機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ vivere militare est 作:kia
アレクシア・ボードウィン。
ギャラルホルンにおいて知らぬ者はいない女傑である。
今でこそ勇ましいイメージが先行しているが、初めからそうだった訳ではない。
彼女はギャラルホルンにおける名門であり、セブンスターズに名を連ねるボードウィン家の長女にあたる。
故に施された教育も一流。
生まれた瞬間から成功が約束されている、まさにエリート。
普通の人間なら羨むばかりの人生に違いない。
しかし聡明だった彼女はすぐに気が付いてしまう。
寄ってくるのは塵ばかり。
何もかも腐っている。
いい歳した大人が笑顔で擦り寄り、年端もいかない少女にペコペコと薄ら笑いを浮かべて頭を下げる。
ギャラルホルンの理念などとっくに形骸化し、既得権益に羽虫のように這い寄ってくる。
幼心に吐き気がするほどの嫌悪感を覚えた彼女は当然の如く環境の改善を志す。
間違っているという根幹に刻まれた感情に従って軍人としての教育を受け、知識を蓄え、地位を得ていく。
父は跡目をガエリオに譲り、アレクシアには血生臭い軍人とは縁遠い職に就かせたかったらしいが、当然無視した。
しかし、変わらない。
実績と立場、時にセブンスターズとしての名を使っても、腐敗した組織の改革には程遠かった。
それほどにギャラルホルンは大きすぎる組織だったのだ。
アレクシアが『氷の女帝』と呼ばれるようになったのも、組織変革に奔走した結果に過ぎないもの。
幾度も繰り返しては、組織の腐敗を、ギャラルホルンの実情を見せつけられて、嫌悪をとっくに超えた憤怒と憎悪、諦観にも似た複雑な感情を抱き始めた頃、出会ったのがロトだ。
彼もまたセブンスターズの名門バクラザン家を若くして継いだ英才であり、現在のギャラルホルンの在り方を変えようと藻掻いている者だった。
同じ立場、同じ思想、同じ目標を掲げた彼との出会いはアレクシアにとって天啓であった。
どちらかといえば強硬的なアレクシアと穏健的なロトは理想的な同盟相手だったのだ。
その結果として、改革派の骨子が生まれ、今日まで活動してきた。
「ロト、お前の事は信用している。しかしだ、隠し事をしたまま勝手に動くのは見過ごせないな」
以前から動いていたというコーラルの話を信じるならば、ロトは前からグレゴリの存在に気が付いていたという事。
情報漏洩のリスクがあったとはいえ、重要事項の共有を行わなかった理由は確かめねばならない。
「それもこの局面を乗り切れたらの話か」
アレクシアは格納庫に立つ自身の機体を見上げる。
『ガンダムキマリスヴィダール』
ガンダムキマリスの新たな姿である。
キマリスヴィダールはキマリスと比べて外見が大きく変化、装備も相応のものに一新されている。
宇宙空間での戦いを想定した装備は全レンジで対応できる程に充実し、非常に高い完成度を誇る機体に仕上がっていた。
「圏外圏で実戦データを収集してきた甲斐もあったようだな」
「姉上」
「ガエリオか。マクギリスはどうした?」
「思ったより傷が深いらしく、今は眠っているよ」
ガンダムアザゼルとの戦いで深手を負ったマクギリスは医務室で治療を受けて眠っている。
乗機であるシグルドリーヴァも見た目以上のダメージだった。
特殊なパーツを使用している為に応急処置は出来ても、完全な修復は無理と判断され、すでに地球へ移送されている。
「それより俺も出る」
「ヴィダールは外装を外して必要な装備はキマリスの方へ組み込んだし、乗る機体がないぞ。それにギャラルホルン同士の戦いになる。戦えるのか?」
「……ああ。いつまでも姉上に殴られている未熟者じゃない。やれるさ。機体も専用コックピットを搭載した改修機がある」
どうやら新型機であるグレイズ・デリングを改修した専用機があるらしい。
