機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ vivere militare est   作:kia

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第61話 烈火の如く

 

 

 

 

 

 グレゴリの艦隊からの絶え間ない砲撃の中、イサリビは未だかく乱戦法を行いながら、戦場を駆け抜けていた。

 

 「ハッシュ君、右!」

 

 「了解です、ナーシャさん!!」

 

 直掩につく二機の辟邪も敵モビルスーツを近寄らせないよう奮闘しつつ、イサリビの進路を確保する。

 

 しかし、それもそろそろ限界が近づきつつあった。

 

 阿頼耶識特有の機動性を生かし、どうにか致命的な損傷だけは避けていたが、それでも物量が違いすぎた。

 

 辟邪による援護も焼け石に水であり、いかに寡兵での戦いに慣れている鉄華団と言えども、この差はあまりにも埋めがたい。

 

 それでも粘りに粘っているのには勿論、理由があった。

 

 「左舷被弾! 隔壁閉鎖!」

 

 「オルガ! そろそろヤベェぞ!」

 

 「ッ、まだだ! ミカを回収するまでは持たせろ!!」

 

 この宙域でイサリビが粘っていた理由はただ一つ。

 

 損傷し、撤退してくるバルバトスルプスレクスを回収する為だった。

 

 「それは分かってるけどよ、このままじゃ……ッ、来たぞ!!」

 

 「ミカを回収後、一旦この場から離れるぞ!!」

 

 「了解!!」

 

 ハッチを開き、飛び込んできたバルバトスルプスレクスを収容したイサリビは、辟邪を伴い、一時戦域からの離脱を図る。

 

 だが、進路を塞ぐように近づいてくる反応に気がついた。

 

 「オルガ、おいでなすった!」

 

 「ッ、このタイミングでかよ!?」

 

 イサリビの行く手を塞ぐように現れたのは、マルドゥークの旗艦、バビロン。  

 

 いつか来るとは思っていたが、一番嫌なタイミングで現れた。

 

 「やるしかねぇな。ユージン、頼むぜ」

 

 「おう、任せろ!」

 

 戦闘の振動に揺られながら、バルバトスのコックピットを開放した雪之丞は三日月に声を掛ける。

 

 「無事か、三日月?」

 

 「うん、腹減った」

 

 「今はこんなもんしかねぇ、悪いな」

 

 差し出されたブロック状の栄養食にかぶりつくと、珍しく三日月がポツリとつぶやいた。

 

 「アトラの料理が食べたいな」

 

 「これが終わったら食べれるさ。アトラもきっと無事だからよ。しかし、派手にやられたな」 

 

 バルバトスは全身が傷だらけで、左腕は肩部から見事に切り裂かれている。

 

 堅牢なナノラミネートアーマーを此処までにするとは、相当な相手だったらしい。

 

 「直る? すぐに出たい」

 

 「無茶言うな。補修と補給が終わるまで待て。左腕はどうにかする」

 

 通常の機体なら補修用のパーツがある。

 

 しかし、バルバトスは特別性。

 

 時間がある時ならまだしも、今は戦闘中だ。

 

 「短時間での修復となると、結構無茶が必要か」

 

 グラズヘイムから譲ってもらった物資もあるが、余裕がある訳ではない。

 

 雪之丞はどうしたもんかと頭を掻きながら、機体の修復作業に取り掛かった。

 

 

◇    

 

  

 グレゴリの旗艦フィンブルヴェトルは大型戦艦である。

 

 スキップジャック級に比べてやや小さいものの、それでも十分過ぎる程の巨体を誇る。

 

 故に戦場におけるシンボルとしての役割は大きいが、反面標的にされやすく、接近されれば、それだけ防衛も困難となるデメリットも抱えていた。

 

 それを証明するように、アリアンロッドの切り札であるダインスレイヴが狙いをつけていた。

 

 例え堅牢な戦艦だろうとも、ダインスレイヴが直撃すれば致命傷になる。

 

 あの巨大さは、ダインスレイヴで狙っていたアリアンロッド側からすれば良い的だった。

 

 だが、そんな事は―――

 

 「私達とて理解している。だからこそ、ガンダムアルマロスがあるのだから!! フィンブルヴェトル!!」

 

 フリーエの掛け声で、フィンブルヴェトル側面に不自然な形で膨らんでいた装甲が動き出し、大きな盾のように形成。

 

 同時に待機していたアルマロスが背中の装甲板を前面に展開、スライドし、より大きな装甲として機体を覆い隠した。 

 

