機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ vivere militare est   作:kia

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第53話 強者の邂逅

 

 

 

 

 各地でギャラルホルンとグレゴリの戦いが繰り広げられている中、数隻の黒い装甲を持つ戦艦が地球へ向けて行軍していた。

 

 どの戦艦もギャラルホルンが使用しているものと似通ってはいるものの、武装の種類も豊富で、配置なども非常に考え抜かれているように見える。

 

 これらはすべて言わずと知れたグレゴリで運用されている戦艦だった。

 

 装備は明らかに対モビルスーツを想定しており、ギャラルホルンとの戦いを意識している事は明らか。

 

 中でもひと際大きな戦艦。

 

 アリアンロッドのスキップジャック級にも劣らない大きさの戦艦こそグレゴリの旗艦『フィンブルヴェトル』である。

 

 通常の戦艦とは比較にならぬ巨大さを持ちながら、強力な武装を持つ事からも象徴的な意味合いの強いスキップジャック級とは違う戦闘艦である事は一目瞭然だった。

 

 そんなフィンブルヴェトルの傍に控えるように航行していたのは、マルドゥークの旗艦『バビロン』であった。

 

 「でかいですね。バビロンが小さく見えますよ」

 

 「全くだな。だが、あのギャラルホルンと戦争しようって連中だ。これぐらいの装備、当たり前なんだろうさ。とにかく、ちょっと行ってくる。後は頼んだぞ、フィン」

 

 「了解です」

 

 バビロンの艦橋からグレゴリの戦艦を眺めていたジャスレイはカインと共にフィンブルヴェトルへ向かう。

 

 広い艦内で迷わぬように待っていた兵士に従って艦橋に赴くと、仮面で素顔を隠した男が出迎えた。

 

 「ようこそ、フィンブルヴェトルへ。呼び立てて、済まなかった」   

 

 どうにも胡散臭い。

 

 本来なら信用など出来ない類の人間だと切って捨てるのだが、何故かジャスレイもヴェネルディに対して不信感のようなものは沸き上がってこなかった。

 

 むしろ逆。

 

 これが本物のカリスマという奴なのかもしれない。

 

 だが、それも正体を知った後では納得だろう。

 

 伝説の英雄そのものと言っても過言ではないのだから。

 

 その経験も知識もそこらの人間では比較になるまい。

 

 様々な修羅場を越えてきたジャスレイでさえ、小僧扱いだ。

 

 全く、冗談じゃない。

 

 気を張っていなければ、雰囲気に呑み込まれそうになる。

 

 ジャスレイは拳を固く握りしめると、本題の前にどうしても聞いておかねばならない事を口にした。

 

 「要件は分かってる。今後についてだろ? だが、その前に聞かせてもらいたい事があるんだがな。……歳星の件、仕組んだのはお前か?」

 

 歳星から離脱したマルドゥークが身を寄せたのは、ヴェネルディ商会、すなわちグレゴリであった。

 

 そんな選択をしたのは、マルドゥークが以前からヴェネルディ商会から勧誘を受けていたからである。

 

 君達を認めないテイワズを見限り、自分達と共に新たな世界を切り開かないかと。

 

 そんな怪しい誘いなど、さっさと断った訳だが、結果として自分達は此処に居る。

 

 ならばあの騒ぎ、グレゴリが裏で手を回していたとしても不思議ではない。 

 

 「Yesだったらどうするのかな?」

 

 「けじめをつけるだけの事さ」

 

 状況的にこれで正解だったとは思う。

 

 しかしそれでもテイワズに対する恩義はあるのだ。

 

 それを意図的に誘導してとなれば、相応のけじめを付けさせねばなるまい。

 

 ジャスレイの物言いに後ろに控えていたサイラスが動こうとするも、ヴェネルディが手で制した。

 

 「答えはNoだ。確かに情報は集めてはいたが、アレは私が意図したものではない。そもそも我々が何もしなくともテイワズ内部の不満は高まっていた。遅かれ早かれ、あの暴動は起こっていただろう」

 

 「その物言い。歳星襲撃のタイミングが良すぎるとは思っていたが、『マルドゥーク』を嵌めようとしている動きの情報は掴んでいたって訳か?」

 

 ヴェネルディは笑みを浮かべるだけで答えない。

 

 それが肯定を意味すると分かると、ジャスレイの後ろで控えていたカインが口を開いた。

 