おそらくは義手と機体を接続するシステムに慣れる為にコーラルが用意した機体なのだろう。
「ふん、いいだろう。どこまで腕を上げたか見てやる。ついてこい」
「ああ!」
それぞれ自身の機体へ乗り込むと味方が待つ戦場へと飛び立った。
◇
長いギャラルホルンの歴史において、大規模な武力衝突は数える程しか存在していない。
それは彼の組織が歪みを抱えつつも、世界の治安を維持していたという証明に他ならなかった。
故にこの戦場に立つ誰もが皮肉に思ったに違いない。
何故ならば、目の前で敵対しているのは、立場は違えど同じ組織に属していた仲間に違いはないのだから。
しかしただ一人だけこの状況で尚、猛りを抑えられぬ者がいた。
未だに素顔を覆い隠した人物マスティマである。
我先にと先頭に立ち、火星支部の新型機グレイズ・デリングに睨みを効かせていた。
「……機会は訪れた。ならば全力をもって叩き潰すのみ」
自分でも興奮を抑えきれないでいるのが分かる。
後は合図一つですぐにでも火星支部へ乗り込んで。
そして―――
「今の私の力を見せつけてやる」
逸る自らを戒めるように腕を握り締めていると、ようやく待ち望んだ合図が出た。
「行くぞ!」
最初からスラスターは全開。
凄まじい速度でマスティマが敵陣営に突っ込んでいく。
「邪魔だ!!」
進路を塞ぐグレイズをレールガンで吹き飛ばし、ランスを構えた突進でもう一機を粉砕すると一直線に火星支部へと向かっていく。
マスティマの速度、突破力は圧倒的で、通常のグレイズでは歯が立たない。
そこで立ちふさがったのが新型グレイズ・デリングだった。
「新型だろうと!」
障害を排除すべくレールガンを発射する。
しかしグレイズ・デリングは想像以上の反応と機動性で散開、レールガンを回避した。
「ッ、今の反応は阿頼耶識? いや、アレがデリングの特性という訳か」
グレイズ・デリングの特徴は徹底した対阿頼耶識を意識した設計になっている点にある。
つまり機動性と即応性に特化している訳だ。
反面グレイズ系列の特徴であった高い汎用性は犠牲にされており、ほぼ宇宙専用の機体となっていた。
それでも性能は折り紙付きであり、圏外圏にて当たり前に運用されるヒューマンデブリに対抗する切り札として、そしてアリアンロッド艦隊と渡り合う伏せ札として十分な力を発揮していた。
「『火星支部侮りがたし』と本部で囁かれる訳だな。だが、それでもこのマスティマを止められるとは思わぬ事だ!」
対阿頼耶識というならば、それはマスティマとて同じ事。
マスティマのコックピットに装備されたシステムはまさにその為のものなのだから。
デリングの射撃を器用に避けながら、敵の戦線を崩すべく進撃し続ける、マスティマ。
だが、混迷を極める圏外圏の治安を預かる火星支部は甘くない。
完璧な連携とデリングの機体性能でマスティマは足止めを余儀なくされてしまう。
「流石に特異機動を使う相手との戦い慣れている」
いい加減に焦れてきたマスティマはこの局面を切り抜けるべく、再びアザゼルと抗した力に解放しようと手を伸ばす。
その直前、目に入ったものに動きが止まった。
「あれは……」
姿形は違っていても、その面影に変化はなく見覚えがある。
間違いない。
「自ら出てくるとは」
いや、意外な事ではあるまい。
彼女の性格ならばそうするだろう。
女傑と『氷の女帝』と揶揄されてきた彼女ならば、そうするのが当然。
歓喜と興奮が全身を駆け巡り、マスティマは笑みを浮かべていた。
「この時を待ちわびた!!」
纏わりつくデリングを振り払い、視界に入った機体―――キマリスヴィダールへ突撃する。
「ウオオオオ!!」
「離れろ、ガエリオ!」
速度の乗った刺突を自身のランスで受け流し、蹴りを入れて突き放すが、マスティマは体勢を崩しつつ横薙ぎを放ってきた。
それをシールドで捌いたアレクシアはランスの基部に装備された200mm砲を発射する。
だが、そんなものは目に入らぬとマスティマは一切、速度を落とさず突進してきた。
