機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ vivere militare est   作:kia

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第4話  不穏な道行

 

 

 

 

 

 ギャラルホルン火星基地アーレス。

 

 今日もまた職員が顔を引きつらせて、日々の作業に追われていた。

 

 普段から彼らの業務は多い。

 

 司令であるコーラルが妥協というものを許さないからだ。

 

 そこに加え今回は地球からの監査も加わり、業務が倍近くに増えている。

 

 無論、監査が来るのは承知していたから事前に準備は行っていた。

 

 しかし地球からきたマクギリス・ファリドという人物もまたコーラルに匹敵する程の仕事魔だったのだ。

 

 指示は細かい上に、作業もハイぺース。

 

 そして彼自身が通常職員の作業量を軽く超えているというのに涼しい顔で終わらせてしまうのだから、無暗に弱音も吐けない。

 

 さながら地獄と化した指令室をガエリオは苦笑しながら眺めていた。

 

 「全く、相変わらずだな。お前のペースで仕事をさせられたら堪らんだろう。職員たちには同情する」

 

 「そうか?」

 

 「ああ、優秀すぎる上官を持つと苦労するって奴だ」

 

 「気を付けよう」

 

 だが、順調に火星支部から提出されたデータを検証しているマクギリスの表情は固い。

 

 「どうした、問題でもあったのか?」

 

 「ない。気になる点はあったが、問題という意味では綺麗すぎる程に何もない」

 

 「なるほど」

 

 厄祭戦が終結して三百年、ギャラルホルンは世界の治安維持を司ってきた。

 

 しかし現在においては組織腐敗が進み、多くの問題が山積している。

 

 だからこうして監査官が派遣され、各所をチェックしている訳なのだが、火星支部はいくら何でも綺麗すぎた。

 

 地球の目が届かない圏外圏、しかもうま味の少ない火星において一つの不正も確認できないとは。

 

 「地球の連中が見たら、卒倒しそうだな」

 

 ギャラルホルンのお膝元である地球ですら癒着や政治介入が発覚しているというのに、影響力の薄い圏外圏の火星ではそれが無い。

 

 お偉方にとっては赤っ恥も良いところだ。

 

 「で、気になる点とは?」

 

 「これだ」

 

 マクギリスから手渡されたのは鮮明度の悪い映像。

 

 恐らくだがグレイズが出撃していく瞬間だろう。

 

 「なんだこれは?」

 

 「画像は悪いがグレイズが単独で出撃している」

 

 「こんなものどうやって手に入れたんだ?」

 

 「火星基地に出入りしている業者の車両に搭載された映像データだ。監査の際に押収したデータ群に交じっていた。そしてコーラルから提出されたデータにはグレイズの発進は記録されてない」

 

 「ふむ、何か緊急事態でも起こったのか?」 

 

 「さて、聞いてみれば分かるさ」

 

 マクギリスの視線を追うといつも通りの鉄面皮のままコーラルが指令室に入ってくる所だった。 

 

 「おはようございます、コーラル司令。実は司令にお聞きしたい事がありまして」

 

 「グレイズの単独出撃の件だな。その件の報告書を持ってきた」

 

 コーラルの対応の速さに内心舌打ちしながら、報告書に目を通す。

 

 「脱走兵ですか」

 

 「ええ、面目ない。私自身の責任を問われても仕方がない事態だ」 

 

 手元の資料に目を通す。

 

 脱走したのはクランク・ゼント二尉。

 

 グレイズ一機を奪取し基地から離脱。

 

 急遽編成された追撃部隊によって機体を撃破され戦死。

 

 その際に部隊を率いていたオーリス・ステンジャ二尉が死亡。

 

 クランク・ゼント二尉が奪取したグレイズも含めて複数機が大破及び中破の損害と記載されている。  

 

 「しかし何故脱走を?」

 

 「そこまでは知らんよ」

 

 「……なるほど。分かりました、これを含めてもうすぐ監査の結果を報告しましょう」

 

 「了解した」

 

 監査の結果に興味もないのかコーラルは特に反応する事無く、指令室を出て行く。

 

 「脱走兵が出たというのに余裕だな」

 

 「ああ、対応の速さも見事だった。まるであらかじめ用意していたかのように」

 

 「調べるつもりか?」

 

 マクギリスはガエリオの問いには答えず、笑みを浮かべると画面に映る火星の大地へ目を向けた。

 

 

 

 

 マクギリスに報告書を渡し終えたコーラルは内心ため息をついた。

 

 「物事というものはそうそう思い通りにはいかないものか」

 