 「情報を教えなかったのは、我々への勧誘に利用できると考えていたからなのか?」

 

 「誤解だな。当時の我々と君達は協力関係ですらなかった。第一、君達は我々の事を信用していなかっただろう? そんな相手から情報提供されても信じるとは思えなかったがな」

 

 それは正論である。

 

 最初にヴェネルディ達からの話も聞かずに一方的に蹴ったのは、マルドゥーク側。

 

 もしもの話、情報提供を受けていたとしても、当時、モビルアーマーの一件でバタついていたマルドゥークが素直に信じていたかは疑問である。

 

 仮にアレがヴェネルディ達の策略だったとしても、逆に違ったとしても、この状況に陥ってしまったのはマルドゥークの落ち度でしかない。

 

 「もういい、カイン。そりゃそうだ。余計な事言って悪かった。俺らの死の場所を用意してくれる恩人を疑いたくなくてな。ハッキリさせておきたかったんだ」   

 

 「気にしなくていい。大事の前だ。蟠りを抱えたまま戦いに参加するよりも、解決しておくのは重要だ。さて、本題の今後の作戦について話をさせてもらう」

 

 艦橋に備え付けられたモニターに周囲の宙域図が表示される。

 

 「各コロニーで起こった反乱により、ギャラルホルンの戦力は分散され、地球本星を守る兵力は限られた状態にある。そこで我々の制圧目標は『グラズヘイム』だ」

 

 『グラズヘイム』とは地球軌道上に存在しているギャラルホルンのサテライトベースである。

 

 地球外縁軌道統制統合艦隊が本部に置き、かつては鉄華団と一戦交えた事も記憶に新しいだろう。  

 

 現在、軌道上を三基が周回しており、此処こそが地球最後の砦と言っても、過言ではない。

 

 「アレを落とせば、地上の頭を押さえられ、同時に宇宙におけるギャラルホルンのけん制にもなる。実質、月が残っていようと関係ない」

 

 「そう単純にはいかないだろうがな。地球外縁軌道統制統合艦隊がいる」

 

 横から口を挟む形となったサイラスの意見に、特に不快に思った様子もなくヴェネルディも頷いた。

 

 「その通りだ。以前なら単なる案山子だと無視していたが、新司令になって再編成されたあの艦隊は侮れない」

 

 より実践的な部隊となった地球外縁軌道統制統合艦隊は火星支部や独立監査部隊との繋がりも非常に太い。

 

 もしかすると火星支部の新型なども配備されている可能性がある。

 

 そもそも地球圏における反乱によるギャラルホルンの戦力分散化は、もっと深刻なものになる予定だった。

 

 それを最小限に食い止めている時点で、ロト・バクラザンの優秀さが証明されている。

 

 「だが、現状を差し引いても本当の問題はアリアンロッド艦隊になる。本来であれば別動隊とフリーエによってアリアンロッド艦隊の戦力を削る予定だったが、読まれてしまっていたからな。予備の部隊と共にフリーエが足止めを行っていたが、すでに地球圏へ向かっている事が分かっている」

 

 「流石はラスタル・エリオンだな。そっちは俺がやる」

 

 サイラスは待ちに待っていたと残酷で、同時に楽しそうに口元を吊り上げる。

 

 「マルドゥークには悪いが、こっちに付き合ってもらう」

 

 「了解した」

 

 手を振り、去っていくサイラスを見送りつつ、ヴェネルディはもう一度、戦域図の方へ視線を向けた。

 

  

 

 

 

 圏外圏と地球圏を別ける境界線。

 

 そこを二隻の船が強行軍ともいえる速度で移動していた。

 

 鉄華団の旗艦イサリビと輸送艦ホタルビである。

 

 火星支部から提供された移動用ブースターを使い、地球圏に向けて移動していた。

 

 「ユージン、各員に戦闘準備をさせておいてくれ。おそらく地球圏についたら、即戦闘になる」

 

 「分かった。けどオルガ、本当に三日月たちを先行させて良かったのか?」

 

 「現場の状況が全く分からない。諜報部とか火星支部からの情報は幾つか手に入ったが、状況は常に動いてるだろうからな」

 

 戦場において情報とは最も重要な要素の一つである。

 

 情報収集を怠れば、死に繋がる事は嫌という程に味わってきた。

 

 特に今回の相手は今の今まで諜報部やギャラルホルンも手玉に取ってきた相手なのだ。

 

