機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ vivere militare est   作:kia

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第46話 殺意の波濤

 

 

 

 

 

 普段は静寂が支配する宇宙の果てを戦火の光が支配する。

 

 行われているのは世界の番人たるギャラルホルンの攻撃。

 

 普通の組織であれば、この時点で終わりを確信したに違いない。

 

 しかし攻撃をされている側であるグレゴリの拠点は慌てた様子もなく、粛々と動き出していた。 

 

 駆ける誰もが落ち着いて、予定通りに動く様はこれが予め決められていたのだと示している。

 

 そんな中、ドックに収容された戦艦の格納庫に我関せずと一人佇んでいる者がいた。

 

 コートを着込んで全身を覆い隠す人物、ロキである。

 

 フルフェイス故に表情は全く見えないが、その体から漏れ出ている歓喜の感情は隠しきれていない。

 

 その理由は単純明快。

 

 未完成な状態であったガンダムバラキエルがようやく完成形へと至ったのである。

 

 バラキエルの何もなかった背中には曲剣のような形状の翼が一対で装着され、レールガンらしき砲塔も見える。

 

 腕にはやや大型の装甲が取り付けられ、さらに対ナノラミネートアーマーを意識したランスを携帯していた。

 

 「シャムハザイの改修も終わりつつある。これでようやく万全な状態で戦える」 

 

 思えば今までずっと不本意な戦いを強いられてきた。

 

 だが、それも今日まで。

 

 ようやく憎むべき者たちにこの手で報いを与えられるのだ。 

 

 「後は―――ん?」

 

 外の様子を探ろうと設置してあるモニターに視線を移す。

 

 「……ただ無策に攻めてくる筈はないと思っていたが、なるほど」

 

 相手の目的を看破したロキは高揚する自分自身を抑え込むように拳を固く握り締めた。

 

 「包囲していた連中は囮。本命は小惑星内に潜入しようという訳だ。ならばそれに乗ってやる」

 

 無謀にも此処に潜入しようという勇気ある者達を無下に出来ようか。

 

 盛大に歓迎してやるとも。

 

 蛮勇にはそれに相応しい結末を与えるだけだ。

 

 暗い愉悦と共にロキは素早く踵を返し、敵が侵入してくるだろうポイントへ歩き出す。

 

 そこで自身の宿命と再会するとは知らないままに。

 

   

◇

 

 

 包囲するギャラルホルンと迎え撃つグレゴリの戦闘が開始されて、しばらく。

 

 戦況は新たなステージへ移行しようとしていた。

 

 独立監査部隊フローズヴィトニルを追跡していたアリアンロッド艦隊の介入により、戦場はより混沌さを深めていこうとしている。

 

 ラスタルの命を受け、今回の作戦に参加していたジュリエッタは以前から開発されていた新型機の前に立っていた。

 

 名はレギンレイズ・ジュリア。

 

 ガンダム・フレームなどの強力な阿頼耶識搭載機すら制しうる機体として企画された機体である。

 

 「準備は?」

 

 「もう少し待ってください。コックピットの調整に手間取っていまして」

 

 「急いでください。フリーエはおらず、マスティマは先行済みなのですから。私が遅れを取る訳にはいきません」

 

 「了解!」

 

 新たな乗機となるレギンレイズ・ジュリアを改めて見上げる。

 

 通常のレギンレイズとは明らかにシルエットからして違い、脚部から伸びたメインスラスターをはじめ、各部に推進機が増設。

 

 その姿を見れば機動性向上を目的とした設計が意識されているのが分かるだろう。

 

 武器も伸縮自在なジュリアンソードと呼ばれるもの以外は最低限のマニュピレータークローだけになっており、機動性低下を招きかねない余計な武装は搭載していない。

 

 つまりこの機体の力を発揮出来るかどうかはパイロットの力量次第という事になる。

 

 レギンレイズ・ジュリアに誤魔化しは一切通用しないのだ。 

 

