機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ vivere militare est   作:kia

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第51話 砕ける象徴

 

 

 

 

 

 制御を失い、傾くスキップジャック級。

 

 事態を把握出来ていない部外者であれば、誰しも艦の撃沈を予想するだろう。 

 

 だが、艦を操るブリッジメンバーを含めクルー達全員が極めて冷静に事態の収束を図っていた。

 

 「状況報告」

 

 「メインシステムの一部がウイルスに侵されて、航行不能」

 

 「火器管制システムも同様です。主砲、ミサイル共に発射不能です」

 

 「エイハブリアクターの出力安定しません。重力制御が乱れているのもその所為かと」

 

 「メインシステムをダウン。事前に準備していたサブシステムに切り替え準備」

 

 せわしなく対処していくブリッジメンバーを頼もしく見つめていたラスタルに、側近の兵士が近づいてくる。

 

 「ラスタル様、フリーエは非常用の外部ハッチからスパイが操っていると思われるレギンレイズにて離脱しました……概ね予測通りの行動です」

 

 「よし。フリーエはこのまま戦域から離脱し、本隊へ合流を図る筈だ。予定通り、追尾させろ。どこに敵の息の掛かった連中がいるか分からん。人選は慎重にな。それから火星支部に戦闘中止の連絡を入れろ。本命が顔を出したと伝えてやれ」

 

 「了解しました」

 

 今回行った遠征の本当の目的は組織内に潜んでいるスパイを炙り出し、あえて逃亡させる事で本隊の行方を掴む事だ。

 

 事前にフリーエの拘束を実行しなかった理由も勿論ある。

 

 一つは敵の正確な人数を把握できず、拘束した所で逃亡、及び自決を図られる可能性が極めて高かったからだ。

 

 さらに地球圏で逃亡された場合、地球圏に潜伏する恐れがある。

 

 そうなった場合、肝心の本命の居場所が掴めなってしまう。

 

 「火星支部にも敵スパイがいる可能性は否定出来ないが、この状況ではどうにも出来まい」

 

 そして火星支部も今回の仕掛け、当然理解していた。

 

 例の通告書と一緒にセブンスターズにしか解放できない暗号電文を添付し、送信していたのだ。

 

 互いに積極的な攻勢に出ず、膠着状態だったのも、それが理由。

 

 まさにこの戦いは茶番劇だったという事だ。

 

 「しかしマスティマ、あれほど言い含めていたというのに」

 

 アレの素性を考えると、感情が高ぶるのは仕方がないが―――

 

 「やはり後遺症もあるか」

 

 マスティマは元々戦える体でも、精神状態でもなかった。

 

 それ故に本人の希望により阿頼耶識の施術のみならず、薬物にも頼っている。

 

 それくらいしなければ、才能も経験も覚悟すらも劣る自分は戦場を闊歩する悪魔たちと対等には戦えないと。

 

 部下の仇を討てないのだと吐き捨てるように語っていた。

 

 無論、致命傷を受けながら、戦いに身を投じるリスクが相応なものなのは自明の理。

 

 本懐を果たしたとしても、待ち受けている結末は破滅以外の道はないだろう。

 

 それを承知の上でマスティマはすべてを受け入れた。

 

 真に人を捨て、悪魔へ成り果てたのである。

 

 「最悪、マスティマを強制的に回収しろ。アレの力は必ずこの先に必要になる。こんな所で終わらせる訳にはいかん」

 

 こちらの意図を組んだ部下が出ていくのを見届けると、ラスタルはガンダムアルマロスと共に現れた戦艦に視線を向ける。

 

 「思い通りにいくとは思わぬことだな。お前達の喉元にたどり着いて見せるぞ」

  

  

 

 

 彼女の生まれは確かに恵まれていただろう。

 

 セブンスターズの第一席、イシュー家の跡取り娘。

 

 約束された未来がある以上、口が裂けても不幸などとは言えはしない。

 

 だが、それでも彼女は彼女なりの苦悩を抱えていた。

 

 周囲の期待と生まれ持った家から重圧。

 

 それに応えようと足掻いても、上手くいかない。

 

 経験と実績を積むために前線を希望しても通らない。

 

 あるのは意に沿わない家柄の意向だけ。

 

 周囲に振り回された結果、地球外縁軌道統制統合艦隊の司令官に任命された。

 

 その役目、お飾りである事は明白で。

 

 本当に窒息してしまいそうになる程に息苦しい。

 

 そんな彼女だからこそ憧れた。

 