 そこでオルガは先行したフローズヴィトニルの戦艦と共に三日月や昭弘達二番隊を先行させたのである。 

 

 「さっき来たフローズヴィトニルからの連絡によるとアリアンロッドも地球圏に向かっているらしい」

 

 「敵本隊は地球圏か」

 

 「ああ。例の放送以降、各地で反乱が起きてるってよ」

 

 「アーブラウは大丈夫なのか?」

 

 「地球支部の方で問題は起きたって報告はないから、大丈夫だと思うが。それもあってミカ達に先行してもらったんだ」

 

 結局は現地に赴き、自分達の目で確かめるしかない。

 

 そんなブリッジの緊張感がイサリビ全体に行き渡り、せわしない作業を行っていた格納庫にも張り詰めた空気が漂っている。

 

 いつ戦闘が起きても良いように準備が続く中、ハルもまたアスベエルの最終調整を行っていた。

 

 「ハル、体の調子はどうなの?」

 

 コックピットに乗り込んできたのは、タービンズから唯一今回の作戦に参加する事になったナーシャだった。

 

 面倒見の良い彼女らしい気遣いに笑みが浮かぶ。

 

 ただ心配してくれるのは有難いのだが、狭いので無理やり乗り込んでくるのは止めてもらいたい。

 

 「俺は大丈夫」

 

 「本当に? 髪の毛、真っ白になっちゃってるし、おじいちゃんみたいだよ」

 

 手を伸ばしたナーシャがハルの頭をグシャグシャと触る。

 

 遠慮の欠片もないが、不思議と嫌悪感等がないのは、彼女の人柄故なのだろう。

 

 とはいえクーデリア以外ではフミタンくらいしかパーソナルスペースに踏み込んできた女性はいないので、若干ドギマギしてしまう。

 

 「あ、ああ。体の調子は問題ないし、火星支部で治療を受けたら眠気も大分マシになった。……症状は完治しないらしいが、動けるなら十分だ。仕事の大半はクランクが引き継いでくれているし」

 

 実際、ハルの体調が悪化してからは諜報部における大半の仕事はクランクが指揮を執っていた。

 

 軍人時代の経験と人柄で他の部下達の信頼も厚く、ハルとしても安心して任せられている。

 

 「それよりナーシャ、随分気合いが入ってるように見えるけど」

 

 「当然でしょ!」      

 

 マルドゥークの反乱においてタービンズは甚大な被害を被った。

 

 旗艦として運用していたハンマーヘッドは大破。

 

 搭載機も軒並み破壊され、ナーシャ以外のメンバーも大半が重傷を負った。

 

 無事だった主力の一人であるアジーは歳星防衛の為に残り、本来ならばナーシャもその筈だったのだが、無理を言って参加を決めたのだ。

 

 「皆の分の借りは返さないと!」 

 

 主要メンバーに死者が出なかったのは不幸中の幸いだったのかもしれないが、そんなものは結果論。

 

 この借りはこの手で必ず返さないと気が済まない。  

 

 「それよりアスベエルに装着させてるのって、火星支部で提供してもらったもの?」

 

 「ああ。デリングのスラスターユニットとノイジー用に開発してた予備の追加装甲だ」

 

 アスベエルはかつて地球に降りた時のように追加装備が装着されていた。

 

 背にはデリングのスラスターユニット、機体全体には機動性強化を目的としたノイジーの追加装甲と腕にはバルバトスと同型のロケット砲を装備し、より戦闘力を高めている。

 

 「これって機動性強化を目的とした装備だよね? でも、アスベエルって十分速いと思うけど」

 

 「ナーシャも見ただろ、サイラスが使ってた妙なライフル。アレの前にはナノラミネートアーマーは何の役にも立たない。直撃したら終わりだよ」

 

 ヴォーダンの放った一撃はハンマーヘッドの装甲を破壊し、歳星にも甚大な被害をもたらした。

 

 戦艦の堅牢な装甲ですら、あの有様。

 

 モビルスーツの装甲などあっけなく破壊してしまうだろう。

 

 「だから機動性を優先したって訳か。考える事は同じだね。私の辟邪の改修も機動性強化の方に力を入れてるんだ」

 

 アスベエルの近くに立つナーシャの辟邪もまた元の形から姿を変えていた。

 

 『辟邪・叢雲』

 