 「それでいい。私は自分の力で戦い、そして勝つ。おじ様の為にも」   

 

 「準備が出来ました。でも、このジュリアは試作機ですし、不具合があったらすぐに戻ってきてくださいよ」

 

 整備士の気遣いに軽く手を挙げて応えると、コックピットへ踏み込んだ。

 

 「ジュリエッタ・ジュリス、レギンレイズ・ジュリア、出ます!」 

 

 戦艦から出撃したレギンレイズ・ジュリアは通常のレギンレイズとは比較にならない速度で加速すると戦場を駆ける。 

 

 「そこをどきなさい!!」

 

 敵の火線を潜り抜け、距離を詰めたジュリエッタは主武装であるジュリアンソードを振るった。

 

 この武器は蛇腹状に分離し、伸縮自在のワイヤーとの組み合わせで鞭のように使用できる。

 

 当然、その扱いは難しいがジュリエッタは苦も無く操り、敵モビルスーツを的確に破壊していく。

 

 「十分にやれる。この機体ならば!」 

 

 ジュリアンソードを振るいエゼクェルを翻弄していく、ジュリエッタ。

 

 彼らアリアンロッドの介入により、戦闘はより激しさを増す中、特に目立っていたのは真紅の機体マスティマであろう。

 

 何もかもを振り捨てて、倒すべき敵を討ち果たさんと弾丸と化す姿は確実に常軌を逸している。

 

 命知らずの突撃に流石のヴェネルディも二本の剣を交差させ、ウェポンシールドによる突撃を受け止めた。

 

 「オオオオオ!!!!」

 

 「これがマスティマ。通常のガンダム・フレームとも、我々の機体とも違う。全く別の悪魔の名を冠するモビルスーツか。それで、そんな機体を操る君は何者だ?」

 

 「答える必要はない!!」

 

 防御の上から押し込まれ、さらに出力を上げてくるマスティマにヴェネルディは涼しい顔のまま、相手の姿を観察する。

 

 「なるほど、出力だけならガンダム・フレームを上回っているかもしれない。となると可能性は限られる」

 

 「黙れ!」

 

 「厄祭戦時、ガンダム・フレーム以外にも対モビルアーマーを主眼においた様々な計画が進行していた。その内の一つ。ガンダム・フレームを上回るモビルスーツの開発計画。結局、途中で放棄されたが、その試作機をエリオン家が回収していたと言ったところかな」

 

 剣の角度を変え、マスティマの突撃を受け流すと、機動性を削ぐべくライフルを連射する。

 

 それを盾のスラスターを使い逆制動を掛け、強引な動きで躱したマスティマはレールガンを撃ち返した。

 

 「この威力、ナノラミネートアーマーと言えども直撃すればダメージを免れないか。さらに速度を殺さずに無理やり軌道を変えるとは無茶をする。パイロットにも相当の負担が掛かっているだろうに」

 

 あのスピードからの逆制動と方向転換。

 

 普通のパイロットなら、Gに耐えられずに失神してもおかしくない。

 

 命知らずの行為だが、躊躇せずそれを実行したマスティマの判断は正しかった。

 

 あのまま直進していればヴェネルディに狙い撃ちにされていたからだ。

 

 「しかし狙いが読み易すぎる。感情的になりすぎだ」

 

 「うるさい!!」

 

 レールガンでけん制しながら、ランスを構えて再び加速。

 

 ガンダムアザゼルの急所目掛けて、突進する。

 

 「その速度は大したものだよ。しかし直線の動きなど―――ッ!?」

 

 真正面からの突撃かと思いきや背中に接続したシールドスラスターが素早く駆動。

 

 マスティマが軌道を無理やり変更し、アザゼルの側面に回り込む。

 

 そして放った一突きがアザゼルの装甲を傷つけた。

 

 「やる! こちらの不意を衝くとは!」

 

 確かに速く、読みにくい動きではある。

 

