機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ vivere militare est   作:kia

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第44話 先達の言葉

 

 

 

 

 

 事が決着する少し前。

 

 宇宙を航行する歳星にあるまじき振動が幾度も繰り返される中、テイワズの長マクマード・バリストンは険しい表情で物言わぬ端末を見詰めていた。

 

 ≪こんな事になっちまって悪い、親父。それでも俺はアイツらを見捨てられねぇ≫

 

 ≪死に方くらい好きに選ばせてくれ。だから親父も遠慮なく俺達を切り捨ててくれよ。本当に済まねぇ、最後まで碌でもない息子でよ≫

 

 先ほどまで交わしていた会話を思い出し、目を閉じる。

 

 すべてを背負い込み、覚悟を決めて去っていった息子へ掛ける言葉は持たなかった。

 

 何故ならマクマードは組織の長だから。

 

 一個人に対する依怙贔屓と取られるような言動は避けなければならない。

 

 「親父、此処は危険だ。安全な場所で現場指揮を」

 

 「ああ。分かった」

 

 部下の一声に意識を切り替え、席を立つ。

 

 その時、大きな振動と共に船の天井に亀裂が入った。

 

 外にいた者は一様に驚きを隠せない。

 

 何故ならば宇宙船とは基本的に堅牢であり、特に此処は歳星でも一際、厳重に作られているのだ。

 

 誰もが避難を忘れて天井を見上げていると、崩れた船体の破片が落下。

 

 真下にあるマクマードの屋敷を押しつぶした。

 

 「親父!!」

 

 「ぐっ!!」

 

 破片に潰される家屋と共にマクマードの姿も崩れた屋敷に飲まれていった。

 

 

 

 

 歳星の戦いは佳境に入っていた。

 

 補給に戻った防衛部隊が再び戦線へ復帰し、不利な戦況を盛り返していた。

 

 しかし最前線にて戦っていたタービンズはかなり疲弊していた。

 

 単純にマルドゥークだけであれば、此処まで追い込まれる事はなかっただろう。

 

 だが予想外のモビルスーツ群による精密かつ苛烈な攻勢が、否応なくタービンズを疲弊させていた。

 

 特に厄介なのはサイラス・スティンガー率いる新型モビルスーツだった。

 

 「やるな。流石はテイワズのエースって訳だ」

 

 「この男、強い!」

 

 アミダの操る百錬はサイラスのヴォーダン相手に一方的な防戦を強いられていた。

 

 バスターソードの強烈な斬撃を受け流し、距離を取りライフルで攻撃する。

 

 しかしヴォーダンは異形の形状からは想像も出来ない程、滑らかな動きで回避した。

 

 まるでダンスでも踊っているかのように。

 

 優雅さすら感じさせるが、相手にするアミダの表情は時経つごとに曇ってゆく。

 

 洗練された動き。

 

 練磨された技量。

 

 蓄積された経験。

 

 すべてがそこらのエースを確実に超えている。

      

 しかも単純な操縦技量のみならず、戦術、戦略眼まで優れているらしく、まるで隙が見当たらない。

 

 「たく、カインだけでも厄介だってのに。それ以上の奴がいるなんて、今日はとんだ厄日だよ」

 

 「どうした? 戦いの最中に考え事とは余裕じゃないか!」

 

 「ッ!?」

 

 腕に装備された200mm砲が火を噴き、アミダの回避先を奪う。

 

 そして狙い澄ましたヴォーダンのバスターソードが百錬の脚部をあっけなく切り落とした。

 

 「やってくれるねぇ!」

 

 「機体を傾け、損害を最小限に抑え込むか。本当にいい腕だ。だが―――」

 

 サイラスは一切の油断なく、そして手を緩めない。

 

 体勢を崩す百錬につま先からせり出したブレードで蹴り上げ、ライフルを破壊した。

 

 「これで終わりだ」

 

 「まだだよ!」

 

 大剣が振り下ろされる直前に加速。

 

 懐に飛び込んだ百錬に組み付かれたヴォーダンは、その大きな武装故に上手く振るえない。

 

 「その剣は大きすぎるんだよ!」

 

 アミダは片刃式ブレードを突き刺すべく、逆手に持ち替える。

 

 しかし次の瞬間、腰部の装甲が解放され、姿を見せた腕に殴り飛ばされてしまう。

 