「チッ、攻撃には構いもせずに突進か。まるで狂犬だな」
堅牢な装甲をも貫く槍の一撃を横っ飛びで回避したキマリスヴィダールは腰から抜いた刀を横薙ぎに振るう。
「こんなもので!」
迫る横薙ぎの一太刀を足を振り上げ、無理やり防いだマスティマもまた引き抜いた剣で斬り払った。
交差し、火花を散らす刃の姿を観察していたアレクシアは猛攻を繰り返してくる敵に妙な既視感を覚えた。
「これが噂に聞いたマスティマか」
「逃がすものかァァァ!!!」
互いに弾かれ、距離を取った瞬間にマスティマが発射するミサイルをキマリスヴィダールの200mm砲が迎撃。
爆発の閃光が宇宙を照らす中、突撃した二機の放つ槍と槍が鍔迫り合った。
「今日こそ、私は!!」
「まさかお前は」
マスティマの正体に気が付いたアレクシアは絶句すると複雑な表情でマスティマの動きを観察する。
怨嗟に濡れた怒声に相応しくマスティマは苛烈で荒々しい、一見して命知らずの狂犬に違いない。
しかしよく見れば根幹の部分にある真面目さと丁寧さが垣間見える。
それはアレクシアのよく知る人物のものと重なって見えた。
ランスの一撃を潜り抜け、マスティマの腕を掴んで動きを止めるとアレクシアは相手に向けて声を掛けた。
「聞こえているな? 戦いの最中だが意外な人物だったのでな、声を掛けさせてもらった」
アレクシアの問いかけには答えないが、構わない。
所詮は戦いの最中に起きた一瞬の語らいに過ぎないのだから。
「私も迂闊だったよ。全く気が付かなかった」
「……私に気が付く訳がない。天上から遠くだけ見ている貴方には底辺に堕ちた私に気づける筈がない」
キマリスヴィダールを殴りつけ、距離を取ったマスティマは遅い宣戦布告とばかりに槍の先端を突きつける。
「私は生まれ変わった! 人ではなくギャラルホルンに仇成す者共を喰い散らす悪魔になったのだ!!」
「その結果が獣のような今の在り様という訳か?」
「そうだ! 私は私を信じ、散っていった部下達の為に奴らを一人残らず殺し潰す! そして貴方にも借りを返させてもらう!!」
マスティマの言葉を聞いたアレクシアは大きく嘆息する。
「逆恨みも甚だしい」
「恨みはない。だが、それでも積もりに積もったものがある! 何よりも貴方を超える事で、私は本当の意味で昔の自分と決別する!」
アレクシアは呆れと共に口端が上がるのを感じていた。
正直、甘い。
此処は戦場であり、命のやり取りをする所。
憤怒や憎悪が積み重なる場所なのだ。
個人の感情や所感など、何の意味があろうか。
しかし、それでもアレクシアはマスティマを否定しなかった。
命のやり取りである以上、怒りや恨み、憎しみが生まれるのもまた事実だから。
それを晴らしたいというなら、受けて立とう。
覚悟を決めたアレクシアは自分に挑まんとする挑戦者の本当の名を呼んだ。
「本来なら無視する所だが、まあいい。生まれ変わったというお前の力を見せてみろ―――カルタ・イシュー!!」
◇
開始された戦闘は意外にも拮抗した状態で推移していた。
どちらの陣営も本気の攻勢からは程遠く、互いに様子を見ているように感じられた。
そんな戦場の様子とは裏腹に、アリアンロッド艦隊の旗艦スキップジャック級の艦橋では張り詰めた緊張感に包まれていた。
複数の兵士達から銃を向けられながらも、フリーエは焦りを見せる事無くラスタルに問いかける。
「一体、どういう事でしょうか、ラスタル様? 私には状況が呑みこめないのですが?」
「理解出来なかったというなら、もう一度言ってやろう。今回の茶番の本命は敵のスパイであるお前を捕縛する事だと言ったのだ」
「何を根拠に? 私は忠実に職務をこなしてきたつもりなのですが」
「確かに。それに関して異論はない。だからこそ、お前しかいないのだよ、フリーエ」
ラスタルの言葉に嘘はない。
彼はフリーエの仕事ぶりを誰より評価していたし、実際に頼りにしていた。
