機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ vivere militare est   作:kia

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第45話 破滅の足音

 

 

 

 

 

 

 ブースターから発せられる複数の光が、暗い宇宙の果てへと向かっていた。

 

 飛んでいるのはテイワズの高速輸送機『クタン参型』

 

 運ばれているのは改修を受けたばかりのガンダムアスベエル・マルスルクスだった。  

 

 「……お嬢様」

 

 珍しく焦ったように操縦桿を握りしめるハルにクタンを操縦しているモーゼスが声を掛けた。

 

 「落ち着け、ハル。殺す気なら桜農場で殺されてたろうよ。誘拐って事は目的がある筈。お嬢ちゃんは恐らく無事だ」

 

 「分かってるよ、モーゼス。だけどアイツがお嬢様を誘拐した目的だってどうせ碌な事じゃない」

 

 クーデリアの誘拐が知らされて以降、焦りが消えない。

 

 無事だった桜やクッキーとクラッカの話によれば誘拐したのはあの男ヴェネルディだったという。

 

 しかもアトラも一緒にだ。

 

 彼女の場合はクーデリアを連れていかせまいと抵抗した結果、連中に拘束された形らしい。

 

 「でも、何でついてきたんだ、モーゼス? 分かっていると思うが、確実に戦闘になる。かなり危険だぞ」

 

 クーデリア誘拐を知ったハルはヴェネルディの行方を知る為、少しでも情報を得ようとモーゼスに声を掛けた。

 

 結果としてギャラルホルン火星支部からの情報で、ヴェネルディの拠点らしき場所にフローズヴィトニルが向かっているという情報を得たのである。

 

 その後、マクギリスとも連絡を取り、裏を取ってハルだけでもその場所へ向かおうという事になったのだ。

 

 此処まではいつも通りだったのだが、情報の対価としてモーゼスが同行を求めてきたのである。

 

 「歳星は大変な時だ。オルガ達が動けなかったのも、事後処理の所為だし」

 

 歳星の被害は想像以上のものだった。

 

 航行は出来ず、船体修復にもかなり時間がかかる。

 

 同行を希望した三日月や鉄華団が動けないのも、海賊などの襲撃から歳星を守らねばならないからだ。

 

 不幸中の幸いだったのは、マクマードや名瀬達は重傷を負ったものの、命は助かった事くらい。

 

 しかしテイワズ自体はズタズタで、組織力の低下は避けられないだろう。

 

 「俺が死んでも会社の方は心配ねぇよ。元々もう経営の大半は別の奴に仕切らせてる。お前の昔なじみ達も順調に育ってるしな」

 

 「そういう事じゃない。別に深く詮索するつもりはない。他者の事情に深入りしないのが圏外圏のルールだからな。でも、アンタは普通の人間が知らない知識を持っている。今回の情報も火星支部から提供されたんだろう? もしも奴らの事を知っているなら教えてほしい」

 

 「俺もヴェネルディ商会とか言う連中の事は知らんよ。それでも知っている事はある。それで良いなら教えてやる」

 

 モーゼスは僅かな沈黙の後、自らの過去を語りだす。

 

 「ま、そんな大層な話でもない。昔、俺はギャラルホルンで阿頼耶識を研究する技術者だったのさ」

 

 「ギャラルホルンの?」

 

 「ああ」

 

 モーゼス・マーソンは地球生まれ、地球育ちの紛れもないエリートである。

 

 家柄を見ても一般的な者と比べ、裕福な家系であったのは間違いない。

 

 それでも人格的に歪む事無く、成長できたのは両親の教育の賜物だったのだろう。

 

 勉学や運動共に優秀。

 

 両親の伝手でギャラルホルンに所属し、研究者としてモビルスーツの開発に携わる。

 

 流石にセブンスターズの名家とまではいかずとも、順風満帆な人生を約束されていた筈だった。

 

 転機が訪れたのは上からの命令で極秘の研究所へ配置された事。

 

