機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ vivere militare est   作:kia

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第43話 悪魔新生

 

 

 

 

 

 事が起きる少し前。

 

 更迭されたジャスレイ・ドノミコルスは酒を傾けながら、部下であるフィン、カインと共にテーブルを囲んでいた。

 

 「飲みすぎでは?」

 

 「おいおい。こんなもの舐める程度だぜ。酔う訳ないだろ」

 

 「カイン、ジャスレイさんは底なしだ。気を使うだけ損だぞ」

 

 「お前が言うか、フィン。お前も相当なもんだろうに」

 

 互いのグラスに酒を注ぎ、あっという間に空にしていくハイペースにカインは苦笑する他ない。

 

 こんなのに付き合っていたら、あっけなく酔い潰されてしまうだろう。

 

 「カイン、お前も飲めよ」

 

 「いえ、あいにく二人のペースにはついていけませんから。それで今後はどうするんです?」

 

 「しばらくはのんびりやるさ。働き詰めだったからな。いっそマルドゥークの全員でバカンスにでも行くか」

 

 立場を失ったとは思えぬ程に朗らかな笑顔を浮かべるジャスレイに長年共に仕事をしてきたフィンの表情も自然と緩む。

 

 「いいですな。頼もしい後輩も出来た事ですし。なあ、カイン」

 

 「……確かにガス抜きは必要でしょうね」

 

 「どうした?」

 

 フィンの問いかけにもカインは固い表情を崩さない。

 

 「いえ、幹部連中の動きが気になっていまして」

 

 「一応、手は回した筈だな?」

 

 「ええ。しかし今回の件が幹部達にとってこちらを刺す良い機会だと判断する可能性は低くない。歳星の一部ではマルドゥークが反旗を翻すのではないかという噂まで流れているくらいです」

 

 カインが行った根回しも所詮は気休めに過ぎない。

 

 組織の中には虎視眈々と上層部に食い込もうと機会を狙っている者は山ほどいるのだ。      

 

 流石に暗殺などの直接的な行動はないだろう。

 

 しかしこれを機として成り上がろうと計略を巡らせても何ら不思議はなかった。

 

 いや、実際動いているのだろう。 

 

 「他の連中もテイワズに少なからず反感も持っていたようですから、変な形で暴発しなければ良いと」

 

 カインの言葉に二人も思い当たる節があるのか、互いの顔を見合わせる。

 

 「確かに汚れ仕事も少なくなかった。マルドゥークに恨みを募らせていた連中も多いだろう」

 

 「マルドゥーク内部でも不満を持っていた者もいました。それとなく釘を刺してきたつもりですが」

 

 結局それもどこまで意味があったのか。

 

 どれほど言い聞かせた所で、本人達が納得出来ないなら意味がないというのに。

 

 三人の誰もが口を閉じ、考えを巡らせていると端末の機械音が部屋に響いた。

 

 ≪申し訳、ありません。最悪の事態が、起こってしまいました≫ 

 

 端末から聞こえてきたのはマルドゥークでも古株の男からだった。

 

 息を切らし、時折聞こえてくる銃声がただ事ではないと教えてきていた。

 

 「何があった?」

 

 ≪それが……嵌められました≫

 

 途切れ途切れではあるが、端的にこの状況に至った経緯が伝えられる。

 

 すべてを聞き終わった三人の表情は共通して憤りに満ちていた。

 

 「やられましたね。仕掛けてきた相手に心当たりは?」

 

 「ありすぎて困るくらいだな。しかし迂闊だった。特に最近はハーフメタルの件で外ばかりに目を向けていたからな。足元が隙だらけになっていたか」

 

 ≪状況は限りなく悪い……いえ、すでに詰んでいます。このままだとジャスレイさん達にも危害が及ぶ。だから、俺達を討ってください≫

 

 「何!?」

 

 ≪ジャスレイさん達がけじめとして俺らを討ち取れば、親父もそこまでの責任は問わない筈です≫

 

 「馬鹿野郎!! そんな事が―――」

 

 怒鳴り返したジャスレイだったが、その声は激しい銃撃音によってかき消され、通信も途切れてしまった。

 

 「ジャスレイさん」

 

 「ああ、分かってる」

 

 これが運命の分かれ道。

 

