機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ vivere militare est   作:kia

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第42話 分岐点

 

 

 

 夜が更け、火星の荒野は物音一つ聞こえぬ、静寂の空間となっていた。

 

 ギャラルホルンの基地や鉄華団本部などの軍事施設や都市部を除き、だいたい火星の夜とは静かなもの。

 

 滅多な事では破られぬ静寂中、闇夜に動く複数の人影があった。

 

 誰にも悟らせぬよう音を殺し、とある建物に近づこうとしている。

 

 「全員、所定の位置につけ。ポイントに到着後、指示があるまで待機」

 

 「「了解」」

 

 目標と思われる建物の死角に到着すると、全員があらかじめ決めていたポイントへ素早く移動する。

 

 明らかに卓越した技術を持つ彼らを指揮していたのは仮面の男で素顔を隠した男、ヴェネルディ。

 

 全員が配置したのを確認すると、懐から端末を取り出した。

 

 「そちらはどうかな?」

 

 ≪予定通りですよ。あなたの読み通り、ジャスレイ・ドノミコルスは事実上の更迭。奴を慕ってた連中は激怒してます。後は―――≫

 

 「ありがとう。君には世話になった。マルドゥークの動向含め、テイワズの詳細も参考になったよ。報酬の方も色を付けておいた」

 

 ≪そりゃありがたい! 気合い入れて仕事をした甲斐があるってもんです≫

 

 「ではまた何かあれば頼む。トド・ミルコネン」

 

 端末を切るとそばに控えていたロキが訝し気に問いかけてくる。

 

 「あんな俗物、信用出来るのか? 奴はフローズヴィトニルの諜報員だろう?」

 

 「信用はしていない。ああいう手合いに信頼や信用などという感情を持ち込む方が間違いだ。報酬を払い、損さえさせなければ裏切る可能性も少ない。互いに利用し合うくらいが丁度いいのさ」

 

 「流石は商人の皮を被っているだけはあるか。しかしこちらの情報が洩れる危険性はあるぞ」

 

 「重要な事は何も教えていないし、君の言った通り奴は俗物。こちらの機嫌を損ね、金づるを失うような真似はするまい。仮に、迂闊にも踏み込んで来るようなら、その時は排除すればいい」

 

 言葉通り全く信用していないらしく、ヴェネルディはあっさりと切って捨てた。

  

 そして端末を懐をしまうと、今回の本命へ視線を戻す。

 

 「で、鉄華団の主力は歳星か。こちらが動かずとも自ら本部を離れるとはな。仕込みが無駄になったか?」

 

 「これも運命だろう。それに無駄にはならないさ。では迎えに行くとしよう、時代が求めた救世主―――革命の乙女を」

 

 

 

 

 

 大型惑星間巡航船『歳星』

 

 圏外圏で知らぬ者はいないテイワズの本拠地にして、組織の資本を担う企業が軒を連ねる中核である。

 

 その発展した街並みは圏外圏でも類を見ない程に発展。

 

 数多の会社が取引を試みようと、常に賑わいを見せている。

 

 しかしどんな場所にも影や闇は存在しており、ここ歳星もまた例外ではない。

 

 表向きな商売とは無縁な裏で取引されるような後ろ暗い物。

 

 テイワズですら表で扱うには、リスクがある物を扱うアンダーグラウンドな場所が存在していた。

 

 歳星にある街の端。

 

 金さえ積めば、たいていの物は手に入る裏市場。

 

 地下に存在している歓楽街である。

 

 単純に考えてもリスクが高い、そんな場所が放置されているのは勿論、わざとだ。

 

 どんなに規律で縛ろうとも、人が集まれば、そこから逸脱する者も出てくる。

 

 そんな者へのガス抜きとして娯楽施設などと共にテイワズの幹部が配置され、羽目を外しすぎないよう監視と共に密かに運営されているのだ。

 

 当然、集まる者も後ろ暗い連中が多く、誰しも顔や身分を隠して訪れるのが暗黙のルールとなっている。

 

 鬱屈としながらもある意味、表側よりも活気づいている地下街の一画にある古びた倉庫に多くの人間が集まっていた。

 

 全員、顔を隠さず、怒気の籠った表情で虚空を睨みつけている。

 

 「よりにもよってジャスレイさんを更迭するなんざ、納得できねぇ」 

 

