機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ vivere militare est   作:kia

56 / 73
第52話 戦いの幕開け

 

 

 

 

 

 男にとってその日はただ商談があるだけの筈だった。

 

 特に変わり映えのしない、金儲けの日々。

 

 それは男にとって、いわば生きる意味と言っても過言ではない。

 

 特に『エドモントン動乱』以降はギャラルホルンの力も弱まり、各地で戦火が広がっている。

 

 男にとってはまさに万々歳だった。 

 

 今日もまた火星のマーケットを直に見ようと足を運び、自社に戻った所に青天の霹靂とも呼べる出来事に遭遇してしまう。

 

 あっという間に自らを守るボディーガード達は屍に変えられ、夥しい血の海が作り出されてしまう。

 

 「な、あ」

 

 呻くような声しか出せず、目の前の信じがたい光景を生み出した者に視線を向ける。

 

 複数いたボディーガード達を殺したのは僅か数人。

 

 しかも驚いた事に、背丈から見て明らかな子供まで交じっていた。

 

 「お前、達は、何者だ?」  

 

 中心にいる人物が頭に被っていたフードを取った。

 

 「誰だ? 何故、こんな事を」 

 

 「直接会った事は無かったな。お前には何度か仕事を依頼してもらった。例えば火星支部と結託してクーデリア・藍那・バーンスタインを襲わせたり、海賊の鉄華団襲撃の情報を仕入れ、事態の推移を確認する為に俺達を送り込んだり」

 

 「な、では貴様は、あの傭兵団の? 何が目的」

 

 その問いに答えが返ってくる事は無く、乾いた銃声だけが響き渡る。

 

 銃弾は男の頭部を正確に撃ち抜き、あっけなく即死させた。

 

 「汚い肉ダルマだな。誰かを食い物にするしか能がない俗物。もう少し、苦しませても良かったんじゃない?」

 

 「そう言ってやるな。こう見えて、色々協力してくれたんだ。即死させたのはその礼だよ」

 

 この場に残った人間の始末は完了したのか、他の襲撃メンバーも集まってくる。

 

 「よし、これで準備は整った。さっさと戻るぞ」

 

 「いよいよ本番だね、サイラス」 

 

 「ああ。相手は強敵だからな、全員気を引き締めろ」

 

 「了解!!」

 

 全員の返事を聞き、踵を返す。

 

 そしてサイラスは一瞬だけ振り返り、倒れ伏す男に餞の言葉を送った。

 

 「人の生き血を啜って富を得ていた割に穏やかな死に様だな、ノブリス・ゴルドン。お前が踏みつけにしてきた者達に地獄で詫びておけ」

 

 この日、圏外圏でも有数の資産家ノブリス・ゴルドンの惨死が火星全土を駆け巡った。

 

 誰の仕業なのか、荒唐無稽な噂と共に人から人へその事実が伝えられていく。

 

 しかし、その話題はすぐに別の話でかき消されてしまった。

 

 アリアンロッド艦隊と火星支部との武力衝突が起きたからである。

 

 

 

 

 アリアンロッド艦隊と火星支部の激突から数日。

 

 治療を終え、目覚めたハルはオルガからの現状報告を聞いていた。

 

 「という訳だ。アリアンロッド艦隊は敵本隊を特定し次第、追撃戦に。火星支部は地球本部と連携をとってヴェネルディ商会、いや、グレゴリ殲滅に動くらしい」

 

 「そうか。それで肝心の俺達、鉄華団の方針は?」

 

 「決まってるだろ。火星支部からグレゴリに対する作戦の正式な協力依頼があって、引き受けた。グレゴリには俺達も借りがある。お嬢さんやモーゼスの件もあるしよ」

 

 ニヤリと笑ったオルガだったが、その表情はすぐに曇ってしまう。

 

 「ハル、お前、体の方は?」

 

 「ああ、処置を受けたお陰か大分楽になったよ」

 

 敵の拠点から持ち帰ったデータの中には、ネフィリムシステムに関するものも含まれていた。

 

