機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ vivere militare est   作:kia

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第3話  新たな名前

 

 

 

 

 

 

 

 クランク・ゼントは決意をもって一人で戦場に立とうとしていた。

 

 これは明確な命令違反であり、部下たちを付き合わせる訳にはいかない。

 

 「クランク二尉、本当に一人で行かれるつもりなのですか?」

 

 「どうしても行くなら俺達も連れて行ってください!」

 

 「アイン、グレイ、これは言い訳のしようもない命令違反だ。お前達を巻き込む事は出来ない」

 

 未だコーラルからの命令は来ない。

 

 おそらくは地球からの監査を気にしての事だろう。

 

 しかしそれが終われば再び襲撃が行われる可能性は高い。

 

 極秘任務としてあれだけの兵力を投入し、破壊されたグレイズまで鹵獲されてしまったのだ。

 

 それだけの戦力を放置しておくとは思えない。

 

 なら動き出す前にクーデリアを確保できれば―――

 

 「これが最後の機会なのだ」

 

 自身への処罰は覚悟している。

 

 それでもこの最後の機会を見逃せなかった。

 

 例えこれが偽善あろうとも、子供と戦うなど彼には出来ないのだから。

 

 彼はアイン達の制止を振り切ってグレイズに乗り込むと静かに出撃していった。 

 

 それを冷たく見つめている人物がいたとは最後まで気が付かずに。

 

 

 

 

 「じゃあこれを皆に配って。熱いから気を付けるんだよ」

 

 「は~い!」

 

 日が暮れ、片付けも一段落したCGSの食堂では温かい夕食が振舞われていた。

 

 幼い二人の少女が楽しそうに食事を配膳していく。

 

 彼女たちはクッキーとクラッカといい、ビスケットの妹達らしい。

 

 物怖じしない性格なのか、初対面であるハルに対しても人懐っこく接してくる。

 

 ビスケットもそんな彼女達を可愛がっているのか、機嫌良さそうに笑っていた。

 

 「アトラもありがとうね。やっぱり冷たいレーションより、暖かい食事の方が皆喜ぶからね」

 

 「えへへ」

 

 そしてもう一人、CGSと取引をしている商店で働いているアトラという少女が配膳を手伝っていた。

 

 食料などを届けたりする傍ら、時折食事とかも用意しているらしい。

 

 こちらも明るい少女のようだが、流石に初対面のハルに対してあの双子のようには接するのは難しいようで、何処かぎこちない。

 

 「ハル、変な顔してないで手伝って」

 

 「変な顔って……まあいいけど」

 

 クッキー、クラッカから手渡された食器の中にシチューを注いでいく。

 

 その中で酷く不格好に切られた食材が目についた。

 

 「ん、やたらでかく切ってあるな」

 

 「それね、クーデリアが切ったんだよ」

 

 「え、お嬢様が?」  

 

 「えっと、クーデリアさんがどうしても手伝わせて欲しいって」

 

 それでこんな妙な切り口になっているのかと納得する。

 

 当然ながらクーデリアに料理の経験など全くない。

 

 本人はやりたがってはいたが、フミタン含めた家の人間が全員止めていたのだ。

 

 子供達に食事を配膳しているクーデリアを見る。

 

 危なっかしくシチューを注いでいる姿は何処か微笑ましい。 

 

 「せっかくお嬢様が作ってくれたものだし、ありがたく頂こうかな」

 

 具は大きいが、味は問題なく美味しい。

 

 味付け自体はアトラがやったものなのだろうが。

 

 「あああぁぁぁ―――!!!」

 

 「えっ」

 

 突然の大声に何事かと身構えてしまったが、見ればクーデリアが顔を真っ赤にして駆け寄ってきていた。 

 

 「な、何でそれを。それは後で私が自分で食べるつもりだったのに!」

 

 ポカポカと叩いてくるが全く痛くない。

 

 どうやら具材を大きく切りすぎてしまった事を恥じているらしい。 

 

 「これはこれで食べ応えがありますよ、お嬢様」

 

 「そ、そうですか」

 

 「でも、どうして急に料理などを?」

 

 「……わ、私ももっと何かしなければと思って。それに料理は前々から覚えたいと言っていたでしょう。放っておくとハルは碌なものを食べないのですから」

 

 「あ~」

 

 それは身に覚えがあるだけに反論しづらい。

 

 はっきり言ってハルはあまり食事に頓着がない。

 

 昔、碌なものを食べなかった所為か、腹が膨れれば何でも良かった。

 