 「それにフィン隊長やカインさんも方々に頭を下げてさ……乗っていたモビルスーツも鉄華団に渡したらしい」

 

 「いくらマルドゥークの為とはいえ……責任なら少なからず鉄華団にだってあるだろ。よりにもよって鉄華団に渡さなくても。地球でも辛酸を舐めさせられたってのに」

 

 「ああ。夜明けの地平線団の残党を野放しにしていた奴らにも多少の責任はあるだろうに」

 

 口々に不満を吐き出しているのはテイワズの実働部隊マルドゥークの面々だ。

 

 元々タービンズや鉄華団の登用などで不満を募らせていたが、今回のジャスレイ更迭の件で我慢も限界に達していた。

 

 「親父の贔屓もいい加減にしろって話だ。実績を上げてきたジャスレイさんが下に見られるってのは我慢できないし、仲間達にも顔向けできない」

 

 このテイワズの盾として、そして矛としてどんな無茶な命令にもマルドゥークは応えてきた。

 

 そしてその度に仲間が犠牲になってきた。

 

 それでも忠実な武力としてマルドゥークが従ってきたのは、ひとえに自分達を救ってくれたジャスレイやフィン、カインが居たからこそ。

 

 彼らが仲間達の屍を超えて、生き残った者達の帰る場所を守る為に奮闘してくれたから。

 

 だから自分達も必死に戦ったし、命を懸けてきた。

 

 断じてテイワズの為でもなく、ましてやマクマード・バリストンの為などではないのだ。

 

 しかしそれも、もう過去の話。

 

 彼らの死を土足で踏みにじるというのなら。

 

 恩人たちを蔑ろにするというならいいだろう。 

 

 例え相手が誰であろうとも、示さなくてはなるまい。

 

 命を対価としてでも、死した仲間達の思いを刻みつけねば。

 

 「あの商人の話に乗るのか?」

 

 「馬鹿言うなよ。あんな胡散臭い奴ら。それより親父に直談判する」

 

 「本気か? 親父に直談判なんて、下手すりゃ殺され―――」

 

 「それがどうした! ジャスレイさん達は俺らの為にいつも動いてくれていたんだ! こんな時に何もしないなら死んだ方が良い!」

 

 古株の一人が発した言葉に全員がハッとする。

 

 確かにその通り。

 

 これまでも幾度となく助けてもらったのは間違いなく、だから今こそ自分達が彼らの為に動く番だというのは至極当たり前。

 

 そうでなくては番犬以下だろう。

 

 全員が頷き、善は急げと動き始めた時だった。     

 

 突如、倉庫の扉が開き、マルドゥークの面々を囲むように銃を構えた男たちが入ってきた。

 

 そしてリーダーと思われるスーツの男が一歩前に出た。

 

 「マルドゥークの構成員だな。全員、拘束させてもらうぞ。抵抗すれば、分かってるな?」

 

 「お前らは幹部直属の……どういうつもりだ?」

 

 「とぼけるな。お前達がこの歳星で反乱を起こそうとしていたのはわかってる」

 

 反論しようとした団員達だったが、突きつけられた銃口に黙らされてしまう。

 

 幹部の誰かは知らないが、マルドゥークやジャスレイ達を目障りに思ってきた者の差し金だろう。

 

 ジャスレイが失脚する前からずっと機会を伺っており、マルドゥークが現状に不満を持っている事を嗅ぎつけた。

 

 №2の処分不服で暗殺に動くよりも、反乱という名目で全員の排除に動いた方がリスクが少ないという訳だ。

 

 「言いがかりはやめてもらおうか。俺達はこれからの事を話し合っていただけで」

 

 「どう言い訳した所でお前らはもうお払い箱さ。状況も揃っている」

 

 男が取り出した小型端末から聞こえてきたのは、先ほどまでの会話。

 

 それだけではなく、今までテイワズに関する不平不満が余さず記録されていた。

 

 しかも所々切り取られ、初めて聞いた者にはマルドゥークが反乱を画策しているように聞こえる。 

 

 「これらはすでに上役へ提出済みだ」

 

 やられた。

 

 想像以上に前から、連中はこちらの隙を突くべく行動していたのだろう。

 

 それに気が付いたところで、出来る事はなく、状況はすでに詰んでいた。

 

 そうなると取れる選択肢も限られてくる。

 

 「……結局、こうなる運命か」

 

 最近は事件が続いたとはいえ、隙を見せたのはこちらの方。

 