 マルドゥークの反乱の際に大破したナーシャの辟邪を強化、改修した機体。

 

 高性能機である斬妖のパーツを組み込み、辟邪・天津の戦闘データを参考に改修された。

 

 ナーシャの要望で天津に搭載されなかったもう一本のヴァルキュリアブレードやトビグチブレード、腕部ブレードやショートライフルなど接近戦を強く意識した装備となっている。

 

 「改修した分、細かい調整が必要なんだけど。これで皆の借りを必ず返す」

 

 「そうか……ナーシャ、君の腕を見込んで頼みがある」

 

 「え?」

 

 ナーシャが聞いたハルからの頼みは予想外のものだった。

 

 

◇   

    

 

 オルガの危惧した通り、地球圏においてギャラルホルンとグレゴリの戦いは日々激しさを増していた。

 

 特に激戦となっていたのが地球に向かう為の航路である。

 

 変則機動で猛威を振るうグレゴリの主力量産機エゼクェルと相対していたのは地球外縁軌道統制統合艦隊のモビルスーツ部隊だ。

  

 火星支部独自の改修機、高機動型グレイズを主力にエゼクェルの進行を見事に抑え込んでいた。

 

 その中心にいたのが、司令官であるロトが操るシグルドリーヴァⅡである。 

 

 誰よりも先陣を駆け、ライフルでけん制。

 

 エゼクェルの懐に入り込み、左肩に接続された強化型レールガンを発射する。 

 

 強化され威力が増大したレールガンはエゼクェルの装甲を破壊し、後方へ吹き飛ばす。

 

 その隙をついた高機動型グレイズ三機が四方からエゼクェルにブレードを突き立てた。 

 

 「圏外圏での戦闘データと訓練が役に立っている。火星支部に感謝だな」

 

 完全に沈黙したエゼクェルを尻目に次の標的に向って、トリガーを引いた。

 

 「そこ!」

 

 連射した砲弾は次々とエゼクェルに直撃し、腕や足を破壊する。

 

 そしてバランスを崩した間に速度を上げたロトは展開したヴァルキュリアブレードでエゼクェルを貫いた。

 

 その動きと狙いは正確無比。

 

 かつてシグルドリーヴァを操っていたマクギリス・ファリドにも劣らぬ技量だった。

 

 「阿頼耶識は厄介だが、十分対処できる」

 

 斬りかかってきた敵をブレードで返り討ちにしながら、戦場の状況を冷静に把握するロトだが、そんな彼を狙ってくる者達がいた。

 

 グレゴリのモビルスーツ、フレースヴェルグとニーズヘッグである。

 

 「あれが指揮官機だ。やるぞ、昌弘」

 

 「了解」

 

 「グレゴリのガンダム? いや、厄祭戦時に製造されたガンダム・フレームのブラッシュアップ機か!」

 

 接近戦の間合いに飛び込んだ昌弘はバスターソードを上段に構えてシグルドリーヴァに振り下ろす。

 

 ニーズヘッグのパワーから繰り出される重い斬撃。

 

 まともに受け止めるのはまずいと判断したロトはヴァルキュリアブレードを器用に振るって受け流し、同時にレールガンを向ける。

 

 しかし背後から高速で迫るフレースヴェルグがそれを阻んだ。

 

 「やらせるものか!」

 

 ライフルでシグルドリーヴァを誘導、高速での体当たりでレールガンの射線を取らせない。 

 

 「ッ、一機は高機動型。もう一機は重量パワー型という訳か!」

 

 フレースヴェルグが機動性を生かしたかく乱とけん制、その隙に距離を詰めたニーズヘッグが持ち前のパワーで敵を仕留めるという戦法。

 

 実に理にかなっている。

 

 さらにワンパターンにならぬように、幾つかのフォーメーションを使い分け、見事な練度を誇る連携でシグルドリーヴァに迫っていた。

 

 「大した腕前だけど、だからこそ邪魔だ!」

 

 「さっさと落ちろ!」

 

 「感情的だな。パイロットは随分若いらしい。だからこそ!!」

 

 ニーズヘッグの斬撃を紙一重で躱し、装甲の隙間を狙ってブレードで斬りつける。

 

 「何!?」

 

 「感情的すぎるからこそ、読み易い!」

 

 左腕の関節から火花が飛び、動きが僅かに鈍った。

 