 「まさか受け止める気か!?」

 

 観測していたグレイズのパイロットは、狂気の発想ともいえる敵の行動に、思わず声を漏らした。

 

 ダインスレイヴは、ナノラミネートアーマーすら貫通する威力を誇る禁忌の兵器。

 

 それを受け止めよう等と、狂っているとしか思えない。

 

 しかし脳裏に浮かぶ怪物は、そんな兵器すらも弾き返したのを忘れていない。

 

 「……まさか、展開された装甲は、あの化け物と同じ」 

 

 「弾頭装填! 目標、敵旗艦!」

 

 「撃てェェ!!」

 

 止める間もなく、指揮官の号令に従いクロスボウ状の兵器から発射された特殊弾頭が、フィンブルヴェトルに向かって直進する。

 

 悪魔を穿ち、天使を屠る脅威の刃。

 

 凄まじい速度で発射された弾頭が目標に着弾するが、そこには観測していたグレイズのパイロットが危惧した通りの光景が広がっていた。

 

 「な、あ、防御した、ダインスレイヴを」

 

 無傷。

 

 フィンブルヴェトルも、ガンダムアルマロスも傷一つないまま健在だった。

 

 「何をしている!? 後列、前に出ろ! 前列下がれ、次弾装填開始! 次の一撃で敵の陣形を崩して足を止める。効かないならそれなりの使―――」

 

 指揮官の言葉は最後まで口に乗せられなかった。

 

 全くの索敵範囲外からの狙撃によって、レギンレイズのコックピットが破壊されたからだ。

 

 「隊長!?」

 

 「下からだ!」

 

 「敵の姿が見えない?」

 

 ダインスレイヴ隊が視認出来る遥か下方にいたのは、ライフルを構えたガンダムコカビエル。

 

 斬妖の追撃を振り切ったカインはダインスレイヴの脅威を認識し、即座に排除するべく狙いを定めていたのだ。

 

 「ガンダムアルマロス、話には聞いていたが、ダインスレイヴすらも防御するとは」

 

 フィンブルヴェトル側面に接続された装甲やサンダルフォンの翼は、アルマロスの装甲板を元に開発された防御兵装である。

 

 その防御力は今見たとおり、ダインスレイヴすらも防御可能な堅牢さを持つ。

 

 「側面装甲板で防ぎきれない死角はアルマロスがカバー。その防御力は見ての通り、ダインスレイヴでもこの有様か。その兵器でフィンブルヴェトルは落とせん。だがその威力が脅威である事は変わらない。排除させてもらうぞ」

 

 次々と急所目掛けて撃ち込まれるカインの射撃。

 

 機動力のないダインスレイヴを構えたグレイズに避ける術はなく、僚機諸共粉砕されていく。

 

 結果、ダインスレイヴ隊はガンダムコカビエルの猛威によって壊滅した。

 

 「これで懸念材料の一つは片付いた。最終防衛ラインも目の前。後は―――ッ!?」

 

 ダインスレイヴ部隊の殲滅に満足していたフリーエは、突如として消えたバラキエルの反応に目を見開いた。

 

 「ロキめ、やられたというのか。あれほど大口を叩いておきながら、情けない」

 

 フリーエとしては、元々ロキに対して良い感情を抱いてはいなかった。

 

 だからやられた事自体はどうでもいいが、ガンダムバラキエルを失った事については、そうもいかない。

 

 確実に戦況にも影響してくるだろう。

 

 「ならば、遊撃のカインと動けるノイで敵をけん制しつつ―――」

 

 「フリーエェェェ!!」

 

 「ッ、あの機体、レギンレイズジュリア?」

 

 明らかに異常な速度でアルマロスに向かってきたのは、レギンレイズ・ジュリアファータだった。

 

 ミサイルを発射しながら、ランスを構えて突っ込んでくる。

 

 「ミサイル? ジュリアの特性に反する装備。相当余裕がないと見える」

 

 90㎜マシンガンでミサイルを撃ち落し、装甲板を盾にランスの刺突を防御した。    

 

 「どうして、どうして、裏切った! フリーエ!!」

 

 「いちいち叫ばないで、ジュリエッタ。ちゃんと聞こえているわ」

 

 敵モビルスーツから聞こえてきた声は間違いなく、同僚であったフリーエ・ロアのものだ。

 