 そこではギャラルホルンにとって禁忌とされた阿頼耶識の研究が行われていた。

 

 厄祭戦を終わらせた悪魔たちの反乱。

 

 そんなもしもに備えての対策。

 

 当然だが、地球に広がっていた価値観に照らし合わせれば忌避すべき研究だ。

 

 しかし拒否権がある訳もなく、秘密を知ったモーゼス達に逃げ道もない。

 

 自身をすり減らしながらも、研究を続けていく事になる。

 

 彼らの課題。

 

 それは阿頼耶識使用する際のリスクの軽減である。

  

 阿頼耶識は例え未熟なパイロットであろうとも画期的な機動を実現できる優位性を持つ。

 

 だが、その反面設けられたリミッターを解除し、機体との一体化を図る程にパイロットに伝わる情報量が増え、脳に深いダメージを与える事になる。

 

 結果として身体には重度の障害が残り、最悪の場合、廃人と化してしまう可能性も十分にあり得た。

 

 そのリスク解消の為に考案された方法の一つが、ナノマシンを用いたパイロットを強化するというプランだった。

   

 それが『ネフィリムシステム』

 

 機体にどんなパイロットにも適応できる汎用性を持たせるのではなく、パイロットをより高出力の機体に耐えられるようにするというコンセプトで設計されたシステムである。 

 

 当然、このシステムの実用化には非人道的な実験が不可欠であり、実際何人もの人間が犠牲になった。

 

 中には年端のいかぬ子供まで。

 

 正気を失い、狂気に身を委ねていればある意味で救われていたかもしれない。

 

 しかし残念な事にモーゼス・マーソンは良識のある普通の人間であった。

 

 故に上官へと食ってかかり、結果として複数の職員を巻き込んだ脱走へ発展。

 

 研究所にあったデータをすべて破棄、施設も破壊して圏外圏へ逃れた。

 

 「そして紆余曲折ありながらも会社を設立して、現在に至るって訳だ」

 

 「よくギャラルホルンから逃げられたな」

 

 「奴らは事態の揉み消しが忙しかった上に、こっちには伝手もあったのさ。お前らも知っているだろう。火星支部長コーラル・コンラッド。奴の家に力を貸してもらった」

 

 モーゼスがどうやってギャラルホルン関係の仕事や情報を得ているのか疑問だったが、そういった繋がりがあったのかとようやく理解できた。

 

 「俺が今回、同行を申し出たのは……お前のガンダムアスベエルが気になったからだ。恐らくだが、その機体にもネフィリムシステムが搭載されている」 

  

 「……この機体に」

 

 「問題は誰がその機体に搭載したかって事なんだよ。少なくともアレは厄祭戦ではなく、近年に開発された技術なんだからな」

 

 ハルの中で沸き上がる疑問と提示された情報を組み合わせて答えを得ようと思考する。

 

 厄祭戦を終わらせた機体に共通する悪魔の名前とは違う、堕天使の名を持つ機体。

 

 アスベエルが発見された真新しい施設。

 

 ギャラルホルンの極秘技術の流用。

 

 戦場を現れたアスベエルと同じ堕天使の名を冠されたガンダム。

 

 それに繋がっていた老舗の貿易商。

 

 まるであつらえたように提供されたガンダム・フレームのパーツ。

 

 「すべてヴェネルディ商会に繋がっているのか?」

 

 「それを確かめようって事だ」   

 

 すべての答えはこの暗がりの先にある。

 

 待ち受けているものが何であろうとも、必ず助けると胸に刻んだハルは操縦桿をより強く握りしめた。

 

 

 

 

 クーデリアがゆっくり目を開けるとそこは見覚えのない部屋だった。

 

 質素な作りでベットと小さな机、椅子以外の物が何もない。

 

 はっきりしない意識のまま、何気なく横を見るともう一つのベットに寝かされた少女の姿が目に入る。

 

 「ッ、アトラさん!!」

 

 隣のベットで寝かされたアトラに飛びつくと怪我がないかを確かめる。

 