 その隙に横薙ぎの一撃を叩き込み、ニーズヘッグを吹き飛ばすと体勢を逆さに変え、背後から迫るフレースヴェルグにレールガンを撃ち込んだ。

 

 「ぐぅ、こいつ!」

 

 「俺達を同時に相手にしながら!」

 

 「力量は大したものだが、攻撃が単調すぎるな!」

 

 再び斬りかかってくるニーズヘッグだが、シグルドリーヴァは決して正面からぶつからず、距離を取って砲撃に徹し、さらにフレースヴェルグが機動性を発揮し難いようライフルを発射する。

 

 ロトは二機のモビルスーツに対しその性能を発揮できないよう、完全に封殺していた。

 

 「素晴らしい。ロト・バクラザン。ナイン、昌弘、下がれ」

 

 「ッ!?」

 

 三機の戦いに割り込んできたのは漆黒の堕天使。

 

 腰から二刀を抜き、速度を上げて斬りかかってきた。

 

 「速い!?」

 

 二本の剣による斬撃をギリギリのタイミングで受け止めたロトは驚愕と共に目の前の機体に瞠目する。

 

 「バエルか!?」

 

 「違うな。アザゼルだよ」

 

 蹴りを入れて突き放すとヴェネルディは改めて構えを取った。

 

 「しかし見事な腕前だ、ロト。マクギリスの操縦技術の基礎を作ったのは君だろう? 素晴らしい。ならばこそ君の本当の居場所は―――我々の側だと思うのだが? その出自を含めて」

 

 「……やはり僕の事を知っているのか」

 

 「当然だ」

 

 「だとしてもやる事は変わらない。ギャラルホルンの軍人として、お前達を駆逐するのみ!」

 

 ヴァルキュリアブレードを抜く、シグルドリーヴァにヴェネルディはいつも通りの笑みを浮かべる。

 

 「残念だ。では、手合わせ願おう。実力のすべてを見せてみろ!」

 

 スラスターウイングを吹かし、加速したアザゼルに真正面から迎え撃つシグルドリーヴァ。

 

 二刀と二刀が舞うような軌跡を描き、高度な技術がぶつかり合う、稀に見る斬り合いが展開していく。

 

 「ナイン、俺達もヴェネルディ様の援護を」

 

 「いや、その前にお客のようだ、昌弘。アレを見ろ」

 

 「え?」

 

 それは別の部隊が駆けつけてくる光か。

 

 しかし方向的に地球外縁軌道統制統合艦隊とは違う。

 

 一体、誰が―――

 

 急速に接近してくるそれに気が付いた瞬間、昌弘はその身を固くした。

 

 「……鉄華団のガンダム」

 

 

 

 

 

 火星へと遠征していたアリアンロッド艦隊の主力部隊はジュリエッタ達とも合流を果たし、ようやく地球圏へと到達していた。

 

 「……随分、遠回りをさせられましたね、ラスタル様」

 

 「フリーエを追撃し、本隊を見つけ出す筈が、逆に足止めされ、戻ってみればこの騒ぎ。結果として完全に後手に回ってしまった」

 

 「仕方ありません。敵はギャラルホルンの影そのものだったのですから」

 

 ジュリエッタの言う通り、敵であったグレゴリはギャラルホルンの身に潜む影だった。

 

 しかも三百年前、ギャラルホルンが組織として誕生してからずっとである。

 

 これに気が付ける者など誰もおるまい。 

 

 「だとしてもだ。このまま過去の亡霊共に好き勝手を許す訳にはいかん」

 

 「……はい」

 

 平静を装ってはいるものの、ジュリエッタの心情は乱れに乱れていた。

 

 よりにもよって裏切り者がフリーエだったとは。

 

 しかも彼女が髭のおじ様と慕う彼の失踪にも、フリーエが絡んでいたとは。

 

 信じていただけに、そのショックは相当に大きかった。

 

 だが、彼女の心の整理を済ませる間もなく―――

 

 「レーダーに反応! 敵モビルスーツです!」

 

 アリアンロッド艦隊を待ち受けていたのは戦艦を含むグレゴリの部隊。

 

 当然、ラスタル・エリオンは気が付かない。

 

 その中央にいる異形の機体に乗っている男の存在に。

 

 それが彼にとっての過去の亡霊であるとは知る由もなく、ギャラルホルンとグレゴリによる艦隊戦が始まろうとしていた。

 

 

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