 業者の車両に残っていた映像はグレイの単独出撃の映像だった。

 

 クランクの命令無視は予め予想していた事。

 

 しかしその後で無理やりグレイまで出撃するとは。

 

 親友であるアインが怪我で動けないから、独走はないと楽観していたのが仇になってしまった。

 

 そして今回尊敬していたクランクが死に、ましてや脱走兵の汚名を着せられたとなると―――

 

 「また暴走しかねんか」

 

 「……処分?」

 

 何時の間にかコーラルの傍に立っていた少女がそう呟く。

 

 「いや、その必要はない。後で私が言い含めておこう。それに今は監査中、これ以上のイレギュラーは得策ではない。まずは彼らに安心して帰ってもらう事に専念する」

 

 「……アスベエルは?」

 

 「あの機体についても同様だ、焦る必要はない。アレは放っておいても宇宙に上がってくる、地球に向かう為に。その時は任せる、エリヤ」

 

 頷くエリヤと呼ばれた少女の返答に満足したコーラルは、未だ医務室で治療を受けるアイン達の下へと足を向けた。    

 

 

 

 

 CGS改め鉄華団ではクーデリアを地球に運ぶ算段の立てていた。

 

 資金的な問題はクリアされたとはいえ、地球までの道のりには相応の障害もあった。

 

 それ故にオルガ達は主要なメンバーと共に障害確認と行動工程の作成作業を行っている。

 

 「まずは低軌道ステーションまで上がり、案内役の船を待つ。その後、静止軌道上でうちの船に乗り換えて地球へ向かう。裏ルートを使ってな」

 

 「裏ルート?」

 

 「はい。普通地球までの航路はギャラルホルンによって管理されているんですが、今回の荷はクーデリアさん本人ですので……」

 

 「通常の航路は使えないという事ですね」

 

 鉄華団はギャラルホルンとは敵対関係にある。

 

 つまり通常のやり方では地球に行くことは出来ないという事だ。

 

 「そこで使うのが裏ルートだ。ただコイツは複雑な上に民間業者間の縄張りって奴もある。だから案内役が必要な訳だが」

 

 「案内役なら安心と実績のあるオルクス商会がいいと思うぜ。会長のオルクスさんとは昔馴染だからいつでも連絡が取れるぜ」

 

 部屋の隅で話を聞いていたトドが笑顔を浮かべて提案する。

 

 だがその場にいた全員が内心懐疑的だった。

 

 無論、理由はある。

 

 トドはついこの間までクーデリアをギャラルホルンへ売り渡せと主張し続けていた。

 

 にも関わらずこの間、グレイズを撃退した途端に手のひらを返したように協力的になった。

 

 皆が訝しむのは当たり前の話だった。 

 

 ユージンがオルガに近づくと皆に聞こえないように小声で囁く。

 

 「オルガ、本当に大丈夫かよ」

 

 「ああ、裏は取るさ。ハルに頼んである」

 

 「ハル? そういえばアイツは何処に行ったんだ、モビルスーツの所か?」

 

 「いや、あのおっさんの所だよ」

 

 

 

 

 

 オルガ達が話し合いを続けていた頃、ハルは別室でとある男と対面していた。

 

 腕や足に巻かれた包帯からは血が滲んではいるが、命に関わる程の怪我では無い。

 

 ベットに横たわる男はハルと戦ったグレイズのパイロット、クランク・ゼントだった。

 

 「……何故、助けた? 俺は、上官の命令に背いた。死なねば、ならなかった。俺が生きている事で、部下たちにも―――」

 

 「アンタはとっくに死んでるよ。ギャラルホルンの連中はそう認識している筈だ。アンタが増援として伏せてた奴もそう言って襲い掛かってきたからな」 

 

 「伏兵、何の事だ?」

 

 「とぼけるつもりか? アンタの援護に現れた二機のグレイズだよ」

 

 「……まさか」

 

 クランクの脳裏にアインとグレイの顔が思い浮かんだ。

 

 彼らが自分の身を案じ、後を追ってきていたとするなら。

 

 「その、後から現れた機体はどうなった?」

 

 「一機はダメージを与えたけど、結局もう一機と一緒に撤退したよ」

 

 「そうか」

 

 ハルの口ぶりからして無事に逃げられたという事。     

 

 そして用意周到なコーラルの事だ。

 

 部隊全体に責任が負わないよう、おそらくクランクを脱走兵という形で処理しただろう。

 

 あの男は他に咎が及ぶような迂闊な選択はしない筈。

  