 いつも冷静で感情を見せなかったが、敵機から聞こえる声はいつもに増して冷たく、そして敵意に満ちていた。

 

 「質問に答えろ!」

 

 「ハァ、マスティマにも言ったが、私は初めからグレゴリの人間。ギャラルホルンに、ラスタル・エリオンに与した事など一度も無い!!」

 

 力任せにジュリアを弾き飛ばしたアルマロスは、装甲板の内側に携帯していたロングランスを構えた。

 

 「それに……私と貴方は似ているけれど、話しても理解は出来ない。救われた貴方に、奪われた私の痛みはね」

 

 フリーエ・ロア。

 

 彼女は元々、すでに存在しないコロニー出身者だった。

 

 そう、彼女のコロニーは、故郷はすでに存在せず、家族もまた死別している。

 

 理由は単純な話。

 

 これまでのやり口と同じだ。

 

 世界の秩序を守るという御題目の元に、反乱の容疑に掛けられた彼女の故郷は、家族諸共、切り捨てられた。

 

 無実にも関わらず、ギムレコロニーやドルトコロニーのように、ラスタル・エリオンの手によって、生贄にされたのである。

 

 正しいのだろう。

  

 これらの犠牲によって、反抗の芽は摘まれ、秩序は維持される。

 

 そして世界の大半は平和に、何事もなく生きていけるのだから。

 

 大の為に、小を切り捨てる。

 

 為政者が良く振りかざす、おおよその人間が納得できるありふれた理論。

 

 それで大勢の人々が救われるならば、仕方ない犠牲なのだと―――

 

 事実を知っただけの連中は他人ごとのように、そう答えるのかもしれない。

 

 だが、当事者からすれば冗談ではない。

 

 ふざけるな!

 

 何故、自分達が世界の都合で切り捨てられねばならない。

 

 どれだけ正しかろうと、生贄にされた側の怨念は消えず。

 

 失ったものは戻らずとも、せめて痛みと怨念をラスタル・エリオンに叩きつけてやる為に、自分を救ってくれたヴェネルディに従って、彼女はグレゴリに参加した。  

 

 歪んだ秩序を敷くギャラルホルンという名の愚神の喉笛を、生贄にされた者の怨嗟の牙で噛み千切ってやる為に。

 

 「貴方の目的は復讐?」

 

 「……前にも言ったはず、感情をむき出しにするなってね」

 

 前にフリーエに言われた言葉を思い出す。

 

 そして愕然とした。

 

 ―――感情を抑えなさい。それは目的を達成する時まで取っておくものよ。そう、最後の瞬間までね

 

 あれが彼女の心情を表したものだったとすれば。

 

 髭のおじ様に、ラスタル様に拾われて、救ってもらったのだとジュリエッタは嬉々として語っていた、その言葉が。

 

 「フリーエ、私はずっと貴方を傷つけて」

 

 「もはや問答無用。私と貴方は敵同士。ならばやる事は一つだけでしょう」

 

 スラスターを噴射し、一気に間合いを詰めてランスを突き出す。

 

 機体に慣れていないのか、扱いが難しいのか、原因は分からないが、ジュリアファータの動きは鈍い。

 

 その証拠に繰り出された槍を避ける事が出来ず、背後のスラスターユニットに突き刺さる。

 

 「ぐぅう」

 

 「そんなツギハギの機体で、私のガンダムアルマロスと戦えると思っているの?」

 

 「……だとしても私は負けられない!」

 

 信じて、送り出してくれた人達の為に。

 

 アルマロスを振り払い、体勢を立て直したジュリエッタは攻勢に出る。

 

 「そこ!」

 

 だが、加速を乗せた筈のランスの一撃は、装甲板によってあっさりと受け流された。

 

 「硬い!」

 

 「折角のジュリアも特性が活かせないなら、宝の持ち腐れね」

 

 「ッ!」

 

 展開されたシザーズが腕を掴み、完全に動きを止めた所に至近距離からライフルを撃ち込まれた。

 

 「ッッッ、私はァァ!!」

 

 ライフルの連射による衝撃を噛み殺し、ジュリアンソードを振るう。

 

 「速い!?」

 

 予想を上回る斬撃にライフルが破壊され、突き飛ばされたと同時に伸ばされたジュリアンソードの刃がアルマロスを弾き飛ばす。

 

 さらに鞭のように迫る刃を防御したフリーエは、ようやくジュリアファータの異常性に気がついた。

 