 この選択でジャスレイ達の命運が決定する。

 

 あまりに分かりやすい二択だ。

 

 ジャスレイが選ぶのは―――

 

 「親父に連絡する」

 

 運命を決める選択を選ぶにはあまりに僅かな時間。

 

 あっけなく決めたジャスレイはマクマードへ通信を繋いだ。    

 

 

◇ 

 

 

 歳星で起こった初の戦闘。

 

 防衛部隊とマルドゥークとの戦闘は、奇しくもテイワズモデル同士が激突する乱戦と化していた。 

 

 「くっ、全機、陣形を組め! 敵を分断して各個撃破しろ!」

 

 防衛部隊の戦法は単純だ。

 

 マルドゥークのモビルスーツから距離を取り、複数機で包囲、砲撃を撃ち込んでいくというもの。

 

 堅牢なモビルスーツに遠距離からの攻撃は確かに効果が薄い。

 

 しかしパイロットを疲弊させるには十分な効果がある。

 

 それを証明するようにマルドゥークの機体の動きは鈍り、個人技に優れたパイロット達を追い込んでいる。

 

 だが、その優位性も徐々にだが逆転しようとしていた。

 

 「くっ、流石はマルドゥークという事か! 戦い慣れている!」

 

 端的に言えば対応し始めたのである。

 

 確かに遠距離からの攻撃によって敵を疲弊させる戦法は有効に作用していたが、マルドゥークは機動性でかく乱を行い始めた。 

 

 このまま包囲網からの離脱と合流を許せば、一転して防衛部隊が不利になってしまう。

 

 さらに厄介なのは途中から介入してきた見たこともないモビルスーツ群。

 

 それは夜明けの地平線団残党追撃戦にて鉄華団が遭遇した群青色の機体エゼクェルだった。

 

 連携や練度の高い腕前もさることながら、その動きは間違いなく阿頼耶識を搭載しているのだろう。

 

 圧倒的な機動性で防衛部隊を翻弄、マルドゥークを支援していた。

 

 もはや風前の灯ともいえる均衡が破られれば、敵は歳星に到達する。

 

 そうなれば終わりだ。

 

 「戦線を維持しろ! 何としても持ち堪えるんだ!」

 

 しかし願いも空しく、敵の獅電は戦線を突破し、彼らの本拠地へ歩を進めていく。

 

 此処まで来れば障害も存在しないだろうと悠々と歳星へと到達しようとした瞬間、開いた隔壁から飛び出してきた百錬が獅電を蹴り飛ばした。

 

 「あの機体、タービンズの!?」

 

 アミダの駆る百錬に続くようにタービンズの母艦ハンマーヘッドと他に新たな機体が飛び出してくる。

 

 辟邪と呼ばれるその機体は百錬の高出力、百里の高機動の両立を目指して開発された高性能機だ。

 

 量産化を意識した獅電とは真逆ともいえるコンセプトで開発された辟邪は対ヒューマンデブリを意識した、高い機動性と柔軟な操縦性を持つ機体として仕上がっていた。

 

 「防衛部隊で損傷した奴は一旦下がれ! 俺達が時間を稼ぐ!」

 

 「……頼む!」

 

 普段なら若輩のタービンズに対して思う所もあったかもしれないが、今は頼もしさに安堵の感情が広がっていく。

 

 「一時後退! 弾薬が心もとない奴から補給を!」 

 

 防衛部隊の一部が後退すると、入れ替わるように前に出たのはタービンズの女傑達。

 

 「これって私たちの役目じゃないんじゃない?」

 

 「ぼやかないの、ナーシャ。これだって仕事の内だよ。仮に歳星が落ちたら、私達の本業だって滞るんだから」

 

 「ラフタの言う通りだよ。それに相手はあのマルドゥークだ。練度は海賊なんかとは比較にならない。後、もしもカインに遭遇したら何があっても逃げな。私でも敵わない相手だからね」

 

 普段から強気なアミダの警告に全員が息を飲む。

 

 勿論、マルドゥークのカイン・レイクスの実力は聞いていたし、アミダが模擬戦で一度も勝てなかったというのも噂では知っていた。

 

 しかし改めてこうして本人の口から聞かされると、身が引き締まる。    

 