 それを元に処置を受けたお陰か、深刻だった眠気も大分緩和されていた。

 

 加えてアスベエルの制御システムにも手が加えられ、前のように勝手に動かないように封印が施された。

 

 これで普通に操縦をする分には何の問題もない。

 

 「そういえば、マーソン商会の方からお前の知り合いが会いに来てたぞ。名前はジャンだったか」

 

 「ジャンが?」

 

 「ああ。今、呼んでくる」

 

 オルガと入れ替わるように医務室に入ってきたのは、スラムで幼少期を共に過ごした幼馴染のジャンだった。

 

 「ハル、大丈夫なのか!? その頭……」

 

 医務室にある窓を見ると、髪の毛の大半が真っ白になっている自分の姿が映っていた。

 

 もう黒い髪は殆ど残っていない。

 

 髪の毛だけなら、まるで老人である。

 

 「体調は問題ない。前より調子が良いくらいさ。それで、ジャンはどうして此処に? 仕事か?」

 

 「うん……社長の件を聞いてさ」

 

 「そうか」

 

 自分達に手を差し伸べ助けてくれたモーゼス・マーソンはもういない。

 

 ハルを助けようとして、散っていったのだ。

 

 そう、ハルを助ける為にだ。

 

 仕事を与え、教育まで受けさせてくれた、ジャン達にとっては親も同然。

 

 ハルに恨み事を言いたくなってもおかしくない。

 

 だが、ジャンの口から出た言葉は予想とは真逆のものだった。

 

 「ハル、もう戦いは他の奴に任せた方がいいんじゃないのか? 今のお前を見てると、不安になる」

 

 「そういう訳にはいかないさ。お嬢様を助け出さないとな。……ジャン、もしもの時はお嬢様を頼む」

 

 「馬鹿野郎、縁起でもない事言ってないで、二人共無事に帰ってこい!」

 

 「そうだな。悪い」

 

 笑うハルにジャンは妙な予感を覚えていた。

 

 もうこれで二度と会えないような。

 

 そんな信じたくもない嫌な予感を。

 

 

 

 

 戦闘から無事に帰還したガエリオは治療室に立っていた。

 

 部屋の中には戦闘により重傷を負い、横たわる姉の姿がある。

 

 容体は非常に悪い。

 

 いや、誤魔化しても意味はないだろう。

 

 彼女はもはや手遅れの状態で、余命幾ばくもない。

 

 これからガエリオは姉との最後の別れの言葉を交わすのだ。

 

 「ガエリオか。なんて顔をしている」

 

 「……申し訳ありません、姉上」

 

 正直、怒鳴り散らされた記憶も多いが、それもすべてアレクシアがガエリオを思っての事だと知っていた。

 

 苛烈な印象が強いが、幼い頃は優しく、楽しい思い出もたくさんあった。

 

 ガエリオは彼女の背を追い、アレクシアも手を引いて歩いてくれた。

 

 厳しくなったのは、ガエリオがギャラルホルンに入隊が決まる前くらいからだ。

 

 アレも環境に潰されないようにと、アレクシアなりの愛情だったのだと、今なら痛いほどに理解できる。

 

 「そんな顔は止せ。戦場なのだ。ギャラルホルンに入った時からこういった結末は覚悟していた」

 

 自然と浮かぶ涙を堪え、アレクシアの手をそっと握った。

 

 「正直、心配だが、お前ももう大人だ。後は任せる。ああ、そうだ、アルミリアの事を頼む。あの子はまだ子供だからな」

 

 「……はい、分かりました」

 

 言いたい事がたくさんあるのに、言葉に出来ない。

 

 「最後にガエリオ、もう家の事など、セブンスターズの事など気にするな。あれらはすべて過去のもの。お前が引きずられる必要はない。自分の信じた道を行け……もう私が居なくともお前は大丈夫だ」 

 

 「姉上」

 

 「キマリスヴィダール、好きに使え。お前に託す」

 