 だがクーデリアはそれが前から不満だったようで、良く苦言を呈していたものだ。

 

 「ふ~ん、じゃ普段は何を食べてたの?」

 

 いつの間にか三日月が座ってシチューを食べながら話を聞いていた。

 

 明らかに興味がなさそうで、単純に話の相槌を打っているだけらしい。

 

 「それこそレーションとか、ブロック状の栄養食品です。放っておけばそればかり食べてるんですよ」

 

 「そればかり取るのは流石にどうかと思うよ。まあ僕らが言えた事じゃないけど。それより三日月、どうしたの?」

 

 「オルガが呼んでるよ」

 

 食事を終えた三日月が指さすとユージンやシノ達が待っているのが見えた。

 

 「ああ、すぐに行くよ。えっと、ハル」

 

 「……ああ、俺が此処で見てるから行ってくるといい」  

 

 「うん。よろしく」

 

 三日月とビスケットがユージン達と合流するとそのまま建物の中へ入って行った。 

 

 彼らが今から何をするつもりなのか具体的な事をハルが知る由もない。

 

 しかし何となく分かる事もある。 

 

 彼らから漂っていたもの。

 

 それは戦場に蔓延る死の気配だ。

 

 つまりこれから誰かが―――

 

 「どうしたの? また変な顔してる」

 

 「ん、そんなに俺って変な顔してたかな?」

 

 「うん。眉を寄せてこ~んな顔してた」

 

 クッキーとクラッカの変顔にハルも考え込みすぎたかと反省する。

 

 今後この二人の傍で考え事はやめておこう。

 

 これ以上変な顔とかは言われたくない。

 

 「おい、確かハルって言ったな」

 

 振り返ると髭の生えた褐色の肌をした男性が立っていた。

 

 確かCGSの整備士で皆から『おやっさん』と親し気に呼ばれている人物だ。

 

 「貴方は、えっと」

 

 「俺はナディ・雪之丞・カッサパ、モビルワーカーの整備士をやってる」

 

 「よろしくお願いします。それで何か?」

 

 「おう、アイツの事で少し聞きたい事があるんだが?」

 

 雪之丞が指さしていたのは食堂の前に膝を付いているバルバトスとアスベエルだった。

 

 「アレとおめぇの機体は同型機なんだよな?」

 

 「多分、そうでしょうね」

 

 「少しくらいの知識はあるんだろ? 整備とか調整とか少しでいいから手伝ってくれると助かるんだが。俺はモビルワーカー専門でな。それにアレは古い機体でデータも碌に残っちゃいねぇ。起動させるだけでも一苦労でよ」

 

 「それは構いませんが、良いんですか? バルバトスはCGSの機体でしょう。部外者である俺が見てしまっても」

 

 「オルガも構わねぇって言ってたし、大丈夫だ。手伝ってもらえるなら助かるぜ」

 

 とはいえハル自身、モビルスーツの構造に対して詳しい知識がある訳ではない。

 

 しかし簡単な調整や整備くらいなら手伝える。

 

 その辺もモーゼスに教えられた知識による所が大きい。  

 

 彼曰く自分の命を預けるモビルスーツの事くらい少しは知っておけとの事だ。

 

 「コックピットにはモビルワーカーの阿頼耶識を流用してる。けどコイツの負荷の所為でパイロットである三日月が気を失っちまった」

 

 「システムの最適化を進めれば、前ほど負荷は掛からないと思います。その辺もパイロットに合わせて調整していくしかないですね。けど……」

 

 「どうした?」

 

 「いえ、これって」

 

 ハルが見つけたのはバルバトスとアスベエルとのシステム周りの違いだった。

 

 詳しい事は分からないが、バルバトスには無いプログラムがアスベエルに搭載されていた。

 

 厄祭戦の際に破損したのだろうか。

 

 だがそれにしてはバルバトスは戦闘を行う事に関して問題は無かったように思う。

 

 「……同型機って訳じゃないのか?」

 

 外見上の類似点は多いから、無関係という訳ではないだろうが。

 

 「その辺は考えても分からねぇだろうよ。厄祭戦時のデータは大半失われてるって話だしな。ギャラルホルンですら、どれだけ正確に把握してるのやら」

 

 「まあ、そうですね。動けば俺達には関係ないか」

 

 「そういうこった」

 

 クーデリアとアトラ、そしてグリフォン姉妹の楽し気な声を聞きながら、雪之丞と慣れないモビルスーツ整備に悪戦苦闘する。

 

