機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ vivere militare est   作:kia

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第58話 役者は揃う

 

 

 

 

 クーデリアとアトラがフィンブルヴェトルの一室に捕らわれ、かなりの日数が経過していた。

 

 二人は狭い部屋と変わり映えのない生活の中、時間感覚というものが非常に曖昧になりつつある。

 

 そもそもやる事がない。

 

 暇つぶしのデータ閲覧くらいは可能だが、それも現在の情勢とは関係のないものばかり。

 

 外側の情報は完全に遮断され、人の出入りもない。

 

 部屋に差し入れられる食事のお陰で朝、昼、晩の感覚だけは忘れずに済んだが、それだけだ。

 

 たまに戦闘と思われる振動などはあったが、それが二人の生活に大きな影響を与える事はなく、一種の拷問なのではないかと思える程である。

 

 そんな生活の中、唯一部屋にある窓から外を眺めていたクーデリアは、艦の様子がおかしい事に気が付いた。

 

 「船が動いている?」

 

 今までこの宙域に待機していた戦艦が動き始めているのだ。

 

 しかも武装を展開し、モビルスーツの発進も始まっている。

 

 「戦闘!? 一体、誰が?」

 

 「クーデリアさん、もしかして三日月達じゃ?」

 

 「わからないわ。でも、もしもの場合に備えておきましょう」

 

 クーデリアは部屋に備え付けてあったノーマルスーツを引っ張り出すと、急いで着替え始めた。

 

 

 

 

 数で劣る軍勢が多数に勝利する方法は限られている。

 

 勿論、その選択自体が非常にリスキーであり、指揮官はそういった状況に陥らないようにするのが役割でもあるのだが。

 

 そんな危険な状況にも関わらず、敵艦に向かうイサリビは止まらない。

 

 降り注ぐミサイルも、放たれる砲弾も、そして圧倒的な物量の差すらも。

 

 常に寡兵で戦ってきた鉄華団にとっては、いつも通りの事なのだから。

 

 「敵艦が動いてやがる!」

 

 「前方に加速? グラズヘイムに向かう気か。やらせるかよ。頼むぞ、ユージン!」

 

 「わかってらァァ!!」

 

 飛び交うミサイルと砲撃が阿頼耶識でコントロールされた船体を掠め、大きく揺らす。

 

 しかしその進路にブレはなく、目標に向かって突き進んでいく。

 

 まさに命知らずの特攻である。

 

 だが、それを黙って見ているだけのグレゴリではない。

 

 砲撃はより正確になり、イサリビの進路を誘導。

 

 そこに待ち構えていたガンダムアザゼルの銃口が、狙いを定めていた。

 

 「残念だがここから先は通行止めだ、鉄華団!」

 

 アザゼルのライフルがイサリビに直撃し、同時に発射された敵艦の砲撃が船体を大きく揺らした。

 

 「動きが読まれた!? あいつの射撃と戦艦の砲撃を連動させてるってのかよ!」

 

 「落ち着け、ユージン! これも予定通りだ。思った以上にかき回せなかったが、獲物は釣れた! 頼むぜ、ミカ!」

 

 ギリギリで砲撃を避け続けるイサリビのハッチから躍り出たのは、ガンダムバルバトスルプス・レクス。

 

 スラスターを吹かし、メインウェポンである巨大メイスを片手にアザゼルへと襲い掛かった。

 

 「バルバトス、此処で来るか」

 

 凄まじい速度で突貫してくるバルバトスに、ヴェネルディは思わず笑みを浮かべる。

 

 「あの少女の言った通りになるとは。なかなかどうして、人の信頼感とは馬鹿に出来ないものだな」

 

 アザゼルのライフルを振り切るように速度を上げたバルバトスは、巨大メイスを敵の急所へ叩きつける。

 

 それをあっさり受け流したアザゼルは、蹴りを入れて突き放すと、バルバトスがあらかじめ射出していたテイルブレードを紙一重で回避した。

 

 「凄まじい打撃にあらかじめ布石を打っておく用意周到さ。ギャラルホルンが手に負えなかった理由が良く分かる。君の脅威度はモビルアーマー以上だな」

 

 「余裕で躱しておいてよく言うよ」

 