 抑えきれなくなった涙が零れ、義手を濡らすとアレクシアは力なく微笑み手を伸ばす。

 

 「仕方ない、奴だな。本当に」

 

 「姉上、大丈夫です。俺は、自分の道を、姉上が心配しなくて良いように、きちんと」

 

 「そ、うか」

 

 ガエリオの涙を拭ったアレクシアは優しい笑顔を浮かべて目を閉じ、握っていた手から力が抜けた。

 

 『氷の女帝』と呼ばれたアレクシア・ボードウィンは優しい笑みを浮かべたまま、静かに息を引き取った。

 

 姉との別れを済ませたガエリオが医務室から出ると、マクギリスが待っていた。

 

 「ガエリオ」

 

 「俺は大丈夫だ。姉上は安らかに逝かれた」

 

 「そうか」

 

 マクギリスも平静を装ってはいるが、拳を固く握りしめていた。

 

 彼もまた、ガエリオと同じく幼少期をアレクシアと共に過ごしているのだから、思う所も当然あるだろう。

 

 しかし今は感傷に浸っている場合ではないのだ。    

 

 「キマリスヴィダールの修復とコックピットの換装は移動中にやる。とりあえず準備が整い次第、地球圏へ戻ろう。奴らは地球へ向かう筈だ」

 

 「分かった」

 

 マクギリスと頷き合ったガエリオはもう一度だけ、医務室で眠る姉を見た。

 

 「……姉上。貴方に恥じない戦いをして見せます」

 

 二人は決意を新たにすると地球圏へ向かう為、格納庫へ足を向けた。

 

 

 

 

 クーデリア・藍那・バーンスタインが、この部屋で過ごすようになって、それなりの日数が経っていた。

 

 しかし一日中、部屋の中に閉じ込められていては流石に気が滅入ってくる。

 

 捕虜に近い身分なら当然だが自由はなく、外の情報も完全にシャットアウトされている。

 

 唯一の救いはアトラも含めて、待遇自体は悪いものではない事くらいだろう。

 

 「クーデリアさん、大丈夫?」    

 

 「……ええ。ありがとう、アトラさん」

 

 あのヴェネルディの演説が世界に流れて、数日。

 

 後ろに立たされていたクーデリアにとって、あの演説がどのような影響を世界に与えているのかが非常に気がかりだった。

 

 「心配しないで、クーデリアさん。必ず三日月達が助けにきてくれるから」

 

 「そうね。きっと」

 

 ハルや三日月、鉄華団の皆が必ず助けに来てくれる。

 

 二人にはそう確信できるだけの信頼がある。

 

 「彼らが来るというなら、相応の歓迎しなくてはならないでしょうね」

 

 会話を遮るように部屋に入ってきたのは、楽し気に笑うヴェネルディだった。

 

 「……いつまで私達をこうして監禁しておくつもりですか?」

 

 「それについては申し訳ありません。ただ貴方に今、動かれると面倒な事になるのでね。ドルトの時のような演説をされても厄介だ」  

 

 「私を誘拐した理由はそれですか?」

 

 ヴェネルディは答えず、笑みを浮かべるだけ。

 

 しかしそれが明確な解答である証拠であった。

 

 彼の目的は演説中にクーデリアを背後に立たせ、グレゴリ側の人間と思わせる事で民意を引っ張り込む。

 

 そしてドルトコロニーの時のような行動を取らせないように、動きを封じる事だったのだ。 

 

 「……貴方は何者なのです? 本当にアグニカ・カイエルなのですか?」

 

 前にヴェネルディの素顔を見た時に覚えた既視感の正体。

 

 それは、昔に読んだ歴史書に描かれたギャラルホルン創始者の一人であり、伝説の英雄であるアグニカ・カイエルと同じ顔だったからだ。

 

 無論、本人などと信じてはいないが、それでもあまりに顔が似すぎていた。

 