 「そういえばおめぇ、どうやってアスベエルの整備をやってたんだ?」

 

 「知り合いに頼んでました。その料金が高くて。それからは自分で出来る所は自分でやって、後は極力コイツを仕事で使わないようにしてました」

 

 初めてモーゼスに調整を依頼した時は、その料金に度肝を抜かれたものだ。 

 

 結果としてハルは興味の無かったモビルスーツに関して学び始め、知識も少しは増えたのだから悪い事ばかりではなかったが。

 

 「雪之丞さん。後で構いませんから、使ってもいい爆弾とか地雷があったら貰ってもいいですか?」

 

 「そんなもん何に使うんだ?」

 

 「念の為の備えですね」

 

 今の内に出来る事はしておきたい。

 

 バルバトスの調整が終わっていない以上、万が一の場合も考えなければいけないのだから。

 

 

 この夜、CGSに一つの変化が訪れた。

 

 

 一軍と呼ばれた大人たちの大半が一斉に退職したのである。

 

  

 何故、彼らがそんな選択をしたのか知る者は少ない。

 

 

 ただ一番横柄な態度を取っていたハエダを含めた数人の姿が最後まで見えず、それに対する疑問を口にする大人は誰も居なかった。

 

 

  

 

 一夜にしてCGSを取り巻く状況は大きく変化した。 

 

 一軍の大人たちの退職に伴いオルガ達参番組がCGSの実権を握り、運営していく事になったのだ。

 

 無論、雪之丞を含めた数人のように残留を希望した大人たちも居た。

 

 しかし此処で別の問題が発生していた。

 

 資金の問題である。

 

 やめていく一軍の退職金の支払い、破壊されたモビルワーカーの修理費、施設維持費を含めた運営資金。

 

 経理担当のデクスタ―・キュラスターから提示された金額を見たオルガ達は全員顔を顰めてしまった。

   

 「これじゃどうやりくりしても……」

 

 「まあ三か月が限度でしょうね」

 

 「新しく仕事を始めようにも今の僕らの状態じゃ、足元を見られるだけだろうし」

 

 「じゃあよう、俺に一つ提案がある」

 

 ニヤニヤ笑みを浮かべながら手を上げたのはちょび髭を生やした男トド・ミルコネンだ。

 

 彼もまた雪之丞達と同じくCGSに残留を希望した大人の一人だった。

 

 「此処はギャラルホルンに狙われてる。このままじゃ仕事どころじゃない。そこで奴らの狙いと思われるクーデリアを金と引き換えにギャラルホルンの連中に引き渡すってのはどうだ?」 

 

 「は?」

 

 「前の戦闘の件は全部マルバの所為にしちまえばいいのさ。後はどうとでもなる」

 

 「確かに俺らは命令に従っただけだしな。オルガ、これしか道はねぇんじゃねぇか?」

 

 ユージンからの呼びかけにも答えず、オルガは黙ったままだ。

 

 それを肯定と捉えたのかトドは笑みを深くする。

 

 「分ってる筈だぜ、大将。あのお嬢さんがいる限り仕事どころじゃないって事がさ」

 

 しかし口を開いたオルガから飛び出した言葉はそんな予想を裏切るものだった。

 

 「そんな真似はしねぇよ。それじゃ筋が通らない」

 

 「ハァァ!?」

 

 「んなこと言ってる場合かよ!」

 

 「ハルは仲間の為に命懸けで戦ってくれた。お嬢さんは傷ついた仲間を手当てしてくれた。そんな二人を裏切るような真似は出来ねぇ」

 

 「だけどクーデリアさんを渡さないのは良いけど運営資金の件はどうするの? 仕事がない事には―――」

 

 「仕事ならあるじゃねぇか。『クーデリア・藍那・バーンスタインを地球まで護衛する』って仕事がよ」

 

 そこで丁度クーデリアとフミタン、そしてハルの三人が部屋へと入ってきた。

 

 「お呼びでしょうか?」

 

 「ああ、仕事の話だよ。俺達は護衛任務を継続するつもりだ。ただ今の現状は聞いてると思うが、色々ゴタゴタしちまって余裕がないんだ。それでもアンタ達は俺達に依頼を継続するかい?」

 

 「ええ、お願いします」

 

 「お嬢様!? 旦那様は一度戻れと」

 

 「その必要ないと言ったでしょ、フミタン。私はやるべき事をするだけです、失ってしまったものの為にも」

 

 フミタンの制止を振り切り、クーデリアは何の迷いも無く答えた。

 