それだけの能力を彼女は持っていたから、当然の事だ。
だからこそ疑念が浮かび上がる。
「私にはどうしても気になることがあってな。彼の件だ。彼自身のみならず、何故乗機であったゲイレールまで発見できない?」
本名を捨て、ガラン・モッサと名乗り、あえて汚れ役を引き受けてくれていた友。
彼は生死不明となり、乗っていた愛機もまた痕跡も残さず、その姿を消していた。
いかに彼が優秀だろうと戦場である以上は、敗北する可能性はあるだろう。
結果として生死不明になる事はおかしくない。
だが、彼自身の生死はともかくとして、搭乗していたゲイレールの行方が掴めないのは明らかにおかしい。
仮に敵の目的が彼の身柄であるなら機体は投棄するか、破壊すれば良いだけ。
にも拘わらず未だに痕跡も発見できないというのなら、結論は一つだ。
敵は彼のみならずゲイレールを回収する事も目的に含まれていたという事。
「要するに敵は私と彼の繋がりだけでなく、具体的なデータの類をゲイレールで管理していると知っていたという事だ。そしてその詳細を知るのは私を除いて限られている」
「なるほど。しかし私以外にも容疑者がいるのならば、調査を」
「した結果だよ。その中でもお前は完璧すぎる。まるで予め準備していたかのように不自然な程、完璧だった。つまり尻尾を掴ませない意志が感じられた」
「根拠にしては曖昧ですね」
「だから賭けだと言っただろう。お前を拘束させてもらう、フリーエ」
ラスタルから告げられる指摘にフリーエから表情が抜けていく。
元々感情を表に出すタイプでは無かったが、完全な無表情に包囲している兵士達の方が気圧されてしまう。
「……疑われないよう立ち回っていたつもりでしたが、それが仇となるとは。迂闊でした」
「認めるという事だな?」
「ええ。本当なら戦死したと見せかけて離脱するつもりでしたが、此処で拘束される訳にはいかないので、無理やりにでも失礼させてもらいます」
「逃げられると思っているのか?」
客観的に見ても銃を構えた兵士達に囲まれたフリーエに逃げ場はない。
だが、フリーエには全く焦りの色は見られなかった。
「らしくありませんでしたね、ラスタル様。貴方は問答無用で私を殺すべきだった。こういった状況も想定済みです」
誰にも気づかれぬよう制服の左腕の袖の下から滑り落した端末を掴み、スイッチを素早く押す。
瞬間、スキップジャック級のシステムが一斉にエラーが発生、重力制御も不安定となり、信号弾を発射しながら船体が大きく傾いた。
「ガンダムアルマロス特製のコンピューターウイルスです。そう簡単には除去できませんよ」
「くっ、フリーエ!!」
無重力と船体の傾きによって兵士達は堪らず体勢を崩し包囲網に穴が開く。
その隙を突いてフリーエはブリッジから脱出した。
◇
スキップジャック級はアリアンロッド艦隊の旗艦を務める超巨大戦艦である。
通常、侵入者やスパイがこの戦艦から脱出しようとしても、容易にはいかないだろう。
しかしフリーエ・ロアだけは別であった。
艦の構造。
兵士の配置。
緊急事態における行動パターン。
それらすべてが頭に叩き込まれているフリーエにとって、兵士達を手玉に取る事はそう難しくはなかった。
ましてやフリーエが予め仕込んでおいたウイルスによって戦艦の機能がマヒしているのなら尚の事。
結局、妨害という妨害に遭わぬまま、目的の場所であった非常用の外部ハッチへ到達する。
「先ほどの信号弾に気が付いているなら……来ましたね」
ハッチの外にはレギンレイズが待機していた。
このレギンレイズのパイロットもまたフリーエと同じくギャラルホルンの内部へ入り込んでいるスパイである。
今まで発覚しなかったのは彼の与えられた役割が限定的なものだったから。
万が一の場合、フリーエの脱出を援護する。
その役割の為だけに配置されていた駒なのだ。
入隊からアリアンロッドに配属されて以降も何ら怪しい動きはなく、職務に忠実だった彼を疑える者など誰もいないだろう。