 浅く呼吸を繰り返し、見る限りにおいての外傷もない。

 

 どうやら無事のようだ。

 

 「良かった。でも、此処は」

 

 アトラの無事にホッとしつつも、この場所がどこなのかも分からない。

 

 手掛かりになるものを求め、部屋にあるたった一つの小窓を覗き込むと、船のドックのような場所が広がっていた。

 

 「宇宙港……という事は船の中?」

 

 「その通り」

 

 振り返るとそこにはクーデリアを誘拐した元凶が立っていた。

 

 「此処は我々の所有している極秘施設の内の一つでね。本当ならもっと落ち着ける場所へご案内したかったのですが、色々と事情があるのです。ご容赦ください」

 

 「私を無理やり連れてきておきながらよく言いますね。アトラさんまで巻き込んで」  

 

 「それについては申し訳ない。そちらのお嬢さんは望んで招待した訳ではありませんが。しかし手荒な扱いはしないと約束しましょう」

 

 そんな言葉を鵜呑みにする程、クーデリアも馬鹿ではない。

 

 クーデリアが言う事を聞く限りは安全を保障するが、妙な真似をすればアトラは人質に早変わりという訳だ。

 

 「それで私をこんな所まで連れてきて、何をさせようとしているのです?」

 

 「ゆっくり説明したい所なのですが、少々立て込んでいまして。時間が出来次第、きちんとお話しさせていただきますよ。まあ、貴方にして貰うことなどありませんが」

 

 「では、何の為に……貴方達は何者なのです?」   

 

 この規模の施設を所有している事といい、桜農場を襲撃した際の戦力や装備といい、ただの貿易商というにはあまりにも異質な気がしてならない。

 

 そんなクーデリアに笑みを浮かべたヴェネルディは明らかに雰囲気を変える。

 

 目の前の男から放たれた威圧感。

 

 それによってクーデリアは金縛りにあったかのように動けなくなってしまう。

 

 「失礼。では改めて名乗りましょうか。我々ヴェネルディ商会の本当の名を『グレゴリ』。その名の通り、『見張る者』です」

 

 恭しく頭を下げる仮面の男。

 

 しかしその威圧感は前に出会った時とは明らかに別物で、クーデリアは気圧されぬよう手を固く握るしかない。

 

 悔しいが、雰囲気に呑まれている。

 

 幼い頃から様々な人種と会う機会に恵まれ、それなりの経験値を積んだつもりだったのだが、ヴェネルディは今まで出会った誰とも違う凄味がある。

 

 手が震え、口の中が緊張で乾く。

 

 だが、退けない。

 

 これ以上、気圧されて堪るものかと精一杯の皮肉を口にした。

 

 「失礼だと言うのなら、初めからでしょう。まずはその無粋な仮面でも取ったらいかがです?」

 

 「なるほど。私としては仮面をつけている今の姿こそが本当の素顔だと思っているのですが、貴方達からすれば顔を隠しているのだから礼を失していると言われるのも当然でした」

 

 至極あっさりと顔を覆っていた仮面を取り、素顔を晒したヴェネルディにクーデリアは息を飲んだ。

 

 仮面を容易く外した事への驚きも当然あったが、それよりも晒された素顔にこそ驚愕する。

 

 今までの言動や行動には経験に裏打ちされた老獪さすら存在していた。

 

 しかし男の素顔は自分と同年代の若い青年だったのだ。

 

 そしてこの顔だ。

 

 何処かで見覚えがある気がする。

 

 「今まで素顔を見せなかった無礼を謝罪しましょう」

 

 「……いえ」

 

 「では申し訳ありませんが、しばらく此処に居ていただく。我々はこれから客をもてなさなければいけないもので」

 

 「客?」

 

 「ええ。招かれざる客ではありますが、時期が少し早まったと考えれば丁度良い」

 

 端正な顔立ちに似合わぬ好戦的な表情を浮かべたヴェネルディは静かに告げる。

 