 「今の反応は!? アレは通常の機体ではない? 阿頼耶識、いや……ッ、ノイジーのコックピットシステム!」

 

 「ハァ、ハァ、ようやく、動かし方が、分かってきた」 

 

 怪我で傷ついた体に掛かるGに歯を食いしばって耐え、提示されるデータを必死に処理しながら、機体を操作する。

 

 ジュリエッタは此処に来て、ようやくジュリアファータの操縦に慣れ始めていた。

 

 「なるほど。油断していたつもりは無かったけれど、知らず驕っていたのかもしれない」

 

 知らず燻っていた自らの驕りを恥じるように苦笑すると、それを戒めるようにフリーエは表情を引き締める。

 

 「油断なく、驕り無く、貴方を殺す。ジュリエッタ」

 

 「ッ!?」

 

 どこまでも静謐な声で告げられた死刑宣告に、ジュリエッタは思わず身を震わせた。

 

 危機を知らせる直感に従い飛びのいたジュリエッタだが、次の瞬間、一気に距離を詰めてきたアルマロスから繰り出されたランスによって、片足を破壊されてしまった。

 

 あまりの早業に避ける暇もなかった。

 

 「今のは……阿頼耶識の!?」

 

 「正確にはネフィリムシステムだけど!!」

 

 続け様に放ったシザースがスラスターの一部を食い破る。

 

 「この!」

 

 これ以上の追撃を振り払うように加速する、ジュリアファータ。 

 

 装甲板を背後へ回し、速度を上げてそれを追う、アルマロス。

 

 槍の一撃が敵を穿ち、すれ違い様の衝突で装甲が弾け飛ぶ。

 

 戦艦の周りを駆けながら、凄まじい速度で激突と離脱を繰り返す二機。 

 

 しかし、ジュリアファータのダメージに比べ、明らかにアルマロスの損傷は浅かった。

 

 「攻撃が通じない!」

 

 ライフルも、ミサイルも、強力なレールガンすらも、あの装甲板によって防御されてしまう。

 

 嫌になる堅牢さだ。

 

 「だとしても!」

 

 幾度目かの衝突。

 

 アルマロスの一撃に機体が傷つき、ジュリアファータが咄嗟に繰り出した殴打が頭部に突き刺さる。

 

 「確かにその機体の異常性には驚いた。しかし機体のアンバランスさ、特殊なシステムを扱うパイロットの習熟不足。そしてジュリエッタ、貴方自身の負傷。それでは私達には勝てない!」

 

 射出された電磁ワイヤーが破壊された足へと絡みつき、強力な電流がジュリアファータに流された。

 

 「キャアアアアア!!」

 

 「終わりよ、ジュリエッタ。せめてこれ以上苦しまないように、即死させてあげるわ」

 

 「こ、このォォォォォ」

 

 ワイヤーの巻きついた脚部を切り離したジュリエッタは、アルマロスのランスの一撃を腕で止める。

 

 片手に穴が開きつつ、無理やりランスを奪い捨てると残った片足で蹴りを放ち、電磁砲を叩き込んだ。 

 

 そして機体をクルリと一回転させミサイルポッドを切り離すと、機関砲による攻撃で爆破。

 

 アルマロスの態勢を爆風で崩し、同時に突貫する。

 

 「ハァァァァァ!!」 

 

 「反応速度の差を埋める為に、距離を詰める? させるものか!」

  

 アルマロスからの砲撃でジュリアファータの装甲が破壊されていく。

 

 それでも一切怯まない命知らずのジュリエッタの突撃に、フリーエの背に冷や汗が流れる。

 

 「特攻!?」

 

 「それぐらいの覚悟が無ければ、貴方には届かない!!」

 

 腕部のブレードから繰り出された攻撃で頭部を損傷しながらも、無理やりアルマロスに組み付くと、虎の子のレールガンを突きつけた。

 

 「ッ、撃たせるものか!」

 

 シザースで腕を掴み、切断しようと力を込める。

 

 しかし、ジュリエッタの方が僅かに早い。

 

 「この距離ならば!!」

 

 発射された砲撃がアロマロスに直撃する。

 

 いかに堅牢な装甲板を持とうが、この距離からレールガンを防げる道理はなく。

 

 連続で放たれた砲撃が機体と装甲板を接続していた幾つかのアームを吹き飛ばし、アルマロス自体にも甚大なダメージを与える事に成功した。

 

 「このまま!」

 

 「調子に乗るなァァァ!!」

 