宇宙服を着込んだフリーエはレギンレイズのコックピットへと飛び移る。
「お怪我は?」
「問題ない。それより戻る。予定通りに動いているなら近くにいる」
「了解」
混乱しているスキップジャック級を尻目に目指すのは戦闘宙域からの離脱。
しかし逃がさぬとばかりに他のレギンレイズが追撃してくる。
「この混乱の中、初動が速い。流石はアリアンロッドの精鋭。ですが、もう遅い」
レギンレイズの進路上に姿を見せたのはグレゴリにて運用されている戦艦だった。
そこから無人のまま射出された機体にレギンレイズが取り付くとフリーエは即座に外へと飛び出した。
「わざわざ戻るのも面倒ですからね。この方が早い。貴方は母艦へ帰還なさい」
「分かりました」
コックピットに乗り込み、機体を起動させると全身を覆っていた装甲版を展開、その姿を初めて世界へ晒した。
『ガンダムアルマロス』
この機体の最大の特徴は背中から伸びる複数のサブアームに接続された全身を覆う程の装甲版であろう。
計六枚。
各々形の違う装甲版にはそれぞれのギミックがあり、全身を守るように装備している外装も含めて高い防御力の高さが表れていた。
機体を起動させたフリーエは襲い掛かってくるレギンレイズを迎え撃つべく、操縦桿を握りしめる。
「さっさと後退しておけば……いえ、愚問でした。職務に忠実なのは私が一番よく知っている事なのですから」
自嘲するように吐き捨てると、一気に敵の間合いに飛び込んでいく。
それをフォーメーションを組んだレギンレイズが迎え撃つ。
「見事な連携ですね。しかし私には通じない!」
四方からの射撃を躱し、近くのレギンレイズの懐へ入りこむと背中の装甲版を展開した。
その内の一つがハサミのように分割し、姿を見せた刃が激しく振動。
装甲版に挟まれたレギンレイズは激しい火花を散らしながら、真っ二つに切り裂かれてしまった。
さらに背後から迫る敵に別の装甲版から射出したワイヤーが突き刺さると、流されたウイルスにより痙攣したように動きを止める。
そしてハサミの中央から姿を見せた鉄杭に貫かれ、腹に大穴を穿たれて撃破された。
「これで追撃の手が一時止まりました。ついでです、厄介な奴を仕留めておきましょうか」
フリーエの視線の先。
そこではガンダムキマリスヴィダールと死闘を繰り広げるマスティマの姿があった。
「何をしでかすか分からない狂犬はさっさと退場してもらいます」
装甲版の二つを背後に回し、追加スラスターとして展開。
残りを前面に向けると、装甲版から鉄杭を迫り出した。
それはギャラルホルンにおいて禁止されている質量兵器、ダインスレイヴであった。
「データ入力。照準補正、ターゲット確認」
マスティマの戦闘データも行動パターンもすでに確認済み。
狙いは敵機と激突し、動きを止める瞬間である。
「マスティマ、お前とその機体は此処で消えてもらう!」
禁断の兵器が発射され、狙い通りに標的へと直進した。
◇
アリアンロッドと火星支部の戦闘が佳境に入ろうとしていた頃。
地球圏にて、とある情報がリークされた。
それはギャラルホルン月外縁軌道統合艦隊アリアンロッドの司令官、ラスタル・エリオンに関するスキャンダル。
紛争を止める立場にありながら、自分達の為、逆に紛争を煽っていたという事実の暴露だった。
しかも具体的なデータと共にかつてギャラルホルンに所属していた傭兵の素性も一緒にである。
それだけでなく、監査局さえ掴んでいない不正や今まで積み重なってきたギャラルホルンの腐敗の実情も公開。
これにはすべての経済圏に激震が走った。
そして地球圏が混乱する中、それに拍車を掛けたのが、同時に発信された放送である。
『地球圏に住まう人々へ伝えたい事があり、この放送を発信しています。どうか少しの時間だけ我々の声に耳を傾けてほしい。我々の名はグレゴリ。世界の番人であるギャラルホルンを見張る者である』
世界の変容がすぐそこまで迫っていた。