 「隠し腕!?」

 

 「この大剣の扱い方も弱点も、敵が何を狙ってくるかも、悪いがすべて想定済みなんだよ。自分の装備だぞ? 弱点くらい把握していて当たり前だろうが!」

 

 加速の乗った大剣の一撃が再び百錬に振り下ろされる。

 

 先ほど以上の出力を発揮させているのか、あまりに重い一撃は片刃式ブレードでは防ぎきれず。

 

 押し込まれた斬撃が百錬を袈裟懸けに切り裂いた。

 

 「姐さん!!!」

 

 「嘘!?」

 

 常に自分達を率いてくれたアミダの敗北は、タービンズの面々に衝撃をもたらした。

 

 「隙だらけだよ」

 

 驚愕によって発生する思考の空白。

 

 それを見逃すナインではない。

 

 連携を駆使して粘っていたラフタとナーシャを分断し、各個撃破すべく一斉に攻撃を開始する。

 

 ライフルの火勢に堪らず後退したラフタの辟邪にフレースヴェルグの突き出したブレードが左胸部へと突き刺さった。 

 

 「きゃあああああ!!」

 

 「ラフタァァァ!!」

 

 「行かせない」

 

 駆けつけようとするナーシャだが、ニーズヘッグがそれを許さない。

 

 見かけ通りの高出力から繰り出される斬撃が、辟邪を否応なく防戦一方へ追い込んでいた。

 

 「姐さん、ラフタ、返事して!」

 

 しかし空しく声が響くだけで、返答は一切ない。

 

 急所は外れているが、コックピットに近い場所の損傷はパイロットに相応のダメージを与えた筈。

 

 急いで二人を回収して、治療を受けさせなければ手遅れになる。

 

 「二人を助けないと」

 

 「他人の心配をしている余裕があるのかい?」

 

 「くっ」

 

 回り込んできたフレースヴェルグの一撃が辟邪の装甲を断ち切った。

 

 ただラフタ達の方へ向かおうとした事が幸いしたのか、ダメージ自体は浅いもの。

 

 しかし安心する暇もなく、損傷した所為か機体が上手く動かせなくなっていた。

 

 「スラスターの一部が損傷した!?」

 

 「動けないモビルスーツなんてただのガラクタ。終わりだね」

 

 「おおよその戦力は無力化できたようだな。ならば一息に止めを刺すか」

 

 ヴォーダンは背中にマウントしていた大仰な長身のライフルを構えた。

 

 「試作兵器、戦艦の装甲にどの程度通用するか。試させてもらうぞ」

 

 「……ッ!? 動いて、辟邪!!」

 

 サイラスの狙いに気が付いたナーシャが叫ぶ。

 

 しかし辟邪は僅かな挙動しかできず、スラスターもガス欠したかのように点火しない。

 

 「スラスターだけじゃなく駆動系まで異常が出てる? どうして、こう! 新型だからってこんな時に!」

 

 ナーシャの焦りは止まらない。

 

 普通ならば戦艦の装甲を一撃で破壊できる兵器など限られている。

 

 だが、あの大仰なライフルは何故か嫌な予感がするのだ。

 

 「逃げて、旦那様!!」

 

 「もう遅い」

 

 ナーシャの叫びも空しく、トリガーが引かれる。

 

 発射された銃弾がハンマーヘッドに直撃。

 

 激しい爆発と共に艦首にある大型装甲版が破壊されていた。

 

 まるでそこから融解でもしたかのように抉れている。

 

 「何、アレ。ナノラミネートアーマーが破壊されている? ブリッジは……皆は無事なの!?」

 

 ハンマーヘッドから返事はなく、煙がブリッジ付近から上がり続けている。

 

 一見、撃沈寸前にも見えるが、この惨状を作った男は冷静に状況を把握していた。 

 

 「仕留め損ねたか。大型装甲版がなければブリッジごと破壊できただろうが。γナノラミネート反応を応用したライフル。まあ貫通力はダインスレイヴに劣るものの、威力としては十分すぎる」

 

 死に体の戦艦に引導を渡そうと再び銃口を向ける。

 

 「欠点を上げるなら、取り回しの悪さと弾数制限がある所だが」

 

 「撃たせるものか!」

 

 ナーシャは残った腕で背中へライフルを向けた。

 