 日頃から注意していた筈だが、もっと慎重になるべきだったと後悔しても後の祭りだった。

 

 古株の一人が懐へ手を伸ばし、拳銃を抜くと全員が覚悟を決めたように各々武器を構えた。

 

 「気でも触れたか?」

 

 「俺らは正気だよ。こうなった以上、覚悟を決めるさ」

 

 「素直に投降しておけば楽に死ねたのにな」

 

 「マルドゥークを舐めるなよ。俺たちを嵌めた事をせいぜい後悔させてやるさ」

 

 こうなってはどんな選択を取ろうともカインやフィン、そしてジャスレイも責任を負わされるだろう。

 

 ならば恩人たちにこれ以上、咎の及ばぬやり方を―――

 

 自分達に戦略的な知識でもあれば、いや、もうそれは意味のない考えだ。

 

 もっと賢い選択が出来たかもしれないなどとと考えた所で。

 

 「野良犬なりに足掻いてやるとも」

 

 覚悟の銃弾が発射される。

 

 それがテイワズ最大の内部抗争が開始された合図であった。 

      

 

 

 

 ヒューマンデブリや戦場で生きる子供たちにとって縁遠い場所というものがある。

 

 それは金の掛かる遊技場だったり。

 

 高い身分の人間しかはいれない施設だったり。

 

 場所によっては施設はおろか町中へ入る事も憚られる所すら存在している。

 

 ハルと三日月はそんな縁遠い場所の一つ、歳星にあるモーゼスが出資している病院に放り込まれていた。

 

 戦場に身を置く者として、病院は身近な場所と思われがちだが、それは金と身分を持っている人間の発想だ。

 

 孤児たちに病院の治療費を払える程のお金はなく、火星において重篤な病気や病気を治療する施設は存在そのものが限られている。

 

 クーデリアの護衛役を務めていたハルでさえ病院は初めてで落ち着かない。

 

 「検査、まだ続くの?」

 

 「みたいだな。うんざりだけど、オルガにこれ以上、怒られたくないなら、大人しくしておけよ」

  

 「どの道、動けない」

 

 あの模擬戦が終わって、現場へ駆けつけたオルガ達によってハルと三日月はそろってこっぴどく絞られる羽目になった。

 

 用意していた武装はすべて破損し、バルバトス、アスベエル共に完全に大破。

 

 しかも出力リミッターを開放した上での戦闘で、パイロットにも何らかの悪影響があるとなれば「模擬戦で何やってんだ、お前らは!」と怒鳴られるのも当たり前である。

 

 「で、そっちの体は?」

 

 相変わらず感情が籠っていない声だ。

 

 まあ、此処でハルに声を掛けるというのは進歩といえるのかもしれないが。

 

 あの模擬戦以降、二人の関係は殆ど変わっていない。

 

 分かり合えた筈もなく、ましてや仲が良くなった訳でもない。

 

 しかしあの戦いで互いの生き方が歪であろうとも本気であるという理解は出来た。

 

 だから、無意味は諍いだけはしないという事なのだろう。

 

 「前以上に眠い。起きていられる時間もかなり短い。これ多分、リミッターを開放した影響だよな。髪の毛の半分が白髪になっていたのも驚いたけど。そっちは?」

 

 「俺はあんまり前と変わらない」

 

 とはいえリミッターを開放したことによる脳への影響は確実にあった筈。

 

 今回大丈夫だったから、次回も無事という訳にはいくまい。

 

 「バルバトスは?」

 

 「アスベエルと一緒に改修作業中。もうすぐ完成するらしいけど、それまでに検査が終わればいいけどな」

 

 もうすぐ自らの駆る機体の改修が終わる。

 

 それは喜ばしい話だ。

 

 しかしハルには素直には喜べない複雑な気分が燻っていた。

 

 あの機体が普通のガンダム・フレームとは一線を画している事はわかっていたが、それでも先の模擬戦でその危険性を再認識した。

 

 そもそも三日月と同じくリミッターを開放した筈なのに、ハルの体に深刻な障害が出ていない?