 「私はヴェネルディであり、アグニカ・カイエルでもある。そうですね、協力してくれているせめてもの礼に少しお話しましょう」

 

 仮面を外し、素顔を晒したヴェネルディは語り出す。

 

 己の真実を。

 

 すべての始まりはやはり三百年前に遡る。

 

 厄祭戦が終結し、モビルアーマーの脅威から解放された人々は同じ過ちを繰り返さぬ為、治安維持組織であるギャラルホルンを創設した。

 

 そして武力を占有するギャラルホルンの暴走を危険視したギャラルホルンの創始者達が、カウンターの組織としてグレゴリを誕生させた。 

 

 彼らの根底にあったもの。

 

 それは人に対する不信感だ。

 

 これだけの惨状を引き起こした厄祭戦を目の当たりにした今の時代を生きる人々は、誰もが戦おうなどとは思うまい。

 

 しかし、次の世代はどうだろう?

 

 その次は?

 

 次の次は?

 

 いずれ記憶は薄れ、厄祭戦の悲劇もデータでしか知らぬ世代が現れる。

 

 当然、そこで起こった悲劇を自分の事のように感じ取れる者などそうは居ないだろう。

 

 今はギャラルホルンに所属する人々も使命感に溢れているが、世代を重ねれば、組織として腐敗していくのは想像に難くない。

 

 それ故に誕生したのがグレゴリであるのだが、無論、彼らは自分達の設立した組織だけが腐敗と無縁でいられるとは全く考えていなかった。

 

 世代交代は避けられない。

 

 ならば別の方策を考えねばならなかった。

 

 そこで彼らが思い至ったのが、記憶の継承である。

 

 記憶をデータとして保存し、別の肉体へ転写する事で、使命感を維持しようと考えたのだ。

 

 そして記憶の継承には、それに相応しい肉体が必要になる。

 

 結果、彼らが目を付けたのが、厄祭戦の英雄アグニカ・カイエルだった。

 

 ガンダムバエルに残されていた記録を抽出し、彼の両親の遺伝子データから受精卵を作成、保存。

 

 これらを掛け合わせ、世代の交代と共に継承を行う事としたのだ。

 

 「クローンと呼ばれる複製技術を使おうとした案もあったが、それは色々問題があって破棄された」

 

 「では、貴方は」

 

 「正真正銘、アグニカ・カイエルの血縁者という訳です。ま、褒められたやり方ではありませんがね」

 

 別人の記憶を他の人物に転写する。

 

 口で言う程簡単なものではなく、何度も失敗を重ねていた。

 

 意識喪失、記憶障害、酷い場合にはショックで人格そのものが崩壊した例もある。

 

 そんな数少ない成功例こそヴェネルディであった。

 

 その名の意味は金曜日、つまりは金星の日に生まれたからという単純なものだ。

 

 しかしもう一つの意味がある。

 

 とある宗教において、金星は明けの明星と詠まれ、ラテン語における名はルシフェルとも呼ばれる。

 

 つまりその名前も、神話において有名な堕天使を連想させているという訳だ。

 

 「……どうやってそんな事を」 

 

 「簡単です、ガンダムバエルの阿頼耶識ですよ。あれは脳に直接干渉しますから、それを利用したのです」

 

 「では、貴方が搭乗していたガンダムは」

 

 「正真正銘、本物のバエルですよ。祭壇に保管してあったのは、厄祭戦時に破棄された試作フレームを、バエルに似せて作った物。細部まで似せてありますし、データ上も本物と出る訳ですから本部も気が付かなかった訳です」

 

 祭壇に保管されていた機体は、ガンダム・フレームの試作型をバエルに似せて作った偽物。

 

 本物は祭壇に保管される前からグレゴリが所有していたのである。 

 

 「貴方の事情は理解できました。ですがその目的が分からない。グレゴリの掲げる使命に忠実にも見えない。貴方は何がしたいのですか?」

 

 グレゴリの存在も、その目的も理解は出来た。

 