 そんな彼女なりの決意を見てか、トドを除いた全員の表情が変わった。

 

 「それから皆さんの活動資金について当てがあります。前に私の活動を援助してくださった人物ノブリス・ゴルドン氏」

 

 「ノブリス!?」

 

 ある程度の情報に精通しているビスケットやトドはノブリスの名前に流石に驚いたようだ。

 

 ノブリス・ゴルドンといえば圏外圏にその名を轟かせる大富豪だ。

 

 その影響力は絶大で、商売をしている人間で彼の名を知らない者はいない程である。

 

 故に黒い噂も絶えない人物なのだが。

 

 「お嬢様、ノブリス・ゴルドンは!」

 

 「大丈夫よ、ハル。とにかく当面の資金はそれで解決できると思います」

 

 「確かに資金面では一息つけるね、オルガ」

 

 「決まりだ」

 

 オルガが立ち上がり、クーデリアに一礼する。

 

 「引き続きのご利用ありがとうございます。俺達が必ず貴方を地球まで送り届けて見せます」

 

 それは今後の彼らの道行を決定する、ある意味で運命の選択だった。

 

 

 

◇ 

   

 

 火星の荒野を進む単機のモビルスーツ。

 

 基地から発進したクランクのグレイズである。

 

 その盾に赤い布を付け、急ぎ目的地であるCGSの基地に向かっていた。

 

 この赤い布は厄祭戦時代より前、決闘の合図として用いられたもの。

 

 彼らが素直に投降するとも思えない。

 

 しかし一対一の決闘で敗れ、モビルスーツを破壊されれば彼らとて戦いを放棄せざる得ないだろう。

 

 子供と戦う事自体は不本意ではあるが、戦闘が避けられないのであれば―――

 

 これが無益な血を流させない為にクランクが考えた方法だった。

 

 「急がねば」

 

 時間は限られている。

 

 視察が終わりコーラルが自由に動けるようになるまでにクーデリアを確保し、この事態を終息させなければならない。

 

 その為にクランクはあえて泥を被る覚悟だった。

 

 進むグレイズはCGSに続く渓谷になっている場所に突入する。

 

 此処を抜ければ目的地まですぐだ。

 

 逸る気持ちを抑え、渓谷に突入してしばらく進んでいると突如地面から爆発が起こった。

 

 「何!?」

 

 爆発自体はモビルスーツを傷つけるものではない。

 

 しかしグレイズのバランスは崩れ、後退させられてしまう。

 

 「地雷か!?」

 

 モビルスーツに地雷は通用しない。

 

 しかし何発もの爆発によって巻き上がった砂煙はクランクの視界を遮ってしまう。

 

 これはおそらくモビルワーカー対策だ。

 

 となるとこれを仕掛けていたのは―――

 

 考えを整理する間もなくモビルスーツの反応を捉えたと同時に砂煙の中からアスベエルが突っ込んでくる。

 

 何の躊躇もなく振り下ろされた大剣の一撃をクランクはギリギリのタイミングで受け止めた。

 

 「ぐっ」

 

 止められたのは優れた技量、日頃の訓練の賜物だった。 

 

 少しでも反応が遅れていたら、初撃で戦闘不能にされていただろう。

 

 「やっぱりね。このタイミングで奇襲してくると思ったよ!」

 

 先の地雷はハルがオルガの許可を得て昨夜に設置していた罠だった。 

 

 ギャラルホルンが再び襲撃を仕掛けてくる可能性を考え、侵攻してくるだろうルートの幾つかに地雷や爆弾を仕掛けていたのだ。

 

 本来は対モビルワーカー用に仕掛けたものでモビルスーツには通用しないが、敵の動きを鈍らせた事で十分な効果を発揮している。

 

 ただ、単機で現れるとは思っていなかったので待機させていたモビルワーカー隊は意味がなかったようだが。

 

 ちなみにバルバトスはCGS施設防衛の為に待機している。

 

 万全の状態ではないという理由もあるが、別方向からの奇襲を警戒しての措置だった。 

 

 「待て!」

 

 「攻めて来ておいて何を!」

 

 アックスによって大剣が弾かれ、二機は一旦距離を取る。

 

 「私の名はクランク・ゼント。そちらの代表者と一対一で戦い、私が勝ったら鹵獲されたグレイズとクーデリア・藍那・バーンスタインを引き渡してもらいたい」

 

 「は?」

 

 「勝負がつき、グレイズとクーデリアの引き渡しが済み次第、その先はすべて私が預かる。君達CGSとギャラルホルンとの因縁は断ち切ると約束する」

 