 「それにハル達が言ってた妙なモビルスーツもいる。しかも阿頼耶識使ってるでしょ、アレ」

  

 「そういう事だ、油断すんじゃないよ! アジー、アンタはハンマーヘッドの援護に入りな! ラフタとナーシャは私と前に出るよ!」

 

 「「了解!!」」

 

 アミダを先頭に二機の辟邪が追随する。

 

 「邪魔だよ!」

 

 加速した百錬の射撃が獅電の動きを阻害し、出来た隙に片刃式ブレードを叩き込む。

 

 獅電の腕を切り裂き、返す刀でシールドを弾く。

 

 そして蹴りを入れて飛びのくと、突っ込んできた辟邪が獅電の急所にライフルを撃ち込んだ。

 

 「次!」

 

 「了解!」

 

 「いくよ!」

 

 息を合わせた連携で次々と敵を無力化していく姿は流石はタービンズの女傑達。

 

 しかしマルドゥークもまた歴戦の勇士であり、一方的な攻勢は長くは続かない。

 

 「粘るなっての!」

 

 腕を失いながらも器用に攻撃を躱す獅電にラフタは思わず毒づく。

 

 「左からくる」

 

 「嫌な所をついてくるねぇ」

 

 マルドゥークも確かに強敵だが、さらに厄介さに拍車をかけているのがエゼクェルである。

 

 阿頼耶識による変則機動とそれを十全に生かすに相応の練度を積んでいる。

 

 「こいつら普通のヒューマンデブリじゃない? 練度は鉄華団以上かも!」

 

 「めんどくさい! 獅電は姐さんに任せて、私らはあの群青色から潰すよ、ラフタ! その為の辟邪だからね!」

 

 「了解―――ッ!?」 

 

 暗闇の宇宙で何かが煌めいた。

 

 それを確認する前にラフタは直感に従って機体を引くと次の瞬間、辟邪のライフルが吹き飛ばされた。

 

 「精密射撃? あの距離から!?」

 

 ライフルを構えていたのは黒い斬妖。

 

 遠距離狙撃型のライフルを構えて、どこまでも正確に辟邪を狙撃してきている。

 

 その技量は尋常なものではなく、確実にこちら側を上回っていた。

 

 「ラフタ、下がりな! カインだ!」

 

 敵の正体をいち早く看破したアミダだが、ラフタの元へ駆けつけようとした所で背後から迫る機体に気が付く。

 

 「お前がこの中で一番の手練れだな。俺が相手だ」

 

 「なっ!?」

 

 姿を現したのは見覚えのない異形のモビルスーツ。

 

 高速で接近してきたのはサイラス・スティンガーの駆るヴォーダンだった。

 

 加速のついた状態でバスターソードを袈裟懸けに振るう。 

 

 紙一重で斬撃を防御したが、片刃式ブレードは押し込まれ、機体諸共吹き飛ばされてしまう。

 

 「姐さん!」

 

 「よそ見をしている暇があるのかい?」

 

 「え?」

 

 ナーシャを阻むように姿を見せたのはナインが搭乗した新型機『フレースヴェルグ・アスタルテ』

 

 機動性重視と思われるその機体は空を飛ぶ鳥のような、優雅さすら感じさせる機動で辟邪を翻弄し、引き抜いた剣で斬りつける。

 

 それを機体を引いてギリギリ回避したナーシャだったが、背後から迫る別の機体が放った強烈な斬撃によって右腕が切り落とされてしまう。

 

 「きゃあああ!!」

 

 「ナーシャ!?」 

 

 辟邪の腕を断ち切ったのは身の丈ほどの大剣バスターソードを担ぐ、昌弘・アルトランドの操る『ニーズヘッグ・マルコキアス』

 

 分厚い装甲と高出力と容易に想像できるだけの重厚感。

 

 何よりもこの造形。

 

 先のフレースヴェルグもだが、どこかガンダム・フレームを彷彿とさせる名残がある。

 

 「何なのこいつら」

 

 「さあ。でも、こいつも厄介みたい。ナーシャ、大丈夫?」

 

 「腕はやられたけどまだやれる」

 

 気が付くとラフタ達は敵に囲まれており、逃げ場もなくなっていた。

 

 それはアミダ、ハンマーヘッドも同じ。

 