 だが、その分、機体や装備にかかる負担も大きいだろう。 

 

 「しかし何度も同じ手は食わない!」

 

 タイミングを見計らいランスによる刺突を弾き返し、動きを鈍らせた瞬間を狙ってライフルで攻撃する。 

 

 「舐めるなァァ!!」

 

 驚くことにマスティマはスラスターを使わずに浮かぶ岩片を蹴り上げ、無理やり射撃を回避してみせた。

 

 そして至近距離からウェポンシールドのギミックを解放。   

 

 無数の砲口が顔を出し、発射されたニードルがアザゼルへと襲い掛かる。

 

 「これは躱せないか。なら!」

 

 即座に後退したヴェネルディは破壊されたモビルスーツの残骸を盾にしてニードルを防御。

 

 そして爆発する直前にマスティマの方へ蹴り出した。

 

 「そんなもので―――ッ!?」

 

 モビルスーツの残骸を上昇して回避したマスティマだったが、狙い澄ましたアザゼルのライフルが待ち構えていた。

 

 「そう来ると思ったよ」

 

 発射された弾丸を躱す術はなく、マスティマへと直撃する。

 

 その間に距離を詰めたアザゼルの刃がレールガンを切り飛ばした。

 

 「確かに機体性能は素晴らしい。君自身も思い切りの良さがある。だが、感情がむき出しで、何をしようとしているか手に取るように読めてしまう」

   

 振り下ろした剣が肩を抉り、槍による至近距離からの横薙ぎもあっさり避けたアザゼルの蹴りがマスティマの頭部へ直撃する。

 

 「要するに君は素直すぎるのさ。読まれた奇手は奇手ではない。それでは戦いには勝てないよ」

 

 「口惜しいが認めてやる。どれほど死に物狂いになろうとも、積み上げた研鑽や練り上げた術理の差は埋めがたいものがある。付け焼刃など塵に等しい。貴様相手に一朝一夕で勝てると思うほど、おめでたくはない」

 

 「では、どうする?」

 

 「人のままで勝てぬというなら……人を捨て悪魔に成り果てるまでの事」

 

 その言葉と共にマスティマのコックピットに変化が生じる。

 

 シート後方にある左右のユニットが展開し、不吉な赤い光が灯され、伸びたソケットがコックピットとマスティマの体を接続していた。    

 

 「……さあ、力を貸してくれ。共に奴らを駆逐するぞ」

 

 マスティマのツインアイが赤く変化し、今までとは比較にならぬ、圧倒的な動きでアザゼルの背後へ回り込むと槍の刺突を繰り出した。

 

 「ッ、速い!?」

 

 アザゼルの振り向き様に振るった一撃が槍を弾くが、マスティマは止まらず、次々と攻撃を畳みかけていく。

 

 「ウオオオ!!」

 

 時に槍で突き、防がれれば蹴りを繰り出し、無手の状態で爪を振るう。

 

 そのすべてが必殺であり、先ほどまでに比べ、鋭く速い。

 

 一撃もらえば戦闘不能になりかねない攻撃を前に流石のヴェネルディも防戦に徹しながら表情を引き締める。

 

 「これこそが貴様を葬り去る為に得た力だ!」

 

 「なるほど。これがグレイズ・アインから得たもので作りあげた伏せ札という訳だ。流石はラスタル・エリオン、抜け目のない」

 

 連続で繰り出されるマスティマの刺突を捌きながら、ヴェネルディも本気の斬撃を叩きつける。

 

 「素晴らしい。ならば私も全力で応じよう。機体は万全とは程遠いがそれは許してもらいたいな」

 

 「貴様の都合など知った事か!」

 

 さらに速度を上げる、マスティマ。

 

 そこに何ら躊躇はなく、自分の命の勘定も入っていない。

 

 ただ憎むべき敵を穿とうと、断罪の槍を振るい続けた。

 

 

◇

 

 