 動けないなら無理やりにでも動かすまで。

 

 スラスターを暴発させて、特攻してでもあの射撃をやめさせる。

  

 あの特殊な大型ライフルさえ破壊出来れば―――

 

 「やらせると思うかい」

 

 「ッ!?」

 

 抵抗空しく、フレースヴェルグの一太刀に辟邪の残った腕を鮮やかに断ち切られてしまう。

 

 もはや辟邪に成す術なく。 

 

 止めとして放たれた斬撃を躱す余力もなかった。

 

 「……皆、ごめん」

 

 致命の一撃を前にナーシャは目を閉じる暇もなく、呆然と受け入れるしかない。  

 

 

 ―――剣がコックピットを貫こうとしたその瞬間、白い悪魔が降臨する。

 

 

 刃が到達する前に発射された砲撃がブレードを叩き折り、次弾がフレースヴェルグを吹き飛ばす。

 

 さらに構えていたサイラスの元へは鋭い牙が忍び寄る。

 

 「何!?」

 

 特殊合金製のワイヤーで繋がれた重厚なブレードが、急所狙いで攻撃してきた。

 

 狙いは正確であり、とても狙撃できるような状態ではない。

 

 「これを傷つける訳にはいかなくてな!」

 

 逆手に構えたバスターソードを盾に、上手くブレードを弾いたサイラスは新たな乱入者へ目を向ける。

 

 宇宙を駆ける白い機体。

 

 姿形は変わっていても、そのシルエットを見間違う訳もなく。

 

 「ガンダムアスベエル?」

 

 「11番、まだ生きていたのか。そろそろアスベエルに喰われたかと思っていたけれど。しぶとさだけは一級品だね」

    

 ほんの少しの称賛と大きな呆れの籠った声で呟いたナインは、姿を見せた堕天使に嘆息した。

 

 そして、尾を伸ばすもう一体の悪魔の姿に僅かに目を細める。

 

 「バルバトスか。どうする、サイラス?」

 

 「あの姿、改修されたらしいな。とりあえずどんなものか試す。ナイン、バルバトスはお前がやれ。11番は俺が相手をしてやる。昌弘、お前は他の連中を」

 

 「了解」

 

 予期せぬ増援にも動揺はなく。

 

 新参者である筈の昌弘さえも動きに一片の淀みはない。

 

 獲物を定めたヴォーダンは、バスターソード片手にアスベエルへ突撃する。

 

 「あの機体、サイラス!?」

 

 ハルは接近してくるヴォーダンにすかさずレールガンを発射する。

 

 狙いはけん制だったが、そんな小細工が通用する相手ではなく、すり抜けるようにすべて紙一重で躱されてしまった。

 

 「正確な射撃だ。だが、それだけに狙いが読みやすいぞ、11番!」

 

 「サイラス!」

 

 大型スラスターユニットを思い切り噴射させたハルは、マウントしていた大剣を抜く。

 

 「正面から突っ込んでくるか! 舐められたもんだな!」

 

 「……舐めてるのはアンタだろう!!」

 

 ヴォーダンとアスベエルが激突しようとした一瞬、ハルはスラスターを操作。

 

 バスターソードを器用に潜ったアスベエルはヴォーダンをすり抜けて、フレースヴェルグに特攻する。 

 

 「11番!?」

 

 「その声、9番か!? サイラスと同じ、わけのわからないモビルスーツで!」

 

 「君が言えた義理か!」

 

 横薙ぎに振るった大剣をフレースヴェルグのブレードが迎え撃つ。

 

 だが、ナインを待っていたのは大剣の一撃ではなく、予想外の方向から飛んできた打撃だった。

 

 見ればアスベエルの背中にある大型スラスタ―ユニットが前面にせり出している。

 

 「スラスターを打撃武器として使う!?」   

 

 無論、虚を突かれたナインも歴戦の猛者。

 

 黙ってやられる訳もなく、反撃に転じようと剣を振る。

 

 だが、補足する前に視界の外へ逃れたアスベエルの動きに、再びナインは驚愕する事になる。

 

 「何だ、その動きは」

 

 大型スラスターを操り、視界を振り切るような変則的機動。

  

 そこから繰り出される太刀による斬撃が装甲を断ち切っていく。

 