 しかしその中心に立っている筈のヴェネルディからは、それほどの熱量を感じ取る事が出来なかったのだ。

 

 「……私の目的は宣言した通りです。他意はない―――長居しすぎましたね。やる事がまだまだあるのでこれで失礼します。彼らが来るなら相応の準備が必要だ。まあ、変な期待はしない方が良い。助けには来れないでしょうから」

  

 「来ます! 必ず!」

 

 今の今まで蚊帳の外だったアトラの叫びにヴェネルディは興味を引かれたのか、初めて彼女に目を向けた。

 

 「私は全力を持って迎え撃つ。私だけじゃない、グレゴリ全体がだ。彼らに因縁がある者達も多い。君達には残念な結果にしかならないと思うが?」

 

 「そんな事ない。貴方達になんて三日月は絶対、負けない!」

 

 ヴェネルディは仮面を着けなおすと、今までにない程に楽しそうな笑みを浮かべて背を向けた。

 

 「だとすれば楽しみだ。本当にね」

 

 ヴェネルディは去っていく。

 

 その背中には部屋に来た時とは別人のような戦意が漲っていた。  

 

 

 

  

 結局の所、これは必然であったのだろう。

 

 ヴェネルディが演説と称して地球圏に放った劇薬は瞬く間に広まり、多くの人々を染めていった。

 

 争いを誘発し、私利私欲を満たす組織を断罪せよと。

 

 世論の多くが、そう声高に叫んで憚らない。

 

 ギャラルホルンに対する積もりに積もった不信感は爆発し、彼らからの解放を求めた動きが地球圏全土に広がったのである。

 

 その規模はコロニー独立運動の比ではなく、ギャラルホルンは連日の出撃を強いられていた。

 

 しかしその士気はいつもより遥かに低く、治安維持活動に支障をきたす程であった。

 

 何故、そうなったのか理由は明白。

 

 演説後に中継されたガンダムバエルの破壊が原因である。

 

 あの機体自体は偽物であった。

 

 だが、象徴として扱ってきた英雄の機体が世界に晒される形で破壊されてしまったのである。

 

 ギャラルホルンの象徴ともいえるモビルスーツの破壊は、兵士達の士気に大きな影響を及ぼしたのだ。

 

 そして、治安維持活動が上手くいかないもう一つの理由がある。

 

 それが各地で独立勢力に手を貸す、グレゴリ勢力の台頭であった。

 

 「くそ、何だよ、こいつらは!」 

 

 「分からねぇよ!」

 

 順調に独立勢力のモビルスーツを撃破していた三機のレギンレイズは、新たに姿を見せた敵に困惑していた。

 

 グレゴリのモビルスーツ『エゼクェル』

 

 阿頼耶識特有の動きに一切ついていけずに防戦一方。

 

 さらに見た事もない機体が襲い掛かってくる。

 

 見かけ的にはバエルのようなガンダム・フレーム機に近いのだろうか。

 

 「当たれ!!」

 

 狙いを付けてライフルを撃ち出すも、機動性重視の機体フレースヴェルグ・アスタルテを捉える事が出来ない。

 

 「悪いけど、当たらないさ」

 

 パイロットが捉えきれない速度で加速したフレースヴェルグは背後へ回り込み、すれ違い様にレギンレイズの両腕を破壊。

 

 左右から挟み込むように刃を振るい、真っ二つに両断した。

 

 反対方向にいたレギンレイズは、重量感を放つニーズヘッグ・マルコキアスのパワーに圧倒されていた。

 

 「落ちろよ!」

 

 「うわああああ!!」

 

 圧倒的なパワーから繰り出された斬撃を受け止めたにも関わらず、止める事も出来ずに押し込まれる。

 

 押し返す力もないレギンレイズに逃れる術もなく、斬り潰されてしまった。

 

 そして残った最後のレギンレイズは遠距離からの狙撃によって翻弄されていた。

 

 「どこから狙ってやがる!?」

 

 敵の姿は見えず、どこから撃っているのか予測も出来ない。

 