 

 酷い睡眠障害こそ厄介だが、体が動かない訳ではない。

 

 むしろ感覚的には前よりも研ぎ澄まされているような気さえしている。

 

 いくら何でもおかしすぎる。

 

 「ガンダムアスベエル……あの機体は一体」

 

 普通のガンダムフレームとは違う、堕天使の名を持つ機体。

 

 パイロットを自らの部品として勝手に動かすというおぞましさすら覚える機能に嫌な予感が止まらない。

 

 今更ながら、自らの機体に関して考察を続けていくが、再び襲ってきた激しい眠気にハルは抗う事が出来ず、意識が沈んでいった。

 

 そんな三日月とハルの病室から少し離れた一画。

 

 人の出入りを横目で眺めながら、ロビーの隅でオルガはモーゼスから検査結果に耳を傾けていた。

 

 「三日月に関しては現状維持ってところだ。勿論、二度にわたるリミッター開放のダメージはあるだろうが、表面的な変化は今のところ見られない。問題はハルの方だな」

 

 手元の資料に目を落としたモーゼスは険しい顔で口を開く。

 

 「ハルの睡眠障害は深刻なレベルに達している。それだけ脳の負ったダメージが深いって事だ」

      

 「だがミカのような身体におかしい異変はないみたいだが」

 

 「それは最適化って奴の所為だな。アレは戦闘に支障が出ないようパイロットをナノマシンによって強化しているんだ。だが脳まではそうはいかない。適切な処置をしなくてはパイロットは負荷に耐えられず二度と目を覚まさなくなる」

 

 それはつまり死ぬと同義だと。

 

 予想していた中でも最悪の宣告にオルガは唇を噛んだ。

  

 「適切な処置って奴は出来るのか?」

 

 「一応、こちらでも前から阿頼耶識に関する障害の治療方法の模索はしているが、応急処置が限界。試作のナノマシンを投与しておいたが、どの程度効果があるかは経過観察ってとこだ。……全く、ネフィリムシステムとは厄介なものを」

 

 聞きなれぬ言葉に眉を潜めるオルガだが、問い返す間もなく、突如として起きた振動に片膝をついてしまう。

 

 「何だ?」

 

 「分からん! 隕石でもぶつかったような振動だが!」

 

 地球であるなら地震でも起きたのかと思うだろうが、あいにく此処は宇宙。

 

 地震など起こる訳がなく、ならば原因は限られてくる。

 

 隕石が歳星に衝突したか、船体に何らかのトラブルが起きたか。

 

 もしくは―――

 

 「アレは!?」

 

 モーゼスが指さした先には歳星いる間は縁遠いであろう、炎と煙。

 

 経験上、あれが何かはよく分かる。

 

 「戦闘の煙だ」

 

 

◇  

 

 

 当然ながらテイワズの本拠地である歳星には相応の戦力というものがある。

 

 昨今では歳星を襲う馬鹿な連中はいなくなったが、それでも万が一に備えてと考えるのは当たり前の話だ。

 

 しかし圏外圏において知らない者はいないと言われるテイワズ。

 

 歳星が襲われたという記録はなく、同時に戦闘を行ったという事実もない。

 

 だからこそ突然の出来事に驚愕を隠せなかった。

 

 「どこの馬鹿が仕掛けてきた!」

 

 歳星にある幾つかの防衛部隊。

 

 その一つを率いる部隊長が駆け込んだ管制室のモニターに映るモビルスーツは予想に反し、あまりに見慣れたものだった。

 

 「おいおい、戦っている相手は獅電じゃないか? 何でテイワズモデル同士で戦ってる? どこの所属だ、即刻やめさせろ!」

 

 「所属はマルドゥーク。戦闘停止勧告に対して応答ありません」

 

 「マルドゥークだと!?」

 

 此処にきて部隊長は事態の深刻さに気が付いた。

 

 マルドゥークといえばテイワズ屈指の武闘派であり、他の部隊とはそもそもの実力からして別物だ。

 

 それが反旗を翻したとなれば、被害は想像を絶する。

 

 「これ以上の被害が出る前に何としても抑え込め! 各個撃破しろ! 合流を許すな!」 

 

 指示を出しつつ、格納庫へ走った部隊長は愛機である百錬へ乗り込むと、即座に出撃命令を下す。

 

 「全機、出撃! これ以上、連中の好きにさせるな。被害を最小限に抑えるんだ!」

 

 とはいうもののどこまでやれるか。

 

 昔、マルドゥークの面々と練度向上と交流の為に模擬戦をした経験があるが、一矢報いる事も出来ないまま敗退してしまった。

 