 『氷の女帝』と謳われたアレクシア・ボードウィンに。

 

 彼女のようになりたいと心の底から願った。

 

 その為の努力も続けてきた。

 

 それも鉄華団との戦いによりすべてが水泡へ帰し、あの紅い戦乙女によって地の底にまで落とされてしまった。

 

 彼女が命を拾ったのはまさに奇跡。

 

 拾ってくれたラスタルの助力あればこそ。

 

 体は大きく傷つき、不自由にはなったが生きているだけ御の字であろう。

 

 だがあの時、命を失っていればと今でも思う瞬間がある。

 

 そうすればこんな屈辱を味わう事も無かったと。

 

 しかし、それも自分の為に命を懸けて散っていった部下達を思えば取るに足らない。

 

 だからこそ戦える体を手に入れる為に、薬物を、阿頼耶識の施術を受け入れたのだ。

 

 そう、何があろうとも自分の無力によって死んでいった者達に報いねば、それこそ―――

 

 「私は心底塵に成り果てる! もはや家も自身のプライドもどうでもいい! すべては部下の汚名を晴らす為に!」 

 

 「本命は釣れた。これ以上の茶番は必要ないと思うのだがな」

 

 「関係ない! 貴方は越えねばならない壁! 私は彼らが無駄死にでなかったと証明しなくてはならない!」 

 

 完全に冷静さを無くしている。

 

 いや、もしかすると何らかの要因で感情が制御出来ていないのかもしれない。

 

 「部下の為……その覚悟は見上げたものだと褒めてやる、カルタ!」

 

 「違う! そんな弱い女は死に果てた! 私の名はマスティマだ!!」

 

 「そうか。ではマスティマ、もう少しだけ付き合ってやる!」

 

 戦場を高速で移動しながら激突する二機のモビルスーツの戦いは決着する様子が見えない。

 

 奇しくも二機の戦い方は非常に酷似していたのも、その要因であろう。

 

 通常の機体では比較にならない速度を持って、ランスの刺突によって相手を粉砕する。 

 

 基本的な戦い方は全く同じ。

 

 しかし此処に来て、徐々に二人の戦い方の差が表れようとしていた。

 

 「そこ!」

 

 「ッ!?」

 

 マスティマの動きを先読みした一撃が、装甲の一部を掠め取る。

 

 正確無比な一刺しは激情に駆られたマスティマですら、驚愕する一撃だった。

 

 アレクシアはまさにオールラウンダー。

 

 ありとあらゆる相手や状況に対応できる豊富な経験と研鑽によって積み上げられた高度な技量。

 

 時に相手の意表を突く搦め手をも使ってくる。

 

 一流の戦闘者とはこういう者を指して言うのだろう。    

 

 反面マスティマは短期決戦向きの一点突破とでも表現すべき獣である。

 

 その猛々しさと激しさは確かに脅威だ。

 

 並みの者なら殺気に呑まれ、成す術なく撃破されてしまうだろう。

 

 しかし時間が経てば、経つほどにマスティマの特性は看破され、根底にある基本に忠実な単調さが露呈してしまう。

 

 それを装備のトリッキーさでカバーしつつ、押し込むのがマスティマの戦い方だった。

 

 「オオオオ!!」

 

 背中に装着したシールドスラスターを使った変則機動でキマリスヴィダールを翻弄しつつ、槍を振るう。

 

 それを上手く受け流したアレクシアは200mm砲でけん制、振るった刀でマスティマの槍を弾き飛ばす。

 

 「ッ、まだまだァァァ!!」

 

 無手となったマスティマだが、勢いは衰えない。

 

 手に装着された爪で刀を防ぎ、自らの剣を抜いて斬りかかる。

 

 剣と刀が鍔迫り合い、また激突しようとした瞬間、それが飛来する。

 

 「何!?」

 

 気が付いた時にはもう遅い。

 

 マスティマを狙う鉄杭に対して、避ける暇がない。

 

 あるいはアザゼルと互角に戦った例のシステムを起動させていたなら、回避も可能だったかもしれないが。

 

 それすらも手遅れであった。

 

 「馬鹿者!!」

 

 「え?」

 

 損傷を覚悟したその時、衝撃と共に吹き飛ばされた。

  

 そして眼前に広がっていたのは鉄杭に撃ち抜かれたキマリスヴィダールの姿だった。

 

 自分がアレクシアに庇われたと気が付いたマスティマは今までになく動揺してしまう。

 