 絶え間なく敵の猛攻に晒されている。

 

 「くっ、早くハンマーヘッドの援護に!」

 

 「そうしたいのは山々だけど、こっちも手一杯!」

 

 介入してきた所属不明のモビルスーツ群に加えて、エース級と思われる三機。

 

 「状況は最悪だけど、やるしかないね。いくよ、ラフタ!」    

  

 「了解!」

 

 二機の辟邪は互いをフォローしながら、圧倒的に不利な防衛戦を開始した。

 

 

 

 

 歳星は稀に見る大混乱に陥っていた。

 

 荒事に慣れない人々はパニックに陥り、この手の事に関わってきた組織の人間ですら前代未聞の事態に右往左往している始末。

 

 まあ今までテイワズの武力と広まったネームバリューのお陰で、歳星を巻き込んだ戦闘に発展した事などないのだから、この状況はある意味仕方ないのだろう。

 

 そんなかつてない混乱に巻き込まれた歳星の街をオルガを先頭に三日月を背負った昭弘や眠気を堪えたハル達が走っていた。  

 

 「すごい人」

 

 「ああ。こんなに居たとはな。流石は歳星だ」

 

 「ハァ、ミカもハルももう少し入院してても良かったんだぞ」

 

 「そういう訳にはいかないさ」

 

 本来なら三日月やハルはまだ入院している筈だったのだが、今の状況で寝ている訳にはいかないと無理やりついてきていた。

 

 「たく、悪いな、昭弘。ミカを担いでもらってよ」

 

 「気にしなくていい。ところで本当にこっちでいいのか、オルガ?」

 

 「ああ、モーゼスから借りた端末だと近道になってる」

 

 鉄華団の面々が目指しているのは、モビルスーツを預けてある工房だった。

 

 本来であれば長であるマクマードの指示を仰ぐのが正しい選択なのだろうが、生憎この混乱で通信も出来ず、彼の屋敷に行くまでの通路も完全に遮断されていた。

 

 恐らくはマクマードの安全を考慮したのだろう。

      

 そこで鉄華団は少しでも現状を把握する為、モビルスーツを預けてある工房へと向かっているのだ。

 

 「それにしても一体、どこの誰がこんな命知らずな事を」

 

 「分からねぇ。けどテイワズに喧嘩売るくらいだ。ただの馬鹿じゃないだろ」

 

 未だに消えぬ煙と聞こえてくる銃撃音。

 

 外で行われている戦闘。

 

 それらが現在も継続しているという事は結構な数の戦力がいると考えて良い。

 

 「……テイワズとやり合える戦力が用意できる組織なんて、そうはいない筈なんだが」 

 

 一応、周囲を警戒しながら人混みを抜け、工房までたどり着く。

 

 どうやら大きな被害はないようだが、内部は外と同じように混乱の只中にあったようで、人がそこら中を駆け回っていた。

 

 その中で見知った顔を見つけると、ハルは問答無用で襟首を掴んだ。

 

 「整備長!」

 

 「ぐぇ、いきなり何を―――って、ハル君!? それにオルガ団長に鉄華団の面々も!」

 

 「忙しい所悪いな、整備長。けど、イサリビや親父とも連絡がつかなくて事情が分からなくてよ。何があったか教えてくれないか?」 

 

 「正直、未だに信じられないんだけどね」

 

 日頃から明るい整備長らしからぬ暗い表情で告げられたのは、鉄華団にとっても驚きの事実だった。

 

 「マルドゥークが反乱!?」

 

 驚くと同時にオルガの脳裏にカインの事が浮かび上がる。

 

 大人でありながら、自分達にも対等に接してくれたあの男が反旗を翻すとは。

 

 妙に割り切れなさを感じながら、話の続きに耳を傾ける。

 

 「噂じゃ元々反乱を計画していたらしいんだけど、とても信じられないよ。カイン君も含めて、我々は付き合い長いからね」 

 

 よく見れば整備長を含め、工房にいる誰もが手を動かしながらも複雑な表情を隠していない。

 

 整備長の言う通り、付き合いが長いからこそ複雑な心境なのだろう。

 

 「……親父は?」

 

 「一応、無事だと聞いているけど。向こうもバタバタしているようでね、中々連絡がつかないんだ」

 