 ギャラルホルンとグレゴリの戦闘が激しさを増す中、それを尻目に小惑星内に侵入しようとしている者がいた。

 

 ハルとモーゼスの二人である。

 

 戦場の死角を突く形で接近したクタン参型は使われていない様子の搬入口のような場所を見つけ、そこから小惑星内に侵入を果たしていた。

 

 「妙に警戒が緩いな。俺達の侵入に気が付いていないのか?」

 

 「油断するなよ、モーゼス。機体の方も隠しているけど、長くは持たない筈だ」

 

 「おう。俺も元軍人なんだ。伊達に長年圏外圏で生き延びてないさ」 

 

 「頼りにしてる。俺は睡眠障害の所為で生身だともう長時間戦えないからな」

 

 襲ってくる眠気を噛み殺し、宇宙故の軽さで滑空するように通路を進む。

 

 全く皮肉な話だ。

 

 ヴェネルディ商会に関係しているサイラスに叩き込まれた技術で、奴らの拠点に潜入出来ているのだから。

 

 「随分騒がしいな」

 

 「ああ。しかもかなり慌てている?」

 

 伝わってくる基地内部の喧騒。

 

 ギャラルホルンと戦闘を行っているのだから、騒がしくて当たり前かもしれないが、どうもそう言ったものとは違う気がする。

 

 さらに耳を澄ますと聞き覚えのある音も一緒に響いてきた。

 

 「銃声だ」

 

 「俺達以外に侵入している奴がいるって事か?」

 

 「多分、フローズヴィトニルの送り込んだ陸戦隊だと思う。今がチャンスだ」   

 

 様子を伺って人の流れが途切れた所を見計らい、近くにあった部屋へ身を潜めた。

 

 そこはどうやら使われていない個室のようで、無造作に荷物が積み上げられている。

 

 倉庫代わりに使われているのか、人の気配は全くなかった。

 

 「通路のモニターでも使えれば楽だろうけど、見つかる可能性が高い。まずは使われている個室を見つけよう。そこなら端末がある筈だ。お嬢様の行方が分からなくても、情報は欲しい」

 

 最悪、人を捕まえれば良いのだが、目星を付ける為にも基地の内部構造くらいは知っておきたい。

 

 「そんなもん探す必要はねぇよ。ここから探ればいい」

 

 モーゼスは邪魔な荷物を除けると隅にあるパネルを外す。

 

 そして配線を引き出すと、持ってきた自前の端末と接続した。

 

 「この手の基地に設置されてる部屋は各自情報を引き出せるよう、端末と接続する為に配線が引かれてるのさ。でないと情報共有が手間になるからな」

 

 「流石に詳しいな。鉄華団の中でも電子戦に詳しいのは一番隊のダンテぐらいのものだったけど」

 

 「俺が言うまでもないと思うがこの手の知識はあって損することはないぞ。情報収取にも役に立つ。お前も勉強しておけ」

 

 「ダンテに教えてもらうもの良いかも。落ち着いたらオルガにも話してみるよ」

 

 モーゼスの忠告を有難く拝聴しながら、外の様子を伺っていると銃声が徐々に近づいてくるのが聞こえてきた。

 

 「まずいな、近い。モーゼス、後どのくらいかかる?」

 

 「そんな簡単に出来るかよ。データを落とすにも時間がかかるんだぞ」

 

 「だよな」

 

 となると選択肢は一つだ。

 

 「俺が外に出て引き付ける。最悪、モーゼスはデータを持って脱出しろ。マクギリスなら事情を説明すれば保護してくれる筈だ」 

 

 モーゼスの返事を聞かず、素早く部屋を出たハルは銃撃の音が聞こえてくる方向へ足を向ける。

 

 すると見るも無残な死体の山が積み重なっているのが見えた。

 

 「……随分、エグイ殺し方を」

 

 これを行った人物は碌でもないクレイジーな奴に違いない。 

 

 死体にはこれでもかと銃弾が撃ち込まれ、刃物か何かで何度も切り刻まれている。

 