 「な、何故、わ、私を?」

 

 「グッ、な、何を、している、戯けが! 本命が、出てきたのだぞ。他にやるべき、事があるだろうが」   

 

 超えまいとした相手との決着をこんな形で邪魔され、その相手から諭されるなど。

 

 あまりに惨めな道化だ。 

 

 だが、しかし此処で喚き散らすだけなら、それこそ何の為の戦いであろうか。

 

 本来の役割を果たさねば、すべてが無意味になってしまう。

 

 乱れる感情のすべてを押さえつけ―――否、憤怒で塗りつぶすと邪魔をした敵に向かって咆哮する。

 

 「貴様ァァァァ!!!」

 

 敵は妙な装備を持ってはいるが、その形状からもガンダム・フレームに違いない。

 

 「……まさか庇うとは」 

 

 突進してくるマスティマを見ながら、眉を潜めたフリーエはこの場で獲物を仕留める事をあっさり断念する。

 

 「逃がさない!!」

 

 後退しようとするアルマロスへ剣を振り下ろすが、展開された装甲版によってあっけなく阻まれてしまった。

 

 「私に構っている暇があるのか、マスティマ?」

 

 「その声、フリーエ!? お前だったのか裏切者は!」

 

 「押し問答をするつもりはない。もう一度、言おう。私に構っていて良いのか? 今頃、地球圏では大変なことになっていると筈だが?」

 

 「何だと?」

 

 装甲版によって突き放され、射出されたワイヤーを紙一重で回避したマスティマに閃光弾が撃ち込まれる。

 

 「ぐっ」

 

 「慌てなくとも、すぐにまた戦場で会う事になる」

 

 マスティマの返答も待たず、踵を返したアルマロスは母艦へと帰還する。

 

 そして同時にスキップジャック級から撃ち上げられたのは戦闘停止の信号弾。

 

 それを見たマスティマはフリーエの言葉が現実のものとなっている事を悟るのだった。

 

 

 

 地球圏の人々が初めに抱いた印象は戸惑いであった。

 

 『皆さんもご存じでしょう。三百年前、人類を絶滅寸前まで追い込んだ厄祭戦の事を。それはモビルアーマーと呼ばれる殺人兵器が引き起こしたもの。ですが根本としての原因はやはり人類同士の戦いがあったからです』

 

 仮面で顔を隠した男がいきなり、ギャラルホルンの腐敗を暴き、さらには聞いたこともない組織の人間であると言い放ったのだ。 

 

 混乱するのが当然であろう。

 

 しかしそれもすぐに収まった。

 

 『相手を倒せ。敵を殺せとエスカレートしていき、結果として最悪の殺戮兵器が生み出された。それが厄祭戦勃発の本当理由なのです。その結末は歴史に刻まれている通り、人類の勝利に終わりました』

 

 仮面の男の話には聞いている者を引き込む凄味があったのだ。

 

 カリスマと言い換えても良い。

 

 胡散臭い見た目とは裏腹に、発する言葉に嘘は感じられず、むしろ高揚感すら覚えてくるのだ。

 

 『そして再び同じような脅威が現れるかもしれないと、モビルアーマーを打倒した人々はギャラルホルンを組織しました。同じ過ちを繰り返さぬ為に。だが、昨今、彼の組織が行っている事はその真逆。組織の為に、権力闘争の為に、自らの利益の為に、戦いを引き起こし、数多の犠牲を生み出しているのです。これはモビルアーマーよりも悪質でしょう』

 

 さらに彼らの混乱を収めた理由は、仮面の男の背後に立つ女性クーデリア・藍那・バーンスタインの存在だった。 

 

 『本来ギャラルホルンとは世界の秩序を司る存在。それが自ら秩序を乱していては本末転倒でありましょう。そして圏外圏においてはさらに悲惨だ。治安は悪化し、海賊が蔓延り、子供たちは搾取され、戦場に送られる。これが正常な世界と言えるでしょうか?』

 

 ドルトコロニーの争乱とその結末は地球圏に住まう人々の記憶に新しい。

 

 多くの犠牲は出たものの、その成果は一般市民たちにとって、希望となり得るもの。

 

 そのクーデリアが仮面の男のそばに控えているのだ。

 

 クーデリアが溜まりに溜まった不満を払拭してくれると確信できるだけの実績がある故に、皆がグレゴリの話に耳を傾けるもの無理はなかった。

 

 『正常でない以上は誰かが正さねばならない。これ以上の過ちが繰り返される前に。その為に存在しているのが我々グレゴリなのです』

 

