立つ事は出来ないらしい。
それはこのCGSではもう働けない事を意味している。
だからか命だけでも助かって良かったとは素直には喜べなかった。
「そうか」
「あ、前にも自己紹介したけど一応もう一度。俺はタカキって言います」
「俺はライドです」
「ハル・ハウリング、ハルで良いから」
「よろしくお願いします、ハルさん!」
各々自己紹介を済ませ、タカキ達から教えて貰ったオルガが居そうな場所に足を向ける。
そこではオルガと三日月が二人で話をしている最中だった。
「まだ居たんだ」
「そっちこそ、やっと目が覚めたみたいだな」
三日月は敵が撤退した後、ずっと気を失っていた。
初めてモビルスーツに阿頼耶識でつながった影響だろう。
ハルも初めてアスベエルに乗った時には反動で出血が止まらなかった。
「それより顔は大丈夫なのか、オルガ?」
オルガの顔は酷く腫れあがり、何度も殴られた痕が残っていた。
おそらく戻ってきた一軍の大人たちに殴られたのだろう。
「大した事はねぇよ。で、どうした?」
「今後の事を聞いておきたい。CGSは―――いや、オルガ達はどうするつもりなんだ?」
仕事を継続するのかという問いだ。
正直、部外者であるハルから見てもCGSの現状は最悪だ。
地球までの護衛をする程の余力がない。
ましてやあの一軍の連中がそれを許すとは思えなかった。
「仮に俺らが降りるって言ったら、どうするつもりなんだ?」
「その時は別の方法を考える。ギャラルホルンの件もオルガ達に迷惑をかけないようにするさ」
CGSからハル達が離れれば、ギャラルホルンも此処を襲撃してくる事はないだろう。
オルガは黙っていたが、すぐに笑みを浮かべて歩き出した。
「あのモビルスーツとか色々聞きたい事はあるが、まだ礼を言ってなかったよな。仲間を助けてくれてありがとな」
「いや、自分の為でもあったし礼を言われる事じゃない」
「そうか。ま、少し待っててくれ―――筋は通すからよ」
歩いていくオルガ達の背中には強い覚悟のようなものが滲み出ていた。
◇
火星の静止軌道上に存在するギャラルホルンの基地アーレスに二人の青年が降り立っていた。
地球本部の監査局から内部調査の為に訪れた監査官である。
マクギリス・ファリド特務三佐。
そしてガエリオ・ボードウィン特務三佐。
二人共かつて厄祭戦終結に導いた英雄の家系、ギャラルホルンを管理運営する7つの家門『セブンスターズ』出身のエリートである。
「火星とはね。うま味を吸いつくした出涸らしみたいな星に来る事になるとはな」
「辺境任務は不満か、ガエリオ?」
「そんなことは無い。ちゃんと任務はこなすさ。先輩からも気を抜くなと散々言われたからな」
「今の火星の現状を先輩は良く理解されているのさ」
今の火星は火薬庫同然である。
地球の連中は未だ重要視していないが、下手に刺激するとそれだけで暴発しかねない。
そんな場所に赴くからには気を引き締めろと言った先達の言葉は正しい。
アーレスに足を踏み入れたマクギリスとガエリオをコーラルが出迎えとして待っていた。
鉄面皮とでも言うべき無表情のまま歓迎の言葉を口にする。
「遠路はるばるよく来てくれた。ファリド特務三佐、ボードウィン特務三佐」
「いえ、これも任務ですので」
「そうか。では監査で何かあれば言ってくれたまえ、協力は惜しまない」
出迎えに来たコーラルは事務的な挨拶だけを済ませるとさっさと立ち去ってしまった。
「ずいぶんあっさりしてるな。てっきり取り入ろうとしてくるかと思ったんだが」
「流石に露骨にそんな事はできないだろう」
「だが何かありそうではあるが、どう思う?」
「さて、そう簡単に尻尾を出す相手には見えなかったがな。監査をしてみれば分かるさ、行くぞガエリオ」
「ああ」
不穏な雰囲気の漂う火星。
明らかに歓迎されていない空気。
監査官である以上、歓迎されないのは当たり前ではあったが、此処まで露骨だと仕事もやりがいがあるだろう。
二人は一切の不安もないと不敵な笑みを浮かべながら、歩みを進めて行った。
とりあえず2話までは書けていたので投稿しました。