 確かにこの規模の反乱など前代未聞だろう。

 

 各所が混乱するのも無理はない。

 

 「外の方は混戦状態で、タービンズも鎮圧に出たよ」

 

 「兄貴が!?」

 

 タービンズはテイワズにおいて輸送部門を担当する組織だ。

 

 輸送中の襲撃に備えて武装をしているが、それでも本来ならこんな戦いに出るような立場ではない。

 

 それだけ事態は切迫しているという事だ。

 

 「整備長、預けたモビルスーツはどうなってる?」

 

 「ああ、バッチリさ。ただ各機ともパイロットに合わせたコックピット調整が必要だけど」

 

 「バルバトスとアスベエルは?」

 

 「それも出来てるよ。こっちだ」

 

 「昭弘、シノ、お前らはグシオンとフラウロスの方に行け」

 

 「分かった」

 

 「オルガ、アレの名前は流星号だっての!」」 

 

 シノの軽口を聞き流し、オルガに担がれた三日月と眠気を堪えたハルは工房の奥に向かう。

 

 そこでは乗り手を待ちわびるように新たな姿となった機体が立っていた。   

  

 「まずはバルバトス」

 

 格納庫に佇むバルバトスの形状は大きく変化していた。

 

 まず前腕部が巨大化し、指先にはモビルスーツでも抉れるレクスネイル、腕部側面に200mm砲。

 

 メインウェポンであったメイスも大型化している。

 

 背中にはあのモビルアーマーの尾であった『テイルブレード』が搭載され、その姿はまさに異形の悪魔というべきものに変貌を遂げていた。

 

 「名前は新たにバルバトス・ルプスレクス! どうだい?」

 

 「レクス?」

 

 「王って意味さ」

 

 ルプスレクスとはつまり『狼の王』という事らしい。

 

 確かに異形感の増したバルバトスの造形は王という表現が似合っているのかもしれない。

 

 整備長の熱意に当てられたのか珍しく三日月も熱心にバルバトスを見詰めている。

 

 「そして隣にあるのが新しいアスベエルだ!」

 

 ハルも自分の機体の方へ視線を変える。

 

 細かく変わった部分はあるがアスベエルのシンプルな造形はそのままで、異形感の増したバルバトスとは正反対の印象を受ける。

 

 大きな変化といえば背中に大型のスラスターユニットが搭載され、腰に二本の太刀が装備されている事だろうか。

 

 このスラスタ―ユニットは伸縮可能なアームユニットで接続され、フレキシブルに可動ができ、機体前面に迫り出す事も可能。

 

 さらに何重にも装甲を重ねている為、打撃武器や盾としても使用できる。

 

 メインウェポンであった分割機構内蔵大剣はより洗練された形となり、レールガンも大型化した事で威力を向上させているらしい。 

 

 「名前はアスベエル・マルスルクス!」

 

 「ルクス……確か光でしたっけ」

 

 「その通り!」

 

 『火星の光』、または『軍神の光』とでも訳すのだろうか。

 

 あまりに不遜な名前に思わず眉を顰めたくなる。

 

 このガラクタには過ぎた名前だろう。

 

 「それから要望通りアスベエルのコックピットシステムにスキャンしてみたけど、相変わらず強固にロックされててアクセス出来なかった」

 

 「そうですか」

 

 例の自動防衛モードとやらを封印出来ればいいと考えていたのだが、やはりそう上手くはいかないらしい。

 

 「すぐに使えるのか?」

 

 「勿論さ!」

 

 「二人共、病み上がりで悪いが出てもらえるか? 兄貴達の援護に回って欲しい」

 

 「了解。オルガは?」

 

 「親父の安否確認してから、イサリビの方に行くつもりだ」

 

 「分かった」

 

 ハルは真新しくなったアスベエルへ乗り込むと若干緊張しながら阿頼耶識を接続する。

 

 だが、危惧していた反動も負荷もなく、常に纏わりついていた眠気が消し飛び、意識が急にクリアになった。

 

 「チッ、この眠気はやっぱりお前のせいかよ」

 

 分かってはいた事だが、忌々しい。

 

 もはや集中力が欠如したこの状態では今まで通りに仕事は出来ないだろう。

 