 「開戦の時だ」 

 

 

 

 

 

 航路からも外れた圏外圏の外れ。

 

 本来、ギャラルホルンの目にも届かない宇宙の端っこにある小惑星群をフローズヴィトニルの艦隊が包囲している。

 

 思った以上に使える男であったトド・ミルコネンと以前から動いていたアレクシアの地道な圏外圏での情報収集が実を結び、フローズヴィトニルはついにヴェネルディの拠点を突き止めていた。

 

 「相手側の動きは?」

 

 「未だありません」

 

 「こちらに気づいていないという事はない。仕込みの方はどうだ?」

 

 「そちらは順調に進行中です」

 

 この周辺を包囲し、警告を発してすでに数分が経過している。

 

 投降する気なら返事が来ている筈だし、反撃するつもりならば動きがあっても良いだろう。

 

 それがないという事は、何かしらの準備をしていると考えた方が自然だ。

 

 それがこちらを嵌める罠か、逃亡の用意かはわからないが。

 

 ブリッジから小惑星群の様子を伺っていたマクギリスは次の一手を打つべく指示を出した。

    

 「モビルスーツ隊、出撃準備。私も出る。何かある可能性が高い。包囲網を崩さない程度に距離を取り、どんな状況にも対応できるよう各艦に指示を出せ」

 

 「了解」

 

 シグルドリーヴァで出撃したマクギリスは無数に散らばる岩を避けつつ、真正面にある小惑星へ近づいていく。

 

 警戒しながら浮いている浮遊物を避けた瞬間、近くの複数の岩が爆発する。

 

 爆発自体はモビルスーツにとって脅威ではない。

 

 問題は岩の中から散らばった物。

 

 進路を阻むように、小惑星を守るように無数の機雷が散布されたのである。

 

 「機雷程度でモビルスーツの進軍を止められると思っている訳ではないだろう。各艦、主砲で機雷を―――」

 

 ≪艦隊後方から敵モビルスーツ!≫

 

 艦隊の背後を突いた奇襲。

 

 無数のエゼクェルが一瞬の隙を逃すまいと艦に向けて、攻撃を仕掛けるべく突貫していく。

 

 その動き、すべて阿頼耶識搭載型なのは一目瞭然。

 

 艦隊の砲撃の合間を潜り抜ける反応と特異的な機動性はその証明だった。

 

 しかしフローズヴィトニルの隊員で慌てている者は誰もいない。

 

 何故なら対阿頼耶識の訓練など嫌という程に積んできているのだから。

 

 「全機、フォーメーションを組め! 決して単機で挑むな!」

 

 「「了解!!」」

 

 剣、銃、盾をそれぞれを装備したグレイズが三機編隊を組み、一機のエゼクェルを抑え込む。

 

 戦法は単純。

 

 盾で抑え、銃でけん制しつつ、剣でダメージを与える。 

 

 単純なフォーメーションではあるが、流石は独立監査部隊。

 

 その高度な技術は他の部隊より明らかに抜きんでており、行われる連携は完璧。

 

エゼクェルの攻勢を一切許さない。

 

 「私達とて何もしなかった訳ではないのだよ!」

 

 唯一単独で動くマクギリスは苛烈な砲撃をすり抜けてヴァルキュリアブレードをエゼクェルの頭部に突き入れる。

 

 正確無比な太刀筋は例え阿頼耶識による変則機動だろうと関係ない。

 

 槍を弾き、隙だらけになった懐へブレードの斬撃が走ると同時に背後から近づく敵へライフルを叩き込む。

 

 マクギリスの高度な技量によってシグルドリーヴァはエゼクェルを一切寄せ付けず。

 

 彼らを無慈悲に刈り取る死神と化していた。

 

 「これらの機体は確かに優れたもの。阿頼耶識を含めても脅威には違いない。しかし、この程度なのか?」

 

 彼らの影を追いながら、常に感じていた強烈な不安感が肩透かしに思える手ごたえの無さ。

 