 何を言っているのだろうか。

 

 すでに戦闘は開始されている。

 

 にも関わらず一対一の戦いを希望するとは。

 

 姿の見えないバルバトスの介入を警戒しての罠と考えるのが自然ではあるが。

 

 「本気で言ってるのか?」

 

 「無論」

 

 勝負に仮に負けようとグレイズとクーデリアの引き渡しのみで、これまでの件に関する事もクランクと名乗った人物がすべて丸く収めると言っている。

 

 話を聞いているだけなら、CGS側に不利な点はない。

 

 しかしそれを鵜呑みにする者が何処にいるというのか。

 

 何故この男が単機で乗り込んできた?

 

 背後に伏兵が潜んでいないと何故言える?

 

 そもそも条件が履行されるという保証は何処にもなく、さらにクランクと名乗る男にそんな権限があるという証拠もない。

 

 「……オルガ」

 

 《撃退するって方針に変更はねぇよ。そのおっさんが本当の事を言ってるとは限らないしな。話に乗るかどうかはお前に任せる》

 

 「了解、ただこの男については俺に任せてくれないか?」

 

 《……分かった》  

 

 「提案に乗ってやる。というか罠だろうとやるべきことは変わらない。俺はアンタ達を撃退するだけだ」

 

 「信じてもらいたいと言いたいところだが、それも無理からぬ事か。しかし提案に乗ってくれた事を感謝する」

 

 一旦距離を取り直し、互いに武器を構え直す。

 

 「ギャラルホルン火星支部実働部隊クランク・ゼント!」

 

 それが決闘前の名乗り合いであると気づくのに少し時間が掛かってしまった。 

 

 「ハル・ハウリング」

 

 「参る!」

 

 クランクの掛け声と同時に二機のモビルスーツが前に飛び出した。

 

 大剣と戦斧が激突し、激しい衝撃と金属音が響き渡った。

 

 さらにハルは動きを止めず、渓谷の狭さを利用しながら大剣を振り続ける。

 

 「くっ、狭い」

 

 「当たり前だよ、そういう場所なんだから」

 

 グレイズはシールドを使い剣を捌くが、アスベエルの動きに遅れ始めている。

 

 それでもアックスを振るい、反撃に転じられるのはクランクの技量の高さ故か。

 

 「そういえば聞いてなかった。勝敗はどうやって決めるんだ? どちらかが死んだ瞬間に決着?」

 

 「そんな必要はない!」

 

 裂帛の気合いと共に振り下ろされた一撃を眼前で受け止める。

 

 「元々こちらの狙いはクーデリアの命のみ。大人の争いに子供が犠牲になる必要はないんだ!」

 

 「……こいつ」

 

 ハルは苛立ちで強く奥歯を噛みしめる。

 

 何というかこの火星に居るにしては良識のある大人なのだろう。

 

 多分、このクランクという男が言っている事は間違っていない。

 

 しかしだからこそ―――

 

 「じゃあ聞くけど、アンタの言う『子供』って奴にはさ、お嬢様は含まれないのか?」

 

 「ッ!?」

 

 下段から斬り上げた一撃がグレイズの盾を吹き飛ばす。

 

 さらに一撃、上段からの一太刀が盾を持つ腕を叩き折った。

 

 「アンタにとっての子供ってのは一体『誰』の事なんだよ。お嬢様はアンタ達にとって気に入らない事を色々やってるから、もう子供じゃないって事か?」  

 

 器用に振るわれる大剣がグレイズの装甲を削っていく。

 

 「ぐぅ」

 

 「これ以上、話しても無駄だろ。決着を付けさせてもらう!」

 

 アックスを上へと弾き、懐が大きく開いたところに大剣を横薙ぎに叩きつけ、グレイズは背後へ倒れ込んだ。

 

 倒れたグレイズは腹がへしゃげ、傷はコックピット付近にまで及び装甲も飛び散っている。

 

 もはや戦闘不能だろう。

 

 パイロットの生死を確認する為に近寄ろうとしたその時、コックピットに警戒音が響き渡る。

 

 「何?」

 

 「クランク二尉!!」

 

 駆け付けてきたのはグレイのグレイズだった。

 

 クランクには動くなと言われたものの、やはり単独では行かせられないと飛び出してきたのだ。

 

 「ま、さか、クランク、二尉」

 

 クランクのグレイズは無残な姿で倒れ込んでいた。

 