 そこは安心したクランクだったが、別の問題も発生している。

 

 クランクが意図した訳では無いと言った所で、決闘と言いながら横やりが入ってしまったのは事実なのだ。

 

 「……すまなかった。言い訳をする気はない」

 

 殺す気なら抵抗はしないとクランクは体の力を抜く。

 

 それを見たハルは大げさなため息をついた。

 

 「アンタとの決闘だけど一つ決めてなかった事があったよな」

 

 「決めてなかった事?」

 

 「俺が勝った場合どうするかって話さ」

 

 決闘前に提示されたのは、クランクが勝った場合の条件のみ。

 

 ハルが勝利した場合の条件は決められていなかった。

 

 「勝負は俺が勝ったんだ。こっちの条件を飲んでもらう」

 

 「条件?」

 

 「ああ。アンタの命は俺が使わせてもらう。協力してもらうぞ、クランク・ゼント」

 

 「敗者は勝者に従うものか……俺はもう死んでいる身だ。この命、好きに使え」

 

 「とりあえずは知りうる限りのギャラルホルンに関する情報の提供。後はモビルスーツに関する知識、整備を手伝ってもらう」 

 

 そもそもハルはグレイズのコックピットは狙わず、極力命を奪わないようにしていた。  

 

 それはクランクの持つ情報を得たかったからだ。

 

 この先で待ち受けているだろうギャラルホルン火星支部。

 

 此処が最初の難関である。

 

 今までの経緯から考えても、彼らが鉄華団を易々と通すとは思えない。

 

 だからこそ打てる手はすべて打たねばならない。

 

 この難関を越え地球に向かう為に、そしてクーデリアを守る為に、ハルはクランクの尋問を続けていった。

 

 

◇  

 

      

 あらかたの監査を終えたマクギリスとガエリオは、火星の大地に降り立っていた。

 

 彼らの眼前に広がっているのは、おおよそ緑が見えない岩だらけの不毛の大地だった。

 

 これではガエリオが出涸らしのような星と例えるのも無理はない。  

 

 そんな殺風景な場所を、マクギリスは先ほどからジッと双眼鏡で覗き込んでいる。

 

 「で、さっきから何を見ているんだ?」

 

 無言のまま差し出された双眼鏡でマクギリスが見ていた方向を見ると、大きく抉れた大地や岩が目についた。

 

 「あれは……戦闘の跡か?」

 

 「少し前にこの辺りで戦闘が行われたという情報があってな。そして同じ時期にクーデリア・藍那・バーンスタインの行方が掴めなくなっている」

 

 「資料にあった『ノアキスの七月会議』の?」

 

 「ああ。地球を出る前に、アーブラウ政府がクーデリア・藍那・バーンスタインと独自に交渉していると耳にした。そして我々が火星に到着する前、彼女の父親であるノーマン・バーンスタインがコーラルと接触している」

 

 そこまで情報を与えられればガエリオにも状況が見えてくる。

 

 「コーラルが彼女を狙った? じゃあ例の脱走兵の件は……その戦闘が此処であった訳か。しかし地球経済圏の国家が圏外圏の人間と直接交渉しているとは信じがたいが」

 

 「どちらにせよ、クーデリア・藍那・バーンスタインの身柄を押さえれば、統制局の覚えも良いだろう。我々の監査などどうという事もない程に」

 

 カラクリは大方読めた。

 

 しかしだからこその疑問も生じてくる。

 

 「下種な企みではあるが、筋は通ってるな。だが当然リスクだってある。仮にクーデリアが死亡すれば、それこそ騒乱の元になりかねない。コーラルがそんな危険を冒してまで統制局に媚びを売る必要はないように思うがな」

 

 「確かに」

 

 気になる点はあるが、今回の監査においても火星支部に問題は見当たらなかった。

 

 にも関わらず、こんな博打に打って出る必要があるとは思えない。

 

 少なくともコーラルがそんな迂闊な人物には見えなかった。

 

 「それについても裏があるのだろうがな」

 

 「尋問するか?」

 

 「無駄だ。証拠はない、あったとしても消しているさ。尋問も知らぬと言われればそれまでだ」 

 

 「地道に証拠を積み上げていくしかないって事か」

 

 「そういう事だ」

 

 だがそれすらも残っているのかどうか。

 

 マクギリスは今回の件に関する情報を纏めながら、もう一度双眼鏡を覗き込んだ。

 

 

 

 

 クーデリアは広大な農場で収穫作業に従事していた。

 