 杞憂だったというならそれで良いが、地球軌道上で相対した紅い機体を操る男から感じた不吉さがマクギリスにその考えを許さない。

 

 「本命はどこだ?」

 

 苦も無く敵モビルスーツを切り伏せながら周囲を探るマクギリスだが、そこに銃撃が浴びせられる。

 

 「ッ!?」

 

 咄嗟に取った回避行動で事なきを得るが、狙ってきた相手は即座にライフルを連射してきた。

 

 確実に急所を狙う一射はマクギリスの動きを読んでいるのか、全く気を抜けない。

 

 まるで蜂の一刺しの如く強力な一撃を躱しながら、敵の正体を看破する。

 

 「この射撃は……」

 

 視界に捉えた相手。

 

 それは全身をマントのようなもので身を包んだ、正体不明の機体だった。

 

 腕や足など視認できる部分にしても、まるでグレイズノイジーのような外部装甲が装着されており、全貌は見えないまま。

 

 エイハブ・ウェーブの反応で探っても登録されておらず、外見を探ろうとしてもマント状の物体が邪魔をする。

 

 「解析不能だと? あのマント、ステルスだけでなくデータ解析を阻害する働きがあるのか。余程、その機体を見られたくないらしいな」

 

 機体の事は分からず仕舞いだが、一つだけ分かっている事がある。

 

 アレを操っているパイロットは間違いなく奴だ。

 

 「貴様、あの紅いモビルスーツのパイロットだな」

 

 「流石だな、マクギリス。僅かな手合わせだけで、こちらの事を見抜くとは」

 

 マントで身を隠す機体に搭乗していたのはマクギリスの予想通りの相手、仮面の男ヴェネルディだった。

 

 「忘れる筈がないだろう。今日こそ、貴様らの尻尾を掴ませてもらう」

 

 「ならばこちらも付き合ってもらおう。今、この機体の姿を晒す訳にはいかなくてね。現状、どれだけ戦えるか確かめたかった。この『ガンダムアザゼル』の実験台になってもらえるならありがたい」

 

 「何!?」

 

 腰からニ本の剣を引き抜いたヴェネルディはシグルドリーヴァに斬りかかる。   

 

 横薙ぎに払われた斬撃をマクギリスは紙一重で受け止める。

 

しかし想像以上の出力に鍔迫り合いを維持出来ず、押されてしまう。   

 

 「力負けする!?」

 

 「前と同じだとは思わない事だ!」

 

 さらに刃を押し込まれ、シグルドリーヴァの装甲に食い込んでいく。

 

 「くっ」

 

 咄嗟にもう片方のヴァルキュリアブレードを引き出し、剣を上段から叩き伏せて難を逃れた。

 

 だが、ヴェネルディの攻勢は終わっていない。

 

 何度も鋭く速い斬撃が繰り出され、マクギリスは体勢を立て直す暇を与えられない。

 

 「受けに回っていては!」

 

 軋みを上げるヴァルキュリアブレード。

 

 激突し、鍔競り合う四本の刃。

 

 高速で駆けながらアザゼルの斬撃を押し返すが、距離を取ろうとした一瞬の間に逆手に持ち替えた剣の一撃が走った。

 

 受けた傷自体は装甲に浅く削っただけだが、シグルドリーヴァの体勢が僅かに崩れる。

 

 その隙を見逃さず、ヴェネルディの放った剣閃がヴァルキュリアブレードごと左腕を断ち切った。

 

 「その動きは……」

 

 「私も地球軌道上での戦いで学んでいる。もう遅れを取らないよ、マクギリス」

 

 「これは機体性能の差だけではない。力量もそうだが、貴様、阿頼耶識を」

 

 「どこまでも目敏い」

 

 ヴェネルディの肯定を聞いたマクギリスに走った戦慄は気のせいではないだろう。

   

 元々この男の技量は並外れて高かった。

 

 操縦の難しいグリムゲルデを操り、モビルアーマーとも互角に戦えるという一種の怪物。

 