 中には四肢の一部が欠損しているものまであり、まともな人間のする事とは思えない。

 

 「殺すだけなら、銃弾一発撃ち込めば終わりだろうに。よほどギャラルホルンに恨みでもあるのか?」 

 

 慎重に様子を探っていると、この惨状を生み出した元凶の姿が目に入った。

 

 全身を黒いコートとフルフェイスのヘルメットを身に着けた男。   

   

 明らかにまともな人物ではないと分かるが、一番の異常さは全身からにじみ出る殺意にあった。

 

 「死ね、死ね、死ね!!」

 

 とっくに事切れている死体に向けて、掠れた声で叫びながら何発も銃弾を撃ち込んでいる。

 

 すべてを憎んでいると。

 

 すべてを殺すのだと。

 

 雄弁に語る憎悪の塊。

 

 多くの戦場を見て、死に慣れている筈のハルでさえ、身震いしてしまう異常さだ。

 

 本能的に危険を悟り、身を隠そうとしたハルだったが、一歩遅かった。

 

 「そこにもまだネズミが居たか!」

 

 発射された銃弾から逃れるため飛びのくが、その間に素早く距離を詰めた男の銃口がハルへと向けられる。 

 

 あまりに素早い動きは生身の人間のものとはかけ離れていた。

 

 「その顔……ハ、ハハ。アハハハハ!! 貴様までこの場に現れるとはな、アスベエルのパイロット!!」

 

 「お前、藍色のパイロットか!」 

 

 フルフェイスの人物は何度か手合わせした事のある男、ロキであった。 

 

 「わざわざ殺されに来てくれるとはな。貴様は必ずこの手で殺すと決めていた。すべての元凶、俺から何もかも奪い去った悪魔め!」

 

 ロキから突き刺さる殺意と膨れ上がった憎悪の波が思い切りハルに叩きつけらる。

 

 少しでも気を抜けば、あっという間にこの空気に呑まれ、動けなくなってしまうだろう。

 

 それだけの気迫がこの男にはある。

 

 ハルは負けじとロキへ銃口を突きつけた。  

 

 「悪いけど恨みを買うなんていつもの事だからな。心当たりが多すぎて、アンタの事なんて覚えがない」

 

 「そうだろう。貴様のような悪魔に人らしい情感など期待していないとも。俺としてもこれ以上言葉を交わすだけでも虫唾が走る。精々苦しんで死ね」 

    

 ロキは即座にハルを狙って発砲する。

 

 「ッ!!」

 

 発射された弾丸がハルの髪の毛を弾き、撃ち返した銃弾がロキの腕を掠める。

 

 激高しているように見えて狙いは正確だ。

 

 こちらが撃ち返していなければ、ハルの頭部に穴が空いていただろう。

 

 「くそ、時間を掛けてはいられないのに! おい、お嬢様は何処にいる?」

 

 「お嬢様だと? そうか、貴様、あの女を助けにきたのか。ご苦労な事だな。安心しろ、あの女も俺の手ですぐに地獄へ送ってやる」

 

 「ふざけるな!」

 

 撃ち合う銃弾と共にハルの胸をジリジリ焦がす焦燥感が募っていく。

 

 例の眠気の所為で照準が定まらず、目が霞んで相手の姿がはっきり見えなくなってきているのだ。

 

 「狙いが甘い!」

 

 「なっ!?」

 

 撃った銃弾を腕で弾いたロキはハルの首を掴み上げた。

 

 その力は尋常ではなく、明らかに人間離れしている。

 

 というよりも―――

 

 「こ、の、力、義手」

 

 「そうだ。貴様らに肉体の大半を潰されてしまったのでな!」

 

 「グハァ」

 

 首が締まり、息ができない。

 

 最後の力で腕をつかみ、頭部へ蹴りを入れるがロキは全く堪えていないのか、微動だにしない。

 