 最悪、コックピットの中で仕事をするしかないかもしれない。

 

 「三日月、そっちはどうだ?」

 

 「問題ない」

 

 「じゃ、行こう」    

 

 外へ繋がる通路へ運ばれ、隔壁が開放される。

 

 「ガンダムバルバトス・ルプスレクス、行くよ」

 

 「ガンダムアスベエル・マルスルクス、出るぞ」

 

 新たな姿に生まれ変わった二体の悪魔は再び戦場へ。

 

 噴射されるスラスターの出力にハルは歯を食いしばり、さらにペダルを踏み、出力を上げていく。

 

 「くっ」

 

 まるで水を得た魚のようにガンダムが戦火が広がる宇宙を悠々と駆け抜け、新たに追加された大型スラスターユニットがハルの思い通りに駆動する。

 

 「改修されただけあって、動きは悪くない!」

 

 器用にデブリを避け、加速と減速を繰り返し、機体の状態と反応を確かめる。

 

 「流石、整備長。いい仕事をする」

 

 ハルは大型のスラスタ―ユニットの可動範囲をさらに広げつつ、速度を上げると戦闘へ介入した。

 

 そこでは見覚えのある機体エゼクェルが猛威を振るっていた。

 

 「アレはナインが乗ってた機体!? 何で……いや、この騒ぎにヴェネルディ商会が関わっているって事か?」  

 

 沸き上がる疑問を棚上げし、レールガンを発射する。

 

 阿頼耶識特有の癖を見切り、発射された砲弾はエゼクェルに直撃、損傷させると同時に体勢を大きく崩した。

 

 「阿頼耶識を使っていても、動きが読めていれば!」

 

 距離を詰めたハルは腰に装備された太刀を抜き横薙ぎに叩きつけた。

  

 太刀の一撃は装甲ごとフレームを断ち切り、エゼクェルを真っ二つに両断。

 

 続けて発射したレールガンの一撃がコックピットを撃ち抜いた。

 

 「上手くできたな」

 

それは太刀を用いて強固なモビルスーツをフレームごと断ち切る技術。

 

 元を辿ればエドモントン動乱の際、バルバトスがグレイズノイジーと戦った時のデータ。

 

 何度も見直して、剣の使い方の参考になるかと密かに訓練していたのだが、本番でも上手くいったようだ。

    

 「よし、次!」

 

 レールガンで相手をけん制しながら、接近戦に持ち込み、敵を両断していく。

 

 そんなアスベエルを難敵と見たのか、エゼクェルは複数で潰し掛かってきた。

 

 「練度は悪くない。けど、バルバトスに比べれば遅すぎる」

 

 連携と共に繰り出される槍の斬撃。

 

 ハルは機体を巧みに操り、余裕で回避すると背中の大型スラスタ―を前面にせり出し、エゼクェルを弾き飛ばす。

 

 「周りをよく見ろよ。悪いけど、相手は俺だけじゃないんだ」

 

 アスベエルが上昇した瞬間、メイスを持ったバルバトスが急加速で突っ込んでくる。

 

 完全に虚を突かれたエゼクェルは避ける間もなく、巨大な鈍器によって潰され、デブリに叩きつけられた。

 

 さらに背中から射出されたテイルブレードが蛇のように動き、背後から迫る二機のエゼクェルに攻撃を仕掛ける。

 

 「邪魔だ」

 

 急所に食いつく蛇の牙は容赦なくエゼクェルのコックピットに突き刺さり、同時にもう一機をワイヤーで弾くと這い寄るテイルブレードが頭部を斬り潰す。

 

 まるで以前から尾が生えていたかのような、淀みないコントロールぶりにハルは呆れたような声を上げた。

 

 「器用なもんだな」

 

 「別に。前から尾があったような変な感じ」

 

 「阿頼耶識ってそういうものだけどな。それよりタービンズは」

 

 周囲を見渡すと一番激しい戦闘を繰り広げている宙域にハンマーヘッドの反応がある。

 

 「アミダさんの百錬や新型の辟邪もいる」

 

 「じゃ、仕事だ」

 

 「ああ」

 

 二機のガンダムが新生した力を存分に振るいながら駆けていく。

 

 その先でハルは再び過去の因縁と再会することになる。

 

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