 さらに阿頼耶識の力が加わるとなると分が悪いと認めざる得ない。

 

 「片腕でどこまでやれるかな、マクギリス。だが、手加減はしない。それが君に対する敬意というものだ」

 

 「そうそう簡単に討ち取れるとは思わないでもらおう」

 

 振るわれる二刀。

 

 すべてが絶技と評価されるだろう攻撃が幾重にも繰り出され、それを一本の剣で支えるマクギリスは圧倒的不利な状況に追い詰められていた。

 

 「まだだ!!」

 

 「そうだ。こんなものではないだろう!」

 

 二人の叫びと共に剣戟も激しさを増す。 

 

 だが嵐のような刃の乱舞にシグルドリーヴァは見る影もなく削られていく。

 

 そして限界は訪れた。

 

 均衡が崩れ、アザゼルの一閃でシグルドリーヴァの脚部を切断され、岩片へと叩きつけられてしまう。 

 

 「ぐああ!」

 

 「決着だな。名残惜しいが、此処までだ。私も後が控えていてね」

 

 止めを刺すべく振り上げた剣。

 

 だがその時、強烈な射撃がガンダムアザゼルへと放たれた。

 

 岩を砕く一撃を機体を翻して躱したヴェネルディの前に紅い装甲を身に纏った機体が高速で接近してくる。

 

 明らかに普通の機体と一線を画する速度で接近してくるのは殺意を迸らせたマスティマだった。   

 

 「ついに見つけたァァァ!!」

 

 「ほう」

 

 まるで流星の如く。

 

 一切の躊躇いもない目標へと突撃する。

 

 さらに速度を上げたマスティマはシールドを構え、自身を弾丸としてアザゼルへと激突した。  

 

   

 

 

 ギャラルホルン本部ヴィーンゴールヴ。

 

 普段から誰もが使う通路でとある男女が鉢合わせしていた。

 

 このタイミングでの遭遇はある意味で運命というべきなのかもしれない。

 

 ラスタル・エリオンとアレクシア・ボードウィン。

 

 犬猿の仲とも言えるこの二人は今、一触即発の火薬庫のような気配を漂わせながら一歩も譲らず睨み合っていた。 

 

 「やってくれたな、エリオン公」

 

 「何の事かな?」

 

 「とぼけるな。例の件、モビルアーマーの部品を奪った連中の事だ。アレはフローズヴィトニルに任せた筈。それを貴様ら、追跡していたな。そこまで手柄が欲しいのか」 

 

 「それは違うな、ボードウィン公。我々はギャラルホルン。その職務を全うするだけだ」

 

 「だから何をしても良いと? 黒幕気取りで暗躍する事が職務だと言うのか? そんなだから馬鹿な連中が勘違いをする。与えられた特権に縋り、自分達こそ特別だと思い込むのだ。それが腐敗を加速させていると何故気が付かない」

 

 「重要なのは秩序だ。それを守る事こそ肝要。腐敗は後で、切除すればいい。急激な変化もまた破滅をもたらす。だからこそ貴公らの改革とやらも懐疑的なのだよ」  

 

 二人の考えは平行線で、交わる為の妥協点も見いだせない。

 

 「腐敗を切除するだと? もはや手遅れだよ、エリオン公。そんな時期はとっくの昔に過ぎ去った。ギャラルホルンはすでに末期だ。因果応報の末路を辿る。後は腐り落ちるだけだろう」 

 

 「……聞きようによっては反逆とも取られかねない発言だぞ、ボードウィン公」

 

 「好きにするがいい」 

 

 アレクシアはそれ以上の会話を打ち切って歩き出す。

 

 もはや無意味だと悟っているかのように。

 

 その背中を見送ったラスタルも険しい表情を崩さずに反対側へと歩を進めた。

 

 道は決して交わらない。

 

 それはギャラルホルン全体の在り様を、そしてこれからの道行きを示していた。

 

 

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