 「くっ、装甲を断ち切るとは……調整中とはいえ新型機を君如きに!」

 

 フレースヴェルグのバックパックが展開され、格納されていた翼が解放される。    

 

 その形態は明らかに機動性を優先したものであり、それを証明するかのように先ほどとは比較にならない速度で動き出した。   

 

 突進してくるキマリスにも匹敵する、その速度から繰り出される一撃は脅威だった。  

 

 だが、それすらもハルは躱し、反転してくる所を狙い撃つ。

 

 「何!?」 

 

 ギリギリ砲撃を防御しながら三度の驚愕に襲われたナインはより警戒を強くする。

 

 甘く見ていた訳ではないが、前とは反応が違う。

 

 技術についても向上しており、確実に練度を上げてきていた。

 

 以前とは明らかな別人である。

 

 「この短期間の間に……ネフィリムシステムの影響か」 

 

 「戦闘中に考え事かよ!」

 

 加速しながら姿勢制御を行い、発射されたレールガンの一撃が防御を突き崩し、砲弾を防いでいたフレースヴェルグの剣を弾き飛ばした。

 

 「調子に乗って!」

 

 「少しは腕を上げたか、11番」

 

 「行かせない」

 

 アスベエルを追おうとしたヴォーダンの背後からバルバトスが突っ込んでいく。

 

 速度の乗ったメイスの重撃は苦もなくバスターソードを弾き、加えて射出したテイルブレードによる追撃が急所へと這い寄っていく。

 

 だが、サイラスは百戦錬磨。

 

 動揺する事無く上手くバルバトスの打撃を受け流すと宙返りしながら、つま先の刃でテイルブレードを弾き飛ばす。

 

 その操縦センスは一級品であり、だからこそこの僅かな攻防でバルバトスの変化に気が付いた。

 

 繰り返されるバルバトスの猛攻を捌きながら、冷静に相手の力量を分析する。

 

 「さらに腕を上げているようだな。しかも機体の反応も向上しているとなれば、並みのパイロットでは相手にならないだろう。しかも」

 

 的確にサイラスの攻撃を捌いている。

 

 まるでこちらの動きを読んでいるかのように。

 

 「なるほど。一度手合わせした事に加え、11番の動きからトレースしたか」 

 

 「ゴチャゴチャとうるさい奴。アイツにそっくりだ」

 

 鋭くコントロールされたテイルブレードがヴォーダンに再び迫ってくる。

 

 「面倒な装備だ。しかも動きも鋭い。阿頼耶識との相性もいいらしい」

 

 どこまでも伸びる毒蛇の牙から絶妙なスラスター操作で逃れたサイラスは、相手の思わぬ手強さに感嘆の声を漏らした。

 

 「阿頼耶識を抜きにしても本物の天才だよ、お前は。こいつも11番も戦力評価を修正する必要があるな」

 

 テイルブレードをバスターソードで切り払い、200mm砲でバルバトスを引き離す。

 

 「この状況では歳星内部への侵入は難しいな。最低限の目的は達成しているが……」

 

 作戦目的と現状を天秤に掛け、即座に判断を下す。

 

 「ナイン、昌弘、作戦変更だ。直接狙撃する。全機、援護しろ」

 

 「「了解」」

 

 ナイン、昌弘だけでなく、出撃していたエゼクェル全機がヴォーダンの進路を確保すべく動き出す。

 

 一機はバルバトスに組み付いて妨害し、別の一機が命懸けでアスベエルの前に立ちはだかる。

 

 もはやヴォーダンを阻むものは何もなく―――いや、この状況でもなお敵陣を突破し、懐へ飛び込んできた者がいた。

 

 褐色のガンダム・フレーム、グシオンリベイク・フルシティである。

 

 所々にエゼクェルの槍が突き刺さり、中には無理やり組み付いている機体もいるのに、それらを一切無視しながらハルバード片手に突っ込んでくる。

 

 「相変わらず命知らずな」

 

 「アレは僕たちで抑えよう。いいね、昌弘?」

 

 「……いや、俺がやるよ。ナインはサイラスの護衛を」

 

 因縁の機体を鋭い目つきで睨みつけた昌弘は、バスターソードを抜いて迎え撃つ。

 

 振るった大剣の斬撃がハルバードの刃が火花を散らし、重厚な二機のモビルスーツが真正面から激突する。

 