 フリーエは残ったシザースで敵機を突き放し、レールガンを構えたジュリアファータにバズーカ砲で狙いをつける。

 

 そして全く同時にトリガーを引いた。

 

 連続で発射され、直撃した砲弾が二機を吹き飛ばした。   

  

 

 

 

 「う、うう」

 

 ジュリエッタが目を覚ますと、浮遊しているバラバラに破壊された装甲が目に入ってきた。

 

 それはジュリアファータの物も、アルマロスの物も混じっている。  

 

 しかし、モビルスーツが破壊されたにしては、明らかに数が少なかった。

 

 つまり―――

 

 「フリーエは生きてる。一旦、退いた? ……機体の状態は?」

 

 あの爆発の中、ジュリアファータの本体は無事だった。

 

 増設していた装甲のお陰だろう。

 

 破損した装甲やブースターを排除すれば、まだ十分に動ける。  

 

 「ッ、装甲、パージ。ぐっ、システム、チェック」

 

 負傷に加え、先ほど電流が流されたことで、ジュリエッタの状態はさらに悪くなっていた。

 

 それにざっと機体状態を確認してみた所、決して良いとは言えない。

 

 「……一度帰還するしかない」

 

 邪魔な装甲を捨て、身軽になったジュリエッタがスキップジャック級へ戻ろうと踵を返した瞬間、彼女にとっての死神が近づいてくるのが見えた。

 

 「あ、あの、機体は」

 

 忘れるものか。

 

 異形のモビルスーツ。

 

 ジュリアを大破に追い込んだ、サイラス・スティンガーの駆るヴォーダンが、そこに立っていた。  

     

 「お前、あの時の奴か。やるじゃないか、アルマロスの防御性能を半壊させるとは。あれではフィンブルヴェトルの死角は守れない。しかし、遅すぎた。ダインスレイヴ隊は全滅している」

 

 「全滅した?」

 

 確かに敵旗艦を狙った部隊は全滅したが、それでも複数の部隊が別の場所に配置されていた筈。

 

 それをすべて撃破したというのか。

 

 「どうやって部隊の位置を……」

 

 「戦況を見て予測しただけさ。ラスタルの戦略は昔から読み易い。目標がはっきりしていると尚の事な」

 

 「くっ」

 

 さりげなく会話で時間を稼ぎつつ、もう一度、ジュリアファータの状態を見る。

 

 武装の大半が使い物にならず、増設した装甲もほぼ壊滅状態。

 

 スラスターの一部がイカレているものの、動きにさほど影響がないのがせめてもの救いか。

 

 しかし、それもこの男が相手では、焼け石に水であろう。

 

 「ラスタル様の元へ向かうつもりか? 絶対に行かせない!」  

 

 「満身創痍で尚、向かってくるなら、俺も容赦はしないぞ」

 

 バスターソードを片手に突っ込んでくるヴォーダンに対し、ジュリアファータは残った武装であるジュリアンソードを構えた。 

 

 「おらよ!」

 

 上段から振り下ろされる大剣をどうにか受け流す。

 

 サイラスからすれば小手調べ程度の軽い一撃だが、傷ついたジュリエッタには重すぎた。

 

 強烈な衝撃を流せずに、機体が思い切り後方へ突き飛ばされてしまう。

 

 「ハァ、ハァ」

 

 「粘ればそれだけ苦しいだけだ」

 

 一合、受ける度に剣が軋み、二合、三合と続けば刀身に亀裂が走る。

 

 立て続けに振るわれる斬撃に、ジュリエッタは反撃はおろか、防御すらもままならない。

 

 おそらく後、数合も受けられないだろう。

 

 「それ、でも」

 

 「痛めつける趣味はないんでね。これで終わりだ」

 

 態勢を崩した所に打ち込まれる横薙ぎの一太刀。

 

 ジュリアンソードを盾に受けの態勢を取るが、想像以上に重い一撃は止められず、ジュリアンソードはへし折られ、腕が切り裂かれてしまった。  

  

 「ぐぅぅぅぅ」

 

 「死ね」

 

 もはや動けないジュリアファータのコックピット目掛けて大剣が放たれる。 

   

 避けられない。

 

 ジュリエッタが自らの敗北を受け入れた瞬間、上方から舞い降りた何かが大剣の一撃を受け止めていた。

 

 朦朧とする意識の中、ジュリエッタの視界に映っていたのは、同じく大剣を構えたガンダムアスベエル・マルスルクスであった。  

 