 此処はビスケットの祖母である桜・プレッツェルが経営する農場。

 

 考え込んでいたクーデリアを見かねたのか、三日月の提案でハルやフミタンと一緒に此処に訪れていた。

 

 「ふぅ、こうしていると頭がカラッポになってスッキリしますね」

 

 部屋に居るだけでは余計な事を考えてしまうものだが、こうして体を動かすだけでも良い気分転換になっていた。

 

 「そりゃ良かった」

 

 隣で作物を収穫していた三日月も機嫌が良さそうに笑みを浮かべている。

 

 「その為に私を?」

 

 「それもだけど。この農場もさ、ビスケットの給料が無ければやっていけないくらいには厳しいんだ。バイオ燃料の原料として安く買い叩かれるからね。鉄華団にいる他の連中も似たり寄ったり。ヒューマンデブリは知ってる?」

 

 「……勿論です。お金でやり取りされる人達」

 

 「それも糞みたいな値段でね。自由になっても昭弘達みたいなヒューマンデブリにまともな仕事はない、俺達も同じだけど。でもアンタのお陰で俺達は首の皮一枚繋がったんだ。だから言っておきたくて、本当にありがとう」

 

 頭を下げる三日月にクーデリアは掛ける言葉を持ちえなかった。

 

 自分は彼らを命懸けの戦場へ送る事になるかもしれない。 

 

 『変える』『救う』と言いながらもだ。

 

 現実と理想のギャップもまたクーデリアを悩ませる要因となっている。

 

 だがそれでもやらねばならない。

 

 それこそこれまでの犠牲を無駄にしない為にも。

 

 「そういえばさ、アレも同じじゃないの?」

 

 三日月の視線の先にいるのはハルだ。

 

 アトラに教えて貰いながら、フミタンやグリフォン姉妹と共に収穫を行っていた。

 

 「アレも俺達と同じ宇宙ネズミ、いや、ヒューマンデブリなんでしょ。アンタとはどういう関係なの? 正直、繋がりがあるとは思えないけど」

 

 その問いに昔の情景が思い浮かぶ。

 

 楽しい出来事、辛い出来事、そして忘れ得ぬ出来事。

 

 本当に自分は何も知らない子供だった。

 

 だからこそ―――

 

 「色々ありまして……ハルと私は幼馴染とでも言えば良いのでしょうか。出会ったのはそれこそ子供の頃です」

 

 出会った頃は姉として振舞ってはいたものの、傍から見ればどちらが年上なのかと言いたくなるだろう。 

 

 無論、クーデリアとしては今でも姉のように振舞いたいとは思っているが、中々そう上手くいかない。

 

 自分が頼りないとは分かっているが、ハルがボロボロになっていくのを見ているのは辛い。

 

 「ふ~ん、俺とオルガみたいなものなのかな」

 

 三日月が作業に戻るとそれに倣ってクーデリアもまた作業に従事する。

 

 そんな二人をアトラは面白くなさそうに見つめていた。

 

 「アトラは三日月が好きなのか?」

 

 「へ?」

 

 ハルの核心を突いた言葉にアトラの顔が真っ赤に染まる。

 

 何というかその態度と表情でバレバレだった。

 

 というか毎回、三日月の方ばかり見ていたからすぐに分かってしまったが。

 

 「そーだよ!」

 

 「ねー!」

 

 「ちょ、二人共、何言ってるの!」

 

 真っ赤になったアトラとからかうグリフォン姉妹が騒ぎ出す。

 

 そんな光景を楽しそうにビスケットは眺めていた。

 

 「クッキー、クラッカ、新しい籠を取ってきてくれないかな」

 

 「「はーい!」」

 

 「俺も行くよ」

 

 走ろうとするクッキーとクラッカを宥めつつ歩いていくと何かのエンジン音が聞こえてきた。

 

 「……車か? クッキー、クラッカ!」

 

 走ってくる車に気付かない二人をギリギリ抱えて捕まえると、相手もこちらに気が付いたのか急ブレーキを掛けて停止した。

 

 「大丈夫か!」

 

 二人が無事だと分かると運転していた男性はあからさまにホッとしたように胸を撫で下ろしていた。

 

 この辺は作物の穂が高くて視界が悪かったから、直前まで気が付かなかったのだろう。

 

 とはいえ飛び出し掛けたこちらも悪い。

 

 頭を下げて終わらせようとした瞬間、車体に刻み込まれた紋章を見て内心動揺してしまう。

 

 車に刻まれていたのはギャラルホルンの紋章だったからだ。

 