 「邪魔すんじゃねぇ!!」

 

 「……邪魔するさ」

 

 「その声、昌弘!?」 

 

 鍔迫り合うモビルスーツから聞こえた予想外の声に昭弘の動きが止まる。

 

 「お前なんでこんな!」

 

 「何で? 決まってるだろ。この世界をぶっ壊す為だよ!!」

 

 「ぐぅ!!」

 

 ニーズヘッグのスラスターが火を噴き、一瞬の戸惑いを突いた力勝負に敗れたグシオンリベイクはその推力によって押し込まれてしまう。

 

 事前の作戦通りに動くエゼクェルによって生み出された僅かな隙。

 

 それを見逃さないサイラスは再びライフルを構えた。

 

 「ライフルとのデータリンク開始。狙撃補正、目標データ入力」

 

 冷静に狙いを定めて引かれるトリガー。

 

 発射された銃弾は狙い通り、歳星の主の元へ直撃する。

 

 より堅牢な装甲を貫通こそしなかったが、もたらした破壊は想定通りの被害を与え、歳星を沈黙させる事に成功した。 

 

 「マクマード・バリストンを仕留められたかどうかは微妙だが、歳星に損害は与えられた。これで十分だろう。ナイン、頃合いを見て全機後退だ」 

 

 「了解。11番を仕留められなかったのは口惜しいけどね」

 

 「お互いに初見の機体だったんだ。それは次の機会までとっておけ」

 

 追撃を警戒しながらサイラスは後退を開始する。

 

 視線の先には装甲に穴が開き、火の手が上がった歳星の姿が見えていた。

 

 

 

 

 未だ終息の気配を見せない戦いの中。

 

 艦首装甲版が破壊され、撃沈寸前にまで追い込まれたハンマーヘッドの姿にオルガは今までにない程に動揺していた。

 

 一刻も早く救助に向かいたい所だが、イサリビも簡単に動けない理由がある。

 

 たった一隻の船による妨害。

 

 この事件の発端となった戦闘部隊マルドゥークの母艦『バビロン』の攻撃に晒され、迂闊にハンマーヘッドの方へ近づけない。

 

 さらにイサリビの動きを鈍らせていたのは、人員不足だ。

 

 そもそも今回、歳星に訪れた理由は修復、改修を終えた機体の受領と三日月、ハルの身体検査を行う為。

 

 戦闘を想定してなかった故に、副団長であるユージンを含めた主要メンバーの半数は火星本部にいるのだ。

 

 そして最大の理由。

 

 それは単純なマルドゥークの手強さにあった。

 

 優秀な指揮官に率いられているのだろう。

 

 奇抜な機動などはないが、的確な指揮による攻撃にイサリビは動きを封じられていた。

 

 ユージン不在のため、オルガが阿頼耶識でイサリビを操作しているにも関わらずである。

 

 けん制と本命を織り交ぜて砲撃を繰り返し、阿頼耶識のアドバンテージである機動性を生かせない。

 

 「こっちの動きを完璧に読んでやがる!」

 

 相手の矛先から逃れようと、戦艦とは思えぬ動きで砲撃を掻い潜るイサリビだが、待ち構えていたのは予め仕掛けられていた機雷群。

 

 「なっ!?」

 

 同時にバビロンから発射されたミサイルによって機雷が誘爆し、イサリビを爆炎が囲い込む。

 

 「ぐっ、状況報告!」

 

 「後部砲塔使用不能! 一部スラスター破損!」

 

 機雷の爆発とダメージでイサリビは唯一のアドバンテージを封じられ、完全に後手に回ってしまう。

 

 そこを仕留めんと向かってくる、エゼクェル。

 

 しかしそれをさせまいと派手な色で塗装されたモビルスーツが割り込んでくる。

 

 新たな乗り手を得たガンダムフラウロス―――否、流星号であった。   

 

 「うおらぁあああ!!」

 

 外見から砲戦仕様であるとも考えられる流星号だが、そんな事は関係ないとエゼクェルに接近戦を挑んでいく。

 

 イサリビを狙うエゼクェルを殴り飛ばし、背中のレールガンで発射されたミサイル群を迎撃する。

 

 流星号とシノが居なければ、イサリビはすでに落とされていたかもしれない。   

 