 「来たか、11番!!」

 

 「サイラス・スティンガー」

 

 大剣同士で鍔迫合う二機のモビルスーツ。

 

 かつての師弟の戦いが始まろうとしていた。

 

 

 

 

 地球外縁軌道統制統合艦隊が敷いた最終防衛ライン。

 

 その目と鼻の先に、グレゴリの旗艦であるフィンブルヴェトルが近づきつつあった。

 

 必然として戦闘は激し、双方のほぼ全戦力が戦場へと投入されていた。

 

 そんな大乱戦の中、昭弘の駆るグシオンリベイク・フルシティは敵を叩き潰しながら、目標である昌弘を探していた。

 

 「邪魔だ、どけぇ!!」

 

 ハルバードの一撃でエゼクェルの頭部を潰し、隠し腕の持ったライフルで敵の陣形をかき乱す。

 

 誰一人、進撃するグシオンリベイク・フルシティを止められる者はおらず。

 

 容赦のない攻撃が敵の屍を築いていく。

 

 「アレは!?」

 

 いつの間にか敵旗艦付近にまで近づいていた昭弘は、ようやく探していた目標を発見した。

 

 ニーズヘッグ・マルコキアス。

 

 エゼクェル・ネブラを指揮している弟の機体を目にした昭弘は、一目散に突進する。 

 

 「昌弘!!」

 

 「……やっぱり来たかよ。いいさ、準備は出来てる」

 

 昌弘は目を閉じて、悪魔の深奥に手を伸ばす。

 

 接近してくるグシオンリベイク・フルシティに対し、ニーズヘッグは迎え撃つのではなく、ゆっくりと後退していく。

 

 「逃がすかよ!」

 

 スラスターを全開にして追いすがる昭弘だったが、戦艦の陰に隠れる形で配置されたエゼクェル・ネブラが砲塔を構えて待ち受けていた。

 

 「チッ、邪魔だァァァ!!」

 

 砲弾を一切無視し、敵陣へ突撃。

 

 レールガンで態勢を崩されながらも、無理やり振るった一撃がエゼクェル・ネブラを弾き飛ばす。

 

 刃がエゼクェルのコックピットを斬り潰し、隠し腕から発射したライフルが頭部を粉砕。

 

 さらに振るった拳がパイロットを圧死させる。 

 

 だが、そこに先ほど姿を消したニーズヘッグが上方から斬りかかってきた。 

 

 「オオオオ!!!」

 

 上段からの一撃を振り上げたハルバードでどうにか防ぐも、ニースへッグから伸びた隠し腕がグシオンリベイク・フルシティを殴りつける。  

 

 「ぐぅ、昌弘!」

 

 「もう話す事はない。俺は敵を倒すのみ!!」  

 

 ドクンと心臓の音が大きく聞こえ、ニーズヘッグから逆流するかのように情報が流れ込む。

 

 同時に昌弘は抑えきれない敵意と憎悪に支配されていく。

 

 それが起動させたネフィリムシステムによる浸食と知りながらも、抵抗する事無く身を委ねた。

 

 そうする事でしか、目の前の敵に打ち勝つ事が出来ないから。

 

 「待て、俺はお前を迎えに!」

 

 「ふざけるなァァァァ!!」

 

 グシオンリベイク・フルシティの腹を蹴りを入れて、戦艦に激突させた後で、大剣を振り下ろす。

 

 それをギリギリ腕を掴んで受け止めた昭弘だが、続けて発せられた予想外の言葉に絶句してしまう。

 

 「いい加減にしろよ、アンタは此処まで俺の仲間を散々殺しつくしてきただろうが! 今も!」

 

 「仲間……グレゴリの連中が?」

 

 「そうだ! 俺にとって一緒に戦ってきた大事な仲間。グレゴリが俺の家族だ!! それを塵のように殺したアンタ達、鉄華団を絶対に許さない!!」

 

 そこで昭弘は、致命的な断絶がある事に気が付いてしまう。

 

 今まで鉄華団を利用し、様々な暗躍を行ってきたグレゴリに対し、昭弘は当然のように悪感情しか抱いてこなかった。

 

 それは歳星を襲撃し、タービンズを傷つけたことで決定的なものとなった。

 

 戦場で再会した昌弘も、今までヒューマンデブリとして使い潰してきた連中と同じく、利用されているに過ぎない筈だと確信していたのだ。

 

 しかし、それがもし違っていたなら?