 しかしこの状況下において尚、ギャラルホルンに所属する者達の多くは冷ややかな視線を向けていた。 

 

 聞いていればただのテロリストの犯行声明に過ぎないと判断していたからだ。

 

 『初めに申し上げた通り、我々は見張る者。ギャラルホルンが暴走しないように、常に監視し続けてきた……三百年も前から。そう、この状況を三百年前から危惧していた者達がいたのです。それこそがグレゴリの創設者であり、ギャラルホルンの始祖達である!』

 

 この発言に映像を見ていた者達は言葉を失ってしまう。

 

 『ギャラルホルンは決してセブンスターズと名乗る者達だけで生み出されたものではない。様々な人間や組織が関わっている。中にはギャラルホルン自体がモビルアーマーのような脅威になる可能性を危惧していた者も大勢いました』

 

 つまりグレゴリとは―――

 

 『そこで彼らはギャラルホルンに属しながら、同時に内部から監視する表裏一体の組織を作り出した。それこそがグレゴリです』

 

 ギャラルホルンに所属する者達はようやく理解する。  

 

 道理で敵の姿をいくら探しても見つからない訳だと。

 

 何故なら彼らは自分達の身に潜む影そのものだったのだから。

 

 『この日が来る事を我々は望んではいませんでした。ギャラルホルンが世界の秩序を維持し、皆さんの平和を守り抜く守護神であり続ける事を祈っていた。しかし願いは叶わず、今日という日に至ってしまった。ならばその罪を裁くのは三百年前から私達の役割でしょう』

 

 男はおもむろに仮面を外し、その素顔が明かされる。

 

 『平和を願い散っていった者達の為にも、やらねばならない。私の名はヴェネルディ。アグニカ・カイエルの意志を体現する者』

 

 その顔は歴史を齧った事がある者ならば誰もが知っているだろう。

 

 ギャラルホルンにおいては特にだ。

 

 伝説に語られる英雄と全く同じ顔の男に映像を見ていた誰もが口を閉ざして、驚愕する。

 

 『彼は此処に蘇った!』

 

 ―――ギャラルホルンはすでに末期だ。因果応報の末路を辿る。後は腐り落ちるだけだろう。

 

 かつてアレクシア・ボードウィンがラスタル・エリオンに告げた予言は成就する。

 

 『今こそ審判の時! 腐った世界を打倒し、新たな世界の秩序を構築するのだ!!』

 

 

◇ 

 

 

 例の放送の後、地球圏は相応の混乱と共におおよそ二つの声に分かれる事になった。

 

 簡単に言ってしまえばグレゴリを支持するか、支持しないかという声である。

 

 本来であれば放送一つでこうも、世論が揺れ動くことなど在り得まい。

 

 しかし昨今、幾度と起こった紛争と治安維持組織の不祥事、『革命の乙女』クーデリア・藍那・バーンスタインの存在が予想以上に民草の心胆を揺らしていた。

 

 グレゴリの言う通り、新たな秩序を構築すべきと語る者。

 

 この機に乗じて独立を考える者。

 

 テロリストの戯言であると切って捨てる者。

 

 今まで通りギャラルホルンの秩序を望む者。

 

 三者三様。

 

 飛び交う意見と混乱は終息する様相を見せず、それでもギャラルホルンに対する根深い不信感だけは浮彫となっていった。 

 

 無理もない。

 

 今まで積み重なってきた腐敗、不正、そして謀略。

 

 『エドモントン動乱』をきっかけとした信用失墜が未だ回復しきらない内に今回の騒ぎである。

 

 具体的なデータと共にそれが提示された事で、ギャラルホルンに対する風当たりは一層強くなったと言えるだろう。

 

 これらに頭を抱えたのが、ギャラルホルン上層部である。

 

 このままでは各経済圏との関係悪化は避けられず、本来の役目である治安維持活動すらも難しくなってしまう。

 

 何故ならギャラルホルンはあくまでも『要請』がなければ、動くことが出来ないからだ。

 

 そこで上層部の面々は急遽、議場へ集まり、今後の対応を協議していた。

 

 「まさかこうしてまた此処に座るとは思ってしませんでしたよ」

 

 「全くですな」

 

 会議場に集まっているのは、すでに引退している以前にセブンスターズの家督を担っていた者達だ。

 

 本当ならば家督を継いだ現在のセブンスターズがこの席に座り、組織の今後を話し合っている筈だった。  

 