 仕切り直しとばかりに態勢を立て直したバルバトスは、再びアザゼルに攻撃を開始する。

 

 「マクギリスやガエリオがいない……狙いはやはりフィンブルヴェトルか。君達の覚悟は見事。少数で多数に向かっていく。口にするのは簡単だが、実際に実行できる者が何人いるか。しかしだ」

 

 テイルブレードを電磁砲を撃ち込んで勢いを殺し、剣で切り払う。

 

 「常に苦境を力で切り開いてきた君達には業腹だろうが、それが報われるとは限らない。特に今回はね」

 

 「ゴチャゴチャとうるさいんだよ」

 

 振るわれる巨大メイスは脅威そのもの。

 

 掠めただけで、モビルスーツだろうと吹き飛ばされてしまうだろう。

 

 普通なら恐怖で竦んでしまってもおかしくない。

 

 だが、三日月は依然として、アザゼルに致命的なダメージを負わせられないでいた。

 

 「こいつ、上手い」

 

 上下左右からの猛打に対し、ヴェネルディは巧みに剣を使って、メイスの威力を殺していくのだ。

 

 しかもスラスターを使い、衝撃で機体が流されないように調整している。

 

 これでは隙を作り出す事も難しい。

 

 「チッ!」

 

 「並みの相手では、その猛威に晒されただけで萎縮してしまうのも無理はない。しかし私には通用しない」

 

 メイスと剣が交差し、鍔迫り合って火花を散らす。

 

 高速で移動しながら、激突を繰り返すバルバトスとアザゼル。

 

 あっという間に混戦と化した戦場から離れるように、敵艦隊がグラズヘイムに向けて移動していく。

 

 そんな中、襲撃してきた鉄華団とは全くの別方向からの攻撃が、艦隊に襲い掛かる。

 

 「あれは」

 

 バルバトスの猛攻を捌きながら、ヴェネルディが見たのは、下方から襲撃してくるモビルスーツの姿だった。

 

 「バエルモドキとキマリス。なるほど、奇襲と挟撃。無謀なりに考えてはいるようだ」

 

 「どこを見てる」

 

 虚を突いたはずの強烈な刺突。

 

 しかしアザゼルは下段から剣を振り上げ、メイスを再び弾き飛ばした。

 

 そこに襲い掛かるテイルブレード。 

 

 スラスターを全開にしたヴェネルディは、その速度でテイルブレードを潜り抜け、撃ち込まれた200mm砲を回避。

 

 素早く回り込み、バルバトスの左肩を切り裂く。

 

 だが同時に手元でクルリと回転させ、上に持ってきたメイスの柄に仕込まれたパイルバンカーが発射され、アザゼルの装甲に浅い傷をつけた。

 

 「やるな。鉄華団の悪魔の名は伊達ではないな」

 

 「これでも駄目か」

 

 「全く凄まじい。気を抜いたらあっという間に潰されそうだ」

 

 「お前を行かせる訳にはいかない」

 

 「君を無視して行けはしないだろう。それに先ほども言った筈だ。君達の行動が報われるとは限らないと。私を引き離せばフィンブルヴェトルが落とせると思っているのなら、それは迂闊だと言わせてもらおう」 

 

 ヴェネルディの言葉通り、凄まじい速度でフィンブルヴェトルに迫るバエルとキマリスの前に、ガンダムアルマロスが立ちはだかっていた。

 

 さらに部隊を率いる昌弘のニーズヘッグ・マルコキアスも参戦し、旗艦に近づけなくなっている。

 

 「そして今も戦場は動き続けている。グラズヘイムに向けてね。先遣隊と合流するのも時間の問題だろう。さて、それまでにフィンブルヴェトルを落とせるかな?」

 

 「こいつ」

 

 奇襲を仕掛けた筈が、一転して追い込まれた。

 

 いくら猛攻を仕掛けてもすべて捌ききるヴェネルディに、三日月は苛立ちを募らせていった。 

 

      

 

 目の前に立ちはだかる異形の巨兵。

 

 自らを覆うほどの巨翼と共に中央に坐する人型が、敵を萎縮させる程の殺気を放っていた。

 

 『サンダルフォン』

 

 ガンダムアスベエルとの戦闘で損傷したアウルゲーミルを修復、改修を加えた機体である。

 