 「変色した髪、狙いが定まらない銃口。ふん、ネフィリムシステムの後遺症か。そんな状態で勝てると思うか? どの道、貴様の末路は機体に喰われて死んでいくだけの惨めなもの」

 

 さらに力が籠められ、碌に息ができない。

 

 どうにか逃れようとするも思考が定まらず、意識が遠のいていく。

 

 「なら、その前に俺の手で殺し―――ッ!?」

 

 これで終わりかと意識を手放しかけた瞬間、銃弾がロキのフルフェイスを弾き、ハルの首を絞めていた力が僅かに弱まる。 

 

 その隙に残った意識をかき集め、再び蹴りを入れるとロキを引き離す事に成功した。

 

 「ゲホ、ゲホ、ゲホ」

 

 「……今日は本当に幸運だな」

 

 乱入者によって邪魔された筈のロキは何故か歓喜の笑みを浮かべている。

 

 この時を待っていたと言わんばかりに、銃口を突きつけたロキと向かい合っていたのは仮面で素顔を隠した男ヴィダールだった。

 

 「この悪魔だけではない。貴様までこの場に現れるとはな」

 

 「……ギャラルホルンの兵士たちを虐殺したのはお前か?」

 

 「そうだとしたらどうする?」

 

 「敵の懐に飛び込む以上、覚悟はしていただろう。それでも彼らの無念は晴らす。弔い合戦をさせてもらうぞ」

 

 「ふん、それで部下を思っているつもりか? 内心見下しておきながら。流石はセブンスターズ。腹芸も得意と見える」

 

 「何?」

 

 ヴィダールと銃を突きつけ合うロキはハルと対峙した時以上の憎悪の感情を迸らせ、ヴィダールに叩きつけている。

 

 余程、憎んでいるのだろうと部外者であるハルでさえよく分かる。

 

 「俺が分からんと思ったか。いい加減、その仮面を取れよ。それとも『エドモントン動乱』であまりの無様を晒した為に素顔も見せられないか?」

 

 「お前は」

 

 明らかな挑発だが、ロキの物言いに気になる事でもあったのかヴィダールは自らを覆い隠す仮面を取り去った。

 

 現れた顔には怪我による痛々しい大きな裂傷の痕が刻まれている。

 

 そして、その顔はハルにも見覚えがあった。

 

 「ガエリオ・ボードウィン?」

 

 ガエリオは一瞬だけハルの方を見るが、すぐにロキの方へ視線を戻す。

 

 「これで満足だろう。で、そっちはそのフルフェイスを取ってくれないのか? 散々こき下ろしてくれたんだ、俺に用があるんだろう?」

 

 「フフフ、ハハハ、アハハハ!! やはりその程度の男だよ、貴様はな。かつての部下にさえ気が付かないのだからな」

 

 「何?」

 

 ロキは首元へ手を伸ばす。

 

 するとフルフェイスの一部が開閉し、素顔の一端があらわになる。

 

 その姿にガエリオだけでなく、ハルすらも言葉を失った。

 

 それは人の顔ではない。

 

 あまりにも人から、かけ離れている。

 

 顔半分は潰されたようにひしゃげており、片目は機械の義眼が埋められていた。

 

 もう半分もガエリオと同じように裂傷で切り刻まれている。

 

 歪な顔で浮かべている笑みはこの世の悪意すべてが籠められているかのように不気味で、生理的な嫌悪感が沸き上がってくるのを止められない。 

  

 よくもこの状態で生きていられると感心してしまう程だ。

 

 もはや原型すら止めていないその顔にガエリオは凍り付いた様子で見入っている。 

 

 ロキが誰なのか分かってしまったが故に、驚きを隠せないのだ。

 

 「生きていたのか、グレイ・ギベルティ」

 

 かつて共に戦った部下の変わり果てた姿にガエリオは手の震えを抑えられない。

 

 しかし銃口を下ろすことも出来ず、憎悪の籠った哄笑をただ受け止める事しかできなかった。

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