 

 鉄華団のように、もしも、昌弘達を、普通の人間として扱っていたとしたら?

 

 そこが居場所のように、家族のようになっていたとしたら?

 

 それを昭弘は、ただの障害として、潰し殺して―――

 

 「よくもナインを!! 仲間達を!! 俺の家族をォォォ!!!」

 

 苛烈な斬撃が今まで以上に鋭く、グシオンリベイク・フルシティを傷つけた。

 

 さらにハルバードを弾き、生まれた隙に叩き込まれた隠し腕のアサルトナイフが肩の装甲に突き立てられる。

 

 「ぐぅ!」

 

 「オラァァ!!」

 

 同時に腹を蹴り、甲板に叩きつけると、速度を落とさず、刃を振り下ろした。

 

 「昌弘!!」

 

 ギリギリで斬撃を柄で受け止め、鍔競り合う二機。

 

 それでも、昌弘は止まらない。

 

 力を込めて、刃を押し込み、ハルバードの上から何度も何度も叩きつける。

 

 「消えろ! 消えろ、消えろ!!」

 

 憎悪の炎が燃え上がり、大切な思い出すらも呑みこんで、全身から滾る怒りの本流を汲み取ったネフィリムシステムが、昌弘の体を変化させていく。

 

 そんな肉親から浴びせられる怨嗟の声に、昭弘は恥じ入るように歯を食いしばる。

 

 仮に逆の立場だったら。

 

 自分を救い、居場所を作ってくれた鉄華団の仲間達が、世話になったタービンズの連中が殺されたら。 

 

 昭弘はそいつらを許さないだろう。

 

 すべてをかなぐり捨てて、必ず敵討ちをしようとする筈だ。     

 

 昌弘にとって鉄華団は―――昭弘はそういう存在になってしまった。

 

 もはや弁明は無意味。

 

 ならば、昭弘のやるべきことは一つだけだ。

 

 「オオオオ!!」

 

 大剣を殴り飛ばし、軌道を逸らす。

 

 そしてスラスターを吹かしてニーズヘッグに頭突きを食らわすと、ハルバードの一撃が隠し腕の一つを切り裂いた。

 

 「ぐぅ!」

 

 「……ああ、悪かったな、昌弘」

 

 「今更侘びなど!」

 

 「そうじゃねぇよ……俺はまだお前を下に見てた。助けてやらねぇとってよ。でも、そうじゃない。言ってたもんな、『俺の道を進む』ってよ。それを分かろうとしなかった侘びだ」

 

 昭弘は覚悟を決める。

 

 どのような形だろうとも、断絶したとしても、兄弟であることに変わりはない。

 

 昌弘の怒りも憎しみも、すべて受け止める。

 

 それが兄としての最後の仕事だ。

 

 「来いよ、昌弘。勝負だ」

 

 勝負。

 

 昭弘から告げられた、何のこともない一言。

 

 幼い頃に幾度となく、意味もなく張り合って、喧嘩して、笑いあって。    

   

 悪魔に呑まれ、消えた筈の記憶の断片が思い浮かぶ。

 

 それが憎悪と狂気に染まりつつあった昌弘を引き戻した。

 

 「ッ!? ハァ、ハァ」

 

 愛憎入り混じり、一言では表せぬ感情で頭がグチャグチャになりながら目の前の男を見据え、抗い難い葛藤に左右されながらも、彼は己の思いを自覚する。

 

 どんなに憎もうとしても、憎み切れなかった。

 

 勿論、ナインを、仲間を殺した事は許せないけれど、それでも家族だったから。

 

 だから自分には殺せない。

 

 それに気が付いたから。

 

 だからシステムに身を委ねて、狂ってしまおうと思ったのだ。

 

 しかし正気に戻ってしまった。

 

 逃れられない。

 

 システムに狂う事も出来ない。

 

 前にも思った通り、これが運命という奴ならば、何処へ行こうと無駄なのだろう。

 

 過去は何処までも追ってくる。

 

 ならば、それを乗り越えて、先へと進み続ける他、道はない。

 

 すべてを噛み殺し、昌弘もまた覚悟を決めた。

 

 「行くぞ……兄貴!」

 

 「ッ!? 来い!」 

 

 己の武器を携えた二機のガンダムが同時に踏み出す。

 

 「オオオオ!!」

 

 「アアアア!!」

 

 大剣とハルバードが交差し、激しく切り結ぶ。

 