 無数に存在していたビーム砲を高出力化し、さらに火力を上げる為に多数のミサイル発射管が追加されている。

 

 さらに中央の人型もまた戦闘能力が付与され、武器を扱う事ができるようになっている。

 

 「アレが例のモビルアーマーモドキか」

 

 サンダルフォンは再び強力なビーム砲を一斉に発射。

 

 エゼクェルを押さえていた高機動型グレイズや、グレイズリッターを吹き飛ばした。

  

 「くっ、このままでは戦線が維持できない。全機、一旦下がれ! 連携を組み直すんだ!」

 

 部下に指示を飛ばしたロトは、この事態を引き起こした元凶を仕留めるべく動き出した。 

   

 「これ以上、好きにはさせない!」

 

 ビームをヴァルキュリアブレードで切り払い、射出されたフィンブレードを強化型レールガンで撃ち抜いた。

 

 強力な砲撃に耐え切れず、フィンブレードの破壊に成功する。

 

 しかし無数に存在している刃すべてを破壊する事は出来ず、距離を詰められない。

 

 さらに中央の人型が両手にライフルを構えて、シグルドリーヴァに攻撃を仕掛けてきた。

 

 「何!?」

 

 急制動を掛け、ライフルをやり過ごすが、続けて襲い掛かるビーム砲をギリギリで回避。

 

 さらに発射された多数のミサイルを後退しながら、迎撃する。

 

 気が付けばいつの間にかスタート位置にまで戻されてしまった。

 

 手数が違いすぎる。

 

 一度、守勢に回ると防戦一方になってしまう。 

 

 「全く距離を詰められない!」

 

 ならばとレールガンやライフルで攻撃しても、サンダルフォンにダメージはほぼ皆無。

 

 「それ以上、やらせるかよ!」

 

 エゼクェルを撃退した流星号や流星隊も参戦し、サンダルフォンへ攻撃を仕掛けるも、遠距離からの攻撃では満足にダメージを与えられなかった。

 

 「攻撃が通じない?」

 

 「だからって迂闊に前に出るなよ、ライド! いくら前の流星号に阿頼耶識が付いてるからって、デカい翼から飛び出るモジャモジャは簡単に避けられないぞ!」

 

 「今は雷電号だって!」

 

 流星号や雷電号は阿頼耶識を搭載している分、確かに機動性は高い。

 

 しかし、残念ながらシノの言う通り、サンダルフォンから射出された無数のフィンブレードは、そう簡単には躱せない。

 

 素早いフィンブレードの動きだけでなく、高い精度で発射される無数の高出力ビーム砲が、回避の難易度をさらに引き上げていたからだ。   

 

 「ハルはどうやってこんな奴を倒したんだよ?」

 

 「鉄華団のモビルスーツ、もっと距離を取れ! 撃ってくるぞ!」

 

 「やべぇ、全機避けろォォ!!」

 

 フィンブレードを切り払ったロトの声に反応して、回避行動に移る流星隊。

 

 しかし、高出力で発射されたビームを避け切れたのは僅かな機体だけで、半分は閃光に貫かれ、撃墜されてしまった。

 

 「ちくしょう!」

 

 「まずい。戦線をズタズタにされた」

 

 ロトは戦況を確認しながら、改めて敵の姿を視認する。

 

 大きな翼と黒い装甲。

 

 動きを鈍らせるミサイル群。

 

 モビルスーツを完膚なきまでに破壊できる尾。

 

 すべてを薙ぎ払う閃光。

 

 全く―――

 

 「天使とはよく言ったもの。あっちの方がよほど悪魔だ。厄祭戦の絶望をこんな形で体感できるとは、皮肉な話だよ」

 

 浮足立つ部隊に指示を飛ばしたロトは、サンダルフォンを止める為、再び攻勢を開始する。

 

 そんなサンダルフォンの猛威に晒される味方の姿に、ハルは思わず歯噛みする。   

 

 「あのデカブツ! あの時、完全に仕留め切れていたら!」   

 

 「行けると思うなよ!」

 

 「俺達を無視して! 鉄華団!!」

 

 サンダルフォンに向かおうとするアスベエルを阻むように、バラキエルとシャムハザイが立ち塞がる。

 

 二機の攻撃は片手間で凌げる程甘いものではなく、ハルは防戦一方になってしまった。

 