 そして―――

 

 「反対から来たぞ! しくじるなよ、ハッシュ!」

 

 「はい!!」

 

 逆方向から攻めてきたエゼクェルに真新しいモビルスーツが立ちふさがる。

 

 機体の名は『辟邪・天津』

 

 回収されたグリムゲルデのパーツを辟邪に組み込み、誕生した機体である。

 

 ヴァルキュリア・フレームのパーツを組み込む事で発生する可能性がある機体バランスの崩壊と操縦性の劣悪化を防ぎ、高性能な辟邪を力をさらに底上げしたものに仕上がっている。

 

 この機体のパイロットを任されたハッシュはその性能は肌で感じていた。

 

 「これ、凄いぞ。もの凄く扱いやすい!」

 

 高出力、高性能を実現した機動性。

 

 誰でも思ったように動かせる操作性。

 

 まるであつらえたように馴染む感触にハッシュは興奮を隠せない。

 

 「やらせるかよ!」

 

 飛んできたミサイルを叩き落とし、繰り出された槍を左手に装備されたヴァルキュリアブレードで切り返す。

 

 血の滲む訓練が身を結び、ハッシュは阿頼耶識を装備した連中と互角に戦えていた。

 

 だが、それでも追い詰められた状況に変わりなく、イサリビは絶え間なく続く攻勢にギリギリ耐え忍んでいるのが精一杯である。

 

 どうにかこの状況を変えるべく、相手の様子を伺いながら注視していると、突然敵艦が後退するように離れていった。

 

 「後退していく?」

 

 相手が優勢にも関わらず退いていく敵の行動に戸惑うが、破壊された歳星の姿に敵の目的が達成されたのだと気が付いた。

 

 「くそ、やられた!」

 

 「団長、敵艦から通信です」

 

 「ッ!? 繋げ!」

 

 モニターに映し出されたのは厳つい顔をした中年の男。

 

 何度か顔を見たことがある。

 

 この男こそ―――

 

 「マルドゥークの指揮官」

 

 ≪お互い顔は知ってるよな、オルガ・イツカ。マルドゥークの隊長フィン・アルバーンだ≫

 

 「どういうつもりだ? これだけの事をしでかしておいて!!」

 

 憤りを隠さないオルガに対してフィンは涼しい顔で肩を竦める。

 

 ≪こっちにも色々あるのさ。それは歳星に戻ってからでも聞くなり、調べるなりしたらいい。お前さんも知っておいて損はない。これからテイワズでやっていくなら、組織の一員として生きていくなら、なおさらな≫

 

 まるでこちらを気遣うような物言いに戸惑いが隠せない。

 

 ≪そんな顔すんなよ。ただ最後に挨拶しておこうと思っただけさ。だから遠慮なく俺達を討ち取りに来い。ま、こっちにも意地がある。簡単にはやらせないがね≫

 

 このフィンと名乗った男もカインと同じだ。

 

 鉄華団を、オルガ達を子供だと一切見下さず、対等に話をしている。

 

 だからこそ―――

 

 「何がしたいんだよ」

 

 ≪さあな。また会うとすれば戦場だろう。それまで死ぬなよ、後輩≫

 

 言いたい事だけ言って、通信を切ったフィンは部隊を率いて去っていく。

 

 敵である筈の相手に対し、未だ敵意の一つも抱けない自分を不可解に思いながら、オルガはハンマーヘッド救援の指示を出す。

 

 「だ、団長!」

 

 「今度は何だ?」

 

 「火星から連絡があったらしいんですが、その、桜農場が襲撃されて、クーデリアさんが誘拐されたと」

 

 「は?」

 

 予想外の知らせに即座に返答できず、僅かの間、ブリッジを沈黙が支配した。

 

 

 

 

 広く暗い宇宙の一画。

 

 地球が構築した正規航路からも、圏外圏の独自航路からも外れた場所。

 

 浮かぶ小惑星帯に一隻の船が入っていく。

 

 それを遠くから黒く塗装されたグレイズが観測していた。

 

 「……目標発見。本隊に連絡」

 

 ゆっくりと、そして静かにグレイズが離れていく。

 

 それを見ている者がいる事にも気が付かぬままに。

 

 長きに渡り、闇に身を潜めた存在が明るみになる時が徐々に近づきつつあった。

 

 

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