 すれ違い様に力任せに放った斬撃がニーズヘッグの装甲を粉砕、大剣の斬り上げがグシオンの胸部を破壊、激突する刃が同時に砕け散る。

 

 「それがどうした!」

 

 半ば折れたハルバードの柄を投げ捨てた昭弘は刃の部分を逆手に持って、ニーズヘッグに叩きつける。

 

 それを左腕に突き刺しながら防御した昌弘は、お返しとばかりにグシオンの頭部を殴りつけた。

 

 気がつけば二機の戦闘は武器を捨てたクロスレンジでの戦いになっていた。  

 

 「オラァァァ!!」

 

 「このォォォ!!」  

 

 スラスターは全開。

 

 自身の損傷など全く考えない殴打の応酬。

 

 グシオンが力任せに装甲を引き千切り、さらに繰り出した隠し腕の一撃を膝蹴りで弾くニーズヘッグ。   

 

 貫手で腹を抉るも、繰り出した蹴りはグシオンの手刀に阻まれる。

 

 「ハ、ハハハ!」

 

 「アハ、ハハハ!」

 

 何時しか二人は笑っていた。

 

 昔のように。

 

 すべてのしがらみをかなぐり捨てた殴り合いで、対話していた。

 

 例え歪んだ形なのだとしても、二人は今、昔の自分達に戻っていた。

 

 互いの機体はいつの間にかボロボロに。

 

 繰り出す一撃、一撃が装甲を壊し、傷つけ、引き剥がす。

 

 ニーズヘッグが左腕を折り、グシオンの殴打が肩部を吹き飛ばした。

 

 「昌弘ォォォォ!!!」

 

 「兄貴ィィィィ!!!」

 

 殴り合い、組み合ったまま、スラスターを吹かす二機はクルクルと横回転しながら、傷ついたギャラルホルンの戦艦の中へ突入する。

 

 装甲が甲板にぶつかり弾け飛び、隔壁を打ち破って格納庫に突っ込んだ。

 

 「これでェェェ!!」

 

 スラスターを上手く使い、馬乗りになったニーズヘッグの殴打がグシオンの頭部に直撃。

 

 センサーの一部を破壊するが勢いを殺しきれず、床を滑りながら格納庫の壁に激突した。

 

 そこで出来た一瞬の隙を昭弘は見逃さない。

 

 「ウオオオオオオ!!」

 

 残った最後の武装。

 

 近接戦武装シザーズ可変型リアアーマーを破壊された左腕の代わりに隠し腕を使って展開、ニーズヘッグの腰部を挟み込んだ。

 

 「何!?」

 

 「その、機体、ぶっ壊させてもらうぞ、昌弘!!」

 

 損傷しているからか、通常時ほどの出力は出ないが、半壊したニーズヘッグを潰す程度なら十分すぎた。

 

 シザーズ可変型リアアーマーが、ニーズヘッグのひしゃげた装甲ごと押し潰していく。

 

 しかし、昌弘もただやられっ放しではなかった。

 

 「それは俺の台詞だァァァァ!!」

 

 昌弘の視界の映るガンダムグシオンは姿形が変化しようと、自分達を傷つけた忌むべき存在になんら違いはない。

 

 「ずっと『お前』が大嫌いだったんだよ!!」

 

 残った隠し腕を展開し、アサルトナイフをグシオンの頭部に突き立てた。

 

 それによってシザーズ可変型リアアーマーに込める力が僅かに緩む。 

 

 「いつまでも兄貴にとり憑いてんじゃねェェ、悪魔!!」

 

 機関砲を放ちながら腕に突き刺さったハルバードの刃を引き抜くと、首元に叩き付けた。 

 

 そこで格納庫に突っ込んだ際に破壊された損傷によって爆発が起きる。

 

 最後まで組み合った二機のガンダムは、爆風に覆い包まれた。

 

 

 

 

 ギャラルホルンが敷いた最終防衛ライン。

 

 そこを、グレゴリの旗艦であるフィンブルヴェトルが、戦闘によって進軍速度を落としながらも、いよいよ突破しようとしていた。

 

 ロトのシグルドシーヴァⅡが部隊を纏めながら、必死に戦線を維持しているが、それでも敵を押し留めるには至らない。 

 

 グラズヘイム到達は時間の問題。

 

 もはや一刻の猶予もないだろう。

 

 戦場を見ていたラスタルは決断を下した。

 

 「エンジン出力最大。敵旗艦にこの艦をぶつける」

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