 見れば腹周辺は見事に潰されており、その傷はコックピット付近にまで及んでいる。

 

 あれではもう―――

 

 その傍には大剣を担ぐ、白黒の装甲を持つ機体アスベエルが立っていた。

 

 殺した。

 

 奴がクランク二尉を殺したのだ。

 

 「貴様ァァァァァァァ!!!」

 

 「やっぱり罠だったか。でも増援が来るのは想定済みだ!」

 

 襲い掛かってくるグレイズに飛び上がったアスベエルが迎撃する。

 

 「貴様、貴様、貴様ァァァァ!! よくも、クランク二尉をォォォォ!!!」

 

 「……決闘だ何だと勝手に仕掛けてきておいて。この分じゃあの条件って奴も眉唾ものだったんだな。初めから信じちゃいなかったけどな!」

 

 「黙れ!」

 

 大剣と斧が交錯した瞬間、グレイズはシールドで突き出しアスベエルのバランスを崩しにくる。

 

 しかしそれを器用に裏拳の要領で捌いたアスベエルはグレイズに蹴りを入れて地面へ突き落した。

 

 「ぐあああ!」

 

 そこを狙って大剣を振り下ろすが、ギリギリのタイミングでスラスターを使ったグレイズは見事に避けてみせた。

 

 「阿頼耶識でもないのにずいぶん器用に躱す。パイロットの腕か?」

 

 「ちくしょうが!」

 

 冷静に動きを観察するハルとは対照的にグレイは激情に支配されたまま、再びの突撃を敢行する。

 

 盾を投げつけ、ハルの気を逸らすと同時にクランクの落とした斧を拾い上げ二本の戦斧で襲い掛かる。

 

 「ハアアアア!!」

 

 殺意と共に振り下ろした右の斧を大剣で受け止めるアスベエル。

 

 しかし左の斧を止める術はない。

 

 「クランク二尉の仇ィィィ!!」

 

 無残な姿に変わり果てたクランクのグレイズのようにしてやるとアスベエルの土手っ腹に戦斧を振り込んだ。

 

 しかし――― 

   

 「何!?」

 

 グレイズの攻撃が届く前にアスベエルの大剣の一部が分割され、新たな剣が出現したのだ。

 

 振るわれた一刀が左腕を弾き飛ばし、今度はグレイズの体勢が大きく崩されてしまう。

 

 「終わりだ」

 

 避ける間もなく撃ち込まれた大剣が頭部を突き潰し、グレイズは吹き飛ばされてしまった。

 

 「フゥ、これで……ッ!?」

 

 安堵したのも束の間、新たなグレイズがすぐ近くまで接近していた。

 

 通常の機体よりもカスタムされているのか所々クランク達の機体より違いがみられる。  

  

 「またか」

 

 大剣を構え、戦闘を継続しようとしたハルだったが、意外な事に新たに現れたグレイズはグレイの機体を回収するとすぐに撤退していった。 

 

 「味方を回収にきたのか? でもだったら何でおっさんの機体は放置していったんだ?」

 

 パイロットが死亡したと判断したからか、それとも単機故に回収できる数が限られていたのか。

 

 答えは後者のような気がするが、どちらにせよ退くというなら追うつもりはなかった。

 

 《お疲れ、撃退出来たみたいだな。損傷は?》

 

 「大きな傷はないと思う。そっちは?」

 

 《ああ。こっちに敵は来てねぇ、どうやら来たのはあの三機だけみたいだな》

 

 結局たった三機のモビルスーツで攻めてきたという事か。

 

 普通の施設を占拠するだけなら過剰戦力と思えるが、CGSにも二機のモビルスーツがあった事は承知していた筈。 

 

 ギャラルホルンが何を考えているのか分からないが、しばらくは警戒を続けた方が良いだろう。

 

 《そういえば、俺らの新しい名前が決まった》

 

 「新しい名前?」

 

 《CGSなんてカビ臭い名前は癪に障るからな。ずっと考えてたんだよ》

 

 「へぇ、何て名前なんだ?」

 

 通信機越しでもオルガが笑ったのが分かった。

 

 

 《決して散らない鉄の華。――鉄華団だ》

 

 

 『鉄華団』

 

 CGS参番組に所属していた、いや、この場にいた子供達全員にとっての拠り所であり、家であり、帰る場所。

 

 それはこの日に誕生した。 

 

 この名前は近い未来において火星全土はおろか地球にも響き渡る事になる。

 

 だが、それはまだこの世界の誰もが知らない事だった。

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