 すでに機体は片手、片足が破壊され、スラスターも破壊されてしまった。

 

 「遊んでるつもりか!」

 

 残った腕でライフルを乱射するも、それで敵を捉えらえる筈もなく。

 

 発射された一射がレギンレイズの装甲を融解、コックピットを貫通させて撃破した。 

 

 遠くからレギンレイズを狙撃した機体は目標の沈黙を確認すると、大仰なライフルを下ろす。

 

 その機体の形状はガンダム・フレームの意匠を色濃く持っていた。

 

 『ガンダムコカビエル』

 

 かつてサイラスが歳星で使った特殊ライフルの発展型を装備した、堕天使の名を冠したガンダム。

 

 それを操っていたのはテイワズでは名を知らぬ者はいないと称された『マルドゥーク』のエースパイロット、カイン・レイクスであった。

 

 「ライフルの微調整はこんなものか」

 

 「見事な腕前だ。流石は音に聞こえた『マルドゥーク』のエースだな」

 

 コカビエルの背後を守るように控えていたのはサイラスのヴォーダンである。 

 

 その証拠にヴォーダンの周囲にはバラバラの状態で破壊されたモビルスーツの残骸が幾つも漂っていた。

 

 全員、サイラスによって返り討ちにあったのだろう。

 

 「世辞は結構。此処での戦闘は終わったようだ」

 

 「らしいな。ま、しばらくはこんな手応えのない戦いだろうが、油断するなよ。アリアンロッド艦隊が戻ってきてからが、本番だからな」

 

 「了解している。しかしもう一つ、警戒しなくてはいけない相手がいると思うのだがな」

 

 「ほう、誰だ」

 

 「地球外縁軌道統制統合艦隊」

 

 少し前ならその名前を聞いても、鼻で笑った事だろう。

 

 何故ならば、地球外縁軌道統制統合艦隊がお飾りの存在である事は、誰もが知っている事実だからだ。

 

 しかし、今は違う。

 

 「確かに。前のお飾りから代わった今の司令官の実力は本物らしいからな。それがどの程度のものか見せてもらおうじゃないか」

 

 どの道、アリアンロッドが来る前に戦う事になるのは間違いないのだ。

 

 サイラスは戦場から遠くに位置する輝ける星を、獲物を狙うハンターのように鋭い視線で睨みつけた。

 

 

 

 

 地球圏はヴェネルディによって明かされた真実によって、混乱の渦中に落とし込まれた。

 

 バエル破壊はギャラルホルンにも多大な影響を与え、生じた紛争の鎮静化には程遠い。

 

 そんな状況の中、高い士気を保ちつつ、グレゴリ迎撃に出ようとしていた艦隊が存在した。

 

 地球外縁軌道統制統合艦隊。

 

 かつてお飾りと揶揄された艦隊は司令官により再編成され、いまやアリアンロッド艦隊とも遜色ない程に練度を上げていた。

 

 その司令官こそセブンスターズの一人、ロト・バクラザンである。

 

 「バクラザン司令、出撃準備完了しました!」

 

 「よし。敵は各地で戦火を拡大させている。他の部隊と連携を取りながら、確実に対処する」

 

 「了解!」

 

 ロトは忙しなく指示を飛ばしながら、格納庫へ足を向ける。

 

 そこには急ぎ用意させた自らの機体が待っていた。

 

 シグルドリーヴァⅡ。

 

 大破したマクギリスのシグルドリーヴァを修復、改修した機体。

 

 今までの戦闘データから問題点が洗い出され、それらはすべて改良されている。

 

 「本当ならマクギリスに渡したかったけど、もう時間がない。アレの準備は?」

 

 「進めてます!」

 

 「急かして済まないけど、出来るだけ早く頼むよ。マクギリス達も地球圏に戻ろうとしている筈だから」

 

 「了解です!」

 

 ロトは格納庫の奥にあるものに目を向ける。

 

 そこにはフレームだけのモビルスーツが立っていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。