 特にエースであるカイン・レイクスはそこらのパイロットでは相手にならない技量の持ち主。

 

 タービンズの凄腕であるアミダですら、一蹴してしまう程だ。

 

 「泣き言を言っても始まらん。やるしかないんだ。百錬、出るぞ!」

 

 飛び出した宇宙は訓練で見慣れた空間ではなく、死屍累々の戦場と化していた。

 

 先に出撃した防衛部隊の機体は見事に急所を破壊され、無残な残骸が宙に浮いている。

 

 「マルドゥーク、恐るべしと言った所か」

 

 一人一人が一騎当千の猛者。

 

 指揮官も『人食い鬼』と呼ばれたフィン・アルバーンだ。

 

 仲間だった感傷を抱いたままでは、返り討ちにあるのが関の山だろう。

 

 「やはり練度の差は大きい。ならば……全機、個別に当たるな。連携を取って、各個撃破しろ!!」

 

 部隊長は三機編隊を組み、未だ戦闘を行為を繰り返す獅電に向かって突撃する。

    

 こちらに気が付いた獅電がライフルを発射してくるが、射線を外しつつ懐へ飛び込むと片刃式ブレードを袈裟懸けに振るった。

   

 だが、ブレードは掲げたシールドによって阻まれてしまう。

 

 「くっ、だからと言って!」

 

 獅電は確かに良い機体ではある。

 

 しかし百錬がそれに劣る訳ではない。

 

 「おおおお!!」

 

 スラスタ―を噴射し、出力任せにブレードを押し込むとシールドを弾き飛ばす。

 

 そして蹴りを入れて体勢を崩すとライフルを撃ち込んだ。

 

 「よし、今だ!」

 

 僚機の獅電が挟み撃ちでパルチザンを突き立てる。

 

 左右から刃を突き立てられた獅電は弛緩したように武器を手放すと完全に動かなくなった。

 

 「フゥ、ようやく一機。だが、この調子なら」

 

 周囲を見れば他の連中もまた上手く連携しつつ、マルドゥークの分断に成功している。

 

 これなら鎮圧まで時間の問題かと思った部隊長だったが、そこで計器に思わぬ反応が示された。

 

 「エイハブウェーブの反応だと?」 

 

 反応は歳星ではなく、全く違う方向から。

 

 戦場に姿を見せたその反応の正体は複数の艦艇。

 

 開かれた隔壁から見覚えのない無数のモビルスーツが一斉に出撃してくる。

 

 「ま、さか、マルドゥークの援軍か?」

 

 想像外の増援の存在により、戦場は混沌さを増していく事になる。

 

 

 

   

 歳星に上がる爆炎。  

 

 戦闘による閃光と破壊が確認できる位置にその船は存在していた。

 

 一般の船舶に偽装しているが、立派な戦闘艦である。

 

 その格納庫に自ら駆る異形の機体を見上げている男がいた。

 

 傭兵サイラス・スティンガーである。

 

 「調整も終わったからな。存分に力を振るってもらうぞ」

 

 機体の名は『ヴォーダン』

 

 グレゴリで開発された新型機であり、役目を終えた『ゲイレール・グリード』に代わる、サイラスの機体である。

 

 「サイラス、合図があったよ。出撃の頃合いだ」

 

 「こっちは準備万端だ。ナイン、お前と昌弘の機体はどうだ?」  

 

 「調整は終わってる。後は動かしてみない事にはわからないよ。昌弘、君はどうだい?」

 

 「ん、大丈夫。こっちも問題なし」

 

 ヴォーダンの左右にもまた見慣れないモビルスーツが立っていた。

 

 『フレースヴェルグ・アスタルテ』

 

 『ニーズヘッグ・マルコキアス』

 

 この二機もまたグレゴリにて『ヴォーダン』の支援機として企画されたものをとある機体データと混ぜ合わせ、開発されたものだ。

  

 試験運用は済んでいるが実戦投入は初めてとなる。

 

 パイロットと機体の慣らし、そして不具合や問題点の洗い出しが戦闘目的の一つだ。

 

 「新型の初陣にはうってつけだろう。何せ相手はテイワズだからな」 

 

 圏外圏において泣く子も黙るテイワズ。

 

 規模も練度も、そこらの海賊程度では比較にならない。

 

 これほどの相手と戦える機会は滅多にないだろう。

 

 「行くぞ。目標は歳星、マクマード・バリストンの首だ」

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