 しかし現在メンバーの大半が早急にこの場に集まる事が出来ず、緊急の対応として隠居していた前任者達が集まったという訳である。

 

 「グレゴリとやらはテロリストとして殲滅する他ない。それがギャラルホルンとしての責務だ。これを蔑ろにしては各経済圏との関係も崩れてしまう」

 

 「ですが、彼らの正体があの放送の通りならば……それにあのヴェネルディと名乗った男の顔」

 

 「組織の内部調査は急務ですが、あの男の事はそう本気に捉えるものではない。顔などいくらでも変えられるのだから」

 

 「とはいえ少なからず悪影響影はありましょう。我々も何らかの声明を出すべきです」

 

 かつて組織を牽引していた者達の手腕は確かなもの。

 

 懸案事項が纏められ、すぐにでも動き出せる体制を作り出していく。

 

 『素晴らしい。腐ってもギャラルホルンという巨大組織を動かしてきた重鎮は伊達ではないという事だな』

 

 そんな彼らは突如として開いた通信回線に完全に凍り付いてしまった。

 

 仮面の男ヴェネルディ。

 

 背景から見て今はどうやらモビルスーツに搭乗しているらしい。

 

 「き、貴様。どうやって……ここはセブンスターズの」

 

 『専用回線しか使えないというんだろう? 仕込みをさせてもらっただけだよ』

 

 「……それでわざわざ何の用だ? 投降の連絡という訳でもあるまい」

 

 『それはこちらの言う事だ。無益な血を流さぬ為にも、潔く自分達で幕を下ろす選択をしても良いと思うのだが?』 

 

 突如として通信してきたヴェネルディに全員が満場一致で拒絶を選択する。

 

 「馬鹿げた事を。お前達こそ自らの矛盾にいい加減に気づくがいい、三百年前の亡霊よ」

 

 「我々の腐敗を指摘しておきながら、お前達のやろうとしている事はただのテロだ。争いの誘発と権力の奪取。ふん、新たな世界の秩序などと耳障りの良い言葉で誤魔化そうとも、お前達の本質はただのテロリストと変わらない」

 

 『確かにそれは事実だ。否定は出来ない。しかしだ、貴公らの腐敗も、取り返しのつかない状況になっている事は気が付いている筈。遅かれ早かれこうなっていた。もう止める事は出来ない、誰にもな』

 

 どちらの言い分も的を得ていた。

 

 そしてヴェネルディの言う通り、もはやこの流れは止められないという事だけは間違いなかった。

 

 「それで宣戦布告という訳か?」

 

 『いえ。貴公らの中には私について懐疑的な者もいるだろう。だからある物を見せようと思ってね』

 

 ヴェネルディが映し出したのはギャラルホルン本部ヴィーンゴールヴ内でも特別な場所。

 

 かつて英雄が搭乗した機体、ガンダムバエルを納めた祭壇だった。

 

 その映像はヴィーンゴールヴだけでなく、再び全世界へと公開される。

 

 「バエルの祭壇だと」

 

 「何をする気だ?」

 

 『簡単だ。ギャラルホルンが祭り上げた偽りの象徴の正体を暴こうと思っただけだ』

 

 ヴェネルディが笑みを浮かべた瞬間、祭壇の中心に立つモビルスーツを巻き込むように周囲から爆発が起き、祭壇は崩れ、炎に包まれた。   

 

 当然、その余波はヴィーンゴールヴ全体に及び本部を大きく揺らす。

 

 「ぐぅ、バエルが!?」

 

 「いや、この程度の爆発でモビルスーツを破壊する事など」

 

 『よく見ると良い。信じ続けた象徴であるバエルの有様をな』

 

 映像に映し出されたバエルはモビルスーツの堅牢さなど見る影もなく、バラバラに破損してしまっていた。

 

 『そして知るがいい。貴公らの象徴は遥か昔から砕かれていた事を』

 

 破壊されたバエルとは別の表示された画像にはマントのようなもので身を包み、外部装甲を装着した機体が映し出されていた。

 

 ヴェネルディの声に応えるように排除されたマントと共に全身に覆われた外部装甲がパージされる。 

 

 「あ、ああ」

 

 全身、映える黒い装甲、背中にはスラスターウイングを持ち、腰には二本の剣を装備している。

 

 各部に違いはあるものの、見間違う筈がない。 

 

 アレは先ほどまで祭壇に立っていた―――

 

 「……バエル」

 

 『これこそガンダムアザゼルの真の姿だ』

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