 「クッキー、クラッカ!」

 

 「どうしたの、大丈夫!」

 

 ビスケットやアトラ、桜、そして三日月といった面々が走り寄ってくる。

 

 一番不味いクーデリアに関してはフミタンが上手く匿ってくれたようだ。

 

 駆け付けたビスケットも車体の紋章に気が付いたようで表情を固くしているが、不味いのは三日月だ。

 

 鋭い視線で運転席の男性を睨みつけていた。

 

 それは向こうも同様に明らかな嫌悪感を持って睨み返している。

 

 「何を睨んでいるんだ、このガキ」

 

 「そっちこそ前方不注意だろ。怪我でもあったらどうするつもりなんだ」

 

 一触即発の空気。

 

 流石に此処で揉めるのは不味い。

 

 ビスケットと二人で三日月を止めようとする。

 

 だがそこで、助手席から降りてきた金髪の男性が、クッキーとクラッカにチョコレートのお菓子を差し出した。

 

 「こちらの不注意だった。怖い思いをさせて申し訳ない。こんなものしかないのだが、お詫びの印に受け取ってもらえないだろうか?」

 

 「わー、ありがとう」

 

 「念の為、医者に見せるといい。何かあればギャラルホルン火星支部まで連絡をくれ。私の名前はマクギリス・ファリドだ」 

 

 マクギリスは運転席の男を宥めるように肩を叩くと助手席に乗り込もうとする。

 

 「もう一つ聞きたい事がある。最近、この近辺で戦闘があったようなのだが、何か気が付いた事はないかな?」

 

 「そういえば少し前にドンパチやる音が聞こえてきてました。ただこの近くには民兵の組織もあるし、そこの訓練かなって、ねぇ」

 

 「うん。日常的にそんな音が聞こえてくるし」

 

 「なるほど。感謝する」

 

 マクギリスを乗せた車が去っていくと、全員が大きなため息をついた。

 

 「ハァ、やっと行ってくれた」

 

 「でもあいつらこの間の事知らなかったみたいだ」

 

 「ギャラルホルンと言っても色々あるって事かもね」

 

 「アイツら、多分おっさんが言ってた地球から来た連中だよ」

 

 ガエリオ・ボードウィン。

 

 マクギリス・ファリド。

 

 クランクから聞かされた、火星支部を監査する為に訪れたという地球の士官。

 

 セブンスターズと呼ばれるギャラルホルンを創設した者の子孫達だ。 

 

 「じゃあ、あの戦闘を知らなかったのは」

 

 「単純にアイツらが知らないだけか。それともコーラルって司令官の独断だからか。とにかくギャラルホルンが今、鉄華団に攻めてこないのはアイツらがいるからだ」

 

 「なら」

 

 「ああ、宇宙に上がるなら火星支部が動けない今がチャンスなのかもしれない」

 

 今日、一瞬だけ交錯したギャラルホルンの士官達。

 

 本来交わる筈の無い彼らとの再会は、命懸けの戦場の中で訪れる事になる。

 

 その時はすぐそこまで迫っていた。

 

 

 

 

 暗がりの部屋の中で端末を眺めている人物がいた。

 

 黒いコートを身に纏い腰まで届く長髪。

 

 そして特徴的なのは素顔を隠す仮面を身につけている。

 

 仮面により表情は分からない。

 

 しかし口元には笑みが浮かび、端末を持つ手にも力が籠っていた。

 

 「どうかなさいましたか?」

 

 傍に控えていた女性が訝し気に問うと、仮面の人物は機嫌が良さそうに端末を差し出してくる。

 

 「いや、これも因果という奴なのかと思ってね」

 

 端末に映し出されているのは大きなメイスを振るう機体。

 

 「ガンダム・フレームですか」

 

 「ああ、厄祭戦の『ガンダムバルバトス』だ。そしてもう一機」

 

 映し出されたのは白と黒の装甲に大剣を持つモビルスーツ。

 

 「これは」

 

 「ああ、『ガンダムアスベエル』に間違いない」

 

 「どうなさるのですか?」

 

 「近々宇宙に上がってくるらしい。とりあえず戦いぶりを見せてもらおう。戦艦を準備させてくれ」

 

 女性は一礼すると足早に部屋から退出する。

 

 仮面の人物は背もたれに身を預け、天井を見る。

 

 すでに感情は見えず、仮面の人物が何を考えているのか誰にも分からない。

 

 ただ一つ確かなのは、この先で確実な流血が待ちうけているという事だけだった。

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