 サンダルフォンの猛威は誰にも止められず。

 

 その圧倒的な攻撃力によって、戦場は膠着状態から一気にグレゴリ側へと傾いていく。

 

 「終わりだ。もはや貴様らに出来る事はない。戦う前から俺達の勝利は決まっていたんだよ!」

 

 「藍色!」   

 

 「残るは貴様だ、アスベエル! 貴様を殺し、鉄華団も潰す! それですべてが終わるのだ!」

 

 「勝手な事を!」

 

 バラキエルの突進を回避した先で待ち受けていたシャムハザイの斬撃が、アスベエルに襲い掛かる。

 

 「逃げられると思うな!」

 

 すれ違う瞬間に装甲を掠める鋭い斬撃に、ハルは息を呑んだ。

 

 ガンダムバラキエルは確かに手強い相手だが、シャムハザイはそれ以上の強敵だった。      

 

 阿頼耶識による反応速度もさることながら、技量も高い。

 

 何よりも機体全体から発せられる重厚な殺意が、ハルの思考を鈍らせる。

 

 そう、まるで――― 

 

 「こいつ、三日月並みかよ!」

 

 「落ちろ!」

 

 こちらの太刀に全く怯まず、逆に切り返してくる。

 

 その際の攻撃と殺意は、否が応でもあの戦いを思い起こさせる。

 

 「こいつは危険だ。さっさと仕留めたいが」

 

 三日月並みの敵を相手にして、簡単に倒せるとは思っていない。 

 

 それこそ決死の覚悟が必要になるだろう。

 

 「くそ!」

 

 二機のガンダムによる猛攻を凌ぐアスベエルだが、他への援護に回れる余裕はない。

 

 それは、サンダルフォンを相手取るシグルドリーヴァⅡやフラウロス、雷電号も同様である。

 

 エゼクェルの進軍を止められる者は誰もおらず。

 

 戦線が突破されるのも時間の問題だと思われた―――

 

 その時だった。

 

 遠距離から発射された砲撃が、エゼクェルの陣形を突き崩した。

 

 「何!?」

 

 「アレは!」

 

 戦場にいる誰もが振り返った先にいたのは、ギャラルホルンで運用されている複数の戦艦。

 

 それがどこに所属している艦なのかは、一目瞭然だった。

 

 「アリアンロッド艦隊か!」

 

 戦艦到着と同時に展開されるレギンレイズ部隊。

 

 さらに後方に、腕部にクロスボウのような形の特殊装備を装着したグレイズが、一列に並び立っていた。

 

 それは、ギャラルホルンが所有している禁断の兵器『ダインスレイヴ』である。

 

 「ッ!? 鉄華団のモビルスーツ、ここから離れろ!!」

 

 「ぜ、全機後退!」

 

 ロトの掛け声に、シノ達もサンダルフォンから距離を取った。

 

 それを確認したダインスレイヴ部隊は、戦場における最大の脅威サンダルフォンに向けて発射する。

 

 索敵範囲外からの奇襲となったダインスレイヴを、サンダルフォンは知覚できず。

 

 凄まじい速度で発射された弾頭が、人類の脅威に直撃した。

 

 

 

 

 

 

 同刻。

 

 先遣部隊と合流を図ろうと加速するグレゴリ艦隊と、それを追うフローズヴィトニルと鉄華団。

 

 そこに合流したアリアンロッド艦隊。

 

 別々に発生した二つの渦は一つとなり、混沌と化した戦場にさらなる劇薬が投入されようとしていた。

 

 「いよいよ最終局面のようだな」

 

 アリアンロッド艦隊を追ってきた、サイラス達とマルドゥークである。

 

 バスターソードを肩に担ぎ、未だ続く激しい戦闘にサイラスは口元を吊り上げる。

 

 「もうお前に逃げ場はない。これで最後だ。今度は決着が付くまでトコトンやろう、ラスタル」

 

 もはや互いに手は尽くした。

 

 小細工はもう必要ないだろう。

 

 後は真っ向勝負と行こうじゃないか。

 

 「全機、攻撃開始。目標はラスタル・エリオンの首だ」

 

 サイラスの号令と共に、マルドゥークと彼の率いる部隊が戦場へと突入していった。

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